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第4節 ドイツ:障害者の就労と労働・社会保障法

渡邊 絹子(東海大学 法学部)

はじめに

ドイツにおける障害者政策の基本方針は、障害者の自立を促し、そのために必要な支援を行うというものである。仕事中の事故(労災)や旅行中の交通事故等、障害を負った原因は様々であり、それによって具体的に給付を行う制度は異なるが、各制度において、年金といった金銭給付を行う前に、各個人が有している能力を維持・向上するためのリハビリを行うように、リハビリテーション給付を中心とした設計がなされている。公的年金保険制度における「年金の前にリハビリテーションを」という標語は、そのことを端的に表現していているといえよう。

障害を負っていても自立した生活を営むことを可能にするには、その生活基盤を支える収入を障害者自身の就労によって得られるようにするための支援の整備が重要な課題となる。ドイツでは、障害の程度を考慮しつつ、一般労働市場における就労の場を確保・維持することを目標に、多様な支援体制が構築されている。また、そのような一般労働市場での就労が困難な者に対しては、障害者作業所といった職業訓練および一般労働市場への橋渡し的な就労の場が提供されている。以下では、ドイツにおける障害者雇用の構造を明らかにするとともに、多様な支援体制の中でも、特に、障害者に対する所得保障がどのようになされているのかに焦点を絞り、概観することとしたい。

Ⅰ.労働

1.障害者の定義

社会法典第9編(Sozialgesetzbuch(SGB)Ⅸ)2条1項では、「障害(Behinderung)」の概念が定義されている。それによると、①身体的機能、知的能力または精神的な健康状態が、②当該年齢における典型的な状態と異なっており、③その状態が6ヶ月以上にわたる蓋然性が高く、④そのゆえ社会生活への参画が妨げられている場合に、「障害」があるとされる。

障害の程度は、2008年12月31日までは連邦労働社会省の「社会補償法及び重度障害者法に基づく医学的鑑定業務のための手引き(Anhaltspunkte fuer die aerztliche Gutachtertaetigkeit im sozialen Entschaedigungsrecht und nach dem Schwerbehindertenrecht(以下、「AHP」という。)」に基づき、判定されていた。障害の程度は、障害者認定をする際に重要なものであるが、その判断基準として用いられてきたAHPは、長らく法的根拠を欠いた状態で利用されて続けてきた141。このような状態を解消するため、2007年に連邦援護法が改正され142、2009年1月1日からは、援護医療命令(Versorgungsmedizin-Verordnung)に定める「援護医学上の原則(Versorgungsmedizinische Grundsaetze)」に基づき、障害の程度が判定されることとなった。

障害の程度は、最重度を100として、その間を10刻みした数値によって表されるが、50以上ある者が「重度障害者(Schwerbehinderte)」と定義されている(社会法典第9編2条2項)。また、障害の程度が30以上50未満の者であって、その障害のために重度障害者と同等の扱いがなければ、適切な職場(就労ポスト)を得る、あるいは保持することができない者は、「同等扱いの障害者(gleichgestellte behinderte Menschen)」と規定されている(同条3項)。これらの重度障害者および同等扱いの障害者には、社会法典第9編第2部「重度障害者の参画に関する特別規定(重度障害者法)」が適用され、障害者雇用政策の中心に置かれ、様々な施策の対象者となる。このような障害の有無およびその程度の認定143は、障害者の申請に基づき、連邦援護法の実施管轄官庁(援護局)によって行われる144。そして、その認定において重度障害者に該当すると判断された場合、障害の程度に関する証明書が発行される。この証明書によって、重度障害者に与えられるべき給付等の請求権が証明されることになっている(社会法典第9編69条5項)。

2.雇用の場における障害を理由とする差別禁止規制145

ドイツでは、従来より、使用者に障害者の雇用を一定の割合で義務づける割当雇用制度を中心とした、いわゆる保護雇用政策を基本とし、障害者の一般労働市場での雇用促進を図るため、リハビリテーションや職業訓練等の支援を充実させてきた。現在も、割当雇用制度は障害者雇用政策の中核をなしているが、近年になって、障害を理由とする不利益取扱いを禁止するという差別禁止によるアプローチが取り入れられ、新たな局面を迎えているといえよう。

