北欧からはじまったノーマライゼーションの潮流は、入所施設での知的障害者の生活が人権を侵害している状態であることが認識されたことに始まるといわれる。すなわち、知的障害者の権利擁護として脱施設化を図り、一般社会での普通の暮らしに移行することが、ノーマライゼーションで目指されたことであった。
それに比べ、わが国の障害者の地域ケアは、「施設のオープン化」事業から始まったと言える。「施設ケア」あるいは「施設福祉」に代わって「地域ケア」あるいは「在宅福祉」が強調される流れの中で、施設の機能や人材の専門性を活用しようという意図で始まったものである。
このような「施設の機能」の活用による地域生活の実現は、わが国のノーマライゼーションが、結局、「脱施設化」ではなく施設を肯定する形で行われたことになり、「権利擁護」という理念が弱まり、サービスの選択という側面が強調された結果、わが国のノーマライゼーションが複雑なものになったことを示すものである。入所施設を残しながら、それのみならず入所施設に依存しながらノーマラライゼーションを実現していくという形は、その後の相談支援のあり方にも大きな影響を与えたものと思われる。
しかし、障害者自立支援法によって、法の目的として明確に「共生社会の実現」が明記され、障害者の相談支援が権利擁護であることが明示されたことによって、複雑であったわが国のノーマライゼーションを、もう一度「脱施設化」と「権利擁護」を原点として再構築することができる契機が生まれた。 本稿では、戦後から障害者自立支援法に至るわが国の相談支援の経緯を、北欧でノーマライゼーションの端緒ともなった知的障害者分野を中心に振り返り、相談支援をサービスの利用調整中心から権利擁護中心へと転換するための課題について考察する。
(1)児童福祉法と相談支援の始まり
昭和22(1947)年、児童福祉法の制定により、児童相談所が障害児を含む一般児童の家族の相談支援の機関として位置づけられた。障害児については、児童福祉行政の第一線機関である児童相談所において、児童やその保護者からの相談に応じ、必要な調査判定を行うとともに、それに基づき、必要な助言。指導、施設入所等の措置を行なわれてきた。また、比較的軽易なケースについては、福祉事務所に設置されている家庭児童相談室においても相談、指導が行われてきた。児童福祉法の制定とともに精神薄弱児施設(現在の知的障害児施設)も法律に位置付けられたが、児童相談所の中心的役割は児童援護の実施者である都道府県と一体的に施設への措置を行うことが中心的業務となってきたと言える。
(2)知的障害者相談員と新たな地域における相談支援
精神薄弱児相談員(現在の知的障害者相談員)は、昭和42(1968)年、厚生省事務次官通知「精神薄弱者相談員の設置について」(厚生省発児62)に基づき、精神薄弱者の更生援護に関し、本人またはその保護者等からの相談に応じ必要な指導・助言を行うとともに、関係機関の業務の円滑な遂行および国民の精神薄弱者援護思想の普及に資する業務を行い精神薄弱者福祉の増進を図ることを目的として設置された。精神薄弱者相談員は、平成2(1990)年、精神薄弱者福祉法第15 条の2 に規定された。当相談員は、福祉事務所長の推薦のあった者の中から適当と認められた人が都道府県知事(指定都市の市長を含む}から委託され、委託期間は2 年とされてきた。推薦は原則として、精神薄弱者を育てた経験があり、更生自律に成功した保護者が優先され、人格見識が高く、社会的信望があり、精神薄弱者の福祉の増進に熱意を有し、奉仕活動ができ、かつ、地域の実情に精通している人とされ、主に精神薄弱者の親御さんがなってきた。
精神薄弱者相談員の具体的業務については、
・精神薄弱者の家庭における養育、生活等に関する相談に応じ、必要な指導、助言
・精神薄弱者の施設入所、就学、就職等に関して、関係機関への連絡
・精神薄弱者の援護思想の普及に努める
・その他前各号に付帯する業務を行うこと
とされている。
(3)知的障害者福祉法の制定と相談支援
