佐々木葉子*
横浜市総合リハビリテーションセンター(以下、リハセンター)は、横浜市の地域リハビリテーションの中核の機関として、昭和60年10月に開設された。センターの中には、小児、成人に対するリハビリテーションサービスを実施する法定施設が導入されている。その1つとして、入所30名、通所6名の身体障害者更生施設(以下、更生施設)が成人の訓練部門として運営されている。
更生施設は、慢性期の医学的リハビリテーション、職業リハビリテーションと有機的な連携をもち、社会リハビリテーションの展開を中心に据えている。本稿では、社会リハビリテーションの取り組みとして実施してきた社会生活技術訓練について、プログラムを紹介し、その効果について、利用者の傾向として最も多くを占めている、脳血管障害者を通し、考察していきたい。
当更生施設は、障害者の地域社会における生活を支援するために、総合的なリハビリテーションサービスを提供することを目的としている。すなわち、医師、看護婦、PT、OT、ST、臨床心理士、職業カウンセラー、生活指導員などによるチームアプローチが基本となる。
機能回復を中心とするのではなく、障害をもって生活をしていく上での、生活上の課題つまり「生活障害」について利用者と整理・確認し、問題を解決していくための援助をしていくのである。
問題解決のための技術・方法を障害者自身が獲得するためのプログラムを、当更生施設では、社会生活技術訓練として実施している。
社会生活技術訓練とは
他更生施設も含め、ここ10数年来の利用者の傾向としては、脳血管障害や頭部外傷による高次脳機能障害の増加、重度化が顕著であり、在宅生活の充実といった地域の社会資源を活用することを基盤としたプログラムに視点があてられている。
従って、医学的、職業リハビリテーションによる対応のみではなく、それら各分野と連携し、生活障害に対して、障害者自身の生活力を身につけることを目指した社会リハビリテーションが不可欠となる。
社会リハビリテーションは、リハビリテーションの歴史の中で、その位置づけ、概念規定が不明瞭であったが、1986年にRI社会委員会により、「社会リハビリテーションとは、社会生活力(Social Functioning Ability) を身につけることを目的としたプロセスである。社会生活力とは、様々な社会的な状況の中で、自分のニーズを満たし、1人ひとりにとって可能な最大限の豊かな社会参加を実現する権利を行使する能力を意味する。」と定義された。
当リハセンターは、社会リハビリテーションのプログラムを実施する中心を更生施設として、リハセンターの総合的な機能を活用し、地域生活に円滑にスライドできるように進めている。
このように、利用者を「患者」ではなく、「生活者」として、「生活障害」を本人が主体的に乗り越えられるよう援助していくプログラムを、「社会生活技術訓練」と称している。
具体的には、医学的リハビリテーションで基本的な身体機能を見極め、機能障害・能力障害に着目した訓練を実施し、社会生活技術訓練ではそれを基に、実生活により即した場面設定、及び社会的諸条件を加味した応用訓練を行い、各人の生活に定着させるという段階を経て行うプログラムである。
当センターでは、更生施設において生活指導員が社会生活技術訓練を実施している。また、1人の利用者には何人もの専門家の援助が提供されているが、その中で生活指導員は、利用者と共にリハビリテーションプログラムを立案する立場にある。さらには、リハビリテーションチームの中で、マネジメントを行い、利用者の目標を確認していく役割も担っている。
前述のように、社会リハビリテーションとは「障害者の社会生活力の向上を目標とするプログラム」と定義されたが、実際にどのように実践しているか、総合リハビリテーションセンターの機能を活用した具体例として報告していくこととする。
(1) 利用者の状況
リハセンター開始より平成8年7月31日までの退所者は、 265名である。利用者の傾向としては 53.2%が脳血管障害による中途障害者である。年齢的には、40~50代が62.3%であり、男性が78.2%と圧倒的に多い。(図1~4)
図1 障害種別
図2 障害等級
図3 年齢構成
図4 性別
