第2部 研究結果の考察と提言~権利を擁護するための相談支援のあり方

第Ⅱ部-1 研究結果の考察

 

1 相談支援によって擁護されるべき「権利」とは何か

 

1 「障害者の権利」について

(1)「障害者」である前に「人」である。

 「障害者の権利」というと、障害者だけが特別に何か権利を保障されるのか。その答えは「NO」であり、「YES」である。
 まず、「NO」である理由から説明する。「障害者」は当然のことだが、障害者である前に「人」である。だから障害者も、障害のない人と同じように、人として正当に扱われ、「人として当然確保されるべき権利」を保障されなければならず、それを不当に侵害されてはならない。そこには何も特別なことはない。ここが「障害者の権利」を考える出発点である。ただし、大なり小なりハンディキャップがあって蔑にされやすい「障害者」が、現実問題として果たして本当に、人として正当に扱われているか、「人として当然確保されるべき権利」をきちんと確保されているか、障害があるがゆえにそれを十分に確保されていない状態になっていないか、もしも十分に確保されていないとすれば、確保するために何が必要か、ということは、よく吟味されなければならない。

 

(2)「人権」

 それでは、「人として当然確保されるべき権利」とは何なのか。権利にもいろいろある。家の所有権のように、大金を払って買う権利もある。図書館で本を借りることで発生する本についての権利のように、お金に関係なく、約束(契約)することで発生する権利もある。「定額給付金」の受給権のように、法律で決められることによって与えられる権利もある。それらは権利ではあるが、いずれも、「人として当然確保されるべき権利」とまでは言えないだろう。もちろん、それらの権利を得るときに、障害を理由とする不合理な差別があってはならないが(憲法14条)。
 上記のような権利とは違って、お金にも約束(契約)にも法律にも関係なく、もっと根本的に、人が人であるがゆえに当然に認められるべき権利、というものがある。これを「人権」という。日本国憲法では11条~40条で、生命・身体の安全、居住・移転の自由を始めとする行動の自由、表現の自由を始めとする精神的な自由の保障、健康で文化的な最低限度の生活保障、財産権の保障、適正な手続を受けられる保障、不合理な差別を受けないこと、などが例として挙げられている。この「人権」こそが「人として当然確保されるべき権利」である。障害者も当然、人として扱われる以上、この「人権」が保障されるのであり、それが障害の存在ゆえに十分に確保されない、という事態が発生してはならないのである。

 

(3)「支援」

 では実際、障害者の人としての権利(人権)は保障されているのであろうか。障害者は社会で生活していく上で、その「障害」ゆえに、なにがしかの「支援」を必要とする。足が不自由なために移動には車椅子による支援が必要という人がいる。物事を適切に判断することや人とコミュニケーションをとることが難しいために、外出するときには一緒に行く人の支援が必要な人もいる。そのような「支援」の必要性が、障害者の特徴である。裏を返せば、社会で生活する上でなにがしかの「支援」を必要としているがゆえに「障害者」と呼ばれている、とも言える。
 障害者は事実としての生活場面だけでなく、人権が確保されるべき場面においても、何らかの支援を必要とする。重度の知的障害者に居住・移転の自由や表現の自由を確保しようとする場面を想定してみれば明らかである。ガイドヘルパー、グループホーム、成年後見などの制度が容易に思い浮かぶだろう。ここに障害者の特徴がある。必要な支援がなければ、実際上、人権を確保されえない場面を持っている、ということである。その意味で、「障害者」には特別な権利の保障が必要なのか、という問いに対し、「YES」と答えることになるのである。それはすなわち、「支援を受ける権利」の保障である。

 

(4)「支援を受ける権利」の保障

 障害者の人権がきちんと確保されているかどうかは、その障害者に必要な「支援」が十分に保障されているか否かにかかっている、と言える。さて、それでは現在の日本で、この「支援」は保障されていると言えるだろうか。
 現実的には、「支援」は質的にも量的にも十分ではない。つまり、「支援を受ける権利」は事実上、十分に保障されていない、と言える。そして法理論的にも、今の日本では、障害者が「支援」を受けることは具体的な「権利」として保障されているのだとする説は、多数説ではないようである。
 これは大問題である。それはつまり、障害者が法的にはきちんと人として扱われていない、ということに等しいからである。「障害者の権利」を敢えて意識し問題にする意義はここにある。つまり、「支援」を受けることの権利性を積極的に意識し、事実として認めるべく行動していくことが現実的に、障害者の「人」としての当然の立場と利益を確保することにつながるのである。そして、相談支援は、そこに向けられたものでなくてはならない、と思うわけである。

 

2 アンケート結果から

 実際の相談支援の現場においては、「障害者の権利」はどのように意識されているのだろうか。以下、アンケート結果を見ながら考えてみたい。

 

(1)どの程度権利侵害を感じ取っているか

 「利用者の権利が侵害されている」と感じたケースがある、と回答したのは、直営事業所で12%、委託事業所で16%である。そして直営事業所の約40 パーセントが「特にない」と回答している。これらは驚くべきパーセンテージである。なぜなら、「支援を受ける権利」の保障が不十分な日本の現状からすれば、本当は、極端に言えば、相談のほとんどが権利侵害ケースにあたると言えるだろう、と思うからである。狭い意味での「虐待」に近いケースだけを「権利侵害」ととらえたのだろうか。そうでもないだろう。
 おそらく、「利用者の権利」という設定があることから、福祉サービスを受ける権利とそれに対する侵害、ということが主に念頭に置かれたものと思われる。そしてそのうえで、障害者の権利やその侵害について、もっぱら「法律で定められている福祉サービスが適法に提供されているか否か」という観点から吟味され、もっと根本的に「本人が生活していくうえで必要な支援が適切に保障されていないのではないか」という観点から考察する、ということがなされなかったのだろう。
 そもそも人権としての「障害者の支援を受ける権利」が十分に保障されていない日本の現状下では、相談支援においては、生きにくさを訴えてくる全てのケースが権利侵害ケースであるというくらいの認識を持ってほしい、と思う。

 

(2)どのような権利侵害相談が多いと感じているか

 相談支援従事者が権利侵害と感じたケースの全体の4分の1強が、経済面・金銭面の問題となっている。お金は生活に欠かせないものであるし、侵害の形が分かりやすいものなので、了解しやすい結果である。とくに家族による侵害が多いようであるが、消費者事件、詐欺・搾取のケースも目立つ。家族による侵害と括られたケースには、その家族全体に対する生活支援の必要性とその不足という問題が潜在している場合が多いだろう。が、しかし、やはり障害者本人にとっては「経済的虐待」の範疇の属すると言わざるを得ないものも多いだろう。また、暴力等による「虐待」の範疇に入る相談は全体の約10%だが、「生活状況に関する問題」という分類の相談の中身も広い意味では虐待の範疇に入るように思われるし、「就労」、「障害の無理解による問題」という分類の中にも少なからず虐待の要素が含まれているものがある。したがって、虐待相談は経済的虐待を含め全部合わせると、全体の約40%にものぼることになる。これは非常に大きな構成比である。そしてその多くが家族内虐待のようである。それはつまり、広い意味で、福祉の支援が、それを必要としている障害者をとその家族に十分に届いていない、ということを意味している。
 また、福祉サービスにおける積極的な権利侵害が全体の16%という数字となっており、医療・福祉に関する問題、情報伝達に関する問題、養育に関する問題、という分類に含まれる消極的な権利侵害(福祉サービスの利用支援の不十分)を加えると、権利侵害と思える相談全体の約20%程度は「福祉サービスにおける権利侵害」の問題、と整理できる。これは、支援以前の問題ないし支援そのものに内在する問題であり、この問題の解消は、「支援を受ける権利」の保障の前提に関わるものであって、極めて重要な課題である。福祉の支援の自浄作用が十分でなく、外部チェックシステムの必要性が未だ厳然と残存していることがうかがわれる。
 教育・就労・住居に関する「差別」に関する問題の相談が全体の約15%あるようだが、この種の相談に対する対応は、支援としてレベルが高いものを要求される。ここにきちんと対応できるような相談支援機関になると、頼りがいがあるということで、相談件数は大きく上がると思う。
 本人の意思決定に関する問題の相談は2%、「施設入所に関する問題」という分類などを含めても、本人の意思に関わる相談が4%程度、ということである。しかし現実的には、さまざまな場面で本人の意思が蔑にされがちであることは想像に難くない。潜在的には、本人の意思に関する問題で相談支援を必要とするケースはもっとずっと多いはずである。そして本人の意思・意向・ニーズを可能な限り正確に把握するということは、相談を受ける上で最も重要な事項と言えるだろう。アンケート結果を見ると、ますます専ら個々の障害者本人の側に立って支援する人をきちんと確保するシステムを作る必要性を感じる。それをひとえに成年後見制度に期待する、というのはおおげさ過ぎるだろう。面倒で利用されないということになると、不利益は障害者本人のところに来る。
 なお、私がオンブズマン活動や弁護士として受ける相談内容で実感していることと比較すると、交通機関におけるトラブルに関する相談、それを含めた犯罪的加害事例に関連する相談(障害の無理解という形で整理されているものもあるが)が非常に少ない、ということがかなり印象的である。弁護士に相談する手前の段階で、障害者やその周囲の人が、対応の難しさや支援資源の不足に悩んでいる、というケースは非常に多いだろうと、日頃思っているからである。相談支援事業所もまだまだ、障害者やその周囲の人が抱え込んでいる悩みを十分にくみ取りきれていない場合が多い、ということなのだろう。

