用語の解説 オープンダイアローグ ユマニチュード

用語の解説

オープンダイアローグ

 オープンダイアローグ(Open Dialogue)は,フィンランドのケロプダス病院(Keropud as Hospital)で1980年代から90年代前半にかけて開発された精神科治療システム 2) であり,現在,ケロプダス病院が二次医療機関として対象区域としている西ラップランド精神保健圏域でのみ実践されているユニークな取り組みである。
 この治療システムの特徴は,あらゆる精神科的治療ニーズのある人に,精神科医の診察や薬物治療ではなく,まずは「治療ミーティング」が提供されることである。治療の流れとしては,病院の専用電話(24時間365日対応)に緊急の連絡があると,それを受けたスタッフが迅速に治療チームを編成し,チームは24時間以内に,本人の自宅もしくは地域のクリニックや病院のミーティングルームで本人や家族など関係者を含めた治療ミーティングを開く。急性期には,本人や家族が安心の状態を得られるまで連日ミーティングが開かれる。治療ミーティングで実践されているのは,社会構成主義の家族療法 1) をベースにした心理療法的治療であり,それを指してオープンダイアローグと呼ぶ場合もある。
 治療チームは,ミーティングのなかで対話が開かれたものになっていくことに注力する。そのために,予め問題を定義することも,仮説を立てることもせず,ミーティングに臨む 3) 。治療チームは,対話のなかで,これまで語られなかったことが本人や家族の口から語られ,治療チームも含め参加者の間に新たな視点や理解がもたらされる可能性を最大限保証しようとする。ここでは,知識やスキルよりも,むしろ対話を開かれた状態にするための治療姿勢4)が専門家として求められる。スタッフはそうした治療姿勢を身に付けるために,専門職種を問わず家族療法のトレーニングを受けている 3) 。このこともまたオープンダイアローグの際立った特徴といえるだろう。

1) ガーゲン&マクナミー(編)(1997)ナラティブ・セラピー―社会構成主義の実践.金剛出版.東京.

2) Seikkula J, Arnkil TE( 2014) Open Dialogue and Anticipations. Respecting Otherness in the Present Moment. National Institute for Health and Welfare. Tampere.

3) Seikkula J, Olson M( 2003) The Open Dialogue Approach to Acute Psychosis: Its Poetics and Micropolitics. Family Process, 42(3); 403-418.

4) Seikkula J, Trimble D( 2005) Healing elements of therapeutic conversation: Dialogue as an Embodiment of Love. Family Process 44(4); 461-475.

下平 美智代(日本女子大学人間社会学部心理学科学術研究員)

ユマニチュード

 ユマニチュード(Humanitude)®は,「ケアする者は何か」という哲学に基づいた知覚・感情・言語による包括的なケア技術である。これは二人のフランス人Yves GinesteとRosette Marescotti が36年に渡る医療・介護施設でのケアの実践を通じて得た知見を体系化させたケア技法であり,その特徴は,ケアを受ける人に「あなたを大切にしている」と伝えながら質の高いケアを提供するための具体的な技術が,「ケアをする人とは何か」「人とは何か」を思索した哲学の下に実践されることにある。
 この技法は「ケアを受ける人がもつ能力を奪わないこと」をその重要な要素とする。これはすなわち「何でも代わりにしてさしあげる」一見親切なケアとの決別を意味し,ケアをする人が「ケアを受ける人の能力に応じた正しいレベルのケアを提供しているかどうか」を常に評価し,その評価に基づいたケアを行うことを必要とする。
 ユマニチュードでは,ケアを行うにあたっては「見る」「話す」「触れる」「立位援助」の4つの基本技術を用いる。このコミュニケーション技法の特徴はその双方向性にあり,ケアを提供する側が一方的に「見る」「話す」のではなく,ケアを行う者がすべての行動には言語・非言語のメッセージが包含されていることを自覚しながらケアを実施する。さらに,ケアを受ける側からのコミュニケーションを知覚するために細かい技術の習得を要する。
 さらに,ケアの実施にあたっては,ケアを実施する者が自分の来訪を相手に告げるところから,その場を辞去するまでを5つの要素に分け,すべてのケアを1つのシークエンスの中で行うことを基本とする。
 フランスの観察研究では,包括的ケア技法を導入後にケア困難な状況が改善したと83%のケア提供者が経験していること,また,長期療養施設では向精神薬の利用が12%減少したことも報告されている。日本においても,このケア技法がなぜ有効なのかに関する検証が学際的に行われている。

本田 美和子(国立病院機構東京医療センター総合内科)


主題・副題:リハビリテーション研究 第163号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第163号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第45巻第1号(通巻163号) 48頁

発行月日:2015年6月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

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