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ひと目でわかる障害関連情報:アジア太平洋28の国と地域のプロフィール

プロフィールの構成

「ひと目でわかる障害関連情報:アジア太平洋28の国と地域のプロフィール」は、以下の28の国と地域から寄せられた障害関連のデータ・情報をまとめたものである:東・北東アジア5カ国(中国、香港特別行政区、日本、モンゴル、韓国)、東南アジア9カ国(カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、東ティモール、ベトナム)、南・南西アジア8カ国(アフガニスタン、バングラデシュ、ブータン、インド、モルディブ、ネパール、パキスタン、トルコ)、北・中央アジア1カ国(カザフスタン)、太平洋5カ国(オーストラリア、クック諸島、フィジー、キリバス、ソロモン諸島)。各国はいずれも、2004年に送付された、自己記入形式の「アジア太平洋障害者のための、インクルーシブで、バリアフリーな、かつ権利に基づく社会に向けた行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク(BMF)の実践に関するアンケート」に協力した。

さまざまなデータ・情報があり、そこから障害問題というレンズを通して、国や地域のプロフィールを見ることができる。この「プロフィール」は7つのカテゴリーのもと23の指標から構成されている。23指標のデータ・情報は、国・地域ごとに共通の表形式でまとめられた。

1)人間開発報告書の指数

このカテゴリーには、一人当たりGDP(国民総生産)および「人間開発指数(HDI)」の順位が盛り込まれている。これらはそれ自体は障害に特化したデータではないが、障害関連データを分析する上で開発の視点を提供するために盛り込まれた。

2)人口統計

このカテゴリーには、障害者人口と総人口に占める比率に関するデータ、障害および/または障害者の定義、労働年齢障害者の就業率、障害児・障害のある若者の教育へのアクセスに関するデータが盛り込まれている。こうしたデータによって、域内政府の基本的な障害統計の把握のあり方と度合いを理解することができる。

障害についての定義が盛り込まれたのは、域内における障害者人口の基礎データおよびその表現の多様性を明らかにするためである。2004年の調査で障害の定義を示すよう求められた各国政府は、障害者の定義および/または障害の定義を回答してきた。こうした理由から、2つのカテゴリーが取り入れられた。

障害者が教育・経済的機会に等しくアクセスできないことが社会参加への大きな阻害要因となっているとの考えから、また、こうした不平等が大きな問題であることを示す確固たる証拠が不足していることから、我々は労働年齢障害者の就業率および障害児・障害のある若者の教育へのアクセスに関するデータの収集を図った。我々はまた、全体の就業率を加えることにより、2つのグループの差異が分かるようにした。

3)制度的枠組み

障害は従来、単なる社会福祉と保護の問題と見なされる傾向があった。しかし実際には、障害問題は生活のあらゆる側面に及ぶ、より総合的な問題である。また、障害は広く開発課題の一環であるとする考えが高まってきた。ESCAPはこのようなより幅広いアプローチを円滑に進めるため、複数の省庁をカバーするとともに障害者自身をはじめとする多部門の関係者を含むことによって政策・プログラム面の調整を図る、国内調整機関の整備を促進している。こうした背景から、国内調整機関の有無と構成メンバーに関する情報が収集された。このような機関が存在しない場合は、障害の中心的担当部署の有無が示されている。

4)法制・政策の枠組み

このカテゴリーには、障害に特化しない法制・政策および障害に特化した法制・政策の両方の有無に関する情報が盛り込まれている。「障害に特化しない」とは、主要な法制・政策に障害の側面を取り入れることであり、これに対して「障害に特化した」とは、障害および障害者の問題に的を絞った法制・政策を指す。障害に特化しない面では、憲法における障害についての言及に関する情報が示されている。障害に特化した法制・政策では、包括的障害者法、障害に特化した差別禁止法、および障害に関する国内行動計画の有無に関するデータが示されている。

包括的障害者法とは、複数のテーマ領域にわたる障害者法のことである。包括的障害者法の有無を把握することにより、政府が複眼的な考え方で障害問題にアプローチしているかどうかが分かるだろう。障害に特化した個別法には、障害者雇用法、障害者社会保障法などがある。障害に特化した個別法の有無を把握することにより、政府がどのテーマ領域により力を注いでいるかが分かる。障害に特化した差別禁止法とは、障害を理由とする差別を法的に禁止、これに対する違反を法廷で罰する法律のことである。障害に特化した差別禁止法の有無を把握することにより、政府が人権、差別禁止、機会均等の原則にもとづいた法的枠組みを制度化しているかどうかが分かる。

