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国連世界情報社会サミット(World Summit on the Information Society : WSIS)

WSISフェーズ1の成果:原則宣言(仮訳)

項目 内容
発表年月 2003年12月12日
備考 文書 WSIS-03/GENEVA/DOC/4-E 英語原文

情報社会を築くために:新世紀における世界的な挑戦

A. 情報社会に関する共通のビジョン

  1.  我々は、世界の人々の代表として、2003年12月10日から12日まで世界情報社会サミットの第一段階に参加するためジュネーブに会した。我々はここに、人中心の、包括的で開発志向の情報社会、すなわち、誰もが情報と知識を創造し、利用し、また共有することができ、個人、コミュニティー及び民族が、国連憲章の目的と原則に記されているように、持続可能な開発と生活の質の向上を進めていく上で、十分な潜在能力を発揮することができる社会を築くため、我々の共通の希望と決意とを宣言する。これはまた、世界人権宣言を十分に尊重し、支持するものである。
  2.  我々は、情報及びコミュニケーション技術の可能性を利用し、ミレニアム宣言の開発目標、すなわち、極貧と飢餓の根絶、世界的な初等教育の普及、両性の平等の推進、女性の地位の向上、児童死亡率の減少、妊産婦の健康促進、エイズ、マラリアその他の疾病の撲滅、環境保護と、より平和で公正な、繁栄した世界の実現のための国際協力の発展を推進することに挑戦する。我々はまた、持続可能な開発と、ヨハネスブルグ宣言及び実施計画、モントレーコンセンサス、その他の関連する国連サミットで合意に達した開発目標の達成に対する我々の決意を繰り返し宣言する。
  3.  我々は、ウィーン宣言に記されている、開発の権利を含む全ての人権と基本的な自由の普遍性、不可分性、相互依存性、及び相互関連性をここに再確認する。我々はまた、民主主義と、持続可能な開発、人権及び基本的な自由の尊重、そしてあらゆるレベルにおける望ましい統治は、相互に依存し、かつ相互に補強しあうということを改めて確認する。我々は更に、国内同様、国際的な場においても、法の支配の尊重を強化することを決意する。
  4.  我々は、情報社会の重要な基礎として、また、世界人権宣言第19条に記されているように、「すべて人は、意見及び表現の自由に対する権利を有し、この権利は、干渉を受けることなく自己の意見を持つ自由並びにあらゆる手段により、また国境を越えると否とにかかわりなく、情報及び思想を求め、受け、及び伝える自由を含む」、ということを再確認する。コミュニケーションは重要な社会的プロセスであるとともに、基本的な人間の要求であり、全ての社会組織の基盤である。更にコミュニケーションは、情報社会の中核となる。全ての人が、どこででもこれに参加する機会を持てるようにし、情報社会が提供する利益から、誰も取り残されることがないようにしなければならない。
  5.  我々は更に、世界人権宣言第29条の規定に対する我々の責務を再確認する。すなわち、「すべて人は、その人格の自由かつ完全な発展がその中にあってのみ可能である社会に対して義務を負い、また自己の権利及び自由を行使するに当たっては、他人の権利及び自由の正当な承認及び尊重を保障すること並びに民主的社会における道徳、公の秩序、一般の福祉の正当な要求を満たすことをもっぱら目的として法律によって定められた制限にのみ服する。これらの権利及び自由は、いかなる場合にも、国際連合の目的及び原則に反して行使してはならない。」このように、我々は、人間の尊厳が尊重される情報社会を推進しなければならない。
  6.  この宣言の精神にのっとり、我々は全ての国家の主権が平等であるという原則を支持することに全力を投じる。
  7.  我々は科学が情報社会の開発において中心的な役割を果たすことを認める。情報社会を築く要素の多くは、研究成果を共有することによって可能となった科学的及び技術的な進歩の賜である。
