第2部 研究結果の考察と提言~権利を擁護するための相談支援のあり方

第Ⅱ部-2 提案

1 相談支援の展望

 

はじめに

 障害福祉領域の歴史において、相談支援が独立した事業として取り上げられることは極めて少なかった。我が国では、いわゆる『相談』は専門分化され続けてきたことが特徴ともいえる。その結果、相談者がたらい回しになることも多く、細分化された相談内容を自らが統合する力が無ければ困り果てることとなり、能力障害のある障害者自身にとっては誰かに委ねることしかできなかったことから、家族か援助を受ける機関ないし施設(病院)しか頼れるところはなかったことが特徴であった。障害者にとって家族が最も頼りになる『相談』先であり、知り合いや親切な人たちによって相談援助が細々と続けられてきていたといえる。つまり、家族が相談者として不十分であったり、知人もいない障害者は、路頭に迷うこととなったのである。この結果、地域では、障害者の生活は、家族を中心とした世話が受けられる状況においてはじめて社会生活が可能となり、その家族扶養が困難となれば入所施設における生活を余儀なくされる状況が続いてきたのである。
 結果的に『相談』は行政の窓口を中心とする各種制度上の手続きやサービスや施設利用などの行政処分を受ける相談、早期発見といわれる行政による保健領域の関わりや発達検査や医師による診断など、評価されて障害を認められてようやく受けられる相談、その後の指導・訓練といった相談援助、学校による障害児教育の中での相談、処遇上の相談、多くは指導を受けるという方法の専門領域によるものと、心理判定などの専門機関の相談、そして圧倒的に多かったのはそれぞれの障害ごとの施設(医療機関を含む)処遇上の相談であった。しかし、施設処遇上の完結的援助には、個別相談の機能を棚上げせざるを得ない状況が続いたことから、本人の希望する生活(人生)の『相談』が極めて限定される結果となってきていた。
 「『地域で暮らす』をあたりまえに」を掲げた障害者自立支援法の施行は、戦後長く続いた施設・措置福祉の大きな転換を迎えることとなった。障害者の希望を中心に支援するこれからの相談のあり方を考えるとき、施設完結型の相談体制では地域での生活支援の継続的相談は困難となり、行政の細分化された相談窓口では、紹介機能はあるものの、個人の生活上の支援を行う相談は困難とされ、さらに相談を受ける担当者には異動があり、制度利用の行政処分を行う立場が本人中心の相談を受けることの難しさもあることなどなど、今までの『相談』が、地域で暮らす障害者にとって有効に機能しないということが明らかとなってきた。
 このような、障害者の社会的処遇が大きく変わる中で『相談』のあり方が問われ、再構築の必要性が認識されるようになったのである。ここに、相談支援のあり方を改めて確認し、将来に向けていかにあるべきかを少し探りたいと思う。

 