昭和35(1960)年に精神薄弱者福祉法(現在の知的障害者福祉法)制定され、我が国の知的障害者のサービス体系が整備されはじめた。現在の知的障害者福祉法においては、「この法律に定める知的障害者又はその介護を行う者に対する市町村による更生援護は、その知的障害者の居住地の市町村が行うものとする。ただし、知的障害者が居住地を有しないか、又は明らかでない者であるときは、その知的障害者の現在地の市町村が行なうもの」とされているが、制定当時の援護の実施者は都道府県であった。都道府県や市町村の福祉事務所には知的障害者福祉司が配置されてきた。知的障害者福祉司は、福祉事務所に所属する知的障害者に関わるケースワーカーの中でも特に、専門的福祉に関する事務所、知的障害福祉法に定める援護、育成、または更生の措置に関する事務を司る者である。18 歳以上の知的障害者についての業務を行うに当たっては特に医学的、心理学的及び職能的判定を必要する場合には,知的障害者更生相談所の意見を求めることとされている。知的障害更生相談所は、都道府県に設置が義務付けられ知的障害者関する相談及び指導のうち専門的な知識や技術を必要とするもの。知的障害者の医学的、心理学的及び職能的判定を行なうことなど。所長、知的障害者福祉司、心理判定 員等が配置されてきた。
このように知的障害者に関する相談支援については、市町村や都道府県等の行政機関により始まったといえる。その特徴は、知的障害者や家族からのさまざまな相談に応じたものであったが、具体的な支援となるとその当時のサービスは施設サービスが中心であったため、施設への措置が中心であり、施設への入所で解決する方法が相談支援の主流を形作ってきたと言えないだろうか。それは、サービス紹介ということでは媒介的役割をはたしてきたが、サービスがないところにおいてはその限界となり、それを超えるものとはならず、問題解決や地域変革的手法とはなりえなかった面があり、その傾向は今でも相談支援の底流に流れているものと考えられないだろうか。
(1)地域療育等支援事業について
昭和53(1978)年、「在宅重度知的障害者訪問審査事業」、昭和55(1980)年には「心身障害児(者)巡回療育相談等事業」「心身障害児(者)施設地域療育事業」がスタートした。これらの事業は、補助金事業として法人業務に加算される形で行われるもので、このような事業は、それを可能とする人材を擁する法人や施設に委託されてきた。このような相談支援により、いくつかの地域では地域生活が次第に進展していった。このような事業は、平成2 年からは「心身障害児(者)地域療育拠点施設事業」と名を変え平成8年まで続いた。この事業は、施設を障害児(者)とその家族の地域生活を支える拠点として位置づけ、施設が積極的に在宅障害者の支援を行うことを目指すものであった。
このようにわが国の障害者分野における相談支援は、施設の人材を活用することによりはじまり、ショートステイなど施設のサービスを使い、施設の延長線上に施設によるグループホームへの利用があるなど、施設を基盤とした地域生活支援という形をとってきた。
このような施設を活用した地域生活は、平成12(2000)年の障害児(者)地域療育等支援事業によって以下のように体系化され、障害福祉圏域、都道府県レベルと階層化されながら体系化されていった。
Ⅰ 療育等支援施設事業 1.在宅支援訪問療育等支援事業 ①巡回相談 ②訪問による健康診査 2.在宅支援外来療育等指導事業 3.地域生活支援事業 4.施設支援一般指導事業 Ⅱ 療育拠点施設事業 1.施設支援専門指導事業 2.在宅支援専門療育指導事業 |
これら事業は、圏域レベルにおける重層的支援、出来高払いの導入、サービス調整会議や連絡会議など調整の仕組みが導入されシステム化されたものであった。特に地域生活支援事業は重要な事業であり、支援施設に担当する職員(コーディネーター)を配置し、家庭訪問による相談に応じ、各種福祉サービスの提供に係る援助調整を行う。さらにコーディネーターは、ボランティア活動の育成や地域住民に対し障害者に関する啓発活動を行うなど、地域の障害児者へのマンパワーの中心になる人材であった。特に資格が求められたわけでなく(障害福祉における実務経験)、問題解決や地域における資源の開発などをソーシャルワーク的な働きを求められたが、実際は多くの場合、地域に情報を提供する、自らの施設のショートステイを紹介する等が主な活動であった。サービスの調整や創造、困難事例への問題解決を行う等地域を耕すコーディネーターも生まれたが、どの地域においても同じような実践がおこなわれてきたわけではない。都道府県や市町村の行政による相談支援とは異なる新たな相談支援が求められたのであるが、行政と同じような仲介型の相談支援が定着していったとは言えないだろうか。
