ここでは、第3章および第4章の調査結果を基づき、特に、現在の現任研修のプログラム及び初任者研修のプログラムの受講者の評価を中心に、さらに詳細な統計的分析を行い、その評価に影響を与える要因を明らかにすることを目的としている。
すでに、第3章と第4章では質問項目ごとの度数分布が示されており、その分析をもとに回答の傾向を把握した。ここでの研修プログラムの評価に関する分析は、評価を得点化し、いくつかの条件(要因)との関連に注目した。以下、分析結果について詳述する。
なお、調査実施概要(目的、対象、時期、方法等)および全ての質問項目の結果については第3章および第4章を参照されたい。
ここでは、現任研修プログラムについて受講生がおこなった評価を得点化し、その評価得点の平均点を求めた。評価に関する質問の回答としては、1=「大いに習得できた」あるいは「大いに気づけた」などプラスの評価の方向を示す、以下、2=「少し習得できた」、3=「あまり習得できなかった」、4=「全く習得できなかった」となり、4段階で評価している。このように、4段階のスケールでの回答のため、平均点が小さければ小さいほど評価は良いとされ、逆に平均点が大きいほど良くない評価であると解することができる。(このスケールの回答については、初任者研修のプログラムの評価についても同じである。)また、上記の5つの研修のプログラムが国から提示されているが、今回の調査を実施した都道府県によってその受講科目(プログラム名称)とその内容には大きな違いがあった。そのため、調査票作成時に想定した5つのプログラムからの回答が得られない都道府県もあり、この調査における質問項目だけでは評価ができない都道府県もあった。したがって、分析を行ったプログラムは「障害者福祉の動向に関する講義」、「都道府県地域生活支援事業に関する講義」、「地域自立支援協議会について」、「障害者ケアマネジメントの実践」、「スーパーバイズ」の5つであり、第4章の単純集計の結果からも見てとれるように、無回答の割合が多くこの分析にはデータとして取り込むことができず、分析対象となった数も100ケース弱だった。また、これらのデータの分散も大きい。さらに、1つのプログラムに対する評価を複数回答しているケースもあり、その場合は無効とせず、ランダムに選んだ回答の得点をカウントした。これらの作業を行った結果、第4章の集計結果とサンプル数が異なるようにみえるが、第4章の結果から無回答をのぞいたものをサンプル数として表示したためであり、実際には同じ数となっている。
まず、この調査に用いられた4段階評価スケールについて、その信頼性を検討した。20項目についてのCronbachのアルファは.952で何とか等質性を保っているといえ、HotellingのT2乗値、Tukeyの非加法性を表すF値は有意にこのスケールの加法性を確認している。順序尺度として、その順序性は保っているということができる。
①障害者福祉の動向に関する講義(n=118)
講義科目なので、現場での活用、知識の習得が高いのはある程度当然であろう。4項目間の平均値はT-TESTの結果、統計的に有意な差(p=.000)が認められた。
「自分の課題への気づき」の分散が特に大きいのでその度数分布を見ると「大いに気づけた」28(24.6%)、「少し気づけた」74(64.9%)、「あまり気づけなかった」10(8.8%)、「全く気づけなかった」1(.9%)であった。
平均値 | 分散 | |
新しい知識の習得(n=118) | 1.88 | .413 |
新しいスキルの習得(n=113) | 2.03 | .383 |
自分の課題の気づき(n=114) | 1.92 | .779 |
現場での活用(n=108) | 1.78 | .308 |
②都道府県地域生活支援事業に関する講義
ここでも「障害者福祉の動向に関する講義」と同様の傾向で、現場での活用が最も良く評価され、次いで新しい知識の習得となり、新しいスキルの習得が最も低く評価された。この平均値の差も有意である(p=.000)。
平均値 | 分散 | |
新しい知識の習得(n=111) | 1.86 | .470 |
新しいスキルの習得(n=109) | 2.03 | .379 |
自分の課題の気づき(n=108) | 1.86 | .438 |
現場での活用(n=108) | 1.76 | .409 |
