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特集/世界精神保健連盟1993年世界会議

特集によせて

―21世紀をめざしての精神保健―

村田信男

62ヵ国から5,000人の参加者

 世界精神保健連盟(WFMH)1993年世界会議は、「21世紀をめざしての精神保健―テクノロジーと文化、そしてクオリティ・オブ・ライフ─」をメインテーマに、1993年8月23日から27日まで、千葉県幕張メッセを中心に日本で初めて開催された。

 3年にわたる準備の積み重ねが、世界62ヵ国から5,000人の参加者、900を越す演題として集約され、「幕張宣言」を力強くアピールして成功裡に終わり、わが国における精神保健問題を量質ともにたかめる一里塚となりえたことを関係者の1人として嬉しく思う。

 マスコミも強い関心を寄せ、たとえばNHKは2回連続の特集番組を放映し、朝日新聞も9月2日付社説でとりあげた。精神保健は国民すべてに関わる問題であることを具体的に提示し、理解と一層の協力を強調したのである。

 WFMHは1948年ロンドンで創設され、世界会議が2年毎に各国持ち回りで開催されているが、17のサブテーマに具体的に示されているように、テーマも参加者も非常に幅が広いところに大きな特色がある。医療や保健、福祉、労働、法律などの専門家はもとより、一般市民やユーザー(精神医療を利用する人)やその家族などが、それぞれの立場から意見を率直に述べ合う聞かれた場である。さらに、国連とその関連機関に対しては諮問に応じる立場にあり、WHOとも密接な関係にあるなど、国際的にも高く評価されている組織でもある。

 今大会のメインテーマは、あと数年に迫った21世紀に向けて精神保健活動を飛躍的に展開していくという決意と、テクノロジーの波がそれぞれの文化をもつ世界各地の人々にさまざまな形で急速に押し寄せてきている現代において、人間の新たなる生き方を模索していかねばならないという共通の認識のもとに選ばれたものであり、17のサブテーマはその具体的内容をいろいろな視点から取り上げたものである。したがって、これら多彩なサブテーマを俯瞰することにより、精神保健とその関連領域の幅広さを改めて実感し、これら精神保健領域の諸課題がすべての人びとの社会生活に大きな比重を占めていることを強く認識するのではないだろうか。

精神障害者自らの運動のたかまり

 サブテーマの中には、職業リハビリテーション、コミュニティケア、医療や福祉、権利と法制度など、リハビリテーションと関連領域が数多く含まれているが、今回の大会で特筆すべきことは、「ユーザー活動」の分科会がきちんと位置づけられ、ユーザーたち自らの手で準備や運営がなされ成功を収めたことである。「世界精神医療ユーザー連盟」(WFPU)が発足したのが1991年のメキシコ大会であるが、その後の2年間に6ヵ国から16ヵ国の組織に成長し、日本も1993年4月に国内組織―全国精神障害者団体連合会─が発足したばかりである。それだけに、今大会で分科会を自らの手で運営し成功させた意義は大きく、ユーザーの参画なくしてはこれからの精神保健の問題は考えられないことを内外に強く示したと考える。

さまざまな分野、視点からの4論文

 今回の特集では、21世紀をめざした精神保健の趨勢やトピックスを象徴的に示すもので、さらに本紙の趣旨にふさわしいものを選択しようとした。

 900を越す膨大な発表の中から選択する作業は大変労多いものであったが、佐藤氏が編集後記に記したような手順で行った。労をいとわず吟味し、交渉までして下さった佐藤氏に改めて感謝したい。

 日本のほかに、中国、ニュージーランド、イギリスと国際的なバランスを保つとともに、医療、コミュニティケア、職業リハビリテーション、ユーザー活動など多彩なメニューとなり、限られたスペースのなかで特集の趣旨にかなうものになりえたと考えている。

 本特集が、さまざまな領域のリハビリテーション関係者の手に渡り、精神保健に対する理解を深めて頂く一助になり得れば幸いである。

 世界精神保健連盟1993年世界会議

1993 World Congress of the World Federation for Mental Health

 メイン・テーマ

21世紀をめざしての精神保健
―テクノロジーと文化そしてクオリティ・オブ・ライフ―

 サブ・テーマ

A.変動する世界と精神保健

B.人口問題と精神保健

C.テクノロジーとストレス

D.精神保健と宗教・文化

E.アルコール・薬物乱用への対応

F.児童の権利に関する条約―精神保健との関連―

G.一次予防の新しい方向

H.コミュニティケアの新しい方向

I.精神障害者の職業リハビリテーション

J.精神保健活動への市民参加

K.精神障害者の権利と法制度

L.臨床および研究の新しい展開

M.女性、家庭と精神保健

N.老年期と精神保健

O.ユーザー活動

P.精神障害者と精神薄弱者の福祉と家族

Q.精神障害者の看護と介護

 幕張宣言

 「21世紀をめざしての精神保健―テクノロジーと文化、そしてクオリティ・オブ・ライフ」をテーマとした世界精神保健連盟1993年世界会議は、全ての人間のポジティブ・メンタルヘルスが持つ価値と、精神疾患や精神障害を有する人達の各国における市民としての権利を宣言する。

 21世紀に向けて、テクノロジーと社会の急激な変化が世界中でストレスを増加させている。ストレスコントロールとストレス管理の実践的研究が従前にも増して必要である。人口の急激な増加と貧困、および紛争、体制変動や天災を逃れる難民の世界的移動が各地で見られている。精神的機能障害を軽減・予防する適切な対応策と共に、人間のクオリティ・オブ・ライフを向上することが21世紀へ向けて最大の課題である。

 国連が宣言した子供の権利に関する国際条約を各国が批准・実行し、子供の真の権利保護を21世紀までに達成しなければならない。また全世界が高齢化している中で高齢者の各種能力を活用し、自己評価を高め、健康で活動的なライフサイクルを実現すべきである。

 精神保健サービスを受ける人は全て、性別、年齢、民族、あるいは障害の別にかかわらず、医療を必要とする一般市民と同様に処遇され、彼らの基本的人権および自由が尊重されなければならない。

 1991年12月17日に国連総会で採択された「精神疾患を有する者の保護およびメンタルヘルスケア改善のための諸原則」は各国で遵守されるべき最小限のスタンダードおよびガイドラインである。これらの人権と自由の諸原則のうち、医療におけるインフォームドコンセントの原則は極めて重要である。

 精神保健サービスを利用している人達は社会での孤立や差別および偏見に悩まされていることが多い。精神疾患に対する偏見とスティグマをなくし、効果的で包括的な精神保健サービスを発展させるには、ユーザー自身がサービスの計画、運営、評価に参加する必要がある。これには精神保健の専門家や行政官のみならず、家族も含まれなければならない。これを達成するためには、世界精神医療ユーザー連盟の果たす役割が重要である。

 人間の歴史・進化における宗教・文化の果たす役割については、21世紀に期待される科学と技術の発展および精神保健の進展との関連で理解を深めていく必要がある。

 全ての人が互いの権利と自由を尊重し、尊敬しあう偏見のない社会を21世紀に実現するために、我々は努力し活動することを宣言する。

 1993年8月27日

 世界精神保健連盟1993年世界会議

東京都立中部総合精神保健センター地域保健部長


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1994年3月(第79号)2頁~4頁