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第1部 CBR
地域に根ざしたリハビリテーション~私たちの体験から~ 障害者の声

結論と提言

本調査におけるさまざまなCBRプログラムの取り組みの分析を踏まえ、以下の提言がなされている。

意識向上

CBRプログラムは意識向上に成果をあげている。しかし、改善の余地もある。意識向上の取り組みは、以下の点を実行すべきである。

  • 権利擁護者として障害者を組織的に参加させる。なぜならば、もっとも強力な権利擁護手段は、生きた成功例であり、差別に関する実体験とその克服の例だからである。
  • 現地の状況を評価するとともに、有力者層(権力および財力またはそのどちらかを有する層)を対象とする。多くの場合、コミュニティにおいて中心となる変革推進者は、学校教師、宗教指導者、コミュニティのリーダー、長老などである。
  • 変革推進者の職務について、常に具体的に説明する。
  • ツールとしてメディアを活用する ― とくにラジオ。
  • 偏見を視覚に訴えるためのツールとして、演劇を活用する。

医療

障害者に対する医療に関して、CBRプログラムは成果をあげるには至っていない。「基準規則」で医療について規定されている責任を保健医療機関が果たすよう促すことを、CBRプログラムはさらに重視するべきである。CBRプログラムは、以下の点が実現されるよう、保健医療機関に働きかけ、支援するべきである。

  • 早期介入、正確な診断、治療および照会を行うため、プライマリー・ヘルス・ケアの能力および力量を向上させること。
  • 地域レベルまたは地方レベルで照会専門家にアクセスしやすくすること。
  • 医療費への助成金を支給すること。
  • 伝統治療師に働きかけ、障害、障害の原因ならびに適切な早期介入手段に関する知識を向上させること。

リハビリテーションおよび支援サービス

CBRプログラムによるリハビリテーションおよび支援サービスは、当初期待されたほど提供されてはいない。CBRプログラムは、以下の諸側面の整備を検討するべきである。

  • 社会カウンセリングや、ADL移動能力の訓練は、コミュニティの中で効果的に実施することが出来るが、さまざまな問題を実際に解決した経験をもつピア(仲間)(もしくは障害者の親)がリソース・パーソンとして組織的に活用されれば、その効果はさらに高まるであろう。
  • 身体的リハビリテーションおよび補助具の製造は、大半のコミュニティでは得られないレベルの専門知識を必要とする。補助具の予算を地方レベルで計上するほか、政府資金による地方レベルの照会センターを充実させるべきである。
  • 手話訓練および手話通訳者の養成も、リソース・センター ― ろう者協会との協力による― の責任とするべきである。
  • 地方レベルの照会センターは、職業訓練の取り組みおよび見習い制度の支援においても、重要な役割を果たすべきである。

教育

CBRプログラムは、肢体不自由児および軽度障害児の教育機会に好ましいインパクトを与えている。それ以外の障害児にとって、選択肢は依然としてごく少数の特殊学校に限られている。「基準規則」に規定されている教育に関する責任を教育当局が果たすよう促すことに、CBRプログラムはさらに尽力するべきである。CBRプログラムはまた、以下の点に対する支援を検討するべきである。

  • 教育当局およびろう者協会との協力による、聴覚障害児を対象とする特別手話使用クラス。こうしたクラスの教師の採用に際しては、聴覚障害者に研修を行い、優先的な取り扱いをするべきである。
  • 技術訓練およびケアに的を絞った、知的障害児のための、親の運営によるコミュニティ・センター。こうした親の自助グループに対しては、家庭でのケアを補うものとして地域に根ざしたケア施設を整備するための支援を行うべきである。
  • 通常のカリキュラムを補うものとしての、教育当局および視覚障害者協会との協力による、視覚障害児を対象とする日常生活動作(ADL)および点字の訓練。

所得保障および社会保障

これは、CBRプログラムの中でも、QOLのすべての側面にインパクトを与えることに成功した取り組みである。以下の点を実行することによって、この取り組みをさらに強化することが出来るだろう。

  • 貧困削減プログラム、NGOのプログラム、一般銀行の取り組みなど、CBRプログラム以外の融資制度へのアクセスをしやすくする。
  • DPOの参加を得ることにより、DPO構成員の中から実行可能な事業アイデアを発掘するとともに、融資制度のモニタリングおよびバックアップを行う。
  • 技術訓練の画期的な新分野を発見する。さまざまな種別の障害者に適した事業に関して、従来の先入観を捨てる。適切な事業を決定する際には、障害者を関与させる。
  • 見習い制度および通常の職業訓練スキームへの参加を円滑にする。