  8.  我々は、教育、知識、情報及びコミュニケーションが、人間の進歩、努力及び幸福の中核にあると理解する。更に、情報及びコミュニケーション技術(ICT)は我々の生活の事実上全ての分野に大きな影響を与えている。これらの技術の急速な発展はより高いレベルへの発展につながる全く新しい機会をもたらす。多くの従来の問題、特に時間と距離に関わる弊害を軽減する技術を最大限発揮することにより、歴史上初めて、世界の隅々の何百万人もの人々が、ICT技術の可能性を活用できるようになった。
  9.  我々は、ICTがそれ自体目的としてではなく、手段として見なされるべきだと認識する。適切な状況の下では、これらの技術は、生産性を高め、経済成長をもたらし、仕事を生みだし雇用の機会を増し、全ての人々の生活の質を向上させる強力な手段となりうる。更にこれらの技術により、人と人、国と国、そして異なる文化同士の対話を促進することができる。
  10.  我々はまた、今日、情報技術改革の利益は、先進国と発展途上国の間では、或いは様々な社会の内部では、公平に分配されていないことを十分に認識している。我々はこのデジタルディバイド(情報格差)をなくし、全ての人々、特にこの分野から取り残され、ますます置き去りにされてしまう危険性のある人々が、デジタル技術を活用する機会を得られるよう改革していくことを、改めて固く決意する。
  11.  我々は、我々自身のために、そして未来の世代のために、情報社会に関する共通のビジョンを実現することに全力を投じる。我々は、若者達が将来の労働力であり、時代を先導する創造者であり、また最も早くICTを取り入れる者であると認める。それ故、学習者、開発者、貢献者、起業家、また意思決定者としての若者達の能力を高めなければならない。我々は特にまだICTが提供する利益を十分に享受できていない若者達に焦点を当てる必要がある。我々はまたICTの利用開発とサービスの実施においては、児童の権利の尊重、及び児童の保護と幸福の保障に最大の努力を払う。
  12.  我々はICTの開発は、情報社会において不可欠な、また重要な役割を果たすべき女性にとっても大きな機会をもたらすことを確信する。我々は情報社会が女性の地位向上と、社会のあらゆる分野及び意思決定を下すプロセスにおける、平等な完全参加を可能にするよう、保障する責務がある。この目的のために、我々は両性の平等という視点を中心に据え、ICTをこの目的を実現する手段として利用しなければならない。
  13.  情報社会の構築においては、我々は特に、移民、国内避難民、国外難民、失業者、貧困者、少数民族、遊牧民など社会から取り残された弱者の特別なニーズに配慮しなければならない。我々はまた、高齢者や障害者の特別なニーズも認識しなければならない。
  14.  我々は、特に遠隔地や農村地方、また都市辺境部で生活する貧しい人々が情報にアクセスし、貧困から抜け出すための活動を支える手段としてICTを利用できるようにすることを固く決意する。
  15.  情報社会の発展においては、特に原住民の特別な状況を配慮し、その伝統や文化遺産を保存することを考慮しなければならない。
  16.  我々は、発展途上国、経済的な変換期にある国、後発発展途上国、小さな島国の発展途上国、内陸国の発展途上国、多額の負債を抱えた貧しい国、占領国及び占領地域、紛争復旧国、その他特別なニーズのある国や地域の人々のニーズに加え、自然災害など開発に対する重大な脅威をもたらす状況を、特に考慮し続ける。
  17.  我々は、包括的な情報社会を築くには、新しい形態の連帯と、政府及びその他の、民間セクター、市民社会、国際組織などの関係者間の協力と連携が必要であることを認識する。この宣言の大きな目標、すなわちデジタルディバイドを解消し、全ての人にとって調和のとれた公平で平等な開発を保障するには、関係者全ての精力的な参加が必要であることを理解し、我々は国内及び国際レベルの両方における、デジタル分野に関する連帯の必要性を主張する。
  18.  この宣言の何も、国連憲章及び世界人権宣言、その他のいかなる国際的な法律文書及びこれらの法律文書を推進するために採用された国内の法律の条項を損ない、否定し、制限し、あるいは軽視するものとして解釈されてはならない。

