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国連世界情報社会サミット(World Summit on the Information Society : WSIS)

「人間のニーズを満たす情報社会の実現」(仮訳)
世界情報社会サミット市民社会宣言

項目 内容
発表年月 2003年12月8日 ジュネーブ (英語)原文

WSIS 市民社会総会
2003年12月8日 ジュネーブ[1]

「人間のニーズを満たす情報社会の実現」
世界情報社会サミット市民社会宣言
2003年12月8日、WSIS市民社会総会にて満場一致で採択

我々は、異なる地域的・文化的背景、視点、経験及び知識を持つ人間として、発展しつつある世界的な市民社会を構成する一員として活動し、史上初めて開催された情報通信問題に関する国連サミット、すなわち世界情報社会サミットへの市民社会の参加が重要であると考え、2年間その準備に取り組み、人中心の、包括的で、公正な考え方に基づく情報通信社会を実現する努力を続けてきた。[2]

オンライン及びオフラインの両方の場で、市民社会団体としてともに活動し、情報通信技術の包括的かつ直接参加型の利用を実践することを通じ、我々は目的を共有し、共通の立場に立ち、情報通信社会に関するビジョンを共同で開発するに至った。

2003年12月にジュネーブで開催されたサミットの第一段階において、我々の主張と、我々が共同で表明した一般の関心をよぶ問題は、サミットの文書に十分反映されていない。我々は本文書をサミットの公式な文書の一部とすることを提案する。ここで述べるビジョンが、個人、コミュニティー及び民族の活動と生活を通じ、現実となることを確信し、我々は、全ての人に対し、この継続中の対話に参加し、我々共通の未来を実現するために力を合わせることをよびかけるものとして、我々自身のビジョンをここに提示する。

目次

1. 我々が理想とする社会

我々が理想とする情報通信社会の中心となるのは人間であり、すべての民族及び個人の尊厳と権利が促進され、尊重され、保護され、かつ確約されなければならない。それゆえ、許容範囲を越えるほどの開発レベルの格差及び貧富の格差を是正することが、第一に問題とされなければならない。

我々は、人中心の、包括的で公正な情報通信社会の構築に全力を投じている。それは、個人やコミュニティー、及び民族が、生活の質を向上させ、自らの可能性を十分に発揮できるように、誰もが自由に情報や知識を創造し、これにアクセスし、これを利用し、共有し、また普及することができる社会である。また、それは、社会的、政治的かつ経済的な公正の原則と、人々の完全参加及び権限の保障に基づく社会であり、従って現代社会が直面する重要な開発課題に真に取り組む社会である。更に、それは、国連憲章及び世界人権宣言に記されている原則によって前提とされている、より平和で公正かつ平等な、それゆえ持続可能な世界の実現のために、持続可能な開発、民主主義及び両性の平等という目的を追求する社会でもある。

我々は、基本的人権を枠組みとし、非搾取的で、環境上持続可能な方法により、貧困の排除につながるより公平な資源の分配の達成を目指す開発が行われる情報通信社会を築くことを願っている。この目的のために、我々は、技術それ自体を目的とするのではなく、むしろそれを基本的な手段として使うことができると信じ、それゆえ、デジタル・ディバイドの解消は、全ての人のための開発を達成する過程の第一歩に過ぎないということを認識する。我々は情報通信技術(ICT)が、飢餓や自然災害、エイズなどの新しい世界的な流行病及び武器の拡散による荒廃の克服に貢献する大きな可能性を秘めていることを認める。

我々は、コミュニケーションが重要な社会的活動であり、基本的な人間の要求であり、かつまた全ての社会的な組織の基盤であることを再確認する。誰もが、どこででも、またいつでも、コミュニケーション活動に加わる機会を持つべきで、誰もその利益を享受することからはずされてはならない。これは、全ての人が、コミュニケーション手段にアクセスでき、意見と表現の自由の権利を行使できるようにしなければならないということを意味する。これらの権利には、自己の意見を持ち、あらゆる手段により、また国境を越えると否とに関わりなく、情報や思想を求め、受け、そして伝える権利が含まれる。同様に、プライバシーの権利、公共の情報及びパブリックドメインの知識にアクセスする権利、特に情報通信活動に関連するその他多くの普遍的な人権も認められなければならない。アクセスの権利とともに、これら全てのコミュニケーションの権利及び自由は、明確に文書化された国の法律によって全ての人に対して積極的に保障され、またこれに必要な、適切な技術を使って実施されなければならない。

このような社会の構築には必然的に、市民として、また組織やコミュニティーの一員として、更に、社会の枠組みや政策、統治メカニズムを構成する参加者及び決断者としての個人の参加を伴う。これはつまり、全ての世代の男女がともに参加できる環境を作り、多様な社会的及び言語学的グループ、文化及び民族、地方及び都市部の人々がもれなく関与することを保証するということを意味する。更に、政府は、情報通信社会のモデルは常に是正と改良を受け入れる用意があるということを保証するために、市民が要求する公共サービスを維持・促進し、公共政策の中心として市民に対する責任をしっかりと果たさなければならない。

我々は、どのような技術も、社会に与える影響の点では、中立ではないと認識し、それゆえ、いわゆる「技術的に中立な」政策決定プロセスをとるのは、可能性としてあり得ないと考える。新しい技術の導入に関しては、その設計の最初の段階から実際の使用の段階に至るまで、社会や技術面への影響を考慮し、厳密な選択をすることが極めて重要である。設計段階のあとの方になって、情報通信システムの社会・技術面への否定的な影響が発見された場合、それを修正することは一般に非常に難しいので、永久的な損害の原因となってしまうことがあるからだ。我々は、否定的な影響を防ぎ、或いは最小限に押さえるために、エンド・ユーザーとともに、またエンド・ユーザーによって技術設計が行われる、参加型の情報通信社会を理想とする。

我々は、人間の知識、創造力、協力及び連携が中心とされる社会、個人の創造性だけでなく、共同作業に基づく総合的な革新も推進される社会を理想とする。それは、知識、情報及び通信手段が人類共通の遺産として認められ、保護される社会であり、差別や暴力、嫌悪から解放された環境において、文化的・言語学的多様性と文化間の対話を保障し、これを培う社会である。

我々は、情報、知識及び通信手段が、過去に人類が想像したことがないほど大規模に利用できるようになったことを意識しているが、これと合わせて、通信手段の利用ができないことや、情報が得られないこと、また公共活動に参加するために必要な技術がないことが、今なお、特に発展途上国において大きな制約となっていることも認める。同時に、情報と知識は、ますます私的な財産へと変化しつつあり、社会的な組織とその発展の基本的な要素ではなく、あたかも単なる商品であるかのように管理され、売買されるようになってきている。そこで、情報通信社会の主要な課題の一つとして、これらの矛盾した事実に対する解決方法を緊急に見つけなければならないことを我々は認める。

我々は、我々人間の豊かな知識と適切な手段とを結集する市民の意志が十分にあれば、人類は必ずやミレニアム宣言の目標を達成することに成功し、更にそれを超越することも可能だと確信する。市民社会組織として、我々はこの目標と我々の理想の実現に対し、我々が負うべき責任を引き受けるものである。

2. 中心原則及び課題

このビジョンの実現には、解決すべき課題と様々な関係者の責任に対する十分な認識を反映した中心原則に基づいて、情報通信社会の開発を行うことが極めて重要である。これには、両性の平等に関わる問題に取り組み、更に両性の平等、非差別及び女性の地位向上に対する基本的な義務を果たし、これらが情報通信社会において、公平で人中心の開発を進める上で譲ることのできない基本的な前提条件であることを認める必要性を十分に認識することを伴う。このような義務は、階級、民族、年齢、宗教、地理的配置、そして発展状況の違いにより、男女間及びコミュニティー間で明らかに見られる、差別的なアクセスや選択、機会、参加、地位、及び資源の管理における、社会・経済・政治面での不平等な力関係の交差による影響を、意識して是正することを意味する。

