特集/視・聴覚障害者と情報アクセス 点字図書の現状

特集/視・聴覚障害者と情報アクセス

点字図書の現状

田中徹二

 点字図書には、点訳書と出版書の2種類がある。前者は主にボランティアによって製作されたもの、後者は、全国の点字出版所(日本盲人社会福祉施設協議会点字出版部会加盟施設は29か所)が製作、販売しているものである。そのほかに雑誌、新聞がある。また、供給体制として、ここ数年注目されるようになったのが、パソコン点訳によって作成されたデータを通信によって供給するシステムである。

点訳書

 点訳書は、その多くが点字図書館に所属するボランティアによって製作されている。そのほかに、独自に活動している点訳ボランティア・グループがあるが、実態を把握するのは非常に難しいので、ここでは点字図書館の状況を紹介することとした。

 わが国には100館以上の点字図書館があるが、日本盲人社会福祉施設協議会点字図書館部会に所属しているのは90館である。同部会は、毎年所属館の実態を調査し、「日本の点字図書館」にまとめている。ここでは、その1993年度版を参考にする。

 回答してきた全国81点字図書館の蔵書数は、計395,013タイトル(注)である。蔵書数がもっとも多い日本点字図書館では23,057タイトルで、1館あたりの平均は4,876タイトルである。

(注)タイトルで表示したのは、活字図書と異なり、点字図書は1タイトルが何分冊にもなるので、冊で表示するとわかりにくいためである。

 これらの点字図書には、厚生省の委託によって成人・児童向けに毎年200冊製作されるもの(71館に配布)や点字出版所から購入したもの、寄贈されたものなどのほかに、自館製作のものが含まれている。全国平均で自館製作の割合は約3分の1である。

 現在では、こうした点訳図書はパソコン点訳によって製作されるものが多くなっているが、年間の増加タイトル数13,899タイトルのうち、自館製作数は81館で合計5,389タイトル、1館あたりの平均は66.5タイトルとなっている。もっとも多いのは日本点字図書館の355タイトルで、2番手を100タイトル上まわっている。

出版書

 一方、全国に30以上ある点字出版所では、年間200タイトル程度を出版している。プロの製版師が活字書を点字化し、印刷・製本したものを点字図書館や視覚障害者に販売するものである。

 しかし、点字図書館の多くは、これらの図書をあまり購入しようとしない傾向がある。点字図書館が購入している数は、1館あたりにするとわずか13.8タイトルにすぎない。これは総出版数の1割に満たない数で、100タイトル以上購入しているのは日本点字図書館1館だけである。厚生省及び都道府県によって点字図書給付事業(注)が行われるようになった。それによって、出版所が発行している点字図書を視覚障害者個人が求めやすくなったとはいえ、図書館としての資質を問われる状況であろう。

(注)点字図書給付事業とは、販売されている点字図書の価格が原本の活字書の数倍から数十倍になっているため、視覚障害者が容易に購入しにくい状況にあり、それを緩和する目的で設けられた制度である。年間の冊数や金額に制限はあるが、視覚障害者は原本と同じ価格を支払うだけで、残りの価格差が公的に補償されるというものである。

雑誌

 全国の点字出版書や点字図書館で発行されている点字雑誌は、合わせて60誌ほどである。

 その大部分は、一般の雑誌の記事を点字化したものである。しかし、視覚障害者に関する情報を取材し、独自に編集したものもいくつかある。その中で代表的なのが「点字毎日」であろう。

 同誌は大阪の毎日新聞社が発行している週刊誌で、1922年に発刊され、古さからみると、一般の週刊誌の中でも5指に入る歴史を誇っている。一般の新聞や雑誌では報道されない視覚障害者に欠かせない情報をきめ細かく報道しているので、全国に愛読者は多い。毎回10,000部を発行しているといわれているが、全国で日常点字を読み書きに使用している視覚障害者が約30,000人程度と推測されるので、そのシェアには驚嘆すべきものがある。

新聞

 新聞といえるかどうか疑問は残るが、厚生省が日本盲人会に委託し、「JBニュース」が発行されている。これは月曜から金曜まで、日本経済新聞の朝刊から点字にして10ページほどの記事を点字化し、そのデータを商用パソコン通信であるNIKKEI―TELCOMに流すというものである。全国の拠点でそのデータをダウンロードし、点字プリンタで印字したものを地域の視覚障害者に配布している。一般誌に比べると記事の量は非常に少ないが、独自に取材した視覚障害者に関する情報も掲載されており、徐々にシェアを拡大しつつある。

通信による供給

 1988年に日本アイ・ビー・エムが社会貢献として始めた「てんやく広場」がなんといっても最大の貢献者である。11か所の拠点を決め、それぞれに所属するボランティアにパソコンと点訳ソフトを寄贈した。それによって、パソコン点訳は一気に全国的な広がりをみせるようになったのである。

 そのシステムの構成は、次のようになっている。

1)プリンティング・センター 全国の点字図書館やボランティア・グループが通信用端末機を設置し、視覚障害者の求めに応じてパソコン点訳した点字データをホスト・コンピュータに登録する。また、視覚障害者の求めに応じて、ホストに登録されているデータを取り出し、点字プリンタで印字するかフロッピーディスクで提供している。

2)通信回線 通信網Tri―Pを経由して日本アイ・ビー・エムのホストにアクセスできるので、電話料金が節約できる。

3)ホスト 現在、約6500タイトルの点字データが入力されている。日本アイ・ビー・エムの東京基礎研究所に設置されているが、本年中に日本ライトハウス盲人情報文化センターに移転する予定である。

 プリンティングセンター以外に、点字データを利用するだけの施設会員、視覚障害者個人会員などが直接アクセスできるようになっている。

 この「てんやく広場」とまったく同じシステムで運用されているのが盲学校点字情報ネットワークシステムである。心身障害児教育財団が文部省の委託を受け、ホストを日本アイ・ビー・エムに置き、全国の盲学校が「てんやく広場」のプリンティング・センターと同じ役割を果たしている。盲学生に必要な点字教材を蓄積、利用するのが目的だが、現在では「てんやく広場」に入っている資料を活用するにとどまっているようである。

 このほかに、商用パソコン通信網NIFTY‐ServeやPC‐VANに点訳コーナーがあるが、パソコン通信(注)に通じている一部の視覚障害者がアクセスしている程度である。

(注)パソコン通信に熟練している視覚障害者は、各種の通信網にアクセスしている数から、全国で約200人と推測される。

 コンピュータの導入によって点字の世界は一変した。欧米では活字からの自動点訳が実用化しているが、わが国では漢字の読みが障害となって、自動点訳は熟練した点訳者が、直接点字を入力した方がまだまだ早い段階である。失明年齢の高齢化に伴い、点字触読者が、減少する傾向にあり、この自動点訳とともに、今後の大きな課題といえよう。

日本点字図書館 館長


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1994年12月(第82号)4頁~5頁

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