    B. 全ての人々のための情報社会:重要原則

  19.  我々は、誰もがICTの利用により利益を得られるよう保障していくことを固く決意する。我々は、この目標のために、全ての関係者が、情報・コミュニケーションのインフラストラクチャー及び技術へのアクセス、そして情報と知識へのアクセスの改善、能力開発、ICT利用における信頼と安全の強化、あらゆるレベルにおける利用環境の整備、ICTの利用開発と普及、文化的多様性の促進と尊重、メディアの役割の理解、情報社会の倫理的な問題への取り組み、そして国際的及び地域的な協力の奨励のために、ともに活動すべきであるという点で同意する。我々は、これらが包括的な情報社会の構築のための重要原則であることを認める。

    1) ICT開発促進における政府及び全関係者の役割

  20.  政府及び、民間セクター、市民社会、国連その他の国際機関は、情報社会の開発、また場合によっては意思決定のプロセスおいて、重要な役割と責任を持つ。人中心の情報社会を築くことは、全ての関係者間の協力と連携が必要な、共同作業である。

    2) 情報・コミュニケーションのインフラストラクチャー:包括的な情報社会の重要な基盤

  21.  情報社会の構築を可能にする中心的役割を果たすのは、接続性である。ICTのインフラストラクチャーとサービスを普遍的に、また平等に利用できるようにすることは、情報社会の目標の一つであり、その構築に関わる全ての関係者の目的とされなければならない。接続性はまたエネルギーや郵便サービスの利用も含み、これらは各国の法律に従って、確実に保証されなければならない。
  22.  地域や国及び地方の状況に応じた、アクセシブルで利用しやすい、またブロードバンドその他の革新的な技術を可能な限り最大限に利用している、高度に発達した情報・コミュニケーションネットワークのインフラストラクチャーとその適用は、国家の社会的及び経済的な発達を促進し、全ての個人、コミュニティー及び民族に、より大きな幸福をもたらすことができる。
  23.  安定した、予測可能な、かつあらゆるレベルにおいて公正な競争が行われる、望ましい傾向をもたらす政策は、ICTのインフラストラクチャーの開発に対する民間の投資を促すだけでなく、従来の市場ではうまく作用しなかった分野で、普遍的な公共サービスを提供する義務を果たせるよう、開発され、実施されなければならない。恵まれない地域では、郵便局、学校、図書館及び情報センターなどに公共のICTアクセスポイントを設置することにより、情報社会のインフラストラクチャーとサービスを誰もが確実に利用できる、効果的な手段が提供できる。

    3) 情報及び知識へのアクセス

  24.  包括的な情報社会においては、全ての人が、情報・思想及び知識を利用し提供する能力を持つことが不可欠である。
  25.  開発に関する全体的な知識の共有と強化は、ユニバーサル・デザインや福祉機器の利用に加え、経済、社会、政治、健康、文化、教育及び科学的な活動のための情報への公平なアクセスに対する障壁を取り除くことによって、また、パブリックドメインの情報へのアクセスを容易にすることによって促進される。
  26.  パブリックドメインの情報の充実は、情報社会の成長にとって重要な要素であり、教養ある人々、新しい仕事、改革、ビジネスの機会そして科学の進歩などの多種多様な利益をもたらす。パブリックドメインの情報は、情報社会を支えるために、容易にアクセスでき、かつ悪用されないよう保護されなければならない。また、文書記録の保存と情報への自由かつ公正なアクセスを促進するために、図書館及びアーカイブ、博物館、文化的コレクションや、その他の地域に根ざしたアクセスポイントを強化しなければならない。
  27.  情報と知識へのアクセスは、競争を拡大し、ユーザーの利用や選択肢を増やし、全てのユーザーが自分のニーズに最も適した解決方法を開発できるよう提供される、有料ソフトをはじめオープンソース及びフリーソフトを含む様々なソフトウェアモデルの可能性に対する、全ての関係者の認識を高めることによって促進することができる。ソフトウェアを手頃に入手できるということは、真に包括的な情報社会を構成する重要な要素と見なされるべきである。
  28.  我々は、全ての人が科学的知識に対し平等な機会を持って、普遍的にアクセスできるようにし、また、科学出版物へのオープンアクセスプランを含む、科学的及び技術的な情報の創造と普及を促進することに努める。