我々は、以下の分野を重要な関心分野として認める。また我々は、以下に述べる原則を認め、支持し、更に国際社会による行動が優先的に必要な分野を確認する。

2.1 社会的な公正と人中心の持続可能な開発

社会的な公正を枠組みとした人間の開発活動には、個人とコミュニティーの要求を満たし、その向上をはかる、文化的、社会的、経済的、政治的及び環境的な生活条件が必要である。人類が成し遂げた多大な知識及び技術の発達にも関わらず、多くの人々は今なお過酷な条件の下に暮らし続けている。

情報通信社会における社会的な公正は、経済的、社会的、政治的及び文化的方向性に従って、地政学的及び歴史的な不正を考慮することによってのみ、追求することができる。現在の世界的な発展の形態は、国際的な経済の自由化、文化の国際化、増加する軍国主義、原理主義・人種主義の発生、基本的人権の侵害などが相互に結びついた結果生じた緊張関係によって特徴づけられている。

ICTの不平等な分配と、世界人口の大部分にとって情報へのアクセスができない状況とは、しばしばデジタル・ディバイドといわれるが、これは実際の所、社会的な格差が見られる既存のシステムに、新たな不均衡を見いだしたにすぎない。これらの不均衡には、南北格差や貧富の差、男女格差、都市人口と農村人口の格差、そして情報へのアクセスができる者とできない者との差が含まれる。そのような不平等は、文化の違う国々の間でのみ見られるのではなく、一つの国の中でも見られる。国際社会は、国内のデジタル・ディバイド解消のために個々の国家がとる行動を保証するよう、集団的統治権を行使しなければならない。

社会から取り残された様々な弱者やコミュニティーが経験する、あらゆる形態の差別、排斥、孤立を是正するには、単なる技術の利用以上のものが必要である。弱者が情報通信社会に完全に参加するためには、我々はただ利益を追求し、市場を駆り立てるようなICT開発の推進を基本的に拒否する必要がある。新しいICTが、経済の国際化と市場の独占化という現在の否定的な傾向をこれ以上続けることに利用されないよう保障するために、意識的に、目的を持った行動をとらなければならない。ICTの開発と利用は、世界の人々の社会的・経済的及び文化的進歩をめざし、発展のパラダイムを変革するために貢献するものでなければならない。

技術的な決定は、企業の利益を上げるためや、政府による非民主的な支配を可能にするような目的のためではなく、人々の生活を左右するニーズを満たすことを目的になされなければならない。それゆえ、技術の設計やその利用に関わる基本的な決定は、個々のエンド・ユーザー、技術者及び科学者を含む市民社会の協力を得て下されなければならない。特に、コミュニティーに根ざした技術が関わる場面では、設計プロセスにおいてコミュニティーの特性とニーズに適切に対応するよう、コミュニティー情報科学の研究と実践の成果が、応用されなければならない。

2.1.1 貧困の撲滅

貧困の撲滅は、WSISの開発課題における重要な優先事項である。現在問題となっている不平等に取り組むことなくしては、新しいICTを利用した持続可能な開発は何も達成できない。極貧の生活をおくっている人々が、全関係者による対話に参加し、その経験と知識とを貢献できるようにならなければならない。また、貧困への取り組みでは、「開発課題」を設定する以上のことが必要である。つまり、現在の仕組みを検討し、地域の実状にあった情報への地域によるアクセスを改善し、ICT関連技術の研修を進め、多額の資金その他の資源を配分する、重要な責務が求められる。また、ボランティアの人達が、草の根レベルで活動しており、社会参加において重要な役割を果たしている。

社会及びデジタル分野における連携と結びついた資金は、社会の全ての部門によって公正かつ包括的に運営される、既存及び新規の経済機構を通して利用されなければならない。公正な開発に悪影響を与える可能性があるかどうかを検討する必要がある枠組みの中には、WIPO(世界知的所有権機関)の活動やTRIPS(知的所有権の貿易に関連する側面に関する協定)の役割などの、知識及び情報の独占に対する認識と管理に関わる現在の取り決めが含まれる。

2.1.2 世界的市民権

情報通信社会には、大きな変革の可能性と、持続可能な開発のために必要な、多大な経済的、技術的、人道的及び道徳的な資源の放出を促進する可能性とがある。これらの資源は、世界の人々が、この惑星の運命と全人類の幸福に強い責任感を持つようになってはじめて自由に使えるようになる。この点で、個人とコミュニティー及び政府にとって、グローバルな意識と世界的市民権の観念を持つようになることが必要なのである。人間の体は一つで、分けることができないので、それぞれの人間が、全人類の希望としてこの世に生まれ、国際的な人権基準の積極的な行使と適用を通じ、各人が平等に重要であることを保証され、最善を尽くして扱われるのである。

2.1.3 性別に関する公正

公正で、オープンかつ包括的な情報通信社会は、性別に関する公正を基礎とし、特に北京宣言及び行動綱領(第4回世界女性会議)と女子差別撤廃委員会(CEDAW)で述べられているような、両性の平等、非差別及び女性の地位向上の原則の解釈に基づいて統治されなければならない。そして、社会のあらゆるレベルで見られる不均衡な力関係の結果生じる差別をなくす、相互的なアプローチに対する強い責務のみならず、高い意識をも示す行動がとられなければならない。また、ICTの所有、設計、利用及び適用における変革に影響を与える活発かつ主要な媒介としての女性のために、全ての分野にまたがる積極的な政策とプログラムが開発されなければならない。社会を形作る者として、また社会のリーダーとしての女性の、全ライフサイクルを通じた地位向上をはかるためには、性差に応じた教育プログラムと、適切な学習環境の整備が推進されなければならない。性差の分析や、広範かつ統合的な国の監督及び評価システムを通じて両性の平等を判断する、量的・質的な指標の開発もまた「不可欠」とされる。

2.1.4若者達の重要性

我々はまた、若者達が将来の労働力であり、時代を先導する創造者であり、かつ最も迅速にICTを取り入れる者であると認める。それゆえ、学習者、開発者、貢献者、起業家また政策決定者としての若者達の地位向上をはからなくてはならない。我々は特にまだ情報通信社会が提供する利益を十分に享受できていない若者達に焦点を当てる必要がある。とりわけ、恵まれない環境にある、特に発展途上国の若者達の地位向上を支援することを追求しなければならない。また、女性の機会均等も、我々の活動に組み込まれなければならず、我々はICT分野における女性の特別なニーズと可能性をよりいっそう認識しなければならない。更に、ICT産業に従事する若い労働者が直面する、低賃金、劣悪な労働条件、仕事に安定性がないことや労働者全体の代表がいないことなどの問題もまた、解決されなければならない。ICTの主要なユーザーとして、若者達は、ICTの利用による健康への影響を最も受けやすく、危険にさらされている弱者である。そのため我々は、全ての児童の幸福、保護及び調和のとれた発達を保障するICTのみを開発し、利用することを約束する。

2.1.5 情報及び通信手段へのアクセス

公共かつ世界的な共有財産としての情報及び通信手段へのアクセスは、直接参加的で、普遍的、包括的、かつ民主的でなければならない。そこで、先進国内及び発展途上国内で常に見られるアクセスに関する不平等に加え、アクセスの南北格差についても、その解決に取り組まなければならない。克服されなければならない障壁には、経済的、教育的、技術的、政治的、社会的、民族的なものがあり、更にこれら全てに、時代の特性や、男女間の不平等な関係が関わっており、特に解決に努力を要する。

人間の発展に不可欠な情報への普遍的なアクセスが保障されなければならない。インフラストラクチャー及び最も適切な形の情報通信技術が、全ての人々にとって、様々な社会的状況においてアクセシブルでなければならず、またこれらの技術の社会的な利用が促進されなければならない。このことは、原住民や少数の異教徒集団及び移民などの明確に識別できる社会集団が経験する多様な現実に取り組み、地域的なあるいは対象を明確にした解決策を、特に適用することを意味する。従来のメディアとコミュニティーに基盤をおいた情報通信イニシアティブは、新しいICTの効果的な利用とともに、これらの点で重要な役割を果たす。技術・情報及び知識の幅広い共有を支持し、コミュニティーによる人権と自由を尊重した管理を促進するために、全ての情報通信社会における規制及び法的枠組みが強化されなければならない。

