特集/視・聴覚障害者と情報アクセス 放送による視覚障害者への情報提供

特集/視・聴覚障害者と情報アクセス

放送による視覚障害者への情報提供

―視覚障害者向け放送(音声情報)の必然性―

川越利信

 視覚障害者に向けての放送による情報提供は、唯一、JBS・日本福祉放送(社会福祉法人視覚障害者文化振興協会)が、昭和63年(1988)から試みている。

 いま、リスナーは約8000人、24時間365日体制で情報を提供している。

 プログラムの特徴としては、新聞の朝刊・夕刊を当日に、日曜・祝日を含めて毎日、音声情報に変換して北海道から沖縄までリアルタイムで提供している。

 メディアはケーブル・ラジオ(有線放送)、CATV、コミュニティFMなど。

 JBSの試行錯誤に基づいて、プログラム、運営、技術、リスナーの状況、海外の状況、諸課題などを報告したいところですが、ここでは放送メディアによる音声情報提供の必然性についてのみ取り扱います。

1.圧倒的多数が音声情報

 視覚障害者の70~80%は、点字触読が困難で音声情報に依存していると考えられる。

 『日本の点字図書館11』(全点協:全国点字図書館協議会・平成7年7月発行)によると、全国の点字図書館の点字触読利用者は、年々下降傾向にあり、逆に録音図書の利用は上昇傾向にあることがわかる。5年前の利用状況に対して、点字図書は4%の減、録音図書は16%の増という結果が出ており、視覚障害者が音声で情報を得ている比率の高さが伺える。

 点訳がコンピュータ製作の時代に入ってから、点字情報は比較的容易にかつ早くサービスできるようになった。しかし、入力、校正、プリントアウト、製本、整理、郵送というプロセスを経なければならず、速報性においては限度がある。

 また、オン・ライン・ネットワークや商業通信システムによるデータ・サービスが普及しつつある。たとえば全点協のネットワーク「てんやく広場」には190人の視覚障害個人利用者が会員として登録している(平成7年6月末)。この190人の個人利用者による最近4か月のダウンロードは2369タイトルにおよんでいる。点字図書館の状況からみて驚くべき数字ではあるが、データ、サービスは現段階ではパソコン操作のできる一部の利用者に限られており、多くの視覚障害者が容易に使える専用機器の開発が必要でありまた期待する声も大きい。当然、その方向に向かうだろう。

 しかし、点字識字率が大きなバリアとしてあるために、点字情報を充実される一方で、圧倒的多数の視覚障害者のために音声情報を充実させる必要がある。

 視覚障害者への音声情報の充実を図るためには、音声を主体とする放送のメディアによる情報提供が、利便性、速報性、経済性等いずれの観点からも媒体として優位性と必然性、それに有効性を兼ねそなえていることは明らかである。

 放送メディアによる音声情報の提供は、視覚障害者への情報提供を考えてゆくうえで避けられないばかりでなく、きわめて重要な提供手段である。

2.情報は社会参加の基本条件

 視覚障害者が必要としている情報は、次の二つに大別ができる。一つは、新聞・雑誌に代表される主に活字を媒体とする一般社会の情報である。もう一つは、障害者福祉、視覚障害関係の独自の情報である。

 視覚障害者にとっては、いずれも必要不可欠な情報である。

a.一般社会情報

 視覚障害者が情報を摂取できる形態の基本メディアは、点と音である。

 社会に強い影響力をもつ新聞・雑誌は主に活字を媒体とするために、視覚障害者は読むことができない。つまり、社会の状況、流れを把握するための基本的な情報が入手できないことを意味する。必要な情報、社会の基本的な情報が得られない状況では、視覚障害者の自立・社会参加はありえない。

 視覚障害者の社会への参加促進の実を挙げるためには、特に社会に強い影響力をもつ活字情報を、視覚障害者の二大メディアである点字と音声に変換して提供する必要がある。視覚障害者が一般社会に同化し、社会を肌で感じてゆくためには、「一般社会情報」を十分に摂取できる社会環境の整備が大切である。

 これらのことを踏まえたとしても、「ラジオ・テレビがあるのに、なぜ、独自の放送メディアが要るのか」という問いは容易には消えない。

 しかし、ラジオ・テレビなど一般のメディアは、視覚障害者を意識した情報は原則的に提供しない。テレビ・ラジオ・新聞の各メディアは、それぞれの優位性を最大限に活かして番組を制作し、あるいは情報を提供している。しかも新聞とラジオ・テレビとの量、質、表現形態、再利用の利便性などの差は大きい。その結果は、視聴者・読者がそれぞれのメディアを使い分けて情報を多角的に摂取でき、判断・決定事項の選択肢や思考の幅を広く持てる仕組みになっている。

 言い換えれば、テレビはテレビとしての独自性をもったメディアであり、独自の情報を提供しているのである。ラジオもまた、同様である。

 したがって原則的には、テレビやラジオ・メディアの情報を新聞メディアでは代替できないように、新聞メディアの情報をテレビやラジオでは代替できない。

 要するに、活字を主体とする媒体である新聞や雑誌、図書類の一般社会情報を視覚障害者に提供する手段としては、テレビはもちろん、一般のラジオ放送では代替できないし不可能である。

 結論として、活字媒体ならびに視覚的な一般社会情報を視覚障害者が適宜自由に摂取できるような代替機能(独自のメディア)を、社会機能としてもつ必要がある。特に、新聞・雑誌メディアの情報を十分に摂取できる代替機能を充実させることが「社会参加」の理念の観点からも急務である。

b.視覚障害関係情報

 障害者福祉に関する時代性の認識と対応、将来へのイメージを可能にするために、「障害者基本法」、「新障害者の10年」、「アジア障害者の10年」など基本的な障害者施策と流れを諸角度から把握して情報提供することが重要である。

 一方、視覚障害者の福祉・文化の状況や障害種別を越えた観点からの位置付けを確認し、現実的諸課題に対応するために、視覚障害者に直接に関係する情報を幅広く提供することが望ましい。たとえば「あ・は・き法」に派生する諸問題などからはじまって、教育、文化、福祉、技術、医療、雇用など。

 これらの情報は、視覚障害者にとっては重要だが、一般メディアではほとんど扱ってくれない。つまり視覚障害者が必要としている情報は一般メディアでは入手しにくい。

 したがって、視覚障害関係者としては、独自の情報提供機能を構築する必要がある。その一方法として、視覚障害者向け放送が極めて有効と考えられる。

 音声情報を十分に提供することは、視覚障害者にとってはより幅広い選択肢を得ることになる。その結果として、視覚障害者の自立と社会参加がより促進されることは疑う余地はない。

JBS・日本福祉放送
 社会福祉法人 視覚障害者文化振興協会 常務理事


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1994年12月(第82号)8頁~9頁

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