    4) 能力開発

  29.  どの人も情報社会と知識経済活動を理解し、これに積極的に参加し、十分にその利益を享受するために、必要な技術及び知識を得る機会を持たなければならない。識字力と全ての人に対する初等教育とは完全に包括的な情報社会を築くための重要な要素であり、特に女子児童や女性の特別なニーズを考慮しなければならない。ICTの幅の広さと、あらゆるレベルで情報のスペシャリストが必要なことを考えれば、能力開発の制度を充実させることは特に注目に値する。
  30.  障害者、恵まれない人々及び社会的弱者の特別なニーズを考慮し、あらゆる教育段階、研修及び人材開発におけるICTの利用が促進されなければならない。
  31.  義務教育後の教育及び成人教育、再研修、生涯教育、通信教育、そして遠隔治療などその他の特別なサービスは、雇用機会を増やすことに大きく貢献し、また従来の仕事や自営業、また新しい職業に対してICTが提供する新たな可能性から人々が利益を得るために役立てられる。この点で、ICTに関する認識及び能力は重要な基礎となる。
  32.  コンテンツ制作者、出版社、プロデューサーは、教師、トレーナー、公文書保管人、図書館司書及び学習者とともに、特に後発発展途上国で、情報社会の推進において積極的な役割を果たさなくてはならない。
  33.  情報社会の持続可能な発展を達成するためには、ICT研究開発における国家の能力が強化されなければならない。更に、特に先進国と、経済的変換期にある国々を含む発展途上国の間の、研究開発、技術移転、ICT製品の製造と利用、及びサービスにおける連携が、情報社会での能力開発と世界的な参加を進めるに当たり、極めて重要である。ICTの製造は、富を創造する重大な機会を提供する。
  34.  特に、経済的変換期にある国々を含む発展途上国にとって、情報社会の正式な一員となり、知識経済活動に実質的に統合されるという我々共通の目標の達成は、教育や技術的専門知識、また情報へのアクセスという、開発と競争を左右する重要な要素である分野での、能力開発の強化に大きく依存している。

    5) ICTの利用における信頼と安全の確立

  35.  情報の安全とネットワークの安全、認証、プライバシー及び消費者の保護などの、信頼の枠組みを強化することは、情報社会の発達にとって、また、ICTの利用者の信頼を確立するために、欠くことができない。全ての関係者及び国際的な専門家集団によって、全世界でサイバーセキュリティーのニーズを満たす文化が奨励され、開発され、実施されなければならない。そしてその努力は、交際的な協力体制を強化することによって支援されなければならない。このサイバーセキュリティーに基づく世界的な文化の中で、情報へのアクセスと情報交換とを更に進める一方で、安全を強化し、データとプライバシーの保護を保障することが重要である。更に、各国の社会・経済的な発展のレベルを考慮し、情報社会の開発志向の局面を尊重しなければならない。
  36.  全ての国々の、普遍的かつ非差別的なICT利用の原則を認識し、我々は、国際的な安定性と安全性を維持する目的に反する目的のために、また、国家内のインフラストラクチャーの安全性を損ない、その保全に悪影響を与える可能性がある目的のために、ICTを利用しようとすることを禁止する国連の活動を支援する。また、人権を尊重する一方で、情報と情報技術の犯罪及びテロ目的の利用を防ぐことが必要である。
  37.  スパムメールはユーザー、ネットワーク及びインターネット全体にとって重大なかつ増加しつつある問題である。スパムメールとサイバーセキュリティーは、適切な国内及び国際レベルで対処されなければならない。

