用語の解説 意思疎通支援 意思決定支援

用語の解説

意思疎通支援

 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成24年6月改正)(以下,「総合支援法」と略す。)第77条第1項第6号に市町村が行う地域生活支援事業の一つとして,新たに規定された障害者に対して行う支援の一形態。手段的にコミュニケーション機能を用いる援助行為で,相互の意思の理解を達成目標とした支援のこと。
 障害者自立支援法では手話通訳等意思疎通を仲介する者の「派遣」を事業の主旨としていたが,今回の法改正では次の第7号にさらに「養成」を法律上位置づけた。

 背景としては,以下の4点が挙げられる。
 1)総合支援法では,「地域相談支援」や「計画相談支援」を実施することが法改正に盛り込まれており,今後は障害者の「意向」の確認が重要な行為となること。
 2)障害者基本法(平成23年8月改正)第3条第3項に言語として手話等が位置づけられ,意思疎通及び情報取得のための手段を選択する機会の拡大が明記されたこと。
 3)「仲介する」という手段的行為や通訳する技術や道具に視点を置くのではなく,総合支援法では支援する目的である人と人との相互の理解を重視したこと。
 4)意思疎通を支援する手段は手話通訳等に限られず,盲ろう者への触手話・指点字,視覚障害者への代読・代筆,重度の身体障害者へのコミュニケーションボードなどもあり,概念的に幅広く解釈できるようにしたこと。
 国際生活機能分類(ICF)の分類によれば,コミュニケーション機能は「活動」機能を構成する要素の一つであるが,さらに,「参加」の概念を付加させることによって社会機能となり,心身機能と併せて「生活機能」全体となる。意思疎通が図られている状態(健康状態)は背景因子である環境(情報保障)の影響も加わって維持されることとなる。感覚器障害に限定せずに,人と人との相互に意思を確認し,理解を得ることへの支援は,コミュニケーション技術や機器だけでは補えない環境への配慮も必要となり,合理的配慮の範囲とも密接に関わるものである。

(君島淳二/厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課自立支援振興室室長)

意思決定支援

 1999年に欧州評議会は「判断能力不十分な成年者の法的保護原則」を「①まず本人が意思決定できるように支援する,②それでも本人が決定できない場合に限り代理決定が認められる」とした。2006年国連採択の障害者権利条約第12条は「障害者は他の者と同様に法的能力をもつ。法的能力行使への支援(意思決定支援)は国の義務である」としている。
 「意思決定支援」とは「本人にとってより良い意思決定を,本人自身が心から納得してできるように支援すること」(意思形成支援)である。知的障害者等の表現する意思のままでは本人に大きな害をもたらす時でも,親や支援者が「代行決定」するのではなく意思決定支援が大切である。
 落ち着いた環境で,信頼できる人と一緒であれば,意思決定の能力は高まる。意思決定支援には,(1)支援者との安心感・共感に基づく信頼関係,(2)わかりやすい情報提供,(3)説得ではなく納得,(4)チームでの支援などが前提となる。また,わずかにまたは形を変えて表現された真の意思を支援者が感じ取りそれに応える支援(意思疎通支援)や,本人が表現した意思を実現する支援(意思実現支援)も,意思決定支援に含まれる。
 我が国では2011年障害者基本法改正時に権利擁護で「意思決定の支援」への配慮が明記され,2013年施行の障害者総合支援法で「意思決定の支援」への配慮が行政や事業者の努力義務とされた。
 また,意思決定支援は虐待防止でもあること,公職選挙では知的障害者等が候補者を選ぶための支援が重要なこと,知的障害者等への「合理的配慮」として意思決定支援を具体化すること等にも留意すべきである。
 成年後見制度には,補助,保佐,後見という類型があるが,後見類型はほとんどの法律行為を後見人が代理するため,障害者権利条約第12条に抵触する。制度利用の85%が後見類型にされている現状を改善するとともに,意思決定支援の仕組みに根本的に改革することが求められる。
 なお2013年9月に国連障害者権利条約委員会は第12条一般意見書案を公表し,代理決定制度を否定して支援された意思決定に徹するよう求めており,検討が必要である。

(柴田洋弥/日本自閉症協会理事・副政策委員長)


主題・副題:リハビリテーション研究 第158号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第158号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第43巻第4号(通巻158号) 48頁

発行月日:2014年3月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

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