第6章 ヒアリング調査の結果(プロジェクト4)

Ⅰ.調査実施概要

(1)調査の目的

 ヒアリング調査は、都道府県における相談支援従事者研修や人材育成の現状・課題について、都道府県担当者・研修委託先担当者、相談支援従事者(企画者・受講者)それぞれの立場からの現状や課題に対する認識を把握することで、本研究事業提案に向けた基礎資料を得ることを目的に実施した。

 

(2)調査対象と調査方法

1)都道府県ヒアリング調査

[調査対象者]
 都道府県相談支援従事者研修担当者及び相談支援体制づくり担当者
[調査方法]
 ヒアリングシートに事前記入を依頼し、訪問インタビューを実施した。

2)相談支援従事者ヒアリング調査

[調査対象]
 各都道府県調整担当者を通じて、都道府県の中核となりうる人材、あるいは今年度の現任研修受講者等複数名に協力いただいた。具体的なメンバー構成や人選については、各都道府県の実情や意向を考慮することとした。
[調査方法]
ヒアリングシートに事前記入を依頼し、訪問によるグループ・インタビューを実施した。

ヒアリング調査協力者・機関

[都道府県ヒアリング調査]

都道府県名 協力者(所属)
北海道 行政担当課
研修委託先担当         2名
福島県 行政担当課            2名
神奈川県 行政担当課
研修委託先担当         3名
福井県 行政担当課
研修委託先担当         4名
*精神保健福祉担当は欠席
滋賀県 行政担当課
研修委託先担当         3名
島根県 行政担当課            2名
徳島県 行政担当課
研修委託先担当         3名

 

[相談支援従事者ヒアリング調査]

都道府県名 協力者(所属)
北海道 研修企画(3名)
相談支援従事者 (民間事業所、行政各1)
現任研修受講者(民間事業所、行政各1)      7名
福島県 研修企画者、講師、受講者               4名
神奈川県 研修企画者、研修インストラクター           4名
福井県 初任者研修演習講師、現任研修受講者       6名
滋賀県 委託相談支援事業所相談支援従事者(一部初任者研修講師)(4名)
現任研修受講者(2名)                 6名
島根県 県アドバイザー、初任者研修、現任研修講師    2名
徳島県 研修企画者、講師                    5名

 

(3)調査時期

 平成20年11月~12月

 

(4)調査担当者

 本研究事業プログラム検討委員会作業部会委員が担当した。

 

(5)調査内容

 参考資料のヒアリングシート参照

 

Ⅱ.相談支援従事者研修の内容・プログラムについて

 

 ヒアリング調査では、相談支援従事者研修の内容やプログラムに関して、以下の3つの観点から意見を集約している。順に内容を紹介したい。

障害者の相談支援従事者として「今後力をつけたい」、「今の力では足りない」と感じて いること(相談支援従事者のヒアリングシート事前回答より)
従事者ヒアリングでの、自身の研修に対する期待や研修の内容・方法等に関わる意見
現任研修の内容・企画・運営等に対する自由意見

 

1.障害者の相談支援従事者として「今後力をつけたい」「今の力では足りない」と感じていること(相談支援従事者のヒアリングシート事前回答より)

 

 ヒアリング調査に先立って相談支援従事者の方々にご記入いただいた事前アンケートから、「障害者の相談支援従事者として「今後力をつけたい」「今の力では足りない」と感じていること」について、企画者側・受講者側別に回答をみると、次のように整理できた(次頁図表6-1参照)。

①意見の内容を、障害や制度等の知識、アセスメント力、地域診断力、面接技法等、計画作成~支援、社会資源の開発、個別支援会議の運営のテーマに分類すると、研修企画者側、受講者側ともに、希望している内容はほぼ同様の傾向を示している。

②必要と感じている内容を、知識、技術、姿勢(態度)の3つの側面からみると、姿勢(態度)についての記載は、研修企画者側のみにみられた。研修企画者側からは、「相談支援専門員としての姿勢」、「思い(障害福祉から地域福祉へ)」などがあげられている。これは、自身として不十分であるという意味合いとともに、研修を企画する側として、今後、受講者に身につけて欲しいと感じていると理解できよう。

③受講者側からは、「生活全般に関するもので、保健・医療・福祉以外の知識」、「目まぐるしく変わる制度を取り込んだり、読みこなす力」、「発達障害や障害の狭間にいる方への面接技法」、「ニーズの引き出し、見極め」、「当事者の力を引き出す」など、実践的で応用力が求められる知識・技術面での回答が多い。

④コミュニケーション技術、ネットワークに関しては、受講者側からは具体的な意見が寄せられた。特にネットワークについては、「継続的に情報が入る繋がり(研修というよりも日々の実践もある)」等、研修の場以外での実践への期待も寄せられた。

 

図表6-1 相談支援従事者が「今後力をつけたい」、「今の力では足りない」と感じていること

研修企画者側 受講者側
■障害や制度等の知識
・相談支援専門員としての姿勢
・思い(障害福祉から地域福祉へ)
・各障害についての知識や理解
・制度の理解
・医学的知識、リハビリの知識等
・障害の理解
・医療・保健分野の知識
・生活全般に関するもので、保健・医療・福祉以外の知識
・目まぐるしく変わる制度を取り込んだり、読みこなす力
■アセスメント力、地域診断力
・アセスメント力
・地域診断力
・モニタリング技法
・本人のニーズや生活課題、能力等のアセスメント力
・ニーズの引き出し、見極め
■面接技法等
・基本的な面接技術、方法
・訪問するにあたっての心がまえ
・アウトリーチ
・発達障害や障害の狭間にいる方への面接技法
■計画作成~支援
・社会生活力を高める支援プログラムの在り方(エンパワメントの視点での)
・アセスメント→プランニングの技法
・家族・地域との調整力
・コーディネーション技術
・本人の力や可能性に着目する視点
・当事者の力を引き出す
・関係機関との連携を図る力、調整力
・社会資源をニーズにあてはめていくのではなくニーズを中心に社会資源を使いこなす調整力
■社会資源の開発
・社会資源の開発力
・社会調査→提言するプロセス
・社会資源の開発力(協議会で政策につなげるための力)
・様々な機関(社会資源)と幅広く人脈を構築すること
■個別支援会議の運営
・個別支援会議の持ち方
・相談・福祉を理論的に説明する力
・ファシリテーション技術
・説明力(行政、地域等に対して)
■コミュニケーション技術 ・伝える力、コミュニケーション技術
・わかりやすく伝える表現力。かけひき交渉術
■ネットワーク ・継続的に情報が入る繋がり(研修というよりも日々の実践もある)
・ネットワーク力

* 相談支援従事者31名のヒアリングシート事前回答
* ヒアリング対象の相談支援従事者を研修企画・講師参加経験の有無で「企画者側(研修企画・講師参加経験有)」、「受講者側」に分けている。

 

2.ヒアリングでの関連意見の整理

 

 ヒアリング調査では、プログラム再構築にかかわる様々な発言を得た。以下、関連する事項について、その主な「生の声」を紹介する。なお、ヒアリング対象地域によってヒアリング協力者の属性が異なっていたこともあり、すべての対象地域で、同じ設問を投げかけているわけではないことを、あらかじめご了承いただきたい。

1)相談支援従事者研修に求めるもの、期待するもの
2)効果的な研修内容や方法として考えられること
3)今後相談支援専門員に求められるスキル

 

1)相談支援従事者研修に求めるもの、期待するもの

①受講者側の意見
  受講者側からは、自身にとっての研修の位置づけや期待が語られた。なお、本発言は、事業所内でのスーパーバイズや地域での個別支援会議などが、相対的に実践されている地域の現任者からの発言である。

