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国連世界情報社会サミット(World Summit on the Information Society : WSIS)

印刷物を読むことに障害のある人々向けの世界的な図書館構築に対する障壁の克服

Jim Fruchterman
非営利団体ベネフィック 技術者,アメリカ
http://www.benetech.org/index.shtml

項目 内容
会議名 WSIS フェーズ2 サイドイベント:障害者コーカス主催「第2回情報社会における障害者のグローバル・フォーラム」
発表年月 2005年11月15日、チュニス(チュニジア)
備考 英語版:原文

Jimの写真

「こんにちは。シリコン・バレーから来ました。皆様のお手伝いをします。」

こう言っても必ずしも慰めにはならないかもしれませんが、今日は私の話で皆様の不安をなくせたらと思います。私もそうですが、技術者というものは、技術的問題を解決するのが好きです。問題が重要であったり、劇的であったりすれば、さらに魅力を感じます。印刷物を読むことに障害のある人々向けの世界的なデジタル図書館を構築することも、そういう魅力的な問題のひとつなのです。さらに良いことには、今、解決に手が届くところまで来ました。

私たちは、視覚障害を持つ少女と彼女の晴眼の友人が、小説であれ、教科書であれ、新聞であれ、読み物に平等にアクセスできる世界を作りたいと思っています。そして、その世界は、視覚障害を持つ少女が、少なくとも晴眼の友人と同じように簡単に、安く、迅速に情報の全てにアクセスできるものでなければなりません。

目標

世界的な図書館構築の目標は何でしょうか。

障壁ではないもの

私たちの邪魔をするのは何でしょうか。目標の達成を阻む障壁は何でしょうか。

まず、障壁ではないものについてお話したいと思います。次のものは障壁ではありません。

  • お金 - 国際社会は、既に、本のアクセスおよび障害者のアクセシビリティに対し、私たちの目標の大部分を達成できるほどの額を投じています。
    AmazonとGoogleは既に、英語で入手できる本のほとんど全てについて、スキャンニング費用を計上し、他の言語の本のスキャンニングも開始しています。私たちは、障害者のアクセシビリティに関し巨額の資金を使っています。これは、かつては意味があるやり方でしたが、時が経つにつれ、ずっと安い方法に替わるでしょう。お金はあります。
  • 技術 -私たちには既に、目標の大部分を達成するための技術が備わっています。
    高速スキャンニング、チェック。高品質音声合成、チェック。自動化が進む障害専用のフォーマットへの変換、チェック(これは、もっとうまくやれるかもしれません)。PC上で本を音読する無料の会話ソフト、チェック。
  • 個人のアクセス -現在、携帯電話でアクセス可能な本を提供できるかもしれません。そして、これから5年か10年のうちに、最貧国を除く全ての国の人々にこれらの本を提供できるかもしれません。
    今日の携帯電話には、5年前のPCの処理能力があります。今後5年間に標準的な携帯電話は低価格で強力になり、障害者のアクセシビリティのためにやらなければならない全てのことができるようになるでしょう。
  • アクセスへの情熱 - 障害者は読書が大好きです。なぜなら、読書は教育から雇用、宗教への参加、社会統合まで、ほとんどの社会的目標の鍵となるからです。
    私たちは、障害者および障害者のことを気にかける人々の社会として、アクセスを獲得したいという熱意を持っています。
  • デジタルコンテンツの作成- 私たちが読みたいものの大多数は既にデジタル・フォーマットになっていて、アクセシブルなフォーマットに変換する準備は整っています。
    出版社は、デジタル図書が自分たちの事業の成功に不可欠なものになることを既に認識しています。出版社の事業目的と障害者のアクセシビリティへの欲求とが重なればしめたものです。

障壁

情報通信技術部門の発展によって、世界的な図書館は手に届くものになり、ユニバーサルアクセスの可能性も生まれました。私たちの仕事は、最後の障壁を探し、それを克服して、この可能性を現実のものにすることです。今日は、最大の障壁についてのみお話します。