ICTの開発においては、障害者を含む全ての関係者の具体的なニーズや要求が考慮されなければならない。情報通信社会を最低限のコストで全ての人々のための社会とするには、設計・開発及び製造の初期の段階で、ICTにアクセシビリティーと包括性を盛り込むことが最善といえる。

情報にアクセスし、これを送り、受けとるニーズを満たすことは、難民や、戦争により祖国を追われた人々、また頻繁に侵害される自分たちの権利について知らないことが多い亡命希望者などの弱者にとって、特に重大な問題となる。これらの人々は、国際法に従って正当な主張をし、自分たちの権利を保護・推進するため、通信手段へのアクセスを必要としているのである。

2.1.6 保健衛生情報へのアクセス

生命に関わる心身の保健衛生情報の普及は、ICTを基本とした方法を通じて促進・改善することができる。情報通信へアクセスできないことは、人々の心身の健康に関する危機が世界的に広まる重大な要因であると考えられてきた。専門家は、発展途上国の国民に、心身に関するコミュニティー・レベルの保健衛生情報へのアクセス・ポイントを提供することが、心身の保健医療危機に取り組む重要な出発点となると提案してきた。しかし、そのようなアクセス・ポイントは、情報の複数方向への流れ(例えば、専門家からコミュニティーへ、あるいは専門家から患者へ)を支援しなければならない。コミュニティーは、全ての人々の心身の健康の予防、治療及び推進に役立ち、そのために必要であると考えられるコミュニケーションの流れの選択と創造への参加を認められなければならない。医療情報へのオープンなアクセスは、医師が全ての既知のデータを利用できるようにするために絶対に欠くことができない。

2.1.7 基本的な識字能力

識字能力と、教育への自由かつ普遍的なアクセスは、重要な原則である。知識社会は、情報通で教養のある市民を必要としている。能力開発には、ICTを利用する技能、メディア及び情報を扱う能力と、情報・技術を発見し、評価し、利用し、創造する能力を含む、積極的な市民活動に必要な技能の開発が含まれなければならない。そして地域の実情に応じつつ全般的な、かつ性差に対応し、また社会の主導により実現したアプローチが優先されなければならない。また、従来のメディアと新しいメディアの組み合わせと、知識及び情報へのオープンなアクセスも促進されなければならない。現実世界の図書館及びバーチャルな世界の図書館は、どちらも全ての人が利用できる知識及び情報へのアクセスを保障するのに重要な役割を果たす。国際的かつ多面的なレベルで、知識と文化のパブリックドメイン(公有)が保障されなければならない。人中心の情報技術は、疾病や伝染病の撲滅を促進し、全ての人に食糧と、住居と、自由そして平和を与えることに役立てられる。

識字能力、教育及び研究は、情報通信及び知識社会の基本的な要素である。知識の創造と獲得は、直接参加による総合的なプロセスとして進められなければならず、一方通行の、或いは能力開発の一部門に限られた活動として考えられるべきではない。教育(正規の学校教育、非公式な教育、及び生涯教育)により、読み書きができる市民と熟練した労働力が生みだされ、民主的な社会が築かれる。しかし、多元的な研究の手段とその成果にアクセスできる、情報に通じ、教育を受けた市民しか、知識社会に完全に参加し、かつ効果的に貢献することはできない。

世界の人々のほぼ全員が使用している、地域や国内の言語及び国際的な言語の非識字問題に対して、ICTが与える可能性がある肯定的かつ否定的な影響に、我々は緊急に注目する必要がある。情報通信社会の識字、教育及び研究活動では、身体障害者のニーズに焦点を当て、その障害を乗り越えるあらゆる手段(例えば、音声認識システム、コンピューターによる学習、オープンな大学教育など)の推進をはからなければならない。

2.1.8 持続可能な、コミュニティーを基盤とした、ICTによる問題解決方法の開発

コミュニティーと個人が情報通信社会の利益を十分に享受するためには、環境上持続可能であるという原則に従ってICTを設計し、製造しなければならない。技術的な解決方法についても、コミュニティーがその技術の利用と発展を支持することができるという意味で、持続可能でなければならない。

設備の再利用においては、環境保護の基準を満たさなければならない。技術製品は、決して、持続不可能な量のエネルギーや自然資源を消費することになってはならない。

資源の効率を高め、再利用できるエネルギー資源を開発するための具体的な提案をし、政策を開発することが重要である。これには、「非物質化(例えば、紙の使用を減らすこと)」とICT関連の無駄を減らすこと、また、ハードウェアの寿命を延ばすこと、リサイクルの状況を改善すること、廃棄されたICTハードウェア及びその部品の安全な処分、そして有毒なICT部品の代替品開発の促進が含まれる。更に、発展途上国の人々の基本的なニーズを満たすために、再利用できるエネルギー資源の創造と利用を最優先することも伴う。再利用できるエネルギー資源は、ラジオやテレビなどのICTを基本とする情報通信手段の普及に利用されなければならない。アフリカは、強い太陽光線を直接受けるので、特に太陽光発電から利益を得ることができる。アフリカ諸国が、必要な技術的・経済的協力により、地域全体の力を結集すれば、今後十年間、この重要な分野で指導的な役割を果たすことができるといえる。

コミュニティーは、ICTを基本とした問題解決策の開発とその持続に直接参加する力を持たなければならない。コミュニティーがICTを利用した独自の解決策を生み出し、それを継続するためには、情報社会の中でコミュニティー自身の生産力を開発し、生産手段を管理できるよう、権限を与えられなければならない。これには、経済・文化、環境及びその他の問題に関わる政策決定などの民主的なプロセスを通じ、ICTを基本としたプロジェクトの開発と維持に完全参加する権利が含まれる。ICTは持続可能な真の活動を生む手段として利用され、新しい労働の機会を提供していかなければならない。

コミュニティーと個人が経済的にも技術的にも持続可能な解決策を生み出すためには、フリー・ソフトウェアを利用する権利を持たなければならない。これによってソフトウェアがより入手し安くなり、人々がその開発と維持に参加できるようになるのである。[3]ICTに基づく改革は、ハードウェアやソフトウェア及びプロセスに関する国際的な技術標準規格の使用を遵守しなければならない。このような国際規格は、オープンで、自由に採用でき、また、公表されており、相互操作が可能で、非差別的な、需要先導型の規格である。

従来のメディアと通信技術及び新しいメディアと通信技術の両方を利用した、コミュニティーに基盤をおく通信機関を支援することが重要である。ローカル・コンテンツの製作に加え、ICTの設計、開発、利用及び操作に関するコミュニティーの特性とニーズに特に焦点を当てた、コミュニティー情報科学の分野の発展と助成に対するニーズがある。

2.1.9 対立した状況

我々は、メディアの利用が、紛争後の平和の構築を含む、対立した状況においては肯定的にも否定的にもなりうるということを認識する。それゆえ、我々は、ジャーナリスト及び全ての人々の、あらゆる手段を利用した情報収集及び通信の権利が、特に対立が続く間、尊重されるよう主張する。これらの権利は、戦争、暴力的な闘争、及び非暴力的な抗議など、どのような場合にも侵害されてはならない重要な権利である。

我々は特に、「情報戦争」に関わる技術及び技能の悪用を憂慮する。これには、対立した状況における市民通信システムに対する意図的な妨害或いは破壊活動、「従軍記者」を、「従軍」ではないが、その対象となっているジャーナリストとペアを組ませて利用すること、国際的及び国内の両方における対立した状況の中で、憎しみを育て大量殺戮を進めるための、政府や民間、或いは非国家主体の軍や警察、その他の治安部隊による、メディアや通信システムの利用が考えられる。

対立した状況下での情報への介入は、国際法の支配を受けなければならない。更に、WSISはこれらの憂慮事項を解決するために、情報戦争に関する国際協定を結ぶ活動を今後促進しなければならない。と同時に、WSISは情報戦争を制限し、対立した状況におけるメディアの管理をするだけでなく、平和のためのメディア通信も積極的に推進していかなければならない。この目的のため、我々は政府が軍事通信技術の国家予算を減らし、その代わりに平和的な通信機器とアプリケーションの開発に直接資金を投じるよう促すものである。