脳性まひ者は、養護学校高等部を卒業しすぐ利用する者がほとんどであり、その目的は、体験的なプログラムを通しての社会性の向上、生活障害について家族も含めて課題を整理するなどである。
脳血管障害者の場合、典型的な状態像としては働き盛りの一家の大黒柱が突然倒れ、本人のみでなく家族を含めて障害を負った状態での利用が代表的な例としてあげられる。
病院から直接入所してくる者が半数を占めており、そのため、家庭生活を安定して送るという目的が大半である。ただし、家庭生活の安定の意味合いとしては、家庭内の動作の自立ということにとどまらず、地域の社会資源などを活用し、何らかの形で社会との関わりをもつことを重視する傾向にある。(図5)
図5 退所後の生活形態
また、脳血管障害が半数以上ということで、高次脳機能障害が課題となる者が多く、その他障害受容、家族間の人間関係、アルコール依存など精神心理面の課題が増加している。さらに、生活拠点をもたないという養護性に課題がある者等、問題が複雑化しており、個々の課題・ニーズに合わせたプログラム・調整が必要である。
このように、様々な社会的背景を加味し、個別あるいはグループでのプログラムを実施し、早期に地域での生活を実現する援助を行っている。
(2) 基本となるプログラム内容
基本となるプログラムの内容は、生活上最も身近な日常生活動作領域(入浴・整容、服薬・健康管理等)、家庭管理、移動手段として公共交通機関の利用等の生活関連動作領域に整理して行う。ただし、プログラムを進める際、本人の身体機能の向上にのみ着目するのではなく、生活経験、家族状況、障害受容等の利用者を取り巻く社会的背景、精神的な変化を加味して実施する。それらを当更生施設では、環境調整領域として重要視している。
プログラムは、個々のリハビリテーション目標に即して個別プログラム、グループプログラム、全体プログラムの方法で計画する。基本的な内容を表1にて表したが、医学、心理、職業、その他工学等各分野のスタッフとのチームアプローチにてプログラムを展開していく。
プログラム項目 (評価項目) |
プログラム内容 | ||
個別プログラム | グループ・全体プログラム | ||
日常生活動作領域 | 食事・入浴 整容・起居 排泄 | 自助具の検討、宿舎での定着、自宅での定着(訪問)、住宅整備 |
── |
栄養管理 健康管理 |
健康相談、栄養相談 (調理実習との併用等) |
||
服薬管理 | 仕分け、服薬時間等の定着 | ||
生活関連動作領域 | 移動 | 歩行、車椅子操作、公共交通機関の利用、通勤・通所プログラム、自動車運転についての情報提供等 | グループでの移動プログラム、横浜駅への外出プログラム |
家事管理 | 買い物、調理実習、 衣類管理(洗濯・収納等)*自立生活実習 |
横浜駅への外出プログラムでの買い物 | |
生活管理 | 住居管理、銀行利用、小遣い帳の利用等 *自立生活実習 | ||
コミュニケーション | ワープロ、トーキングエイド、パソコン、パソコン通信の活用等 | コミュニケーションプログラム (口話・書字) | |
余暇 | 社会資源の情報提供、施設見学 | 創作活動 | |
環境調整領域 | 生活拠点 生活形態 |
住宅整備、公営住宅の情報提供、その他社会資源の活用等 |
── |
家族 | 援助方法の相談・助言、プログラム同行等 | ||
福祉制度 | ヘルパー利用等の情報提供・調整等 | セミナー | |
障害受容 | 相談・助言 | グループディスカッション | |
社会性 自立生活 |
── |
テーマ学習(体験学習―調理実習・買物・交通機関利用・社会資源の活用―) |
次に、プログラムの企画・実施のプロセスを紹介する。
(3) プログラムの企画
① 評価(アセスメント)の実施
更生施設の利用にあたっては、目標とする生活をイメージできている者、家族共々まだ将来計画について整理できない状況にある者など様々である。
ニーズを把握し、さらに具体的にどのような生活障害があるかを利用者本人と生活指導員が確認していく評価(アセスメント)が、まず第1のプロセスである。評価(アセスメント)は、聞き取りにより、日常生活動作領域、生活関連動作領域に沿い、できること、できないことを明確にする。発症前の生活様式、及び社会的背景、障害受容について利用者の自己評価を援助すべく確認していく。