    6) 利用環境の整備

  38.  国内及び国際的なレベルでの利用環境を整えることは、情報社会にとって極めて重要である。ICTは望ましい統治のための重要な手段として利用されなければならない。
  39.  国家の現実を反映した、支援的で明白な、かつ自由競争を認め、技術的に中立で、予測可能な政策と統制の仕組みを伴った法による支配は、人中心の情報社会を築くために不可欠である。政府は、必要に応じ、市場の失敗を正し、公平な競争を保ち、投資を促し、ICTのインフラストラクチャー及び利用開発を強化し、経済及び社会的利益を最大限に増やし、国家の優先課題に取り組むために、介入しなければならない。
  40.  海外の直接投資や技術移転、及び特に経済分野における、借金や取引などの国際協力を支える活発な国際環境を整えることは、世界的な意思決定における発展途上国の完全かつ実質的な参加とともに、ICTに関連する各国の開発努力を補う極めて重要な要素である。世界的に利用できる接続性を改善していくことは、これらの開発努力の効果を高めるために大きく貢献するといえる。
  41.  ICTは、特に中小企業に高い効率性と生産性の増加をもたらし、その成長を可能にする重要な役割を持っている。この点で、情報社会の開発は、先進国及び発展途上国両方の広い範囲の経済成長にとって重要である。ICTに支えられた生産性の増加と経済部門全体に渡る改革が促進されなければならない。利益の公正な分配は、貧困の根絶と社会の発展に貢献する。生産性のある投資を促進し、企業、特に中小企業がICTの利益を得るために必要な改革を実施できるようにする政策は、最も有益な効果をもたらす。
  42.  知的財産の保護は、情報社会における革新と創造を推進するために、重要である。同様に、知識を広く普及し共有することも、革新と創造を促進するために重要である。十分な認識と能力開発を通して、全ての人々が知的財産の問題に深く関わり、知識を共有することは、包括的な情報社会の根本をなす。
  43.  情報社会における持続可能な開発は、ICT関連の活動や計画が、国内及び地域内の開発政策に完全に組み込まれた場合に最も進められる。我々は「アフリカ開発のための新パートナーシップ(New Partnership for Africa’s Development)」を評価し、国際社会が、このプラン、及び他地域の同様な活動プランの、ICT関連の政策を支持するよう奨励する。ICT主導の経済成長による利益の分配は、貧困の根絶と持続可能な開発に貢献する。
  44.  標準化は、情報社会の重要な構成要素の一つであり、特に国際的な標準規格の開発と採用に重点がおかれなければならない。オープンで、相互操作が可能であり、非差別的で、ユーザーや消費者のニーズを考慮した需要主導型の標準規格は、ICTの開発とより広い普及、更に、特に発展途上国で、より入手しやすくするための、基本的な条件である。国際的な標準規格の目的は、消費者が、基本的な技術に関わらず、世界中でサービスを利用できる環境を作ることにある。
  45.  ラジオ周波数帯については、公共の利益を考慮し、法律厳守の原則に従って、各国の法律や規制、及び関連する国際協定を完全に遵守して対処されなければならない。
  46.  情報社会を築く際には、国は、当該国の国民による経済及び社会の発展の完全な達成を妨げ、それら国民の幸福を妨げる、国際法や国連憲章に反するあらゆる一方的な政策を避けるために、手段を講ずることが強く勧められる。
  47.  ICTが我々の労働習慣を次第に変えつつあることを認識し、全ての関連する国際的な基準を尊重し、ICTの利用に適した安全かつ健康的な労働環境を作ることが重要である。
  48.  インターネットは、一般市民が利用できる世界的な機関へと進化したので、その管理が、情報社会の重要な中心課題とならなければならない。国際的なインターネットの管理は、政府や民間セクター、市民社会及び国際機関が全て参加し、多面的かつ公明正大、民主的に行われなければならない。そして情報の公正な分配と、全ての人による利用を保障し、また、多言語が使用されることを考慮し、インターネットが安定して、安全に機能を果たせるよう保障しなければならない。
  49.  インターネットの管理には、技術的な面と国の政策に関わる面の両方が含まれ、全ての関係者と関連する政府間組織及び国際機関が参加しなければならない。この点については、下記の事柄が認められる。
    a) インターネット関連の国の政策を認可することは、国家の大権で、各国政府は、国際的なインターネットに関連する国の政策に対し、権利と義務を負う。

    b) 民間セクターはこれまで通り、技術及び経済分野の両方において、インターネットの開発に重要な役割を果たし続けなければならない。

    c) 市民社会もまた、特にコミュニティーのレベルで、インターネットの問題では重要な役割を果たしてきたが、今後も引き続きその役割を果たさなければならない。

    d) 政府間組織は、これまで通り、インターネット関連の国の政策に関する課題の調整において、支援者としての役割を果たし続けなければならない。

    e) 国際機関も、これまで通り、インターネット関連の技術的な標準規格と関連する政策の開発に重要な役割を果たし続けなければならない。

  50.  国際的なインターネットの管理に関する問題には、協調の姿勢で取り組まなければならない。我々は国連事務総長に、2005年までに、先進国と発展途上国両方の政府、民間セクター及び市民社会の完全かつ積極的な参加と、関連する政府間組織及び国際機関とフォーラムの参加を保障するオープンで包括的なプロセスによって、インターネット統治に関する調査と行動の提案を適宜行う作業グループを設置するよう要請する。

