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特集/社会リハビリテーションの最近の動向

社会リハビリテーションの概念と方法

奥野英子

はじめに

 1981年の国際障害者年以降、わが国の障害者福祉、障害者施策は大きな発展をとげてきた。この15年間は国際的にも国内的にも様々な取り組みがなされ、国際的には、1982年の「国連・障害者世界行動計画」、1983~1992年の「国連・障害者の十年」、1993~2002年の「アジア太平洋障害者の十年」があり、これらの国際的動向に呼応して、国内的には1983~1992年の「障害者対策に関する長期計画」、1993~2002年の「障害者対策に関する新長期計画」、そしてこの新長期計画の重点施策実施計画として「障害者プラン~ノーマライゼーション7か年戦略」が1995年12月に策定されたところである。

 この15年間に、障害者基本法が制定されるとともに、身体障害者福祉法や精神保健法の改正も行われ、福祉サービスは拡大されてきた。また、厚生省による取り組みが中心であった「障害者福祉」から、総理府における障害者施策推進本部を中心とする19省庁による全省庁的取り組みによる「障害者施策」に拡がってきた。

 このような動向のなかでリハビリテーションに目を向けた時、どのように発展してきたであろうか。リハビリテーションは、医学的リハビリテーション、教育リハビリテーション、職業リハビリテーション、社会リハビリテーションの主要4分野から構成され、各分野の専門職者によるチームアプローチにより、総合的に実施していくことが効率的であるとされている。

 障害の重度化・重複化、高次脳機能障害等の増加に伴い、社会リハビリテーションの果たすべき役割が高まっている中で、社会リハビリテーションの概念と方法を明らかにすることにより、社会リハビリテーションの具体的なプログラムの発展に寄与できれば幸いである。

1.リハビリテーションの定義と理念

 リハビリテーションの代表的な定義は、全米リハビリテーション協議会(1943年)、WHO(1969年) 、国連・障害者世界行動計画(1982年)などによるものがある。1982年の国連による定義が最新のものであり、以下のとおりである。

 「身体的、精神的、かつまた社会的に最も適した機能水準の達成を可能とすることによって、各個人が自らの人生を変革していくための手段を提供していくことを目指し、かつ時間を限定したプロセスである。」

 これまでのリハビリテーションは専門職者主導の「医学モデル」が中心であったが、障害のある当事者の主体性を尊重した「生活モデル」への移行がこの定義にうかがうことができる。またこの定義とともに、障害に関する主要3分野として、①予防、②リハビリテーション、③機会均等、の3概念が整理された。これまで、これら3つの概念が混同されていたが、この概念規定により、「リハビリテーション」と「機会均等」がはっきりと分けられたのである。

 一方、日本においては、同年(昭和57年) に出された身体障害者福祉審議会答申において「リハビリテーションの理念」が以下のように記載された。

 「…リハビリテーションの理念の根底にあるものは、障害者も1人の人間として、その人格の尊厳性をもつ存在であり、その自立は社会全体の発展に寄与するものであると言う立場に立つものである。…

 …障害をもつが故に人間的生活条件から疎外されている者の全人間的復権をめざす技術及び社会的、政策的対応の総合的体系であると理解すべきである。…

 …リハビリテーションの基調は、主体性、自立性、自由といった人間本来の生き方であって、その目標は、必ずしも職業復帰や経済的自立のみではないことを理解しなければならない。…」

2.社会リハビリテーションの概念の変遷と定義

 上記のようなリハビリテーションの定義や理念を踏まえたうえで、社会リハビリテーションの概念を明らかにするために、社会リハビリテーションに関わるこれまでの重要な経過を振り返りたい。

(1)  WHOによる「社会リハビリテーション」の定義(1968年)

 「障害者が家庭、地域社会、職業上の要求に適応できるように援助したり、全体的リハビリテーションの過程を妨げる経済的・社会的な負担を軽減し、障害者を社会に統合または再統合することを目的としたリハビリテーション過程の1つである。」

 この定義は、家庭、地域社会、職場等への適応を援助するとともに、医学的リハビリテーション、職業リハビリテーションなどを受けている期間の経済的保障や福祉サービスの提供等を意味していると理解できる。

(2) RIによる「社会リハビリテーションの将来のための指針」(1972年)