 

(3)権利擁護のための支援

 「障害者の権利擁護のための支援として行っていること」に関する事業所の回答を見ると、約半数が「いつでも相談できる体制」を挙げており、これが第1位である。権利侵害の発生は時間を選ばないし、緊急対応の必要がある場合も少なくはないものと思われるので、確かに、いつでも相談できる体制を整えることは非常に重要だろう。これを挙げている事業所が全体の「約半分」というのも少なすぎるかもしれない。本来は、全事業所がそうなるべきであろう。
 方針選択にあたって本人意思を優先させる、という回答が第3位で、半分弱の事業所が掲げている。本人側に立つことを強調している事業所も2~3割ある。しかし他方で、コミュニケーションAIDを用意しているところは10%にも遠く及ばない。障害者本人の意思を適切に受け取る準備は必ずしも十分ではないように思える。本人の意思を可能なかぎり十分・適切に把握すること(そのための準備をしておくこと)は、対応方針如何にかかわらず、相談を受ける際の基本かつ必須事項であろう。
 また、地域の社会資源開発は、まさに行われるべき「支援」の主たる中身だと思うのだが、約7割の事業所はこれを行っていない、という。まだ、相談を受けるだけで精一杯で、支援の方は十分にできていないという事業所が多い、ということなのだろうか。
 地域福祉権利擁護事業、成年後見制度活用が第2位・第4位を占めているが、地域で社会資源を掘り起こし、結びつけ、協力体制を敷く、といったことをせずに、安易に財産管理の責任主体を定めることだけでお茶をにごしていないかどうか、十分注意する必要があるように思う。
 他方、「権利擁護という観点から見て、相談支援を行っていくうえで困難を感じること」の従事者の回答をみると、本人と家族の意向の調整に関連することが全体の3分の1程度、本人の意思との対立・関係調整に関することが全体の20%程度、その他が支援する側の抱える問題、と概ね整理することができるように思う。前述のとおり、障害者本人の意思を正確に受け取る準備を整えることと、そして地域における社会資源開発に積極的に取り組むことが、相談支援のスキルを進歩・前進させるためにも、必要だと思う。

 

3 相談支援によって擁護されるべき「権利」

 

 前述のとおり、今の日本の法理論においては、障害者が「支援」を受けることを「権利」として明確に位置づけているとは言えない。しかし、「支援を受ける権利」は障害者において大前提の人権であり、それが障害者を社会で生活していく「人」として認めることなのである。そのことが自覚され、かつ、そのような意識が市民権を得なければいけない。それがノーマライゼーションの基本である。そして、相談支援において強く意識されなければならないこともまさに、その大前提たる「支援を受ける権利」の保障のことである。
 現状の多くの相談支援事業所は、福祉サービスの利用援助に止まる傾向が強いように思う。また、上記(1)~(3)を通して、現状の多くの相談支援事業所が、主として本人の財産、生命、身体の安全を障害者本人の権利として意識し、それに対する対応としては主として、如何に既存の制度利用につなげるか、あるいは、如何に家族間ないし本人との関係を調整するか(如何に妥協を引き出すか)を考えている、ということが浮き彫りになったと思う。
 より広い意味での「必要な支援」の不十分、すなわち「支援を受ける権利」が保障されていないことについて積極的にアンテナを張って、支援を作っていくのだという意識を持って、相談を受け、対応して行ってほしいと切に思う。

 

Ⅱ 相談支援における当事者(性)とは

 

1 当事者とは

 よく障害福祉を考える際に「当事者」という言葉を使っているが、この「当事者」には、主語が抜かれているように考える。例えば、障害者自立支援法が成立する際には、大半の「当事者」も成立に賛成しているといわれていたが、その構成を精査してみても障害のある子を持つ親の立場であったり、その家族であったり、もちろん障害のある当事者もいたわけであるが、実際は、さまざまな「当事者」が混じっていた訳である。いずれにしても、「当事者」という言葉だけが一人歩きしないようにこの章を論じていきたい。
 相談支援における当事者について整理してみると、相談を求めてこられる人は、もちろん障害当事者であるが、当然家族であったり、福祉関係の支援者であったり、または障害当事者の周辺におられる方(市民も含むであろう)などいろいろな立場の方が来られるという状況である。このことがから考えると、相談に来られた方すべてが相談支援の当事者(対象者)となる。しかし、これはあくまでも障害のある方の地域生活を支援していくための入口に過ぎず、相談支援における当事者であるといってしまうことには慎重にならざるを得ない。
 私がよく使う事例から、少し検証してみたい。ある相談支援の事業所に年老いた母親が相談するために来所した。その母親の主訴は、以下の通りである。
 その母親は70 歳になり、これまで40 歳になる重度の肢体不自由と知的障害のある息子の介護をひとりでやってきた。しかし、母親が年老いてきたため、息子の通院はおろか、入浴やトイレの介護すらままならない状態になってきているという。このままでいくと、親子共々倒れてしまうので、息子をどこか良い施設に入れたいということだ。
 そこで相談支援専門員は、まずこれまでひとりでがんばってきた母親を労うことはとても大切なことである。だからといって、母親が望む入所施設を探すという支援をすぐに始めていいのだろうか。私が考えるには、少なくともこれまでの相談支援のような取り組みの中で、こういうことをスルーしてきていたのではないかと危惧している。
 このケースでの相談支援専門員が果たす役割は、母親を労いながらも、まずは障害のある本人に会うということが必要なのである。そこで、本人の状況や今なの暮らしづらさ、これからどうしたいかという思いなどを聞き取っていくということをしていかなければならないのではないのか。(アセスメント)そして、どうすれば地域で暮らし続けるかを本人や母親と一緒に考えていくという姿勢が相談支援専門員に求められているのであろう。
 その過程の中で、今の暮らしづらさをひとつひとつ解決していけばいいのである。通院支援が必要なのであれば、移動支援のサービスを利用するとか、生活の介護支援が必要なのであればホームヘルプサービスを利用していくとか、その他にも必要な支援があるのにカバーできない課題が出来てくれば、その支援のありようなどを、地域のなかで創造し、開発していくことも大切な取り組みになってくるのである。この一連の取り組みこそが、いわゆる「本人中心のケアマネジメント」というものである。そこには、生活の主体である障害のある人が中心におかれ、その人の暮らしを地域で支えていくという思想を持って相談支援が展開されなければならないのである。
 これらのことから考えると、相談支援における当事者とは、やはり障害のある人のことであり、その当事者の豊かな地域自立生活を支援していくことが相談支援の役割であろう。

 

2 相談支援専門員と当事者性

 次に障害者自立支援法に書かれている相談支援事業の内容から相談支援専門員の役割や当事者性について考えてみたい。
 障害者自立支援法第77 条には、障害者相談支援事業内容として、①福祉サービス利用援助 ②社会資源の活用 社会生活力を高めるための支援 ③ピアカウンセリング④権利擁護のための必要な事業 ⑤専門機関の紹介 ⑥地域自立支援協議会の運営を行うことと記されている。この内容は、旧市町村障害者生活支援事業の内容がほぼ移行してきているものである。しかし、この内容については、障害者自立支援法が始まる前から事業化されていたにも関わらず、適正な事業が実施されているのであろうか。
 特に②社会資源の活用 社会生活力を高めるための支援 ③ピアカウンセリングについては、私が所属している自立生活センターの機能として、自立生活プログラム(ILP)やピアカウンセリングを通して、どんな障害があろうとも地域であたりまえに暮らしていこうという運動から事業化されたものと理解している。よって、1996 年に事業からされた時には、障害者の自立生活をすすめる機能が公に出来たと大変喜んだ記憶もまだ新しい。しかし私の近くの現状から見ても、ピアカウンセリングも出来ていないところも多く、ピアカウンセラーも週に1 回から月に1 回の嘱託専門相談的な位置づけで行っているところも少なくはない。
 また今回、相談支援専門員に対する調査結果を見ても、障害当事者が相談支援専門員として働いているのが、全体の7%と想像以上に低い率であるというものである(事業所の回答では9%)。これからもうかがえることは、必ずしも相談支援事業者が相談支援の内容を理解して立体的に事業実施をしているとはいえないのではないだろうか。
 誤解をしてもらいたくはないのであるが、私は、決して相談支援専門員は全員が障害者でなければならないといっているわけではない。ただ、少なくとも相談支援を行っていくうえで、ここまでは相談でここからはピアカウンセリング。その後に自立生活プログラムというふうに明確に分けて支援することは難しいと考えている。むしろは障害当事者の相談支援専門員が障害のある人と初めから向き合い、相談支援をすすめる中で、ピアカウンセリングや自立生活プログラムの手法を用いながら、相談に来ている障害のある人がエンパワーできていくような支援のあり方が、本来必要なのではないだろうか。
 ただ、課題になることは、どれだけ相談支援専門員として活躍できる障害当事者がいるというということである。前述したように現在、嘱託専門員的な位置づけであるピアカウンセラーも一部、ただ障害当事者であるということだけで働いている人も少なくはなく、相談支援専門員としての専門的なトレーニングを積んでいなかったり、ピアカウンセリングの理論や実践の勉強もしていないという現状である。また、ピアカウンセリングの勉強をした上で、さらに障害者として差別体験を受けてきて、さらに実際には自立生活をしていて、自らがエンパワメントできているという障害当事者も数少ないということもある。
 いずれにしても、障害のある人とない人とが協同しながら相談支援をすすめていける環境作りがこれからは地域生活を支援していく上でも強い力になっていくに違いない。そのためにも、相談支援専門員を養成していく段階から、障害当事者も巻き込みながら人材育成を強化していく必要がある。そのなかで分かってくることは、おそらく障害のある人もない人もどうすれば地域で暮らし続けられるかという本質的な論議がすすんでいき、そうすれば真の「当事者性」というものが共有できていくのではないかと期待している。

