それまでの事業評価から見出した課題を解決するための仮説を以下に整理する。
リサーチ・クエスチョン | 仮説 |
1 市町村の権利擁護・虐待防止活動は、家族全体の支援あるいは多問題を抱えた対象者への支援であることから、組織内連携が必要である。しかし自治体の従来の組織や仕事のやり方、指揮命令系統では、セクショナリズムが障壁になって組織内連携が円滑に進まない。このままではまずいので、組織と仕事のやり方に工夫が必要ではないか。 | 1-1 市町村の現場では社会変化にいち早く気づき、すでに横の連携を取りはじめている。しかしそれは現場担当者レベルの努力により目の前の問題をなんとか解決しているにすぎない。旧態然とした組織体制ゆえに、現場の仕事のやり方の変化を組織として認め、組織や仕事のやり方に改革を加える必要があることを組織としての認識とすることは、なかなか難しい。変革を組織としての命題にするためには、自治体行政学、経営学、社会福祉学の見地から、理論的に現状と課題を整理し、実務的提言を行う必要がある。 1-2 権利擁護・虐待防止活動の基本となるのは相談業務である。まずは相談業務について、年齢や障害種別に関わらず総合的に相談支援ができる体制を構築することにより、組織内連携ネットワークの基礎ができる。 1-3 組織横断的な連携をマネジメントする部署を作ることにより、虐待防止のための市町村組織内のネットワーク化が円滑になる。 |
2 そもそもなぜ、自治体では横の連携が取りにくいのか。 | 2 自治体行政学から見た自治体の組織、自治体職員、自治体の業務の特徴を整理し、この特徴を前提として、権利擁護・虐待防止活動における組織内連携の仕組みを構築する必要がある。 |
3-1 現在の市町村職員がもつ専門性は必ずしも高いとは言えず、権利擁護・虐待防止は市町村にとって困難な業務である。今後ますます市町村には権利擁護・虐待防止の中心的存在として事業を充実することが求められると考えられるので、このままではいけない。何とかしなければならない。どうすればいいのか。 3-2 市町村は、分権改革の進展と歳入縮小に対処するため行政改革に取り組んでおり、人もカネも十分でない。大幅な人員増は見込めない中で、どう対処すべきか。 3-3 権利擁護・虐待防止事業の担当者は、権利擁護について認識が甘いと支援の判断を誤ることがある。一人ひとりの生き方を尊重し、主体的に生きていけるように支える ことが権利擁護なのに、虐待事例の支援の中で、養護者や行政の担当者が安心できるかどうかによって処遇を決めようとしてしまうことがある。 |
3-1 経営の第4の資源である「知識」に着目して、市町村の組織、職員のキャリアをマネジメントする仕組みを作り、職員の専門性を向上していく方法を確立することが必要である。 3-2 専門職の配置の必要性についても、職種やそれぞれの役割を含めて実務的提言を行うことが必要である。 3-3 専門職のジョブローテーションを工夫し、知識やノウハウが継承しやすい状況を作ることが必要である。 3-4 形式知はマニュアル化し、暗黙知については組織横断的な学習する組織を作り、ケースワーカーや保健師等の担当職員が参加し、職場内研修を受ける仕組みが必要である。 3-5 職場内研修では、一番の基礎として、「権利擁護」「エンパワメント」について学習する必要がある。 3-6 虐待防止のためのナレッジマネジメントをシステム化する。暗黙知と形式知の両方に配慮し、マニュアル作成、事務引継ぎの改善、ジョブローテーションの工夫、学習す る組織を作り専門職が参加することにより、組織内協働が円滑になる。 3-7 市町村において福祉の相談支援にたずさわる職員が、高い権利擁護意識を持った上で連携体制を作り、暗黙知の共有などの知識創造の仕組みに配慮した学習するコミュニティを作って職場内研修を行うことにより、事業の継続性が保証される。 |
4-1 虐待防止、見守り活動をする上で、地域住民の理解と協力が欠かせない。一方、住民は「虐待防止」という一つの課題だけでなく、地域の中の課題全部を地域の支えあいによって解決しようと考える。行政は縦割りで課題によって担当者が違うので、住民と協働しにくい。 4-2 住民の生活を支えるためには、社会資源がないからと言って「あなたの要求は高望みだ。」というような対応をしてしまうことがある。ケアマネジメントの思想として資源の開発も含めた相談支援を行うという対応が、必ずしも出来ていない。このままではいけないのではないか。 |
