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『児童と青年のための録音図書 ―― 読書による体験、読書訓練と知識』

スウェーデン国立録音点字図書館(TPB)

項目 内容
発表年月 1996年

スウェーデン国立録音点字図書館(TPB:Talboks- och punktskriftsbiblioteket)の報告書 1996:1

目次


前書き

 本書には児童と青年のための録音図書に関する報告書が3点集められています。
これらの報告書は、すでにそれぞれ別の機関誌で発表されたものです。
" 本はどんな子どもにも必要です"は『子どもと文化』1996:2に、
" 録音図書は読書の楽しみ、読書訓練、知識を与える"は『特殊教育』4号1997年8月発行の再編集バージョンで発表されました。
"児童図書館はディスレクシアの子ども達を気にかけているか?"は『全ての人々への図書館』1996年第3号で発表されました。
 録音図書に関する情報はあなたの近隣の地方公共図書館や録音点字図書館で得られます。

録音点字図書館
私書箱
122 88 Enskede
住所
Sandborgsvagen 52
電話番号
08-39 93 50
ファックス
08-39 94 57(貸出) 08-659 94 67(その他)
E-mail
info@tpb.se
HPアドレス
WWW.tpb.se
(Handikatや録音図書カタログなどのページにリンクされています)


本はどんな子どもにも必要です。たとえ彼らにとって読書が困難であっても。 文:レーナ・ベリィマン

『宿題がこんなに楽しいなんて…』ブック&テープを使って読書をしたある生徒が言いました。録音図書は読み書きに困難を覚える生徒達に喜びに満ちた読書体験を与えるものであり、すばらしい学習教材です。

「今学校で休み時間の次に楽しいのは、ブック&テープを使って読書をすることだよ。」
 これは学校でブック&テープという録音図書を利用して読書訓練を始めたある男の子が言った言葉です。この男子生徒は読書に困難を覚えており、読書能力を高めるために本と録音図書を使って訓練しているのです。現在ではこの生徒にとって、学校の勉強は興味深いものとなり、前には苦痛だった読書の訓練も楽しめるようになりました。

「宿題がこんなに楽しいなんて…」
 本と録音図書を使って家で読んでくるように言われた、別の男子が言いました。この生徒の宿題は、録音図書を聴くと同時に原本の図書の文章を目で追ってみることです。本の文章は色々な速度で吹き込まれており、自分に一番合う速度を選べるようになっています。後でこの本についてみんなの前で話し、一部分を読み上げることができるようになるまで、繰り返し録音図書を聴きながら文章を追っていきます。この訓練は家でのんびりと時間をかけて行うからこそ効果があります。

 この男の子は読み書きが困難であるため、文章を読み上げたり自分の言葉で内容を説明することが大の苦手でした。しかしこのような訓練をすることで、その後内容を説明する時に必要な単語や文章を覚えることができたのです。それによって語彙も豊かになり、文章への感情移入も上手になりました。

 『今は本を読むことがとても楽しいわ。もし録音図書がなかったら厚い本を読むなんて絶対できなかったと思う。録音図書は私が難しい本も読めるように助けてくれたの・・・』
 ある女生徒は、自分がどうやって録音図書を使ったのか話してくれました。それまで知的能力から言えば当然読めるはずの本を、通常の方法では読むことができませんでした。それらの本は読書能力からすると厚すぎ、また難しすぎたのです。読み書きの能力はあまりひどくはなかったのですが、行間が詰まっていて文字が緊密に並んでいるような本を読むことはできませんでした。たとえその内容が興味を惹いたとしてもです。しかし録音図書のおかげで読みたいと思う本をすらすらと読むことができるようになり、またクラスの他の生徒達と変わらないスピードで読めるようになりました。
 この生徒達は読む訓練として、また読書を楽しむために録音図書を使うようになって、大きな幸福感を得ました。

 上記の3人の生徒は自分の通う学校で、録音図書を試用するプロジェクトに参加しました。この図書に親しむ訓練は彼らのうちの二人に適合し、彼らの読書能力を伸ばしました。
3人目の女生徒は録音図書によって、自分が読みたいと思う本を全て録音図書を利用して読み、自分が本を読んで体験したことをクラスの友人達と分かち合えました。
 現在のところ、すべての生徒達が学校で録音図書を利用できるわけではありません。学校図書館の多くは録音図書を持たず、多くの教師達が学校でいかに録音図書を使うかを知らず、どうやって手にいれるのかも知らずにいます。これらの教師達のところには情報が届いておらず、そのために地域図書館や録音点字図書館で借り出すことができる6,500タイトルの子ども向け録音図書が活用されていないのが現状です。
 録音点字図書館は録音図書や点字図書を製作し、読書に対して障害を持つ人々に地域の公共図書館を通して貸し出しています。どんな図書館でも、たとえば学校図書館であっても録音点字図書館から録音図書を借りることができます。
 地方公共図書館は自館の蔵書としてはその時々の人気のある図書の録音図書を買い入れ、その補足として録音点字図書館から借りています。録音図書は一般の書店で買うことはできません。図書館からのみ借りることができ、その権利を持っているのは、視覚障害者や読み書きに困難を覚える人々のような、読書障害を持つ人々だけです。

