特集/視・聴覚障害者と情報アクセス 聴覚障害者と通信装

特集/視・聴覚障害者と情報アクセス

聴覚障害者と通信装置

岩渕紀雄

 日本の聴覚障害者は厚生省が決めた70dB以上で約36万人、欧米並に40dB以上の軽度難聴者を含めると約600万人、2010年には約800万に膨れ上がると推定されている。

 また、同じ聴覚障害者でも電話がかけられる人からそうでない人まで幅が広い。これを踏まえて現状と課題について触れたい。

どのような通信機器があるか?

 有線で裸耳対応型電話機には『クローバホン』(ひと昔の「めいりょう」)、補聴器対応型電話機には『ベオコム』『快聴』『クラリティ』など。

 文字・画像・交信は双方向通信として「パソコン通信」「テレビ電話」「ライトーク」「Eコット」、単方向通信としては「ファックス」「キャプテン」「ザウルス」が代表的。無線では携帯電話があげられるが、難聴者が使えるものはない。

 文字・画像・交信用は双方向通信として無線パソコン通信「文字電話」、単方向通信として「携帯ファックス」、文字表示型「ポケットベル」、携帯用手書電話「メサージュ」などさまざまな機器が出まわっているが、普及度からいえば家庭用では①補聴器対応型電話機、文字交信用は①ファックス②パソコン通信、無線では①携帯用手書電話「メサージュ」②文字表示型「ポケットベル」である。

普及を妨げる主な要因

 一定の文字ならプッシュ信号の出る公衆電話からファックスに送信できるシステムも開発される一方、無線を利用したパソコン通信「文字電話」もできたが、文章力の弱い聴覚障害者、高齢者、また、機器の操作に不器用な人には向かない。

 「テレビ電話」はだれとでもリアルタイムの交信が可能で有望商品として期待されているが、手話をゆっくりやっている場合はともかく、速いと画像が乱れる、また価格が高い(1台、約70万円)などの欠点がある。「メサージュ」は地上を走る電車やバスの中からも交信できるし、不器用な人でも気楽に書ける手書文字電話として今後の需要が期待されている。しかし現在は東京中心にしか使えないのが玉に傷だ。

 「ザウルス」はISDNに対応した公衆電話なら全国どこからでもさまざまな情報を送信できるが、受信ができないなど、それぞれ一長一短がある。逆にいえば、互換性が少ない上に、使用範囲が限定される、高価格などが普及のネックになっている。

これからの課題

リレーサービスの拡充

 前述したように通信形態はさまざまであり、個人が全ての通信手段を確保するのは困難である。そこで米国や東京、名古屋、熊本などで実施されている電話中継サービス(「リレーサービス」)が必要になってくる。

緊急用通信システムの確保

 災害が発生したときの連絡手段としては健聴者の間では携帯電話が威力を発揮したが、聴覚障害者については補聴器対応型の携帯電話はないし、完全失聴者には無用の長物。

 その意味では「メサージュ」のようなものは何かと役立つであろう。とくに自治体(警察、消防、福祉関係)は防災弱者の安全の確保を最優先課題にしてほしい。

要望したいこと

自治体への主な要望

 たとえば健聴者同士は普通の電話があれば十分だが、難聴者はさまざまな聴力をもつ仲間あるいはまわりの健聴者と交信するためにさまざまな通信機器をもたなければならない。難聴者用電話機、ファックス、電話の着信を知るためにストロボなどを付け足す必要がある。

 障害者になったのは自分の責任ではない。たまたま病気や事故でそうなっただけにすぎない。障害者であるが故に多額の負担をしなければならないというのは不公平ではないか。人間も生き物である以上、いずれは老いるし、障害者にならないという保証はどこにもない。すべての国民に平等に文化的な生活を保障するのは国の責任と考えているし、国や地方自治体が補填措置をとってほしいと考えるのは屁理屈だろうか。

 また、「日常生活用具制度」は「文字放送デコーダ」などを除き、おおむね3級以下の聴障者は給付対象にならない。では3級以下は聞こえるのかというと、そうでもない。全項目とも等級制限を廃止し、必要な人には給付するようにしていただきたい。

メーカーへの主な要望

 メーカーはビジネスをする以上、儲けなければならないが、今は高齢社会であり、高齢者や障害者に使いやすい機器を開発することも大切ではないか。米国ではAT&Tをはじめ多くの通信機器メーカーが聴覚障害者用通信機器の開発・販売に参入している。なぜだろうか。聴覚障害者のユーザーに買って欲しいからである。高齢者や障害者などにやさしい商品を作ることも立派な社会貢献であり、メセナ(文化活動支援)と私は考える。基本方針の中に入れていただきたい。

 ハード面では、たとえば、ファックスは正確、経済的、速いなどの理由で便利商品であり聴覚障害者の間でも普及しているが、業務用などに作られたものが、たまたま聴覚障害者でも使えるようになったにすぎない。したがって不便な面もある。不通通知は音声ガイダンスで行うし、音声を聞けない聴覚障害者には不便である。受話器には音量増幅装置がないので難聴者は使いにくいといった問題も残されている。開発段階で商品知識のある聴覚障害者をデザイナーに加えるか、ヒアリングの段階で聴覚障害者の意見を反映していれば問題は少なくなったはずである。

ユーザーへの主な要望

 福祉機器を自費で購入する人は少ない。逆にいうと福祉で給付されるのを待っている人が多い。経済的に苦しいというのであれば理解するが、最近の聴覚障害者を見るとそうでもなさそうな気がする。ひと昔に比べると就労者は増加(しかも就労先は大企業が増えている)している。賃金面でも健聴者と遜色はない、一方、身障者手帳2級以上の者は障害基礎年金などの受給資格がある。一人暮らしの場合、年間302万円以下には1級の場合、約94万円の基礎年金が下りる。合計すると年間約400万円(その他自治体によって諸手当がある)になる。同年齢(25歳)の健聴者の総収入平均が260万円前後というからいかに障害者が「お金持ち」か分かる。聴覚障害者の場合、その金でマイホームや車を購入したり、海外旅行に頻繁に出かけている。普通の人は、簡単でないはず。そもそも年金などは生活を保障するためにあるはずだ。その金の中から購入する努力をしてほしい。そうしないと納税者から反発を受けても抗弁できないだろう。

 行政への要望と重なるが大胆な提案をしたい。年金がもらえる人は年金から購入を、年金がもらえない人には福祉で給付するとか再検討を望みたい。福祉のあり方を根本から見直す必要があろう。

株式会社ワールドパイオニア代表取締役 (本名 中園秀喜)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1994年12月(第82号)18頁~19頁

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