それらの評価によって、リハビリテーション目標を作成するが、課題をより整理しやすくするため、目標とする生活を2つの側面から検討していく。それは、地域での生活を営む場としての「生活拠点」、これは住宅の種類、何階に位置するのか等の物理的な面と単身または同居者がいるのか等である。
もう1つは、「生活形態」として、社会生活の状況(就労、進学、主婦等)、あるいは家庭内の役割等である。
脳血管障害等の中途障害者は、本人、本人を取り巻く家族が、自ら現状を見極め、生活を再構築していく作業がここから開始される。
したがって評価(アセスメント)は、先に述べたプログラム項目に沿って、利用者と生活指導員の共同作業として、目標とする生活に必要な項目について整理していく。身体機能面の可能・不可能ではなく、実生活で定着しているかが課題であり、ここで同時にプログラムの内容が選択されていき、目標となる。
② 目標設定とプログラムの展開
前述の評価(アセスメント)を経て、リハビリテーション計画を作成し、各プログラムを展開していく。プログラムは、各専門分野のスタッフとバトンタッチの方式をとり、現状の進行状況を踏まえながら移行していく。
プログラム展開の代表例として、「調理実習」と「公共交通機関の利用」について表2、3に示す。
ア.目標とする生活形態より、各プログラムの到達目標を決定する。
イ.次に基礎のプログラムとして、センター内、センター周辺をプログラムの実施場所として、個別あるいはグループで行う。
ウ.さらに、応用、定着へと、より実際に近い場を設定し、または実際の場、時間帯での個別プログラムを行う。
エ.この間、訓練の定着状況、本人の自己評価に留意し、さらに各スタッフと情報交換を行いながらプログラムを展開する。
最終的には、利用者本人及び家族の見極めがプログラムのゴールを決定する。
さらに、地域生活での定着状況は、「退所後経過調査」により確認する。
このようなプログラムの展開のなかで、生活指導員は、利用者とプログラムの目標と課題を整理し、各段階での達成状況を確認しながら進める。自己の身体機能を見極め、具体的な地域での生活を構築できるような生活の力、すなわち社会生活力を培うことが最も重要であり社会リハビリテーションの目指すところである。
訓練段階 | Ⅰ.食生活を含むライフスタイルの決定 | Ⅱ.基礎 | Ⅲ.応用 | Ⅳ.訓練効果・定着状況の確認 | ||
プログラム | ①評価(アセスメント)
②栄養相談(オリエンテーション) ③個別相談 |
④ 調理実習 | ⑦ 家庭での宿題(主婦)
⑧ 自律生活実習(単身者) |
⑨ 自宅での調理実習
⑩ 帰宅訓練 ⑪ 退所後経過調査 |
||
⑤ 買物訓練
⑥ 栄養相談 |
||||||
スタッフ | ①③生活指導員
②栄養士 |
④ OT (主に、耐久性について評価・訓練を実施) |
⑤⑦⑧生活指導員 |
⑤⑨⑩ 生活指導員 ⑪ 生活指導員 |
||
↓↑情報交換 | 必要時に相談、訓練同席を依頼 | ↓↑ | 助言 | |||
④⑤ 生活指導員 (反復訓練により、調理動作の定着を図る) |
OT | |||||
⑥栄養士 | ||||||
訓練課題 | ①③調理に関するニーズ、生活環境、発症前の調理経験等の確認
②嗜好、発症前の食生活の状況等の確認 |
④調理動作の確認・定着と習熟、介助内容の確認と整理、情報提供 | ⑦家庭での応用の可能性の見極め
⑧買い物、調理、栄養管理を含めた単独での生活管理能力の確認 |
⑨自宅での環境や必要な用具の確認 自宅での調理の実用性の見極め ⑩自宅での調理の定着状況の確認 ⑪退所後、一定期間経過後の自宅での調理の定着状況の確認 |
||
⑤ 買物動作、金銭管理能力の見極め
⑥ 食事内容に関する留意点の確認、特別食の知識習得 |
訓練段階 | Ⅰ.移動手段 (ライフスタイル)の決定 |
Ⅱ.基礎 | Ⅲ.応用 | Ⅳ.訓練効果・定着情況の確認 |
プログラム | ① 評価(アセスメント) ② 機能訓練 ③ 相談・助言 |
④ 個別歩行 ⑤ グループ歩行 センター周辺 ↓ 最寄り駅 |
