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特集/世界精神保健連盟1993年世界会議

慢性分裂病患者の職業リハビリテーション

―作業療法グループの展開―

Vocational Rehabilitation for Cronic Schizophrenia

嚴和駸

はじめに

 上海は非常に大きな都市であり、人口は3,000万人、市内には15万人の分裂病患者がいる。精神障害者の作業療法には長い歴史があり、「作業は肉体を強化し、レクリエーションは体質を改善する。肉体と体質が良くなれば、病気は自動的に消失する。」と中国で有名な精神科医スンホアン先生がすでに言っている。過去においてこのような治療法は精神医療領域においては重要な役割を果たしていた。

 しかし、これはあくまでも精神病院の中だけで行われていたために、あまり生産的ではなかった。WHOの推定によると、施設ベースのリハビリテーションは非常に経費がかかり、しかも障害者の2~3パーセントしかカバーできない。このような限界があったので、WHOはCBR(Community Based Rehabilitation)プログラムを開発した。

精神障害者への作業療法

 1970年、最初のグループが上海の静安地区において、ひとりの警察官によって作られた。これは精神障害者が地域で起こす社会的破壊を予防するためであった。精神科医の協力もあり、この作業療法グループ活動は非常にうまくいき、地方政府からモデル指定を受けた。これは慢性精神障害者の職業リハビリテーションの上海における先駆けとなったのである。やがて上海にはさまざまな種類の作業療法グループが作られるようになった。周辺の地方にも、大規模、中規模の工場の中にも作られた。1989年までに146の作業療法グループが作られ、全部で3,870人のユーザーが利用した。この146グループのうち、100以上は1980年代になってから作られたものである。こういった施設は行政官、または退職者、パラメディカル職員などによって運営されている。

上海における作業療法グループの数

●作業療法グループ 146
●患者数 3870
●1作業療法グループ内患者数

10―100

 主な参加者は、精神障害者で、失業中ではあるが、まだ生産的な労働に携わることができるという人たちである。施設の運営は地域の行政の管理のもとに行われる。患者数は施設によって異なるが、10人から100人くらい、平均で28人となっている。通常彼らは1日に6時間、1週間に5~6日ここで働く。ここで提供されるリハビリテーション・サービスは、主に作業療法と技能訓練の2種類で、これらが他の薬物療法、レクリエーション療法などによって補足される。ほとんどの仕事は近所の工場から委託された二次的加工である。職業技能トレーニングは、縫製、塗装、印刷、加工、包装、箱の組み立て、不良品の選別などである。作業療法は医療、レクリエーション活動、社会教育と合体して行われる。常勤、非常勤の医師が施設に詰めて、薬物療法についてのスーパーバイズを行う。施設に入るときには、ユーザーの登録カードが地域から回されてくる。

 ここで働く人は定期的な給料を得る。地方政府や福祉部などはこういった施設の発足資金を出し、施設の運営については免税となる。しかしユーザーの収入は、その施設で作られる製品の経済価値によって違ってくる。

 施設は家族にも患者自身にも非常に快く受け入れられている。1982年に全国大会を開いて、こういった施設の経験について意見交換を行った。

職業リハビリテーションの効果についての調査

 そこで我々は1987年から、こういうコミュニティベースのリハビリテーションの効果についての科学的な調査研究を、2年間のプロスペクティブ(追跡的)な比較試験として行った。作業療法中の分裂症の患者と対照群との比較である。

 2つの都市を含む近隣の8つの地域に住む人々が調査の対象となり、作業療法サービスを受ける必要のある人々のリストが作成された。対象者は分裂病の患者で、年齢は18歳から59歳まで、恒常的な雇用にはついていないが、働く能力はあるという人々である。このような対象者に、性別、年齢、罹病年数ごとにペアを組ませた。ペアの中でどちらが作業療法グループに入るか、どちらがコントロール(対照)になるかということを、特にシステマティックな方法で分けたわけではないが、最終的に79組できた。ペアのうちの一人が作業療法グループ、もう一人が対照群に入るというわけである。

 実験を始める前に、評価の均一性を図るため、評価者のトレーニングを行い、評価方法の信頼性テストを行った。こうして評価者間一致率を高めた。

 作業療法グループ参加前および参加後6ヵ月ごとに、2年間患者の社会機能と症状を評価した。その際、WHOのDAS(Social Disability Schedule)の社会機能セクションとPSE(Present State Examination)を評価手段として用いた。10人の精神科医と精神科の看護婦がこの評価に当たった。この研究を始める前に彼らは1週間トレーニングを受けた。つまり評価者の信頼度を評価したわけである。10人の分裂症の患者に対して、各コードにDASとPSEに応じてスコアをつけていった。評価者に対する信頼性は非常に高く、DASの評者間相関係数は0.9、PSEで0.89だった。調査の間の全ての評価は全部ブラインドで行われた。つまり、評価者はその患者が実験群なのか対照群なのか知らないということである。

表1 調査対象精神分裂病患者の特徴
  実験群 対照群
性別 44.4 44.4(%)
55.6 55.6(%)
平均年齢
 (標準偏差)
31.8 32.6(歳)
7.4 7.7(歳)
既婚 19.4 18.0(%)
未婚 79.4 77.8(%)
離婚 1.4 4.2(%)
訓練期間 6年以下 5.6 4.2(%)
7年以上 94.4 95.8(%)
罹病期間
 (標準偏差)
9.2 8.8(年)
4.4 4.6(年)