(1)社会福祉基礎構造改革について
平成9(1997)年11 月、中央社会福祉審議会に社会福祉基礎構造改革分科会が設けられ社会福祉事業、社会福祉法人制度、措置制度など社会福祉の共通基盤制度の在り方について審議が開始され、その結果として、平成10(1998)年6 月に「社会福祉基礎構造改革について(中間まとめ)」が公表された。それによれば、これからの社会福祉の目的は、従来のような限られた者の保護・救済に留まらず、国民全体を対象として社会連帯の考えに立った支援を行い、その理念としては、個人が人としての尊厳をもって、家庭や地域の中で、障害の有無や年齢にかからず、その人らしい安心のある生活が送れるよう自立を支援することであるとされた。
(2)社会福祉事業法等の一部改正
社会福祉基礎構造改革の一連の流れの中で、平成12 年6月に社会福祉事業法等の一部改正が行われ、福祉サービスに関する情報の提供、利用の援助及び苦情の解決に関する規定を整備し、福祉サービスの利用者の利益の保護を図るとともに、身体障害者、知的障害者、障害児に係る相談支援事業等について、新たに社会福祉事案に追加する等の規定が行なわれ、「社会事業法」は、「社会福祉法」と名称を変えた。
この法改正の趣旨は、現在の社会福祉制度は、戦後の復興期に貧困者、身体障害者、戦災孤児等が急増する中で、こうした生活困窮者を緊急に保護・救済するために旧社会福祉事業法を中心に、行政主導で措置の対象者及び内容を判断し、保護・救済を行う仕組み(措置制度)として制度化され、一定の成果を上げてきた。しかし、生活水準の向上、少子・高齢化の進展、家庭機能の変化等の社会環境の変化に伴い、今日の社会福祉制度には、従来のような限られた者に対する保護・救済に留まらず、児童の育成や高齢者の介護等、国民が自立した生活を営む上で生じる多様な問題に対して、社会連帯に基づいた支援を行うことが求められるようになった。こうした変化を踏まえ、利用者と事業者が対等な関係に立って、福祉サービスを自ら選択できる仕組みを基本とする利用者本位の社会福祉制度確立を図り、障害者等のノーマライゼーションと自己決定の実現を目指すため、法改正は行われたものである。
(3)知的障害者福祉法の一部改正
知的障害者のノーマライゼーションの流れを踏まえ、法目的の改正を行い、知的障害者の自立への努力についての規定を設けるとともに、国及び地方公共団体の責務を明示し、障害者福祉サービスについて、利用者の申請に基づき支援費を支給する方式(支援費制度)を導入するとともに、福祉サービスの利用者の利益の保護につて、福祉サービスに関する情報の提供、利用法の援助及び苦情の解決に関する規定を整備するものである。知的障害者デイサービス事業及び相談支援事業等を新たに法律上の事業として位置付ける等所要の改正が行われた。相談支援は、都道府県等の委託を受けて、一八歳以上の知的障害者又はその介護を行う者に対する情報の提供並びに相談及び指導並びに関係機関との連絡調整等の援助を総合的に行う事業(知的障害者福祉法第四条関係)とされた。
(4)相談支援とケアマネジメント
平成15 年(2003)度から実施された福祉サービスに関する新しい制度である支援費制度においては、相談支援体制の整備が強く求められ、ケアマネジメントの援助方法を用いた相談支援の確立が急がれた。障害者ケアマネジメントは、支援費の支給決定プロセスに直接位置づけられるものではないが、相談支援事業において支援費の対象となるサービスの組み合わせ等に係る相談支援がケアマネジメントの手法で行われた。
障害者ケアマネジメントとは、「障害者の地域における生活支援するために、ケアマネジメントを希望する者の意向を踏まえて、福祉・保健・医療のほか、教育・就労などの幅広いニーズと、様々な地域の社会資源の間に立って、複数のサービスを適切に結びつけて調整を図るとともに、総合的かつ継続的なサービスの供給を確保し、さらには社会資源の改善及び開発を推進する援助方法である。」(「障害者ケアガイドライン」 平成14(2002)年3月31 日 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部)とされた。平成10 年度より、障害者介護等サービス体制整備支援試行的事業の結果、各都道府県において、都道府県等の「障害者介護等サービス体制整備検討委員会」の設置し、