1 新たな『相談』支援体制とは何か

 これからの中心は地域生活が可能となる障害者福祉である。本人の希望する地域で暮らせることを原則とした施策の体系は、本人が安心して、継続的に、困ったときにタイムリーに相談できてそれなりの解決ができ、地域生活の継続と希望に近づける支援が得られる相談体制づくりが求められている。
 ここで、新たな『相談』としたのは、相談は今までも無かったわけではなく、一部においては制度がなくても、本人中心に、本人と共に取り組み、本人の希望に沿って地域生活を可能とし、より安定して継続できることを生活資源の開発まで行いながら『相談支援』を行ってきた。こうした事例は、全国各地にそれぞれの障害種別に関係なくその実践が認められた。しかしながら、その実態は障害者福祉のほんの一部であり、まれな事例として取り上げられる程度であった。その実践の多くは、障害者福祉の専門家、ソーシャルワークを学んだ人たちによって展開されてきていた。
 新たな『相談』は、くどいが地域生活を可能とし継続する相談であり、日々の生活に必要な相談、散在しているサービス資源の本人への統合や不足な生活資源の開発によって可能性を広げ、生活の質を高める相談支援である。このようなことを現実化する相談支援とは、障害者本人の身近にいつも存在して、必要に応じて訪問相談ができ、昼夜の別なく、休日・平日に関わりなく、ライフサイクルの切れ目の無い相当長期にわたる継続相談が必要となってくる。施設の中で生涯支援される体制と違って、地域生活では多様な出来事、突然の事故や不測の事態、感染症にかかるリスクや多様な疾病罹患などなどに対応できる『相談』が必要となってくる。この相談支援体制が全国どこにおいても可能な状態をつくり出すことが、新たな『相談』支援体制の構築ということになる。
 障害者自立支援法は、障害者施策を3 障害一元化から発達障害や高次脳機能障害などを含む障害種別を分けない支援の方向性を打ち出している。今後は特定疾患なども含むことの検討を行いつつ、支援方法としてサービス体系を利用者中心に再編しようとしていく方向に期待している。重度の障害であっても本人が希望すれば就労の機会を支援する体制の強化を打ち出してもいる。サービス施策の利用については支援程度をより客観化して不公平を是正する仕組みを導入し、より公平な利用の可能性を仕組みとして作り出している。そして、安定的な財源の確保として障害者の生活支援の施策経費に関し国の費用負担を義務的経費として定めたのである。このような施策体系は、ようやく始まったばかりであることから、現実にはこれらが未だ障害者本人と家族にとって満足できるものとはなっていないものの、近未来に向けて本人中心の支援を指向し続けている意味で一定の評価ができよう。障害者本人と家族がこれらの施策内容を活用しながら安心して生活を続けられるために『相談支援』が必要となり、相談を受け支援を行う過程において施策内容のより良い改善を、個別性重視の活用可能性をフィードバックしながら、障害者自立支援法の目指す理念の具現化に『相談支援』が貢献しなければならないと考えている。
 『相談支援』は本人の日々の生活を成立させ継続させるために欠かせない地域資源であるが、この、地域で相談し続ける『相談支援』はようやく始まったばかりの新たなる独立した資源として、その理念、内容、方法が早急に確立されなければならない大きな課題がある。今までの相談は、各種サービスの一部機能として位置づけられてきていた。入・通所施設、居宅介護等サービスなどには、当然相談は必要な機能として存在し続け力を発揮してきた。相談が経済評価を受けることは極めて少なく、サービス経費に含まれる考え方によって、独立した相談の存在はむしろ不要なものと位置づけられ、極めて特殊専門的領域にのみ相談が自立的に存在してきたのである。この構造を変える必要がある。

 

2 地域相談支援の中心はケースマネジメント

 地域生活支援の相談支援は、欧米諸国において脱施設化政策の結果によって本格的に開発されてきた。その代表がケースマネジメントであろう。一時ソーシャルワークの方法論のケースワークがケースマネジメントに変わるほどに個別相談支援としてケースマネジメントは大きな立場を獲得したといえる。いまや欧米ではごくあたりまえの相談支援手法となっている。
 我が国は、欧米のように劇的な脱施設化政策はとられていない。しかし、障害者自立支援法は日本版脱施設化と理解してもあながち間違ってはいない。とすれば、ようやく地域を基盤とした障害者の生活支援が始まったことになる。ここにようやくケースマネジメントの必要条件がそろったということになろう。ゆえに地域生活支援における『相談』の方法・技術としてケースマネジメントを導入することが自然なことといえよう。
 我が国では急速な高齢化社会に向けて、地域生活支援の中心となる各種介護サービス提供の方法として高齢者ケアマネジメントが制度として平成12(2000)年度に導入されたが、障害者ケアマネジメントについての検討も決して遅くはなかった。1995 年6月「障害者にかかる介護サービス等の提供方法及び評価に関する検討会」が設けられた。身体・知的・精神の部会として「ケアガイドライン検討会」が設けられ、筆者は精神障害者ケアガイドライン検討会委員となって現在まで関わることとなった。平成12(2000)年10 月に三障害共通の「障害者ケアマネジメント体制整備検討委員会」が設けられ、平成13(2001)年3 月『障害者ケアマネジメントの普及に関する報告書』として取りまとめられ、平成14(2002)年3 月に『障害者ケアガイドライン』が公表された。現在もこのガイドラインによって障害者ケアマネジメント施策は進められている。
 障害者ケアマネジメントは2 つの要件として「実施可能とする地域の仕組みづくり」と「実施するケアマネジメント従事者の養成」を課題として取り組まれてきた。従事者の養成は平成10(1998)年から国及び都道府県において三障害別々に始められ、平成14(2002)年度から三障害合同の研修が始められた。障害者自立支援法においてケアマネジメントはサービス利用計画として制度化されたが、第一の要件である実施可能とする地域の仕組みは未だ整っていない。また、第二の要件であるケアマネジメント従事者と呼ばれていたケアマネジャーは、相談支援専門員と位置づけられたが、養成研修は未だに相談支援従事者となっていたり、都道府県ごとに研修内容に違いがあるなどなど、まだまだ整理された状態にない。
 平成20(2008)年度になって、国は相談支援体制の整備を重点課題の一つとして検討を始めている。基幹型相談支援センターなる構想が打ち出され、サービス利用計画対象者の拡大などケアマネジメントの体制整備に取り掛かり始めているが、第一の要件を満たすためには、全国どこに暮らしても地域生活支援のサービスが最低必要なだけ整備されなくては要件を満たしたとは言えない。しかし、もっと重要な要件整備は障害者ケアマネジメントを障害者自立支援法による介護給付等の利用に限定した制度内ケアマネジメントとしてではなく、インフォーマルケア、とりわけ本人の力を引き出し活用することを一義的に取り組むセルフケアを含み、また、医療サービスなど他方の多用なサービス利用をトータルにマネージすることにより、安心の生活支援を行う相談方法として障害者ケアマネジメントを位置づけなければ、第一の要件を満たしたことにはならない。そのためには、それぞれ独立し、権威をともない完結的に行われているサービス資源にもマネジメントが理解されなければならず、極めて困難な現実課題もある。
 一方、第二の要件である障害者ケアマネジャーである相談支援専門員の養成は、喫緊の課題であると同時に質の担保を如何になすべきかが大きな課題である。国の指導者養成研修では都道府県研修の均霑化を図り人材養成を図ろうと取り組み始めている。また、一方で現場において実践してきた障害者ケアマネジメント従事者が、日本相談支援専門員協会を特定非営利活動法人として組織化し、独自の質の向上を目的とした取り組みも始められた。北海道では、平成21(2009)年度から3 年間、相談支援体制整備事業として21 保健福祉圏域にアドバイザー(地域づくりコーディネーター)を配置し、市町村における地域相談支援体制整備の支援を始めた。この事業は大きなケアマネと呼ばれる地域生活支援システムと小さなケアマネと呼ばれる個別支援システムという二つの要件を市町村レベルで整備しようという取り組みである。当然地域体制としての整備には、自立支援協議会の活性化を含む支援となっている。