 

3 相談支援ワーカーの資質について

 

1 相談活動を実践していく上で、重要だと考えている要件
  ~アンケート調査結果から見えること

(1)回答の上位項目から見えてくること

 相談員が相談活動を実践していく上で、重要だと考えている要件の上位項目を見ていくと、最上位項目が「相談者と信頼関係を結べること」となっている。何故この項目が最上位にあるかについては、回答の理由が記載されてはいないので不明である。しかし、このことには次の理由で明確な根拠があると考える。
 ・福祉活動を構成する最も根幹に位置する要件であること。
 ・支援活動が「恩恵」ではなく「生活を保障する権利」の保障であるための援助者の位置取りとして不可欠の要件であること。
 ・「自己責任」や「自己の自立能力」を問われるのではなく、社会的な責任として「援助行動」が行われるという、相談支援者の位置が確認できることを意味している。
 ・信頼することによって初めて相談者が自分の「苦しみ」や「痛み」を相談支援員に委ねることが出来る。
 ・このことによって相談者は孤立無援の人ではなく、自分の苦境に向き合う勇気を持つことが出来る。
 次に多く回答が寄せられている項目は、「自己決定、本人主体を意識していること」である。この項目も福祉としての「援助活動」の根幹に関わる要件であり、相談支援活動が「相談者の権利を守るとは、相談者が自分の人生の主人公になれる」ための不可欠の要件として重要な項目である。
 第3位の項目が「相談の内容を正しく聞き、理解できること」である。多くの相談者は自分の相談が充分聞かれて、そして理解されるという」体験を持つことが出来なかったり、あるいはそのことに失望していることが往々にしてある。相談者の相談が誠実にかつ充分聞かれること自体が援助活動のスタートとなるし、相談者が「孤立」から「共に生きる」一歩となることが多い。さらに、「理解する」ことによって相談を聞くことが「支援」へとつながっていく前提作業となる。第4 位が「相談の背後にある環境や関係性を分析できること」となっているが、この項目も相談者の状況を理解する上で不可欠の要件である。相談者に起きている困難状況は相談者個人をそこから切り取っても正しく理解することは出来ない。そもそも相談者は関係体として生きており、環境との相互作用の中で生きているからである。相談者の生活を要素別に分析するだけでは状況は把握できない。
 以上の項目が上位にあることは、とても重要と考えられる。なぜならば、この結果から、多くの相談支援員は相談支援の対人援助技術として必要な要素については理解している、と理解できるからである。
 しかしながら、第1 位の「相談者と信頼関係を結べること」を回答した人が約60%で、40%の相談支援員がこの項目を回答しなかったことは、どういうことなのかについては不明であり、疑問の残るところである。

 

(2)直営事業所と委託事業所の回答差

 直営の事業所と委託の事業所の回答傾向に顕著な差異が見られることも注目するところである。委託事業所が直営事業所よりもかなり回答率が多い項目が「相談者との信頼関係」「自己決定、本人主体の意識」「相談の背後にある環境や関係性の理解」であり、その逆になっているのが「制度・法律に関する知識」「指導・助言」「他機関の紹介」である。つまり、委託事業者の方は相談者側の事情及びその人と関係する環境への視点を重視していることが読み取られる。一方で、直営事業者は相談支援者側つまり提供する側の要件に関する視点を重視している。この違いはどこから来ているのか、については別途分析する必要があると思われる。

 

2 事業目的と相談支援者の資質との関係について

 基本的に福祉活動を成立させるための要件は共通しているはずである。しかし、現実の相談活動または関連する活動は、その事業目的と要綱によって役割の重点が傾斜することも事実である。

①相談者が支援するための制度要綱に該当するかを判断する材料を得るために調査するための「聞き取り」。たとえば、生活保護の支給のための調査、障害の区分判定のための「聞き取り」。
 ここでは、聞く力や姿勢も重要ではあるが、制度について精通していることや申請者の事情についての共感的な理解力が求められる。

②「傾聴」中心の相談事業
 ここではしっかり聞くことによって、相談者が慰められたり、勇気を与えられて、自分と向き合えるようになったりする。また、相談内容によっては専門機関に繋いだり出来る。いわゆる福祉相談の枠を超えられることも大きな利点である。ここでは、どのような支援に繋いだりするかよりも「そのまま相談者に寄り添って聞くこと」が重要となる。

③窓口相談
 ここでは、相談者の主訴をきいて整理し、そのことにあわせて情報を提供したり、アドバイスをしたりすることが中心になる。ここでは、第一次対応機関として「聞くこと」「理解すること」「アドバイス」「情報提供」「制度サービスへのつなぎ」等の役割が中心となる。

④「問題解決型」の相談支援活動
 ここでは、相談者の遭遇している困難な生活課題に寄り添いながら、解決して相談者が自分の生活の主体者となりうること、必要な援助が受けられて生活が安定すること、などが事業の目的となる。ここでは、生活支援が中心的な活動となるために、対象を限定しないこと、相談内容を限定しないこと、相談時間を限定しないこと、つまり利用者中心であること、地域資源のネットワークによる「支えあい」が必要となるために地域資源のコーディネート、地域システムの改善等が必要となる。また、直接の生活援助も必要となる。従って、この事業の相談支援者には福祉活動に共通する基本的な資質が求められるし、専門分野の知識についても第一次対応に必要な程度の素養が求められる。

⑤権利侵害対応活動としての相談支援活動
 ここでは権利が侵害され、被害が生じているかまたは生じる恐れがある事態に対しての緊急な支援活動が求められる。この活動においては、なによりも「住民の有する権利」についての基準に精通し、その基準に準拠し、ゆるぎない姿勢で対応することが求められる。状況によっては介入性や対抗性も求められるので、司法機関との連携が重要となる。基礎的な法律の知識も必要となる。
 また、単に加害者に対抗して被害者の権利を守るだけではなく、加害者の持つ困難な課題を、「生活支援」の手法を用いて支援をすることによって、権利侵害の原因を除去していくことが求められるので、生活支援との一体的な活動が求められる。

 これまでの福祉システムとしての相談支援事業においては、①から③のタイプの事業が先行したが、④および⑤の機能を持った相談事業が整えられてこなかったか、または実践されてこなかった現実がある。支援を必要とする当事者にとっては④および⑤の機能を持った相談事業が今日求められているということがいえる。従って、相談支援ワーカーの資質もそのような機能を果たすための資質が必要となる。
 では、④および⑤に対応できる資質とはどのような資質なのであろうか。

 

3 相談支援者に求められる資質について ~特に上記④、⑤の事業活動を中心に~

 相談者の生活の安心と安全を保障するための「問題解決」、「権利擁護」の相談活動においては、相談者の権利と生活を基盤とした活動である故に、全ての問題に対応する第一次対応をすることになる。ある事柄に精通しているという専門性というよりは、対象を横断し、あらゆる問題に対応する総合的で、基礎的な知見と理解力が求められる。
 上記の事業の実践に求められる資質は、ケアワーカーとしての資質、ケースワーカーとしての資質、ソーシャルワーカーとしての資質を併せ持つと考えられる。

 

