特集/視・聴覚障害者と情報アクセス 特集にあたって

特集/視・聴覚障害者と情報アクセス

特集にあたって

植村英晴

 視覚障害者は一般に新聞が読めない、聴覚障害者はテレビを見てもその内容がわからない。このことから視・聴障害者は情報障害者とも言われている。しかし、最近の機器の発達と福祉施策の充実は、視覚障害者が新聞を読み、聴覚障害者がテレビを楽しみ、電話で遠くにいる友人知人に連絡することを可能にしてきている。新聞は点字で、あるいは音声で視覚障害者に提供され、字幕や手話付きのテレビ放送、字幕付きビデオ、FAXの普及は、聴覚障害者がテレビを楽しみ、電話を用いることを可能にしている。これらは、情報アクセスの問題として交通機関や建物のアクセスと並んで国際的にも国内的にも大きなテーマとなってきている。

1.国際的動き

 視覚障害者に対する点字情報の提供や聴覚障害者に対する手話通訳は、各国で福祉事業の一環として古くから取り組まれてきた。情報アクセスの問題が新たに展開したのは、1981年の「国際障害者年」とその後の「国連・障害者の十年」である。この中で障害を医学的、病理学的にのみ理解するのではなく、個人とその環境の問題としてとらえるほうがずっと建設的な解決の方法であることが提起された。視覚障害者には種々の情報を点字や音声で提供することで、また、聴覚障害者には手話通訳を用意し、字幕や手話付きのテレビ放送を拡大することで障害のかなりの部分が軽減され、これらの障害者の社会参加につながることが明らかになった。

 「アジア・太平洋障害者の十年」は、この「国際障害者年」と「国連・障害者の十年」の理念を継承し、アジア太平洋地域で障害者の社会参加と平等の実現に継続的に取り組むため、1992年4月に採択された。この「アジア・太平洋障害者の十年」の目的を達成するための具体的な目標を設定したのが、「アジア・太平洋障害者の十年行動課題」である。この行動課題の「Ⅱ 問題領域」の「3.情報(Information )」と「5.アクセシビリティとコミュニケーション(Accessibility and communication )」で情報アクセスについて次の様に目標を設定している。

「3.情報(Information)

(b)フロッピーディスク、拡大印刷、点字、オーディオカセットおよびビデオカセットの形での情報提供をより多く入手できるようにするための、公立図書館、情報センターおよび障害をもつ人々自身の団体間の協力

(c)ビデオカセット、映画やテレビ番組の字幕の挿入」

「5.アクセシビリティとコミュニケーション(Accessibility and communication )

(i)以下のことがらを目標とした、手話の開発への支援

○手話通訳サービスを利用しやすいように改善

○聴覚障害をもつ人々と公共サービス(コミュニティ・センター、法律相談機関、銀行、職業紹介所、警察、病院など)関係者など、聴覚障害をもたない人々とのコミュニケーションの促進

(j)通信リレーサービスや字幕サービスなど、聴覚や言語障害をもつ人々のための通信サービスの拡大

(k)以下のような方法で視覚障害者向けの情報を入手しやすくすることへの支援

○点字、カセットテープ、コンピュータや音声シンセサイザーによる情報サービスの拡大

○朗読サービスの提供

○点字およびコンピュータの訓練

○拡大印刷やハイコントラスト方式、触覚表示に加えて、フロッピーディスクによる情報提供の奨励

○低価格の弱視者用機器を一層入手しやすくすること

(l)認知障害をもつ利用者のために単純化された情報(例えば図解)の作成の奨励」

2.国内の動き

 我が国は、1993(平成5)年3月に「国連・障害者の十年」以後の障害者施策のあり方をまとめた「障害者対策に関する新長期計画」を策定した。この新長期計画の「第2 分野別施策の基本的方向と具体的方策」の「6 生活環境」の中で情報アクセスについても触れ、「(4) 情報提供の充実」の項目をおこし、次の様に示している。

 (4) 情報提供の充実

 障害者、特に視聴覚障害者は、その障害により情報の収集、コミュニケーション確保に大きなハンディキャップがある。的確かつ十分な情報の収集やコミュニケーションの確保は、障害者の能力を生かし、自立と社会参加を促進するために不可欠である。

 情報提供の充実は、次のような基本的方針に沿って行う。

① 放送事業者の協力も得て、文字多重放送、音声多重放送の活用等視聴覚障害者に配慮した放送番組の一層の充実を図る。また、点字図書、字幕付きビデオ等視聴覚障害者に対する情報提供サービスの充実を図る。

② 選挙における基本的な権利行使に当たり障害者の特性に配慮した十分な情報提供が行われるよう配慮するとともに、病院での治療等命にかかわる場合における手話通訳の派遣を充実すること等により、最低限必要なコミュニケーションを確保するための各種措置を講ずる。また、公共サービスにおいて点字、録音物等による広報を行い、窓口で手話ができる職員を育成する等障害者への配慮を行う。

③ 障害によるハンディキャップを克服する手段として情報処理・情報通信機器の開発を一層推進する。

④ 聴覚障害者に対する電話伝達サービスの実施の在り方について検討するとともに、聴覚障害者用の字幕ビデオ作成に係る著作権の運用改善を図る。

⑤ 精神薄弱者にも分かりやすい情報提供の在り方について検討を進める。

⑥ 情報収集、コミュニケーションの確保に係る費用負担については、一般利用者との均衡等に配慮しつつ、その軽減について検討する。

 この新長期計画を受けて、1993(平成5)年5月には「身体障害者の利便の増進に資する通信・放送身体障害者利用円滑化事業の推進に関する法律」が公布され、テレビ放送における視覚障害者のための解説放送、聴覚障害者のための手話・字幕放送などの充実をはかることとなった。

 また、同年11月には、「心身障害者対策基本法」が「障害者基本法」として改正され、「身体障害者福祉法」で定める視・聴覚障害者情報提供施設を位置付けるとともに、障害者が情報を円滑に利用するための施策を講じることを規定している。「障害者基本法」の第22条の3、情報の利用については次の通りである。

(情報の利用等)

第22条の3 国及び地方公共団体は、障害者が円滑に情報を利用し、及びその意思を表示出来るようにするため、電気通信及び放送の役務の利用に関する障害者の利便の増進、障害者に対して情報を提供する施設の整備等が図られるよう必要な施策を講じなければならない。

2 電気通信及び放送の役務の提供を行う事業者は、社会連帯の理念に基づき、当該役務の提供に当たっては、障害者の利用の便宜を図るよう努めなければならない。

 視・聴覚障害者の情報アクセスの問題は、国際的にも国内でも大きなテーマとして挙げられ、政府レベルでも、当事者レベルでも種々の取り組みがなされている。これは、近年の高度技術の応用と世界的レベルでの障害者福祉への取り組みによって実現してきている。ここで、視・聴覚障害者の情報アクセスについて特集することで、情報アクセスの現状を分析整理し、今後のあり方を見いだそうとするものである。

国立身体障害者リハビリテーションセンター 相談判定課 主任心理判定専門職


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1994年12月(第82号)2頁~3頁

menu