③地域支援協議会の意義と実際(講義)
ここでも上記2項目と同じ傾向である(p=.000)。
平均値 | 分散 | |
新しい知識の習得(n=117) | 1.71 | .329 |
新しいスキルの習得(n=114) | 1.89 | .272 |
自分の課題の気づき(n=114) | 1.73 | .359 |
現場での活用(n=113) | 1.65 | .389 |
④障害者ケアマネジメントの実践(演習)
このプログラムでも現場への活用が最も高く、次いで演習科目であるためか、自分の課題への気づきが僅差ではあるが高い(p=.000)。
平均値 | 分散 | |
新しい知識の習得(n=114) | 1.54 | .303 |
新しいスキルの習得(n=113) | 1.67 | .311 |
自分の課題の気づき(n=113 | 1.53 | .323 |
現場での活用(n=112) | 1.46 | .286 |
⑤スーパーバイズ
このプログラムでの平均値の差は少ないが「障害者ケアマネジメントの実践」と同様の結果となっている(p=.000)。
平均値 | 分散 | |
新しい知識の習得(n=96) | 1.59 | .286 |
新しいスキルの習得(n=94) | 1.69 | .345 |
自分の課題の気づき(n=94) | 1.53 | .295 |
現場での活用(n=95) | 1.52 | .338 |
⑥5つのプログラムを通して
最も評価の高かったのは「障害者ケアマネジメントの実践」の現場での活用という視点であった。現場での活用はプログラム全体を通して常に最も評価の高い領域であった。これは今回の研修において、どのプログラムも現場での活用に最も効果を上げたと考えることができる。なお、もっとも評価の低かったのは「障害者福祉の動向に関する講義」「都道府県地域生活支援事業に関する講義」における新しいスキルの習得であった。講義科目でのスキルの習得に評価が低いのは予想されることであるが、どのプログラムにおいても低かったのが新しいスキルの習得であることを考えると、演習形式のプログラムもあったものの、今回のような研修プログラムでスキルの習得をめざすには課題が多いことが予想される。
次に、それぞれの領域の評価点を合計し、プログラムごとの評価得点を計算してみた(下表)。「障害者ケアマネジメントの実践」が最も良く評価され、「スーパーバイズ」とつづく。これら合計得点の差も有意である(p=.000)。
合計得点 | 標準偏差 | |
障害者福祉の動向に関する講義(n=108) | 7.546 | 2.106 |
都道府県地域生活支援事業に関する講義(n=106) | 7.509 | 2.319 |
地域支援協議会の意義と実際(講義)(n=112) | 6.973 | 2.038 |
障害者ケアマネジメントの実践(演習)(n=110) | 6.246 | 1.848 |
スーパーバイズ (n=92) | 6.326 | 1.961 |
⑦プログラムの因子分析(参考)
参考までに、プログラムごとの評価の全体を因子分析して、プログラム間の関連性を確認した。主成分分析を行った結果は4つの因子で約70%が説明されていた。回転後の成分行列を見ると、第1因子には「スーパーバイズ」に関する項目のすべてと「障害者ケアマネジメント」の気づきと活用が含まれた。第2因子には「地域自立支援協議会」のすべてが、第3因子には「障害者福祉の動向に関する講義」のすべてとスキルをのぞいた「都道府県地域生活支援事業について」で構成された。第4因子は「障害者ケアマネジメント」のスキルと知識、「都道府県地域生活支援事業について」のスキルが含まれた。
これらのことから解釈を行うと
第1因子 技術系の研修内容への評価を表す因子
第2因子 地域自立支援協議会の研修内容への評価を表す因子
第3因子 講義系の研修内容への評価を表す因子
第4因子 実際におこなっている業務のスキルや知識に近い内容の評価を表す因子
とすることもできるかもしれない。第4因子の解釈は苦しいが、地方公共団体に所属する人が約2割いることから考えた。しかし、この結果から5つのプログラムを、因子得点などにもとづいて4項目に置き換えて分析する必要性はないと考えた。