 本誌を発行している日本障害者リハビリテーション協会が加盟しているRI(リハビリテーション・インターナショナル<国際リハビリテーション協会>、本部ニューヨーク市)には、リハビリテーションを構成する主要分野ごとに医学委員会、教育委員会、職業委員会、社会委員会などが常置委員会として設けられており、各委員会は1969年から1972年にかけて、リハビリテーションの各分野の業務を明確化するために「ガイドライン」を検討した。

 RI社会委員会においても、「社会リハビリテーションの将来のための指針(ガイドライン)」について検討を重ね、1972年の第12回リハビリテーション世界会議において採択された。このガイドラインでは、「社会リハビリテーション」を具体的に定義していないが、「社会委員会の関心の焦点は、身体もしくは精神に障害をもつすべての人々の生活条件及び個人の福祉を向上することである」と明記し、障害者をめぐる環境として、以下を挙げ、それぞれへの取り組みが社会リハビリテーションの課題であるとした。

A.物理的環境――建築物、交通機関、住宅などハード面の改善等

B.経済的環境――働く場の保障、障害年金・障害手当などの所得保障等

C.法的環境――障害者の生活と権利を守るための法律の整備等

D.社会・文化的環境――差別・偏見の除去、交流の場の設定、障害者運動等

E.心理・情緒的環境――障害受容への援助、権利擁護、カウンセリング等

(3) 小島蓉子の定義(「社会リハビリテーション」誠信書房、1978年)

 「社会リハビリテーションとは、社会関係の中に生きる障害者自身の全人間的発達と権利を確保し、一方、人を取り巻く社会の側に人間の可能性の開花を阻む社会的障壁があれば、それに挑み、障害社会そのものの再構築(リハビリテーション)を図る社会的努力である。」

 故小島教授はRI社会委員会の委員をつとめており、国際的動向の中で上記のように定義をし、「社会リハビリテーション」は障害者自身への対応と、社会そのものへの対応、の2つの方向の取り組みであるとしたのである。

(4) RI社会委員会の定義(1986年)

 RI社会委員会では、1980年代初頭から「社会リハビリテーション」の定義の検討に取り組み、1986年にその結果を発表した。

 「社会リハビリテーションとは、社会生活力(social functioning ability,SFA)を高めることを目的としたプロセスである。社会生活力とは、様々な社会的な状況の中で、自分のニーズを満たし、1人ひとりに可能な最大限の豊かな社会参加を実現する権利を行使する力(ちから)を意味する。」

 また、この定義の前提として、「機会均等」の重要性を挙げている。

 「機会均等とは、社会の一般的システム、例えば、物理的、文化的環境、住宅と交通、社会・保健サービス、教育と労働の機会、スポーツやレクリエーションの施設等を含む文化・社会的生活をすべての人々に利用可能にすることである。」

 さらに、機会均等の重要原則として以下の2項目を明記した。

①社会はすべての市民が完全参加できるように作られなければならない。

②障害者は、リハビリテーションのゴールを自分で決定できることが当然であり、また、どのような環境、地域、人間関係の中に暮らしたいかという選択を、普通の市民と同じようにできることが保障されなければならない。

 1986年にRI社会委員会において採択された「社会リハビリテーション」の定義は、これまでのWHOの定義、RIのガイドライン、故小島教授の定義とも異なり、「社会生活力」を高めることを社会リハビリテーションの目的と規定し、環境への取り組み、社会の障壁の除去等は、「機会均等」の中に整理されたのである。

3.社会リハビリテーションと関連諸概念との関係

 社会リハビリテーションは障害者福祉と同じではないか、という疑問がこれまで投げかけられてきたが、「社会リハビリテーション」「障害者福祉」「障害者施策」及び「予防」「リハビリテーション」「機会均等」の諸概念を整理すると図1となる。