・介護等サービス調整実施体制における都道府県、障害保健福祉圏域、市町村の役割分担によるサービス支援体制のあり方
・介護等サービス調整における相談・支援体制のあり方
・介護等サービス調整機関の設置・運営のあり方
・介護等サービス調整における関係機関との連携のあり方
・介護等サービス調整に必要とされる人材のあり方
・介護等サービス調整に必要とされる社会資源の在り方
が検討されることとされた。しかし、障害者ケアマネジメントはあくまで手法であり、制度としてはなり得ず、体制整備事業によりその手法の拡大を図ることにも限界があった。
障害者自立支援法においては、市町村の責務として・・・相談支援を位置づけ、地域生活支援事業の中に相談支援事業者を位置づけた。従来の、市町村障害者支援事業、障害児(者)療育等支援事業、精神障害者地域生活支援事業等の三障害の相談支援事業は市町村の相談支援事業として統合され、都道府県には、障害児療育支援事業、発達障害者支援センター事業、高次脳機能障害の支援等広域で専門性の高い相談支援と階層化された。相談支援事業と相談支援専門員も制度に位置づけられた。
地域生活支援事業における市町村の必須事業である相談支援事業は、これを相談支援事業者に委託できることとされている。身近な地域で必要な支援が受けられるよう、三障害を市長村に一元化するものである。また、障害者ケアマネジメントが制度に位置づけられたとするサービス利用計画作成費は、特に計画的な支援が必要な障害者を対象にサービスの調整当を個別給付の形で実施するものである。サービス利用計画作成費の法律への規定により障害者ケアマネジメントが制度に位置づけられたといえるが、支給決定に至るまでの相談支援と分離され、ケアマネジメントをどこに位置づけるかという新たな課題が生じた。
(1)相談支援と相談支援事業
障害者自立支援法第二条においては、「障害者等の福祉に関し、必要な情報の提供を行い、並びに相談に応じ、必要な調査及び指導を行い、並びにこれらに付随する業務を行うこと」や「意志疎通について支援が必要な障害者等が障害福祉サービスを円滑に利用することができるよう必要な便宜を供与すること、障害者等に対する虐待の防止及びその早期発見のために関係機関と連絡調整を行うことその他障害者の権利の擁護のために必要な援助行うこと」など相談支援や権利養護を市町村の責務としている。また、法はこれら相談支援を行うものを相談支援事業として規定しているが、このような事業を市町村自らが行うか、社会福祉法人などに委託して行こととしている。
(2)相談支援事業とサービス利用計画作成費
相談支援は、都道府県の指定を受けた相談支援事業者が、実際には相談支援専門員が行うこととしている。相談支援事業者は、支給決定を受けた障害者又は障害児の保護者が障害福祉サービスを適切に利用できるよう、障害者等の依頼を受けて、障害者等の心身の状況、その置かれている環境、障害福祉サービスの利用に関する意向その他の事情を勘案して、利用する障害福祉サービスの種類及び内容、これを担当する者などの事項を定めた計画(「サービス利用計画」という。)を作成することとしている。 また、サービス利用計画に基づき障害福祉サービスの提供が確保されるよう、指定障害福祉サービス事業者等との連絡調整を行うのも相談支援事業者の主要な仕事である。障害者自立支援法におけるサービス利用計画の作成費は、従来、障害者の援助方法とされていた障害者のケアマネジメントが支給決定のプロセスに法的に位置づけられたと言える。
サービス利用計画作成費の対象者は、障害者支援施設からの退所等に伴い、一定期間、集中的に支援を行うことが必要である者、単身の世帯に属するため又はその同居している家族等の障害、疾病等のため、自ら指定障害福祉サービス事業者等の連絡調整を行うことが困難である者、重度障害者等包括支援に係る支給決定を受けることができる者とされているが、その利用の拡大が課題となっている。
(3)相談支援事業と相談支援体制