 ■現任研修の位置づけ、効果

自分にとっての研修は、①自分がやっていることを確認できる場。「他の人と差がない」、「そういう見方もあるのか」等。②新たな考え方、視点を得られる場。必ずしも研修の場ですぐに理解できるわけではないが、しばらくして実践のなかで、思い出し納得することも多い。
自分自身に修正が加えられる。現実から離れた場所に行くことで、新たなエネルギーをもらえる。
自分で事例を整理することは振り返りになる。さらに人前でしゃべることで整理。他の人の話をきくことのよさ。
研修の場でしゃべることよりも、そこに至るまでに自分で整理をしていく過程がよかった。
普段の個別支援会議の必死感は、“あの所長の協力を取り付けるまでは頑張る”、という必死感。研修の場合は、自分はこの事例があったからこれからも頑張っていけるという自分に対する確認と一緒に参加している同じ地域の仲間に対するアピール。これからも一緒に頑張っていこう、というエールの掛け合いのようなものを感じた。
相手に伝えるべきことを整理して話すことも重要だが、言わなくてもわかる人たちに聴いてもらえることでもっと深まるように感ずる(現任研修)。前向きなカンジになる。話が停滞しない。もちろん、それを現場にどう持って行くか、ということはあるが。

 

■相談支援従事者研修に期待するもの

担当したばかりで、知識がないので知識を得たいと思っていたのだが、実際は理念、姿勢が大事なことを実感した。(理念・姿勢)
経験値がほしい。いろいろなケースをみて、こういう対処法がある、とか知りたい。(経験値)
生活圏域の社会資源の方と繋がっていきたい。研修は、顔と人とキャラが繋がるところ。ネットワークをつくる目的のために毎年受けたいと思う。
・今のケアマネ関係のネットワークは、この研修によって得たもの。ファシリテーターの人もとても近い存在。講師との距離感の近さも他にない魅力。
市町村の場合、特に田舎の町村ほど、相談のみならず、障害程度区分認定審査~支給決定、サービス支給、あるいはサービスをつくるまで、一人で何役もこなさなければならず、重要な役割を担うことになる。事務処理量も膨大である。相談の対象者も障害者だけではなく、子どもから高齢者まで来た人については、すべて対応しなくてはならない。田舎の行政を強くする研修(市町村職員を強くする研修)が欲しい。

 

②企画者側の意見
*ここでの意見は、いずれも、国のカリキュラムに加えて、都道府県独自の内容を加味している都道府県の企画者の回答

 ■研修企画側のねらいや企画・運営の苦労

研修で最低限身につけて欲しいこと、それは、どんな困難なことでも、とにかく本人とともに諦めずになんとか解決に向かっていく姿勢。そこが身につけられれば、あとは地域のネットワークでつないでいくとか、いろいろなやり方がある。
研修はメッセージ。明確なメッセージが終了後も残っていることが重要。
初任者研修と現任研修のメッセージは連動しており、初任者研修の上に現任研修を積み上げていくという発想が大事。
研修の流れをケアマネジメントサイクルにあわせて組み立てている。去年からコミュニケーション力を高めるような内容を講義・演習に盛り込んでいる。今年はさらに権利・人権の視点を追加していこうとしている。
それぞれの人に「固まってしまっている」ものをどう解きほぐしていくか。研修中、皆があまりにも今の職場での地位等から出られないので、肩書き、見た目をおろして欲しいとした。今年の研修では、自分が呼ばれたい名前をつけて、日常から離れてもらうようにした。
現任の到達目標のひとつは、自分のいる障害福祉圏域をどう開発していくかを考えること。そのためには同じテーブルに市町村が着いていることが重要。個別の事例が地域を経て、再び個別の事例に戻ってくるという流れを理解し、つくること。

 

2)効果的な研修内容や方法として考えられること

①受講者側の意見

 現任研修受講者からは、「よかった」経験として、地域診断や「とっておきの事例」があげられた。また、今後希望する内容とともに、研修受講の形態や実施方法等についても意見が寄せられた。

 ■よかったこと(現任研修)

(地域診断ととっておきの事例の報告)やっていそうでやっていない報告。持ち寄った事例について云々する訳ではなくて、この人にとって何が揺さぶられたのか、何がとっておきなのか、何を反省しているのかを、互いに知ることができ、自分も振り返ることができた。“今の自分があるのはこの事例のおかげなんだな”、と改めてわかった。客観的にみられる部分と他からの助言がよかった。
(初任者研修と現任研修の違い)話の通り方が全く違った。「言語の共通化」ではないが、初任者研修に比べれば、ある意味共通化しなくてもいいくらい話が通った。そういう受講者の間なので、お互いに受ける刺激も大きかった。

 

 ■こんな内容・方法があるとよい(現任研修)

(ストレスマネジメント)人を相手にしているので、ストレス、プレッシャーを感じやすい業務。セルフメンテナンスも重要。以前ストレスマネジメントの研修を受けた後で、気持ちが軽くなった覚えがある。
(人として拡がりが持てるようなプログラム)人としての器という側面も大きい。一方で、地域をつくっていくためには戦略が必要で、戦略的な話と、人をほろっとさせる人間性、両方が必要。それは障害福祉の世界の話ではない。もう少し広い部分で考えていく必要がある。こうしたことは研修には盛り込みにくいことかもしれないが、何か新しい拡がりがもてる項目があってもいいのかもしれない。
(人を人としてみる「センス」)援助技術全般を高めたいと思っているのだが、人を人としてみる、捉える「センス」はどうしたら高まるのか?センスはどうしたら得られるのか?
(予測できないことへの対応力)予測できないことが起こる状況についていけない人をどう育てていくのか。ある部分は、年齢やら生活経験の中で積み重なったことが生きてくる、福祉の経験等も土台として必要。
(研修時のグルーピング)中身は今やっていることでよいかと思うが、グルーピングの際の工夫によって、違う効果が得られるのではないか。例えば、経験年数をあわせる、あるいは混在させるとか。直感としては、同じくらいの経験年数の人が一緒の方がわかりやすい気はする。
(研修受講までの準備、動機付け)研修の内容は現状のままとしても、むしろ、どんな気持ち、態度で研修に臨むかが大事と思う。研修目的が周知され、参加者が事前にその姿勢をつくることが大事。現任研修も、目的がもう少し明確にアナウンスされていれば、より効果的な研修になるのではないか。

 

(研修後のフォロー)研修を受けた後で受けっぱなしで終わらないような何かがあったらいい。自分の事業所では上司のスーパーバイズが受けられるが、「受けっぱなしにしない何か」が全ての人にあったらいい。

 

 

②企画者側の意見
 企画者側からは、現在の相談支援従事者研修で不足している内容(プログラム提案含む)とともに、今後、研修を組み立てていく上での枠組みとして検討が必要と思われる事項についての意見が寄せられている。

 ■現在の相談支援従事者研修では足りないこと *次頁プログラム提案参照

  (初任者向け)
初任者研修の前段階で、障害特性について専門的な理解をするための研修が必要か。障害特性については、現在の初任者研修のなかにも「当事者からのニーズ」という形でプログラムがあるが、それだけでは弱い。
初任者研修では、生の事例を使ってアセスメントを深める研修があってもいいか。
  (初任者研修終了後)
初任者・サービス管理者研修を受けた人に対しては、個別支援会議の運営を学べる機会。また、個別支援計画を立てるスキルを持ちにくい事業所(小規模作業所等)に所属する相談員向けの支援が必要。
レベルアップのための研修としては、講義+演習で、自分の事例をもってきて、徹底的に事例検討。作成しているケアプランのモニタリングを中心とする演習が必要。
アセスメントして、書類をつくり、ケア会議で本人と一緒に協議する。このあたりは、本来実践を通じて行うもの。個人や事業所/地域で出来る人はそれでよいが、必ずしもそういう人ばかりではない。そこを繋ぐ必要がある。
  (現任者向け:地域変革に向けた自立支援協議会の意味、活用方法)
現任研修の次のステップは、解決のために地域をどう変えていけるか、そのために自立支援協議会をどう使えるか、ということではないか。その辺りは、まだ個人差があり、まだまだ「ケアプランをつくってニーズに答えていればいい」という人も少なくない。