図1 社会リハビリテーションと関連諸概念

図1 社会リハビリテーションと関連諸概念

 「社会リハビリテーション」「障害者福祉」「障害者施策」の差異を簡潔にまとめると以下のとおりである。

(1) 社会リハビリテーション

 医学的リハビリテーションにおける理学療法、作業療法等が障害者の身体機能の回復を目指し、職業リハビリテーションが職業訓練、職業適応により職業能力の向上を目指すように、社会リハビリテーションは、障害者が社会の中で活用できる諸サービスを自ら活用して社会参加し、自らの人生を主体的に生きていくための「社会生活力」を高めることを目指す援助技術の体系と方法である。障害のある当事者自身の社会生活力が高まることが目的であるが、そのためには、社会生活力を高めるための援助プログラムを実施するとともに、ソーシャルワーカーとしての個別援助、すなわち、福祉サービスの活用、対象者と環境との調整、サービス間の調整、リハビリテーション分野間の連絡調整も社会リハビリテーションの関連業務となる。総合リハビリテーションを実施していく際に、医学的リハビリテーション、教育リハビリテーション、職業リハビリテーションの分野に所属する各種の専門職者とのコーディネーション(調整)、すなわち、リハビリテーションチームのコーディネーターとしての役割が社会リハビリテーションの中にあるといえる。

(2) 障害者福祉

 リハビリテーションによって障害者の身体的、精神的、職業的、社会的な能力が最大限に高められるが、それでもなお残された能力低下と社会的不利をカバーするための、社会福祉の一分野としてのアプローチが「障害者福祉」であり、各種の福祉立法を基底に、障害者のニーズを充足するための福祉サービス(医療、保健、補装具、日常生活用具、施設福祉、在宅福祉、所得保障等)を提供する制度・施策である。

(3) 障害者施策

 障害者福祉だけでは、障害者の「完全参加と平等」を可能とする「機会均等」な社会を実現することは困難である。建築物・住宅・交通機関へのアクセス、コミュニケーション・情報へのアクセス、雇用の促進、就労の確保、教育の保障等、全省庁による取り組みである「障害者施策」が必要とされる。

4.社会リハビリテーションの実施主体

 上記のように社会リハビリテーションの概念を整理すると、社会リハビリテーションの実施主体は誰であろうか。リハビリテーションは障害のある当事者が一番重要であることは論をまたない。従って、社会リハビリテーションにとって最も重要なキーパーソンは「障害のある本人自身」である。また、本人の一番身近にいて本人の生き方等に大きな影響をおよぼす家族、次に本人・家族を支援する専門職者として、ソーシャルワーカー(生活指導員等)、生活訓練指導員、心理専門職、ケア・ワーカー(ホームヘルパー、介護福祉士等)、ピア・カウンセラーなどを挙げることができる。家族については、本人の自立にプラスにもマイナスにも大きな影響を及ぼす者として重要である。

 さらにこれらの社会リハビリテーションの実施主体者の周りには、社会生活力を発揮できる社会づくりにおける支援者としてのボランティア、障害者相談員、市民、法律家、行政官、建築家、都市計画者、交通事業者、マスコミ関係者、などがいる。

 これらの関係を図示すると図2のようになる。

図2 社会リハビリテーションの実施主体

図2 社会リハビリテーションの実施主体

5.社会リハビリテーションの実施方法

 社会リハビリテーションを担う専門職者はソーシャルワーカーが中心であるが、働く場によってケースワーカー、生活指導員、社会福祉主事、身体障害者福祉司、精神薄弱者福祉司等の職名が使われている。ソーシャルワーカーの国家資格は「社会福祉士」であり、社会福祉士の基礎資格のうえに「リハビリテーション・ソーシャルワーカー(RSW)」や「ケア・マネジャー」としての現任研修が実施されることが理想的であると考える。

 ソーシャルワーカーの援助技術は社会福祉援助技術であるが、これらを挙げると次のとおりである。

(1) ケースワーク(個別援助技術)

(2) グループワーク(集団援助技術)

(3) コミュニティ・ワーク(地域援助技術)

(4) ケア・ワーク(介護技術)

(5) カウンセリング

(6) アドボカシー(権利擁護)

(7) ソーシャル・アクション(社会運動)

(8) ケア・マネジメント

 上記のような社会福祉援助技術については、社会福祉学において教育されており、大学、短期大学、専門学校、通信教育等で取り組まれている。しかし、これまでの社会福祉教育においては理論学習が中心であり、実践に役立つ技術の教育が不十分であったことは否めない。従って、社会リハビリテーションを実践していくにあたって、医学的リハビリテーションにおける理学療法士や作業療法士のような確固たる援助技術をもっているかと考えると、心もとないことは否定できない。今後さらに社会福祉援助技術の実践教育が充実することを期待したい。