政府およびコミュニティのコミットメント

CBRプログラムは、期待された政府およびコミュニティのコミットメントを確保することには、未だに成功していない。一般に、こうしたコミットメントは精神的支援であるが、障害者のQOL向上にはリソースも必要である。CBRおよび障害者の人権の実現は、ボランティアやNGOの善意に頼ることはできない。CBRプログラムは、その実施戦略を見直すとともに、以下のような持続可能な体制を構築する必要がある。

  • 政府による権限の委任および資金援助を受ける体制。ガーナにおけるオーナーシップの交代は、この方向への第一歩であると思われる。
  • インクルーシブなコミュニティの開発に自己利益をもつがゆえに意欲を失わない、DPOおよび自助グループ。

CBRプログラムは、持続可能な変革には政府の支援 ― 政策および実践のいずれも ― が必要であることを認識しなければならない。政府が以下の点を確実に実行するようにすることが、CBRプログラムにとっての急務である:

  • 通常のコミュニティ開発プログラムおよび貧困削減計画に、障害者を参加させる。
  • コミュニティ・ワーカーに対して、バックアップ、継続的な研修機会、ならびに報奨を提供する。
  • 地方レベルでの照会システムを支援する。
  • 教育・医療システムに、研修およびリソースを提供する。
  • 補助具を無料もしくは低コストで支給する。
  • 手話の開発および手話通訳者の養成を支援する。

DPOへの支援

調査対象となった3つのCBRプログラムが実施された10~15年の間に、教訓を踏まえていくつかの調整が行われてきた。障害者および障害者団体の参加の重要性は、さらに強調されている。改訂版ジョイント・ポジション・ペーパーでは、障害者の人権、インクルーシブなコミュニティ、ならびに「障害者とともに、障害者のためのCBR(CBR with and for persons with disabilities)」について議論されている。これは、障害者の視点からみて好ましい進展であるが、以下のような問題点も提起するものである。

  • DPOはCBRの活動にどのように参加するのか?
  • 国レベルおよび地域レベルで、DPOの能力開発に十分なリソース配分が行われるのか?
  • CBRの構成要素として権利擁護とエンパワメントが重要性を増す中、CBRプログラムとDPOはそれぞれどのような役割と責任を果たしていくのか?

国によっては好ましい趨勢がみられるものの、DPOおよび障害者は依然として、CBRプログラムの中で限られた影響力をもつに過ぎない。その理由は以下のとおりである。

  • 障害者は差別的な扱いを経験しているため、個人としての自信に乏しい。
  • 国レベルおよび地域レベルでの障害者運動の中で、能力および協調が低い。
  • 偏見のため、CBRプログラムによって有益なリソースと認識されることが少ない。

CBRプログラムは、これら3つの問題すべてに取り組むことによって、こうした悪循環を断ち切るために取り組むべきである。政府の実績のモニタリング、構成員である障害者の権利擁護、開発プログラムへの助言、ならびにピア・カウンセリングを行うことが出来る強力なDPOは、変革プロセス成功のための必須条件である。したがって、CBRプログラムは、DPOおよび親の団体の能力開発支援、ならびに自己権利擁護グループ結成の奨励・促進を最優先事項とするべきである。多くのDPOは、不足部分を克服し、また、幅広い支援基盤、民主的かつ透明な組織構造、戦略的アプローチおよびすべてのレベルでの有能なリーダーシップを備えた効果的な関係者となるために、支援を必要としている。これを達成するための実践的なエンパワメント手段を開発するために、CBRプログラムはDPOと協力する必要がある。

留意すべきは、親と家族が障害者本人とは異なる考え方と権利をもっている点である。したがって、親と障害者は、それぞれ別個の権利擁護グループを結成する必要がある。DPOは子どもの問題および親の問題にはあまり関心を払わない傾向があるのに対して、親の団体は時として家庭環境の強化に過度に集中し、障害をもつ家族の依存状態を放置してしまう。

全般的な提言

CBRの概念は変容し、現在では、障害者のQOLにとって極めて重要なあらゆる分野への対応ならびにインクルーシブな社会の構築を目的としている。したがって、CBRプログラムは広範な関係者との間で、協調を模索し、連携を促進する必要がある。