 

3 独立した総合的相談支援体制を

 『相談』は行政の制度相談や一般相談と呼ばれる窓口相談から専門機関・施設・病院などでの継続的専門的相談に至るまで多様な相談体制がすでにある。障害種別に法制度が長く続いてきたことから、障害の一元化・相談体制及びサービス提供の市町村一元化と言われても、現実的には旧来の相談体制によって専門分化され細分化されている現実も否定できず、そのために一元化の体制整備は今後も大きな課題となる。相談がワンストップで障害者にとっての利益優先の体制へと変化させることは早急に取り組む必要があろう。
 相談体制でもっとも遅れているのは、障害者の身近に信頼関係が築かれた相談支援体制が極めて少ないということである。その最大の原因は、相談支援が事業として経済的になり立たない現状にあるということである。これでは、体制も相談支援専門員というマネジャーも育つわけがない。まずは相談支援専門員が業務のできる体制整備こそ絶対条件として喫緊の課題である。
 具体的には官民協働で独立した相談支援体制を作り上げる必要がある。これからの相談支援は、今まで極めて少なかった訪問相談、継続相談支援、ケアマネジメントによる支援チーム形成とネットワーク体制などの相談支援体制である。行政の苦手とする訪問・継続相談を民が担えるためには、市町村と協働して一体的に総合相談支援センターを作るか、さまざまな工夫によって官・民、民・民協働の相談支援センターの構築が必要である。自立支援法改正には市町村への総合的な相談支援センターの設置や、関係者による自立支援協議会について明記され、個々の障害者に適したサービス利用計画(ケアマネジメント)に基づいて収決定する仕組み、障害者の施設や家族などからの地域移行や地域定着のための相談支援事業を新設するなど、法律においてもようやく相談支援が取り上げられてきている。

 