最大の障壁は、国境を越えてコンテンツを共有する方法を発見することと、共有という合法的かつ実際的な一貫した文化を構築することです。なぜ、共有が困難なのでしょうか。

かつて共有は物理的に困難でした。印刷物であれ、大型活字であれ、点字であれ、音声テープであれ、本の物理的なコピーを国境や海洋を越えて送る労力と費用は相当なものでした。そして、送った側は返して欲しいと思ったことでしょう。けれども今は、電子形式で世界中に同じ情報を1セント未満で送ることができます。そして、電子情報の性質上、他人にコピーをあげても、通常自分のコピーはなくなりません。トーマス・ジェファーソンが、「私のロウソクから、誰かかが火を採ったとしても、私のロウソクは暗くならない」とアイデアと知的財産の共有をロウソクの灯りを分け合うことに例えたのは有名です。共有が難しかった頃から受け継いだ仕組みや習慣があるので、共有には今も困難があります。

主な問題は知的財産の制約です。著作権法および著者と出版社が締結する契約は、共有が難しかった頃からのものです。著作権法は各国の問題であり、国際問題ではありません。世界的な図書館を構築する夢の達成には、100を超える国の著作権法を遵守しなければならないことを理解するのは非常に骨が折れます。

ちょっと脱線して、著作権法の話をしましょう。私は著作権法の熱烈な支持者です。なぜなら、私には1980年代に2つの商用ソフトウェア会社を始めたという背景がありますが、視覚障害者向けのリーダーを開発し、ユニバーサルアクセスに向けたこの重要な作業に従事することができたのは、これらの会社の商業的な成功によるものだったからです。社会に何らかの価値をもたらすものを作るときに、価値の創造、本の執筆、繁栄しようという意欲があることが極めて重要です。

しかし、知的財産は不動産とは同じでないということを理解することは重要です。本は家ではありません。ジェファーソンが言っているように、アイデアは違います。アイデアは、その力を損なうことなく共有することができます。知的財産法は創造者、作家、発明家、社会の駆け引きなのです。著作権法は通常、著者と出版社に権利を与えますが、 同時に、社会に権利を留保します。すなわち、作品から引用する権利、図書館から借りる権利、中でも、最終的に作品を公有財産に転換する権利です。留保された権利すなわち著作権保有者がコピー作成を管理する権利の例外の1つは、印刷物を読むことに障害のある人々向けにアクセシブルなバージョンの図書を作成する権利です。しかし、これらの例外は、国によって異なりますし、さらに懸念されるのは、例外の効力が各国の国境内に限られる点です。国際著作権法に関する取引の一部に相互主義および国内制限があります。相互主義では、私たちの国内法は自国の著者を扱うのと同じように相手国の著者も扱わなければなりません。国内制限は、自国の法律は国内でのみ適用され、自国民が他国にいるときはその国の著作権法に従うことを了解するというものです。

現在、印刷物を読むことに障害のある人々のアクセス問題は国ごとに解決している状況であり、国境を越えた共有には、著作権法の構造に組み込まれた構造的障害があります。

私にこれらのアイデアの一部を実現させてください。非営利団体Benetechは、Bookshare.orgという印刷物を読むことに障害のある人々向けのデジタル図書館をアメリカに設立しました。アメリカの法律では、アメリカのいかなる本も、非営利団体が取り上げ、特別なフォーマットで印刷物を読むことに障害のある人々がアクセスできるようにするのは合法です。私は印刷物を読むことに障害のある人々という言葉をずっと使っています。盲人や視覚障害者だけにサービスを提供しているのではないからです。私たちは、本を持ったりページをめくったりすることができない重度身体障害者またはディスレクシアなどの深刻な学習障害者など他の障害のために読書ができない人々にもサービスを提供しています。現在、デジタル図書館の蔵書数は25,000冊で、100の日刊新聞も提供しています。ユーザーはこれらの本をダウンロードし、大型活字、点字または合成音声の形式でアクセスすることができます。アメリカ国内のユーザー数は数千人です。しかし、アメリカの著作権法はアメリカ国外では適用されませんので、国外の人々にサービスを提供することは困難です。