 


参考 提案されたプログラム案(神奈川県提供資料)

①基礎知識を補完するための研修「障がい特性・理解研修」
(対象:相談支援従事者、サービス管理責任者研修受講資格者、認定調査員)
[ねらいと概要]
  従事者が利用者を客観的に理解することを目的として実施。3障害+発達障害の基礎知識、家族の気持ちと支援、事例研究(演習)、全市町村を対象に県内4ヶ所程度で実施。
 1日6時間程度の研修を2日で実施。1回100人程度。

②人材の質向上・強化を目的とした研修
②-1 相談支援従事者スキルアップ研修
 (対象:初任者研修修了者)
[ねらいと概要]
 ケアマネジメントに際して重要なアセスメント力の強化、ケアプラン作成力強化を重点的に。1日6時間程度を1日で実施。講義+演習。1回30人程度
②-2 サービス管理責任者スキルアップ研修
(対象:サービス管理責任者研修修了者)
[ねらいと概要]
 サービス管理に必要な個別支援計画作成にあたり重要なアセスメントと支援計画作成に重点をおいた研修。1日6時間程度を2日間で実施。1回50人程度

③地域の人材拡充・強化を目的とした研修
③-1 サービス調整・支援会議時実践研修
(対象:県養成研修、サービス管理責任者研修受講者)
[ねらいと概要]
 個別支援会議に必要な技術、サービス調整会議の主催のノウハウ及びネットワーク構築の技法を学ぶ。1日6時間程度を1日で実施。1回30人程度

③-2 事業所へのスーパーバイズ及び研修後の直接フォロー研修
(対象:県内作業所、障害福祉サービス事業所)
[ねらいと概要]
 現場で求められる個別支援計画作成のための基本技術習得を目的に実施。5時間程度の研修を1日開催。事業所に出向いての研修/5圏域(除横浜・川崎)での実施。圏域開催の場合、1回約30人程度。

④専門性を強化することを目的とした研修
(対象:現任研修修了者、相談支援事業者、サービス管理責任者として、実践的な支援を行っている人)
[ねらいと概要]
  ケアマネジメントの専門的な知識・技術修得を目的として、1日7時間程度の研修を2日間で実施。全圏域で3回。1回約30人程度。ソーシャルワーク方法論、アセスメント方法論、エンパワメント・ストレングス理論、演習1(アセスメント)、演習2(ニーズ整理と再プランニング)


 ■その他相談支援従事者研修の組み立て方として

  (障害特性と効果的な援助技法)
障害特性によって、ケアマネジメントをする際の考え方やフィットする手法が異なるように感じる。例えば、知的障害者の場合、積み上げ式。つまり、ひとつのことが出来たら次に進むという考え方のようで、いきなり「夢」というのはフィットしないようだ。
  (福祉分野の他領域との整合)
全体がレベルアップしていくためには、研修を、福祉全体の枠組みのなかで整理・関係づけていく必要がある。例えば障害の相談支援専門員、介護支援専門員等の資格間の整合。市町村の理解と参画等。
  (実施する対象エリア、あるいは各地域の特性を重視する項目と全県統一の項目の整理)
研修の内容というよりも、今後は、もう少し小さな地域レベルでの運用が重要。例えば、「相談」、「障害」についての内容や定義は地域によって異なって使われている。もう少し地域の色がでるようなシステムと全県として統一を図るべきものの整合性を図る必要がある。
より地域に近いところでの継続研修を重視している。その内容としては、研修の場から現場に戻ってもきちんと出来るとか、研修に行かなかった他の従事者にも、研修の内容が伝わっていることが大事。
  (インストラクターの養成・研鑽の機会)
研修(特に演習を中心とした研修)では、インストラクターの役割が大。そこが育たない限り研修プログラムは生きない。
講師の研修も必要とのことで、1泊2日での講師のための研修を計画している。
  (その他今後の養成システム全般のあり方について)
初任・現任以外の研修受講については、ポイント制の話についても今後具体的に検討したい。要は、この研修を受けたらこの役割につけるという具合に、受けたなりの処遇を考えたい。相談支援専門員として食べていける状況をつくることが重要。
地域包括のヒアリングを行うと、障害分野の相談が抱えているものと類似している相談内容が増えてきている印象である。障害の研修でも、介護に関連する情報を伝えていく等々、交われるきっかけを作っていく必要がある。

 

3)今後相談支援専門員に求められるスキル

 受講者側、企画者側双方から、個別支援会議や地域のなかでの協働に向けたスキル等、地域での実践に必要なスキルが多くあげられている。

  ①受講者側の意見(現任研修修了者を中心に)

  (相談支援活動の方針:本人中心の支援)
利用者の立場に立つ支援。自分をそこに置き換えて話をするにしても、“こういうことなら利用者は嫌がるかな”とか“喜ぶかな”とか、そういう気遣い、心遣いを持って支援している。
地域や家族のニーズと本人ニーズが違うことは結構ある。そこで、100%本人ニーズだけでもうまくいかないので、うまくマッチングできればと考えているが、地域も家族もあるので右往左往しているのが現実。
相談の対象が知的障害の方が多いので、すべてを手助けしていたらどうしても依存心が強くなる傾向にある人が多いと思う。その辺りを見極めながら支援している。
   
  (ケアマネジメントに有用な技法)
プラス志向の視点。うまく言えないが、そういう視点はその人がもともと持ちあわせているものなのか、知識、経験を通じて得たものなのか...
支援に必要な技術については、流行のようにいろいろな考え方が出て来ていてそれぞれの長所短所もあるのだと思う。1つの考え方やパターンで固定されるのではなく、いろいろな考え方、パターンを知りたい。
  (個別支援会議の運営力)
「前向きな個別支援会議をつくる」スキル。逆に、「これだけは言っていけない言葉リスト」とか。
模擬ケア会議のなかで、普段と違う役割をもてた。視野が広がる。自分がどう見えているか、本人の気持ちとしてどうかとか。やはり、より参加型のプログラムが大事ということではないか。
  (地域のなかでの調整能力、人を巻き込む力)
相手をその気にさせる技術というものがあるのならば、知りたい、身につけたい。一緒にやることのメリットを言葉にして伝えていくことも技術なのではないか。
(地域のなかで)一緒に動き出すための一言が言えるかどうか。それも経験のなかで体得していくものなのか。
保健、教育等いろいろな分野とかかわりながら支援をしていく際には、どの部分をだれが責任をもって、どこまで支援していくのかということを整理し、共有していく作業がとても重要。
  (学んだ知識や技術を実践のなかで使える技術)
単に技術について知識を得ることだけではなく、それを効果的に使うタイミングをみて仕掛けていく技術が知りたい。
制度、サービスは経験を積む中で自然に理解が進むが、それをどのタイミングでどう使うか、また、本人がしっくりくるような言葉でどう伝えるかということがとても大事。そこは相談員としての技術なのでそこを高めたい。
自分自身の基準ではなく、相手の立場にたって一緒に喜べるかどうかも大事にしたい。そういう感覚を時々確認することはとても大事。
  (ネットワーク/ネットワーキング)
1日にお会いする人数、特に一人の利用者を巡る関係者の数も多くなっている。大変だと思うことは多いが、そうした大変なことを解決に導いて下さるのも地域の方だということもわかってきた。いろいろな人と出会うことが仕事なのだ、と理解できるようになってきた。
県自立支援協議会で3障害ごとのネットワーク部会が設けられていて、2ケ月に1回、情報交換をしている。地域の事情が異なるので、自分の報告を聞いてもらうだけで、結構研修になっていると感じた。解決できない問題をいろいろ抱えているなかで、人の話をきくことで解決の糸口が見えるのではないか。ヒントをもらえる。
関わる中で得意不得意を作ってしまっている面がある。サービス関係事業者は行きやすいが、警察とか余りケースとして扱ったことがない機関については、行き方もわからないし、機関の内容も十分勉強していないこともある。
ネットワークの入口を掴むために地域自立支援協議会がその役割を果たしている面はある。普段は同じテーブルに集まることはないが、集まってしまえば勝負は早い。関係機関を個別に回っていたら時間かかるし、一度言っておけば伝わる。同じこと何度も言わずに済む。共通認識まではいかないがわかってくれる。そういう意味では必要と思う。
  (困難事例への対応)
本人に権利侵害されている認識がないとか、家族のトラブル。
法に触れる行動など問題としては大きいかもしれないが、周囲がそれをどう共通理解して見守りとか支えていくかを組み立てていくかが大事かと思う。そこが十分できていない。
サービスを利用している事業者とのトラブルなど、段々自分が活用できる資源を狭めていくというトラブルもある。結局支援方法が狭まってくる。クリアしていくためには、ネットワークや社会資源開発が必要。