4 人権擁護を基本とした障害者ケアマネジメント

 私は長く精神保健分野において相談支援を基本とした地域生活支援を実践してきた一人として、障害者ケアマネジメントに取り組んできた。私は過去に精神障害者の地域生活支援を実現するためには多様な「ケア」をマネジメントすることが必要であり、そのためには精神障害者本人の主体性、自立性、選択性を含む自己決定が基本として保障されなければならないと主張した。しかし、社会の多くの精神障害者理解はステレオタイプに能力のない者とみなして、自己決定能力に障害を持つ者として、代理行為は必要なものの本人の主体性尊重など素人の発想と一蹴された過去が、今も専門職と世間に偏見の一部として存在していることを否めない。それゆえ、私の主張は受け入れられてこなかった。
 そもそもケアマネジメントは、利用者が生活している社会の最低生活文化水準を保障し、その生活が安定的に継続でき、生活の質が高められる支援の総体を、よりよく提供する方法として位置づけられる。また歴史的に誤解され続けてきた自己決定能力のない者という見方をされているなどから、ケアマネジメントの基本には権利擁護が含まれなくてはいけないのである。人権が配慮されないケアマネジメントは排除されなければならないと考えている。
 精神障害者に限らず、我が国における障害者の社会階層は明らかに社会的不利を受けやすい階層にある。この認識があれば、彼らに対するケアマネジメントはすべからく人権擁護を含む地域生活支援方法でなければならない。ケアマネジメントは当然生活モデルを基本とした支援の総体である。医学モデルは疾病・障害(程度)・症状・状態・病理・問題等の個人において起こっているネガティブで得意な現象を明確にし、それらを除去ないし改善・解決を図る諸過程である。しかし、人間は問題を抱えながら生きる存在であることから医学モデルだけでは対処できず、ここに生活モデルによる生活相談支援の必要性がある。障害者は障害という解決困難な問題を抱えて生きる人であることから、障害はその人全体の一部として捉え、障害はむしろその人の個性の一部として理解し、それらが生活のしづらさを招いているとするならば、そのしづらさを軽減するために補完する方法を活用して暮らしの成立条件を満たし、障害のない人と同様に生活できる権利が付与されているのである。その当然の権利が充足されていないことをアセスメントで認識し確認し、それを如何に障害のない人と同様に生活できる状態とするかということがケアマネジメントを行う必要性なのである。
 私は過去に、精神障害者のケアマネジメント展開の条件として、相談支援専門職の多くはややもすると、「あなたのことはマネジャーたる私に任せなさい、私が専門職として提案する生活支援内容を受け入れなさい」とパターナリスティクに相談援助を行っていたかもしれない。いや、今までは行政も、専門職も、ひょっとすると国民みんなが、精神病となれば将来は暗く、それまで進んできた人生も進路を変更しあきらめることも仕方がないとし、障害を持っていると自分の希望は押し殺してみんなが薦める施設生活や障害者役割を身につけた生き方に甘んじなければならなかった。
 『脱施設化』とは、地域生活とは違った、狭く決められたルールの中で世話される立場として生きることを強要され続ける。このような生き方を外から決められてしまう、本人不在の生活援助を『脱』することを意味している。今までつくられた施設を解体してその場から障害者を解放すること、本人の意向、希望に基づいた地域生活を支援する総体としてケアマネジメントが機能する必要がある。しかし、施設での関わり方、施設で使われてきた援助技術、生活ルールなどを地域の生活の場に持ち込み、本人不在の援助が続くとすれば、それは地域の施設化と呼ぶべきであり、地域でも脱施設化が必要となるかもしれない。施設化は本人の発達・成長とりわけ社会化を阻害し依存を強め、退行を余儀なくし、自我形成の未熟化を招くのであってインスティテューショナリズムを起こす環境条件からの解放が人権擁護でもある。
 そこで地域の相談支援として基本となるケアマネジメントは、脱施設化による本人中心の支援として、理念も技術も方法も構築されなければならない。
 ケアマネジメントには今までの施設化による援助を基本とした提供者中心、専門職主導、行政(処分)による財政枠組みによるフォーマルな援助限定などの立場と、本人中心(ニード)、専門職との協働(支援)、提供者・行政などのフォーマル資源利用と、本人のエンパワメントを活用し家族・他人などのインフォーマル資源の協力など、本人のニードが満たされないとすれば資源開発まで行う立場のケアマネジメントがある。しかし、ケアマネジメントには制度内サービス提供に陥りがちな傾向がある。介護保険のケアマネジメントは、サービス利用限度を介護保険によるサービス内で調達する方法として機能している。自立支援法においてケアマネジメントが制度化されたサービス利用計画は、対象者が限定されているとはいえ、極めて少数の人にしか利用されず、その内容は自立支援法障害程度区分決定後からのケアマネジメントとなっているなど、ケアマネジメントとは呼びがたい内容となっている。
 国は近い将来、サービス利用計画といった限定された機能・役割をケアマネジメントと誤解される制度から、地域生活支援の基本として、相談支援=ケアマネジメント対象者やケアマネジメント開始時期など大きく変更する計画にあるというが、変更されても、自立支援法の中で提供できるサービスだけを提供するとすれば、限定された制度内ケアマネとなり、障害者にとって必要な多様なサービス資源の利用とはならないことから、課題は大きいといえる。
 これからの相談支援は本人中心を基本とした、ケアマネジメントによる地域での安心・安全が生活の土台に位置づけられるべきで、ケアの本人への統合が不在になりがちな展開や、安心した地域生活継続の支援にならないケアマネジメントとなれば、その基本に人権擁護といった理念も視点もないこととなってしまう。
 私は精神障害者のケアガイドライン検討会において、人権擁護を基本とするために次の提案を強く推し進めることを願った。その内容は、ケアマネジメントプロセスに4 つの『説明と同意』(1.ケアマネジメントの説明と同意 2.ケアアセスメントの説明と同意 3.ケア計画とケア会議についての説明と同意 4.ケアサービス実施と今後の相談についての説明と同意)をかならず入れること、本人のニードアセスメントを質問紙による評価基準だけで判断しないことと『人権の配慮』として次の内容と人権のメモを提示した。

