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第2回IGF(インターネット・ガバナンス・フォーラム)報告

2007/11/18

濱田 麻邑
特定非営利活動法人 支援技術開発機構

第2回IGF(インターネット・ガバナンス・フォーラム)の概要

2007年11月12日から15日にブラジルのリオデジャネイロで第2回IGFが開催された。

IGFは、2005年11月にチュニジアで開催されたWSIS(世界情報社会サミット)のフェーズ2において合意されたチュニスアジェンダ67条により発足した。マルチステークホルダー(各界関係者)が政策対話をして、インターネットの恩恵をより多くの人にもたらすことができるように協議する場で、国際連合事務総長によって提唱されたものである。今回は、5つのメインテーマである、重要なインターネットリソース(Critical Internet Resources)、アクセス(Access)、多様性(Diversity)、開放性(Openness)、安全性(Security)を含む7つのメインセッションと、そのほかにワークショップ、事例報告フォーラム、ダイナミック・コアリション・ミーティング、オープン・フォーラムとして、84のイベントが開催された。障害者のアクセシビリティに関しては、多様性の一部として扱われた。

IGFでは、政府機関や民間セクターからだけでなく、市民社会からの参加が促されている。DAISYコンソーシアム(www.daisy.org)は、市民社会の団体として参加し、障害のある人たちの情報へのアクセスが保障されるように、政策や国際規格を策定する時点でユニバーサルデザインや支援技術を考慮するべきであること、障害者自身の話し合いへの参加・貢献が保障されるべきであること、国連障害者の権利条約に準拠するべきであること等を発言した。

IGF公式ウェブサイト:http://www.intgovforum.org/

ワークショップ「国連障害者権利条約とアクセシビリティに関わる標準規格の開発」

11月12日15:30~17:00に、「国連障害者権利条約とアクセシビリティに関わる標準規格の開発(Accessibility standards development and UN Convention on the Rights of Persons with Disabilities)」というワークショップが開催された。

インターネットのアクセシビリティに関わる指針と規格が、障害のある人たちのニーズを考慮したものであるかどうかを、21世紀初めての人権に関する条約である、国連障害者権利条約にも焦点をあてながら話し合うという趣旨で、2003年と2005年の国連世界情報社会サミットで開催された、情報社会における障害者のグローバルフォーラムをベースに構成された。

モデレーターは、日本から、DAISYコンソーシアム会長の河村氏で4名の講演者がそれぞれの立場から発表を行い、その後フロアとの質疑応答があった。

講演者の写真
写真左から、河村氏、オソルノ氏、カラス氏、ブンタン氏、アブザラ氏

初めに、タイ盲人協会(Thailand Association of the Blind )会長のモンティエン・ブンタン氏(Mr. Monthian Buntan)の発表があった。

国連障害者権利条約制定と国連情報社会サミット(WSIS)後の経緯を背景とし、障害者が情報や知識へアクセスし、他者とコミュニケーションをとることは人間の尊厳として不可欠であり、最低限の人権として保障されなければならないこと。国連障害者権利条約に明記されている事柄を現実のものとするためにも、アクセシブルでインクルーシブな情報社会が保障されるべきであり、障害者を含むすべてのステークホルダーの話し合いの場への参加と貢献なしにはそれは達成できないという話が中心であった。

アメリカのピープルフー(People Who)会長のシルビア・カラス氏(Ms. Sylvia Caras)は、精神障害者にとってのインターネットを介したコミュニケーションと知識と情報へのアクセスの困難と重要性について述べた。すべての障害者が、ハードウェア、インターネット、情報、人へのアクセスとそれらにアクセスするための教育を受けられるようにしていかなければならないという主張があった。

エジプト出身オーストリア在住の、W3C WAI(ウェブ・アクセシビリティ・イニシアティブ)のシャディ・アブザラ氏(Mr.Shadi Abou-Zahra)は、国際的なウェブ・アクセシビリティの規格の運営をしているW3CのWAIに関して技術的な視点からの話をした。

W3Cの規格は、公開されたフリーの規格であるため、規格開発に誰でも参加できる点、製作ツールや情報交換システム等情報を発信するためのアクセシビリティとコンテンツ自体のアクセシビリティの両方が必要である点、他の規格との互換性への配慮、また、認知・知的障害者のニーズに関してはまだあまり言及されていないのでこれから更なる研究開発が必要であること等の話があった。

コロンビアからは、世界ろう連盟(WFD)役員 の マーサ・ルキア・オソルノ・ポサダ氏(Ms.Martha Lucia Osorno Posada)から、世界の7千万人の聴覚障害者のメンバーがいるWFDの概要と、ユーザーとして、また支援者としての経験からの発表があった。情報のほとんどは文字によるものであることから、手話を第一言語とする人の情報へのアクセスとコミュニケーションにおける困難についての話があった。途上国の障害者には貧しい人が多く、支援技術やアクセシブルな情報があっても高価では手にすることができない(ラジオや電話等その他いろいろな技術も考慮するべき)という問題点や、障害者の中には教育を十分に受けられない人もいて、教育を受けていなければサービスがあっても使うことができない(情報をアクセシブルにするだけでなく、人を教育することが必要)という点についての発表があった。情報と知識を得る自由、表現と意見を述べる自由が保障されるべきであるとの主張があった。

