特集 第36回総合リハビリテーション研究大会 総合リハビリテーションの深化を求めて-当事者の主体性と専門家の専門性- 講演Ⅱ 障害者政策の動向:自立支援法から総合支援法へ 遅塚 昭彦

講演Ⅱ
障害者政策の動向:自立支援法から総合支援法へ

遅塚 昭彦
厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課相談支援専門官

要旨

 平成24年4月から,障害者福祉サービスを受ける前に,必ず計画相談を必要とすることになった。課題を整理した上でサービスを利用するということは有用であると思われるが,計画相談の件数は進んでおらず,今後,相当の努力が必要である。また,地域移行支援や地域定着支援も始まったが,これらを活用して安心して地域で暮らすことができる状態を目指している。
 支援に当たっては,専門家の集まったケア会議等が,利用者のニーズを押し込める場になってしまわないように留意すべきである。

1. 計画相談支援

 平成22年12月に障害者自立支援法が改正されて,昨年の4月から施行されている。
 相談支援については,障害者福祉サービスを受ける前に,必ず計画相談というプロセスを経てからサービスを受けるという仕組みに変わった。
 ただし3年間の経過期間があり,平成27年3月31日までは,対象者の中から市町村が計画的に計画相談を進めて行くことになっている。

 従前は,何か困ったことがあってサービスを受けたいということであれば,市町村の窓口に申請をして支給決定を受けた。昨年度からは,市町村に申請をした場合に「相談支援事業所に行って,サービス等利用計画案を作ってもらって,それを市町村に出してください」と指示を受けることになった。市町村は提出されたサービス等利用計画案も勘案して支給決定するという具合に変わった。
 つまり,従前は申請者と市町村の二者だけで全部が決まっていたが,昨年の4月以降は相談支援事業所という別の機関が関わって支給決定が行われることになったということが一番大きな変更である。

 措置の時代には施設入所をしたいという時には,市町村では様々な調書を作って,それを施設に直接持っていき入所を依頼していた。福祉サービスの利用根拠が契約となってからは,市町村では手間を掛けた入所依頼などは少なくなっていて,紹介をしてそれで終わり,ということもあると聞く。そうなると,例えば「施設入所がしたい」という場合に,偶然に空きがあってすぐに入所できると,受け入れた側は,受け入れてから様々な課題が出てきた場合,受け入れ側の施設が全て解決しなければならなくなってしまう。
 例えば「身体のリハビリがしたい」ということを依頼されて,サービスが始まった場合に,本人の身体上の課題以外の様々な課題がわかってきても,受け入れた側が最後まで面倒を見なければいけない,ということになってくる。
 あるいは,「施設入所をさせたい」という家族の相談があった場合,施設に入れることが目的ではなく,実際には「子どもがだんだん身体も大きくなってきて,自分では抑えられない」「先のことを考えると,早くこの子の居場所をはっきりさせて自分たちも安心したい」ということが本来の動機かもしれない。つまり,施設入所が目的ではなく,日々の暮らしが安心して送れること,また先のことについてもしっかりと見込みが立てられて安心した日々が送れるということを本来は希望している。
 そういう場合であっても,「施設入所したい」という希望であると,行政では「入所できるところがあるかどうか探しましょう」というところから話が始まりやすい。
 それに対して,相談支援事業所が関係すると,本当に施設入所なのか,あるいはホームヘルパーを入れればどうか,相談支援事業がこういうふうに関われば……など,様々なことを考えた上で,これから先の見込みも含めて安心した日々を送れるような仕組みが作れるという提案ができるかもしれない。

 もちろん,そのような案を提示しても,「それでも施設入所」という希望があれば,施設入所ということもある。しかし,課題を整理しないで施設入所となった場合と,しっかりと課題を整理した上で入所する場合とでは,プロセスとしては全く違う。
 それぞれの家にはそれぞれの歴史があり,障害のある本人に対する家族の思いも一人一人違う。収入も異なったり,住宅も持ち家や借家等異なったりする。
 様々な課題を整理した上で,「こういう課題があります」「こういう課題解決をお手伝いしていただくために,あなたの事業所にはこういう役割を担ってほしい」ということを伝えた上でサービスを使う。そのように,それぞれの事業所の役割をはっきりさせた上でサービスを使うようになれば,受け入れ側の事業所にとっても自分たちが一体何をするのか,ということを自覚できるのではないかと思う。