 『人権の配慮』では「すべての人は良質で有用な精神保健ケアを利用する権利を有しています。このような権利が損なわれるような差別、区別、排除などがあってはなりません。すべての精神障害者は人間固有の尊厳を充分に尊重して処遇されます。このような観点からケアガイドラインの施行においても、本人に対する充分な説明と同意なしにケアの対象としてはなりません。その説明は本人が理解できる言葉と方法で行います。
 本人は書面で同意を示しますが、その際自己決定の原則から本人の選択と自由が保障されなければなりません。この説明と同意はアセスメントの段階及びケア計画の作成と実施の段階で必要です。もし本人が一時的あるいは持続的に理解力、判断力を欠くような場合には、法的、社会的な権利擁護制度・機関などが早急に必要になります。説明と同意がなされ、複合的なニーズに対応する総合的なサービスを提供するためには、各種専門職によるチームアプローチが必要とされます。そのためには情報の共有化が前提条件となります。地域で生活していく障害者の生活を支援するためには、専門職のほか、民生委員、ボランティアなどなどの多様な人たちの支援を活用しなければなりません。その際、利用者と家族のプライバシー保護が重要な課題となります。支援過程で知り得た情報は、決して口外しないことを徹底する必要があります。』と。

 近い将来には、サービス利用計画をケアマネジメントとしている制度を、障害者ケアマネジメントとし、地域生活支援を行う相談支援の基本に位置づけてほしい。安心・安全な暮らしを支援する相談支援体制が全国どこでも存在する社会を願って本稿を終わりたい。

 

2.権利を擁護するための相談支援の体制とは

 

1 基本的人権の尊重と相談支援事業

 障害者自立支援法に基づいて行われる相談支援事業の役割は、法の目的から考える必要がある。法体系の頂点にあるのは憲法である。憲法の3原則は「国民主権」「平和主義」「基本的人権の尊重」であるが、その中で最も重視されているのが、基本的人権の尊重である。
 基本的人権は、次の3つに代表される。「自由権」「社会権」「参政権とその他の権利」。
社会権を実態化するために社会保障制度がある。社会保障制度のひとつが、障害者自立支援法である。障害者自立支援法は、社会権を通じて障害者の自由権を保障し、基本的人権の尊重を実現するための法律であるといえる。障害者自立支援法によって行われる相談支援事業の目的は、障害者の権利擁護であるが、擁護される権利とは、虐待防止や成年後見制度による財産管理・身上監護といった権利侵害への対応だけを指すのではなく、広く基本的人権であるといえる。

 