今回の調査票ではひとつひとつのプログラムごとに、その評価の視点として「新しい知識の習得について」「新しいスキルの習得について」「自分の課題の気づきについて」「知識やスキルの現場での活用について」の4つについて評価するようになっている。ここではプログラムをまたぎ、この視点ごとに合計点を計算した。
①新しい知識の習得について
新しいスキルの習得について、最も評価の高いプログラムは「障害者ケアマネジメントの実践」の1.54だった。次いで「スーパーバイズ」1.59。逆に最も低かったのは「障害者福祉の動向に関する講義」で講義科目に期待されるものとは反対の結果となっているようだ。
②新しいスキルの習得について
ここでも最も評価の高いプログラムは「障害者ケアマネジメントの実践」1.67、「スーパーバイズ」1.69。同様に低いのは「障害者福祉の動向に関する講義」および「都道府県地域生活支援事業に関する講義」2.03と講義科目である。
③自分の課題の気づきについて
ここでも同様の傾向。「障害者ケアマネジメントの実践」と「スーパーバイズ」が1.53と高い。
④現場での活用について
ここでも最も高いのは「障害者ケアマネジメントの実践」1.46、「スーパーバイズ」1.52と傾向には変わりない。
⑤4つの領域を通して
評価領域ごとの合計得点は下表のように「知識やスキルの現場での活用」が最も高く、自分の課題への気づき、新しい知識の習得とつづき、新しいスキルの習得が最も低くなっている。この合計得点の差もT-TESTの結果有意であるといえる(p=.000)。
プログラムごとの評価とも同様に、今回の研修ではプログラムによらず「知識やスキルの現場での活用」への評価が高く、新しいスキルの習得が最も低く、スキル習得のための研修内容を検討する必要性を示しているのではないか。
合計得点 | 標準偏差 | |
新しい知識の習得(n=83) | 8.506 | 2.249 |
新しいスキルの習得(n=81) | 9.198 | 2.210 |
自分の課題の気づき(n=80) | 8.413 | 2.390 |
現場での活用(n=81) | 8.074 | 2.328 |
つぎに今回の現任研修の評価に影響を与える要因の分析をするために、影響を与えると予想されるいくつかの要因についてみてみる。度数分布については第4章で詳述されているため、ここでは値を整理して、影響を与えそうな要因の傾向を把握することを目的とした。
①事業所の基本属性について
勤務している事業所の種別については、障害者相談支援に関する事業所が108か所、それ以外の事業所(介護保険事業所等)が30か所であった。また相談支援事業と標榜してはいないが、旧体系の障害福祉サービス施設・事業所が49か所で合計187となる。
②経営の主体
地方公共団体 22、民間(福祉法人)69、民間(医療法人)5、民間(その他)18となっていた。
③活動圏域
単一市区町村が60、複数市区町村にまたがる事業所が53、都道府県全域が1であった。
④標榜分野の有無
障害福祉関係の分野を事業所が標榜しているか否かでたずねると、している61(53.0%)、していない54(47.0%)であった。
⑤得意分野の有無
得意分野として障害児者関係をあげているところは86(76.8%)、あげていないところは26(23.2%)であった。
⑥その他の受託事業の有無 地域活動センター事業Ⅰ型をはじめ障害児等療育支援事業、障害者就業・生活支援センター事業、発達障害者支援センター運営事業を受託しているかどうかでは、受託している44(49.4%)、受託していない45(50.6%)であった。
①主担当ケース数
10ケース以下が47(43.6%)、それ以上が62(56.9%)となっている。
②個別支援計画策定の割合
個別支援計画を作成している71(67.0%)、していない35(33.0%)であった。
③担当者会議の開催の割合
そのうち3か月に1回以上サービス担当者会議を開いている割合20%以上が34(32.7%)、20%以下(0も含む)70(67.3%)であった。
①年齢
階級ごとの分布は下表のようになっている。
度数 | 割合(%) | |
20歳代 | 34 | 18.0 |
---|---|---|
30歳代 | 59 | 31.2 |
40歳代 | 57 | 30.2 |
50歳代 | 33 | 17.5 |
60歳代 | 5 | 2.6 |