障害者自立支援法においては、相談支援事業は地域生活支援事業として市町村が必ず実施すべき事業(必須事業)である。相談支援事業のうち、「障害者相談支援事業」については三障害を対象とした一般的な相談を行うもので、交付税を財源に実施されるが、相談支援事業の機能強化のための事業は国庫補助の対象となっている。一方、都道府県においては、広域・専門的なさまざまな相談支援事業が実施されているが、このような市町村や都道府県の相談支援事業を有機的に連携させて地域の相談支援体制を構築していくことが障害者の地域生活支援においては重要である。
(4)地域自立支援協議会について
「障害福祉サービス及び相談支援並びに市町村及び都道府県の地域生活支援事業の提供体制の整備並びに自立支援給付及び地域生活支援事業の円滑な実施を確保するための基本的な指針」(平成18(2006)年6 月26 日厚生労働省告示第395 号)によれば、「障害者等、とりわけ重度の障害者等が地域において自立した日常生活又は社会生活を営むためには、障害福祉サービスの提供体制の確保とともに、これらのサービスの適切な利用を支える相談支援体制の構築が不可欠とされ、このため、地域の実情に応じ、中立・公平な立場で適切な相談支援が実施できる体制の整備を図るとともに、相談支援事業を効果的に実施するため、事業者、雇用、教育、医療等の関連する分野の関係者からなる地域自立支援協議会を設ける等のネットワークの構築を図る」とされている。自立支援協議会は、障害者も含め地域の関係者が協働して支援体制を構築して行く場であるが、その他にも困難ケースなど個別の支援会議から出された課題を地域の課題として協議し、相談支援の中立・公平性を確保するためお互いの支援を評価し、地域における障害福祉に関する関係者による連携及びネットワークの構築し、更に、社会資源の検討を含め障害福祉計画の達成に向けて地域が協働する場であるが、これを機能させ形骸化させないことが大きな課題となっている。
平成18(2006)年4 月から施行されている障害者自立支援法では、市町村の責務として「相談支援」が事業として位置づけられるとともに、「権利擁護」という言葉が示された。本節では、「権利擁護」という観点から障害者自立支援法を読み解くこととする。
障害者自立支援法は、ノーマライゼーションの理念に基づき、障害のある人が普通に暮らせる地域づくりを目指したものである。
法の第1条は、「障害者及び障害児がその有する能力及び適性に応じ、自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、必要な障害福祉サービスにかかる給付その他の支援を行い、もって障害者及び障害児の福祉の増進を図るとともに、障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現に寄与することを目的とする」としている。
障害者自立支援法においては、24 時間ケア型の施設や病院から地域での生活への移行(「地域生活移行」)や、授産施設等から一般就労への移行の2つの支援が大きく取り上げられたが、これらは彼らの地域における自立の支援であるとともに、彼ら本来の生活や労働や社会参加という人間の本質的な権利に対する擁護であると言える。
さらに、障害者が地域で安心して自立的に暮らすことができるためには、福祉サービスの利用のみならず障害者が理解され受けいれられる地域社会の存在が前提となる。
このように障害者の地域での自立のためにサービスが利用できる資源を確保していくことやそうした支援体制を構築していくことは、制限ある生活が当然であると考えられてきた従来の低められた障害者の価値をいかに地域で高められるかの支援であり、この意味で障害者の地域での自立のための支援は権利擁護により実現されると考える。
障害者自立支援法第2条第3項は、市町村の責務として、「障害者等に対する虐待の防止及びその早期発見のために関係機関との連絡調整を行うことその他障害者等の権利の擁護のために必要な援助を行うこと。」としている。また、同法・第77 条は、市町村の地域生活支援事業において相談支援を「・・・地域の障害者等の福祉に関する各般の問題につき・・・相談に応じ・・・障害者等に対する虐待の防止及びその早期発見のための関係機関との連絡調整その他の障害者の権利の擁護のために必要な援助を行う事業。」とし、相談支援事業における権利擁護を規定している。