様々な種類の録音図書

児童を対象とした録音図書は6,500冊以上あります。地方公共図書館の児童コーナーで見かけるような本はほとんど全て録音図書になっており、録音点字図書館にはそれらが揃っています。絵が多くて、その絵がなければ意味が通らないような図書は録音図書には適さないのですが、人気がある絵本などは特に選別されて吹き込まれています。

純文学

この種類の録音図書は、原文の文章ができる限り正確に録音されています。録音は普通の速度で比較的平易に読み上げて行われます。利用者のほとんどを占める視覚障害者達が、文章の雰囲気を自分で自由に感じ取ることを好むためです。ですから穏やかに客観的な調子で吹き込むことが大事です。
 児童向けの純文学もほとんどの場合同じように録音されます。

ノンフィクション

児童向け録音図書の中には、ありとあらゆる種類のノンフィクションが揃っています。これらは読み書きに困難を覚える生徒達にとっての補助教材か、通常の教科書の代用として用いられています。文章の難易度は様々であり、小学校から高校まで全ての学年に合わせたものがあります。ノンフィクションは1教科または複数の教科においてより幅広い知識を得るために使うこともできれば知識を深めるために使うこともできます。
 このような場合録音図書は印刷された図書と組み合わせて使うべきでしょう。それによって生徒達は図書に載っている絵や写真を見たり、文字を目で追うことができます。ページめくりの合図や読んでいる箇所のページ番号が吹き込まれている録音図書もあります。
 学校の教科書が録音図書になっていない場合や生徒が教科書よりも簡単な図書を必要としている場合にこのような録音図書を代用することができます。
 この録音図書を使えるのは読み書きに困難のある生徒を指導する特殊教諭だけではありません。全ての教諭達が理論科目であっても実技科目であっても、授業に用いることが出来ます。録音図書になった児童と青少年対象のノンフィクションのカタログは、録音点字図書館から無料で支給されます。

晴眼者対象のノンフィクション

文よりもさし絵が中心のノンフィクションがあります。このような録音図書は、さし絵を見ることはできるけれど文章を読むのは困難な弱視者やディスレクシアの人々を対象としています。多くの場合本に挿絵が載っていると、その下には小さな読みにくい文字で書かれたただし書きがあるものです。しかしこの種類の録音図書には視覚障害者を対象としたノンフィクションのような、写真(絵)の細かい描写はありません。利用者が録音図書を聴きながら本を見ていることが前提なのですから。
吹き込む人は絵(写真)を示し、ページめくりを指示し、ページ番号を読み上げます。 "近影で見る事実"という録音図書になっているノンフィクションのシリーズは、30以上のジャンルに分かれています。

特殊録音

一部の録音図書は発音を特にはっきりとさせ、普通よりもゆっくりとした速度の吹き込みで録音されています。この録音図書はまず知的障害の人々を対象としており、録音図書をより変化に富んだ面白いものにするための、バックミュージックや様々な効果音が一緒に入っています。
 吹き込む人はさし絵(写真)やページめくりの指示を入れ、読者はそれを聴きながら原文の図書を目で追うのです。
 特殊録音は通常たくさんのさし絵(写真)が載っている『簡単に読める本』を吹き込むものです。その内容は具体的で判りやすいものでなくてはなりません。ジャンルは純文学もノンフィクションもあります。
 この録音図書は対象のグループから大変重宝されており、特殊学校でも訓練学校でも有効に利用されています。

読書訓練用録音図書―ブック&テープ(録音図書)

録音図書を聞きながら原本の図書の文章を追っていく事は、読み書きに困難のある人にとって大変有効な読書訓練です。視覚と聴覚、二つの感覚が刺激される上に、録音図書のおかげで読書を苦痛を感じることなく楽しめるのですから。
 読書訓練用には、速度を変えて吹き込まれた録音図書があります。原本の文章が一度目は通常の速度で、2度目はややゆっくり、3度目は特に遅い速度で録音されています。印刷されている文章の方は短く簡単で、読みやすい活字が選択されています。読書訓練用録音図書はブック&テープが一つのパッケージに収められており、どの地域の図書館からも借り出すことができます。録音点字図書館が貸し出しているのはテープだけです。
 読書訓練用録音図書は学校の教師が読み書きが困難な生徒たちの読書訓練に使うこともできますし、このような子ども達の両親が、家庭で訓練するために利用することもできます。また子どもたちが自分で使うために借りることもできます。読書訓練用録音図書は、小学校の低学年から、高校生、大人まで全ての年代の読み物に合わせて取り揃えてあります。この読書訓練用録音図書の使い方は録音点字図書館が指導しています。
 読書訓練のため録音図書を利用する実験を行ったところ、これがどれほど子供達にとって楽しく容易によい結果を引き出せる方法であるかが明らかになりました。
 本、テープ、カセットレコーダー、マイクロフォンを使って楽しく、新鮮な気持ちで学ぶことにより、使える語彙や聞いて理解のできる語彙が増えたり、読む速度があがったりなど良い結果をもたらします。また、イントネーションや発音も良くなります。