4-1 住民との協働で虐待を防止するためにも、組織内の横の連携が必要である。 4-2 社会資源の改善及び開発を推進するためにはケアマネジメントの考え方を浸透させる必要がある。 4-3 社会資源の改善及び開発を推進するために、公的サービスには限界があることから、住民との協働が必要である。 4-4 住民と協働するために、住民が寄せてくれる幅広いニーズをとりこぼさないためには、窓口をワンストップ化することが有効である。市町村組織内に部署を超えた横断 的連携をマネジメントするセクションを設置した上で、住民と協働で課題を解決する仕組みを作り、行動することにより、組織内連携体制が形成される。 |
5 権利擁護・虐待防止活動は、新たな社会的ニーズとして自治体の取り組みが充実しつつある。しかし組織として業務システムをモニタリングする仕組みがないと、人事異動により対応が不十分になるおそれがある。 | 5 虐待を危機管理と捉え、危機管理体制を確立し、その体制が適切に稼動しているかをモニタリングしていく仕組みを作る必要がある。 虐待防止活動を危機管理の一つのテーマとして捉えなおすことにより、人事異動により事業が滞ることを防ぐことができる。 |
仮説
・市町村においては、虐待防止ネットワーク構築の核となる業務は「相談支援」である。年齢や障害種別に関わらず総合的に相談支援ができる体制を構築することにより、組織内連携ネットワークの基礎ができる。
・組織横断的な連携をマネジメントする体制を作ることにより、権利擁護活動、虐待防止のための市町村組織内のネットワーク化が円滑になる。
・市町村組織内に部署を超えた横断的連携をマネジメントするセクションを設置した上で、住民と協働で課題を解決する仕組みを作り、行動することにより、組織内連携体制が形成される。
・虐待防止のためのナレッジマネジメントをシステム化する。暗黙知と形式知の両方に配慮し、マニュアル作成、事務引継ぎの改善、ジョブローテーションの工夫、学習する組織を作り専門職が参加することにより、組織内協働が円滑になる。
・市町村において福祉の相談支援にたずさわる職員が、高い権利擁護意識を持った上で連携体制を作り、暗黙知の共有などの知識創造の仕組みに配慮した学習するコミュニティを作って職場内研修を行うことにより、事業の継続性が保証される。
・虐待防止活動を危機管理の一つのテーマとして捉えなおすことにより、人事異動により事業が滞ることを防ぐことができる。
平成19年10月、仮説をもとにトータルサポート推進事業計画を次のように作成し、職員提案を行った。
行田市における障害者、高齢者、児童の相談支援の
総合的な推進のための包括的連携体制の構築について
1 現状と課題
○ 行田市では、平成17 年6月に「児童、高齢者および障害者に対する虐待の防止等に関する条例」を全国に先駆けて施行した。条例に基づいた市役所内部の包括的な虐待防止システムを稼動させ、関係機関とのネットワークを構築した。
○ このことは、年齢や分野を問わず、何らかの支援を必要とする市民に対し、市の各部門が連携して対応することの糸口にもつながった。
○ 一方、障害者等が地域で生活する上では、法制度や行政の組織のいかんを問わず、関係する行政部門や社会資源が協働・連携して必要な支援体制を整えることが不可欠であるが、個別の法令に基づく行政計画や協議の場は分野別に構築されており、相互の関連性や取組の整合性は保たれていないと思料される。
2 基本的な考え方
○ こうした状況を踏まえ、市長のマニフェストに基づき、障害者、高齢者、児童の各福祉部門の相談・施策の推進に至る一連のプロセスを一元化し、市民のニーズに効果的に対応できる包括的な連携体制を構築する。
3 具体的な取組
○ 平成20 年4 月、健康福祉部内に「(仮称)トータルサポート推進室」(以下、推進室)という。)を新たに設置し、上記の考え方に沿った取組を進める。
○ 推進室を中心とした連携体制構築の詳細は別紙のとおりであるが、行政内部の取組として福祉課(=障害者福祉、障害者虐待防止を担当)、子育て支援課(=子育て支援・母子福祉・児童虐待防止を担当)、高齢者福祉課(=高齢者福祉、高齢者虐待防止を担当)、保健センター(=健康づくり、虐待防止を担当)の連携を、総合相談・支援の実施や専門知識の向上(ナレッジマネジメント)などをキーワードとして行う。
