特集/第18回RI世界会議 障害(者)政策と政治の現実:先進国の近年の動向

障害(者)政策と政治の現実:先進国の近年の動向

Ilene R. Zeitzer

はじめに

 近年、先進国の社会保険制度は、高度に相関した多くの要因がもたらしたさまざまな圧力によってますます打撃を受けている。これらの多様な諸圧力の結果として、社会保険プログラムは、かつて経験したことのないほどの財政的負担を感じている。おそらく多くの先進国では、障害者プログラムほど影響を受けているプログラムはないだろう。

 なぜ多くの場合、障害者プログラムが、ますます増加しているこの圧力の矢面に立たされているのだろうか。この質問に答えるためには、まず、先進国が闘っている諸圧力が何であるかを確認する必要がある。

1.社会保険・社会保障制度への圧力

 第一の圧力は、人口統計の変移に由来する。厳密に言えば、ほとんどの先進国は人口の急速な高齢化をすでに経験しているか、または近く経験するかであろう。

 例えば、経済協力開発機構(OECD)によると、1990年に、ドイツの人口の16%が65歳以上だった。2000年までにはその高齢化率は1%増え、2020年には22%に増加する。また、1990年にはすでに18%の高い高齢化率だったスウェーデンは、2020年には20%に増加すると推測されている。

 同様にOECDは、オランダの高齢化率は1990年には13%だったのが、2000年には15%になり、2020年には19%になると予測している。アメリカ合衆国は、65歳以上の人口が約12%と先進国の中では現在最も低いが、ベビーブーム世代が高齢になるにつれて、まもなく劇的増加する。2020年には米国の人口の16%以上が高齢者になる。

 人口の高齢化が社会保険制度関係者や政府当局にとって重要であるのは、それが退職年金者の数の増加を意味するばかりではなく、ヘルスケアや長期化介護のような他のプログラムに対する要求を増加させる可能性があるからである。

 この人口統計上の不均衡は、いくつかの先進国では出生率の停滞または減少で、さらに悪化している。例えば、フランスのような国の出生率の低下は、フランス人は人口の再生産をしていないということを意味している。

 実際、人口再生産を確保したフランス人の世代は、1955年から1960年の間に生まれたものが最後であった。

 このことは人口統計上、「高齢者依存比」と呼ばれており、65歳以上の高齢者の割合と、通常15歳から64歳までと定義されている生産人口の割合との比率を表している。社会保険の視点から見ると、これらのますます好ましくなくなっていく比率は、受給者を支えるのに必要な労働者の数が、急激に低下していることを示していることからも重要である。

 政治的現実において、労働者が少なくなり手当受給者が増えるということは、社会保険の現状を維持し続けるために、政府が労働者の税負担率を上げるか、手当受給者数を削減させるか、手当の金額を減らすかをしなければならないことになる。実際には、この3つのステップは一括に考えなければならないだろう。決定が何であれ、それが政治的には不評であることは、ほぼまちがいない。

 労働者だけが、高くなった税負担率を快く思わないのではない。企業(雇用者)もまた、当然のこととしてビジネスを行う際の経営コストに、損害を与えるすべてのものを拒否する。特に、成長している世界経済において個々の会社の、そして一国の世界規模の競争力に影響を与えるものは全て、それぞれ企業と政府当局によってしばしば強く反対される。

 さらに、より高い所得税(支払給与総額に対する税)は、また新しい事業の開始、労働者の雇用やその継続に悪影響を与える。事実、多くの経済学者は、税金が高くなると失業者が増加し、高齢者と障害者の年金に対する要求が増加してくると言っている。彼らの見解によれば、支払給与を減らす方法を模索している企業は、労働者を解雇したり、年輩の従業者に早期退職を勧めたり、慢性の病気(健康問題)をもっている人々に障害者として登録するように説得するという手段をとるという。さらに、支払給与カットに積極的な対策をとらないとしても、労働コストが高ければ、退職者の分を従業者を新たに採用して補充することはしないだろう。

 私はまた、給付額を下げることの必要性が、ますます認められるようになったことを述べた。長い間、多くのヨーロッパ諸国は所得に替わる高い手当を、特に高齢者や障害者の年金受給者に支払ってきた。最近まで、多くのヨーロッパ諸国では、最大値でそれまでの収入の80~100%の代替率は普通だった。しかし、今日多くの政府は、これらの高い代替率はもはや維持できないし、それが給付金を受ける強い動機となるから、望ましくないと考えている。