 


 ②企画者側の意見

(面接技法)
現任研修では、支援会議の持ち方についてロールプレイをしてもらい、あとで気がついたことを指摘する。実際にやってもらうと、例えば座る位置ひとつにしても、基本がなっていない人がかなりいる。
  (発達障害にかかわる事項)
県発達障害支援センターを中心に、発達障害に関する様々な研修が行われはじめており、参考になる。発達障害の分野でいえば、応用行動分析、認知療法等の技術的な部分は、相談支援の分野にも役立つと思う。
  (ケアマネジメントに有用な技法)
企業が行う戦略やマネジメントなどの研修の方が役に立つ。ケアマネのプロセスの仕組みは企業の運営改善の仕組みに似ている。
テーマとしては、組織マネジメント、問題解決アプローチの方法や視覚化していく技術(プレゼン力)、エンカウンターなど。
社会資源の生かし方についても発想力が必要。固定概念で縛られていたら何もできない。
現場の職員には処遇困難ケースを事例で出して、それをどう解決するか演習していくことでよいと思うが、キーとなる人には組織をマネジメントできるようなことを身につけてもらった方がよい。
例えば、困難事例の解決方法で、スーパーバイザーがこういう視点で調整したり、解決を図っていくことを見せていくような研修があってもいい。視点の差は大きいと感じている。
  (個別支援会議の運営力)
個別支援会議がきっちりできていけば、自立支援協議会も動いていくような気がする。いまはそこができていない。事例が深められていないので課題も出ない。
  (調整能力、社会資源の把握)
最終的に求められるものは調整能力。それを上げるには、本当に地域資源を知っているかどうか、ということに辿り着く。
資源を知るというのは、ケースがあるからかと思う。一つひとつのケースをどれだけ大事にしていくかで地域の資源も見えてくるのではないか。経験だけではダメで、きちんと一つひとつ分析していかないと見えてこないと思う。
  (個別の課題と地域の課題との繋がりをどうつけていくか)
事例と地域診断を課題として出しておき、事例を発表してもらいながら、ケースを通じて見えてくる各地域の課題と現状を明らかにし、そのことを通じて、地域にとって何が必要なのかを検討していく。地域のなかにどんな資源が足りないかを議論している。個別の課題と地域の課題との繋がりをどうつけていくかが鍵であり課題でもある。
  (プロデュース能力、プレゼン能力)
個々のケースワークだけではなく、仕事全体として捉え、他者に対してアピールしていく力が弱い。プロデュース能力。プレゼン能力。普及啓発と言われつつ、実は相談員自身が相談支援のことを市民にプロデュースできていない。関係者だけの集まりではない、市民をまじえた機会が必要。
  (地域自立支援協議会の運営・活用テクニック)
現在の地域自立支援協議会は単なる報告会になってしまっている。「こう支援しました」というだけではなくて、「こういう支援をしていてまだこういう課題が残っているから、こうしていこう」という運営のテクニックを身につけないといけない。
課題を意識した報告にしないと何の意味もなくなる。また、せっかくの機会なので、関係機関の方に我々の動きを理解してもらうなど、意図的に運営していかなければただの報告会に終わってしまう。
課題を共有することは、発展段階の第一段階としてはいいと思うが、課題を積み上げてきたら、これがこの地域の課題なんだと表に出せるテクニックとかは必要だろうと思う。それは、ケア会議を個別に積み上げることで生きてくる。
意図的に会議を使いなさいといっている。事業者側が意図的にメンバーを集めなければならない。この人の問題を解決するには個別会議を開かなければいけないとか、こういう課題が残っているので自立支援協議会を使おうとか、別の方法を使おうとか、戦略的な技術が必要。
今の研修では、地域自立支援協議会については県の職員が話していることが多い。いわゆる法的位置づけだけで、中身の話はほとんどしていない。もし自立支援協議会が肝ということであれば、時間をもっと拡大して、個別支援会議の話をするとか、実際に演習を組み込むとか、実際にやってみることが必要かもしれない。
  (ネットワーク/ネットワーキング)
自立支援協議会を基にしたネットワークもあれば、個別の支援にかかわる人のネットワークづくりもあると思う。スキル的には、分析する力。その人の課題をきちんと把握し、どういうネットワークが必要なのかを分析する力が必要。
研修のもうひとつの狙いはネットワークをつくること。今後、従事者、サービス管理者、認定調査員が同じ研修を受けて、地域に戻ってネットワークをつくれるような仕組みが必要と感じている。その際に、そうした研修の場に市町村職員がいることが不可欠。
相談支援だけがレベルアップしても、地域全体のレベルアップには繋がらない。それをリードしていくのが、相談支援専門員の役割。サービス管理者と初任者研修受講者がまずネットワークをつくる。その上で、現任受講者が核となって地域のネットワークを仕掛けていく、こうした事が研修を通じてできるとよい。

 

3.現任研修の内容・企画・運営等に対する自由意見 (相談支援従事者のヒアリングシート事前回答より)

 