70歳以上 | 1 | 0.5 |
②勤務形態
勤務形態の分布は下表のようになっている。
度数 | 割合(%) | |
常勤専従 | 110 | 58.8 |
常勤兼務 | 67 | 35.8 |
非常勤専従 | 6 | 3.2 |
非常勤兼務 | 4 | 2.1 |
③勤務年数
勤務年数を月換算して求めると下表のようになる。
月数 | (年;月) | |
平均 | 74.14 | (6;1) |
---|---|---|
中央値 | 48.00 | (4;0) |
最頻値 | 24.00 | (2;0) |
最小値 | 0 | (0) |
最大値 | 353.00 | (29;4) |
④資格
保有資格については、医療職かそうではないか、福祉職かそうではないかという2分で求めた。
結果、医療職は13(6.9%)、福祉職は152(83.5%)であった。
現在の実践で知識やスキルがどれくらい習得できていると考えているか、またその知識や技術をどれくらい活用していると考えているか、要するに知識、スキルの習得と実施の状況に関する自己評価について、4段階尺度できいている(前述のように数字の小さい方が「良い」評価となる)。その結果について追加分析を行った。
①場面ごとの知識やスキルの習得状況、実施の状況
以下の表のように、「インテーク」や「利用者のアセスメント」では習得の状況も実施の状況もよく自己評価されている。一方、「エヴァリュエーション」と「スーパービジョン」は習得の状況も実施の状況もともに低く、一般的にいわれてきたことを裏付ける結果となった。
ⅰ インテーク
(n) | 平均値 | 標準偏差 |
知識を習得している(171) | 2.12 | .523 |
スキルを習得している(169) | 2.30 | .554 |
実施できている(170) | 2.31 | .616 |
ⅱ 利用者のアセスメント
(n) | 平均値 | 標準偏差 |
知識を習得している(170) | 2.21 | .557 |
スキルを習得している(166) | 2.36 | .562 |
実施できている(167) | 2.37 | .616 |
ⅲ 環境のアセスメント
(n) | 平均値 | 標準偏差 |
知識を習得している(169) | 2.38 | .588 |
スキルを習得している(165) | 2.51 | .570 |
実施できている(168) | 2.58 | .633 |
ⅳ プランニング(個別支援計画の作成)
(n) | 平均値 | 標準偏差 |
知識を習得している(169) | 2.36 | .612 |
スキルを習得している(163) | 2.47 | .591 |
実施できている(167) | 2.67 | .723 |
ⅴ プランニング(サービス担当者会議の開催・運営)
(n) | 平均値 | 標準偏差 |
知識を習得している(169) | 2.48 | .618 |
スキルを習得している(165) | 2.58 | .625 |
実施できている(167) | 2.73 | .653 |
ⅵ インターベンション(利用者本人への介入)
(n) | 平均値 | 標準偏差 |
知識を習得している(168) | 2.31 | .589 |
スキルを習得している(165) | 2.38 | .588 |
実施できている(164) | 2.40 | .634 |
ⅶ インターベンション(家族や支援機関への介入)
(n) | 平均値 | 標準偏差 |
知識を習得している(168) | 2.42 | .604 |
スキルを習得している(164) | 2.49 | .581 |
実施できている(164) | 2.59 | .626 |
ⅷ モニタリング
(n) | 平均値 | 標準偏差 |
知識を習得している(166) | 2.40 | .642 |
スキルを習得している(165) | 2.51 | .611 |
実施できている(165) | 2.70 | .666 |
ⅸ エヴァリュエーション
(n) | 平均値 | 標準偏差 |
知識を習得している(167) | 2.40 | .642 |
スキルを習得している(165) | 2.51 | .611 |
実施できている(165) | 2.70 | .666 |
ⅹ チームワーク
(n) | 平均値 | 標準偏差 |
