特集 サービスの利用者が主役になる地域中心の総合リハビリテーション-第39回総合リハビリテーション研究大会報告- シンポジウムⅡ 地域包括ケアと地域実践に関する今日的な課題をめぐって~高齢者,障害者,生活機能低下にある人等,サービスの利用者が主役となる地域中心の総合リハビリテーションをめざしている実践から~

特集 サービスの利用者が主役になる地域中心の総合リハビリテーション
-第39回総合リハビリテーション研究大会報告-

シンポジウムⅡ
地域包括ケアと地域実践に関する今日的な課題をめぐって
~高齢者,障害者,生活機能低下にある人等,サービスの利用者が主役となる地域中心の総合リハビリテーションをめざしている実践から~

【シンポジスト】
平川博之(医学博士,(医)社団光生会理事長)
内田千恵子((公社)日本介護福祉士会前副会長)
秋山正子((株)ケアーズ 暮らしの保健室室長)
黒澤貞夫(日本生活支援学会会長,元浦和大学学長)

【コーディネーター】
黒澤貞夫(日本生活支援学会会長,元浦和大学学長)
白井幸久((公社)東京都介護福祉士会会長,群馬医療福祉大学短期大学部教授)

白井 幸久
(公社)東京都介護福祉士会会長,群馬医療福祉大学短期大学部教授

要旨

 厚生労働省によると地域包括ケアシステムでは「高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで,可能な限り住み慣れた地域で,自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう,地域の包括的な支援・サービス供給の構築を推進」が行われている。それぞれの地域での取り組みなどについて,シンポジストから報告をいただいた。

1. 地域包括ケアシステムについて 白井幸久

 わが国は諸外国に例をみないスピードで高齢化が進行し,65歳以上の人口は現在3,000万人を超え,国民の約4人に1人となっている。また,2042(平成54)年には,約3,900万人に達し,ピークを迎えると推定され,その後も75歳以上の後期高齢者の人口割合は増加し続けることが推察される。
 このような状況の中で,厚生労働省では,「団塊の世代が75歳以上となる2025(平成37)年を目途に,重度な要介護状態になっても住み慣れた地域で,その人らしい自立した生活を送ることができるよう,医療,介護,予防,生活支援,住まいを包括的かつ継続的に提供するシステム」として,地域包括的ケアシステムの構築を推進している。
 この地域包括的ケアを考える視点としては,「地域と各人の暮らしてきた姿(物語)に根ざしたケアを提供する」ことと「利用者の視点から医療と介護サービスが一体的に利用できる」ことの2つが必要となる。
 ここでの「地域」とは,場所を示すのではなく,「人のつながり」のことであり,「サービスを生み出す基盤」といえる。「物語」とは,「一人一人の暮らしてきた姿を尊重する」ことであり,そのケアは「人に寄り添う」ことといえる。「包括」とは,「医療と介護の一体的なサービス」のことであり,「生活者の視点に立つ」ことが求められている。

2. 介護老人保健施設におけるフレイル予防―「介護予防サロン」の取り組みについて 平川博之

 介護老人保健施設(以下老健施設と略す)の機能と役割については,老健施設誕生後30年を経た現在もまだ正確に伝わってない。病院から在宅に移行する間のいわゆる「中間施設」としての認識程度である。現状の老健施設は,病院からの「通過型」,在宅と施設の間の「往復型」,看取りを目的とした「終末期型」など地域のニーズに対応してさまざまな役割を果たしている。特に多職種協働により「良くする」「維持する」「悪くしない」というリハビリテーション機能は老健施設の得意とする分野である。
 例えば,先日厚労省が公表した老健等が提供する「デイケア」と福祉サービスが提供する「デイサービス」を比較した報告書において,「デイケア」の改善効果について有意な差があったことが記されている。
 今回のシンポジウムでは,この老健施設の「デイケア」機能を生かした「フレイル予防」のモデル事業(介護予防サロン)について報告した。
 老健施設の「介護予防サロン」事業では,「フレイル」となる危険性の高い高齢者,すなわち「加齢に伴い不可逆的に老い衰えた状態に陥りつつあるも,しかるべき介入により再び健常な状態に戻るという可能性を秘めている高齢者」を対象として,モデル事業に参加した老健施設が,リハビリテーション技術(器具),レクリエーションのプログラム,専門職による指導・教育等それぞれの施設が培ってきた経験や資源を活かしつつ,地域の特性に合わせた介護予防のプログラムを実践した。
 その結果,(1)身体機能については体重および通常歩行速度,FIM(①清拭,②浴槽移乗)において有意差がみられた。(2)認知機能については,NMスケールにおいて参加者(n=175)の23.9%が改善,維持が61.1%であった。FASTでは参加者(n=175)の7.8%が改善,維持が85.0%であった。(3)社会性については,社会生活の拡がりの指標であるライフスペースアセスメントを用いて評価を行い,何らかの改善があった者は,参加者の36.1%であった。
 以上のように,「介護予防サロン」参加者には身体機能,認知機能のいずれにも改善効果がみられた。年齢を重ねるに伴い衰えが進行する中,機能を維持しているという結果は,「フレイル」予防のために本事業が有意義であったことを示すものである。また,意欲向上や社会参加についても,ライフスペースアセスメントの結果,更には,終了時に実施したアンケートにおいて参加者の9割が事業の継続を希望していたことからも効果があったと考えられる。