1)現在の、都道府県現任研修の内容や実施方法についての意見・提案

 現在の都道府県現任研修の内容や方法に対して、以下のような意見・提案が寄せられた。以下、テーマ・経験年数順に掲載する。

①受講者側の意見

■内容・方法についての意見・提案
昨年のミスポジション論、今年度新任研修のワールドカフェなど、その時々の最新のケアマネジメント手法に関する情報を得ることができて良いが、できれば研修に参加しない人達にも情報として提供されるような仕組みがあると良い。(21年)
内容が初級の延長であり内容が浅い。事例もよくある事例がほとんどで、より技量を向上させるためには、もう少し困難な事例やより深い課題が必要と思われる。また、アシスタントの向上も期待したい。(14年)
内容が自立支援法に特化しすぎている。実際の相談者は自立支援法の対象となる方は少なくむしろ、生活全般(権利擁護、年金、医療、在宅生活での悩み)や犯罪更生など。実際に各所での困難事例をもとに専門家が解説するなどの研修が必要。(14年)
現任研修での「自立支援協議会」と「地域診断」「とっておきの事例」は大変興味深い企画であった。受講者全員で討議に参加でき、各自の日頃の活動を振り返り評価の機会を得ることができた。困難事例の解決方法や、地域資源の開発のノウハウ等、貴重な情報を得ることもできた。(5年)
ファシリテーターの役割について研修が必要かと思われる。さらに講師、ファシリテーターの仕組みがあると自己研鑽にもつながると思う。(3年)
事例検討に際しては具体的な目標設定の中で、相談支援員がエンパワメントできるような指摘や助言をいただければと思います。(3年)
専門的分野の講義と演習、スーパーバイズはとても勉強になります。(2年)
経験者の実践報告を聞きたい。研修のインストラクターを務めている先輩たちが現場でどのような相談支援を展開しているのかみてみたい。たくさんのお手本(様々な方の)をみたい。(1.9年)
平成19年11月に専門研修を受けたが、(介護保険のケアマネ研修と比べると)少人数で講師も多くて、丁寧な研修と思った。参加当時は業務担当してから日が浅く、知識がほとんどなかったので、理解出来なかったことも多かったが、講師の熱意は伝わってきた。姿勢や理念を学ぶことができた。参加者からいろいろな情報が得られたこともよかった。(1年)
ワークショップやロールプレイは個人の力になる。少人数制が良い。(経験年数不詳)
現在の演習中心の内容は大変良い。(経験年数不詳)


②企画者側の意見

■現任研修全般に対する評価
どのような人材を育てていきたいのかを明確にして資格化を視野にいれた継続を。(19年)
現在では個から地域への支援展開に着目している(現在国が示している相談支援体制と近い)。また、受講者のレベルアップに伴い真に実践で活かせる(反映)内容にしていかなければならないと感じている。(13年)
■内容・方法についての意見・提案
面接技術・アセスメント力・支援会議の持ち方等の必要を感じる。(35年)
相談支援を行う上でのベースとなる基礎的(障害に対する理解等)な内容を充実すべきである。(35年)
研修等の内容については、毎年ある程度の方向性が決まっていれば良いと思うが、研修に参加した方の継続した研修(現場で行っていない、気づいていない)が必要。(35年)
相談員の振り返りや、流れなどがこのままで良いのか不安になることが多い。それが研修できる場は必要。特に上級クラスの研修は、日程や時間が1年に1回では少ないのではないか。(9年)
力量を高められるように具体的かつ実践的な研修。(9年)
制度の変更点などをしっかりと伝えてほしい。(9年)
現任研修では、受講者が持ってきた事例のすべてがスーパーバイズされると良い。(9年)
専門家を育成していく場でもあるので、スーパーバイザーを育成するための知識、技能が自己理解なども視野に入れた研修内容も必要と思われる。(9年)
先進地の都道府県から事例発表してもらう。自立支援協議会との関わりや施設反映も含めて社会資源開発の事例紹介(6年)
対人援助の基本である面接技法の演習は大事だと思う(6年)
ファシリテーターとして学ぶ機会(5年)
少人数のグループワーク(組み替え)。基本の確認。ディスカッション。(5年)
①当事者面接による面接報告の振り返りは現任にとって重要。②ケア会議及び会議の進め方は重要であった。(5年)

 

 

 

2)都道府県現任研修の企画・運営体制についての提案

①受講者側の意見

■研修対象について
今年度の現任研修は個人的には非常に参考になりました。ただ研修参加者の中にはサービス管理責任研修を兼ねて参加している方もいるので、できれば相談支援専門員に絞った研修をと思います。(25年)
■研修企画・実施について
受講者の感想も参考に企画が行われていますが、自立支援協議会などで出された都道府県レベルでの相談支援事業に関する課題なども内容として企画段階で取り上げてみてはいかがか。(21年)
県内の実務経験者が研修を受け持つことが望ましい。しかし、長年の経験とノウハウを持っている特定の相談支援事業所職員に、本来主体的に企画しなければならない県側が頼り切っているように見える。(10年)
案内が遅く、実施時期がいつもまちまちで、計画的に参加しにくい。一部プログラムで、初任者研修で県外講師が、現任研修で県内講師が担当したものがあった。研修体系についても不明確である(情報がない?)(10年)
参加集約は事前に行われるため、申し込み時や事例提出時に参加者の研修内容に関する希望調査などを行ってみてはどうか。(8年)
日時の設定(分散しての開催の方が参加しやすい)。(8年)
参加者のモチベーション(8年)
■研修の頻度について
現在は5年に1回程度の受講となっているが、本県では民間への委託率が低く、実際のケアマネジメントに携わる機会が少ないので2年に1回の受講が望ましい。(21年)
原則1回行けばよいという研修ではなく、毎年違う生活課題や法改正などがあるため、毎年参加したくなるような内容も魅力あるものとしたらよいと考えます。(14年)


②企画者側の意見

■協働の体制づくり
国の指導者研修を修了した人たちによって県とともに企画・運営をしていくことは必須である。そして、国の指導が少しずつ変わってくる(制度の変化があるため当然である)ため、前年度との比較が可能なように、参加者のうち1名は、2年連続して参加するように努めている。県内の指導者のネットワークも必要であると思う。研修による個別評価が必要であるが難しいと感じる。(35年)
①県ではこれまで官民協働で検討・実施をすすめてきた。このプロセスが理論と実践のバランスを調整して研修に活かすことができると感じている。②自立支援協議会の存在を認識できるようなアプローチが必要。(13年)
県内に圏域アドバイザーを配置していく計画があるので、今後、アドバイザーを含めた形で、現任研修の企画などが行われる予定である。現場で実際に相談支援業務や自立支援協議会に関わる人材が企画・運営することで効果的な研修が開催できると思われる。(9年)
■都道府県の責任の明確化
相談支援専門員の養成は県が責任を担う必要があり、本県の場合、国の指導者研修、県現任研修での企画においても、精神分野の相談支援事業者を積極的に活用するべきではないか。(10年)
■質の担保、研修以外の機会づくり
アフターフォロー体制が必要。(19年)
相談支援専門員としての質の担保をどうするか。受講すれば研修終了という現在のシステムで担保できるか。また、現業を持ちながら企画運営に携わることの困難さ。当会が運営を委託されても実際的には少数のスタッフで企画から講師まで行っている現状をどのように整理して良いのか悩む。(17年)
県のアドバイザー等が、相談事例からどのような研修が必要なのか、毎回話せる場は必要。その事を毎年の研修に生かして欲しい。(9年)
現地視察(協議会など)(9年)
各地域の社会資源について情報を集める場合は研修の時だけで終わらせず都道府県の方で情報を集約して相談支援従事者に配布してはどうか。(6年)
サービス管理責任者研修等との連動した体制づくり。(5年)
■研修対象について
研修対象者が、実際に相談支援を行っている方を研修対象にできないか。また、スキルアップを図るためにも、現任研修を受けたことに対しての対価が欲しい。(17年)
■国研修への期待、意見
国の相談支援従事者指導者養成研修のあり方の検討が必要であると考える。数回参加したが、その研修色が知的障害色を強く感じる。3障害とは言いつつ、精神障害者福祉に批判的な発言を特に耳にすることがある。グループリーダーの障害種別の平均化。(35年)
国の研修の内容もある程度、県の現任研修との整合性を持たせた内容にすべきである。市町村の行政担当者も積極的に参加して、理解を深めてもらえるような仕組みが必要。当事者理解を深めるために、積極的に当事者を活用することは有効である。(10年)

 

 

Ⅲ.都道府県における人材育成、相談支援従事者養成研修について

 