6.社会生活力を高めるための援助プログラム

 社会生活力を高めるための援助プログラムを実施する場所として筆頭に挙げられるのは、障害者更生施設や地域利用施設である。しかし、このような厚生省管轄下の施設ばかりでなく、養護学校、病院、公的機関、民間機関等のどこででも実施できるのである。社会生活力を高めるニーズのある者がいるところにおいて、それを指導・援助・支援できる技術をもった者がいれば、どこにおいても実施可能である。

 施設におけるプログラム、地域におけるプログラムにおいても、プログラム実施のプロセスは同じであり、以下のとおりである。

① ニーズの把握

② 目標設定

③ 事前評価(アセスメント)の実施

④ プログラムの企画

⑤ 指導・援助・支援の実施

⑥ 事後評価

 施設におけるプログラムとしては、先駆的な施設において現在、生活訓練、社会適応訓練、社会生活技術訓練等の名称で取り組まれている。地域においては、障害のある当事者が運営している自立生活センター等において自立生活プログラムやピア・カウンセリングなどが実施されており、これらも社会生活力を高めるためのプログラムの1例である。

 本特集においても、先駆的実践プログラムが紹介されているが、本稿では、海外における取り組みの1例を簡単に紹介したい。

 アメリカでは1970年代から自立生活運動が活発に展開され、自立生活センターにおいて自立生活技術訓練が実施されている。シカゴにある自立生活センター「アクセス・リビング」を本年5月に訪問した。これは、45名程のスタッフが働くセルフヘルプ団体で、1988年にアメリカ各地の各種訓練カリキュラムを検討し、それらを集大成し「アクセス・リビング自立生活技術訓練カリキュラム」を作成した。その後、1994年に改訂版を出したが、カリキュラムの目次は表1のとおりである。

表:1 アクセス・リビング自立生活技術訓練カリキュラム

目 次

第1部 自分について考える

モジュール1 自己覚知

     2 自己主張

     3 コミュニケーションと人間関係

     4 自己擁護(アドボカシー)

     5 障害の覚知と障害への態度

     6 障害をもつアメリカ人法(ADA、1990)

     7 セクシュアリティ

第2部 地域について考える

モジュール8 地域の社会資源

     9 コンシューマー

     10 教育

     11 住宅

     12 交通手段

     13 介助(パーソナル・アシスタント)

     14 建物とコミュニケーションのアクセス

     15 システムズ・アドボカシー

第3部 自分を地域に統合する

モジュール16 時間の管理

     17 金銭管理

     18 家庭管理

     19 身辺の保護と安全

     20 保健と医療

     21 福祉機器

     22 職業生活設計

     23 レジャー、レクリエーション、スポーツ、趣味、興味

     24 育児

     25 人生設計

 このカリキュラムで一番重要視されていることは、障害のある当事者が自己尊重と自信を高めることであり、自分を大切な存在として実感し、自分に自信が持てれば、地域における生活の諸問題はかなり解決できるという視点に立っている。訓練カリキュラムの対象人数は1対1、1対2のような少人数から、15名や20名の集団でも実施可能であるが、最適なのは8~10名位としている。

 訓練を実施する者をファシリテーター(促進者または援助者)、訓練に参加する者を参加者といい、ファシリテーターは参加者の中で十分な話し合いを促進する役割を果たす。ロールプレイやモデリングの技法を取り入れ、また、実際の社会資源(郵便局、銀行、交通機関)の場に出向き、自分でこれらのサービスを利用できるようになることを目指す実践的プログラムである。

まとめ

 1995年12月に策定された「障害者プラン」においても『社会生活訓練の研究・開発の推進』が明記され、平成8年度からスタートした「市町村障害者生活支援事業」においてもその必須事業として『社会生活力を高めるための支援』が挙げられた。

 社会生活力とは、前記の社会リハビリテーションの定義においても解説されているとおり「様々な社会的な状況の中で、自分のニーズを満たし、最大限の豊かな社会参加を実現する力」である。従って、この社会生活力には、自分を取り巻く様々な障壁を、自分の力と周りの協力を得て取り除いていくようなダイナミックな力をも意味しているのである。今後、各種施設や様々な機関において、より効果的なプログラムが開発されることを期待したい。厚生省においても、「社会リハビリテーション」と「社会生活力を高めるための援助プログラム」の重要性を認識し、「社会生活力を高めるための援助プログラムマニュアル」の作成に取り組んでいるところである。

参考文献 略

厚生省大臣官房障害保健福祉部企画課障害福祉専門官


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1996年11月(第89号)2頁~7頁