2.なぜ障害者プログラムが最も打撃を受けるか

 どんなケースにせよ、先進国の社会保険は、ますますこれらの競合する圧力のすべてが合体した効果を感じているといえるだろう。そして、先程私が話した通り、おそらく最も打撃を受けているのは、障害者プログラムであろう。なぜ障害プログラムなのか? 今まで私が話した諸現象のいくつかで、その間の相互関連について少しふれた。

 第一に、高齢と障害との間には認知された関係(recognized correlation) がある。それゆえに、一国の人口が高齢化になるにつれ、障害手当受給者の数が増えるということは驚くに値しない。もし高齢化の影響が障害者名簿を増やしている唯一の理由ならば、行政責任者は、うれしくはないがそれほど驚かずに、このことに対処して計画を立てることができるだろう。

 しかし、ここ十年の間に、先進国の障害者プログラムの多くは、高齢化人口の諸効果だけでは説明できない、先例のない増大を経験した。その代わり、より捉えがたい諸要因が、いくつかの国の障害者名簿の巨大な増大に影響を与えている。既に述べたとおり、一部の政策立案者は、障害者の高い所得代替率がこれらの諸手当を申請するという望ましくない誘因になっているのではないかと思っている。

 こうした気前のよい給付金の誘因効果と並んで、高率で長期化している失業の問題がある。ヨーロッパの多くの国々はこの10年間、2桁の失業率に耐えている。最近、失業中のヨーロッパ人は約2千万人と推定されている。

 ジャック・シラクは昨年フランス大統領になった時、失業問題を政策の最優先課題とした。フランスでは、この失業率の問題はいくつかの他の諸国と同様、若者や女性のような特定の人口層に特に過酷である。例えば、フランスでは、25歳以下の人口グループは全人口の失業率の2倍で、若者のおよそ25%が失業している。

 高い失業(率)はいくつかの理由から障害者の諸プログラムにますます圧力を加えている。第一に、数少ない雇用機会に対して障害のない人々と競争しなければならない時に、障害者が仕事を探したり維持したりすることはますます困難になっている。第二に、失業手当は通常、期間が限定されたものであり、障害者諸手当よりも金額が低い。これらの2つの要因で申請者が失業手当よりも、障害手当を申請することが多くなる。最後に、政治家は受け入れがたい高失業率を減らすために障害手当受給者名簿を使うことを選択するだろう。このことは理解できるが、非常にばかげた行動であり、いくつかの国々はそうすることをここ数年後悔しているようになってきた。

3.労働の質の変化

 人口の高齢化、高い労働コスト、および長期にわたる失業が障害者プログラムに与えている影響に加えて定量化しにくい、障害認定の申請と認可の増加の一因となる別の要素がある。その要素は、先進国の経済において、一般的に労働の質(nature) の変化として述べることができるだろう。

 本質的に、主として重化学工業と製造業を基本とする経済から情報技術やサービスを基本とする経済への移行は、低い教育や時代遅れの技術しかない労働者から労働の権利をますます奪う結果となった。つまり、このような労働者はしばしば端に追いやられ、労働(市場)からは完全にはみだすか、単発で働くか、あるいは非常に低い賃金で働くことになる。

 この状況は慢性的であり、そこから生まれる欲求不満もまた、労働者の多くが障害手当を申請するきっかけになる。障害プログラム担当者と、最終的には政府当局にとってのジレンマとは、この人々が本当に障害者なので働けないのか、それとも構造的に失業しているからなのかを評価することである。

 先進国における労働の質の変化はまた、高い技術を持つ労働者にとっても大きな影響を及ぼさずにはいない。多くの専門家は、労働力の縮小に加えて、科学技術的能力への新しい世界的競争要求がストレスに関連する病気や障害の急増の原因であろう、と考えている。確かに、先進国のほとんどすべての国で、ここ十年の間に、特に鬱病(抑うつ状態)と慢性的ストレスに対する精神障害の認定請求数が急増していることは事実である。さらに驚くべきことに、これらの請求がほとんどすべて若い労働者からのものであるという事実である。

 原因が何であれ、ほとんどすべての先進国が、ここ十年の間に、障害者名簿の支えられない程の増加を経験しているというこの一事は確かである。事実、いくつかの国々の障害者のプログラムはあまりに無理がきたために、給付受給者と支出の増加を抑えようとする大改革を行った。残りの時間で、私は、これらのプログラムの修正のいくつかをとりあげ、障害手当受給者に対する初期の影響を報告し、最後にこれらの新しいアプローチが、長期政策の面から見てどのような意味をもつのかを述べたい。