2.2 人権の中心的役割

情報通信社会は人権と人間の尊厳に基づくべきである。国連憲章と世界人権宣言をその基盤とし、情報通信社会は、発展の権利と言語の権利を含む、全ての人権(市民としての権利、政治的、経済的、社会的及び文化的権利)の普遍性、不可分性、相互関連性及び相互依存性を包含しなければならない。このことは、全ての人権の完全な統合と具体的な適用及び強化、そして民主主義及び持続可能な開発におけるその中心的な役割の認識を意味する。情報通信社会は、全ての人が、どのような差別も受けることなく、自分の可能性を十分に発揮できる、包括的な社会でなければならない。非差別及び多様性の原則が、全てのICTの規制、政策及びプログラムにおいて主流とならなければならない。

2.2.1 表現の自由

世界人権宣言の第19条は、人権に基づいた情報通信社会の本質的な前提条件となるので、基本的であり、特に重要である。第19条では、誰もが、意見と表現の自由に対する権利を持ち、またあらゆる手段により、また国境を越えると否とに関わりなく、情報及び思想を求め、受け、及び伝える権利を持つと謳っている。これには、思想の自由な伝達と、情報源及びメディアの多様性、報道の自由、そして情報にアクセスし、知識を共有する手段の有用性が含まれる。インターネットにおける表現の自由は、自主規制や行動規範よりもむしろ法律によって保護されなければならない。通信プロセスへの参加者に対する、或いは情報の内容、伝達及び普及に対するいかなる事前の検閲も、また専制的な支配・制約もあってはならない。情報源及びメディアの多様性は保証され、促進されなければならない。

2.2.2 プライバシーの権利

世界人権宣言の第12条に述べられているプライバシーの権利は、市民的、政治的、社会的、経済的及び文化的活動における自己決定による人間の発展にとって不可欠である。プライバシーの権利は、情報通信社会で新しい難題に直面しており、公共の場やオンライン及びオフライン上、家庭及び職場で保護されなければならない。全ての人が、情報を受けとり、他者とコミュニケーションをとることを望むかどうかを、またそれをどのような方法で行いたいかを、自由に決定する権利を持つべきである。誰もが匿名でコミュニケーションをとることができるよう、保障されなければならない。個人情報に関して民間セクター及び政府が影響力を持てば、監視や査察など悪用の危険を増やすことになる。民主主義社会においては、このような活動は、法に従い、最小限に押さえ、また常に責任の所在をはっきりとさせて行われなければならない。個人情報の収集、保持、処理、利用及び公表は、誰がそれを行うかに関わらず、常に当事者の管理と決断の下で行われるべきである。

2.2.3 公共の問題に参加する権利

民主主義社会における優れた政府による統治と司法は、開放性と透明性、責任と参加及び法の支配の遵守を伴う。これらの原則の尊重が、公共の問題に関わる行動に参加する権利を行使するために必要なのである。また、政府によって制作・維持される情報への公共のアクセスを強化し、情報がタイムリーで、一般市民が理解できる形式と言語による、完全かつアクセシブルなものであるよう保障しなければならない。これは更に、特に政府がまだ情報公開をしていない場合に、公共の利益に影響を与える企業活動に関する情報を記載した企業文書へ、一般市民がアクセスする際にも適用される。

2.2.4 労働者の権利

ICTは我々の労働方式を次第に変えつつある。ICT機器やソフトウェアの製造の場、及び一般的な職場におけるICTの利用の場で、例えば関係する三者間の社会的な対話を通じて、国際的な労働基準を満たす正当で安全、かつ健康的な労働条件を設定することが、重要である。ICTは、人権の原則や国際的な労働基準に対する意識を高め、これらを尊重し、強化するために使用されなければならない。プライバシーの権利や表現の自由、言語学的権利、オンライン労働者が労働組合を組織し、これに参加する権利や、労働組合が雇用者とコミュニケーションをとることを含め、自由に活動する権利などの人権は、職場で尊重されなければならない。

2.2.5 原住民の権利

情報通信社会の発展は、国際協定に述べられているように、原住民の権利と特性の尊重と容認を推進することを基礎としなければならない。原住民は、その独自の言語、文化及びアイデンティティーを保護し、保存し、強化する基本的な権利を持っている。ICTは、原住民が、その文化的資源、精神的資源及びいわゆる自然資源から、十分にかつ優先的に利益を得られるよう、原住民の権利・財産及び多様性を支持し、推進するために利用されるべきである。

2.2.6 女性の権利

女子差別撤廃委員会(CEDAW)と北京宣言及び行動綱領(第四回世界女性会議)ではっきりと謳われているように、情報通信社会における女性の権利を実現するためには、男女の違いや女性が経験する不利益を認め、その解決に取り組むことが重要である。これは、女性が男性と異なっている点に配慮し、ICTへのアクセスやその機会、ICTを使った活動への参加及びICTの利用の様々なレベルに、その違いをどのように反映させるかを考慮することを意味する。そして、政策や法的な介入及びプログラムの実施の際に、意識してこれらの違いに注意を向けるよう保障する必要がある。女性の事実上の平等を保障し、女性の全能力を使って人権の主張と行使を可能にするためには、ICT政策及びプログラムの内容を検討する際に、男女の実質的な平等に基づくアプローチをとることが必要である。このアプローチは、女性の権利を推進する活動によって、男女の不平等な力関係を必ず変えられるということを意味している。女性は、機会の平等だけでなく、機

2.2.7 児童の権利

情報通信社会は、児童の権利に関する条約の原則を尊重し、推進しなければならない。全ての児童は、幸福な子供時代を過ごし、世界人権宣言によって全ての人に保障されている権利と自由を享受する権利がある。全ての人、市民社会、民間セクター、及び政府は、情報通信社会における児童の権利を支持する義務を負う。

2.2.8 障害者の権利

包括的な情報通信社会では、障害の種類及び程度を問わず、ICTを含む情報通信を完全かつ平等に利用する障害者の権利が、国の政策、法律及び規制によってあらゆるレベルで保障されなければならない。この目的を達成するために、障害者及び障害者組織が健常者と同等な完全参加を認められる情報通信社会の構築と促進の全過程を通じて、ユニバーサル・デザインの原則と支援技術の利用が強く推進され、かつ支持されなければならない。

2.2.9 規制と法の支配

国による規制は、法の支配を遵守し、国際的な人権基準に完全に従わなければならない。情報通信社会は、政府または政府の管轄下にある非国家主体の活動によって、或いは活動を怠った結果もたらされる、人権に対するどのような差別或いは搾取も引き起こしてはならない。ICTの利用に関する制限は全て、国際法の下で合法的な目的を追求し、その目的に厳格に一致し、法律により規定された、民主主義社会において必要な制限でなければならない。

2.3. 文化、知識及びパブリックドメイン

情報通信社会は、文化及び言語の多様性によって豊かにされ、保持され、また、口承の伝統を通じ受け継がれ、あるいは多様なメディアを通じて記録され、伝達される。そしてこれら全てにより、人間の知識の集大成に貢献する。人間の知識は全人類の遺産であり、全ての新しい知識が創造される豊かな源である。文化及び言語学的多様性の維持と、メディアの自由及び世界的な知識の共有の保障及び拡大は、情報通信社会にとって、自然環境の多様性とともに、極めて重要である。

2.3.1 文化及び言語学的多様性

文化及び言語学的多様性は、人中心の情報通信社会にとって不可欠な要素である。全ての文化には、尊重され、保護されるべき尊厳と価値がある。とりわけ、文化及び言語学的多様性は、情報及び表現の自由と、地域、国内及び国際的なレベルでコミュニティーの文化的活動に誰もが自由に参加できる権利とを基本としている。ここでいう参加活動には、文化的コンテンツのユーザー及び制作者としての両方の活動が含まれる。従来の通信メディアを含むICTには、世界の文化と言語を維持し、発展させる特に重要な役割がある。

2.3.1.1 能力開発と教育

文化及び言語学的多様性は保護されるだけでなく、育成もされなければならない。これには、どのような場合にも、従来のメディア及び新しいICTを含むどのような手段によってでも、自分自身の言語で自己表現する能力を伴う。情報通信社会における貢献者及び創造者となるためには、技術だけでなく、批判的かつ創造的な能力も必要とされる。そこで、教育・研修プログラムに関しては、ユネスコのグリュンワルト宣言に述べられているメディア教育に特に注目しなければならない。また、文化及び言語学的多様性により、文化的な商品やサービスの表現手段や普及手段への平等なアクセスが可能になる。その際には、コミュニティー主導の活動を優先させなければならない。

