III. 3.他地域の視察と防災イベントの開催

浦河町ではこれまで大きな地震に見舞われながらも、幸い甚大な被害を受けたことが少ない。浦河町で想定される災害と類似の、津波による災害体験を持つ地域が行っている防災事業を参考にし、津波対策の知識と浦河で行われいる防災事業や避難訓練で有効性が認められたスキルについて情報交換を行うため、北海道厚岸郡浜中町を訪問視察した。また浦河沖地震の専門家、津波対策の先進的取り組みを行っている自治体、障害を持つ専門家をお招きし、町内役場職員、自治会会長らとともに防災事業について話し合う防災フォーラムを開催した。

 

写真

1)浜中町への視察

北海道厚岸郡浜中町は、昭和27年の十勝沖地震、昭和35年のチリ沖津波において、合わせて死者14名、流失、全壊の住宅被害269戸の大きな被害を受けた。長年の取り組みを経て、防潮堤の設置、全住宅への防災無線の配置、海水の流入を調節するための水門建設など町全体での津波対策が整えられている。これらの先進的な取り組みについて訪問視察にて学び、町行政の立場から取り組めることについて説明していただいた。町行政のほか、べてるの家のような福祉施設、消防署、住民(自治会)など、それぞれの立場で取り組める事柄があり、それぞれが話し合いを重ねていくことが、より大きな安全を得る手がかりになることが分かった。

【訪問概要】

11月5日、以下の20名で訪問した。

浦河町役場3名、浦河町消防署1名、町内自治会2名、べてるの家メンバー8名、べてるスタッフ2名、国リハ・ATDOスタッフ4名

視察先:防災行政無線局、津波防災ステーション、水門、避難所(温泉施設)など

写真

【振り返り】

浜中町では、津波による過去の被害体験を活かし、全住民が津波および避難関連情報を得られるように、防災無線の整備が進められていた。また津波浸水被害の軽減をはかり、津波被害が想定される港湾への堤防の設置、河口部の水門設置と管理システムといったハード面での防災対策が進められていることが分かった。参加者全体の振り返りでは、浦河町は直下型地震の震源地が近いことから、遠洋からの津波に備えている浜中町での取り組みとは異なるだろうという意見が出て、町役場、消防署、自治会などとの連携にむけた共同の合意点を得ることができた。なお、べてるでは、障害を持っている人も安全に逃げられるようにソフト面からの防災対策を行っているので、互いの防災事業の良いところを行かせるように、今後、情報交換を行っていきたい。

2)防災フォーラムの開催

2月23日、浦河町文化会館にて「べてるの家の防災フォーラム」を開催し、浦河沖地震の特徴、自治体の防災への取り組み、障がいを持った人から見た防災対策の工夫についてパネルディスカッションを行った。パネリストからは、次のような知恵やヒントを教えていただいた。

写真

浜大吾郎氏(徳島県美波町消防防災課):南海地震発生による津波被害という切実な課題をかかえつつも、楽しくなければ続かないとして、避難のための体力づくり「防災みなみ体操」や避難訓練と遊山を掛け合わせた「避難まつり」をご紹介いただいた。べてるでも、メンバーが「防災の歌」を歌ったり、非常食の試食を楽しみながら避難訓練をしているため、防災も楽しみながら取り組むという点が通じていると実感した。

上田幸作氏(北海道浜中町総務課):浜中町は昭和27年の十勝沖地震津波、35年のチリ津波にて大きな被害に襲われ、多くの人命が奪われた。この苦いの経験を生かして、浜中町では、町をあげて津波防災ステーションや防災無線の整備など、防災への努力が続けられている。平成15年の十勝沖地震においては、地震発生直後に水門が閉められ、事なきを得たという。過去の経験を生かす知恵の重要性を教えていただいた。

島村英紀先生(武蔵野学院大学):海底地震の専門家の知見から、浦河沖地震には「海溝型地震」と「日高山脈直下型地震」の2種類があり、津波が起きるのは「海溝型地震」に多いこと、地震や津波発生のメカニズムにも色々種類があることを教えていただいた。

木下富雄氏(浦河町東町第五自治会):防災活動のモデル自治会として率先して取り組みをすすめてきた東町第五自治会より、車いすや担架を用意したり、消防の人とで訓練をしたなどの報告をいただいた。この避難訓練では、以前、子どもたちを守るためにシルバーPTAを組織したという経験が、大きな力になっていた。住みよい地域づくりのための取り組みは、べてるでも参考になった。

スティーブン・ショア氏(全米自閉症協会):自閉症当事者であるショア氏は、緊張時にうまく対応するため、ご自分でニーズに応じた事前の準備をされている。災害時には即時に対応する必要があるため、自閉症を持つ人の特徴を書いたステッカーを持ち歩くなど、停電しても良いように、ローテクの道具を準備していることを教えていただいた。できること、あるものから準備すればよいことがわかった。

最後に、今年度の防災事業にご協力いただいた浦河町保健福祉課吉野氏、築地自治会高田氏から浦河町内の防災への取り組み方と今後の課題を報告していただいた。

写真

menu