4.最も思い切った給付削減方策:オランダ

 他の社会保険プログラムと同様に、障害者プログラムを改革するために最も思い切った手段をとった国は、オランダである。変革の詳細を論じたり、他のプログラムにおける経費節減の努力について多くの情報を提供する時間が私にはない。しかし、オランダが非常に重要な手段をとるのに、ほとんど議論の必要がなかった。

 人口1,500万人、そのうち550万人が生産人口であるオランダでは、1994年には、90万人以上が障害手当受給者だった。障害手当受給者数の上昇という問題は、病気による長期欠勤者が多いことによってさらに悪化した。この病欠者と特に障害者とを合わせたものは、オランダの割合が他のヨーロッパの先進国のものよりも概してかなり高い。

 さらに、行政担当者はみな、ここ数年、失業手当や公的扶助などのさまざまなタイプの社会的援助の受給期間が、非常に長くなってきていることに驚いていた。例えば、1993年の終わりには、公的扶助受給者全体のほぼ3分の1が5年以上も給付を受けていた。要するに、この依存状態を続けることの最終的結果は、社会保障費の量的増加であった。特に、1970年から1994年の間に、オランダは社会保障への支出が国民総生産の11.9%から18%に増加し、EU(ヨーロッパ連合)の中で最大の支出者となった。

 明らかに、支出の増加を抑制し、新しい申請者の流れをくい止めるために多くのことをする必要があった。1993年の8月、TBAという障害手当請求権縮小法(the Reduction in Claims for Disability Benefits Act)が施行された。

 TBAは、給付の継続期間とレベルを制限すると同時に、受給資格を制限する多くの条項をもち、さまざまな方法でそれらの条項の目的を達成している。まず、この新しい法律は、労働不能の程度を判断するときに考慮する適職(suitable work)の定義を広げた。その効果は、今日ではより多くの職業が考慮されているという理由で、より多くの申請者を手当の無資格者としたり、全面給付のかわりに部分給付の該当者としたり、あるいは、部分給付の中でもより低率のものの該当者としたりすることである。(訳者注:日本の障害関連年金制度では主として医学的な障害程度で等級や給付額が決められるが、オランダでは他のヨーロッパ諸国と同様に、申請者の学歴や経験に基づく適職と、その適職がその人の住む労働市場内にあるかどうかが考慮され、適職への就職の困難度が労働不能の程度とされる。したがって、考慮する適職の範囲を広げ、労働市場の範囲も広げれば―実際1993年から範囲は地域から全国へと拡大された―労働不能とされていた人も労働可能とされるなどの変更が生まれる。)

 さらに、TBAは、(1)労働不能が、病気あるいは障害の直接の医学的な結果でなければならないこととしている。(2)定期的な検査を課しつつ、その結果にしたがって一時的な受給資格を与えるが、しかしそれも暫定的に5年に制限している。5年後には新規申請を提出することができるが、新査定が必要とされる。加えて、以前の最高80%だった給与代替率は70%に下げられた。(3)50歳以下の労働者に関しては、障害手当の額と受給期間は申請者の年齢と以前の雇用期間によることにする。(4)1993年8月1日以前に障害手当を受給していた50歳以下のすべての者は新しい基準に基づいて再評価されなければならないと規定している。

 さらに詳細に述べる時間がないが、私は疾病手当(cash sickness)プログラムにおいても変更がなされていることを述べなければならない。このプログラムもまた給付金を制限したり、初年度のプログラム費用の多くを雇用主に転嫁させるという同じ目的を持っている。

 オランダの努力は、少なくとも政府の視点から見れば、きわめて成功しているように見受けられる。初期の予想は、再評価は障害手当について50歳以下の人たちのうち約21%に不利に働くというものだった。しかしながら、初年度の調査では、新しい基準に基づいて再評価される必要のあった最初のグループは35歳以下の人たちだった。そのグループの中で、47%の者がまるまる手当を減額されたり完全に打ち切られたりした。完全に手当を失ったのは29%で最大の比率であった。1995年に再評価を受けた48,300人のうち、24.3%が障害手当を打ち切られ、16.3%が手当を減額された。

5.「真に働けない者」を見つける新テスト:イギリス

 英国もまた、障害関係給付の支出が、1983年から1993年の間に27億ポンドから62億ポンドと2倍以上になるという深刻な事態のために、最近すべての障害者プログラムを改訂した。そのうえ、今の増加率でいくと、今世紀の終わりまでには、推定で障害関係給付の支出がさらに実質50%も伸びる。ゆえに、1995年4月に廃疾給付(invalidity benefit)が廃止され、「真に働くことができない」者のみを厳密に対象とした障害給付(incapacity benefit)にとって代わられた。