2 障害者相談支援が目指すもの

 障害者自立支援法の理念は、自立と共生である。
 現代においては、自立とは次のように定義される「福祉サービスは、利用者の自己決定による『自立』を『支援』するものでなければならない(中略)自己決定による自立とは、自らの意思に基づいて、本人らしい生き方を選択するものといえる」(『社会福祉法の解説』中央法規、2001 年)「自立」とは「自己決定」のことであり、「自立支援」とは「自己決定支援」のことである。自己決定権は、人権の中核をなす権利あるいは前提たる権利として、憲法12 条・13 条によって保障されているものである。認知・認識・理解・判断する力が十分でない人、あるいは言語的な表現力が十分でない人においても、そしてその意思表示が法的に有効なものと評価されないとしても、自己決定は存在する。
 十分でない程度が大きいほど支援の必要性が大きくなるだけのことである。相談支援事業の支援は、自己決定支援に基づくものでなくてはならない。
 さらに、障害者自立支援法(目的)第1条には次のように書かれている。「この法律は、障害者基本法の基本的理念にのっとり、(中略)障害者及び障害児がその有する能力及び適性に応じ、自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、必要な障害福祉サービスに係る給付その他の支援を行い、もって障害者及び障害児の福祉の増進を図るとともに、障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現に寄与することを目的とする」。
 「障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し」という表現は、障害者基本計画に同じ表現が使われており、「支え合う共生社会とする必要がある」にかかる文章となっている。障害者自立支援法にある「安心して暮らすことのできる地域社会」とは「共生社会」のこととなり、これらより、障害者自立支援法の理念は「自立」と「共生」となる。
 相談支援事業によって行われる支援も、自立支援(自己決定支援)に基づくものでなくてはならないし、共生社会の実現を目指すものでなければならない。
 さらに、第1 条の主語と述語の関係をみると、主語は「この法律は」であり、述語は「安心して暮らすことのできる地域社会の実現に寄与する」である。ここから、障害者自立支援法の目的は、「安心して暮らすことのできる地域社会の実現=共生社会の実現」であることが分かる。
 従って、障害者自立支援法によって目指される支援の仕組みとは、従来行われてきた障害者施策によってつくられてきた、障害者を障害種別に分けた上で、生涯を通じて同じ障害を持つ人だけを集めてサービスを提供する仕組みから、「自立と共生」を目指す仕組みに改めることと言える。従来の仕組みとは、例えば知的障害者を例に挙げると、乳幼児期には知的障害児通園施設で療育を行い、学齢期になると知的障害児特別支援学校で小学部、中学部、高等部と教育し、卒業すると知的障害者通所授産施設に通って働き、家族介護ができなくなると知的障害者入所施設で生涯生活する。これが、制度が予定している典型的な知的障害者の人生となっている。一度知的障害をもって生まれると、一生涯知的障害のある人としか生活できない仕組みであることがわかる。身体障害者も精神障害者も、基本的には同じ障害種別で集められ、一般の社会生活とは切り離された生活を送る仕組みが作られてきた。障害のない人は、乳幼児期には保育園・幼稚園に通い、学齢期になると地元の学校で学び、学校を卒業すると就職して社会で働き、住宅に住んで生活する。障害のある人と障害のない人の生活の場が、すっかり分かれてしまっている。これでは「共生社会」には向かわない。
 また、「自立支援」にもならない。自己決定とは、「すべての中から選ぶことができる」ことであるが、障害者専用に用意されたコースからしか選ぶことができなければ、制限付きの自己決定となってしまうからである。
 このような既存の仕組みを転換し、障害のない人が生活する一般の保育、教育、就労、居住の場で障害のある人が生活することができるように支援が提供される、「自立」と「共生」の仕組みへ転換することが求められる。ソーシャルインクルージョンを実現し、その中で、障害のある人が自己決定に基づいて生きることができるように支援することが、障害者自立支援法が目指す支援である。
 権利擁護に基づく相談支援とは、自立(自己決定)を支援し、共生社会の実現を目指すものであり、障害者の基本的人権を擁護するための事業である。障害者の支援を受ける権利を具体的に保障するための活動である。障害者が支援を受ける権利が十分に保障されているとは言えない日本の現状において、必要不可欠な活動と言える。したがって、障害者自立支援法が廃止になっても、事業の名称が変わることはあっても、相談支援事業は必要不可欠な活動である。

 

3 これからの障害者相談支援に求められる機能・役割

①いわゆる「一般相談」の重要性
 国は現在、相談支援体制の整備を重点課題の一つとして位置づけて検討を進めており、その一つとして、サービス利用計画作成対象者の拡大を想定している。
 しかしながら、相談の実際は、例えばサービス利用ひとつをとっても、本人の意欲や意向を引き出しながら長い時間をかけてはじめて利用につながるものである。現行制度のなかでは、それらはいわゆる「一般相談」に位置づけられる。「一般相談」のなかには、必要な情報提供やエンパワメントをはじめとする様々な支援があり、まさにその部分に、権利を実現するための相談支援の機能が発揮されているともいえる。
 さらに、例えば、就園・就学の悩み、パワーレスになってしまってどう生きていこうかわからない、職場で給料をはらってもらえない、施設を出てアパート暮らしを始めたが地域の人から受け入れてもらえない、犯罪の加害者と間違えられた等々、必ずしもサービス利用を伴わないがその人の生活を支えるうえでは重要な相談も多く、実は、そうした相談のなかにこそ、共生社会に向けた課題とチャンスが潜んでいるとも言える。相談支援を、障害者の支援を受ける権利を具体的に保障するための活動と位置づけるとき、サービス基盤整備とともに、その土台となる一般相談の部分をいかに強くしていけるかが、重要な鍵となる。こうした点は、制度としての相談支援事業のなかではいまだ明確に位置づけられていない機能であり、早急の検討が必須である。