(1)基本法(Grundgesetz

障害を理由とする差別禁止というアプローチは、まず、ドイツの憲法である基本法において明確化された。

基本法3条では、「すべての人は法の前に平等である」という一般的な平等原則(1項)、男女同権とその実現に関する国の責務(2項)、さらに、「何人も、その性別、門地、人種、言語、出身地および血統、信仰または宗教的もしくは政治的意見のために、差別され、または優遇されてはならない。何人も、その障害を理由として差別されてはならない」(3項)とする差別禁止が定められている。基本法は1949年に制定されたものであるが、同法3条3項第2文として障害を理由とする差別禁止規定が加えられたのは1994年になってからのことであり、その歴史はまだ浅い。

基本法に「障害」を理由とする差別禁止規定が置かれたことは、障害者の地位向上等の面で一定の意義は認められるものの、実際に差別を是正するという点では問題が残されたままであった。というのも、基本法は国家と市民の間を規律するものであり、私人間には直接適用されないことから、不利益な取扱いを受けた障害者の救済は、民法典の一般条項によらなければならない状態に変わりはなかったからである。

(2)社会法典第9編81条2項

基本法において障害を理由とする差別禁止規定が置かれた後、雇用の場における障害を理由とする不利益取扱い禁止が定められた社会法典第9編81条2項が施行されたのは、2001年であった。

社会法典第9編81条2項では、「使用者は、重度障害のある被用者を、その障害を理由として不利益に取り扱ってはならない」(同項第1文)とする不利益取扱いの禁止に加え、立証責任の緩和や不利益取扱いを受けた重度障害者への損害賠償請求権などが定められた。その後、同条項の規定は、重度障害のある被用者に対する不利益取扱禁止を定めた第1文を除き、後述する一般平等取扱法に委ねられることとなった。

(3)一般平等取扱法(Allgemeines Gleichbehandlungsgesetz

EUにおいて 2000年以降に相次いで採択された差別禁止に関するEC指令146を国内法化するため147、雇用及び職業並びに民法上の取引の一部における差別禁止に関わる「一般平等取扱法」(「一般均等待遇法」とも訳される)が2006年に成立した。

同法は、人種または民族的出自、性別、宗教もしくは世界観、障害、年齢または性的指向を理由とする不利益取扱いを防止し、排除することを目的として、不利益取扱いの定義、適用範囲、不利益取扱いに対する労働者の権利などを包括的に定めている。同法において不利益取扱いが禁止される労働領域における適用範囲は、募集といった雇用の入口から、労働条件、職業訓練の機会、職業団体等への参加、労働関係の終了までと広範にわたる。すなわち、同法によって、雇用の入口から労働関係の終了といった職業生活全般にわたって障害を理由とする不利益取扱いが禁止されることとなった。

また、ここでいう「障害」とは、前述した社会法典第9編2条1項の定義によるとされており、それまで重度障害者に対する不利益取扱いを禁止してきた社会法典第9編81条2項よりも、差別が禁止される人的適用範囲が拡大されることとなった。そのため、前述したように、社会法典第9編81条2項が改正され、障害を理由とする不利益取扱禁止は、一般平等取扱法の規定によることとなった。

(4)小括

以上のように、ドイツでは近年において急速に差別禁止というアプローチが展開してきた。一般平等取扱法によって、就業者(Beschaeftigte)に対する「障害」を理由とする不利益取扱いは、労働分野の広範な領域で禁止されることとなった。この不利益取扱いが禁止される範囲には、報酬を含む労働条件も規定されている。なお、一般平等取扱法は、遂行される仕事の種類等による重要な職業的要請がある場合など、異なる取扱いを許容する例外規定も定めている。