1.地域の相談支援体制及び都道府県による市町村支援の現状

 はじめに、人材育成の基盤ともいえる、地域の相談支援体制や都道府県による市町村支援の現状について、調査結果を概観する。

1)地域の相談支援体制

①相談支援体制整備にあたってのエリア設定
 今回調査によれば、地域の相談支援体制整備の基盤を市町村単独ではなく、複数市町村で共同して自立支援協議会を設置していたり、あるいはもともと圏域レベルでの相談支援体制を構築しているところもみられた。
 複数市町村での相談支援体制整備の背景には、「相談支援事業所等の社会資源が少なく、単独では困難」という理由や「障害者の生活圏域自体が市町村を越えたエリア設定のため」という意見があげられた。

②市町村行政の相談支援の重要性に対する認識に温度差
 市町村相談支援事業は交付税措置となっていることもあり、市町村行政の相談支援の重要性に対する認識が高まらないと交付税そのものが適切に使われにくい、という現状も語られた。こうした点について、都道府県としてどこまで市町村に対して働きかけができるのか、迷いを示している都道府県もあった。
 市町村で相談支援の重要性に対する認識が高まらない背景の一つとしては、学齢期以降遠方の特別支援学校等で寮生活を行なうなど、そもそも地域で成長し地域のなかでともに生活していく障害児・者がまだまだ少ないこと、さらに、入所・入院した障害のある人の退所・退院促進も緒に就いたばかりという実態も語られた。

③相談支援事業所の質・量に地域差
 指定相談支援事業所数には地域差がみられるとともに、各法人・事業所の相談支援事業に対する姿勢や質確保のための取組等についても差があることがうかがえた。特に、都道府県担当者、従事者双方から、1事業所あたりの相談支援従事者の少なさ(1人体制の事業所の存在)、法人内でのスーパーバイズ機能、管理者の相談支援事業に対する理解(研修派遣に対する理解)等については、地域差・法人差が大きいことが語られた。

2)都道府県の市町村支援の枠組み

①圏域の考え方/活かし方
 都道府県の人口規模、これまでの障害保健福祉圏域の整備・活用状況、市町村の意向等によって、圏域をどのように設定し、相談支援体制・人材育成の単位として生かしていくかということに関する現状は異なっている。現状は、大きく3つのタイプに分けられた。

県-地域自立支援協議会の2層(圏域は設定していない/今後設定予定)
県-圏域(自立支援協議会)の2層
県-圏域(2次医療圏)-サブ圏域・市町村の3層

 

②アドバイザー制度の活用
 調査対象の7都道府県中6県で、すでに、全県レベルの特別アドバイザー制度あるいは圏域を単位とする圏域アドバイザー制度のいずれか、もしくはいずれも活用していた。(1県は次年度以降、特別アドバイザー、圏域の相談支援アドバイザー設置の予定)
 ただし、その配置・活用の方法には、都道府県による違いがみられた。具体的には、以下のような点が指摘できる。

アドバイザーの役割や権限がどの程度明確に位置づけられ、本人・関係者に周知されているか。
配置されている人材特性(個人に委託しているのか、事業所に委託しているのか/具体的には、どのような人材が配置されているのか(県内外・障害特性・キャリア)/市町村アドバイザーとの関係/地域と県との橋渡し機能をどの程度担っているかあるいは担えるような仕組み(権限)となっているか等々)
地域の実践の最前線を把握しているアドバイザーが、何らかの形で研修の企画開発に携わるような仕組みをとっているか。

 

③市町村(職員)への働きかけ
 都道府県として、市町村職員に対して、相談支援の重要性に関する啓発や働きかけを行っているかどうか。実施している都道県では、次のような方法が採られている。

初任者・現任研修受講への明確な位置づけ(計画)や参加の働きかけ
相談支援や、自立支援協議会の役割、その重要性等についての意識づけ(啓発研修等)(市町村職員向けの研修等の実施)

 

3)制度・現実の問題点(指摘されていたこと)

 上記以外で、都道府県における相談支援体制を構築していく上での問題点として、複数の都道府県担当者/相談支援従事者から以下の事柄があげられた。

県の福祉事務所廃止に伴う、圏域レベルでの県の権限の発揮しにくさ
精神分野では、精神保健センターが中心で動くために、市町村の地域自立支援協議会との連携がとりにくい(人材育成も民間事業所ではなく県保健師が中心となるケースも)
発達障害、就労等県が支援すべき専門的相談と市町村レベルでの相談の連携の困難さ

 

2.都道府県における人材育成、相談支援従事者研修の課題

 調査対象都道府県の人材育成、相談支援従事者研修の取組は様々であった。個々の取組から学ぶ点が多くみられた一方で、今後都道府県における人材育成のあり方を検討・充実させていく上で共通的に確認・検討していく必要がある事項も指摘された。以下、テーマごとに現状と検討課題について概観したい。

1)研修の受講対象と想定される「人材」の多様性と求められる内容・フレームの整理

①障害者の相談支援に従事する人材の幅の広さ

[現状]
(対象とする障害種別等)
委託相談支援事業所のなかにも、3障害全般を担当する人、知的、精神等特定の障害分野を担当する人が混在している。(市町村の委託の状況をみると、障害分野別の委託制度を採用している自治体も少なくない)
特に町村部(行政)を中心に、相談支援の対象が障害者に限定されておらず、子どもや高齢者、生活保護等の相談を総合的に受けているところも見受けられた。
(委託/行政直営の職員)
全国的には、市町村直営のみでの実施は2割強だが、都道府県によっては直営7割と、日常的な相談支援の中核を、異動を前提とした一般行政職が担っているケースもみられる。そうしたなかで専門職を置く場合、多くは保健師が中核となって相談事業が行われることとなる。
都道府県によっては、精神分野の人材育成は、民間の指定相談支援事業所ではなく県(圏域精神保健センター)保健師が中心となっている地域も散見された。例えば、国研修への派遣など、民間ではなく県保健師が対象となっているなど。
民間の指定相談支援事業所の育成あるいは相談支援事業の民間への委託という点については、市町村によって考え方に差がみられる様子もうかがえた。((例)一定の水準を保ちながらどこまで必要量を見込み育成していくのかという迷い/障害者が地域にいないので委託の必要を感じていない/委託費等の確保が財政的に困難等々*)

* ただし、今回の調査では市町村に対する直接ヒアリングは行っていないので、都道府県あるいは従事者からの参考意見扱いとする。

[検討課題]

こうした現状から、個々の相談支援従事者にもそれぞれ強みや弱み(障害種別による関わりの強弱、法人属性による経験値の違い等)、あるいは職務範囲との関係で身につけるべき事項(例えば支給決定権限も有する行政職員の留意点など)などの違いがあることが想定され、一律の研修システムだけではない、選択的な個別メニューの開発も検討されることが望ましい。

②受講者/受講動機の多様さの整理

[現状]

(障害分野以外の相談支援従事者、市町村職員等との関係)
・初任者研修の対象は、現在障害分野の相談支援に携わっている人以外に、児童、高齢分野等当面障害者の相談支援事業には携わっていない人、あるいは市町村職員を積極的に受講させているところ等、幅がみられた。

(サービス管理責任者との関係)
・相談支援従事者の初任者研修、現任者研修と、サービス管理責任者研修については、両者を同一のプログラムで同じ研修機会として抱き合わせで実施している都道府県も多く、様々な課題が指摘された。
(指摘例)(相談支援従事者研修に混在しているサービス管理責任者の課題として)
・受講の動機が異なる(義務的)
・受講の前提となる基礎知識が異なる
・演習についていけない(事例が持ち込めない)
・演習でのグループワークが成立しにくく、現任の相談支援従事者のモチベーションにつながらない
・他方、「ケアマネジメントをしていく上で、事業所のサービス管理責任者の理解・協力は不可欠であり、研修の場は分けるにせよ、サービス管理責任者と従事者研修のカリキュラムの共通フレーム部分は必要である」という意見や、「サービス管理責任者の理解や協力が重要だからこそ、同じテーブルで研修を受けた方が良い」という意見もみられた。