知識を習得している(168) | 2.27 | .654 |
スキルを習得している(165) | 2.32 | .633 |
実施できている(166) | 2.42 | .654 |
ⅹⅰ スーパービジョン
(n) | 平均値 | 標準偏差 |
知識を習得している(166) | 2.77 | .713 |
スキルを習得している(162) | 2.86 | .664 |
実施できている(163) | 2.92 | .685 |
ⅹⅱ ストレス対処
(n) | 平均値 | 標準偏差 |
知識を習得している(168) | 2.49 | .701 |
スキルを習得している(161) | 2.55 | .689 |
実施できている(161) | 2.65 | .735 |
②習得状況、実施状況ごとの自己評価
習得の状況、実施状況に関する自己評価得点を見ると下表のように「知識の習得」に関する評価が最も高く、「知識やスキルを実施できているか」に関する自己評価が低い。これらの平均値には有意な差が認められた(p=000)。
(n) | 平均値 | 標準偏差 |
知識を習得している(156) | 28.89 | .457 |
スキルを習得している(145) | 30.13 | .447 |
実施できている(151) | 31.16 | .442 |
①受講回数の合計
前年度に受講した障害者相談支援に関する研修の回数は、最も多いのが0回で31(19.9%)、次いで1回が27(17.3%)、2回25(16.0%)で、2回以内までで53.2%となる。ただ10回以上が10人いるため、平均値は3.4回、最大値は22回である。
②初任者研修の受講の有無
初任者研修には149(93.7%)が参加していた。
③障害者相談支援専門員の資質を確保するために望ましい研修回数
最も多かったのが「1年に1回以上」75(44.9%)と半数近く、次いで「3年に1回以上」が50(29.9%)であった。
プログラムごとの合計点(5プログラム)、評価の視点ごとの合計点(4領域)、プログラム全体の合計点(5プログラム×4領域)の合計点に、これまでみてきた要因と有意な関連のあるものを探した。分析は一元配置の分散分析、回帰分析などを用いた。
①障害者福祉の動向に関する講義
「障害者福祉の動向に関する講義」の評価に影響のあったものは、勤務事業所が障害者相談支援に従事しているかどうかである(p=.041)。従事している人の方がこのプログラムの評価が高い。
②都道府県地域生活支援事業
「都道府県地域生活支援事業の講義」に有意に影響を与えている要因はみられなかった。ただ、参考までに、担当ケース数と担当者会議の開催の割合が、有意に近い結果を示した(p=.065、p=.069)。
③地域自立支援協議会の意義と実際(講義)
これも講義科目だが、このプログラムには「知識やスキルの実施に関する自己評価」が有意に影響していた(p=.005)。標準化係数は-.815、t値は-2.881で「知識やスキルを実務に活かせていない」と考える人の方が、このプログラムへの評価が高いことがわかる。
④障害者ケアマネジメントの実践(演習)
このプログラムの評価に影響があるのは、まず「福祉職かどうか」である(p=.029)。福祉職の人の方が評価が高い。
ついで「実施に関する自己評価で(p=.020)、標準化係数、t値はマイナスであるので、ここでも「知識やスキルを実務に活かせていない」と考える人の方が評価が高い。
⑤スーパーバイズ
このプログラムの評価に影響しているのは、その理由は不明ながら、「単一市区町村内で活動しているか複数市区町村にまたがって活動しているか」であった(p=.004)。傾向としては複数市区町村にまたがって活動している事業所の人の方が評価が高い。
①新しい知識の習得の合計に影響を与えている要因
まず「得意分野が障害者福祉関係にあるかどうか」が新しい知識の習得に影響があった(p=.034)。次いで有意に近い結果ではあるが「知識やスキルの実施に関する自己評価」で「活かせていない」と考える人の方が評価がよかった(p=.056)
②新しいスキルの習得の合計に影響を与えている要因
これには有意に影響を与えるものはなかった。
③自分の課題への気づき
ここも(1)と同様に、知識やスキルの実施に関する自己評価が、有意に近い状態で影響があり(p=.059)、知識やスキルが実際に「活かせていない」と考える人の方が評価がよいという結果である。