世界的なデジタル図書館の設立を妨げる著作権法の壁を克服するのにお勧めしたい方法が2つあります。これらは両方同時に追求するべきだと思います。

1つ目は、障害者のアクセシビリティの適用除外と相互アクセスの解決策を盛り込むよう各国の法律を修正する世界の著作権の改革です。この戦略は、英国王立盲人協会のDavid Mann率いる世界盲人連合が進めています。目的は、各国が自国の著作権法にこれらの適用除外を盛り込み、同じ目的を持った国々との国境を越えた共有が可能であることを明確にすることです。

さて、私は、これらの条項の実施は難しいだろうと以前は考えていました。しかし、David Mannの最新の提案を読んで、非常にはっきりとわかりました。その概念は、障害の適用除外の法案を通過させた国は「コピーが外国で作成され、上記の条件が満たされていれば、頒布できる」という簡単な追加条項を加えることができるというものです。

アメリカが新しい法律を通過することなく、新たにこの法律を通過した国でBookshare.orgが障害者へのサービス提供を開始できるようになるかもしれないので、これについてアメリカ合衆国著作権局で確認しています。なぜでしょう。アメリカの著作権法の適用除外の下に私たちがスキャナで読み込んだ図書の送付が阻止されたのは、私たちがアメリカで行ったことは、他の国の著作権法の下では合法ではないという理屈だったからです。これを合法化した国があれば、両国の法律の下で合法的になるでしょう。これは両国で合法化しなければならないという反論もあるでしょうが、とにかく調査しています。

2つ目の方法は、著者および出版社からの許可の取得ですが、現在の一般的な許可の取得方法よりもずっと幅広いものです。一般的な許可を得る方法は、私たちが去年まで行っていたものですが、想像しうる中で最も狭い許可を取得するものです。すなわち、組織、顧客、国に限定された許可です。しかし、障害者に対し健常者と同じくらい簡単に、安く、迅速にアクセスを提供する世界的な図書館を設立するという構想に賛成するなら、もっと視野を広げなければなりません。

私たちの新しい許可フォームでは、世界中の障害者へのアクセス提供および私たちのような非営利団体や政府機関を通して仕事をすることに対する許可を出版社と著者に求めています。また、自社の本のスキャンニングを行っているAmazonやGoogleなどの第三者と直接仕事をする許可も求めています。このフォームは、私たちの仕事を視覚障害者だけに限定するのではなく、印刷物へのアクセスが大きく損なわれている全ての障害者にまで広げるものです。そして、その許可はロイヤルティーなしで与えるよう求めています。

一般的に、出版社および著者はこのような許可を与えることに意欲的です。彼らは私たちに対し次のことを希望しています。

  • 本物の障害者へのアクセスに制限すること。
  • 本がマスマーケットに流出しないよう保証する努力をすること。
  • 本を違法に頒布する著作権法侵害者を起訴するときに出版社および著者を支援すること。

著者および出版社は正しいことをやりたいと考えていますが、自分たちの商業的利益が損なわれないことを保証してもらいたいと思っています。

これが、著作権法上の社会的駆け引きの重要ポイントで、許可の分野でこれに従えば、ずっと多くのことが達成できます。著者または出版社から国際的な許可を受けた瞬間、世界中のいかなる国の印刷物を読めないいかなる障害者に対しても本を頒布することができるようになります。実際には、相手国の機関と協力して、社会的な制約に従い、本物の障害者にサービスを提供していることを保証する必要があります。

既に、現在Bookshare.orgにある1,000冊以上の本とこれから6カ月間に蔵書に加わる2,000冊について許可を取得しました。このうち2/3は英語、1/3はスペイン語の本です。世界にサービスを提供する準備は整っています。

けれども、私たちの努力は十分ではありません。世界的な図書館はアメリカの図書館ではありません。英語の図書館でもスペイン語の図書館でもありません。世界中の仲間に、同様の許可をできるだけ多く取得し、著作権法の適用除外の法案をできるだけ多く通過してもらう必要があります。協力することによって、そして共有することによって、世界的な図書館を設立することができるのです。協力すれば、これから10年間、印刷物を読むことに障害のある人々に対し、地球上の他の全ての人と同様の簡単で、安く、迅速なアクセスを保証できるようになります。