(1)ケアワーカーとしての資質

 相談活動の対象とする課題が「困難な事情を抱えている生活者を支援する」ことであることから、ケアワーカーとしての資質が求められる。
 ここで述べる「ケア」とは第1に困難な事態に直面している当事者の精神的な不安や痛みを共感的に理解すること。そのことによって、当事者の不安や痛みを支援者に転化して自分の負荷を軽減し、少しでも力を回復できるようになって頂く。又、その事によって孤立感から解放され支え手と共に困難な事態に向き合う事が出来るようになって頂くこと、である。例えば、高齢者の相談においては<喪失に対する悲しみ>であったり、病気や障害によって自分と自分の人生が失われていくこと、自分が自分でありえなくなり、あたりまえの人として認められないという傷つき、愛してもらいたいのに愛してもらえない子どもの悲しみなど・・・・・。
 第2に、相談支援者は単に当事者をサービス事業者に繋ぐだけではなく、初期対応者として具体的な生活援助が必要である。相談の主訴が困難であればなおさらこのことが重要となる。生活援助には「とりあえず性」が重要で、明日、明後日どう安心できるかが重要である。また、制度による援助サービスは当事者の生活を成立するための要素のごく一部への対応であることを忘れてはならない。制度では対応できないことや当事者の状態の変化によって急に契約していない支援が必要となることはいくらでもある。そういうときに、臨機応変に対応するのも相談支援者ワーカーの重要な生活援助である。
 第3に相談者にとっては相談支援ワーカーが信頼できる人かどうかは決定的に重要であり、信頼できなければ自らを開示もしないし、依頼もしないし、つらく認めがたい生活の現実を支援者にその解決を委ねることは出来ない。相談者は相談した後の支援サービスではなく、まず支援ワーカーが自分にどう向き合い、支えてくれるのかが重要である。そこで、相談の内容の理解や支援方針を示すだけではなく、とりあえず次につながる部分あるいは緊急に支援するべき事を援助することによって、外部の手が入る事への信頼感(メリットを含めて)が可能になる(相談者にとって外部の人間を自分の生活範囲に入れることは非常に抵抗のある困難事である。)相談支援ワーカーは単にサービスへとコーディネートする人ではない。まず、相談者にとっては第一次的に信頼できる支え手の成立が重要なのである。そのことによって継続的な支えてとなっていき、相談者の同伴者となっていく。さらに、相談の事態に緊急性があったり、制度サービスの対象とはならない人の場合は、制度サービスあるいは制度外サービスに繋ぐまでの間は自らが援助者にならなければならない。
 第4に身体の健康(病と回復を含む)についての気づかいと手当てである。生活環境や精神的な状況と身体の健康との関連性への気づかいも必要である。医療コーディネーターとの連携は特に必要である。ケアは特に第一次対応者の本質的な役割なので第二次第三次対応への連携は用意されていなければならない。
 第5に生活の経済基盤についての気づかいと手当てである。
 第6に家族や友人との関係への気づかいと手当てである。
 第7に自分を対象化できる活動を創るか繋ぐこと。このことが確保できないと観念的な世界に閉じられた状態や自分の心理的な世界に閉じられた状況から解放されることにならない。つまり、具体的な生活者になることが困難であるということである。
 第8に生活上の楽しみ(生活環境への適応努力からの解放)への気づかいと手当てである。
 第9に安心できる住まいへの気づかいである。

 

(2)ケースワーカーとしての資質

①的確なアセスメントが出来ること。
 相談者の相談からその主訴を理解し、全体を整理し、相談の背景にあることを含めて問題の構造を明らかにすることの力量が必要となる。アセスメントの的確性によって問題の解決の可能性が大きく異なってくる。事実経過だけ集めても支援方針には結びつかない。支援してもなかなか結果が出ない場合の多くはアセスメントに的確性が欠けていることが多い。
 アセスメントにおいて注意しなければならないことは当事者の自己開示が可能になっているかどうかを見落とさないこと、情報を分析的に要素別に、あるいは専門分野別に取り出すことによって、当事者とその人を規定している環境との関係性、その人自身の有機的な関係性を見失うこと、当事者の<意志>がどこから来ているのか、周囲の力によって規定されてしまっていないか、本当に相談者の自己決定であるかどうかを見落とさないこと、相談者本人の生活的、身体的な実態と観念や心理との乖離、表現された訴えとその背景にあるものの存在、などのことは充分留意して判断しなければならない。

②支援方針と支援プログラムの作成
 支援方針を立てる場合に留意すべきことは第1にアセスメントとの関係を明確にすることである。
 第2に支援の段階を立てること。問題の解決にいたるためには、同時に併行して支援を進める場合と一つの課題が達成してからでないと次の支援に進んではならない場合とがあるので、時間がかかっても支援の段階を立てて行う必要がある。特に様々な挫折体験による閉塞状況から自立に到るまでの支援過程には明確な支援課題を段階的に設定する必要がある。
 第3に支援の手を直接入れるべきときと入れないで見守るべき時があることを見極める視点が必要である。
 第4に支援サービスに繋げる場合、その支援サービスの前段階の支援課題がある場合はそのことをプログラムに入れて実践する必要がある。単純に支援サービスに紹介すればよいケースは少ない。既成のサービス場面には適応できない相談者は多い。
 パーソナルな関係の中で初めて行動できるようになるという段階がとても重要である。その事を土台にして次のステップに進むことを大事にしないと支援に参加していける人とそうでない人が出てしまう。
 第5にケースマネジメントとしてのプログラムとサービス提供事業者側のプログラムとのすり合わせを確実に行うこと。
 第6に相談者と事業者や行政との間に入って必要により、通訳をすること。コミュニケーションが成立していないことが現実に多いからである。このことは障害のある人に限らず、子ども、高齢者においても必要である。
 第7にサービスに繋いだ後のモニタリングとフォローを忘れないこと。
 第8に困難ケースや多問題ケースにおいては1 ケースワーカーや1 事業者で対応することは出来ないし、適切ではない。一人の相談者を支えるネットワークの形成に取り組まなければならない。その場合、特に留意すべきことは前述したアセスメントと支援方針の共有化をコーディネートする作業が重要である。ネットワークが縦割りの分業化になってはネットワークとしての合力性が確立しない。アセスメントと支援方針自体をチームのものに作り上げていく努力が必要である。それぞれの縦割りの専門家の意見があっても決して合力にはならない。そのコーディネートがないまま役割分担がなされると支援がバラバラになり、決して結果が出ない。ここでは自分の専門家としての意見にだけ固執することは弊害となる。その部分をケースの本質に立ち返ってまとめていくのがケースワーカーの役割である。このことがしっかりなされれば、このネットワークは地域の心強いセーフティネットになりうる。ケースワーカーが地域を作る重要な位置に立っているのである。
 第9に個々の相談者への取り組みから明らかになった「課題」を地域の課題へとコーディネートしていく役割を果たすことである。ソーシャルワークとしての「地域づくり」はあくまで住民一人一人の「困りごと」に立脚し、その困りごとを地域の取り組むべき課題としていく過程にある。そこに支えあう地域の可能性がある。つまり、一人一人の支援を必要とする住民の事情を地域の住民が共感的に理解することが重要となる。
 そのことが可能になるためには、一人一人の「困りごと」に向き合ってその解決に取り組んでいるケースワーカーがそのことを発信していくことが不可欠であり、それがケースワーカーの使命の一つであるといえる。

 

(3)ソーシャルワーカーとしての資質

 個々人への問題解決と権利擁護活動が基本であると同時に、「地域力」が育っている地域においては一人一人がより地域で支えられる。豊かな土地には豊かな生命力が育ちうる。
 第1に前述したように個別のケースワークにおける課題を地域の課題にしていくコーディネート力が求められる。
 第2に個別ケースにおいてネットワークを形成する場合のコーディネート力が求められる。
 第3にバラバラに存在して独自に事業を展開している社会福祉法人や医療法人や教育機関等々の既存の資源を地域のニーズに合わせて、応えられる資源となっていくために、ネットワークを形成し、事業者中心の資源から真に住民のための資源となることを図るためのコーディネートをすること。
 第4に既存の資源のネットワークを形成することによって、事業の質が向上することをコーディネートすること。
 第5にその地域において住民のニーズに応えていない、あるいは答えることが出来ない場合は、新たな資源作りへのコーディネートを行うこと。特に当事者と行政あるいは事業者とのコーディネートを行うことが重要である。
 第6に「理不尽な理由で苦しんでいる」人としての権利を奪われている人の保護救済と問題の解決に取り組むこと。具体的には次のとおりである。

人権の基準について精通していて、利害関係や情実に流されることなく、その基準に立脚して揺るがないこと。
当事者の権利の代弁者であること。
事態が当事者にとって重大な不利益をもたらすことが明確な時は、たとえその当事者から申請がなくてもあるいは支援を拒否していても、「介入」的に支援を行うこと。
加害者が行政や事業者である場合、あくまでも被害者の立場に立って問題の解決を図る姿勢が重要である。
差別や暴力の背後には「無理解」や「生活の困難性」が存在することが多い。
 それゆえに、権利擁護活動においては、加害者に対抗して被害者を守ると同時に加害者が抱えている生活の問題を支援によって解決することによって、ひいては虐待問題も解決していくというあり方が重要である。また、粘り強く話し合うことによって「理解」を求めていくことが重要である。ソーシャルワーカーはベクトルの異なる活動を同時的に行うスキルを身につけることが求められる。
被害が生じている場合は、何よりも安否確認を迅速に行うと共に、生命の安全を確保することについて緊急的な対応が出来ること。

 