[検討課題]

 こうした受講対象枠に対する考え方の違いは、都道府県の「障害者の相談支援に携わる人材、育成すべき人材の範囲」の捉え方によって異なる。中には、戦略的に対象の呼びかけ(理解者、裾野の拡大)を行っているところもあれば、そうではないところもあった。基本的には、都道府県の地域特性や戦略次第と言えるが、いずれにしてもそうした明確な方針や戦略を都道府県が持っているかどうか、が鍵となる。 いずれの方針をとるにせよ、サービス管理責任者については、相談支援従事者のモチベーションを高めるような「研修の場」の設定のあり方、両者に必要な(共通する)カリキュラムの検討などが急務と思われる。

 

2)人材育成に関する都道府県のビジョン、方針の必要性と実現のための仕組みづくり

rep6320障害者の相談支援に関わる人材育成に関する都道府県のビジョン、方針

[現状]
・調査対象となったほとんどの都道府県で人材育成に関するビジョン、具体的な計画の必要性は感じられていたものの、現実にビジョンや計画を有している都道府県は少なかった。
・相談支援従事者研修に対する考え方についても、都道府県の責任として、また人材育成のための好機として研修を企画・活用していこうという強い意思が感じられるところから、「国の通達に従って実施している」ところまで、意識差は大きい。
・ビジョンや方針を有している都道府県では、対象となる人材の範囲は様々あるにせよ、最終的には、圏域や地域(市町村)レベルでの相談支援従事者、行政、関係する専門職全体の底上げを目指しており、そのためにも、自らの都道府県内の実践を通じた人材の育成・養成が不可欠と考えている。

[検討課題]

 障害者自立支援法(第78条)に謳われていることではあるが、あらためて人材育成に関する都道府県の責任について確認していく必要がある。
 特に、前述のように、個々の相談支援事業所における質の担保に向けた取組の限界や、市町村の相談支援事業に対する温度差が存在する現状では、一人ひとりの相談支援従事者が孤立せずに地域のなかで育っていくためには、個人、法人の努力と共に、市町村の理解・参画、都道府県の明確な意思と戦略(開発手順や手法)が必須と言えよう。
 さらに言えば、それぞれの地域の事情に応じてその責任を遂行できるような財源的な裏付けが担保されていく必要がある。

②養成研修の内容の検討・開発のための仕組み

[現状]
・調査対象都道府県における相談支援従事者研修の企画・開発の方法をみると、概ね次のように分類された。

(ア 自立支援協議会の絡み方(有無))
・ 都道府県自立支援協議会のなかに「人材育成部会」「研修部会」等の部会を設置
・ 都道府県が、自立支援協議会(企画部)に企画・実施を委託
・ 都道府県自立支援協議会とは関係を持たせていない

(イ 地域の課題を県レベルで集約し、人材育成に繋げる仕組みの有無)
・ 地域(圏域)自立支援協議会で地域の課題を集約し県自立支援協議会に繋げる
・ 県域/圏域アドバイザーのネットワークを通じて課題を把握し研修に生かす
・ 特に仕組みはない

(ウ 企画にかかわるチームの体制(共有化の仕組み))
・ 都道府県自立支援協議会の人材育成担当者に研修講師を含めて検討
・ 都道府県自立支援協議会の人材育成部会(事務局)を中心に検討
・ NPOと都道府県担当で企画・調整
・ 県/委託先職員で検討

[検討課題]

 最も手厚い体制をとっている都道府県では、上記3つの事項すべてについて何らかの工夫がとられている一方で、中には、問題意識は持っているものの仕組みとしては全てが「今後の課題」としているところもあった。後述するように、相談支援従事者研修を都道府県の人材育成のための有効なツールと位置づければ、いかに都道府県に効果的な相談支援従事者研修の内容としていくか、そのための情報収集や意識の共有化をどう進めていくかということは重要であり、検討が急務となっている。

③相談支援従事者研修(企画・実施)を通じた、県内/地域のリーダー養成の仕掛け

[現状]
・相談支援従事者研修を通じて県内/地域のリーダー養成も図っていくということについて、都道府県の取組状況はまちまちであった。ただ、地域に根ざした相談支援活動を展開していく上での「自分の地域で、県内で人材を育てていく必要性」についての認識は共通しており、今後の課題として問題意識を有しているところは多い。

(取組の具体的ポイント)
・国指導者研修の受講と県内人材育成の考え方がリンクしているか。
(相談支援従事者研修/地域のリーダーとして期待する人材を国研修に派遣しているか)
・国研修や相談支援従事者研修を受講して欲しい人に受講してもらえるような仕組みがとれているか。(現状では応募は事業所への投げかけが多いが、主催者が受けて欲しい人と事業所が受けさせたい人が一致しないことも少なくない。
(例えば、相談支援従事者研修の受講生は、市町村を通して推薦してもらう仕組みをとっているところもある)

[検討課題]

 今後、相談支援従事者を育成していく上では、相談支援従事者を個々の事業所の人材としてだけ捉えるのではなく、「地域の人材」として捉える視点が重要である。こうした点については、例えば、「研修の受講などは、地域の自立支援協議会推薦という形で自立支援協議会を経由するようにして、地域の代表として研鑽を積み、またその成果を地域に還元できるような仕組みとしてはどうか」という提案もあった。

3)研修受講者側からみた人材育成、相談支援従事者研修のあり方

①多層化する研修参加の動機や研修への期待
 ヒアリングで語られた、研修に参加した従事者自身の体験(実感)や講師経験者等の話を整理すると、現任研修受講者の参加動機や期待は、大きく3つのグループに分けられる。それぞれの特徴は以下のように整理できた。

(グループ1)
・職務として、やや義務的に研修に参加している層
(例 事業所の方針で指名された/いずれ事業拡大するときのために要件を満たした人員を確保しておこうという法人の狙いがあった 等々)。
・受講者の当初のモチベーションは総じて高くないが、研修の内容によっては、本人の新たな気づきの可能性も秘めているグループ。現状では、演習等の場面で、時には円滑な運営を妨げる存在にもなってしまう懸念もある。

(グループ2)
・知識や技術、スキルを求めて研修に参加してくる層。
(例 スーパーバイズを受けたい(事業所では受けられない)/個別支援計画を作成したい(日常的に個別支援計画をあまり作成していない)/ケアマネジメントを学びたい(施設のため地域生活支援のケアマネジメントを学ぶ機会がない等々)
・意欲はあるが、日々の実践を通じた研鑽機会にあまり恵まれておらず、態度、基礎知識、地域での実践が不足している。また、後述のいわゆる「研修と現場の乖離」が最も大きいグループ。現状の参加者層の中では最も多いと想定される。

(グループ3)
・知識・技術・スキル等の習得への期待とともに、むしろ「日頃の業務のふりかえり」や「自分を肯定的に確認する場」、「自分の気持ちを前向きに高めていける場」、「他者(ともに相談支援を行う仲間)からの刺激、互いの高め合い」の場としての現任研修への期待が高いグループ。
・個別支援計画の作成、個別支援会議の実施など、地域での相談支援活動の実践がある程度達成されているグループ。このグループの参加者にとっては、研修の当日だけでなく、研修に向かうまでのプロセスが重要である。例えば、研修の目的が周知され、参加者が事前にその姿勢をつくれる、自分の取組の整理ができることが重要。また、研修の特にグループワーク等における互いの高め合いが実感できるような工夫も求められる。さらに、個別支援会議や地域自立支援協議会の運営など、比較的日常の実践レベルでも多様な経験を蓄積しており、研修での学びを実銭に生かす機会を創りやすい立場にいる。