④現場での活用
これはある当然の結果であるが、現場での活用に関する評価には「知識やスキルの実施に関する自己評価」が影響を与えている(p=.013)。これも標準化係数、t値ともマイナスであり、ここでも知識やスキルが実際に「活かせていない」と考える人の方が評価がよい。
スケール全体の合計得点に有意に影響を与えていたのは「知識やスキルの実施に関する自己評価」であった(p=.043)。標準化係数は-.690、t値-2.077で、これも実際の業務に活かせていないと感じている人が、合計得点が高い(スケール全体によい評価をしている)ということである。
今回の研修では、同一名のプログラムであっても、都道府県ごとにその内容がかなり違うといわれていたが、結果は下表の通りプログラムごと、領域ごと、評価の総合計得点に有意に違いがみられるものが多かった。
研修プログラムの課題を考えるにあたっては、今回の都道府県毎の内容の違いに注意する必要がある。
プロ1 | プロ2 | プロ3 | プロ4 | プロ5 | 知識 | スキル | 気づき | 活用 | 総合計 | |
A | 5.857 | 6.857 | 6.428 | 5.571 | 5.000 | 7.125 | 7.666 | 7.428 | 7.571 | 28.000 |
B | 7.350 | 7.789 | 7.473 | 5.500 | 6.277 | 8.176 | 9.166 | 8.666 | 8.277 | 34.470 |
C | - | - | 7.600 | 5.500 | 6.200 | - | - | - | - | - |
D | 7.100 | 5.909 | 6.142 | 5.750 | 5.454 | 7.473 | 8.166 | 7.166 | 6.944 | 29.764 |
E | 7.656 | 8.233 | 7.258 | 7.096 | 6.964 | 9.555 | 9.963 | 9.120 | 8.851 | 37.400 |
F | 7.538 | 6.916 | 7.428 | 6.750 | 7.153 | 9.166 | 9.833 | 9.000 | 8.000 | 35.700 |
G | 8.875 | 8750 | 6533 | 6.250 | - | - | - | - | - | - |
* | ** | * | * | * | * | * |
* p<.005 ** p<.001
プロ1=障害者福祉の動向に関する講義
プロ2=都道府県地域生活支援事業について
プロ3=地域自立支援協議会について
プロ4=障害者ケアマネジメントの実践(実習)
プロ5=スーパーバイズ
知識=新しい知識の習得についての合計
スキル=新しいスキルの習得についての合計
気づき=自分の課題への気づきについての合計
活用=現場での活用についての合計
総合計=すべてのプログラム(4領域)の合計
A~Gはそれぞれの都道府県を表す。
今回の分析で評価得点にもっとも影響を与えていたのは、「知識やスキルの実施に関する自己評価」であった。知識やスキルが実際の支援場面で実施されていない、と思う人ほど研修の評価が高い。研修へのニードとして、知識やスキルを実際の場面に結びつける方策を身につけたいというものであろう。
「新しいスキルの習得」については合計得点、プログラムごとの得点ともに最も評価が低い。これは今回の研修が新しいスキルの習得に関しては評価されていないことを示している。したがって、より実践的なスキル習得のための研修プログラムが求められていることがわかる。
障害者ケアマネジメント、スーパーバイズについては、実際の支援場面で最も行われていないものである。当然、これらの知識やスキルに対する研修ニーズは高いが、このようなプログラムは継続的な参加型研修での実施が必要なのではないかと思われる。
研修プログラムごとにその評価得点を計算した。ここでも現任研修プログラムと同様にスケールは4段階で数値の小さい方向が「良い評価」の方向である。初任者研修は調査項目と実際の実施プログラムが大きく異なっている都道府県はなく、10のプログラムについて分析することができた。ただここでも1つのプログラムの評価に複数の得点を与えた回答があり、その場合は無効とせずに、ランダムに選んだ回答の得点をカウントした。