②直接サービスを伴う新しい相談形態の可能性
 重い障害をもった人が地域で生活していくためには、本人と充分な関係性を持った人たちによるチーム支援が必要不可欠である。最近ではケアマネジメント機関が障害当事者を中心としたチームを組み、そのなかに相談員も入ってサービス提供までを行う手法も登場している。例えば精神障害の分野では、重い精神障害のある人たちが地域で安心して暮らせるよう、医師、作業療法士、看護師、精神保健福祉士らがチームを組んで支える精神保健福祉プログラム「ACT(アクト)」が、国内でも約10 カ所で開始されている。
 制度としての「相談支援」が位置づけられていなかったこれまでは、そうした組み立ては直接サービスを提供する事業者が担ってきていたといえるが、今後は、直接サービスを伴う相談の形態として、新たに位置づけていくことを検討していくことも重要であろう。
 さらに、権利侵害に対する「シェルター」としての相談支援事業を考えたときには、瞬間的・短期的であれ、相談支援事業所には何らかの直接的なサービス(かくまう・保護する、食事の提供、清潔の保持、移送等々)が求められる。そうした直接サービスの位置づけについても、事業の枠組みのなかで検討していく余地があろう。
 ただし、後述するように、相談支援とサービス提供とを一体的に実施することについては、ある種利益相反の関係にあり、そうした点を充分考慮していく必要がある。

③相談支援事業所がもつ、地域のリスクマネジメント機能
 以上みてきたような権利を擁護するための相談支援に求められる機能と実践、例えば24 時間365 日の対応、相談を必要している当事者に寄り添った支援、緊急的な生活場面での直接支援や保護的機能等は、見方を変えれば、障害のある当事者だけではなく、地域全体にとっての究極の「安心の拠点」をつくっていくことに他ならない。相談支援事業所は、障害者のための資源ではなく地域住民全体にとっての共通の社会資源である、という枠組みや認識を持つことが重要である。

 

4 権利擁護を基本にした相談支援事業の人材養成

 障害者相談支援事業の人材養成の仕組みには「相談支援従事者初任者研修」「相談支援従事者現任研修」「相談支援従事者指導者研修」などがある。また、社会福祉士や精神保健福祉士などの資格取得のための教育課程を受講する場合もあるであろう。
 これらの養成課程の中で、人権や権利擁護について、さらに重点を置いて教育を行う必要があるであろう。そのためには、「基本的人権とは何か」を出発点として、福祉だけでなく、教育、労働なども含めて体系的に教育を行うことが重要である。そして、相談支援を行う者の使命をしっかり教えることを、さらに重視することが必要である。
 また、相談員が相談者を尊重し、自己決定支援と権利擁護を基本として相談支援を行うためには、相談員自身が相談者と誠実に向き合い、信頼関係を築き、対等なパートナーとして支援を進めることが必要である。そのためには、相談員が自分自身の自己理解を深めることが基本となる。「価値観(人を見るときに働いている自分の判断基準を知ること)」、「人間観(どういう人に肯定的感情、否定的感情を抱くのか。自分にとって特別な人とはどのような人か)」、「対話的関係(「自己概念(しっかりとした自己概念を持ち、自分自身に対して正当に向き合っていること)」、「傾聴(良い聴き手として援助できること)」、「明確な表現(自分の考え、体験を明確にしていること。そして明確に伝えることができること)」、「感情の取扱(自分の感情を正当に、効果的に扱えること。
 適切に把握、コントロールできること)」、「自己開示(自分を相手に正直に開示できること。防衛的にならずに人とつき合えること)」、「責任性(関係に対して誠実であり、コミットしていること。人との間で深い意味のある結びつきを創り上げられること)」について自己点検を行い、自己理解と自己受容を深めることが必要である。

 