⑥ 個別利用プログラム 地下鉄・JR・バス停 ⑦ グループでの外出訓練 電車・バスの組み合わせ ⑧ 通所経路確認 センター~自宅 |
⑨ 通所経路習熟 ・センター~自宅 ・自宅~利用予定施設 ⑩ 単独での週末帰宅 ・センター~自宅 ⑪ 単独での通所 ・センター~自宅 ・自宅~利用予定施設 ⑫ 通勤経路確認 ⑬ 通勤経路習熟 ⑭ 単独での通勤 |
⑮ 退所後経過調査 | ||||
スタッフ | ①③ 生活指導員 ②理学療法士 |
④ 理学療法士(PT) (動作面・耐久性の評価・訓練) |
⑨~⑭ 生活指導員 (必要時、PT・OTに相談) ⑮ 生活指導員 |
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↑ 情報交換 ↓ 必要時訓練同席 |
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④~⑧ 生活指導員(実際の場面に即したプログラム) *雨天時の服装等必要時、作業療法士(OT)に相談 *必要時、家族(援助者)同行 |
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訓練課題 | ①③ 移動手段についてのニーズの把握 ② 基本的な身体機能の把握 |
④~⑧ ・歩行のバランス、スピード ・安全確認 ・介助必要性・内容の確認と整理 ・介助方法の習熟 |
⑨~⑭ ・単独利用の可能性と実用性の見極め ・様々な情況時の確認 (雨天時、荷物運搬、ラッシュ時等) ⑮退所後の定着情況確認 |
(4) フォローアップとしての「退所後経過調査」
各プログラムの進行については、基礎から定着まで利用者と達成状況、課題を確認しながら展開していく。また、センターの更生施設を退所し、地域での生活を開始した後の定着状況、新たな課題を確認するため、当更生施設では、平成5年よりフォローアップの一環として、「退所後経過調査」を実施している。
調査方法は、6か月~1年後、アンケート、電話での聞き取り、訪問により、リハセンター総合相談部、リハチーム、福祉事務所と連携をとり実施している。調査項目は、調査目的に照合し、以下の通り6項目に整理した。
① 生活形態の動向「現在どう過ごしているか」
② 現在の生活で支障をきたしていることは何か
③ 訓練の充足度
④ 訓練効果「センターを利用して良かったこと」
⑤ 今後の希望について
⑥ 自由記述
フォローアップの一環として開始した取り組みであるが、センターでの定着状況を確認することによって、社会生活技術訓練のサービス内容を検証することにもなる。
(5) 代表的なグループプログラム
グループプログラムは、個別プログラムを展開する際、基礎的な内容を導入する役割をもっている。同時に利用者同志が交流することによって、自己の障害をみつめたり、情報を提供しあうなどの相互作用の効果がある。
その代表的な例として、環境調整領域のグループプログラムを取り上げる。
① グループディスカッション
障害受容に対するプログラムとして、生活指導員と臨床心理士との連携により実施する。
プログラムの目的は、対人関係、生活設計等に課題のある利用者を対象に、グループの場を設定し、集団の中で意見を聞き、考え、発言することにより、個々の課題解決の導入を図る。
1回のプログラムは1時間とし、テーマは「オリエンテーション」「自己の障害・障害原因について」「訓練について」「これからの暮らしについて」「今後の課題について」「フリーディスカッション」の6回を1クールとする。
テーマは設定するが、話題の展開は参加者を中心とし、参加者の発言に対して価値判断をしないことを原則としている。現在までの参加者の傾向としては、40代~50代の脳血管障害による中途障害者が多い。
次に、これとは反対に若年者対象のグループプログラムを紹介する。
② テーマ学習
養護学校を卒業した者など、社会経験の少ない若年者を対象に、体験による活動に重点を置いたプログラムである。社会性を養うとともに、将来計画を考えるきっかけとすることを目的とする。
対象者は、脳性まひ者が最も多い。1グループを5名前後とし、週3回の活動を6か月程度の期間に実施する。
内容は、体験を重視する調理実習、外出訓練等と、自立生活学習としての福祉制度、地域の社会資源の学習等である。
