〈海外リポート〉 BME'94とRe TAP'94

〈海外リポート〉

BME'94とRe TAP'94

山内繁

 去る4月、香港で標記二つの国際会議が相次いで開催された。いずれも香港理工学院のエバンス教授が事務局を引き受けておられ、同じ会場(香港湾仔会議中心)で開催したものである。

 この会場はコンベンションセンターの中心的施設で、ワンチャイのフェリー乗り場にも近い設備の整った会議場であったが、あまりに大き過ぎる上に会場の表示が分かりやすく掲示されていなかったため、迷路のような香港の街の中からさらに迷路に入り込んでしまったような気分になった。

BME'94

 BME'94(4月7―9日)は、正式名称がInternational Conference on Biomedical Engineering(医工学国際会議)であって、筋骨格系工学、運動解析、心血管系工学、画像解析、リハビリテーション工学等13のセッションで140件の論文と、2件の特別講演、4件の招待講演が発表された。

 参加者は香港、中国、台湾のみならず、日本、アメリカ、イギリス、ベルギー、韓国、シンガポール、ドイツ、オーストリア、オーストラリア、カナダ、インド、アルゼンチン等15ケ国にわたっていたが、最近の成果を検討するというより、それぞれの研究を持ち寄って情報交換を行ったという印象の方が強かった。

 特に目立ったのは、中国人研究者が欧米の大学で行った研究の発表が多かったことであった。会議の目的には掲げられてはいなかったが、今回の国際会議の目的にこれら中国人研究者の交流の場として香港を位置付けたいとの意図が込められていたように思えた。これはまた、97年の香港返還をひかえて香港の特異な立場をアピールしているようにも感じられた。

 リハビリテーション工学のセッションでは、歩行解析、機器の標準化、筋電装具、電気刺激等について10題の論文が発表されたが、トピックスがあまりに分散していたため今一つ物足りなさも残つた。

 セッションに引き続いて、毎日パネルディスカッションが開かれた。第1日は「医用工学の教育・研修」、第2日は「保健領域における品質保障」、第3日は「医工学部門における企業化」が主題であった。いずれも、一般論としてこれらを議論するというよりは、香港におけるこれらの問題の解決の方向を模索する形で議論が進行した。しかし、何とはない違和感が残ったので、第1日目の終了後、オーガナイザーのマク博士に話をうかがったところ、次のような事情が判明した。

 香港には医療機器、福祉機器が産業としては存在せず、現在使っているのはすべて輪入品である。また、公立病院の医療機器は香港政府で一括購入して配分するので、これらの規格、安全性、オペレーターのトレーニングはすべて香港政府の責任になる。このため、同じ主題で議論しても日本におけるのとは異って前提に立っての議論となったのである。これらは、香港では常識であろうが、事情の判らない外国人には説明がなければ理解できるはずがない。国際会議での討論の難しさを改めて痛感した。

Re TAP'94

 BME'94のサテライトとしてRe TAP'94(第一回アジア太平洋リハビリテーション工学シンポジウム)が“Technology for All”を主題として4月10日に開かれた。これは、アジア太平洋地区ICTAセミナーとしても開催されたものである。なお、ICTAセミナーとしての主題は、“Access & Transport”であったが、第1日をRe TAP'94とし、2日目には広州に移り、広州の地下鉄建設計画との関連で公共交通におけるアクセスを中心としたセミナーを開催した。筆者は公務の都合で広州の会議には参加できなかったが、エヴァンス教授の依頼で若干の資料をお送りして参考にしていただいた。

 この日は、前日までの学術講演とはうって変わった雰囲気で、アカデミズムにとらわれない自由な討論が行われた。障害者も20名余り参加した。

 特別講演のセッションではピッツバーグ大学のブルーベーカー教授のサービスシステム、オーストラリアのフォックス氏(次期ICTA委員長)のアクセスのための考え方、香港交通局のヒュイ氏による香港の公共交通機関におけるアクセスの三題の特別講演が行われた。

 続いて、日本、オーストラリア、中国、香港におけるリハビリテーション工学サービスの現状について、山内およびリージェンシーパークセンターのシーガ一博士、上海交通大学の高教授、香港理工学院エバンス教授から報告された。

 午後のパネルディスカッションでは、工業デザイン、リハビリテーション工学の立場からの機器の設計、処方、改善に関する見解、コミュニケーション機器のユーザーの体験などの話題提供に続いて、フロアをも交えた討論が行われた。

 特に印象深かったのは、ユーザーの立場から機器の適合、改造に当たってのサービスに関する厳しい注文が相次いだことであった。時に中国語だけのやり取りになったり、予備知識なしでは全く理解できない問題提起もなされた。事情がよく判らないまま軽率に結論を下すのは適当でないが、どうやら、適合のために業者に改造の指示を出す体制に問題があるようであった。

 RIやICTAの席上での話からこれまで抱いていた印象とずいぶん違うのに最初はとまどったが、いずこもそれなりの問題を抱えつつ努力しているのだと悟った境地で理解することにした。

 以上、今回出席した二つの会議についての印象を記した。香港固有の問題に偏りすぎて「国際会議」というには議論が限られていたようにも思えた。それだけに、香港の内情をうかがい知ることもできた。これが筆者にとっては今回の最大の収穫であった。

(写真) BME'94パネルディスカッション 

国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所長


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1994年9月(第81号)27頁~28頁

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