②研修での学びを実銭にどう生かせるか(研修と実践の乖離の問題)
 相談支援従事者へのヒアリング調査を通じて、研修成果が実践現場の中で生かされるためには、「研修後にそれぞれの現場で研修内容を報告すること」、「上司が研修後の受講者の取り組みについて、研修で学んだ事柄を意識しながら問いかけや確認をしていくこと」、「上司や同僚がそうした考え方について理解していること」、「実際にその考え方が使われていること」などなどが必要であることがうかがえた。そうでないと、「研修では目からうろこだったが、現場では無理」と、研修と現実との乖離に悩むことになる。
 また、「研修では相談支援に必要な知識を得る。それを効果的に使うタイミングを学ぶのは実践の場」という意見に代表されるように、そもそも研鑽は研修のなかで完結する訳ではなく、実践と一体となってはじめてそれぞれの受講者の養分となるという理解が重要である。

③今後の検討課題
 前述①の3つのグループ分けについては、どこか特定の都道府県に1つのグループが固まって存在するものではなく、いずれの都道府県においても、割合の差こそあれ、すべてのグループの参加者層が存在することが想定される。しかしながら、ヒアリングを通じて、都道府県の相談支援従事者研修に対する目的意識やそれと連動した研修の実施体制と、3つのグループの構成割合にはある程度の関係性があることが推測された。
 すなわち、一方で
 ・都道府県がそれぞれの県としての相談支援従事者研修の目的を明確にもち、
 ・現場の課題が反映されるような企画・開発の体制でプログラムを検討し、
 ・参加対象層の絞り込みや定員規模、実施方法の工夫している
などの研修主催者側の工夫がされ、他方で、
 ・個別支援計画の作成、個別支援会議の実施など、個々の相談支援従事者の日常的な業務が、事業所内部のスーパーバイズや当事者及び地域関係者の協議のもとで行われている ・地域自立支援協議会が、個別ケースの課題の共有や地域の資源開発などに向けた地域の社会装置として機能している
 ・研修を受けたあとで、「受けっぱなし」にならない何かが事業所や地域に担保されている
など、相談支援従事者の環境整備が整うほど、研修参加者の動機や期待は、グループ1<グループ2<グループ3へと変化していくのではないかと推測される。
 これらを考察すると、相談支援従事者の育成に向けては、相談支援従事者研修は地域の実践力と両輪の関係にあるということを認識した上での仕組みづくり、すなわち、日常の実践~研修~実践~研修という、研修と実践とが断絶しない流れづくりをシステムとして構築していくことが重要ではないかと思われる。

 

Ⅳ.まとめにかえて

 

 以上をふまえ、ヒアリング調査で確認できたこと、あるいは引き続き検討が必要と思われることについて、簡単に整理したい。

 

1.相談支援従事者研修の内容・プログラムについて

①今後、相談支援従事者として身につける必要があると感じている内容について、研修企画者側、受講者側に大きな違いは見受けられない。どちらかといえば、受講者側では、会議運営等を含め、地域での実践的な応用力が求められる知識・技術面での回答が多いのに対して、企画者側では、「姿勢」、「思い」などの言葉も寄せられている。また、ネットワーク等「継続的に情報が入る繋がり(研修というよりも日々の実践もある)」として、研修の場以外での実践への期待も寄せられた。
②現在、障害者の相談支援に携わる人材の個々のバックグラウンドは多様であり、それぞれの得意分野・不慣れな分野・新しい分野・立場として必須の分野(行政職員等)等々、一律のプログラムには盛り込みにくい内容も想定され、現任者向けの補強に向けた、選択可能なプログラム内容や提供方法の検討が必要と思われる。
③また、相談支援を行う上で重要な事項でありながら、今回調査であまり言葉として登場していない事項として「権利擁護」がある。今回調査ではその背景要因については分析できていないが、別途実施したアンケート調査結果ともあわせ、分析・検討していく必要があるのではないか。

 

2.都道府県における人材育成システム、相談支援従事者研修の課題

①都道府県担当者、相談支援従事者ともに、相談支援従事者研修の必要性や重要性を認識した上で、「5年に1回」ではなく、より頻度を高めていくこと、あるいは相談支援従事者研修以外の研鑽機会を設けていくことが望ましいと考えていることが明らかになった。
 しかしながら、研修の頻度を高め、かつ魅力ある効果的な研修としていくためには、それぞれの都道府県の研修企画・主催者側で、方針や方策を明確化し、それらを関係者で共有化し、継続的に実践していく必要があるように見受けられた。*
 例えば、今回調査からは、相談支援従事者研修がそれぞれの地域にとって「生きた」研修となっていくために、以下のような点について検討・実践していくことが有効・必要ではないかと思われる。

 ・都道府県としての人材育成のビジョンや戦略の明確化
 ・都道府県としての相談支援従事者研修(現任研修)の位置づけ、対象の明確化(対象に応じた実施方法)
 ・企画・開発機能の担保(アドバイザー等とのリンクを含め、より幅広い人材が関わる仕組み、地域の課題を反映する仕組み)
 ・企画部門への財政面でのバックアップ
 ・地域・圏域での実践の課題の把握・企画への反映方法の担保
 ・対象としての市町村の位置づけの明確化と働きかけ
 ・受講者への研修目的の明確化と事前の動機づけ
 ・相談支援従事者研修を通じた地域のリーダー養成に対する認識・実践/講師の育成

②さらに、今回調査では、相談支援従事者研修の重要性とともに、「相談支援従事者研修」と「実践の仕組み」「実践を支える仕組み」の関係性や重要性も明らかになった。現任者の発言からは、研修は人を育てる様々な仕組みのひとつであり、相談支援従事者の育成に向けては、研修と実践とが断絶しない流れづくりをシステムとして構築していくことが重要であると考えられている様子がうかがえた。
 換言すれば、研修成果として想定するケアマネジメント実践は、相談支援専門員の力量によって左右されるだけではなく、ケアマネジメント実践を展開できるためのシステム(地域自立支援協議会、都道府県自立支援協議会)によっても支えられるものである。
 また、それまでのケアマネジメント実践の積み重ねから、地域や関係機関がケアマネジメント実践を、あるいは相談支援専門員を認知し、期待を寄せているという状況にも左右されるものであり、そのための両輪の仕組みをそれぞれの地域にあった形で構築していく必要がある。こうした点については、今後更なる分析や検証が必要であろう。

(参考として)
*今回調査対象とした7都道府県の現状を、①主催者側の意図・実践の明確さ、②参加する相談支援従事者の意思の明確さ、③相談支援従事者が活動する上での地域の環境基盤の3点から仮説的に分類すると、大きく以下の3タイプに分けられた。

主催者側・従事者(企画者)側ともに意識化が明確でない状態。お互いのコミュニケーションも少ない。(地域の基盤についても情報の把握が不十分)
主催者側・従事者(企画者)側のいずれかが、何らかの意図を持ち始め、働きかけが行われている段階。地域の環境基盤に対する情報交流も進み始め、課題や目標が顕在化し、部分的であれ、実践が動き始めている。
主催者側・従事者(企画者)側のいずれも、ある程度同じ方向をみいだし、具体的な取組、地域での実践が行われはじめている。官民協働により、より多様な人材が関わりはじめるとともに、理念の世代間の伝承、相談支援活動の地域への定着等が進むようになる。
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