○ また、地域の社会資源と行政との関係においては、医師会、民生委員、障害者地域生活支援センター、子育て支援センター、地域包括支援センター、ケアマネ連絡会等との連携を進める。
4 事業計画(案)
1)保健福祉総合相談
2)保健福祉関連計画策定および各種協議会の調整
3)包括的虐待防止推進事業(モデル事業)
① 組織内連携体制構築
② 組織間連携体制再構築
③ 専門知識の維持継承法(ナレッジマネジメント)の研究
④ 人材育成・職場内研修の研究と実施
⑤ 虐待防止協議会による検証
4)トータルサポート推進協議会の設置・運営
5)支えあうまちづくりのためのシンポジウム開催
○ これらの項目は、多様な生活課題を抱える障害者等に対し、限られた社会資源を有効に活用しつつ効率的な支援を進める観点から、他の市町村においてもその成果を援用することが期待されるところでもあり、これを具体的に進めるに当たり、平成20 年度において障害者保健福祉推進事業の申請を検討する。
本提案は組織的に取り組むことが決定され、平成20年1月に準備のための人員が1名配置された。準備段階の活動を紹介する。
平成20年1月、事業実施に向けた検討を行う庁内のプロジェクトチームを設置した。
活動内容などの詳細は、以下の設置要綱の通りである。
行田市トータルサポート推進検討委員会設置要綱
(設置)
第1条 障害者、高齢者及び児童等の相談支援の総合的な推進のための包括的組織内連携体制を構築するため、トータルサポート推進検討委員会(以下「委員会」という。)を設置する。
(所掌事務)
第2条 委員会は、次に掲げる事務を所掌する。
(1) 保健福祉総合相談体制の構築に関すること。
(2) 障害者、高齢者及び児童等の相談支援の総合的な推進のための地域連携ネットワーク構築に関すること。
(3) その他障害者、高齢者及び児童等の相談支援の総合的な推進に関すること。
(組織)
第3条 委員会は、別表に掲げる主幹又は主査の職にある者をもって組織する。
2 委員会に委員長を置き、委員の互選によって定める。
3 委員長は、委員会を代表し、会務を総理する。
(設置期間)
第4条 委員会の設置期間は、平成20 年1月11 日から目的達成の日までとする。
(会議)
第5条 委員会の会議(以下「会議」という。)は、委員長が召集し、議長となる。
2 会議は、委員の過半数が出席しなければ開くことができない。
3 会議の議事は、出席した委員の過半数をもって決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。
(職務従事の形態)
第6条 委員会の委員は、現所属のまま、必要の都度、委員会の職務に従事する。
(庶務)
第7条 委員会の庶務は、健康福祉部福祉課において処理する。
(その他)
第8条 この要綱に定めるもののほか、委員会の運営に関し必要な事項は、委員長が会議に諮って定める。
附 則
この要綱は、平成20 年1月11 日から施行する。
別表(第3条関係)
委員 | 総合政策部企画政策課 |
総務部人事課 | |
健康福祉部福祉課 | |
健康福祉部子育て支援課 | |
健康福祉部高齢者福祉課 | |
健康福祉部保険年金課 | |
健康福祉部保健センター |
トータルサポート推進検討委員会は、平成20年1月~2月の2ヶ月間に5回の検討を行い、報告書をまとめた。
1 地域福祉計画の策定について
(1) はじめに
(2) 今後における地域福祉推進の理念
(3) 地域福祉推進の基本目標
2 福祉・保健関連計画について
(1) 障害者福祉計画
(2) 次世代育成支援行動計画
(3) 高齢者保健福祉計画・第3期介護保険事業計画
(4) 健康増進計画
(5) 地域福祉計画
3 虐待防止事業について
(1)行田市児童、高齢者及び障害者に対する虐待の防止等に関する条例
(2) 行田市虐待防止システム
(3) 条例施行による変化
(4) 今後の課題
Ⅳ 障害者、高齢者、児童福祉の総合的な推進のための包括的連携体制構築 事業の基本方針
*付属資料
図2 ふくし総合窓口 社会福祉主事・保健師 配置イメージ(案)
図6 障害者、高齢者、児童福祉の総合的な推進のための包括的連携体制構築 事業 概念図
資料1行田市トータルサポート推進検討委員会委員名簿、トータルサポート推進検討委員会活動状況