 もともと,事業所は個別支援計画を作ることが義務づけられている。サービス等利用計画が今回作られるようになって,「計画が二つもいるのか」という声も聞く。
 このサービスを使う必要性がある,あるいは,このサービスを使って解決したい課題がこれとこれである,というような整理をするのが,相談支援事業所が作るサービス等利用計画。その課題を解決していくために,自分たち職員が利用者に対してどう関わったらいいのか,といういわば職員への指示書として具体的に記述をしてあるのが個別支援計画,という役割分担になっている。

 ニーズを整理して課題を明らかにしてサービスを使う,ということに全ての人がなれば,使う側にとっても,サービスを提供する側にとっても,サービス利用を目的的に捉えることができる。そして,受け入れた事業所はその課題を解決するために何をして行くのか,スモールステップとして何を目指すのか,できればこのぐらいの時期を目指しましょう,など,しっかり管理することが可能になる。

 リハビリテーションでは,初期評価があって,最終的な目標があって,そのためのステップも設定されて,中期評価,終期評価という形で進んでいく。それに対して,通常の福祉サービスは,目的意識が希薄という面がある。
 計画相談という形で,始めのところで,しっかりと目的意識・課題をはっきりさせてからサービスを使うことで,全ての人にとってサービスの利用が有意義になっていくと考えている。

 ただ,非常に良い目的であるにもかかわらず,サービス等利用計画案の作成が進んでいない。この制度が始まる直前,平成24年3月時点では,こういう形で計画相談を受けている方は,全国で約4千人しかいなかった。障害福祉サービスを受けている方は概ね65万人。4千から65万という増やし方をしなければならないので,相談支援事業所の増加などの促進策が急務となっている。
 市町村の障害福祉計画では,計画相談の目標値は24年度が月に6万8千件,25年度が月に12万3千件である。それに対して実績は,本年3月で2万6千237件,8月で3万4千430件である。相当努力をしないと目標は達成できない状況にある。

図 計画相談支援の利用状況(平成24年4月~25年8月)

2. 地域相談支援

 次に,昨年4月から新たな相談支援の区分として,地域相談支援(地域移行支援と地域定着支援)が新しく始まった。
 地域移行支援は,精神科病院や障害者支援施設から地域に出る手伝いをするサービスである。もともと精神障害の分野では補助金で行われていたものである。例えば医学的に退院が可能になっていても帰るところがない,本人の意欲がない,ということで退院には至らない長期の入院患者がいる。そういう方に,自分一人で,アパート探し,引っ越しの段取り,家具什器その他を買い整え,役所の手続きもして……,というと退院する気が失せてしまうかもしれない。そういう時に,本人と一緒に動く,というサービスが地域移行支援である。
 これは精神科病院だけでなく,障害者支援施設の退所の時にも対象となる。公費によるサービスなので,必要のない方,例えば入所してすぐに家に戻るという場合など,容易に退院・退所できる方は対象にならない。
 地域移行支援の中で,二つほど新しくサービスが使えるようになった。
 一つは体験利用。例えば,退所後に通う日中系の障害福祉サービスを試しに1週間使うという場合に,今までは無料でお願いしていた。それに対し,一定の報酬が支払えるようになった。
 もう一つは,体験宿泊。例えば一人暮らしを始める前に,試しにどこかで1泊してみて大丈夫そうだと思えば2泊,3泊と延ばして,その結果で正式にアパートに引っ越す,ということができるようになった。今までも,現場では行われていたが,制度がなかったために患者さん本人の負担や,病院側のサービスでやっていたが,今回制度に取り入れられた。

 地域定着というのは少しわかりづらいが,一種の見守り支援と考えていただいてよい。
 一人暮らしで生活が不安な方に対し,家庭に訪問したり,電話で様子を確認したり,何かあった時には電話を受けて相談にのり,必要あればすぐに家庭訪問する,というようなサービスである。