3.障害者雇用政策概要

(1)割当雇用制度

ドイツでは、障害者の雇用を使用者に義務づける割当雇用制度が実施されており、障害者雇用政策の中核をなしている。

障害者を雇用する義務を負うのは、20以上の就労ポストを有する民間の使用者および公的機関であり、このような使用者は、重度障害者を就労ポストの少なくとも5%雇用しなければならず、特に重度障害を有する女性に配慮しなければならないとされている(社会法典第9編71条1項)148。使用者には、この雇用義務の履行のため、各事業所・公的機関ごとに、雇用している重度障害者、重度障害者と同等扱いの障害者およびその他算入可能者の一覧表を作成し、所轄の労働局および統合局の代表者の要請に応じて提出することとされている(社会法典第9編80条1項)。

このような割当雇用制度が有効に機能するように、割り当てられた雇用率の達成を促進するため、使用者に「負担調整金(Ausgleichsabgabe)」を課す規定が併せて設けられている(社会法典第9編77条)。使用者は、規定人数の重度障害者を雇用していない場合に、充足されていない義務づけられた就労ポストに対して負担調整金を支払うことになる。負担調整金の額は、雇用率の達成度に応じて段階的に設定されており、年平均雇用率をもとに算出される。

年平均雇用率が3%以上5%未満の場合は、充足されていない就労ポストごとに月額105ユーロ、2%以上3%未満の場合は月額180ユーロ、2%未満の場合は月額260ユーロとなっている。

なお、この負担調整金を支払ったからといって、使用者の重度障害者雇用義務が免責されるわけではない。

(2)特別な取扱い-解雇制限・追加休暇・重度障害者代表

社会法典第9編第2部(重度障害者法)では、重度障害者に対するいくつかの労働法上の特別な取扱いに関する規定が置かれている。

1)解雇からの保護149

使用者による解約告知については、まず、解雇制限法のすべての解雇制限が適用されるため、社会的に正当化されない解約告知から保護される。さらに、重度障害者については、社会法典第9編85条以下において、特別の解雇制限規定が設けられている。

具体的には、重度障害者を解雇する場合には、統合局による事前同意が必要とされる。また、統合局は当事者が納得のいく合意に達するよう努めるものとされており、解雇手続において重要な役割を担っている。

2)追加休暇

重度障害者には、1年間につき5労働日の追加的な有給休暇に関する請求権が付与される(社会法典第9編125条)。1週間当たりの労働日数が5日よりも多い、あるいは少ない場合にはそれに応じて追加休暇も増減する。

3)重度障害者代表

重度障害者代表とは、事業所および公的機関への重度障害者の統合(編入)を促進し、その場における重度障害者の利益を代表し、重度障害者の側に立って助言し、援助することを任務として(社会法典第9編95条)、5人以上の重度障害者が常時雇用されている事業所または公的機関において選出される。当該事業所等に雇用されるすべての重度障害者が選挙権を有し(社会法典第9編94条2項)、被選挙権は、満18歳以上で、当該事業所等に6ヶ月以上所属している常時雇用されているすべての者に認められている(同3項)。

重度障害者代表は、使用者と統合協定を締結したり、重度障害者のための法令や労働協約等が実施されているかどうか、前述した使用者の雇用義務の履行状況を監視するなどの役割を果たしている。

4.障害者のための作業所(Werkstaetten fuer behinderte Menschen150

(1)対象者

障害者のための作業所は、障害者が労働生活に参加するため、および労働生活に編入するための施設である(社会法典第9編136条)。現在、認可された作業所は671施設存在し、約256,000人が就労している。

作業所は、障害の種類または程度により、一般労働市場で就業できない、まだできない、および再就労がまだできない障害者のために、適切な職業教育および能力にあった労働報酬を得られる就労の機会を提供するものである。そして、適切な措置によって、これら障害者を一般労働市場に移行するのを促進するとされる。

このような作業所は、職業教育領域の措置に参加した後に、少なくとも経済的に利用可能な最低限の労働成果をもたらすようになることが期待できるならば、未だ一般労働市場で就業できないといった前述した状態にある障害者すべてに対して、障害の種類と程度にかかわらず開かれている151。ただし、個々の作業所において、入所対象者を特定することは可能である。