2.3.1.2 言語

言語の多元性は、活気に満ちた情報通信社会の中核をなす。優先事項を正しく判断できれば、文化及び言語学的格差を解消するために、ICTを利用することができる。過去には、ICTの開発により、ローマ字を基本とする言語(特に英語)が優勢となり、地域や少数派の言語が取り残されてしまうなど、不平等が顕著になることが頻繁に見られた。ICTの研究開発においては、障壁をなくし、言語及び文化間の不平等の解決に取り組むことが、優先されなければならない。

2.3.1.3 国際法と規制

国際法と規制は、既存の国際的な宣言や規約に従い、文化、言語及びメディアの多様性を強化するものでなければならない。特に、世界人権宣言第19条及び27条、市民的及び政治的権利に関する国際規約第19条及び27条、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約第13条及び15条、そして2001年の、文化の多様性に関するユネスコ世界宣言第5条及び6条が重要である。国際的な取引に関する協定では、音声や映像によるコンテンツやサービスを含む文化を、単なる商品として扱うのではなく、文化・言語及びメディアの多様性に対するニーズを考慮して扱わなければならない。文化の多様性に関する効果的で拘束力のある国際協定の実現をめざし、国際規約の制定を早期に実現しなければならない。TRIPS及びWIPOなどの著作権に関する既存の国際的な規制は、文化、言語及びメディアの多様性の推進を保障し、人間の知識の発展に貢献するものと見なされなければならない。

2.3.2 メディア

2.3.2.1 メディアの役割

表現の自由とメディアの自由は、情報通信社会のあらゆる概念の中心である。メディアは世界的なコミュニケーションの理想を実現する総合体である。全ての市民が参加し、積極的に関われるような、様々な情報のコンテンツの制作、収集及び分配活動におけるメディアの役割は重要である。特に発展途上国では、ラジオ及びテレビ放送が、質の高い情報を配信するのに最も効果的な方法であり続けるであろう。全ての形態のメディアは、デジタル時代における社会的なつながりと発展のために大きく貢献することができる。

第19条は、メディアの自由と多元性に関する5つの地域宣言の基礎となるもので、これにより今後も、あらゆる配信手段を通じ、メディアの役割を形作っていかなければならない。[4]これらの宣言は全会一致でユネスコ加盟国により可決されている。

安全性その他の事柄については、表現の自由とメディアの自由を侵害することを認めてはならない。メディアの多元性と多様性に関しては、適切な法律により、特定のメディアに極端に集中することを避けるよう保証されなければならない。

メディア専門家及びメディア制作者の、編集に関する独立性が保護されなければならず、またジャーナリズム及びその他のメディア制作分野における専門的かつ倫理的な基準の作成が、メディア従事者自身の責任によって行われなければならない。オンライン作家、ジャーナリスト及び編集者は、メディアに従事する他の労働者と同様、契約によりその権利と社会的な保護を保証されなければならない。

公共放送は、全ての人が情報通信社会に参加することを保障する、特別かつ重要な役割を担っている。国が管理するメディアは、独立した編集が可能な公益事業機関へと変えていかなければならない。

2.3.2.2 コミュニティー・メディア

コミュニティー・メディアは、独立した、コミュニティー主導の、市民社会に基盤をおくメディアで、全ての人、特に最も貧しく、社会から取り残されたコミュニティーが、情報通信社会にアクセスし、参加できるようにする特別な役割を担っている。コミュニティー・メディアは、情報伝達、発言、及び対話を可能にする重要な媒介である。コミュニティー・メディアを保護し、強化する法律や規制による枠組みは、社会的弱者が情報通信にアクセスすることを保障するために、特に重要である。

政府は、コミュニティー・メディアに対する法的な枠組みが非差別的であることを保障し、公明正大でかつ責任のある機構を通じて、公正に周波数を決定しなければならない。また、現在許可されていない地域でコミュニティー放送の運営を認める放送許可証を発行するため、その対象を設定しなければならない。周波数帯の計画や規制では、コミュニティー・メディアがアナログ及びデジタルの両方の環境で発展していかれるように、十分な周波数帯及びチャンネルの容量と、適切な技術水準を保障しなければならない。

コミュニティー主導のメディアに加え、最も貧しいコミュニティーや、文化及び言語学的多様性、または女性の平等参加を支援するプロジェクトを含む、従来のメディア及び新しいICTを利用した情報通信活動に投資し、これを支援するために、資金提供者である市民社会の協力を得て、コミュニティー・メディア基金が設立されなければならない。コミュニティーを基盤としたメディア及び通信センターの開発が促進され、ラジオやテレビなどの従来のメディア技術を、新たなICTの利用と結びつけることが支援されなければならない。

2.3.3 世界的な知識のパブリックドメイン

全ての人が利用できる知識のパブリックドメインを豊かにすることは、デジタル・ディバイドを解消し、知的創造活動や技術革新、そして技術の有効利用を積極的に進めていく基盤を提供する、持続可能な情報社会にとって不可欠な要素である。情報社会では、新しいデジタル形式で情報を保存することにより、これまでの慣習や法律に挑むような革新的な方法で情報をコピーし、伝達することができるようになった。一方、知識の私物化がますます進むにつれ、研究結果の利用が制限される恐れが出てきている。また、伝統的な原住民の知識を、その知識の所有者であるコミュニティーの意見を聞くことなく、営利目的で勝手に利用する企てがこれまでたびたびなされてきた。

2.3.3.1 原住民の知識

原住民族は、その伝統的な知識の守護者であり、その知識を保護し、管理する権利がある。現在の知的所有権の管理体制では、原住民の文化的及び知的所有権を十分保護することはできない。

伝統的な知識はいかなる特許権獲得の試みからも保護されなければならない。原住民は、自分たちの遺産をパブリックドメインの一部とするか否かを、自由に決定するべきである。更に原住民は、自分たちの知識を営利目的で利用させるべきかどうかを決定し、またどのような方法でそれを行うかを決定しなければならない。

我々は、知識の多様性を維持し、原住民族の文化的資源、知的資源及びいわゆる自然資源、特に植物や農業に関する知識を、営利目的の利用及び盗用から保護する手段に特に配慮しなければならない。

我々は国連に対し、地球サミットのアジェンダ21、第26条4項に従い、原住民の自己決定の権利と、先祖伝来のテリトリーに対する権利を、情報通信社会における彼らの伝統的な知識の保護、保存及び開発を保障するために必要な前提条件として認める、具体的な法律による枠組みを設定するよう強く求める。

2.3.3.2 著作権、特許権及び商標権

法律による制限を受けた知的独占は、知的所有権としても知られ、特に創造性と革新を促進する社会の利益のためにのみ認められている。知的所有権の検討と調整を定期的に行う際には、どれだけ十分にこの目的を果たしているかどうかを基準としなければならない。今日、非常に多くの人々が、世界的な知識のパブリックドメインにアクセスすることができずにおり、この状況は、最貧の人々及びコミュニティーに対する不平等と搾取の悪化の一因となっている。しかし、世界的な知識のパブリックドメインを広め、強化する代わりに、最近の開発ではむしろ情報の私有化がより一層進んでいる。特許権はソフトウェア(そしてアイディア)にまで広がり、その結果技術革新が制限され、独占化が進んでいる。何百万人もの人々を救える薬品があるのに、特許権を持つ製薬会社が高い特許料を支払えない国々でこれを利用できるようにすることを拒否しているため、病気に苦しむ人々がこの薬品を使えないでいる。著作期限は何度も延長され、事実上無期限となり、本来の目的を失っている。

2.3.3.3 ソフトウェア

ソフトウェアはデジタル情報の伝達手段と規制の枠組みを提供し、ソフトウェアへのアクセスができるかどうかによって誰が情報通信活動に参加できるかが決定される。そこで、ソフトウェアへの平等なアクセスが、包括的で人々に力を与える情報通信社会の基本となる。その際、プラットフォームの多様性が重要となる。