障害者の権利擁護は、法の規定するように虐待の防止をはじめ広く捉えられるものである。特に、虐待の防止については、後を絶たない障害者への暴力や虐待など、広い意味での権利侵害を考えれば、その対応は障害者差別禁止法(仮称)や虐待防止法{仮称}などの法的整備を含めて重要な課題である。また、社会福祉基礎構造改革の流れのなかで措置から契約への制度の転換のなかで障害者の消費者としての立場を擁護するための、成年後見制度や日常生活自立支援事業(旧地域福祉権利擁護事業)などの利用が障害者の権利擁護として浮かび上がってくるが、その基盤には、サービス利用を含めた障害者の生活にかかわる広範囲な自己決定の支援という権利擁護の運動があるのではないかと考えられる。
また、法はこれら相談支援を行うものを相談支援事業として規定している。このような事業を市町村自らが行うか、社会福祉法人などに委託して行こととしている。障害者の地域生活の支援に関しては、夜間や日中活動及びその他のサービスの提供のみならず、相談支援という形においてそれをコーディネートする相談支援事業が重要なものとなる。相談支援が、障害者の地域での自立した目標に、さまざまなサービスや生活の選択を自己決定の支援という形でかかわっていくという意味では、相談支援と権利擁護は不可分な関係にあると言える。
障害者の自立に向けた支援を考える時、その生活を支える福祉サービスが重要な要素となる。特に、障害者を支える福祉サービスが全国どこにおいても十分利用できるものとなっていない現状においては、福祉サービスを含めた支援体制を整備していくことは障害者の自立のためには喫緊の課題である。
障害者自立支援法における福祉サービス利用とは、障害者が望む地域での生活を実現するために必要な療養介護、生活介護、生活訓練、就労移行支援、就労継続、グループホームやケアホームや居宅介護などのサービスを組み合わせて利用していくことである。一口に「福祉サービス利用」と言っても、それは、従来の特定の場所や特定の人による完結的な支援から、さまざまなサービスを組み合わせて障害者の望む生活を実現していくことへの転換に他ならない。
そこでは、施設や事業所を利用すること自体が目的ではなく、障害者がどのような事業を利用して豊かな地域生活を送るかという、障害者のサービスの選択・決定が重要なテーマとなっている。このような、サービスを主体的に選択していく行為を高めていく支援そのものが、障害者の権利擁護といえないだろうか。
そうした支援に向けては、これらサービスを適切に結びつける相談支援事業、それを担う相談支援事業者や相談支援専門員が不可欠である。さらに、そうした支援には、障害者や関係者・関係機関の連携やネットワークによるチープアプローチが不可欠となる。
このような支えは、自立に向かってのエンパワメントなど、障害者の態様や環境などの差異によってさまざまに工夫されて行われるものであるが、その原点は、障害者自身の、あらゆる事柄を自分で決定していくことを支援していく(エンパワメント)していくことではなかろうか。つまり、あらゆる相談支援とは、自分自身で物事を決定していくことに困難を抱える障害者が自分で物事を決定して行くことを支援(エンパワメント)していくことであり、そのことが障害者の権利の擁護であると言える。
障害者自立相談支援における相談支援と権利擁護の関係については前節の通りであるが、では、そこで示された「権利擁護」とは具体的に何を指すのか、また、相談支援を通じた障害者の権利の擁護を実現していくために、相談支援の現状としてどのような点が論点となるのか。
検討委員会では各委員の実践を通じた様々な議論が行われたが、それら議論を整理すると、次の7つの論点が浮かび上がった。(なお、各論点はそれぞれが関係し重なり合っている面もあるが、ここではあえて別立てとした。)
以下、項目ごとに、検討委員会で示された主な論点と問題意識を集約する。なお、議論は、広く「相談支援」のあり方について論じている場面と、障害者自立支援法における「相談支援事業」について言及している場面双方が混在している点に留意願いたい。ここで示された各論点をふまえ、第Ⅱ部において実態調査結果を踏まえた考察と提言を行うこととする。
論点1 相談支援によって擁護されるべき「権利」とは何か?