 表1でわかるように、実験群と対照群には特に違いはない。作業療法グループと対照グループの完了率は91パーセント、72組が2年間のフォローアップスタディを完了した。2人でペアとなっている組み合わせのうち、1人が移動した場合、その組がドロップアウトしたことになる。実験を完了した対象患者の特性を表1に示す。性別、年齢別、未婚既婚などの区別をした。実験を開始する前の罹病年数はだいたい同じである。

表2 社会的機能障害の比較標準偏差(DASスコアによる)
  実験群(72例) 対照群(72例) 実験対照標準(t値)
調査開始時 15.9±7.5 17.4±8.7 1.11ns
2年後 12.9±6.3 21.9±9.8 6.51**
調査前後比較 t 値 2.60** -2.91**  

 **P<0.01 ns=有意差なし

 表2のように、2年間のフォローアップで、DASの評価による社会機能において、対照群より実験群の方が優れていた。DASも、最初は同じだったが、2年後には実験群と対照群との間に非常にはっきりとした差が出ている。精神的な症状については、PSE検査結果として表3に示す。分裂症の項目のPSEの合計スコアは、陽性症状のスコア(幻覚、妄想、奇異な行動)と陰性症状のスコア(無表情、社会的ひきこもり、意欲欠如、口数が減るなど)によって分けられる。全般的な症状としては、少し実験群の方が高いのが、2年後には大きな差が出ている。実験群と対照群の間には、最初は症状のスコアにはほとんど差はなかったが、この試験が完了するときには、PSEのスコアは実験群の方が対照群よりも優れていた。陽性症状と陰性症状のスコアは実験群の方が優れていた。ほとんどの症例で症状が実験群では改善されたにも関わらず、対照群では2年間に症状が悪化した。再入院率は、作業療法グループの方が対照群よりも低かった(表4)。72人のうち、2人(2.8%)の作業療法グループの患者が2年の間に合計2回再入院し、年間再入院率は1.4%であった。対照群では7人(9.7%)が2年間で合計10回再入院した。

表3 精神症状の比較(PSEスコアによる)
    実験群(72例) 対照群(72例) 実験対照標準(t値)
陽性症状 調査開始時 1.72±0.80 1.66±0.83 -0.44ns
2年後 1.57±0.70 2.01±0.95 3.16**
調査前後比較 t 値 1.19ns -2.35*  
陰性症状 調査開始時 2.78±1.10 2.63±0.99 -0.86ns
2年後 2.46±1.03 3.20±1.17 4.03**
調査前後比較 t 値 1.80* -3.16**  
全体 調査開始時 4.50±0.96 4.29±0.91 -1.35ns
2年後 4.03±0.88 5.21±1.07 7.24**
調査前後比較 t 値 3.06** -5.56**  

 *P<0.05 , **P<0.01 ,  ns=有意差なし

表4 再入院率
(%)
実験群 対照群
1.4 6.9

質の高い調査とするために

●調査員に対する事前研修

●各調査毎の事前研修

●高い評者間一致率の確保

●データの5%の再評価

作業療法グループの標準化

●週6日、1日6時間

●作業療法を主体とすること

●医学的レクリエーションおよび心理社会リハを加味すること

 この結果から、中国の慢性分裂病患者にはこの作業療法は有益であるということが言える。作業療法グループは、最初コミュニティから選ばれて、性別、年齢別、罹病年数などに応じて対照群と組み合わされた。このような実験群と対照群への割り当ては、厳密には任意ではなかったが、どちらがどちらのグループに入るのかといういかなる偏りもなかったと思う。このような結果の評価がブラインドで評価された。この評価者たちは十分に信頼性がある。社会的機能と症状に大きな改善が作業療法グループにおいて見られた。これは、このような介入が非常に効果があるということを実証している。このような職業リハビリテーションはもう他の地域、蘇州、杭州、瀋陽など他の都市にも広まっており、良い結果が出ている。最近中国では、経済改革が進行中で市場経済へと移行しつつある。患者のQOLを改善していこうという動きも起こってきた。結婚して幸せに暮らしている患者もいる。

結論

●行政の関与

●社会資源の活用

●役立つサービスの開発

●現実的・実際的な目標設定

 結論としては、行政が参加しているということ、社会資源が動員されているということ、実現可能な療法の提供が行われて開発されているということ、現実的、実際的な目標が掲げられていることなど、これらは作業療法を成功させるためには非常に重要だということである。職業リハビリテーションにおいては、ニーズや能力は患者によって違うため、ケース・バイ・ケースで的確な職業訓練を提供するのはなかなかむずかしい。彼らは雇用されていないから、得られる収入は自活できるにはかなり不十分である。一昨日ボストン大学リハビリテーションセンターのウィリアム・アンソニー氏がこれについていろいろな新しい方針や、さまざまな社会介入の提案の要点についてすばらしい講演を行ったが、私は心から同感する。すべての精神障害者たちが未来においてより良い生活の質(QOL)を得られるようになることを希望して、この発表を終わりたいと思う。

(原文英語、訳 佐藤久夫、松山ちづる)

参考文献 略

上海市精神衛生中心院長(Yan He Qin, M.D.,Shanghai Mental Health Center)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1994年3月(第79号)16頁~19頁