1. | 本ワークショップは、「ふくし総合窓口」を核として、虐待防止に関わる市の関係部課およびその他の関係機関を含む包括的な視点から、「市町村組織内ネットワーク」の構築における諸問題に対する解決策を探ることを目的として実施されたものである。 |
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2. | ワークショップは、市町村組織内ネットワークを対象としていること、および虐待といった問題の性質上、現場の声を的確に反映する必要があることなどから、ネットワークに関わる内外の関係者が集まる参加型ワークショップとして実施することとした。 |
3. | ワークショップのテーマが問題解決型であること、問題・課題が比較的明確であること、問題を分析しその解決策を探るところまでが期待されていることなどから、ワークショップの方法論としては、問題解決型の参加型事業計画手法であるPCM(プロジェクト・サイクル・マネジメント)手法を用いた。 |
4. | ワークショップ開催の頻度は月1回、合計4回とし、1回の時間は3時間とした。開催場所は行田市役所内会議室。実施日は以下の通り。 第 1 回ワークショップ:2008 年9 月5 日(金) 第 2 回ワークショップ:2008 年10 月14 日(火) 第 3 回ワークショップ:2008 年11 月28 日(金) 第 4 回ワークショップ:2009 年12 月22 日(月) |
5. | ワークショップの実施体制としては、行田市健康福祉部福祉課が実施主体となり、国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 梅本勝博教授をアドバイザーとして迎え、ワークショップのファシリテーションはNPO 法人PCM Tokyo が担当する体制をとった。 |
6. | ワークショップ参加者は、市町村組織内ネットワークをテーマとしていること、および現場の声を的確に反映する必要があることから、市職員、障害者生活支援センター、保育園・幼稚園、地域包括支援センター、民生委員など、行田市の虐待防止ネットワークに関わる内外の関係者に集まってもらった。 |
7. | 各ワークショップの作業内容は以下の通り。 第 1 回ワークショップ:行田市の虐待防止に関わる様々な関係機関が相互にどのような関係にあるかを分かりやすく図化する組織関係図の作成。 第 2 回ワークショップ:「通報が遅れる」、「保護判定までに時間がかかる」、「通報を虐待と受け止められない」の3つをテーマに、これらの問題の原因を探り、原因-結果の因果関係を示す系図にまとめる問題分析。 第 3 回ワークショップ:「虐待の見守り継続」をテーマに、障害者、高齢者、児童それぞれに関する様々な問題を原因-結果の因果関係を示す系図にまとめる問題分析。 第 4 回ワークショップ:第3 回ワークショップで作成された問題系図をもとに、そこで指摘された緒問題の解決策を探り、目的-手段の関係を示す系図にまとめる目的分析。 |
8. | ワークショップで作成された組織関係図、問題系図、目的系図に関する考察は以下の通り。 |
9. | 考察1:虐待防止体制の一元化 組織関係図(図1~4)から、行田市の虐待防止体制は、「ふくし総合窓口」で情報の入り口が一元化されるものの、その後の「安全確認」ですぐに児童、高齢者、障害者の3者に分かれ、「緊急度判定」で再度一元化されるが、その後「処遇検討委員会」でまた3者に分かれることが分かる。情報の窓口は一本化されたものの、市の中は依然として3者の縦割り体制であるということである。これは、虐待発生の社会的背景、発見者、通報者すべてが児童、高齢者、障害者で互いに大きく異なり、対応も3者3様になることを考えると、当然のこととも言える。この実態を見ても、虐待の名のもとに体制の一元化を図ることにはいまだ検討の余地があると思われる。 |
10. | 考察2:市内部の問題点 組織関係図(図1~4)で指摘されている市内部の問題は実はそう多くはない。「緊急度判定会」の左側にある4つの問題は表現は異なるが、すべて「組織の中で知識が共有されない」という趣旨のことを言っている。また、右側の4つの問題も同様にすべて「虐待の判断基準が曖昧である」ことを言っており、問題カードの多くはこのふたつに集約される。これは、市内部においては、多くの職員に共通する少数の問題に焦点をあてて解決を図れば、効率的・効果的な問題解決が図れる可能性があることを示している。 |