    7) ICTの適用:生活のあらゆる局面における利益

  51.  ICTの利用と開発では、我々の日常生活の全ての局面における利益を創造することを求めなければならない。ICTの適用は、政府の事業やサービス、保健衛生情報、教育及び研修、雇用、仕事の創出、ビジネス、農業、運輸、環境保護及び自然資源の管理、災害防止、文化、また、貧困の根絶を促進するためや、その他の共通の開発目標において、潜在的に重要である。ICTはまた持続可能な生産及び消費傾向の一因となり、従来の障壁を取り除いて、全ての人が地域及び世界の市場により公平にアクセスする機会を提供する。ICTの適用はユーザーを考慮し、誰にとってもアクセシブルで、入手可能な、そして地域の言語や文化のニーズに合った、持続可能な開発を支援するものでなければならない。このために、地域の機関は、住民の利益のためにICTサービスを提供する重要な役割を果たさなければならない。

    8) 文化的多様性とアイデンティティー、言語的多様性とローカルコンテンツ

  52.  文化的な多様性は、人類の共通の遺産である。情報社会は、文化的アイデンティティーと文化的及び言語的多様性、伝統及び宗教の尊重を奨励し、これらを基に構築され、そして文化及び文明間の対話を育てるものでなければならない。多様な文化的アイデンティティーと言語の振興と確認、そして保存は、UNESCOの「文化の多様性に関する世界宣言」を含む、関連する国連の協定文書に反映されており、情報社会を更に豊かにしていくといえる。
  53.  様々な言語やフォーマットによるコンテンツの創造、普及及び保存は、包括的な情報社会の構築にあたり、最優先されなければならず、その際、特に多種多様な創造作品の供給を考慮し、また著者及び芸術家の権利について十分認識しなければならない。そして、多様な言語及びフォーマットによる、教育的、科学的、文化的或いは娯楽的なあらゆるコンテンツの製作とアクセシビリティーの促進が重要である。国内あるいは地域のニーズにあったローカルコンテンツの開発は、社会経済の発展を推進し、地方や遠隔地、辺境地域に住む人々を含む、全ての関係者の参加を促すことになる。
  54.  文化遺産の保存は、コミュニティーと過去とを結びつけ、個人のアイデンティティーと自己理解に関わる決定的な要素である。情報社会は、デジタル化を含め、あらゆる適切な手段を用いて、未来に向けて文化遺産を利用し、保存しなければならない。

    9) メディア

  55.  我々は、情報社会にとって極めて重要な、メディアの独立性と多元主義及び多様性の原則、及び言論の自由と情報の自由の原則に対する我々の責務を改めて表明する。知識を創造し、蓄積し、普及するために、情報を求め、受け、伝え、利用する自由は情報社会にとって重要である。我々は、メディアが最高の倫理的及び専門的基準に従い、責任をもって情報を利用し、取り扱うことを要求する。あらゆる形式の従来のメディアは、情報社会において重要な役割を持ち、ICTはこの点に関し、支援的な役割を果たさなければならない。そして、各国の法律に従い、また関連する国際協定を考慮しつつ、メディア所有権の多様性を奨励しなければならない。我々は、メディアに影響を与える、インフラストラクチャー、技術力、及び人的技能の開発などに関する国際的な不均衡を軽減する必要性を改めて認識する。