我々は、ソフトウェア関連の政策及び規制がデジタル社会へ与える影響を認識し、国の政策や特定のプログラムを通じ、様々なソフトウェア・モデルの影響や利点に関する意識を高めていかなければならない。特に、フリー・ソフトウェアという、どのような目的にでも自由に利用できるソフトウェアについて、その独自の社会的、教育的、科学的、政治的及び経済的な利益と可能性の研究、修正、再分配が推進されなければならない。フリー・ソフトウェアが発展途上国にもたらす、安価なコスト、持続可能な地域経済の発展と活発化、地域文化への容易な適用及び地域言語版の容易な制作、そして高い安全性と能力開発の可能性などの特別な利益を認め、宣伝し、また活用しなければならない。政府は、学校及び高等教育や公共の行政機関において、フリー・ソフトウェアの利用を推進すべきである。

国連は、WIPOの活動やTRIPS協定の役割を含め、独占的な知識及び情報の認識と管理に関する現在の取り決めが、貧困と人権に対して与える影響について基本的な検討を行わなければならない。知識が社会にとってほとんど役に立たなくなるまで私物化し続けるよりも、法律により知的独占を制限する方が、改革の刺激となり、イニシアティブに貢献できるということを保障するための努力が必要である。

2.3.3.4 研究

科学的な研究への民間セクターの参加が増えることで、特許品や科学的な知識がパブリックドメインとして利用できずに、私物化されるようになってしまう。そして、科学者や科学チームの間の競争が激しくなることで、科学的な実践活動の質が低下したり、秘密主義が起こったり、それまでは全ての人が利用できていた新しい発見の特許化が行われたりするようになってしまう。研究活動は、協力と公開性および透明性を基礎として続けられなければならない。

図書館、科学研究センター、大学などの公共団体は、公費による活動の成果をパブリックドメインにすることにより、文化及び知識の公共の利益を高めるために貢献することができなくてはならない。世界的な知識のパブリックドメインは、公の政策や、意識の確立及び投資計画を通じて保護され、広められなければならない。そしてこれらの手段により、公共団体或いは慈善団体の資金による全ての活動成果が、パブリックドメインとなるよう保障し、更にオンライン及びオフラインのメディアにおける情報のアクセシビリティーを、情報を普及するフリー・ドキュメンテーションという手段や、公共図書館及び科学やその他のパブリックドメインの情報へのアクセスを提供するオープン・アクセス・ジャーナルやオープン・アーカイブなどのイニシアティブにより、拡大しなければならない。生物のゲノムなど、全ての科学的データは、オープン・アクセスのデータベースにより全ての人が自由にアクセスできるようにしなければならない。

2.4 利用環境の整備

2.4.1 倫理的局面

情報通信社会は、我々の社会がどのように情報や文化的な所産及び知識を創造し、共有し、利用するかに関わっており、それが逆に、情報通信社会の発展を方向づけている。情報社会の価値基準は、国際的な同意を得た規約や宣言、及び憲章全体に含まれる原則を基盤としなければならない。

更に具体的には、知識及び情報源に対する、平等、公正かつオープンなアクセスが、その様な社会の基本原則として確立されなければならない。またこれは、知識及び情報源の保存と伝達にどのような技術的手段が使われようと、実行されなければならない。技術的、経済的な問題及び規制に関わる問題は、これらの原則に従わなければならない。

これに関連して、通信分野の企業における、公正で責任ある経営、倫理的なビジネス及び会計実務と、倫理的なメディアの業務が、特に重要となる。これらのケースでは、倫理的行動規範及び基準が採用されなければならず、また、その適用と違反に対する適切な罰則を監督する仕組みが設定されなければならない。ジャーナリズム及びその他のメディア制作における倫理規定及び基準の作成は、メディアに従事する労働者自身の責任において行われるべきである。

多様性の尊重は、情報社会で生じる争いを解決するための原則と機構の確立における中心基準とならなくてはならない。協力、平等、公正、統合、尊重及び団結という価値観の上に築かれれば、多様な情報社会は、文化間の相互作用の質を高め、文明間の有意義な対話の促進に重要な影響を与えることができ、ひいては世界平和をもたらすことに貢献できる。

2.4.2 民主的かつ責任ある統治

情報通信社会に関する国内及び国際的な規制は、国際的な人権基準に完全に従うものでなければならない。オープン性、透明性、責任感、そして法による支配が、地域から国家及び国際的な段階に至るまで、あらゆるレベルでの民主的な社会統治を導く原則とならなければならない。包括的で参加型の、そして平和な情報通信社会の実現は、統治側の迅速な対応と、政府による統治及び非政府的な統治の両方に関わる全ての関係者が、政治的、社会的及び経済的公平を漸次より広い範囲で実施していく統治活動に、積極的に参加することにかかっている。

情報通信社会に関する民主的な見方は、情報が市民にとって極めて重大であるとする視点であるが、これは民主社会には様々な代替手段や機会があるという認識に基づき、選択を行うために必要である。情報通信は明快な理解、論争及び決断の基礎となる。そして、民主主義の再生の基本である協力の文化及び習慣の形成に貢献する。このように情報通信技術は、政治に関わる意志がある場合にのみ利用される潜在的な利益を、世界のコミュニティーに提供する。

これに従い、情報社会に関する共通のビジョンを開発し、その理解を深めるというWSISの目的と、そのようなビジョンを達成する手段のために、情報社会の全ての局面に共通するコミュニケーション観と合わせて、コミュニケーションの権利、意見及び表現の自由の尊重、そして透明性、責任性及び民主性に対する義務を含んだ体制とが必要となる。

2.4.3 インフラストラクチャー及びアクセス

信頼のおけるインフラストラクチャーの深刻な欠如は、ICTを基本としたサービスをアフリカに住む人々に提供するにあたり、最も重大な物理的障害である。ここでは、既存のインフラストラクチャーとアクセス・ネットワークの断片的で不完全な構造と信頼性の欠如とが、いわゆるデジタル・ディバイドの根本的な問題となっている。

(テレ)コミュニケーションのインフラストラクチャーは、ICTを基本としたサービスの普及に不可欠であり、全ての人が、これらの技術及びサービスを、普遍的、持続的、ユビキタスに、かつ十分な支払い能力を持って、入手し利用できるようにする目的を達成する際の、中心となる。更に、エネルギーの確保が、インフラストラクチャーとアクセスの整備における前提条件となる。

アフリカ諸国間における、ほとんどの発言・情報及びインターネットのやりとりは、現在アフリカ大陸外を経由してなされている。これはアフリカに効率的なネットワークの仕組みがないからである。このためコストが増大し、常にアクセスが制限されてしまう。アフリカのネットワークのインフラストラクチャーを作る現在の活動が、支援され、また拡大されなければならない(例 インターネット交換ポイント)。

発展途上国における(テレ)コミュニケーションのインフラストラクチャー及びアクセスの整備と普及には、この地域の膨大なニーズに即した、経済的な投資が必要である。必要な資金の量を減らすために、国や地域の合同プロジェクト、また技術の(再)設計及び更新により、投資を効果的に行わなければならない。更に、企画の段階から様々な部門間の協力が組織的に進められなければならず、特にこの分野と非常につながりの深い、エネルギー及び運輸部門に注目する必要がある。最後に、ICTとラジオ・テレビ・ネットワークの間の特に強いつながりと技術的な類似性を利用し、政府及び企画当局は、これらのサービスの移送と普及に、共通のインフラストラクチャーを配備し、利用していかなければならない。

コミュニティー・テレセンター(公共のアクセス・センター)は、コミュニケーションの民主化に焦点をおいた、情報通信技術への効果的なアクセスとその戦略的な活用の場となった。政府はとりわけ、インフラストラクチャー及びICTへの、公正で手頃なアクセスを提供するテレセンターの開発政策を保障し、国民が、性別、民族、言語、文化及び地理的な状況に関係なくデジタル分野に参加できるような政策を促進しなければならない。これにより、地域の発展のためのテレセンター設立とその役割に関連した国の政策活動において、コミュニティーによる議論と積極的な参加が推進されるであろう。

