特集/視・聴覚障害者と情報アクセス わが国の点字情報ネットワーク

特集/視・聴覚障害者と情報アクセス

わが国の点字情報ネットワーク

牧田克輔

視覚障害者は“情報障害”

 “社会参加と自立”に向けて、障害者には制度上の壁、物理的な壁、情報の壁、心の壁、の4つの障壁があるとよく言われる。こうした社会の壁が1つ1つ取り除かなければ、障害者が共に生きるノーマライゼーション社会は永遠に実現しない。特に、視覚障害者の場合、日々の生活の中で「情報の壁」をどう取り除くか、大きな課題である。

 わが国の視覚障害者は1991年11月の厚生省実態調査によると35万3千人、身体障害者の13%を占めている。1970年11月の調査では25万人だったから、20年間で10万人も増え、疾病、事故などで視覚障害者は年々増加の傾向にある。そして、視力を失ったすべての者が、この情報化社会の中で、「情報の壁」にぶち当たりどうぶち破るか苦労しているのが現状である。

 つまり、墨字(普通の文字)が読めない、書けないことに起因する種々の問題である。社会でのコミュニケーションの大半は普通文字を中心にしたビジュアルな媒体によって行われており、視覚障害者は情報へのアクセスが大変難しい立場に置かれている。視覚障害を“情報障害”という所以である。社会とのコミュニケーションが円滑にできないことは、教育や職業をはじめ、日常生活のあらゆる場面で、大きなハンディキャップを負うことになる。

パソコンの普及と視覚障害者情報ネットワーク

 この情報障害というバリアを突き破る一つの手段がパソコンに代表される情報機器の活用である。パソコンの普及と視覚障害者用周辺機器の開発は、視覚障害者の情報環境を一変した。視覚障害者用ワープロの開発は、視力をまったく失った者が墨字を独力で書くことをある程度可能にした。また、OCR装置を活用すれば、まだ不完全なものではあるが、自動点訳や自動音訳ができ、これによって、ごく限られた範囲とはいえ、墨字を効率よく読めるようになった。さらに、一般社会で文字情報の電子データ化が進んでいることは、視覚障害者の情報へのアクセスの可能性をさらに拡大するものだ。

 わが国でも視覚障害者のために既にパソコン通信を利用したいくつかの情報ネットワークが構築されている。新聞、雑誌、図書の墨字データからの直接変換や視覚障害に関する各種情報の提供で、「点字JBニュース」、「てんやく広場」、「盲学校点字情報ネットワークシステム」、「点字・録音図書情報ネットワーク」などがそれである。

1.点字JBニュース

 「点字JBニュース」は、活字が読めない視覚障害者に新聞などの情報を点字化し、タイムリーに提供することを目的として、社会福祉法人日本盲人会連合を中央実施機関(ホスト)にして都道府県に地方実施機関(地方端末)を置いて実施されている点字情報ネットワーク事業である。1991年4月に稼働を開始し、1995年4月現在の地方端末の設置状況は36ヶ所、この地方端末で毎日点字プリントされる部数は約3000部。

 毎週、月曜日から金曜日まで毎日発行で、その日のニュースがほぼリアルタイムで読めるという“即時性”から、また、一般紙では報道されない視覚障害者関係のニュースがいち早く手に入ることから、視覚障害者にとっては今やなくてはならない“ニュース源”として、今後、ますます利用する視覚障害者が増えるものと期待されている。

 このネットワークは、ホストである日本盲人会連合が、商用データベース「日経テレコン・総合版」の新聞情報等を点字データ化し、地方端末(視覚障害者団体、点字図書館等)にパソコン通信ネットワークを介して毎日提供、地方端末では、その情報をエンドユーザーに直接手渡したり、郵送したりして届けている。

2.てんやく広場

 視覚障害者の読書環境の向上を目的にボランティアがパソコンで点訳したデータをパソコン通信ネットで結んでいるのが「てんやく広場」である。

 1988年秋からスタートしたこのシステムは、ホストコンピュータと全国約60ヶ所のプリンティングセンター、約200人の視覚障害者ユーザーを電話回線でネット。1万タイトル近いパソコン点訳図書データを中心に、点字・録音図書全国総合目録、点字出版図書目録等13万件におよぶデータベースを構築し、開放している。各プリンティングセンターでは、3千人近い点訳ボランティアが活動中で、点訳データは毎月2~300タイトルずつ増加中だ。

3.盲学校点字情報ネットワークシステム

 盲学校における点字教材や点字図書をパソコン通信を使って全国の盲学校相互間で利用するのがこの「盲学校点字情報ネットワーク」である。

 1993年にスタート。このシステムは、各盲学校に設置されるネットワーク端末装置(通信用端末機、点字プリンタおよび入力専用端末機)と、センター機能を果たすホストコンピュータ(心身障害児教育財団)を結び、教材等の点字化の迅速化、利用の効率化で利用可能な情報量を飛躍的に増大させ、盲学校における教育活動の一層の充実を図っている。

4.視覚障害者用図書情報ネットワーク

 全国の視覚障害者用図書目録等の情報を商用パソコン通信ネットワーク(PC―VAN)を使って社会福祉法人日本点字図書館(ホスト)が全国の点字図書館(90ヶ所)に流しているのがこの事業である。

 1994年1月から実施され、日本点字図書館が管理している視覚障害者用図書(これには国立国会図書館の「全国点字・録音図書総合目録」も入っている)を各点字図書館に提供するとともに、各点字図書館からは、逐次各館製作の図書情報等を入力してもらい、視覚障害者用図書情報の拡充を図るシステムである。

安価な端末機器の開発が急務

 もちろん、自宅にパソコンを持つ視覚障害者なら、これらどのネットワークにも自由にアクセスできることはいうまでもない。しかし、パソコンを自宅に持って自由に操作できる視覚障害者はわずかに約2~300人程度、ほんの一握りだ。したがって、まもなく到来するマルチメディア社会にも対応するには、この情報を受け取る側の大部分視覚障害者個々人が手軽に持てる視覚障害者用情報端末機器の開発・実用化が現時点での最大急務である。安価で、しかも点字や音声で簡単に操作できるテープレコーダー並の機器だ。

 ところで、近年の傾向として、ウインドウズに代表されるようにコンピュータのコマンド入力のグラフィック化が進み、代表的なウインドウズの画面操作をマウスで視覚的に実行させる傾向にある。このことは、視覚障害者をさらに困難に状況に追い込み、「バイアフリー」とは逆行、視覚障害者がマルチメディア社会から取り残されるのではないかという危惧さえ出てきている。この危惧を払拭するためにも前述の、①視覚障害者が簡単な操作で扱える機器、②安価に購入できる機器、③点字と音声操作が可能な機器、④代表的なパソコン通信ネットワークにアクセスできて、容易に情報の出し入れが可能な機器―の4つの条件を満たした視覚障害者用端末機器の開発・実用化しかない。「情報の壁」を突き破り、視覚障害者の情報環境をさらに一新するため、是非とも実用化したいものだ。

社会福祉法人日本盲人会連合―参与・情報部長


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1994年12月(第82号)10頁~11頁

menu