実際に作業所を利用するには、作業所における職業教育または就労によって、労働生活への参加が可能であると作業所が判断し、リハビリテーション給付主体(各種社会保険保険者、社会扶助主体)が費用負担を承認することが必要である。

(2)機能

障害者のための作業所は、職業教育のためのものと、労働のためのものの2種類に分けられ、両方の機能を備えたものもある。

作業所には専門委員会が設けられ、同委員会は、個々の障害者について、作業所での就労を継続するか、一般労働市場への移行を進めるか、他の職業教育を行うか、同じ訓練を継続するか等の決定を行う。専門委員会は、作業所代表、連邦雇用庁の代表、社会扶助の民間福祉団体の代表で組織される。

職業教育領域については、導入課程3ヶ月、実施課程2年という期限がある(社会法典第9編40条)。

(3)作業に対する報酬

①職業教育領域

職業教育領域での活動に対しては、報酬は支給されない。その代わり、職業訓練手当が支給される。

金額は1年目が月額57ユーロ、2年目が月額67ユーロとなっている。

②労働領域

作業所での就労に関しては、業績に応じた適切な報酬が支払われることになっている(社会法典第9編41条3項)。

この報酬額が月額325ユーロに満たない場合には、26ユーロを限度として労働促進手当が支給される(社会法典第9編43条)。労働報酬が月額299ユーロより多い場合には、労働促進手当は325ユーロとの差額分だけ支給される。

なお、最低報酬額は月額67ユーロとなっている。

(4)作業所における障害者の法的地位

労働領域に従事する障害者は、労働者でない場合には、その基礎となる社会給付関係に別段の定めがない限り、作業所に対して、労働者に類する法律関係(arbeitnehmeraehnlichen Rechtsverhaeltnis)にあるとされる。この労働者に類する法律関係の内容については、障害者と作業所の運営者との間で締結される作業所契約により詳細に取り決められる(社会法典第9編138条1項、3項)。

職業教育領域で活動する障害者は、事業所組織法でいう労働者ではない。しかし、就業や職業における差別からの保護や有給休暇等の労働保護規定が準用される(社会法典第9編138条4項、36条)。

作業所では、作業所利用者による選挙によって、作業所委員会が組織されることになっており、作業所利用者の利益を代表し、その運営に共同参加する仕組みが設けられている(社会法典第9編139条)。

なお、作業所を利用する障害者には、社会保険加入義務がある(保険料は国等が負担)。

Ⅱ.所得保障制度

1.稼得能力の減退を理由とする年金152

障害を負ったことによって、それまでの職を失い、収入が得られないことから生活が困窮することがある。そのような場合に、所得を保障する制度として、ドイツでは公的年金保険制度において「稼得能力の減退を理由とする年金」が設けられており、重要な役割を担っている153。なお、この稼得能力の減退を理由とする年金は、その言葉通り、障害などによる健康上の理由によって稼得能力が減退したために、働いて報酬を得ることが困難になったことを理由として支給されるものであり、基本的に従前の賃金を保障する賃金代替給付として位置づけられており、「障害がある」ことを理由として支給される給付ではないことに注意が必要である。

(1)一般年金保険制度の義務加入者(強制被保険者)

ドイツの公的年金保険制度は、被用者を中心とした制度設計となっており、日本のような国民皆年金とはなっていない。被用者のように保険加入が義務づけられている者がいる一方で、自営業者などのように基本的に加入が義務づけられていない者もいる。加入義務のない者は公的年金保険に任意加入することができるが、稼得能力の減退を理由とする年金の受給要件で、保険事故が発生する前の直近5年間のうち3年間の義務保険料(強制保険料)の納付を要するとされているため、義務保険料を納付することのない任意加入者(任意被保険者)は、稼得能力の減退を理由とする年金の請求権を得ることはできない154