 第7に、地域の課題を発信すると共に、その課題を地域の全ての関係者が協議し、解決へとコーディネートしていくための枠組みを創っていくと共に、機能していくための役割を果たしていくこと。

 

4 相談支援ワーカーに求められる姿勢について

 最後に、相談支援ワーカーに求められる姿勢について以下にまとめる。

相談支援ワーカーは日本国憲法第11 条、第13 条、第25 条に立脚した理念と使命に基づいて活動しなければならない。
相談支援ワーカーはあくまで支援を必要とする当事者の最善の利益を守り実現することを目的とした活動をする。
支援に当たっては当事者の自己決定を重視し、またそのことが可能になるための支援を行う。
相談者が困難な問題を抱えている場合、「自己責任」を優先させるのではなく、支援を受ける権利を優先し、結果として相談者が自分の生活の主体者になることを目指す。
相談者が抱える課題をその個人だけの課題にとどめず、地域が共に支えるあり方を追及する。従って、地域のあらゆる資源が住民のニーズに応えられるように改革改善しあうような仕組みを作っていく。
相談活動は事業者の事情に合わせておこなうのではなく、あくまで相談者の事情を優先する。それゆえに、相談活動は相談者の日常生活をなるべく損なうことのないように、生活に寄り添いながら、訪問を中心に行うように努力する。
相談者の相談を事業者の専門分野で切り取るのではなく、そこに寄せられている「生活問題」を丸ごとそのまま受け止める第一次対応専門機関としての対応をする。縦割りの対応は相談者中心とは言えない。
相談支援ワーカーは常に自分の判断や活動には過ちがあるということを前提とし、相談活動はチームとしておこなう。および、スーパーバイズを受けることを義務付ける。さらに、外部評価を受けることをシステムとしてもっていること。
相談支援活動は地域におけるいかなる機関や事業者からも中立公正でなければならない。住民の立場に立って地域の機関や事業者のモニターとしての役割を果たさなければならない。
相談支援活動においては地域の全ての資源との連携協力を重視し、その力が住民に向けられるようにコーディネートしなければならない。ワーカー個人の責任を果たしながらも、ワーカーの「抱え込み」は避けなければならない。
相談支援ワーカーは相談者や相談内容が制度の対象ではないことによって排除することがあってはならない。
相談支援ワーカーは制度による支援を引き出すことをすると共に、新たな制度の創出にもその役割を果たすこと。
 
*第Ⅰ部Ⅲ 論点3であげた個々人の相談支援従事者の資質を高めるための事業所の取り組みについては、事項Ⅳに整理している。

 

4.「権利を擁護するための相談支援」を具現化するための相談支援の手法

 

1 「権利を擁護するための相談支援」に求められる基本的視点

 「権利を擁護するための相談支援」は、単に理念に留まるのではなく、日常の相談支援事業においてその内容や手法として実現される必要がある。
 自立支援法以前、相談は行政を中心とする「窓口相談」が主で、その中心は、制度サービスの対象判断やサービス内容の決定・提示を中心に、付随する情報提供や他機関への紹介を行う業務であったと言えよう。では、そうした「窓口相談」と、「権利を擁護するための相談支援」との違いはどこにあるのだろうか。研究会では、次の2点を重要と考えた。

 

(1)障害当事者が自身の権利を自覚できること

 生活していく上で直面する課題を解決していくのは、あくまでも障害当事者である本人である。そういう意味では、相談支援(者)は単に媒体にすぎない。そう考えていくと、権利を擁護するための相談支援の前提には、支援を必要としている本人が、一番話しやすい・理解しやすい状況のなかで、自身の権利を自覚し、その権利の実現に向けて立ち向かっていける力を蓄えていける支援が不可欠となる。
 アンケート調査では、相談支援事業所、相談支援従事者それぞれに対して「障害者の権利擁護のための支援として行っていること」を尋ねている。相談支援従事者の回答をみると、「方針の選択にあたっては、本人意思を最優先させる」、「必要と判断すれば、利用者からの相談の有無にかかわらず介入していく」などが過半数となり上位回答となった一方で、「障害のある本人が有する権利について、本人を啓発していく」や「障害のある本人が有する権利について、地域住民や関係機関を啓発していく」など障害者の権利啓発に関する活動を行っている従事者は3~4割にとどまった。
 さらに、相談支援従事者アンケートで尋ねた、「権利擁護という側面から見て相談支援を行っていく上で困難を感じたこと」(自由記載)では、障害当事者の権利啓発活動の困難さが上位となっている。その具体的内容は、以下のように分類できた。
 ・本人が、自身の権利が侵害されていることに気づかない。
 ・本人に権利を侵害されていることを説明しても、理解することが困難。
 ・本人が権利侵害に気づいたとしても、(家族や支援者との関係などにより)改善によるデメリットが大きい、あるいは周囲の強力が得られない等の理由であきらめてしまう。

 権利の実現に向けた相談支援を行う大前提の取り組みとして、今後とも権利に対する啓発やそのための本人支援を行っていく必要があるが、アンケート調査からは、障害当事者が自身のもつ権利を自覚化していくこと、あるいはそのような支援を行っていくことは決して容易なことではないことが明らかとなっている。

 

(2)継続的に、本人に寄り添う支援であること

 地域生活を継続していく上では、障害の当事者は、福祉サービス利用にとどまらず、就園・就学、住まいの確保、就労、近所づきあい等、生活のさまざまな局面で課題に直面していく。相談支援従事者には、そうした一人ひとりの人生のプロセスにおいて、その人の日常生活(あるいはその人の生活スタイル)を崩すことなく、そして支援者が指導・決定するのではなく、その人の生活に寄り添いながら継続的に支援を行っていくことが求められる。

 

2 「権利としての相談」としての事業のあり方

 上記のような性格をもつ相談支援を行っていくための事業のあり方として、どのようなことが求められるのであろうか。
 事業のあり方としては、大きく事業所の運営・人員体制、当事者性を含めた相談支援従事者に求められる資質、地域としての支援力に集約されると思うが、ここでは、主に、事業所の運営・人員体制、地域としての支援力について、アンケート結果を引用しつつ検討してみたい。(相談支援における当事者(性)、当事者相談支援従事者に求められる資質については、前項2、3も併せてご参照いただきたい。)

(1)事業所の運営・人員体制

①相談の受付体制
 利用者から見た相談支援の受付体制としてまず重要なことは、「必要な時に、自分の話しやすい場所、方法で相談を受けることができる」ということであろう。
 アンケート結果をみると、回答事業所の48%は「利用者が必要なときにいつでも相談できる体制がとられている」としている。しかしながら、土日の運営、運営時間帯(24時間かどうか)、相談の受付方法、コミュニケーションAID の実施状況等の回答を見る限り、事業所のなかには、一部運営実態と運営者側の意識にギャップが存在していることも明らかになった。
 以下に、アンケートの関連項目の結果を示す。

ア 事業所の相談受付曜日・時間帯
  土曜日や日曜日に相談を受け付けている事業所は、事業所全体では、土曜日は35%、日曜日は18%であった。特に、直営の相談支援事業所では土曜日や日曜日に相談を受け付けている割合は10%未満であった。
  「24 時間対応」で相談を受けつけると回答した事業所は24%を占めた。その多くは委託相談支援事業所であり、直営事業所では9 事業所のみであった
イ 相談の受付方法
  「来所」、「電話」、「個別訪問」は多くの相談支援事業所で実施されているが、「FAX」や「Eメール」は50%程度、「グループ・地域訪問」は36%にとどまった。
ウ コミュニケーションAID
  障害者の権利擁護のための支援として行っていることとして「必要に応じて、相談のためのコミュニケーションAID を用意している」と回答した事業所は6%であった。

 

②相談員がもつ当事者性
 前述のように、支援を必要としている障害当事者が自身の権利を自覚し、かつその本人に寄り添う支援が行われるためには、相談支援に携わる者の「当事者性」が重要であるのは、前述Ⅱのとおりである。
 障害当事者が相談員として配置されることは、主に2つの意義を有すると考えられる。
 1点目は、障害の当事者が相談員としていることで、障害をもつ本人(相談者)がよりエンパワメントされていくであろうということである。
 2点目は、相談支援事業所のなかに障害のある人が働いていること(いつも障害のある人が身近にいること)でこそ、相談員の、当事者の置かれている立場や状況に対する感受性が高まっていくのではないかと思われることである。障害のある人がそうした身近な存在になっていないと、とりわけ、当面障害のない相談員にとっては、「障害」がどこか他人事になってしまうのではないかと懸念される。

 

③相談支援事業所の人員体制

 以上みてきたような事業を行っていくためには、当然、それなりの人員体制が必要となる。
ところが、現実の個々の事業所職員体制をみると、相談員の人数の少なさに加え、非常勤や兼務の職員が多く、本人の近くに出向いた相談支援の実施や相談の継続性という点で、何らかの支障が生じてしまうことが懸念される。また、事業所内におけるチームケアという観点から見ても、非常勤、兼務職員ではチームとしての体制がつくりにくく、十分な体制とは言い難い。相談員の教育の観点から見ても同様であろう。
 以下に、アンケートの関連項目の結果を示す。