 新しいアプローチでは、全労働力テスト(All Work Test)を使って、視覚、聴覚、発話、歩行、起立、階段上り、手先の器用さ等などのような労働に関連する一連の行動(activities)についての申請者の能力を評価している。精神的機能を理由とした障害給付の申請に際しては、テストにより課題の達成度、他者との相互交流、プレッシャーへの対応などのような点を測定する。

 給付機関の中の医療サービス部門の医師は申請者を診察し、点数システム(point rating system)を使って機能損失(functional loss)の程度を決定する。新しい得点システムはまた、申請者がいくつかの軽度だが、合わせると全体の機能を制限するような障害(impairment)を持っている場合に点数を加算することもできる。

 すべての新規申請者はすべての現受給者と同様、新しい基準に基づいて評価されている。ただし、末期的な病気をもつか、58歳以上か、対麻痺(paraplegia)や視覚障害などのような重度障害のリストに載っている障害をもっている者などは例外とする。

 新たに機能に焦点をあてたテストに加えて、改訂版英国プログラムは給付の構造を変更し、障害給付に課税した。新テストは当初考えていたほど多くは実行に移されていないが、政府は現行の受給者約24万人の給付がなくなり、毎年約7万人の申請者が非該当とされると予想した。

 他の諸国も、障害者名簿の急増と支出の急増に反応して、障害者プログラムを変更している。オランダや英国のとった方策ほど劇的ではないが、これらの変更は新規申請者の流れを食い止めることと、現行の給付を削減することの2つの要素を示している。おそらく最も需要なことに、これらの多くの方策もまた政策における方向転換を明示している。

6.アルコールと薬物依存による障害者には給付廃止:アメリカ

 例えば、アメリカ合衆国で1996年3月制定された法律は、その障害がアルコール依存や薬物依存であったか、またはそれに関連している者への政策を大きく変更した。以前は、このようなタイプの申請は受給者が治療プログラムを受けていることと、障害給付の小切手(disability check)を受け取り、それがどのように使われたかを監督する代理の受取人がいることのみを必要としていた。

 しかし、新しい法律は、所得関連型及びニーズ診査(needs tested)型社会保障障害者プログラムによる障害給付の支払いを完全に禁じ、同時にこの2つの障害者プログラムの受給者に通常は適用される健康保険プログラムへのアクセスも禁じた。この法律は、給付の新しい請求者ばかりでなく、現行の受給者にも、彼らの依存が障害(disability)発見の「重要な」要因であるときには適用される。

 現行の(依存障害をもつ)受給者は、別の障害(impairment)によって障害者(disabled)であると判定されなければ、1997年1月1日に手当の受給を停止されるだろう。社会保障局はおよそ20万人の受給者が新しい規定によって影響を受けるだろうと推定している。(そのうち4万人は所得関連型プログラムによる保障を受けており、残りはミーンズテスト型プログラムや両プログラムの組合わせによる保障を受けている。)

 さらに、他の新しい米国の立法では、社会保障局が、障害給付受給者の再審査の数をきわめて多量に増やして、その医学的状況がもはや障害者とはみなせない程に改善したかどうかをみなければならないとしている。1997年の予算で医学的改善の可能性が最も大であることを当局のプロフィールが示しているような事例について、34万6千人分の全面的な医学的継続障害審査(full medical Continuing Disability Reviews)が行われることになっている。

7.おわりに:どう評価するか

 最後に、米国におけるこの踏み込んだ再審査活動は、先に触れたいくつかの他の国々の行動を反映していると考えることが重要である。言い換えると障害給付受給者を再診査するとか、または給付を限られた期間だけ支給することによって、「労働障害」が、生涯にわたる不変の状態であるとはもはや考えられないと、国は言っているのである。労働を含めて障害者が社会へ完全参加することを擁護するものとして、障害者の1人ひとりが私たちの社会に重要な貢献をしているというこの認識を賞賛するべきである。

 しかし、私たちはまた、障害者の完全統合がただ単に給付の小切手の支払を中止することによって行われるのではないことも、認めなくてはならない。そうではなくて、私たちの政府は進んで諸資源と専門知識を用いて、障害給付受給者が労働すること、あるいは労働に戻ることを可能とする訓練と、仕事の機会を与えなければならない。これができなければ、私たちの社会に対してと同様に、障害者に対しても最大の裏切りとなるだろう。

(訳:岩田直子、佐藤久夫)

アメリカ社会保障局


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1997年2月(第90号)15頁~19頁

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