衛星軌道は公共の資源として認識されるべきであり、公共の利益のために、公正で責任ある組織を通じ、配置されなければならない。更に、周波数帯の計画と規制も、複数のメディアがある中で、コミュニティー・メディアのための十分な衛星の容量を確保し、公正なアクセスを保障するものでなければならない。一定量の衛星軌道、衛星の容量、及びラジオ周波数帯を、教育的、人道的、またコミュニティー用、及びその他の非営利的な利用のために確保しておかなければならない。

世界的な情報インフラストラクチャーの拡大は、平等と協力の原則に基づかなければならず、また国内及び国際的なレベル両方の、公正な競争の原則及び規制によって支配されなければならない。

アクセスとインフラストラクチャー及び市民の研修、そしてローカル・コンテンツの創造を社会的ネットワークの枠組みの中で統合することと、明白な公共政策及び民間による方策とは、平等で包括的な情報社会の発展にとって、重要な基礎をなす。

2.4.4 資金及びインフラストラクチャー

既存及び新規の資金供給手段について、その考察と評価が行われなければならない。現在「デジタル連帯基金」の設立がアフリカによって提案されているが、もしその目標が明確に定められ、組織が公正に運営され、特にサービスが受けられない孤立した地域に住む人々のための公共サービスの促進が第一に目的とされるならば、そのような基金はアフリカの人々にとって真の希望となるであろう。更に我々は、世界各地のユダヤ人達が、ICTプログラム及びプロジェクトへの出資において重要な役割を果たすことができると強調する。

不十分な資金を最大限に活用するためには、費用効率の高い適切な技術を選択し、その一方でインフラストラクチャーの重複を避けることが必要である。これに加え、この目的のために、特にテレコミュニケーション部門と密接なつながりがあるエネルギー及び運輸部門に注目しつつ、様々な部門間及びネットワーク間の協力関係を利用することが考えられる。

資金提供者である市民社会の協力を得て、コミュニティー主導でコミュニティーを基盤とするメディア、及び従来のメディアと新しいITCによるメディアの両方を利用した情報通信イニシアティブに投資し、これを支援するコミュニティー・メディア基金が設立されなければならない。そしてインフラストラクチャーの重複を避け、国家或いは地域の枠組みの中で投資ファンドを促進する合同プロジェクトを実施する努力がなされなければならない。可能な限り、ICT及びラジオ/テレビ・ネットワークは、情報の普及に共通のインフラストラクチャーを使用すべきである。

2.4.5 人材開発―教育と研修

識字能力、教育及び研究は、知識社会の構築に必要な、情報交換に関わる基本的かつ相互関連的な要素である。知識の創造と獲得は、参加による総合的なプロセスとしてはぐくまれなければならない。それは一方通行の流れとして、或いは能力開発の一部に限られた活動として考えられてはならない。教育には、公教育、非公式な教育及び生涯教育という様々な分野があるが、いずれも、識字力のある市民と熟練した労働力の両方を育成することにより民主的な社会を築いていく基本となる。

コンピューターを通じた学習や通信教育の持つ可能性を十分に活用するためには、複数のメディアが存在し、言語も多様な社会において、地域の実状にあった方法を考慮しつつ、従来の教材や教授法によりこれを補っていくことが必要である。

能力をつける教育や、複数の情報手段及び研究成果にアクセスできる、情報通で教育を受けた市民だけが、知識社会に完全参加し、効果的に貢献することができる。それゆえ、発展の権利に関する宣言及び世界人権宣言の両方に記されている教育の権利を認識することが不可欠である。

情報社会における個人及びコミュニティーの向上のために計画された、能力開発イニシアティブは、基本的な識字能力とICT技能に加え、メディア及び情報を扱う能力、情報及び技術を発見し、評価し、利用し、創造する能力もまた対象としなければならない。特に、教育者、学生及び研究者は、フリー・ソフトウェアを利用、開発できなければならず、それには、ソフトウェアを自由に研究、修正、コピー、配信及び利用する能力が要求される。最後に、能力開発イニシアティブは、一般的な学習願望を刺激し、また若者及び高齢者、女性、障害者、原住民、移民コミュニティー、難民及び紛争後の国への帰国者などの、生涯を見据えた個々の特別なニーズに対応するよう計画されるべきである。またボランティアは、特に政府の研修機関の手が届かない社会的弱者のグループに対する知識伝達とその能力向上を支援することができる。

情報通信社会における能力開発には、メディア通信に関する知識を教える能力がある人々が必要である。そのため、あらゆるレベルにおけるトレーナー及び教育者の養成が、情報社会の辺縁部にいる人々にまで手をさしのべるために、ともに重要である。

図書館はデジタル・ディバイドに立ち向かい、市場の支配を受けずに継続的に情報へアクセスすることを保障するための重要な手段である。図書館ではこれを、公共の資金による研究成果を開放し、世界中の全てのタイプの学習者の識字力を高め、能力を開発し、自主性をもたらすコンテンツと教材を共有することによって行っている。更に、コンテンツ制作者に、知識のオープン・アクセスなパラダイムへと積極的に関与するよう説得することも行っている。

知識及び教育に対する世界的な障壁は、技術的な障害ではなく、法的及び制度的な行き詰まり(知的所有権法及び国際基準など)に注目し、クリエーターが自分の作品を保護し、かつ市民社会がそれらの作品から利益を得られるような共通の基盤となる、知的所有権に関する新しい統制を推進することによって、公正に判断され、解決されなければならない。

市民社会は、知識及び情報の制作と交換のための代替モデルのニーズを認める。世界的な知識の共有を保障し経済的に支援するために、市民社会関係者は、オープンで自立した新しい科学出版モデルの開発、ソフトウェアの制作、及びメンテナンス・プログラムと更新機能を備えたコミュニティー基盤の通信機関の設立を支持する。

2.4.6 情報世代と知識の発展

情報通信社会に関連する全ての分野で研究活動が推進されなければならず、その研究開発ではICTの社会的な利用に対する配慮が必要である。特にコミュニティー情報科学に関する研究が支援されなければならない。[5]これには実務家、学者及びコミュニティー間での研究計画の開発、コミュニティー情報科学のプロジェクトのリストアップ、失敗と成功の両方の要因の確認、そして研究プロジェクトと試行システムの支援が含まれる。また主要な科学的データと出版物へのオープン・アクセスを拡大することにより基礎研究が強化されなければならない。図書館、科学研究センター、大学などの公共機関は、独自の調査を助成し、多元的な知識体系を作成し、公共の資金でまかなわれる活動の成果を宣伝しなければならない。この知識体系は、全ての公共の場で、或いは公共のアクセスが可能な場(コミュニティー・センターや大学、学校、博物館、図書館、メディア・センター及びその他の専門機関)で、デジタル技術のみに強く依存する危険を避け、適切かつ複数のアクセス・モデルを通じ、利用できるようにしなければならない。

2.4.7 世界的なICT及び通信機関の管理

国際的な「ゲームの理論」は、世界的な情報経済においてますます中心的な役割を果たすようになってきた。最近では、政府がテレコミュニケーション、ラジオ周波数帯、及び衛星サービスに対する従来の国際的な規制の緩和を行い、新に、サービスや知的所有権、「情報の安全」及び電子商取引等に関する、国際取引のための多面的な協定を作成した。同時に、ビジネス・グループが、インターネットの認証(名称及び番号)、インフラストラクチャー及びコンテンツに関する様々な「自主規制」による取り決めを定めた。

これらの規制及び関連する世界的な管理体制が、少数の強力な政府及び企業によって、またそれらの利益のために企画され、既成事実として世界へ輸出されることは容認できない。その代わりに、これらの規制及び管理体制は、国際的なコミュニティー全体の様々な視点と利益を反映するものでなくてはならない。この全体に行き渡るという原則は、手続き上の面と実質的な面の両方に当てはめられる。

手続き上の面については、包括的な参加、公正、民主的な責任性という価値基準に基づいた決断のプロセスが求められる。特に、発展途上国や経済的な変換期にある国々、世界的な市民社会組織、中小企業及び個人ユーザーなど、社会の進歩から取り残された関係者の、完全かつ効果的な参加を促進するためには、制度改革が必要である。