公的年金保険への加入義務は、法律の規定または一定の要件を満たす者からの申請に基づき発生するが、法律によって制度への加入が義務づけられているのは、就労者、特定の自営業者、労働者類似の自営業者(arbeitnehmeraehnliche Selbststaendige155等である。前述したように、障害者作業所で就労する障害者にも保険加入義務がある。

(2)「稼得能力減退を理由とする年金」の受給要件

1)通常老齢年金の支給開始年齢までに保険事故が発生すること

「稼得能力減退を理由とする年金」が支給されるのは、通常老齢年金の支給開始年齢156までに、「稼得能力の減退」という保険事故が発生した場合である。「稼得能力の減退」とは、被保険者が、疾病および障害に基づく健康侵害状態にあるとことを理由として、長期間(6ヶ月間と解されている)にわたって、一定時間しか稼得活動に従事することができないことをいう。

稼得能力の減退は、週5日勤務とする通常の労働関係下において、1日に何時間、稼得活動に従事することができるかという観点から、「部分的稼得能力の減退」と「稼得不能(完全な稼得能力の減退)」の2段階に分けられている。1日3時間未満しか稼得活動に従事することができない場合は「稼得不能」であり、1日3時間以上6時間未満であれば「部分的稼得能力の減退」とされる。1日6時間以上稼得活動に従事することができる場合には、稼得能力の減退は生じていないことになる。なお、部分的稼得能力の減退に関しては、残された能力に適した職場が存在していない場合には、稼得不能年金が支給されることになる。

2)待機期間の充足と義務保険料の納付

稼得能力の減退を理由とする年金の請求権を得るには、稼得能力の減退という保険事故が発生する前に、待機期間(Wartezeit)と呼ばれる保険に加入していた期間が一定の長さあることが必要とされている。ここで求められている待機期間の長さは、通常老齢年金の請求権取得に必要とされる一般的な待機期間とされる5年である。

労働災害によって、この5年という一般的な待機期間を充足する前に稼得能力の減退が生じて保険料が納付できなくなった場合など、一定の要件を満たす場合には、例外的に一般的な待機期間が充足されたとみなされる。

また、一般的な待機期間を満たすほか、被保険者は保険事故が発生する前の直近5年間のうちに義務保険料(強制保険料)を3年間納付していることが必要である。ただし、この3年の義務保険料納付期間は、前述した一般的待機期間が充足されたとみなされる事由(たとえば労働災害)によって稼得能力減退が生じた場合には不要とされている。

なお、公的年金保険制度に加入する以前や一般的待機期間を満たす前に、既に稼得不能であった障害者については、それ以降その状態が継続してある場合に限り、20年の待機期間を充足することによって稼得不能年金の請求権を取得することができる。

(3)支給される年金額

1)年金額の算定

稼得能力の減退を理由とする年金の額は、以下の算定式によって算出される。

年金額=個人報酬点数×年金種別係数×現実年金価値

個人報酬点数とは、当該被保険者の保険料納付期間や保険料免除期間等における報酬点数の合計である。報酬点数は、各暦年の保険料算定基礎となる被保険者の報酬を当該暦年の全被保険者の平均報酬で除して表されるため、保険料率が一律の下では、被保険者の納付する保険料額に比例する。なお、稼得能力の減退が若くして生じた被保険者は、保険加入期間が短くなるため十分な年金額を得られなくなることから、期間を追加して計算する加算期間(Zurechnungszeit)が設けられている。

年金種別係数は、各種の年金給付の目的を老齢年金との対比で表すものであり、稼得不能年金の年金種別係数は1.0であり、老齢年金と同額の年金額が支給されることになる。部分的稼得能力の減退年金の年金種別係数は0.5であるため、稼得不能年金の半額が支給されることになる。

現実年金価値は、実際の金銭価値を示すための係数であり、毎年改定されることによって、その時々の賃金変動を反映するものとなっている。

2)追加報酬限度額

稼得能力の減退を理由とする年金は、年金受給者に一定の限度額を超える他の収入がある場合には、一部あるいは全額が支給されない。この追加報酬の限度額は、稼得不能年金の場合、4分の3、半額、4分の1の年金額毎に定められ、具体的な金額は報酬点数を基礎に算定されるため、受給者毎に限度額が異なっている。