5)インクルーシブな社会の促進に向けた国内の取り組み

社会の発展段階の如何を問わず、障害者は有意義かつ有利な経済的機会へのアクセスが制限される傾向がある。建築環境および情報へのアクセスが困難であることも、依然として障害者の社会的・経済的参加を阻む大きな要因となっている。ESCAPはこの問題の重要性を鑑み、BMFの優先領域を通じてこの分野への政策・プログラム面の回答を促した。このカテゴリーにあるデータは、3つの分野での各国政府の取り組みの具体例を示している。すなわち、割当雇用制度、アクセシビリティ基準、および標準手話である。割当雇用制度に関するデータが盛り込まれたのは、2004年の調査で回答を寄せた域内政府の大多数がこの制度を広く採用していることが明らかになったためである。アクセシビリティ基準および標準手話に関する情報が盛り込まれたのは、BMF目標13および19の中で、その整備がそれぞれ強く推奨されていることによる。

6)財政面の取り組み

障害問題への財政面での政府の取り組みを明らかにするため、2つのデータが示されている。GDPまたは国家予算総額に対する障害(社会的支出)の割合、および国内調整機関への年間予算配分である。前者は障害問題に対する政府の取り組みを大局的に示すのに対し、後者はBMFが推進している国内調整機関に対する重視度を示すものといえよう。

7)地域的・国際的政策枠組みへの取り組み

このカテゴリーには、各国政府の、「アジア太平洋障害者の十年(1993~2002年、2003~2012年)に向けたESCAPアジア太平洋地域の障害者の完全参加と平等に関する宣言」への署名の有無、ならびにILO第159号条約「職業リハビリテーション及び雇用(障害者)条約」(1983年)の批准の有無が盛り込まれて、地域的・国際的政策枠組みに対する各国政府の取り組みの指標となっている。将来的には、「国際障害者権利条約」の批准が、この観点からの指標に加えられるだろう。

プロフィールに盛り込まれている情報の詳細については、ウェブサイトおよび参考文献に掲げた各機関の照会先を参照されたい。


 「人間開発指数(HDI)とは、「人間開発の3つの要因―健康長寿、知識、文化的生活水準―の達成度の平均を計測する総合指数"(「2005年版人間開発報告書(Human Development Report 2005)」、P.357)である。

 BMFでは、何らかの形の教育にアクセスできる障害児・障害のある若者は10%に満たず、障害者雇用に関する信頼性の高いデータの整備が喫緊の課題であると述べられている。

 障害の問題意識が法制や政策の枠組みにどの程度取り入れられているかを評価するため、2004年に実施された調査では、各国政府が障害問題を個別の法律や計画に取り入れているか否かも質問事項に盛り込んだ。調査ではまた、域内では障害に特化した政策が策定されていることも明らかになった。しかし、本書では、他のデータとの混同を避けるため、これらの情報は盛り込まれていない。


Box:障害の定義とデータ収集

ここ30年の間に、障害の概念は大きな変化を遂げた。従来の医学的アプローチは、障害を一定の肉体的、知的、精神的機能障害と見なし、それらは異常であり、その人の機能喪失および社会参加の機会の低下をもたらす原因であると見ている。しかし、社会的アプローチは、この異常という考え方に異議を唱えて我々の眼を社会的側面に向けさせ、障害とは機能障害の結果ではなく、機能障害をもつ人を社会的、政治的、経済的、文化的に排除してきた結果であるという見方をとる。こうした中、「国際障害者権利条約」アドホック委員会の現委員長は、その第7回会合において、障害の定義を示した。「障害」は、機能障害、状態、もしくは疾病をもつ人と、彼らが直面する環境面、周囲の姿勢といった面でのバリアとの相互作用の結果生まれるものである。このような機能障害、状態、疾病は、永続的、一時的、断続的、あるいは帰属的である可能性があり、身体的、知覚的、心理的、神経学的、医学的、もしくは知的なものが含まれる(詳細は、下記のサイトを参照されたい)。

http://www.un.org/esa/socdev/enable/faqs.htm

http://www.un.org/esa/socdev/enable/rights/ahc7pddisability.htm

http://www.un.org/esa/socdev/enable/rights/ahc8docs/ahc8bkdoc3.doc

さまざまな理由から、多くの国の障害データの収集は、こうした概念変化に沿ったものにはなっていない。データ収集の秩序立ったシステムや能力がないため、障害データそのものが存在しない場合が多いこと、利用可能な障害者比率は従来の狭い障害観に基づいて収集される傾向が強く、データ収集方法が適切でない(すなわち、質問文の表現やインタビューの手法が障害者への配慮を欠いている)可能性があることがその理由である。

WHOの「2001年版国際生活機能分類―国際障害分類(ICF)」が、こうした問題に解決の光を与えた。ICFは、障害を身体機能・構造、活動・参加、環境的・人格的要因の複雑な相互作用から生じる現象であるととらえている。ICFは、障害問題を多様な角度から評価し、障害者に関するデータを多様な目的から収集ための枠組みとなっている。たとえばオーストラリアなどの国は、障害データ収集にICFの枠組みを適用していることが知られており、他国と比較するとその障害者比率は高い。WHOおよびESCAP統計部は、域内各国に対して障害統計改善の研修を実施するとともに、研修マニュアルの作成を進めている(詳細は、下記のサイトを参照されたい)。

http://www3.who.int/icf/

http://www.unescap.org/sta/index.asp