    10) 情報社会の倫理的課題

  56.  情報社会は、平和を尊重しなければならず、また自由、平等、連帯、寛容、共同責任という基本的な価値観を是認し、自然を尊重しなければならない。
  57.  我々は、情報社会における倫理の重要性を認める。情報社会は、正義と人間の尊厳及び価値を培っていかなければならない。また、家庭に対して可能な限りの保護を与え、家庭が社会において重要な役割を果たすことができるようにするべきである。
  58.  ICTの利用とコンテンツの創造では、関連する国際的な法律に従い、個人のプライバシー、思想の自由、良心、宗教などを含む、人権及び他者の基本的な自由を尊重しなければならない。
  59.  情報社会における全ての関係者は、民族主義、人種差別、外国嫌いや、その他これに関連する不寛容、嫌悪、暴力、小児性愛症や児童ポルノを含むあらゆる形態の児童虐待、人身密売及び搾取などに起因する、違法な活動によるICTの悪用に対し、法律によって定められた適切な行動と予防手段をとらなければならない。

    11) 国際協力及び地域内協力

  60.  我々は、ミレニアム宣言に記された目標を含む、国際的な同意を得た開発目標を達成し、この宣言にある重要原則を支持する活動において、ICTによってもたらされる機会を十分に活用することを目指している。情報社会は本来国際的な性質を持ち、国の活動は、政府、民間セクター、市民社会及び国際的な経済機関を含むその他の関係者間の、効果的な国際及び地域内協力による支援を必要としている。
  61.  包括的な国際情報社会を築くために、我々は、経済的及び技術的援助を含む、具体的な国際的アプローチと組織づくりを追求し、効果的に実施する。そのため、様々な機構を通じた現在進行中のICTに関する協力を評価する一方で、我々は全ての関係者に、行動計画で説明されている「デジタル連帯計画(Digital Solidarity Agenda)」への参加を勧める。我々は、デジタルディバイドを解消し、ICTの利用を推進し、デジタルを活用する機会を作り出し、ICTが開発にもたらす可能性から利益を得られるよう貢献することが、世界で意見の一致を見た目的であると確信している。我々は、「デジタル連帯基金」という国際的なボランティア基金を作る動きが表明された一方で、そのような基金の現在の仕組みと有効性及び実現可能性に関する研究を行う動きも表明されていることを認める。
  62.  地域統合は、国際的な情報社会の発展に貢献し、地域内及び地域間での強い協力を欠かせなくする。地域内の対話は、各国及び各地域の特性を尊重しつつ、各国の能力開発に貢献し、また、この原則宣言の目標に関する各国の政策を、矛盾しない方法で連携させることにも寄与する。このため、我々は、国際社会がそのようなイニシアティブによるICT関連の政策を支持することを歓迎し、奨励する。
  63.  我々は発展途上国、後発発展途上国、経済的な変革期にある国々に対し、この宣言及び行動計画の目的に従い、あらゆる経済源からの資金繰りと、経済的・技術的支援の提供、及び技術移転への近道となる環境作りを通じて支援を行っていくことを決意する。
  64.  ICTの分野に関するITU(国際電気通信連合)の中核業務、すなわちデジタルディバイドの解消と国際及び地域内協力、ラジオ周波数帯の管理、標準規格の開発と情報の普及は、情報社会の構築にとって極めて重大である。

    C. 共通の知識に基づく、全ての人々のための情報社会に向けて

  65.  我々は、この宣言に盛り込まれている重要原則に基づく、包括的な情報社会のビジョンを実現する行動計画の課題と実施に対する共通の答えを追求するための、協力体制の強化に全力を投じる。
  66.  我々は更に、ミレニアム宣言に記載された目標を含む、国際的な同意を得た開発目標を達成し、情報社会を築く上での投資と国際協力の有効性を評価するために、様々な発展の段階を考慮しつつ、デジタルディバイド解消の進展について評価し、フォローアップする責務を負う。
  67.  我々は、大きな可能性を秘めた新しい時代、人間のコミュニケーションが拡大した情報社会の時代へと、我々全体が向かいつつあることを確信する。この新しい社会では、世界の全ネットワークを通じて、情報と知識を生み出し、交換し、共有し、そして伝達することが可能である。我々が必要な行動をとれば、全ての人が直ぐに、共通の知識と国際的な連帯、及び民族や国家間のより深い相互理解に基づいた新しい情報社会を築くことができる。我々はそのような行動が、真の知識社会の将来への発展の道を開くと確信している。