11. | 考察3:虐待防止体制の一元化 第 2 回ワークショップの問題分析は、通報する側の問題(通報が遅れる)、通報を受ける側の問題(通報を虐待と受け止められない)、保護判定の問題といった具合に、虐待防止の“プロセス”に注目し、プロセス上のネックとなる問題を取り上げた。これは、「行田市の虐待防止体制は児童、高齢者、障害者の3者が統合・一元化されている」という認識のもと、統合・一元化されたひとつのプロセスを分析すればよいと判断したことによる。しかし、作成された問題系図((図5~図9)を見ると、ひとつの系図の中に3者共通の問題やある特定のグループに固有の問題などが混在し、系図の整合性が崩れている。これが意味するところは、考察1で既述の通り、虐待発生の社会的背景、発見者、通報者、判断、対応が児童、高齢者、障害者で互いに大きく異なり、虐待防止の流れを1本のプロセスとして扱うことに検討の余地があることを示している。 |
12. | 考察4:「ふくし総合窓口」の周知 問題系図「通報が遅れる」(図5)を見ると、通報が遅れる原因のひとつとして、「どこに連絡したらよいか分からない」という問題があげられている。市民の便宜を図って窓口を一本化した「ふくし総合窓口」であるが、その周知が不十分であることが指摘されている。 |
13. | 考察5:地域との交流 問題系図「通報が遅れる」(図5)の中で「地域との交流不足」が問題としてあげられている。これは、現在、行田市が地域福祉計画を住民参加型ワークショップを活用して進めていることに関連させることで対応可能な課題であるかと思われる。 |
14. | 考察6:専門職の不足 問題系図「通報を虐待と受け止められない」(図7)で指摘されている「相談の専門技術が不足している」という一群の問題は、第1 回ワークショップ(考察2)で指摘された「組織の中で知識が共有されない」という問題と関連している。実践を通して得られた知識が組織の中で形式知化されない問題の背景には、専門職が不足していることもあると思われる。 |
15. | 考察7:チーム対応の仕組みがない 問題系図(図7)のなかで、通報を虐待と受け止められないことの原因のひとつとして、「認めたくない心理が働く」という問題があげられており、その原因として「チーム対応の仕組みがない」という指摘がされている。心理的負担をチーム対応で軽減するアイデアであり興味深い。実行可能な対応策ではないかと思われる。 |
16. | 考察8:判断基準の運用 ここまでの作業のなかで、「虐待の判断基準が曖昧」という問題がしばしば指摘されてきたが、問題系図「保護判定までに時間がかかる」(図9)の中で判断基準はあることが指摘されている。つまり、問題は判断基準がないことや曖昧であることではなく、判断基準の「運用」にあるということである。 |
17. | 考察9:関係機関のネットワークが機能していない 「虐待の見守り継続」に関する問題分析で、障害者、高齢者、児童(図10, 11, 12)のすべての分析において、「関係機関のネットワークの機能不全」が指摘されている。これは本ワークショップ開催にあたってのそもそもの問題意識であり、ワークショップの実施者と参加者が同じ問題意識を共有していることが確認された。 |
18. | 考察10:見守りに関する計画不足 「虐待の見守り継続」に関する問題分析で、障害者(図10)では「支援プランがない」、高齢者(図11)では「計画の不足」という問題が指摘されており、見守りに関しては計画自体が存在しないことを示している。 |
19. | 考察11:専門職の不足 「虐待の見守り継続」に関する問題分析で、市の行政に関する課題としては、障害者(図10)では「専門職がいない」、高齢者(図11)では「CW(ケースワーカー)が専門職でない」、児童(図12)では「市の職員の専門性」という問題カードで、第1 回ワークショップからすでに何度も指摘されている「専門職の不足」が指摘されている。 |
20. | 考察12:市民の関心を高める 虐待に対する市民の関心を高める方策は、障害者見守りの目的系図(図14)に示されている。 シンポジウムや公民館講座、広報誌での啓発などは、比較的容易に実行できる案であろうと思われる。また、市民をネットワークに組み込む方策が高齢者(図18)で検討されており、支え合いマップの作成などといった具体策が示されている。 |