講演予定であったアメリカ自閉協会(the Autism Society of America)のスティーブン・ショア氏(Mr.Stephen Shore) と、ブラジル人ジャーナリストのInter-American Institute on Disability の ロサンジェラ・バーマン・ビエラ氏(Ms.Rosangela Berman Bieler)は事情により参加できなかった。

質疑応答では大学の研究者、政府関係者、国連職員、NGO職員等から、経済面についてや、多様な障害者への対応に関して、また今後の方向性に関しての質問がでたり、他国での取り組みに関しての情報交換があったりした。

最後に、河村氏より下記のようなまとめがあった。

高齢になると、誰でも様々な障害を持つことが考えられるので、人生の各ステージにおいて、常にアクセシビリティについて考えなければならないこと。

ユニバーサルデザインのコンセプトは、障害のある人たちのニーズに対応する支援技術の活用によって実現できる。しかし、規格の開発が正しい方向に進めば、障害のある人たちのアクセシビリティや支援技術は、特別なものではなく、メインストリームに統合されていく。少しずつアクセシビリティを実現していく手法として、規格の開発を行う際に、長期的目標の初期の段階からユニバーサルデザインのコンセプトを用いることで、規格自体を障害のある人たちのニーズに最大限対応するものにできる。また、改革的な手法として、障害者権利条約という国際的な法律の実施プロセスとして、法的な枠組みが決まると、障害者のインクルージョンを強制するものとなり、規格の開発はそれに従うことになる。

これらの基本コンセプトに従い、障害者コミュニティと規格の開発団体が互いに協力していくことになるが、そのとき重要なのは障害のある人たちの参加である。シルビアも言ったように、障害のある人たちの開発への十分な参加が標準規格開発の成功の鍵となるだろうと締めくくった。

最後に、ワークショップの講演者は障害のある人たちであったが、参加には様々な困難があったことを報告したい。

聴覚障害のある講演者が参加し発表するためには、手話通訳者が必要であったため、関係者は手話通訳の保障を働きかけたが、時間が差し迫る中で書類処理等が間に合わず、会議開催者側で手話通訳を保障してもらうことはできなかった。問題であった点は、もともと障害者の参加のための保障がまったく準備されていないこと、多様なニーズへの理解がないこと、外国に住む英語が母国語でない聴覚障害者とのやりとりに配慮がないこと等だった。

車椅子使用の講演者は、参加手続きのために雨の中外を移動しなければならなかったし、会場のホテルにはアクセシブルな部屋の数が足りなくて、タクシーで時間のかかる離れたホテルに泊まらざるを得なかった。

第2回IGF(インターネット・ガバナンス・フォーラム)の成果

今回の成果のひとつとして、アテネで開催された第一回のIGFでは障害者に関する言及がなかったのに対し、今回の第二回のIGFの閉会式(closing)では、障害者のアクセスに関わることが言及された。

http://www.intgovforum.org/Rio_Meeting/Chairman%20Summary.FINAL.16.11.2007.pdf) 11月13日に、メインセッションのひとつである本会議の多様性のセッション(Plenary Diversity session)で、タイ盲人協会 会長のブンタン氏が話をした。(ビデオは、IGFのオフィシャルページのビデオのページの13日のReporting back / Diversityにある:http://www.igfbrazil2007.br/videos-archive.htm) セッションでは、障害のある人たちの多様性以外には、言語の多様性、文化の多様性、メディアの多様性等に関しての発言があった。

閉会式の様子

閉会式では、各メインセッションでの発言もまとめて発表された。障害者のアクセスに関わる部分には下記のようなものがあった。

  • アクセシビリティの保障においては、特に障害のある人を阻害しないためにはユニバーサルデザインと支援技術を活用することが重要であることがパネリストにより同意された。
  • 言語の多様性の話の中では書記文字のない言語、手話やアイコンを使う人のニーズが挙げられた。
  • 多様性の促進のひとつの方法として、規格への準拠がある。特にアクセシビリティに関する規格に準拠することは重要であるとの発言があった。
  • 著作権のある作品への、多様な言語や、あらゆる障害のある人たちのアクセスを保障するために、国際的な著作権上の問題を解決するためのグループの結成が提案された。
  • 失われつつある文化や言語の保存のためにも、多様な言語やフォーマットでの保存が喫緊の問題であるとの議論があった。
  • 参加者の多様性が実現できているかどうか、特に障害者を含む、すべての人の完全かつ積極的な参加が実現できているかどうかを再確認する必要があるという議論があった。
  • 多様性を実現するためには、インターネットは思いやりがあり、平和があり、バリアフリーな場所であるべきであるとの発言があった。

以上である。

最後に、貢献する社会の一員として障害のある人が社会参加するためには、インターネットの様々な規格を決める段階から多様な障害者のニーズが配慮される必要がある。このような配慮により、高齢化社会やマルチモダリティーにも対応できる、誰にとってもよりよい社会基盤ができるといえる。

次回のインドでの第3回目のIGFの会議では、主催者からの、障害のある講演者の参加への積極的なサポートがあることが期待される。そのために関係者は要望をまとめ始めている。