河村宏、八巻知香子、間宮郁子(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所)
濱田麻邑(支援技術開発機構:ATDO)
国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所(以下、国リハ)のスタッフが、初めて浦河を訪問したのは、平成15年の十勝沖地震の1ヶ月後でした。その頃には、高度な装置の開発だけは本当に生命を守ることはできず、地域の連帯が必要だという結論が得られていました。精神障がいや自閉症など、社会から理解が得られていない障害をもつ人たちは、地域からの孤立という点で問題は最も深刻です。どこか、障害を明かしながら、地域の人たちと助け合い、ともに防災活動に取り組めるところはないかと探していたとき、べてるの家の講演会を聞きました。早坂潔さんや清水里香さんが、自分たちの経験を見事に言葉にしているところを見て、「ここしかない」という思いを強くしました。
また、浦河では大きな地震が多発しているにも関わらず、死者も火事も出していませんでした。東京大学新聞研究所(現在の社会情報研究所)の調査でも、住民の皆さんの地震への備えが極めて優れていることが報告されています。この浦河だからこそ、全住民の安全な避難というさらに一歩進んだ取組ができると考えました。
平成16年度から18年度にかけて、「科学技術振興調整費」という研究費を得て、本格的に障害者の防災に関わる研究を開始しました。私たちの仮説は「正確で、かつ分かりやすい避難マニュアルが提供でき、本人がきちんと理解し、練習することができれば、重度の認知・知的障害を持つ人も安全に避難できるようになる」というものでした。そのために取り組んださまざまなことのうち、べてるの防災に直接関わるのは以下の点です。
・べてるのメンバーと一緒に浦河の地震や津波についてのミーティングをする
・安全な避難場所をさがし、避難方法についてのDAISYのマニュアルをつくる
・分かりやすいマニュアルになるように、メンバーと一緒に改善を重ねる
べてるの家のSSTやミーティングの技法は、本人が自分で解決したい課題を提示し、どうすればよいかポイントを絞り、やさしい言葉で話し合い、練習する手法で、防災にもぴったりでした。
この一年ですっかり、防災への取り組みがべてるの事業となり、自分たちの事業として、町や地域に貢献するべく展開するようになりました。また多くのメンバーが避難訓練やその準備に参加するスタイルも確立されました。なかでも、マニュアルづくりのために他のメンバーを誘って下見にいったり、その様子を報告をしながら防災活動を引っ張ってくれたDAISYチームの皆さんの様子を、とてもうれしく思っています。
幻聴さんにジャックされているメンバーと一緒に避難することは、まだ完全に解決できていない課題ですが、べてるの皆さんはきっと解決方法を見つけてくれると信じています。そして、べてるの皆さんが開発したノウハウは日本全国のみならず、世界のあちこちで活かされていく知恵に違いありません。