21. | 考察13:ネットワークの構築 「虐待の見守り継続」のための関係者のネットワークの構築手段は高齢者(図18)と児童(図20, 21)で比較的詳細に検討されている。高齢者(図18)の分析では、見守りの内容と役割分担を明確に定め、関係者の顔写真入り名簿の作成や定例会議などを通して、関係者の顔が見えるようにすることがあげられている。児童の分析では、事務の改善(図20)および各会議のタスクの明確化とモニタリング計画づくり(図21)を通したネットワークの強化が提案されている。また、高齢者(図18)では、市民をネットワークに組み込むことも検討されており、これはネットワーク構築上の重要なポイントであると思われる。 |
22. | 考察14:見守りのための計画づくり 虐待見守りのための計画づくりに関しては、障害者では個別支援プランの作成(図 15)があげられているのに対して、高齢者では支援進行管理のルールや基準作り(図17)、児童ではモニタリングシステム作り(図21)など、システムとしての見守りの計画づくりが提唱されている。 |
23. | 考察15:市役所の体制強化と事務の効率化 「虐待の見守り継続」のための市役所の体制強化と事務の効率化に関しては、専門職の採用が障害者、高齢者、児童の3グループすべてであげられている(図15, 18, 20)。情報の共有化および事務の効率化のための方策としては、統合(共通)ファイルの作成および記録のデジタル化(図17)、記録様式の簡素化(図20)などが考えられている。事務の効率化は、情報の共有化に資する一方で、担当者の事務負荷を軽減することによって、よりきめの細かい見守りを可能にすることが狙いとされている。 |
24. | 考察16:虐待者ケアシステムの整備 「虐待の見守り継続」の児童の目的分析の中で、虐待者(虐待する側)のケアシステムの整備があげられている(図22)。これは、その必要性は広く認識されているものの、実際には実行されていない施策であり、行田市でのいち早い導入が望まれるところである。 |
25. | ワークショップ全体の考察と今後への提言は以下の通り。 |
26. | 全体の考察と今後への提言1 当初、主催者側(市側)の問題意識は縦割り分業体制の是正や知識の共有化など市役所内の問題にあったが、第1 回ワークショップの議論の中で参加者の問題意識との齟齬が認識されたため、第2 回以降のワークショップではより広範なテーマを取り上げるべく軌道修正を行なった。 その結果、ワークショップの最終成果品は「虐待の見守り継続」に関する目的系図になったが、目的系図の中には市役所内の縦割り分業体制の是正や知識の共有化に対する是正策が盛り込まれており、結果的には当初の市側の問題意識をカバーする成果品となった。これは、ワークショップを通じて市職員と外部関係者が問題意識を共有できたことを意味しており、ワークショップの成果のひとつと考えて良いと思われる。今後に期待されることは、この共有意識および一体感が薄れないうちに、今回のワークショップ参加者を核として、計画の詳細化および実行といった次のステップに進むことである。 |
27. | 全体の考察と今後への提言2 組織関係図や問題分析では広範な分析を行なったが、目的分析では時間的制約もあり「虐待の見守り継続」のみを取り上げた。そのため、目的分析で取り上げられず、問題の指摘に留まっているものがかなりあるが、これらの中にも効果的・効率的改善策につながる素材や重要な指摘が多く見られるので、目的系図以外の成果品にも改めて注目してもらいたい。 |
28. | 全体の考察と今後への提言3 本ワークショップ開催のそもそもの目的は市町村組織内ネットワークの構築であった。そのためには、最終成果品である目的系図に示された改善策を実行することもひとつの方策であるが、ワークショップを開催したこと自体が市町村組織内ネットワーク構築のひとつの試みであることを指摘しておきたい。このワークショップを通じて構築された人間関係、問題意識および方法論の共有化、一体感などは、市町村組織内ネットワーク構築上の重要な資源となるはずのものである。ここで形成されたネットワークを核に、市町村組織内ネットワークが一層の発展を見せることを期待したい。 |