5 相談支援の対象圏域の考え方

 権利を擁護するための相談支援体制として、24 時間365 日の相談体制やスーパービジョンが受けられる体制が望まれることが本研究でも指摘された。しかし、本研究のアンケート調査の結果では、相談支援事業所の職員体制は1箇所あたり平均3.4 人、2 人以下が49%という結果であった(内1.7 人が非常勤職員、2.2 人が兼務職員)。
 夜間の相談を宿直勤務で受けるとしても、最低でも7 人の相談員が必要となり、スーパービジョンの体制を整えるためには、スーパーバイザーたり得る経験と技量を有した役職者が必要であり、相談支援事業の職員体制の改善がなければ不可能な状況である。
 介護保険制度による地域包括支援センターが、日常生活圏域(中学校区・人口1 万人~1 万5 千人)に1カ所(常勤3 人)を整備していることと比べると、障害者の相談支援事業は、国の障害者プランでは人口30 万人程度の障害保健福祉圏域を対象として整備することが目標とされてきたし、本研究事業の調査結果でも、障害者相談支援事業の対象人口は、最小2 千人から最大360 万人、平均24 万2 千人という結果であったことから、広域の相談支援に対応していることが分かる。
 障害者が、乳幼児期、学齢期、成人期、高令期を通じて、地域社会の中で一般の保育、教育、就労、居住の場で生活することを支援することを考えると、障害者相談支援事業の対象となる圏域人口も、地域包括支援センターと同様、中学校区程度とすることが望まれる。この範囲を想定しながら、障害児・者の生活支援を考えていくことができれば、必然的に「障害児・者専門」の場で生活するという発想から、一般の地域社会の中で生活するための支援という視点に移行するものと思われる。
 相談支援事業の対象圏域を仮に中学校区とした場合、生活支援としての相談支援体制を構築するために、地域包括支援センターと一体で事業にあたることも検討されるべきであろう。ただし、地域包括支援センターは、要支援の認定を受けた人たちの介護予防プランの作成に追われている実態があり、地域包括支援センターの業務と介護予防プラン作成の業務を分割し、地域包括支援センターが真に地域包括ケアを構築するために実働できる体制を整えることも課題である。

 

6 相談支援事業の財源的課題

 障害者相談支援体制の脆弱さは、障害者相談支援事業の財源に由来する。地域包括支援センターの財源が、介護保険財源による地域支援事業にあるのに対して、障害者相談支援事業は平成14(2002)年度までは国庫補助事業であったものが、平成15(2003)年度から段階的に市町村の一般財源化となり、障害者自立支援法下では、市町村の一般財源にすべて移行し、わずかに地域生活支援事業による「相談支援機能強化事業」が「統合的補助金」のメニューに加わる程度に留まっている。
 障害者自立支援法では、自治体間のサービス格差の是正を目指すことが方針の一つとして掲げられていた。しかし、相談支援事業に対する委託費の自治体間格差は拡大し、国庫補助事業で行っていた当時と比較した場合の委託費は多くが減額され、相談支援体制の弱体化が起きている。
 アンケート調査の「相談支援事業の今後の課題(自由記載)」として第一位を占めたのは、予算確保の困難さであった(当該設問の回答の2 割)。いわゆる一般相談部分が充分に行われない地域では、サービス利用はもとより、障害のある人の社会生活への参画そのものが進まないことが大いに懸念され、一般相談の強化を保障する財源のあり方検討が急がれる。
 さらに、事業としての相談支援には、「相談の質の向上」も担保されるべきであり、そのための研鑽の機会・費用等の裏付けも必要となる。
 相談支援事業が、障害者自立支援法の要であるならば、地方交付税方式による市町村の一般財源に依存した財源措置を国庫負担に戻すよう見直し、基本的な相談支援体制は国が財源措置を行い、さらに充実した体制は市町村が上乗せして行う方法に転換するべきである。

 

7 成年後見制度の利用と相談支援事業

 判断能力が十分でない人が、成年後見制度を利用することが必要になる場合がある。後見人等が本人の希望する生活を実現するために後見活動を行うためには、相談支援事業との連携が不可欠である。また、相談支援事業としても、後見人等と連携して、本人の生活支援を行うことが不可欠な要素となる。
 判断能力が十分でない人の生活を支援するためには、相談支援事業だけでなく、第3者後見人や法人後見、後見監督人や法人後見監督人の受任などの成年後見制度の利用援助や第3者後見人の養成などを行う成年後見に関する身近な後見センター的機能の拠点整備が必要であり、それとの連携が求められる。
 また、差別や虐待、消費者被害などの権利侵害対応や、障害者が支援を受ける権利を具体的権利とするための支援などをトータルに行う権利擁護支援体制を、相談支援事業や後見支援センター的拠点、司法関係者、行政機関、地域包括支援センター、サービス提供事業者、民生・児童委員、地域住民などが連携して整えることが必要であろう。
 障害者においては、社会生活を営むうえで何らかの支援を受けることが必要不可欠である。そのような支援の必要不可欠性が障害者であることの所以である。そして、障害者が人権を確保し、障害者の人権を擁護するためには、その前提として、支援を受ける権利が、人権の中核的な要素として保障されていることが不可欠なのである。

 

参考文献
・「社会福祉法の解説」(社会福祉法令研究会・編集/中央法規)
・「社会福祉学習双書2009 障害者福祉論」(「社会福祉学習双書編集委員会・編/全社協)
・「[独習]実践カウンセリングワークブック」(福山清蔵・著/日本精神技術研究所)
・「地域における『権利擁護支援センター(仮称)』の設置及び権利擁護支援センターマニュアルに関する調査研究事業報告書」(特定非営利活動法人PASネット)

 

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