ア 事業所の相談員数
 回答のあった654 相談支援事業所の相談員数(実人数)は、回答事業所全体の平均では3.4 人。直営・委託別にみると、平均相談員数は直営事業所では4.7 人、委託事業所では3.0 人であり、委託事業所では相談員数が2人以下の割合は49%を占めていた。

イ 非正規職員数及び兼務職員数
 非正規職員数および他業務との兼務者数を尋ねたところ、回答事業所平均では非正規職員数は1.7 人(=相談員実人数の半数)、兼務者は2.2 人(=相談員実人数の3 人に2 人の割合)であった。兼務職員数は、直営で3.6 人、委託で1.7 人であった。
 直営の場合、相談員の人員数は多いが兼務者割合も高い。委託の場合はそもそも人員数も少なく兼務率も高く、いずれも実質的には極めて少数の人員による専従体制となっている。

 

④相談支援の質を高めるための事業所内での取り組み

 相談支援の質を高めていくためには、個々の相談支援従事者の研鑽とともに、日常の相談支援活動を行う上での事業所としての体制(内外のチーム力、研鑽機会づくり等)が重要と思われる。
 アンケート調査では、委託相談支援事業所に対して、「相談の質を高めるために事業所内で行っていること」、「他機関と協議や調整を行う機会」について尋ねている。結果をみると、法施行3 年を迎えようとしている今日、事業所内での取り組み、地域での取り組みともに差が見え始めていることがわかる。

ア 相談の質を高めるために事業所内で行っていること
 回答としては、「所内でカンファレンスを実施している」が最も多いが、委託相談支援事業所の回答の約半数(46%)に留まっている。「必要に応じた外部の他の専門職のアドバイス」は38%、「管理職によるスーパーバイズ」は25%であった。
 一方で、「相談支援者による権利侵害に関するひやり・はっと事例の収集や検証」を実施している事業所も1 割強みられ、なかには、「支援センター運営協議会を設置」、「委託機関への自己評価シートの提出を実施」している事業所も見受けられた。

イ 他機関と協議や調整を行う機会
 「必要に応じて、本人・関係機関による個別支援会議を実施している」事業所は72%、「地域自立支援協議会のなかでケース検討を行っている」、「行政・関係機関等で定期的なケース検討のための会議を実施している」についての事業所の回答は、それぞれ37%であった。

 

(2)地域としての支援力

 個々の事業所の体制強化に向けては、今後とも人材確保が可能となるような財源の裏付け等が不可欠といえる。
 同時に、今後「権利としての相談支援」を行っていく上では、個々の事業所の取り組みを超えた、いわば地域としての支援力の強化が不可欠となる。つまり、たとえ個々の事業所の力量に限界があったとしても、地域の資源を効果的に活用しあえば、相談支援の質を高めていくことができるのである(もちろん、個々の事業所の力量アップが図られることは大前提である)。
 そのことは同時に、障害のある当事者の生活の課題を、地域住民を含めた地域全体の課題として受け止め、解決していくための最大限効果的な仕組みを、地域でつくっていく作業といえる。そのための鍵となる手法が、ネットワーキングであり、「オープンシステム」であると考える。

①ネットワーク(ネットワーキング)
 ネットワーキングの重要性として一般的に指摘されているのは、特に困難ケースなどの場合に、多くの支援者や機関が関ることで、支援の可能性(選択肢)が拡がるという点である。
 もちろん、こうした点も重要なのであるが、本研究のテーマである「権利としての相談支援」という点からみると、1事業所あるいは1人の相談員による支援では、相談支援のなかでどの程度その人の権利がまもられたのか、あるいは相談員による権利侵害はなかったのか、という評価や検証が困難になってしまうことがあげられる。関係する複数の人材や機関が関ることでこそ、権利の保障という側面からの、互いの相談の品質管理やその向上が可能となる。
 相談支援事業所あるいは相談支援従事者は、一人ひとりへの支援を、地域のネットワークを通じて解決していくとともに、そのことを通じてさらに、権利を擁護するという地域全体としての意識や実践の向上に繋げていく必要がある。
 こうしたネットワークの構築は、個々の相談ケースの解決に向けた個別支援会議や、それらの上部組織である地域自立支援協議会等を通じて行われることとなり、あらためてその重要性が指摘できる。(自立支援協議会については6で後述)

②「オープンシステム」の仕組み
 これまで、相談支援に限らず、多くの福祉サービスをはじめとする生活支援は、個々の事業所あるいは施設によって「完結的に」あるいは「抱え込みながら」サービスが行われてきた。
 ここで提案するオープンシステムとは、福祉関係だけでなく、地域のあらゆる資源が地域の共有財産として、徹底して役割分担しながら、分野や組織の枠を超え、誰でもアクセスできるような、開かれた社会資源体制を創ろうということである。つまり、支援の「脱完結」あるいは「脱半完結」といえる。
 前述のネットワーキングとオープンシステムという2つの手法が地域のなかで展開されることで、権利を擁護する相談支援の可能性は格段に高まるものと想定される。

 

5 行政と委託相談支援事業所の役割

 

1 法的位置づけ

 行政は、法を適用する者(機関)として、「国が行う行政(権)」と「地方公共団体が行う行政(権)」(憲法第92 条(地方自治の基本原則)とに分けられる。ここで言う「行政」とは、主に「市町村行政」を指す。
 行政が適用する法とは、国の最高法規である憲法の理念を実現するために策定されたさまざまな法律を指すが、本研究で言えば、直接的には平成18(2006)年に施行された障害者自立支援法がそれにあたる。

(1)障害者自立支援法の理念、目的

 まず、行政として適用すべき障害者自立支援法の目的について改めて確認すると、次のように記載されている。

第1条 この法律は、障害者基本法(昭和四十五年法律第八十四号)の基本的理念にのっとり、……(中略)……福祉に関する法律と相まって、障害者及び障害児がその有する能力及び適性に応じ、自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、必要な障害福祉サービスに係る給付その他の支援を行い、もって障害者及び障害児の福祉の増進を図るとともに、障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現に寄与することを目的とする。

 上記にあるように、ここでは社会福祉法や介護保険法をさらに進め、その目的として、障害者及び障害児の自立した日常生活だけでなく、(自立した)社会生活もあげられている。換言すれば、これまでは、障害のある人が、いかに「社会生活」とほど遠い状態に置かれていたか、ということが示されたとも言える。さらに、「障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現」として共生社会の実現をあげている。
 行政は、自立支援給付の支給決定や地域生活支援事業実施における法の解釈・運用に際しては、この法の目的を基本として適用を行うべきである。

 

(2)障害者自立支援法における市町村等の責務

 障害者自立支援法においては、相談支援事業は地域生活支援事業として市町村が必ず実施すべき事業(必須事業)であり、相談支援事業は地域生活支援事業に位置づけられている。
 同法第77 条第1項では、地域生活支援事業として、「(略)障害者等、障害児の保護者又は障害者等の介護を行う者からの相談に応じ、必要な情報の提供及び助言その他の厚生労働省令で定める便宜を供与するとともに、障害者等に対する虐待の防止及びその早期発見のための関係機関との連絡調整その他の障害者等の権利の擁護のために必要な援助を行う事業」として、相談支援と権利擁護が位置づけられている。
 ところが、「障害者等の権利の擁護のために必要な援助」と示された「権利の擁護」の具体的内容については、法には虐待の例示のみしか示されていないことから、実質的には、行政の適用に委ねられていると理解できる。つまり、現行法のもとでは、障害者の権利擁護の具体は、各市町村あるいはそれをサポートする役割である都道府県の適用にかかっているといえ、これはきわめて重大なことである。
 他方、同法では、上記以外にも多くの市町村の役割が定められている。例えば、不正利得の徴収に関わる事項(8~10 条、関連して12 条)、市町村審査会の設置運営 (15条)、介護給付費等の支給決定に関わる事項(19 条、面接・調査(20 条)(委託可)、支給要否決定等(22 条))、自立支援医療の支給認定等(54 条)、市町村障害福祉計画の策定(88 条)などである。
 ここで注目すべきは、ひとつの法律のなかで、一方で障害者等の権利の擁護のために必要な援助を行うことが規定されながら、他方で、介護給付等の支給決定に関わる事項についても市町村が責任をもって行う(委託を含め)とされていることである。つまり、市町村行政は、障害者の権利擁護を行う立場であると同時に、支給決定という重要な行政処分の決定権を有する二面性をもった立場にあるということになる。こうした行政のもつ二面性は、権利擁護という側面から地域における相談支援体制を構築していく上で、ひとつの重要なポイントとなる。

 

