用語の解説 ディーセント・ワーク リハビリテーション・カウンセリング

用語の解説

ディーセント・ワーク

 国際労働機関(ILO)がグローバリゼーションの進行による労働問題の拡大化の中で打ち出したディーセント・ワーク(decent work for all)は,「自由,公正,安全,人としての尊厳という条件での生産的な仕事」,「生き甲斐のある,人間らしい仕事をすべての人に」を意味し,ILOの使命を一言で表した言葉である。
 ILOとその加盟国とが一丸となったディーセント・ワークの推進を世界に示した2008年の「公正なグローバル化のための社会正義に関するILO宣言」における戦略目標は,「雇用の促進」,「社会的保護-社会保障及び労働者保護の方策の展開と強化」,「社会的対話と三者構成主義の促進」(政府,労働者,使用者の代表が正式構成員として参加),「労働における基本的原則及び権利の尊重,促進,実現」である。
 「雇用の促進」の目標は,持続的な制度・経済的環境の創出であり,以下の3つを可能にする。第1に個々人の自己実現と共通の福利のための生産的活動能力と技能の習得及び更新。第2にすべての企業がより多くの雇用と収入の機会を創出し,すべての人が将来の見通しを持てる持続可能な企業となること。第3はそれぞれの社会の経済発展,良好な生活水準と進歩の達成である。これらの目標の横断的な課題は,「男女平等と非差別」である。
 ディーセント・ワークに関する障害者に特化した政策は「障害者の職業リハビリテーション及び雇用に関する条約(ILO第159号条約)」(2009年8月現在80カ国で批准。日本は1992年6月批准)によるすべての障害者が利用できる一般労働市場への統合のための職業リハビリテーション措置の確保である。
 本条約で特に強調されているのは,障害をもつ労働者と他の労働者との間の特別な差別是正措置は他の労働者を差別するものではないことと,障害をもつ男女の労働者間の平等である。さらに政策の実施に当たり,政府は,代表的な使用者団体,労働者団体,障害者の,及び障害者のための団体と協議をすることが必要である。

リハビリテーション・カウンセリング

 リハビリテーション・カウンセリングは,カウンセリングの領域内の独立した専門職である。その認定制度を先駆的に進めてきたのは,米国のリハビリテーション教育協議会(CORE)のリハビリテーション・カウンセリング修士課程での認定及びリハビリテーション・カウンセラー認定委員会(CRCC)である。
 その定義は「カウンセリングのプロセスを通して,身体障害,精神障害,発達障害,認知障害,情緒障害をもつ人の個人的,職業的,そして自立生活に関する目標を可能な限り最も統合された環境において達成するための体系的な支援過程である」(CRCCの実践範囲に関する見解)。このプロセスに必然的に含まれるのは障害者自身による権利擁護及び心理的,職業的,社会的,行動学的介入によるコミュニケーション,目標設定,望ましい成長や変化である。
 リハビリテーション・カウンセリングの指導原理(guiding principles)で強調されているのは,前述の定義にもある,統合された環境での障害者の一般就労及び自立生活の達成,地域生活への参加と目標達成での平等な扱い,詳しい情報に基づいた選択権(informed choice)の実践,障害者が困難を克服し質の高い生活を送るための支援である。
 カウンセリングのプロセスで実施されるのは,ニーズの評価,個人的・職業的・自立生活それぞれに関する目標設定と達成上の困難の把握,必要なサービスと介入の計画・実行及び効果の評価である。プロセスで用いられるのは,一般的に折衷的(eclectic)カウンセリングや職業,自立生活に関する内容を扱う特性・因子モデル(trait-and-factor model)である。
 リハビリテーション・カウンセリングの介入手法は個人だけに焦点を置く従来の手法と異なり,権利擁護や環境(物理的・社会的・文化的)を障害,偏見,差別の第1の原因とする生態学的モデル(ecological model)の視点から介入し,合理的配慮や労災等に関する企業へのコンサルテーション,障害受傷後の一生涯のサービスニーズ査定も行う。
 リハビリテーション・カウンセリングサービスは「1973年のリハビリテーション法に該当する障害をもつ学生に対する職業リハビリテーションサービスもこれに含まれる」(障害者に関する教育法(IDEA)300.24条)。

(石川球子/障害者職業総合センター主任研究員)


主題・副題:リハビリテーション研究 第141号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第141号」

発行者・出版社:財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第39巻第3号(通巻141号) 48頁

発行月日:2009年12月1日

文献に関する問い合わせ:
財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

menu