たとえば、稼得不能となる直前3年間の平均報酬月額が2,573.25ユーロであった場合の追加報酬限度額は次のようになる157。まず、追加報酬額が400ユーロまでであれば年金は減額されずに支給される。そして、4分の3年金では1285.00ユーロ、半額年金では1738.80ユーロ、4分の1年金では2116.80ユーロが、それぞれ追加報酬限度額となる。2116.80ユーロを超える追加報酬がある場合には、年金は全額不支給となる。

3)早期受給に伴う減額

ドイツでは、老齢年金の早期受給が認められているが、その場合、早期に請求した月数に応じた減額措置が講じられている。稼得能力の減退を理由とする年金に関しても、このような早期受給に伴う減額措置が導入されている。満63歳158に到達するより前に年金を受給する場合、1月当たり0.3%減額される。ただし、その減額幅は最高で10.8%(0.3%×36ヶ月)とされている。

(4)支給期間

稼得能力の減退を理由とする年金は、原則として期間付きで支給される、有期年金として設計されている。これは、年金受給者をできるだけ早期に稼得生活に復帰させることを目的にしているためである。定められる期間は、最長で3年であり、その更新は可能である。ただし、年金請求権がその時々の労働市場の状態に関係なく成立し、かつ、稼得能力の減退が回復しうる見込みがない場合には、期間を付けずに支給される。

2.基礎保障給付

前述したように、「稼得能力の減退を理由とする年金」を受給するには、公的年金保険制度に義務加入していることが前提となっている。したがって、制度の適用対象外となっている者にはそもそも支給されない。また、年金が支給されていても、年金額が従前の報酬額に比例しているため、わずかな年金しか受給できない場合がある。このような場合の所得保障制度として、ドイツには「老齢および稼得能力減退の場合の基礎保障」がある。同給付は、もともと公的年金保険改革に際して、少額の老齢年金しか受給できない高齢者等の生活困窮状態を考慮して創設された制度であったが、現在は社会法典第12編に編入され、社会扶助と統合された。

基礎保障給付は、国内に通常の居所を有し、かつ、65歳以上または18歳以上で稼得不能状態にあり、その回復が見込めない者に対し、申請に基づき支給される。

ここでの稼得不能状態とは、年金保険にいう稼得不能と同じ基準であり、1日3時間未満しか稼得活動に従事することができない者のことである。1日3時間以上稼得活動に従事することができる者は、「稼得能力がある」者として、近年創設された失業給付Ⅱ(ArbeitslosengeldⅡ)の支給対象者となる。したがって、前述した公的年金保険における「部分的稼得能力の減退」の場合には、稼得能力がある者に分類されることになる。

なお、支給額は、社会扶助の通常の需要(生計扶助の基準額)が定額として規定されており、現在は月額359ユーロとなっている。

おわりに

ドイツにおける障害者雇用政策の基本的な考え方は、一般労働市場への統合(編入)に重点があり、割当雇用制度を中心にその促進を図ってきた。近年になって、差別禁止という観点からの規制が加わり、今後どのように展開していくのか、その動向が注目される。

以上のような一般労働市場に参画するに至っていない障害者にとって、職業訓練の機会および一般労働市場への橋渡し的な就労の場を提供しているのが、障害者作業所である。障害者作業所には、職業教育領域と労働領域といった区別が存在し、特に労働領域において作業に従事している者と障害者作業所との関係は、基本的には労働者類似の法律関係と規定され、各種社会保険への加入義務を定める等、労働者に準じた取扱いが規定されている点に特徴がある。しかしながら、障害者作業所は、あくまで社会保障政策の中に位置づけられており159、そこで作業に従事する障害者の待遇を労働政策の観点から議論する際には慎重に取り扱わなければならないといえよう。