視点「リハビリテーション関係者に希求する役割」

 

リハビリテーション関係者に希求する役割

大 山 泰 弘


 知的障害者を法定雇用率に算入する法案が国会を通過し、6月には障害者雇用審議会では、現在の1.6%の雇用義務から1.8%にアップされることに賛成が得られたそうである。
 大手の企業で、法定雇用率1.6%も達成できない事業所がまだ多く、しかも知的能力のハンディキャップは職務遂行上大きな障害になると議論されている中、(今日の労働が知的部分にウエイトが多くなっているだけに)多くの人々の賛同が得られたのである。
 昨年EU本部を訪れた時、担当者は「『障害者の差別なき雇用』を掲げて、職業的能力に劣ることがなけば、雇用に際し差別してはならないと、各国に啓発活動を行っているところです。知的にハンディキャップがあれば、福祉の領域でケアされるべきです」と話された。
 その後ベルギーを訪れて知的障害者の雇用について伺ったら、ベルギーでは知的、ハンディキャップが20%以上あれば知的障害者とし、企業が雇用すれば、障害者に国の最低賃金3万ベルギーフランを払わせると同時に国がその3万ベルギーフランを企業に助成し、もし重度であれば45,000フランまで助成しているとのことであった。
 海外の事情もこの状況の中、今回の法定雇用率への算入にあたっては、小委員会で報告した全国重度障害者雇用事業所協会が知的障害者を雇用した実績も大きく寄与したと思っている。会員事業所313、総従業員数24,745人、雇用障害者7,021人、内知的障害者3,523人(内重度知的障害者1,636人)で、これらの知的障害者は一次、二次産業、さらにサービス産業にまで幅広く多業種にわたって戦力として活躍している。
 これら事業所の多くは、字も読めない、数も出来ない、身辺処理も時には支えなければならない人々を、寮で生活ケアをしながら雇用をしているのである。
 このことは、障害者を社会復帰させるべく訓練するリハビリテーションの機関を経ずしても、社会や企業の理解が進めば、社会復帰の道もあることを示すものである。また結果においては、より重度の障害者の社会復帰の可能性が拡がることも教えるものではないかと思う。
 人々はノーマライゼーション実現に責務を負い、障害者は、重い障害をもとうとも、皆と同じに地域で働きながら生活できることを願っている。
 障害者雇用の意欲とノウハウを身につける企業が多くなれば、幼児の身辺処理、しつけを上手に育てられる親が多くなれば、学校で社会的自立の教育がもっと徹底されるようになれば、より多くの障害者が社会復帰できるようになるだろう。
 リハビリテーションの専門家・関係者が、リハビリ機関の訓練を中心として、個々の能力向上に精力を傾けるだけでなく、実社会の中でのリハビリ手法を開発していただき、一般社会の協力を仰ぎつつ、周囲の啓発、指導、育成にも力点をおいていただくことを希求するものである。

(日本理化学工業株式会社代表取締役)

 


 

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1997年8月(第92号)1頁

 

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