効果としては、単独外出の経験がなかった利用者が、介助依頼の方法を習得し、単独外出が実用的になり、自信へとつながる、また、各活動の計画、事前準備を自ら行うことにより、自主性が向上する等である。
(6) 応用プログラムとしての「自立生活実習」
各個別プログラムを総括し、実際の生活の実用性を向上させるとともに、目標とする生活形態の見極めをするための機会となる自立生活実習を実施している。
内容は、リハセンター内に設置している1DKの住宅を模した訓練室で、一定期間、実際に、計画的な買い物、調理、居室清掃等を行うものである。対象者は、単身生活、主婦(夫)を目標としている利用者である。
この取り組みは、平成5年度から実施しているが、現在では、年間10人前後の利用者がプログラムとして経験している。
家庭生活の中でも単身生活を目標とする利用者が増加している傾向にあり、今後さらに必要となるプログラムである。
(7) 拡充サービスとしての「評価入所」
当更生施設では、社会生活技術訓練の評価機能を活用し、同リハセンター内にある更生相談所との連携により、一定期間の評価を行い、総合的なリハビリテーション計画を策定する評価入所を平成2年より実施している。
障害の重度・重複化が指摘されている現状において、更生相談所の判定においても、短期間の評価(判定)では、リハ計画を立てることが難しい対象者が増えている。
現在までの評価入所は、25人であり、主な評価目的としては次の3つに整理される。
① 施設利用の適性評価 ( 6人)
② 家庭内生活の見直し・充実(11人)
③ 生活設計検討 ( 8人)
対象者は、主に40代~50代の脳血管障害者が半数を占めている。
評価入所は、措置の形態の枠で運用しているため、同様の更生援護施設(療護施設、授産施設等)は、利用しにくいなどの課題があり、現在検討段階である。
以上、社会生活技術訓練の展開方法、及び応用としての取り組みを紹介してきた。それでは、これらのプログラムの効果を検証していきたい。
効果の検証については、最も多数を占めている脳血管障害の利用者の例を取り上げて、検討していく。
(1) リハビリテーション目標の達成状況
過去に退所した利用者の53.2%を占める脳血管障害片麻痺者の、リハビリテーション目標の達成状況を例として考察していく。
リハビリテーション計画で目標とする生活形態と、退所時の形態とを比較して、達成の状況をみていく。
評価入所を除き、平成8年7月までに退所した脳血管障害の利用者は131人、障害等級は1級が31.3%、2級が52.7%であり、約40%が、注意障害、記名力の低下などの高次脳機能障害を有している。
効果を検証していくため、目標の達成状況を図6に示した。プログラムの効果をより明確にするため、4つに分類した。
① リハビリテーション計画通り達成した
② 目標の範囲が拡大した
③ 目標達成のための次のステップに移行した
④ 目標達成が不可能であった
①から③までを、何らかの形で目標が達成されたと考え、達成率は84.8%となる。では、それぞれについて考察していきたい。
①リハビリテーション計画通り達成の場合、冒頭でも述べたように、病院から当更生施設に入所する利用者が半数を占めているため、家庭内生活の安定が40.5%である。
家庭内生活といっても、家族との役割交替、家族の介助軽減、留守番というような目標のみでなく、積極的に社会資源を活用し、日中の余暇を充実させる方向へ進めている。例えば、本人の体力等を考え、週何回か近隣の地域作業所へ通う、保健所主催のリハ教室に参加するなどである。ただし、人生途上で障害をもった者が活用するのに適した地域の社会資源は、まだまだ充分とは言えず各個人が選べるというにはほど遠い現状である。
また、単身生活の者が増加しており、社会資源の中には、グループホーム、グループホームの入居者が利用する地域作業所を活用し、地域での生活を実現させる場合が多い。今後も単身生活を目標とする利用者にとって、健康管理、そのための食生活等に関連したプログラム、ヘルパーなど社会資源の活用が重要と考える。