(3)委託事業の位置づけ

 地域における相談支援は、市町村相談支援事業(一般財源交付税措置)と、市町村相談支援機能強化事業、住居入居等支援事業、成年後見制度利用支援事業(以上は、地域生活支援事業補助金)からなり、いずれも「指定相談支援事業所等に委託することができる」とされている。
 委託とは、法律行為又は事務を他の機関又は他の者に委託することを指すが、事業の実施主体はあくまで行政(委託者)である。委託の場合、本来、行政が取組むべき事柄を行政の責任として民間に委託して行うことから、基本的には、行政における法の適用に準じた取り組みが期待されている。
 さらに、一般的には、委託の意義として、公益性の向上が言われている。つまり、行政が委託する場合、受託する民間法人には、行政を上回る専門性などの能力、行政に準じる事務管理能力、守秘義務の実行能力などが求められることとなる。
 では、ここで言う「専門性」とは何か。法において、市町村の責務として相談支援と権利擁護が位置づけられ、その委託事業として相談支援を行うという観点からその「専門性」を考えるとき、それは、障害当事者の権利に対する鋭敏な感度と個別あるいは社会的解決力といえるのではないか。まして、「支援を受ける権利の保障」が、法曹界においても、具体的な権利として確立しているとは言い難い日本の現状では、「法による権利侵害」への対応を含めて、委託相談支援事業所がその専門性を発揮していく必要がある。

 

2 アンケートにみる「委託事業」の位置づけと評価

 市町村及び委託相談支援事業所は、委託の相談支援事業をどのように位置づけ、実際どのように評価しているのであろうか。
 今回回答のあった市町村(646 団体)における市町村相談支援事業の実施体制をみると、約12%が自治体直営で実施(人口3 万人未満では22%)、67%が指定相談支援事業所に委託しており、「直営と委託双方で行っている」と回答した市町村は18%であった。

(1)市町村からみた直営・委託のメリット

 市町村からみた直営・委託それぞれのメリットは、次のように認識されていた。
 直営のメリットとしては、「窓口が一本化されることで包括的に対応できる」、「中立公正性が保たれる」などがともに半数前後で上位を占めている。
 他方、委託のメリットとしては、「民間事業所に委託することで、専門性をいかした手厚い対応が可能となる」(72%)を筆頭に、「相談窓口が増えることで、利用者にとって選択の幅が広がる」(56%)、「地域基盤をつくる上で不可欠な公民の連携・協働が深まる」(38%)が上位を占める。どちらかといえば、「専門性の担保」は人口規模の小さな市町村で、「公民の連携・協働の深まり」については人口規模の大きな市町村での支持が高い。
 しかしながら、「行政機関だけでは保障できない利用者の権利の擁護が可能となる」という点については、市町村規模に関わりなく、22%に留まっているのが現状である。

 

(2)委託相談支援事業所からみた相談支援事業の効果

 委託相談支援事業所の相談支援事業実施の効果に対する評価は、「個別の支援を通じて、地域の他の関係機関とのネットワークが深まった」、「訪問等アウトリーチの活動によりニーズの発見や掘り起こしが可能となった」に関してはほぼ半数以上が評価している。しかしながら、「利用者の権利を守るために、民間ならではの取組ができるようになった」、「地域の障害に対する理解や権利擁護についての意識・実践が深まった」など、権利擁護への取組や意識啓発等に関する効果をあげている事業所はわずかであり、前問の行政の回答同様に、委託相談支援事業所においても、事業受託を権利擁護の取り組みに生かしていくことに対する認識は今後の課題と言えよう。

 

(3)委託相談支援事業の課題

 委託相談支援事業の課題について、委託元市町村と委託相談支援事業所の回答を比較すると、両者ともに「個々の支援を通じた、関係機関の情報共有や連携、資源開発を深めていくこと」が最も高くあげられている(委託元自治体で69%、委託相談支援事業所で59%)。
 全体に上位項目の順位に違いがみられないなかで、以下の2点については、委託元自治体の回答が委託相談支援事業所のそれを10 ポイント以上上回っていて興味深い。「相談支援の意義や重要性について、公民で認識を共有していくこと」については、委託元自治体38%に対して委託相談支援事業所27%、「相談支援事業の内容(仕様書等)を、当事者や相談支援事業所の参画により充実させていくこと」については、委託元自治体31%に対して委託相談支援事業所16%という結果であった。また、委託元自治体のみの選択肢「相談支援事業所間の相談の質のばらつきをなくすこと」については、35%と11 項目中第6 位に上げられている。
 他方、アンケートの「今後の相談支援事業のなかで特に課題と感じていること」(自由記載)での委託相談支援事業所の回答のなかには、少数ではあるが、「行政から何を委託されているのかはっきりしない」、「行政は窓口としての相談支援としか捉えていない」、「ともすればケースの丸投げや押し付け合いになる」といった、自治体に対する不信感あるいは両者のコミュニケーション不全がうかがえる内容も寄せられており、まさに公民の連携・協働が緒についたばかりであることが示されている。
 これらアンケート結果から、現状における「委託事業」の位置づけや評価を整理すると、次のようになろう。

①委託元自治体は、直営のメリットとしては中立・公平性の担保を第一に、委託のメリットとしては、専門性の担保や公民の連携・協働を第一に考えていること。一方で、そうした期待に対して、現状の委託相談支援事業の内容は必ずしも充分とは感じていない。特に、相談支援の重要性に対する公民の認識の共有、当事者・委託相談支援事業所の参画による相談支援の内容の充実については、委託相談支援事業所以上に今後の課題と感じている。また、地域の委託相談支援事業所間の相談の質のばらつきをなくしていくことも重要な課題と感じている。

②権利擁護の促進という観点からみた委託事業の位置づけについては、委託元自治体、委託相談支援事業所ともにその優先度は決して高くなく、その意識づけを含め、いずれも今後の課題として残されている。

 

3 相談支援事業における公民協働のあり方とソーシャルワーカーの立ち位置

 障害分野の相談支援事業は制度としても緒についたばかりであり、前項でみたとおり、相談支援事業における公民協働や「権利擁護」の促進については今後の取り組み課題といえる。そうした認識の上で、今後の相談支援における公民協働のあり方について確認したい。

(1)直営・委託事業所それぞれがもつ構造的課題を認識する

 前項1(2)でも一部ふれたが、障害当事者の権利の擁護という観点からみたとき、直営、委託相談支援事業所いずれもが、事業体制のなかに利益相反的要素を含んでいることに注意が必要である。
 行政直営の相談支援事業所では、支給決定との兼ね合いの問題がある。アンケート調査では、70%以上の直営事業所で「支給決定担当との兼務者がいる」と回答している。他方、委託相談支援事業所には、相談支援事業以外に実施している他事業との関係性の問題がある。アンケート調査によれば、委託相談支援事業所のうち、同一法人で相談支援事業以外の事業を行っている割合は、約8 割にのぼった。併設事業を行っていること=中立性を欠いているとみなすことはできないが、結果として利用者(障害当事者)の選択を狭めていないか、利益誘導はないか等、外部評価の仕組み等も必要となろう。
 要は、市町村行政、委託相談支援事業所それぞれが構造的な課題を内包しているということを互いに認識した上で、行政と民間の相談支援事業所とが相補性を発揮していくこと、そしてその仕事ぶりについては第三者による評価を得ることなどが求められているであろう。その第三者による評価の場こそが、当事者をはじめ地域住民を巻き込んだ地域自立支援協議会という地域共通のプラットフォームといえる。

 

(2)「権利の擁護」の実現からみた行政と委託相談支援事業の関係と期待される役割

 以下、権利の擁護の実現からみた、行政と委託相談支援事業の関係のあり方、期待される役割について整理したい。

①めざすゴールは、障害のある人のあたりまえの地域での生活と共生社会の実現である。
・行政(直営)による相談も委託相談支援事業も、障害者自立支援法の理念である、障害のある人のあたりまえの地域での生活、社会生活を支援し、共生社会を実現するという理念のもとに法を遵守・適用していくという意味で、同様の役割を担っているといえる。そのためには、直営と委託事業者とが、ともに相談者の現実に向きあい、アセスメント、支援方針を共有していくことが重要である。

②めざすゴールへのプロセスを、当事者を中心に、ともに創る(拓く)ことが重要である。
 現行法では、「権利擁護」の解釈や適用が市町村に委ねられており、まずは、当該自治体における権利擁護の具体的意味、あるべき姿を、当事者と、行政、民間とがともにつくり、その成果を評価していくことが大前提となる。その具体的場面の代表例が、相談支援事業における仕様書の協働作成プロセスや、地域自立支援協議会での議論であろう。

③行政と委託相談支援事業は、目的実現のために有効なそれぞれ異なる手法を持っており、それぞれがその相補性を発揮していくことが求められる。
 利用者の権利の実現を目指していく上では、支給決定等行政権限に関わる責任主体でもある行政単独による相談支援だけではない相談の仕組みが用意されるべきである。また、一口に「遵法」といっても、その解釈には幅があって当然である。権利擁護という観点からみた委託事業の真骨頂は、どれだけ障害当事者の立場にたって、寄り添った支援ができるかということである。仮に、法による権利侵害があると感じた場合には、行政に働きかけながらその権利を擁護していくことも、委託ならではの重要な役割と考えられる。
 他方、行政には、権利侵害対応に際しての措置権の発動等、委託事業者ではできない行政責任として行政がもつ権限を適切に行使していくことが求められる。

