用語の解説 改正障害者基本法 障害者政策委員会

用語の解説

改正障害者基本法

 第177通常国会において,障害者基本法(以下,基本法)が全会一致で成立をみた。基本法は1970年に議員立法として誕生し,二度にわたる規模の大きい改正(1993年と2004年)も議員立法として扱われてきた。今回は,障がい者制度改革推進会議(以下,推進会議)という審議体での検討ということもあり,閣法(いわゆる政府立法)として扱われた。
 基本法の改正は,それ自体も重要であるが,推進会議の第一次意見が示した障害者総合福祉法や障害者差別禁止法のベースとなるもので,この点からもその水準が注目されていた。結論から言えば,推進会議の第二次意見との比較では大幅な後退であり,しかし現行法からみれば相当な前進と言えよう。後退面と前進面を象徴する条項として,「全て障害者は,可能な限り,言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会が確保されるとともに,…以下,省略…」(第3条3項)があげられる。日本の法律において,言語に手話を含むことを明記したのは初めてである。しかし,これに「可能な限り」を被せたのである。「可能な限り」とは「財政事情などを理由に実施の保障はない」と同義語であり,「言いわけ条項」とも揶揄されている。改正前にも「可能な限り」は1カ所入っていたが,今改正では6カ所に広がった。
 他方,いくつかの前進面のうち,ここでは「障害者の定義」をあげておく。改正法は,「身体障害,知的障害,精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であつて,障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。」(第2条1項)とし,さらに「社会的障壁」を,「社会における事物,制度,慣行,観念その他一切のものをいう。」(第2条2項)と定めた。今改正で問われていたことの一つは,(1)いわゆる谷間の障害問題の解消,(2)社会モデルの本格導入であったが,十分とは言えないまでも権利条約やICF(国際生活機能分類)の水準に向けて新たな一歩を踏み出したと言えよう。

障害者政策委員会

 今回の障害者基本法の改正において,「障害者政策委員会」(第32条~第35条 以下,政策委員会)の新設は,「障害者の定義」(第2条)や「言語に手話を含む」(第3条3項)などと並んで最も前進面の見直しと言えよう。
 その背景として次の二点があげられる。一点目は,障害者権利条約の存在である。そこには条約の批准要件を満たすという意味も込められている。条約には「国内における実施及び監視」(第33条)が明文化されているが,政策委員会はこれに対応したものである。これ以外に,「政策決定過程での障害当事者の関与」(第4条3項)や「統計及び資料の収集」(第31条)なども影響している。二点目として,障がい者制度改革推進会議の拡充への期待に応えたことがあげられる。閣議決定でしかない推進会議に法的な根拠を持たせ,これと既存の中央障害者施策推進協議会を合体させることで,より強力で安定した審議体の形成を図ろうというものである。
 次に,政策委員会の機能や権限であるが,主要なものをあげると①障害者基本計画についての調査審議ならびに内閣総理大臣等への意見表明,②基本計画の実施状況の監視と内閣総理大臣への勧告の行使,③内閣総理大臣等による勧告に対する報告(応答義務),などがあげられる。ここでいう「障害者基本計画」とは,改正基本法第9条に掲げられているが,障害者に関する政策全般と解釈できよう。その機能と権限は,現行の中央障害者施策推進協議会とは「雲泥の差」と言える。
 政策委員会の実質化には条件がある。一点目は,推進会議の成果を踏襲し,その中心に障害当事者が存在しているか否かである。ことに「委員構成の過半数を障害当事者で」が問われることになる。二点目は事務局体制の飛躍的な拡充である。三点目は,必置に至らなかった市町村障害者政策委員会の設置促進である。市町村との一体的な展開が成ったときに,全国レベルの政策委員会の効力はより増幅されることになろう。

(藤井克徳/日本障害フォーラム幹事会議長)


主題・副題:リハビリテーション研究 第149号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第149号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第41巻第3号(通巻149号) 48頁

発行月日:2011年12月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

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