3. 介護とリハビリテーション―生活支援の中でのリハビリテーションを考える 内田千恵子

 介護は,図1のように生活全般に関わる広範な仕事である。介護福祉士が行なっているのは,移乗介助や排せつ介助,入浴介助などを含めた生活全般について,観察などを通じて情報収集して,解釈・関連づけ・統合(分析)し,どのような課題やニーズがあるのかを捉えた上で,QOLを高めるための介護方法を見出していくことである。
 実際には,利用者に最適な介護を実践し,目標達成のためには,介護職員の指導や教育も必要となる。また,多職種連携やさまざまな面での環境の整備も求められる。これらのことができるのは,介護職として守るべき倫理や介護実践の原則を理解し,介護という仕事のなかで守り,実行できるという前提がある。

【図1 介護福祉士の仕事】

  • 日常生活全般の支援。
  • 心身状態の適切なアセスメントやその人本来の姿を考える。
  • 利用者の心身の状態にあった生活を再構築する支援。
  • 利用者同士の関係や家族,地域の人々,職員も含めた関連する人との人間関係の構築を支援。
  • 利用者の疾病の予防や,疾病の悪化防止のために日々の生活の中で支援。
  • 安心や安全,自立 (自己決定や主体的な生活活動)につながるように支援。
  • 利用者のできない部分をただ補うのではなく,自分でできることを発見したり,できるように側面から支援すること。
  • 利用者の気持ち,感情,行動に働きかけ,心を動かす。
  • 表情や言動から気持ちや考えを推察し,尊厳や自尊心を大切にしながら支援する。
  • 利用者本人だけではなく,家族を支え,支援する。

 次に,認知症対応型通所介護事業の支援について報告する。あいゆうデイサービスでの支援では,「生活者としての自信を取り戻す」ために,以下のように方針を定めている。

【あいゆうデイサービスの支援方針】

  • 本人の主体性や自主性を大切にする。管理的にならないようにする。
  • デイサービス内での動きの中で自然にリハビリができるようにする。
  • 残っている機能を発見し,維持できるようにする。
  • 本人の機能を十分活用して,役割が持てるようにする。
  • 利用者と社会とのつながりを大事にし,地域と接触できるようにする。

 活動内容は,「調理」,「買い物」,「体操」,「生活」,「創作活動」からなっている。

  • 「調理」昔から行なっていた調理に取り組んでもらい,昔よく食べたものやよく作ったものなどを思い出してもらう。危なくない限り,利用者に包丁などを使って作業を行う。
  • 「買い物」利用者と介護職がともに,近隣のスーパーマーケットなどへ行き,食事やおやつの材料を購入する。(買い物の仕方を思い出す,品物を選ぶ,レジで並びお金を払う,袋に詰める等を体験する。)
  • 「体操」口腔体操,身体機能維持のための体操を行う。
  • 「生活」(デイサービスでの活動)利用者は毎回,能力に合った外での歩行を実施する。それ以外に買い物に行く。調味料を準備する。食器を出すなどのために歩く機会を作る。
  • 「創作活動」(手芸や集団創作)針仕事などを活動に取り入れる。雑巾を縫って近所の中学校に届ける。

 あいゆうデイサービスでは,利用者が過去の生活で身に付けてきた調理の仕方などに働きかけることによって,例えば包丁が使えることによって,生活に自信を取り戻せていくのではないかと推察される。