④一人ひとりのソーシャルワーカーとしての立ち位置を擁護する仕組みが重要
 上記それぞれの組織としての立ち位置とは別に、忘れてならないのがそこに従事する一人ひとりのソーシャワーカーとしての立ち位置である。
 一人のソーシャルワーカーとしては組織の立場を超えて、利用者の側に立った支援が求められる。行政(直営)の相談支援に従事するワーカーの場合、当事者の権利に寄り添えば寄り添うほどに、その悩みも大きくなるであろうことも想像に難くない。
 アンケートでは、障害者の権利擁護のための支援として行っていることのひとつの指標として、「行政等と本人との間で見解等の相違が発生した場合には、本人の側にたって支援する」か、を尋ねている。相談支援従事者の回答をみると、委託事業所では44%が、直営事業所では22%が、「イエス」と回答している。委託相談支援事業所従事者の回答は直営の倍となっているものの、半数に満たなかった。
 一方、アンケート自由回答のなかで、ある直営の相談支援従事者は、先述の行政の支給決定との兼ね合いについて、「支給決定という権限を併せ持った相談支援は、やはり本人の側に立った支援とは言えない。そのような立場の曖昧さが、権利擁護の視点とギャップがある。」といった切実な声を投げかけている。
 我々は、権利擁護の実現に向けた組織としての公民の協働のあり方を模索していくと同時に、立場の違いを超えて、ひとり一人のソーシャルワーカーの権利擁護に対する感性と実践力を育て支援していくことも担保していく必要がある。

 

6 自立支援協議会と相談支援と権利擁護の関係

 

1 地域自立支援協議会の法的位置づけと役割・機能

 市町村地域自立支援協議会は、「市町村が、相談支援事業をはじめとする地域の障害福祉等のシステムづくりに関し中核的役割を果たす協議の場として設置するもの(複数での共同実施可)」として位置づけられ、市町村によって、一般財源のなかで設置・運営されている。(社会保障審議会障害者部会資料)平成 18(2006)年の障害者自立支援法(以下「法」という)のなかでは法律上の根拠は明確ではなく、その具体的内容は市町村の政策方針や裁量に委ねられていた。そのことが自立支援協議会の設置促進や運営の活性化を妨げているとも指摘されているが、関連記載事項としては以下の点があげられる。
・法において、市町村が実施する相談支援事業については法第5条並びに第77 条第一項に定められているが、地域自立支援協議会は、相談支援事業として実施すべき便宜の供与 について記された障害者自立支援法施行規則第65 条の10 に「地域における障害者福祉に関する関係者による連携及び支援の体制に関する協議を行うための会議の設置~」として記載されている。
・さらに、「障害福祉サービス及び相談支援並びに市町村及び都道府県の地域生活支援事業の提供体制の整備並びに自立支援給付及び地域生活支援事業の円滑な実施を確保するための基本的な指針」(以下「指針」という)において、次のように位置づけられている。
「障害者等、とりわけ重度の障害者等が地域において自立した日常生活又は社会生活を営むためには、障害福祉サービスの提供体制の確保とともに、これらのサービスの適切な利用を支える相談支援体制の構築が不可欠とされ、このため、地域の実情に応じ、中立・公平な立場で適切な相談支援が実施できる体制の整備を図るとともに、相談支援事業を効果的に実施するため、事業者、雇用、教育、医療等の関連する分野の関係者からなる地域自立支援協議会を設ける等のネットワークの構築を図る」とされている。
 前述の法や指針、あるいは国審議会資料、既往マニュアル*等からは、市町村の地域自立支援協議会の役割や機能は、おおむね次のように整理できる。

地域の関係機関によるネットワーク構築等に向けた協議
(そのネットワークは、支援を必要とする障害者の生活上の課題を解決するためのネットワークであること)
困難事例への対応のあり方に関する協議、調整
地域の社会資源の開発、改善
中立・公平な立場で適切な相談支援が実施できる体制整備
官と民とが協働するシステムの構築
市町村障害者福祉計画の作成・具体化に向けた協議、提言

  *(財)日本障害者リハビリテーション協会『自立支援協議会の運営マニュアル』(平成19 年度厚生労働省障害保健福祉推進事業)を参照

 

では、現状の地域自立支援協議会はどのように機能しているのだろうか。

 

2 アンケート調査にみる市町村自立支援協議会の設置・運営の状況

 国資料によれば、平成20(2008)年4月1日時点の市町村地域自立支援協議会の設置率は65%(平成20 年度中には85%に達する予定))である。設置されている自立支援協議会の活動内容は市町村による差がみられ、今後さらに活性化を図っていくことが課題として認識されている。(社会保障審議会障害者部会資料等)
 アンケート調査では、市町村自立支援協議会の設置・運営状況や相談支援従事者と自立支援協議会との関わりに関して、以下のような特徴がみられた。

ア 地域自立支援協議会の活動状況
 市町村自立支援協議会は回答のあった76%の自治体で設置されているが、活動内容として「地域情報・課題の共有」をあげたところが約半数、「検討の仕組みづくり」や「政策の提案」を行っているところは約2~4割であった。さらに、「権利擁護に関わる課題についての検討の場」を行っているのは1~2割と低位であった。(全般に、人口規模10 万人以上の自治体では、それ以下の自治体に比べ、各項目の実施率が高くなっている。)
 法施行後3年を迎えようとしている時点で、自立支援協議会のなかで権利擁護に関わる課題についての検討まで行っている市町村から、未設置の市町村まで、市町村の取組には相当の差が生じてきていることを再確認する結果となった。

イ 相談支援従事者の地域自立支援協議会との関わり
 相談支援従事者が「現在の職場で行っている業務」の回答内容から地域自立支援協議会との関わりをみると、日常業務として「地域自立支援協議会への参加」を行っている割合は、直営の相談支援従事者で39%、委託の相談支援従事者で65%であった。他方、「地域自立支援協議会の事務局を担当」している割合は、直営、委託ともに26~27%に留まっており、自立支援協議会の「公民協働の場」としての位置づけは十分に浸透していない様子がうかがえた。

 

3 あらためて、自立支援協議会と相談支援と権利擁護の関係

 上記のような現状のなかで、平成21(2009)年3月31 日に「自立支援法等の一部を改正する法律案」が提出され、自立支援協議会は第76 条、第86 条において法的に位置づけられることとなった。
 自立支援協議会の法定化により、今後市町村における設置は進むと思われる。本研究会では、十分な検討はできなかったが、本研究会の視点からあらためて、自立支援協議会と相談支援、権利擁護の関係を整理したい。

 

(1)個別の相談支援~自立支援協議会の関係
 自立支援協議会は、個別支援のなかから浮かび上がってきた一人ひとりの生活に関わる課題を、関係機関のネットワークによって解決していくとともに、そうしたネットワークを通じて、新たに必要な社会資源の開発や必要な制度・政策の提起へとつなげていくための「装置」と位置づけられる。個々の個別支援からあがってきた課題こそが、政策を提案していく際の有力な根拠となる。
 つまり、自立支援協議会は、個別支援、ネットワークとともに、相談支援による障害者の権利保障のために必要な3層の循環構造の重要な要素といえる。ここでは詳細について言及を避けるが、そうした市町村自立支援協議会の活動を支えるための装置として、都道府県自立支援協議会が位置づけられていることは言うまでもない。

 

(2)自立支援協議会の立ち位置と重要な機能

①個別の課題を地域づくり、まちづくりへと繋げる場
 自立支援協議会は、障害者自立支援法によってはじめて位置づけられた社会的装置である。やや乱暴に言えば、これまでは、行政の決定権限のもとで法人ごとに個々のサービスが提供されていたいわば「直列型」の福祉制度であったものが、当事者を中心に、地域の公民の関係機関、住民組織等により地域として個々の課題を受け止め、解決していく「並列型」の仕組みへと大きく変わった。つまり、個々の課題解決をベースとした、地域づくりの場といえる。そうした意味では、広い意味での住民自治の1つの形態とも言えよう。

②官と民との協働
 このような位置づけをもつ地域自立支援協議会において、相談支援事業所として、個別支援からみえた地域の課題を提起・提案していく役割は大きい。さらに言えば、相談支援事業所には、自治体からの相談支援事業の委託の有無に関わらず、個別課題を提起していく義務と責任が課せられているとも言える。
 また、別の見方をすれば、自立支援協議会は、個々の相談支援事業所の限界を超えて、「地域の大きなチーム」として機能する装置でもある。これまではややもすれば、個々の事業所で完結していた取組あるいは人材を、広く地域の人材・取組へと位置づけその機能を強化していける可能性をもつ。

③中立性・公平性の担保
 前項で示したとおり、その中立性や公平性という観点から見たとき、行政、民間(委託)事業所それぞれが課題を有している。自立支援協議会を、当事者、住民を含めた地域全体の装置と捉えるならば、行政や民間が行う相談支援事業に対して、地域として客観的な評価を行っていく重要な場でもある。そうした意味で、地域としての評価の仕組みを構築していくことが急がれている。

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