実質的な面については、世界的な管理の枠組みにより、国家間及び社会グループ間でのより公正な利益の配分を推進しなければならない。そのためには、営利目的とその他の正当な社会目的をもっとうまく両立させる必要がある。例えば、既存の国際協定を改革し、次のような事柄を推進することが考えられる。すなわち、通信オペレーターの相互同意に基づく、ネットワークの連携及びネットワーク取引による収益の分配の効果的な管理と、開発及び非営利目的による利用を十分に支援するラジオ周波数帯及び衛星軌道の位置の公正な割り当て、他国と異なる特別な扱いを必要とする発展途上国のニーズを考慮した電子商品及びサービスの公正な取引、情報源及び思想のオープンなパブリックドメイン、そして人権、消費者の安全、個人のプライバシーの保護である。これと並行して、特に豊かでない国々(とはいってもそのような国々に限るわけではない)における、電子産業分野の持続可能な開発を経済的に支援し、言語、文化及び情報の多様性と、ICT及びマスメディア産業における市場支配力の集中の軽減を推進するための、様々な新しい国際協定も必要である。

この問題に関する、WSISの議論によれば、インターネットの基礎的なシステムの世界的な調整に特に注目する必要があるということだ。インターネットは公共電話のネットワークのような単一の通信「基盤」ではなく、その代わりに高度に普及した一連のプロトコルであり、プロセスであり、任意の自主連携ネットワークなのである。従って、どのような単一の組織或いは利害関係者達の集団も、インターネットを効果的に管理することはできない。排他的な政府間組織のようなものは、特にインターネットの独特な性質に適さない。真にオープンで、複数の関係者が関与し、柔軟性のあるアプローチだけが、インターネットの持続的な成長と多言語メディアへの移行を保障することができる。これに匹敵するものとして、システムの安定に必要な条件の整備と、健全な管理を保障できるなら、本質的に世界的なインターネット・システムを管理する、ルート・サーバーのような機関が、世界的で、多数の関係者が参加するインターネット管理組織へと転換されるべきであろう。

国際的なコミュニティーは、ICTの世界的な統治に関する政策決定についての知識及び情報へ完全かつ容易にアクセスできなくてはならない。これは前述の原則の実施にとって、またWSISの活動それ自体の成功にとっても、全く基本的な前提条件である。我々は、政府間組織及び、特に国際電気通信連合、世界貿易機関、世界知的所有権機関、国連国際商取引法委員会、経済協力開発機構、国際私法に関するハーグ会議、アジア太平洋経済協力会議、北米自由貿易協定、ICANN(アイキャン)、ワッセナー・アレンジメントなどの「自主管理」組織の、両方が関与する活動を、公共の利益を考慮しつつ、監視・分析しなければならない。

この方向に向けた発展の第一歩として我々は、真の意味で複数の関係者が参加する、独立した監視委員会の設立を勧告する。この委員会の目的は、次の3点である。(1)ICTの世界的な管理に関する政策決定において、最も急を要する現在の開発課題を見出し、その進展を見守る。(2)WSISのアジェンダで述べられている目的に従った、そのような政策決定に関する関係者の意見を評価し、これを求める。(3)WSISの活動に関わる全ての関係者に、活動の継続或いは停止を決断する時である2005年に至るまで、定期的な報告を行う。

3. 結論

社会を形成する中心となるのは、人間であり、情報通信社会もその例外ではない。市民社会の活動者達は、情報通信社会の技術、文化及びコンテンツの重要な改革者かつ作成者であり、将来もそうあり続けるであろう。

人権は、情報通信社会に対する我々のビジョンの中核をなす。[6]この立場から、行動計画、手段、資金供給の仕組み及び管理の全てについて、人間の生活に不可欠なニーズを満たす力があるかどうかに基づき、決定し、評価しなければならない。

ジュネーブでのWSIS以降、活動に貢献し、関与する各主催国及び各機関は、情報通信社会の基礎となる人権に関する原則を含む、ジュネーブ・サミットで採択された宣言で謳われている原則を、十分に尊重していかなければならない。これらの原則には、表現、連携及び情報の自由も含まれるが、しかしこれらだけに限られるわけではない。

この目的のために、そしてWSISの第二段階への準備として、国内及び国際的なICTに関する規制及び慣習と、それらが国際的な人権基準に従っているかどうかを独自に再検討する委員会が設立されなければならない。この委員会は、また、発展の権利、教育の権利及び心身の健康と、食糧、住宅及び医療を含む、個人及びその家族の幸福のための適切な生活水準を保つ権利などの人権の実現に向けた、ICT利用の可能性にも取り組まなければならない。

公正な情報社会の完全な実現には、その概念と手段及び実施における市民社会の完全参加が必要である。この目的のため、我々はWSISの準備活動に関わる全ての政府が、非政府組織及び市民社会組織との確かな信頼関係のもとに活動し、国連総会決議56/183の勧告に完全に従うことを要求する。特に関係各政府は、WSISの第二段階へとつながる、今後政府間で行われる残りの準備活動に、市民社会が完全参加する権利を尊重しなければならない。

我々は、政府が認めた参加形式とは別に、あらゆる公正かつ公平な必要手段により、この文書に提案されている情報社会のビジョンの実現を追求することに全力を投じる。そしてこの目的のために、市民社会組織は、WSISの第二段階に向けた行動計画を進展させる相互協力活動を続けていく。我々は世界の指導者達に、このビジョンを現実のものとするために、彼らが直面している課題に対し、市民社会との協力により緊急に責任ある態度で取り組むことを求める。

承認された宣言は編集され(問い合わせ先ct-endorse@wsis-cs.org)、http://www.wsis-cs.orgに保存されている。

[1]2003年12月12日改訂

[2]単一の情報通信社会或いは知識社会は存在せず、地域、国、及び国際的なレベルにおいて、それぞれ未来の社会が想定される。更に、どのような情報社会においても、コミュニケーション(通信)が重大な局面であることを考慮し、我々は本文書で「情報通信社会」という言葉を使用する。ただし、これまでWSISで使用されてきた言葉と統一するため、WSISに直接言及する際には、「情報社会」という言葉を使用する。

[3]本文書では、「フリー・ソフトウェア」という言葉はフリー・ソフトウェア協会によって定義された特定の概念を示している。すなわち、フリー・ソフトウェアとは、人々が自由に利用し、コピーし、普及し、研究し、修正し、改良することができるよう認定されたソフトである。フリー・ソフトウェアは、「オープン・ソース・ソフトウェア」と同様、ソース・コードへのアクセスを伴う。しかし、広く使われているオープン・ソース・ソフトウェアという言葉は、必ずしも我々が定義するところのフリー・ソフトウェアとは一致しない。上記の活動の全てを許可することなく、オープン・ソース・ソフトウェアを公開している組織もある。この点に関する詳細な議論はhttp://www.fsf.org)/ 及び http://www.fsfeurope.org/ を参照のこと。

[4]1991年アフリカの出版の自由及び多元性の推進に関するウィンドホーク宣言(the Windhoek Declaration on the Promotion of Free and Pluralistic African Press)、1992年アジアのメディアの独立性と多元性の推進に関するアルマ・アタ宣言(the Declaration of Alma Ata on Promoting Independent and Pluralistic Asian Media)、1994年独立的かつ多元的なメディアの推進に関するサナア宣言(the Declaration of Sana’a on Promoting Independent and Pluralistic Media)、1997年(1995年及び1997年採択)ヨーロッパの多元的かつ独立的なメディアの推進に関するソフィア宣言(the Sofia Declaration on Promoting European Pluralistic and Independent Media)

[5]ここでいうコミュニティー情報科学とは、コミュニティーがその問題解決のために開発した、情報通信技術の設計、実施及び管理に関する学際的な研究及び実践を意味する。この分野はICTの社会的な影響―社会情報科学としても知られている―及び情報通信システムの分析、そして設計技術に関する社会科学的研究を取り扱う。

[6]この宣言の何も、市民社会が、国際的な権利章典及びその他の人権に関する協定で述べられている権利と自由の侵害を目的とするいかなる活動への参加も、或いはいかなる行動をとることも望んでいるものとして解釈されてはならない。