【問題意識】~検討委員会での議論から~
○ | 権利擁護というと、現状では、虐待、消費者被害、成年後見などだけに矮小化されてしまっているのではないか。擁護される権利とは「そんな小さいものではない」と思っているので、そこがきちんと認識されているかどうかが重要である。 |
○ | 「権利擁護」という言葉は、もともとは「アドボカシー」の日本語訳である。つまり、日本では当初から、権利擁護=「権利の擁護」であるとは位置づけられておらず、情報が入らない状況を含め、十分に意思表示やら意思決定ができないことに対して、代弁したり、それを支援していくことを権利擁護としてきた点に注意する必要がある。 |
○ | 障害がある状況というのは、そもそも全ての人に保障されるべき人権に向けたスタートラインにつくために支援が必要な状態。ところが、日本では、そのスタートラインにつくための支援を受ける権利は、法律上は「恩恵」になっていて、権利として規定されていないところに問題がある。人権は、国とか権力の前にあるもので、法律<国<人権という順序で人権が優先されるのだが、果たしてそのことがきちんと理解されているのか。 |
論点2 相談支援における当事者(性)とは何か?
【問題意識】~検討委員会での議論から~
○ | 支援を受ける立場としての当事者:「当事者とは何か」ということを明確にしていく必要がある。ケアマジメントの場合、対象はあくまでも本人で、家族ではないという整理が重要になる。ただ、一般的には、親が代弁者であり、代弁者が当事者と見間違えられて進んでいくという状況がある。子どもの頃に「あなたにとってはこれがいい」と、指導・助言という言葉で相談員から言われ続けていく。その枠組を抜けることはすごく難しい状況にある。 |
○ | 支援を行う立場としての当事者:自立支援法第七十七条の1でピアカウンセリングが含まれているが、現状できちんとやっているところはほとんどないのではないか。ピアカウンセリングとは、その場だけで行うものではなく、相談支援のプロセスを通じてずっと寄り添いながら、必要があればいつでも支援を行えることが重要。そのためには、障害のある当事者職員をきちんと配置していく必要がある。 |
論点3 相談員に求められる資質とは何か?
【問題意識】~検討委員会での議論から~
○ | 現場には、社会福祉士や精神保健福祉士等いろいろな資格をもった人が入ってくるが、利用者の権利や利益をまもるということについて、全員が理解できるわけではない。目の前で起こっていることを権利侵害と思わない相談員も多い。 多くの相談は「権利侵害」という形では持ち込まれないので、相談を受ける側(事業者、相談支援員)に、「人権の擁護」ということが意識化されているかどうかが問題となる。さらに言えば、法ぎりぎりの状態になった時に、どちら側の立場にたてるのかということが重要になる。 |
○ | そもそも障害当事者が自分の持っている権利について認識できているか、という大問題がある。そうした状態では、情報提供や社会生活を営むためのすべての支援に際して、相談支援者は、「あなたにはこういう権利があって、本来はこうされるべき」といった説明を障害当事者に行うことが大前提だが、果たしてどうか。 |
○ | 個々の相談員が個人個人のレベルアップを図ることはもちろん重要だが、事業所としても、そうした育成の仕組みが必要になるのではないか。トレーニングを含めた取組全体が相談支援事業の内容であるが、果たしてこうした取組が全国の相談支援事業所でなされているのか。 |
論点4 「権利を擁護するための相談支援」を具現化するために必要な相談支援の手法とはどのようなものか?