分析に用いる評価尺度の信頼性については、Cronbachのアルファが.968と等質性は確認でき、HotellingのT2乗値、Tukeyの非加法性検定も有意に加法性を確認することができた(p=.000)。この尺度の順序性は保たれている。
各プログラムの評価の合計点を計算したところ、最も良く評価されたのは「ケアマネジメントプロセスに関する演習」であった。反対に良く評価されなかったのは「相談支援における権利侵害と権利擁護」であり、これらプログラム間の平均値の差は有意であった(p=.000)。
平均値 | 標準偏差 | |
1. 障害者自立支援法の概要 | 6.92 | 2.15 |
2 .相談支援事業と相談支援専門員 | 6.48 | 1.93 |
3. 障害者の地域生活支援 | 6.64 | 1.91 |
4. 障害者自立支援法における個別支援計画の作成 | 6.34 | 1.89 |
5. 障害者ケアマネジメント(概論) | 6.64 | 2.04 |
6. ケアマネジメントの展開 | 6.26 | 2.08 |
7. ケアマネジメントプロセスに関する演習 | 5.90 | 2.12 |
8. 実習 | 6.41 | 2.35 |
9. 相談支援における権利侵害と権利擁護 | 7.10 | 2.31 |
10.地域自立支援教支援協議会の役割と活用 | 6.43 | 2.11 |
次にプログラムごとに、評価の視点による平均値を求めてみた。最も高かったのは、ケアマネジメント「ケアマネジメントに関する演習」の「自分の課題への気づき」と「現場での活用」であった。反対に低かったのは「相談支援における権利侵害と権利擁護」の「新しいスキルの習得」である。
①障害者自立支援法の概要
平均値 | 分散 | |
新しい知識の習得(n=429) | 1.73 | .629 |
新しいスキルの習得(n=409) | 1.83 | .622 |
自分の課題の気づき(n=411) | 1.75 | 687 |
現場での活用(n=408) | 1.59 | .621 |
②相談支援事業と相談支援専門員
平均値 | 分散 | |
新しい知識の習得(n=450) | 1.63 | .576 |
新しいスキルの習得(n=431) | 1.70 | .567 |
自分の課題の気づき(n=430) | 1.59 | .576 |
現場での活用(n=433) | 1.55 | .572 |
③障害者の地域生活支援
平均値 | 分散 | |
新しい知識の習得(n=447) | 1.65 | .567 |
新しいスキルの習得(n=427) | 1.77 | .581 |
自分の課題の気づき(n=426) | 1.63 | .601 |
現場での活用(n=428) | 1.58 | .585 |
④障害者自立支援法における個別支援計画の作成
平均値 | 分散 | |
新しい知識の習得(n=443) | 1.59 | .581 |
新しいスキルの習得(n=426) | 1.68 | .527 |
自分の課題の気づき(n=426) | 1.56 | .584 |
現場での活用(n=425) | 1.50 | .575 |
⑤障害者ケアマネジメント(概論)
平均値 | 分散 | |
新しい知識の習得(n=442) | 1.66 | .609 |
新しいスキルの習得(n=425) | 1.74 | .599 |
自分の課題の気づき(n=422) | 1.66 | .599 |
現場での活用(n=424) | 1.57 | .583 |
⑥ケアマネジメントの展開
平均値 | 分散 | |
新しい知識の習得(n=443) | 1.58 | .601 |
新しいスキルの習得(n=422) | 1.65 | .609 |
自分の課題の気づき(n=425) | 1.52 | .599 |
現場での活用(n=426) | 1.49 | .571 |
⑦ケアマネジメントプロセスに関する演習
平均値 | 分散 | |
新しい知識の習得(n=439) | 1.48 | .615 |
新しいスキルの習得(n=427) | 1.55 | .631 |
自分の課題の気づき(n=424) | 1.42 | .586 |