②の目標のための次のステップに進んだ例としては復職を目標とした場合などがある。本人、リハセンター、復職先と調整の上、耐久性、作業能力の向上等を次の目標として、同センター内の授産施設に職業前訓練として移行するなどがこれにあたる。リハチームとして連携をもつ職種として職業カウンセラー、職能評価員が復職先との調整役を担う。
③の目標の範囲拡大については、利用者自身、入所当初は障害の見極めが不十分であり、目標が立てにくい状況にある場合にみられる。
プログラムが展開する過程で、社会生活力が身についてきたと同時に、自信をもち、主体的に生活設計を再構築していく。例えば、家庭内生活という目標が、公共交通機関の利用が実用的となり福祉的就労に拡大するなどである。
④の目標未達成については、障害受容、アルコール依存などの課題をもつ者が多い。
身体状況の重度というよりも、むしろ精神心理的な要因、社会的背景により当初のリハ目標に到達せず退所、あるいは医療機関を再度利用するなどの場合である。
利用者自身の課題というよりは、更生施設利用者の傾向でもあり、プログラムの工夫、リハチームのスタッフ、特に臨床心理士等との連携の強化が必要である。
図6 退所状況と目標達成状況
(2) 退所後経過調査からの考察
前項で述べたように、フォローアップ、及び社会生活技術訓練のサービス内容の検証として実施している。
アンケートの中で、「センターを利用して良かったと思うことがありますか。(訓練効果)」という質問に対する回答を抽出して、プログラムの効果をみていく。
現在までアンケートを実施した脳血管障害の退所者77人の回答を、図7に示した。
図7 訓練効果
上位を占める回答は、行動範囲が拡大したこと身辺自立が向上したこと、身体機能を理解できたこと、身体機能が向上したこと、他者との交流ができたことであった。
最も多かった「行動範囲の拡大」については、当更生施設利用の短期の目標として、公共交通機関の利用を目的としている者が多いことを反映している。また、更生施設に入所し、初めて電車やバスを利用し、実用的になったことから、リハ目標自体も拡大した者も多い。従って、「行動範囲の拡大」は、地域での生活形態に及ぼす影響も大きいと言えよう。
「他者との交流」と回答した者も半数以上であった。同様な障害をもつ者との出会いが、精神的な励み、刺激となっていることが伺える。個々のプログラムばかりでなく、利用者同志の相互作用の重要さが強調される。
一方、この調査を実施し新たなニーズについても確認された。本人、家族の加齢による課題、社会的背景の変化による課題等、当更生施設、リハンターの再利用についての必要性がクローズアップされた。
以上、目標の達成状況と、利用者が退所し地域での生活を開始した後のアンケート結果により、プログラムの効果を考察してきた。
これらの結果から、まだ充分とは言えないが、地域での生活を送る上で、社会生活技術訓練の遂行が、支援の手だてとなっていると考える。
もちろんその内容、手法については、引き続き検討を重ねる必要がある。重要な検討の1つとしては、現在、このような取り組みについて、各リハビリテーションセンター、グループホーム、自立生活センターなどで様々な形で実施しているが、それは、あくまでもそれぞれの工夫や試行錯誤のなかである。
つまり、社会リハビリテーションのプログラムとしての共通のマニュアルのような指針が確立されていないことである。ここで、障害者の地域での生活を支援するプログラムとして、必要性の理解を得、同様な取り組みを実施している機関との連携をとり、検討していくことを提言したい。
今回は、包括的に当更生施設の実施しているプログラムについて紹介した。
リハビリテーションの歴史の中でも、「患者」ではなく、「生活者」としての「生活障害」という視点が、ようやく根づいてきた昨今である。
今後は各プログラムについて、利用者との共同作業を基本に、退所後経過調査などからの意見をより反映させて、検討を重ねていきたい。
そして、同様の取り組みを行っている機関等とも連携をとり、障害者の地域生活をバックアップする共通なプログラムとして確立することを目標に実践を進めていきたい。
参考文献 略
*横浜市総合リハビリテーションセンター
(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1996年11月(第89号)15頁~24頁