【問題意識】~検討委員会での議論から~
○ | 「権利の擁護」が、理念のレベルだけでなく、仕事の内容として明記され、相談の手法として実現されることが重要である。当事者の権利にどう応えるかという基準は、事業の手法、例えば、事業の対象をどう考えているか、相談受付時間、緊急対応、必要に応じた直接生活支援を行っているか、問題解決のためのアウトリーチ・意識化と啓発を兼ねたアウトリーチ双方を実践しているか、などの点に明確に現れるだろう。 |
○ | 論点3でも示したように、そもそも障害当事者が自分の持っている権利について認識していないことが支援の前提となることから、相談の前段階として、当事者エンパワメントのための仕掛が不可欠であろう。アドボカシーとの関係で言えば、「セルフアドボカシー」という視点も必須であろう。その点が相談支援の手法としてきちんと組み込まれているかどうか。 |
論点5 行政と委託相談支援事業所の役割
【問題意識】~検討委員会での議論から~
○ | 相談支援は、障害者自立支援法では、市町村の地域生活支援事業に該当する。事業は、市町村が責任主体として実施するものだが、法では、「場合によっては委託することができる」というあいまいな表現になっている。「委託」の意味、民間ならではの期待される取り組み等についてきちんと整理していく必要があるだろう。 |
○ | 障害者自立支援法をみると、市町村には、一方で障害者等の権利の擁護のために必要な援助を行うことが規定されながら、他方では、介護給付等の支給決定に関わる事項についても、市町村が責任をもって行う(委託を含め)とされている。行政は、障害者の権利擁護を行う立場であると同時に、支給決定という重要な行政処分の決定権を有する、いわば利益相反的な二面性をもった立場にあるということになる。 障害者の権利の擁護という観点から見ると、そのことについても、委託事業との関係性のなかで、整理が必要なのではないか。 |
論点6 自立支援協議会と相談支援と権利擁護の関係
【問題意識】~検討委員会での議論から~
○ | 相談支援の内容として、個別支援、エンパワメントのためのグループワーク、地域の様々な社会資源開発(ネットワーキング)の段階を考えたとき、自立支援協議会は地域の公的なネットワーク(社会資源)と位置づけられよう。そこでは、個別支援との関係性を保ちながら、いかに資源の開発や地域づくりが行われているかという点が重要になる。 |
○ | 地域の成り立ち、自治の成り立ちや成熟度が地域によって異なるなかで、地域自立支援協議会には、ある意味地域自治の機能が求められるのではないか。現在はそうなっていないが、いずれは地域自立支援協議会のなかに、運営委員会なり、行政及び民間(委託)の相談支援の「仕事」を地域として評価する仕組みができ、中立性や公平性を担保する機能として発展していくのではないか。 |
論点7 相談支援の立ち位置、財源
【問題意識】~検討委員会での議論から~
○ | 障害者自立支援法によってはじめて、障害者の日常生活や社会生活支援に必要不可欠な機能の一つとして「相談支援」が事業として位置づけられ、さらに、その実施主体として、行政以外の専門の相談支援機関が位置づけられた。これから重要なことは、地域で生活を支えるという仕組みをいかにつくっていくかということ。とすれば、従来の「窓口での紹介」や「指導・助言」を中心とした行政や施設・病院等の相談とは異なる、継続的で、本人に寄り添った相談支援のあり方が求められる。 |
○ | 障害者のケアマネジメントとは、その人の生活全般にわたる課題に対して、寄り添いながら相談支援を行っていくこと。それも支援者が決定するのではなく、あくまでも障害のある当事者本人が決定していくことであり、そのプロセスにおいて一人ひとりの権利が実現されていく。その意味では、本来は、相談支援のプロセス全体が、障害者ケアマネジメントとして位置づけられるべきであろう。 |
○ | 上記にあげた継続的な相談の仕組みがきちんと担保されるためには、どのようなお金の付け方をするべきだろうか。現行の仕組みでは、サービス利用計画作成費のみ義務的経費として扱われ、いわゆる一般相談部分については交付税措置であり市町村権限となっている。市町村財政の豊かさ・貧しさ、あるいはともに生きる社会にむけた地域づくりの重要性に対する意識差等によって、扱いに格差が生じてしまっている |