第一に、コミュニティレベルだけに的を絞っていては、社会変革および人権の実現は達成されないことを認識することが不可欠である。同様に、中央レベルの政策立案者および議員だけに注目していても達成はおぼつかない。持続可能な変革の実現のためには、ボトムアップ・アプローチとトップダウン・アプローチを一体化させた「挟み撃ち作戦」が必要である。開発を支援する政策および法律がなければ、方向性やコミットメントは得られない。コミュニティの意識とエンパワメントがなければ、変革の受容や推進力は得られない。多くの国で地方分権のプロセスが進行しつつある中、地方レベルが戦略的レベルとして浮上している。地方レベルにおいては、コミュニティの要求と中央からの指示が交わり、優先事項が決定されなければならない。

第二に、開発には多くの関係者が一致協力して取り組むことが前提となることを認識することが重要である。国連システムの中で、また人権関連のさまざまな分野で活動しているNGOによって計画立案ツールとして導入されている「権利に基づくプログラムづくり」においては、関係者は3つの領域に分けられる。すなわち、権利所有者、責任者および市民社会である。変革プロセスにおいて、これら3領域はそれぞれ異なる役割と責任を担っているが、変革プロセスの成功にとってはいずれも等しく重要な必要条件である。

責任者は、「基準規則」に規定されている責務を果たさなければならない。その過程で、障害者のエンパワメントのための前提条件が形成されるであろう。しかし、強力な障害者運動によるモニタリングおよび助言を受けない限り、責任者は障害問題を動議として提案し、優先的に取り扱うことはしない。その一方で障害者運動は、構成員である障害者がエンパワメントを達成しない限り、強力にはなれない。そのため、変革プロセスはこれら3つの事象が起こることが前提となる。したがって、開発プログラムのデザインに際しては、3つの領域すべてを考慮に入れることが極めて重要である。

CBRプログラム3つの領域図(テキストデータ)
CBRプログラム3つの領域図

必然的に、CBRプログラムは3つの領域すべてに対応しなければならない。大まかに言えば、1つのプログラムは、その労力とリソースの3分の1を障害者とその家族を直接対象とする取り組みに、同じく3分の1を責任者に対する影響力行使と能力開発に、さらに残りの3分の1をNGO、とくにDPOおよび親の団体の強化に注ぎ込むべきである。CBRプログラムは、各領域の中でもっとも戦略的な関係者を発見し、プログラムの結果としてこうした関係者が遂行すべき職務に測定可能な目標を設定し、また、職務遂行を可能にするもっとも効率的な方法と手段を選択するべきである。

このように、今後のCBRプログラムの主要な役割は、多くの関係者および部門の間のインプットおよび連携を促進することになるだろう。特定の利益グループもしくは政府部門によって運営されているCBRプログラムは、必要とされる全体論的かつ多部門的なアプローチを達成出来ない恐れがある。こうしたCBRプログラムの手引きおよび方向付けを行うための適切なメカニズムを見出すことが課題となるだろう。その際、以下の3つの指針に従うべきである。

  • 既存の政治的・行政的構造を活用するべきである。
  • 政府はさまざまなレベルで、市民の人権を出来る限り実現する責任を負うとともに、その責務を果たすよう奨励されるべきである。
  • DPOは、プログラムの優先事項およびデザインに対して、大きな影響力をもつべきである。

政府の支援およびコミュニティのコミットメントを得るために、CBRプログラムは自らの効率性を立証しなければならない。したがって、進行中の開発プログラムと連携し、戦略的な協調関係を構築し、また、国全体にリソースを拡散させるのではなく地方全体をカバーすることが重要である。

援助機関およびCBR実施機関は、本調査の知見を踏まえ、プログラムを見直すとともに、能力開発を行うべきである ― また、新たなニーズや課題に対応するため、CBR研修用の補助教材およびハンドブックの開発も進めなければならない。

最後に、「地域に根ざしたリハビリテーション」いう呼称はもはや、実際に行われているプログラムの本質を反映したものではないことに留意すべきである。なぜなら、

  • CBRプログラムは、社会のさまざまなレベルを対象としている ― コミュニティレベルにとどまらない
  • CBRプログラムが取り組むのは、障害者のQOLに影響を及ぼすすべての問題である ― リハビリテーションだけではない

このアプローチの複雑さをより的確に表す呼称を見出すことが課題となるだろう。

本調査のフォローアップ

本稿は、比較的少数の、掘り下げたインタビューに基づく定性的調査である。選定されたCBRプログラムがさまざまなアプローチおよび文化的背景を示していること、また、インタビュー対象者の意見が極めて共通していることから、明確な結論が導き出された。しかし、調査結果をさらに検証するとともに、提起された問題に関するデータをさらに集積するために、フォローアップ調査を実施することが推奨される。