 今まで述べた改正部分をまとめると,全ての方が,障害福祉サービスを使う前には課題を整理して目的をはっきりさせてからサービスを使う。入院・入所されている方で,希望があれば退院・退所のお手伝いをしていく。そして地域で暮らせるようになって,もし一人暮らしであっても,何らかの形で見守り的な活動があって安心して地域で暮らすことができる,ということを目指している。

3. 障害者総合支援法

 以上が,昨年の4月以降の改正であるが,今後の障害者総合支援法(以下,総合支援法とする。)関係の改正から今回のテーマに関係する部分を述べる。

(1)地域移行支援の対象拡大

 まず,地域移行支援であるが,平成26年4月から,保護施設と矯正施設が対象に加わる見込みである。具体的には,生活保護法に基づく救護施設及び更生施設,刑務所などの刑事施設,少年院並びに更生保護施設を想定している。これらの施設には障害のある人が入所しており,退所等に当たって支援が必要であれば,地域移行支援が受けられるようになる。
 従前から,刑事施設に入所している人の支援を行うために地域生活定着支援センターが各県に設置されており,同センターと相談支援事業所が連携して退所後の生活支援を行なっていくことになる。

(2)意思決定支援

 総合支援法改正関連で,「障害者の意思決定の支援」という言葉が頻出する。総合支援法だけではなく,児童福祉法や知的障害者福祉法にも出てくる。
 意思決定支援というのは,必要かつ重要なことであるが,行政として具体的に何をするのかが難しい。これについては研究班を立ち上げて,具体的にどういうことが大切なのかを研究しているところである。
 意思決定支援について考えた時に,私個人として非常に心配なことがある。これからは相談支援の中で,多様な職種の専門家が協同してケア会議などを進めていくことが重要になる。そのような専門家の集まったケア会議は,一歩間違うと利用者のニーズを押し込める場になってしまう危険があるのではないか。
 例えば相談支援が関わることで,より本人の意思をしっかりと表出する手伝いをしなくてはいけないが,一歩間違うと,家族や周りの支援機関の意図を察して,本人の意思を支援せず「わがままだ」ということで抑えてしまう危険もある。あるいはサービス提供者側も,専門家であると先が見えてしまうことがあり,本人の言葉に,「現実的にそれは無理ではないか」ということを言ってしまう,という危険もあるのではないか。
 専門家として長くやっている方には明々白々であっても,本人にとっては,わからないことがある。どこまでを本人の意思として尊重していくのか,ということは非常に大事な話だと思っている。
 例えば,本人が一人暮らしをしたいというのであれば,一人暮らしにあたって何が障害になっているのかということを分析して,その上でそれをクリアする方法を,例えば環境整備をやっていく。それでさらに困難が見えてくれば,本人と相談をして違う方法を考えるか,あるいは本人なりにそれをあきらめるかということがあると思う。
 最初の段階で,本人の言葉をつぶしてしまうのは非常に危険ではないか,と思っている。
 よく,「ニーズを探る」と言うが,本人の言葉というものを大事にしないと,本人の意思決定をサポートする立場にありながら,本人の意思を圧殺してしまう危険があるということを,常に忘れないようにしなくてはいけないと思っている。

おわりに

 これからは相談支援事業所の声かけで集まっていただく機会が増えると思う。福祉分野・医療分野・教育分野,どこの分野でも本当に忙しく働いているところに,あまり付き合いのない相談支援事業所から「○○さんのケア会議をしたいのでお集まりください」と言われても,忙しくて出られない,ということもあるかと思う。であるが,そういう会議も積み重ねていけば,だんだん効率的に進められるようになってくると思う。相談支援事業所などから声が掛かった時には積極的にご協力いただいて,会議が非効率であれば,批判していただきたい。そして,地域の中でいろいろな職種の方が常に協同しながら支援していくことができるように,そして,できれば本人の側に立ってその旗振り役をする機関として,相談支援事業所が力を付けていくことにご協力をいただければありがたいと思っている。


主題・副題:リハビリテーション研究 第158号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第158号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第43巻第4号(通巻158号) 48頁

発行月日:2014年3月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

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