用語の解説 エンパワーメント ソサエティ・フォー・オール/(Society for All)

用語の解説

エンパワーメント

 エンパワーメント(Empowerment)の概念をソーシャルワークとの関係の中で最初に使ったのは、1976年のバーバラ・ソロモンがその著『黒人のエンパワーメント』の中においてであった。そこではエンパワーメントを「ソーシャルワーカーやその他の援助専門家が、スティグマ化された集団に属していることで差別されていることから生じているパワーの欠如状態を減らすために、クライエントの一連の活動にたずさわる過程」と定義している。

 エンパワーメントに関する研究は、1945年頃からの黒人運動や公民権運動、そして1990年頃からのセルフ・ヘルプ運動やフェミニズム、ゲイ・レズビアンの開放運動、障害者の権利運動など、マイノリティの権利獲得へ向けて盛んに行われてきていた。

 これらの研究に共通して言えることは「個人的、社会的、政治的、経済的に抑圧された状態に置かれた個人や集団が、自らの権利意識に基づいて、自己主張、自己決定、自己実現を行うことで、それまでに無視されてきた自己の権利を回復することを目的とした援助過程がエンパワーメントであり、それを援助するのがソーシャルワーカーである」ということである。

 近年の例で見ると、入所型社会福祉施設において、利用者自身による「自治会の組織化やその活動」が、まさに利用者のエンパワーメント実践の現れであり、ここでは自治会活動を支援する具体的な援助の方法が探究されている。

(島田肇/救世軍自省館)

ソサエティ・フォー・オール/(Society for All)

 この用語は、社会の政策立案にあたってはすべての市民のニーズを基礎とするべきであるという概念である。社会の仕組み全般を社会の構成員全員が利用できるようにする取り組みである。

 日本語では「万人の」と直訳される場合もあれば、「全員参加の」と少し意訳される場合がある。いずれにしても、障害者をはじめ誰をも排除することがない社会を目指している。

 「障害者の機会均等化に関する基準規則」に関する国連の特別報告者を務めているベンクト・リンドクビスト氏によれば、1972年にスウェーデンの障害者運動が樹立し、スウェーデンや他の北欧諸国の社会政策に重要な役割を果たしてきている。

 国際的に取り上げられるようになったのは、1990年にフィンランドで開催された「国連障害者の10年」の締めくくり方を議論した専門家会議である。この会議で「世界行動計画実施のための長期戦略」策定が打ち出され、その目玉として、この概念が取り上げられた。長期戦略は1994年に策定され、「ソサエティ・フォー・オールに向けて」と題している。

 日本では1993年の「障害者対策に関する新長期計画」の副題が「全員参加の社会づくりをめざして」であり、国連での議論を反映している。

 1995年3月の社会開発サミットでは、障害者分野だけではなく、社会開発分野全般の方向性を示す概念として盛り込まれた。

(長瀬修/障害・コミュニケーション研究所)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1997年2月(第90号)42頁

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