リハビリテーション研究(第96号) NO.2 視点「クリスさんの義足の走り姿に感動」

視点

クリスさんの義足の走り姿に感動

千葉 弘二


 今年私が一番感動したことの1つは、長野で開催された冬季オリンピックの開会式で聖火の最終ランナーがグラウンドに飛び込んできたあのシーンでした。
 右手足を失い義手義足姿のランナーが聖火を持って走っていました。私はその意外性にテレビの画面に釘付けになりました。その男性を踊りながら取り囲んだ少女たち。やがて群舞する少女たちの中から盲目の女の子を手を取って走り出したシーンが今でも鮮やかに目に焼き付いています。このシーンは、語らずとも戦争の愚かさと平和の大切さをアピールし、世界中の人たちの心を強く揺り動かしました。
 私たち財団は、世界中の人々に感動を与えたその盲目の少女・臼田瑠美ちゃんと、バラリンピックで金メタル3個獲得した、私どもの海外研修派遣生であった松江美李さんとに「愛の輪大賞特別賞」をお贈りさせていただきましたが、その義手義足の男性がクリス・ムーンさんであるのを知って、早速その著書「地雷と聖火」を取り寄せて読ませていただき、その不屈の精神と地雷撲滅にかける使命感を持ち世界中を走っている姿に改めて感動させていただきました。
 カンボジアでの地雷処理中に負傷、奇跡的に生き残ったその命を、同じ苦しみを味わう仲間のために、そして地雷の、戦争の理不尽さ、愚かさ、非人間性を訴えるため立ち上がった姿に、私は大いなるものに導かれた人間をそこに見る思いがいたしました。 不幸にしてアジア諸国では、いまだに戦火にあえぐ発展途上国が数多くあり、クリスさんのように障害者になった人たちがたくさんいるのです。今回そのアジア諸国から障害者リーダーとしてふさわしい人材を選び、日本で勉強していただく制度として「ダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業」を創設させていただきましたが、その契機になったのは、あの冬季オリンピックで瑠美ちゃんと手をつないだクリスさんの義足の走り姿だったといっても過言ではありません。その研修生たちは1999年4月には来日して研修が始まると聞いております。その数は5名とまだ少ないですが、パイオニアとして彼らが1年後、2000年という記念すべき年に旅立ちます。そのとき彼らがどのような姿に成長し自国に貢献しようとされるのでしょうか。今から楽しみにいたしております。
                         

ありがとうございました。合掌

(財)広げよう愛の輪運動基金 理事長)


主題・副題:

リハビリテーション研究 第96号
 

掲載雑誌名:

ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第96号」
 

発行者・出版社:

財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
 

号数・頁数:

96号 1頁
 

発行月日:

西暦 1998年10月20日
 

文献に関する問い合わせ:

財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

 

menu