特集/視・聴覚障害者と情報アクセス 視覚障害者のための情報機器の現状

特集/視・聴覚障害者と情報アクセス

視覚障害者のための情報機器の現状

井上英子

1.音声・点字・オプタコンⅡ・拡大表示等の補償機器の利用

 情報補償機器とは視覚障害者が一般にパソコンにアクセスするためにディスプレイに替って用いる音声、点字、オプタコンⅡ、文字拡大装置等の道具をいう。

 全盲の者がパソコンを効率的に使いたいと願うならば、この場面では点字で、この場面は音声でと文字やデータ処理の他に、情報入手方法の選択をしながら作業を行う。また弱視者はディスプレイ文字拡大装置や音声を利用しながら作業を行う。このために視覚障害者が汎用のアプリケーション・ソフトを利用する場合は、ソフトのさまざまな処理場面のレイアウトの理解と記憶が必要である。

1―1 音声の利用

 音声によるパソコンのディスプレイの文字の読上げソフトには、VDM100、やまびこ、FMTALKⅡなどがある。文字の読上げをさせるときには既に分かっているところ、必要のないところは読み飛ばしたい、ソフトによっては反転しているところを読ませたい等の希望があり、音声化ソフトの機能を十分に知って利用する必要がある。パソコンに文字の読上げソフト常駐している環境で、一太郎などのワープロソフトやデータベース、表計算、通信ソフトなどが動く。しかし、文字の読上げソフトとうまく動かないアプリケーション・ソフトもあり、視覚障害者は晴眼者以上にパソコンの制御について知識を求められることも多い。

1―2 点字ディスプレイの利用

 点字ディスプレイは必要に合わせたスピードで処理でき、特に辞書などを引くときには点字の方が理解しやすいという良さがある。しかし点字ディスプレイにはパソコン・ディスプレイ上の文字の点字変換の際の分かち書きやデータ以外の余分な点字表示、さらには装置が高額であるなど課題がある。最近、BASE、ブレイルスターなどの点訳ソフトではパワーブレイル(点字ディスプレイ)のタッチカーソル・ボタンの利用が可能となった。これはボタンに触れるだけでパソコンのカーソルがそこへ移動してくれるので修正などがワンタッチでできるという利点がある。

1―3 オプタコンⅡの利用

 オプタコンⅡは罫線やグラフの確認、フォーマットの確認など、音声や点字などに変換できないところで威力を発揮する。表計算ソフトやデータベースなど汎用のアプリケーション・ソフトを視覚障害者が使うときには、パソコンにオプタコンⅡを接続して、オプタコンⅡ用画面情報出力ソフトキヤノフィンガーを利用してレイアウトを確認しながら行うと便利である。

1―4 拡大システムの利用

 弱視者の場合は多くの場合、ディスプレイの文字やアイコン(絵文字)の拡大、または色の選択などができるとパソコンを利用しやすくなる。現在、文字拡大ソフトはいくつか提供されているが、中でも視覚障害者用ワープロソフトでんぴつは文字拡大機能を備えており、容易に利用できる。

 ハードとしてはディスプレイ文字拡大装置(PCーWIDE2)がある。これを利用する場合、MS-DOS、Windowsなどパソコンの制御管理システムやソフトを問わないので便利である。

2.情報入手の効率化

2―1 CD辞書の利用

 点字では何10冊にもなる辞書が1枚のディスクに収まり、検索が容易である。ほとんどのパソコンがCDディスクドライブが内蔵されるようになり、文字拡大、音声対応のCD辞書の検索ソフトも提供されている。さらに視覚障害者用ワープロソフトからもCD辞書にアクセスできるようになり、漢字や意味などの確認が便利になってきた。

2―2 パソコン通信の利用

 点字情報はてんやく広場、盲学校情報ネット、NIFTYやPC-VANの視覚障害者フォーラム等から教科書、受験に必要なもの、趣味で読みたいものなどを入手することができる。また、国会図書館の図書情報も検索が可能であり、これらの環境の変化は視覚障害者の点字図書環境を一変させた。

 ネットワークにアクセスしてメールを受け取り、最新情報をチェックして、フリーウェアをダウンロードするなど、ネットワークは居ながらにしてさまざまな情報の交換ができる。さらにインターネットを通して海外から情報を入手したり送ることができる。しかし、音声で点字でWWW(World Wide Web)がうまく利用できるか、画像情報はどうするかなど課題もある。

2―3 文字読み取り装置の利用

 スキャナで文字を読み取り、音声化するものである。視覚障害者は情報を得ようとするときは誰かに読んでもらうしかない。このときは相手の都合や能力に左右されることも多い。忙しくしているオフィスの中で長いものをよんでもらうことは躊躇され、読む部分が機械によって代行されるならば大変嬉しいことである。日本語文字読み取り装置については「達訓」、「エスプリ」などがある。

 「達訓」は文字認識用辞書や音声読上げソフトをコンロトールして文字領域の自動抽出やメッセージ出力など視覚障害者が使いやすいようにする。「エスプリ」は単体で文書を読み音声化するが、シンプルな使い勝手が特長である。この他に点字文読み取り装置として「ハートコミニュケーション」がある。

2―4 点字電子手帳の利用

 視覚障害者は今や与えられた席で仕事をすればすむ時代ではなくなった。会議や取材に出かけメモを取り、編集する必要ができてきた。「プレイルメイト」など視覚障害者用電子手帳といえる携帯性に優れたものが利用されるようになってきた。安価な日本語対応のものが表れることを期待したい。

3.今後の課題

3―1 Windows日本語版の利用の可能性

 一般のオフィスではDOS/VマシンでWindowsを用いているところが増えている。Windowsの音声、点字化については欧米で既に実用化され、いくつかのソフトが市販されており、日本では障害者職業総合センター等で研究されているが、現在のところ実用化のレベルにいたっていない。また、DOS/Vマシンの音声化ソフトは今のところ1つであり、使いこまれていないために使い心地や相性のよいソフトがまだはっきりしない状態である。

 視覚障害者もWindowsを利用しなければいけないという理由はまだ少ないように思うが、オフィスでただ1人だけ従来のMS-DOSを利用し続ける訳にもいかないであろう。

3―2 ATM、デジタル・コピーの利用の可能性

 情報補償機器の範疇に入らないが、多くの視覚障害者が困っているものに銀行の自動受払機(ATM)がある。これは機械の構造、台数、設置環境など改善の余地も多い。

 弱視者にとってデジタル・コピーの利用は高い可能性を持つ。スキャナとプリンタの機能を持ち、400倍までの倍率、色の選択などができるデジタル・コピーは魅力のあるものである。パソコンの拡大ソフトと画像処理ソフトをうまく利用できれば弱視者でも操作が可能と思われる。

4.おわりに

 さて、盲学校やリハビリセンターでは機器をどのように利用しているのだろうか。オプタコンはどこかにしまわれ、点字ディスプレイは国語辞書専用で、ディスプレイ上の文字の点字変換ソフトゲイトウェイやVDM101などは使ったこともないかもしれない。個々のユーザーや指導員は自分が利用しているハードやソフトについて多くの情報を持っているが、広く情報の交換が行われていないのが残念である。今後は補償機器等の利用情報ネットワークをぜひ広げたいものである。

 なお、視覚障害者の一般企業への就職、あるいは継続雇用にあたって、いくつかの助成金制度がある。補償機器の利用が学習機会や雇用の拡大につながっている。

社会福祉法人日本盲人職能開発センター


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1994年12月(第82号)12頁~13頁

menu