特集/視・聴覚障害者と情報アクセス 字幕付きビデオ制作に係る著作権処理

特集/視・聴覚障害者と情報アクセス

字幕付きビデオ制作に係る著作権処理

中博一

1.はじめに

 社会福祉法人聴力障害者情報文化センター(以下「情文」という)では、聴覚障害児者向けの無償貸出用の字幕付きビデオカセットテープ(以下「字幕ビデオ」という)を制作している。これは、テレビジョン放送番組等(以下「TV番組」という)に聴覚障害者向けの字幕を付加したビデオカセットテープのことである。

 この字幕ビデオの制作にあたっては、たとえ聴覚障害者福祉のためであってもTV番組に係る著作権権利者に無断で制作することは違法行為となる。

 そこで本論では、情文で行っているTV番組から字幕ビデオ制作を行う場合の著作権権利処理について述べることとする。

2.字幕ビデオ制作過程

 情文で制作している字幕ビデオはOpen Captionと呼ばれる方法によって字幕が付加されている。Open Captionとは、映像信号を記録している部分に字幕の信号を重ねて記録する方法であり、文字放送字幕番組のように映像信号と字幕の信号を合成する装置(アダプター、デコーダーなどと呼ばれている)を必要としない。

 このOpen Captionによる字幕ビデオは、次のような工程を経て制作されている。

 ①素材テープの作成(TV番組から複製)

 ②字幕原稿作成(せりふ等の書き起こし及び要約)

 ③字幕挿入(素材テープから複製しながら同時に行う)

 これはあくまでも最少限度の工程である。

 実際には、以下の工程を得て字幕ビデオが制作されている。

 ①提供用テープの作成 放送局がオリジナルから複製する。

 ②TC付きマスターテープ作成 提供用テープからCM部分を削除し、タイムコード(TC)を付加したテープを複製する。

 ③ワークテープ作成 TC付きマスターテープからタイムコードを映像として記録した作業用テープを複製する。

 ④書き起こしおよび要約

 ⑤字幕(テロップ)作成 ペーパー上に書かれた要約原稿を、映像信号に変換するために要約文を字幕生成装置に入力する。

 ⑥字幕付きマザーテープ作成 TC付きマスターテープから得られる再生信号(映像信号)に字幕の映像信号を重ねあわせた映像信号を生成し、テープに記録(複製)する。

 ⑦貸出し用ビデオテープの作成 字幕付きマザーテープから必要本数分を複製する。

 このように、TV番組から字幕ビデオを制作するためには、TV番組を複製し、音声信号として記録されているセリフ等を要約した映像信号に変換し、この映像信号と元のTV番組の映像信号とを合成させた映像信号と音声信号をテープに録音・録画し、同テープから貸出用のテープを複製することが必要である。

 これらの複製、要約、映像信号の合成(字幕の付加)等の行為は、TV番組(著作物)に対し行う行為であるため、TV番組(著作物)に係る著作権権利者の許諾なくしては行うことはできない。したがって、TV番組から字幕ビデオを制作する場合は、当該TV番組に係る著作権権利者から許諾を得ることから始めなければならないのである。

3.TV番組と著作権

 著作権法には、著作者の権利と著作隣接権が定められている(図1)。著作者の権利には、著作者人格権と著作権(財産権または狭義の著作権と呼ばれている)が規定されている。著作隣接権には、実演家の権利、レコード制作者の権利、放送事業者の権利、有線放送事業者の権利が規定されている。

図1 著作権の概要

図1 著作権の概要

 このうちTV番組に係る権利は、概次のとおりである(NHK,1993)。①著作者人格権②著作権③実演家の権利④レコード制作者の権利⑤放送事業者の権利、さらに個々の権利享有者が絡んでおり、実に複雑な構造となっている(図2)。

図2 TV番組における権利享有者

図2 TV番組における権利享有者

 TV番組から字幕ビデオ制作し、聴覚障害児・者へ貸出を行うためには、こうした個々の権利享有者から概以下の事項に関する許諾を得なければならない。

1)TV番組を放送以外の目的で番組の提供を受けることに関する許諾 2)提供を受けた番組を複製することに関する許諾 3)セリフ等の音の情報を文字化し要約することに関する許諾 4)文字化した要約を映像信号に変換し、番組の映像に重ねあわせること(改変)に関する許諾 5)字幕を付加した番組から頒布用のビデオカセットテープに複製することに関する許諾 6)頒布用ビデオカセットテープを頒布し、聴覚障害者が視聴することに関する許諾。

 これらの事項について、それぞれの権利享有者から許諾を得ることによって、字幕ビデオの制作、並びに聴覚障害者への貸出・視聴が可能になる。

4.おわりに

 TV番組から字幕ビデオ制作するためには、多くの方々の理解と協力がなければできないことである。確かに、現行の著作権法は、聴覚障害に対して特別な措置はなされていない。また、著作権法はその目的である文化の発展に寄与しているかもしれないが、障害者がその文化を享受することの障害を生んでいることも事実である。これは著作権法の瑕疵(かし)であると言えるかもしれない。

 最後に、字幕ビデオ制作と貸出といった聴覚障害者福祉に対し、「著作者の権利」享有者、「著作隣接権」享有者、各権利享有者の権利を預かる団体、放送事業者等の方々が理解と協力を示して下さっていることを述べておきたい。

参考文献 略

References
1)NHK,1993,『放送番組と著作権~番組制作から二次使用まで~』,NHK編集局(ソフト開発)著作権

社会福祉法人聴力障害者情報文化センター 企画制作課


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1994年12月(第82号)22頁~25頁

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