現場での活用(n=427) | 1.42 | .586 |
⑧実習
平均値 | 分散 | |
新しい知識の習得(n=365) | 1.62 | .676 |
新しいスキルの習得(n=356) | 1.68 | .658 |
自分の課題の気づき(n=354) | 1.56 | .633 |
現場での活用(n=353) | 1.56 | .664 |
⑨相談支援における権利侵害と権利擁護
平均値 | 分散 | |
新しい知識の習得(n=444) | 1.80 | .662 |
新しいスキルの習得(n=427) | 1.87 | .653 |
自分の課題の気づき(n=428) | 1.77 | .680 |
現場での活用(n=429) | 1.66 | .651 |
⑩地域自立支援協議会の役割と活用
平均値 | 分散 | |
新しい知識の習得(n=412) | 1.60 | .614 |
新しいスキルの習得(n=400) | 1.70 | .619 |
自分の課題の気づき(n=399) | 1.57 | .625 |
現場での活用(n=403) | 1.55 | .622 |
プログラムごとの評価の視点である「新しい知識の習得について」「新しいスキルの習得について」「自分の課題の気づきについて」「知識やスキルの現場での活用について」の4つについて合計点を計算した。結果、「知識やスキルの現場での活用」が最も高く、領域間の平均値の差は有意であった(p=.000)。また、「知識やスキルの現場での活用」が最も高い傾向は現任研修のプログラム評価でも同じ傾向であった。
平均値 | 標準偏差 | |
新しい知識の習得合計(n=308) | 16.19 | 4.70 |
新しいスキルの習得合計(n=295) | 16.95 | 4.58 |
自分の課題への気づき合計(n=286) | 15.69 | 4.47 |
現場での活用合計(n=293) | 15.29 | 4.42 |
ここではいくつかの要因とプログラムごとの合計得点、評価の領域ごとの合計得点、総合計得点の関連をみた。(1)現任研修プログラムでは要因と想定した変数の分析も記載したが、ここでは省略し、統計的に有意に関連がみられたものをあげる。
個別支援計画の作成割合を、40%以上とそれ以下に分けると、「障害者ケアマネジメント(概論)」の評価と関連がみられた(p=.001)。
また、有意に近い傾向ではあるが「相談支援事業と相談支援専門員」との関連も想定できる(p=.058)。
年齢階級を20歳代、30歳代、40歳代とそれ以上の4区分でみると、「障害者自立支援法の概要」、「相談支援事業と相談支援専門員」、「相談支援事業と相談支援専門員」、「ケアマネジメントの展開」、「ケアマネジメントプロセスに関する演習」との有意な関連がみられた(p=.048、.014、.034、.000、.001)。その傾向は、どのプログラムも20歳代が最も高い。
経験年数をプログラムごとの評価得点合計、領域ごとの評価得点合計、総合計との関連をみた。 結果、「障害者自立支援法の概要」との関連が有意にみられた(p=.010)。標準化係数は-.150、t値-2.593で、経験年数の短い方がこのプログラムの評価が高い。
ついで「障害者自立支援法における個別支援計画の作成」「障害者ケアマネジメント概論」に関連が有意にみられ(p=.042、046)、傾向は同様に経験年数の短い方が評価が高い。
初任者研修のプログラムに対して評価しているのは、前述のように年齢の若い、経験年数も浅い受講者像がみられた。また、相談支援事業を行っている事業所に所属している受講者では個別支援計画の作成割合から40%以下の受講者の評価と関連があった。
ここでは、現行の初任者研修のプログラムが比較的年齢や経験が浅い受講者層には、一定の評価がなされていることから、ある程度はその研修の目的を果たしていると言うことも可能ではないだろうか。しかしながら、このことは逆に自由記述欄のなかでは「参加要件がわかりにくいためか、主催者の考える受講者像と離れた受講者がいる」や「受講者のレベルに差がありすぎる。資格要件を検討すべき」などの意見も散見され、第3章の結果の障害者分野の相談員としての経験年数では平均4.4年、5年以上の経験とする者が35%を占めることなど、受講者像やレベルの問題として取り上げられているところでもある。