4. 地域のよろず相談所「暮らしの保健室」からみた地域包括ケア 秋山正子

 1992年(平成4年)老人保健法の改正で生まれた,当時は老人訪問看護ステーション,その初年度から東京都新宿区にて訪問看護を実践してきた。
 この訪問看護の経験を通して,地域の中にあるニーズに応えるという個別の訪問看護のみならず,訪問看護に繋がっていない方々に対して,身近に訪れることができる相談支援の場の必要性を感じ始めた。
 地域包括ケアの根幹は,自分で自分の健康や,行く末を考えられる人を育て,自己決定の出来る人をつくり,ひいては究極の自立支援をすることでもある。これは入院時の「医療者にすべてを委ねる人々」の姿とは異なっていて,生活する人々の持つ力を引き出していくことだが,このことは看護の基本に繋がっていく。
 具体的に「暮らしの保健室」への相談から,医療者の説明の分かりにくさを補うために,コーディネーター役として,外来受診同行などを行いながら,医療保険での訪問看護を病院との連携で導入できた70代後半の下咽頭癌の事例を提示。早目に介護保険利用のための水先案内ができ,最終的に,本人の最期まで家に居たいという意志をしっかり確認し,在宅看取りが可能となり,家族も満足できた一例を地域包括ケアの観点から読み解いた。
 また,昨年9月から,看取りをされたご家族からの土地の有効活用をという申し出を受けて,看護小規模多機能型居宅介護「坂町ミモザの家」を都心で始めた。
 ここでの事例も,発表の中で具体的に展開した。胃ろうを勧められた特養入所中の80代の男性。発熱で入院した病院で,特養に戻るには胃ろうにしなければと医師に言われ,もともとは胃ろうはしたくないと言っていたという本人の意向を代弁した家族が,経口摂取ができないものかと「暮らしの保健室」に相談し,そこから看護小規模多機能型居宅介護「坂町ミモザの家」に繋がり,現在は施設から戻って,在宅生活を続けている内容を紹介した。
 嚥下リハビリや,訪問栄養指導の実際の場面も含めて提示し,ターミナルかと思われた高齢寝たきりの事例が,自力で食べようとする意欲が生まれる様子に,急性期病院から老健へ,そして特養へと,介護度が上がるのをただ見ているだけでいいのか,残された機能をいかに引き出すかが,生活リハビリとしても,もっと取り組むべきではないのだろうかと問題提起がなされた。

5. 地域包括ケアと地域実践に関する今日的課題をめぐって 黒澤貞夫

 いつの時代にあっても,人は老いを迎え,病をもち,障害を担いながら,それぞれの生活支障を克服してよりよき人生を求めているのではないだろうか。それは個人の生活課題であると同時に,国家は責務として法律を制定し,制度によって具体的な施策を行なっている。
 私は30数年,重度の障害をもつ人と高齢者の生活支援に従事してきた。今,振り返ってみるといかなる制度も,国民の意思を離れては存在しないといえる。その意思は国際的な思想的変革(パラダイムシフト)の潮流の影響を受けて形成されてきたのである。すなわち,国際化の時代に入ったのである。とりわけリハビリテーションの理念,ノーマライゼ―ション,アメリカで起こったIL(自立生活)運動,WHO(世界保健機関)のICF(国際生活機能分類)等の思想である。
 わが国は,超高齢社会を迎えている。リハビリテーションが学際的なアプローチであるのと同様に高齢者の生活支援は,保健,医療,福祉,介護等の総合的な生活支援が必要とされる。関係機関の連携,協働,すなわち生活支援のありようが課題となる。
 介護保険法の目的である,人間の尊厳と自立について考える。すなわち,高齢者の生活支援の思想は,人間に値する生活の保障であり,それは,その人の主体性からの個性の尊重のことである。
 平成10年,中央社会福祉審議会は,「社会福祉基礎構造改革について(中間まとめ)」の理念の中で「福祉文化の創造」の提言が注目される。この「福祉文化の創造」では,「社会福祉に対する住民の積極的かつ主体的な参加を通じて,福祉に対する関心と理解を深めることにより,自助,共助,公助があいまって,地域に根ざしたそれぞれ個性ある福祉文化を創造する。」ことと示している。この趣旨を地域における生活支援の実践の課題とすることが考えられる。
 最後にここでは,介護サービスを必要とする認知症高齢者,一人暮らしの高齢者の例から今日的課題を考えたい。地域住民の生活支援に対する法制度は,社会の福祉の仕組みの構成である。そしてそれを支えるのは,地域環境と人々の相互関係である。それは新たな価値観に基づく地域住民の意識形成である。すなわち福祉文化の創造である。また,家族構成の変化は,核家族から,一人暮らしの高齢者の増加,高齢に伴う生活の不自由さから,新たな思想に基づく地域ケアの構築が求められている。

まとめ

 地域包括ケアシステムは,医療と介護のサービスが連携し,利用者の視点から一体的に提供されなければならない。特に連携では,サービス提供者間の顔の見える関係が必要であり,顔の見える関係では,多職種協働による地域における総合的なチーム医療介護であるとともに,安心と信頼の基盤づくりが求められている。


主題・副題:リハビリテーション研究 第170号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第170号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第46巻第4号(通巻170号) 48頁

発行月日:2017年3月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

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