英語やその他の言語による録音図書

『簡単に読める本』として書き直された図書には英語のものもあります。つまりEasy Readers, Easy Classicsなどです。その難易度にも様々な度合いがあり、小学校の高学年から高校で使用されています。
 点字-録音図書館では、そのような図書が大量に録音図書になっていて、通常の速度とそれよりもゆっくりした速度で吹き込まれています。
 これらは読み書きに困難のある生徒達に言葉や発音のトレーニングのために利用されています。このような生徒達は通常の英語の教材を使うことが困難なものです。通常の速度で吹き込まれている英語のカセットブックは読み書きが困難な生徒にとっては難しすぎるので、近年はゆっくりとした速度で吹き込まれた英語の録音図書の需要が高まっています。

カセットブック

録音図書の代わりによく使用されているカセットブックは商業的に製作されたもので、店で販売されています。今日(1997年)カセットブックは約350タイトルほど製作されていて、そのうちのほとんどは大人が対象です。カセットブックについては録音図書のように必ずしも図書の原文をそのまま録音する必要はありません。短縮されたバージョンでも簡単に読めるように書きなおされたバージョンでもいいし、元の図書から何章かを抜粋して吹き込んでもいいのです。吹き込まれた内容を聴きながら印刷されている図書を読みたい人々にとってはそれを知っておくことは重要です。
 カセットブックは地方公共図書館で借りることもできます。中には作者本人の声で吹き込まれているものもあり、スウェーデン語を学ぶ 移民者などによく利用されています。

全ての図書館に児童対象の録音図書を

本はどんな子どもにも必要なものです。特に読書が苦手な子どもにこそ必需品です。ですからどんな地域図書館や学校図書館にもある程度は児童対象の録音図書があるべきです。読書訓練のための録音図書、また利用することによって読書を楽しめるような純文学やノンフィクションの録音図書が必要になります。
 児童対象の録音図書を置く場所は児童コーナーです。そこにあれば読み書きに困難を覚える子ども達のために、教師や親達がいつでも適した録音図書を見つけることができるようになっています。録音図書はカタログ、分野別のリスト、広報誌などの無料のインフォーメーションを参考に録音点字図書館から借りて揃えることができます。
 どんな学校図書館も読書に困難を覚える生徒のため、様々な録音図書の中から選択して、ある程度は用意しておくべきです。そうすればこのような生徒達が読書による刺激や楽しみを得られます。また印刷された本と録音図書とがあることでより幅広い選択ができ、さらによりよい読書への手助けになるでしょう。学校図書館は、録音図書との出会いの場、印刷された本と録音図書との選択ができる場となるべきです。
 読書が苦手な子どもは、おうおうにして地域図書館に行きたがらないものです。もし学校図書館で録音図書に出会えば、その体験が地域図書館に行くことにつながるでしょうし、やがては生涯を通して読書を楽しめるようになるでしょう。

読書に疲れた生徒の利用

 録音図書を利用するには、読み書きが重度に困難である必要はありません。クラスの教師が、生徒のうちの誰かが他の生徒達よりも読書に関して遅れていると感じるだけで充分です。読書に対する障害のある生徒、読書が嫌いな生徒、読書に疲れている生徒も、読書のレベルがクラスメートと同じレベルに達するまでは、録音図書を利用する権利があります。生徒の親達も、もし自分の子どもが読書に関して困難があると感じるならば録音図書を借りる権利があります。
 地方公共図書館と学校図書館は録音図書を購入することができます。しかし個々の教師達が購入することはできません。たとえ自分のいく学校や図書館が録音図書を持っていなかったとしても、自分の録音図書を買うわけにはいかず、借りることができるだけなのです。
 録音図書は読書が困難な児童が本を読むことができるように刺激してくれる、すばらしい教材です。彼らは録音図書を聴きながら印刷された図書の文章を追っていくことによって、読書を心から楽しむことができるのです。その利用の機会が早ければ早いほど、良い結果を得られます。
 早期から読書に関して問題を抱える子どもたちには、録音図書を利用するように勧めてみるべきです。子ども達はそれによって文学に興味を持ち、自分の方から訓練を受け、多くの本を読んでみようとする意欲を促されるでしょう。
 録音図書によって読書ができるようになったら、それをやめて普通の図書に取り組めばいいのです。
 もしできるのであれば、目で読むほうが楽しく簡単であるはずです。