第1 章 研究の背景と目的

1 研究の背景

 わが国におけるケアマネジメントは、介護保険の導入とともに広く知られるところとなった。この手法 の起点は、昭和62 年の「高齢者サービス総合調整推進会議及び高齢者サービス調整チーム設置運営要綱」 1)における「サービス調整チーム」にあると考えることができる。その業務内容は、保健婦、精神保健相談 員、ホームヘルパー等が、複合したニーズを有する処遇困難ケース等について具体的な処遇方針を策定し、関係するサービス提供機関へサービス提供の要請等を行うこととされており、高齢者を地域単位で支援する手法が用いている。

 この手法は、その後も「サービス調整会議」2)「サービス担当者会議」3)、「サービス調整連絡会議」4)、 「地域ケア会議」5)、「連絡調整会議」6)、「サービス担当者会議」7-9)など、様々な呼称を用いながら、地域 の高齢者や障害者を支援する手法として引き継がれてきた。省令や通達等によって、呼称、規模、参加者 等は異なるが、その共通点は、地域の保健、医療、福祉の専門職が「会議体」を組織して支援を行う点に ある。

 障害者自立支援法においては、「個々の障害者の課題解決やサービスの利用調整のために本人、家族、相談支援事業者及びサービス事業者等の関係者が集まって協議する場」10)として「個別支援会議」が位置づけられ、個々の相談支援事業所等が抱える困難事例を協議するとともに、普遍的な課題を地域自立支援協議会につなげることにより、地域福祉計画等に反映する仕組みをとっている。

 しかし、この重層的な構造の中で、「個別支援会議」は相談支援事業所と地域自立支援協議会をつなぐ機能をもつことになるが、現状は、会議体の「意義」や「理念」は理解するものの、それを運営するために必要な知識や技術は萌芽段階にある。

 例えば、施設や病院等に入所・入院している者、あるいは現に地域生活を継続する障害者の夢を実現し、障害を有する者のQOLの向上に寄与することを目的に、「個別支援会議」を用いた支援を提供する地域が増えているが、個別支援会議の内容や運営方法をみると、「顔合わせ会」や「結論の出ない会議」、あるいは会議体を継続することに労を費やす「形骸化した会議」が散見される。また「ケアプラン」においては、目先の問題にのみ焦点をあてた「問題解消型プラン」や、サービスにつなげることを優先する「連結優先型プラン」などが散見される。これらは、ケアマネジメントの本質である「本人の技能の向上」、「社会的ネットワークや対人サービスの力量拡充」、「サービス効率の向上」11)からかけ離れた支援といわざるをえない。

 個別支援会議の「意義」や「理念」がある程度浸透した現状においては、次のステップである「より良い個別支援会議のあり方」を検討する段階にあるといえる。言い換えれば、「政策」としての個別支援会議の位置づけから、「支援技術」としての個別支援会議のあり方を検討する段階を意味する。しかし、わが国の保健医療福祉の専門職教育の中では、個別支援会議の運営に関する知識や技術等を学ばないまま実務についているのが現状12)である。

 このような状況において、個別支援会議の基本的・共通的事柄である「運営指標」を検討することは、多機関・多職種が参画する「個別支援会議のあり方」を実務的に検討するうえで意義がある。

 

2.研究の目的

 本調査は、①個別支援会議のあり方を総合的に評価する尺度を開発し、個別支援会議の運営指標を明らかにすること、および②開発した評価尺度により各地域の個別支援会議の実情を把握し、その課題を明らかにすることを目的としたものである。

 なお本研究では、個別支援会議を「複数のニーズを持つ事例の課題解決について、多職種が協働して支 援の目標や計画を議論する過程であり、ケアマネジメントの展開点として機能する場」と定義13)し、その構成要素として「構造」「内容」「結果」「技術」を想定した。「構造」とは個別支援会議を時間的・物理的・空間的に規定する要素をさし、個別支援会議の中で議論される具体的な「内容」、およびその成果物としての「結果」、結果を導き個別支援会議の運営に寄与する「技術」をさす。

 

 【第1 章の注】

1) 厚生省健康政策局長・保険医療局長・社会局長通達「高齢者サービス総合調整推進会議等の設置及び運営について」 健医発第732 号、健政発第329 号、社老第79 号、昭和62 年6 月18 日
2) 厚生省児童家庭局障害福祉課長通知「障害児(者)地域療育等支援事業の取り扱いについて」平成8 年5 月10 日、児童第25 号
3) 「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準」平成11 年3 月31 日、厚生省令第38 号
4) 厚生省老人保健福祉局長通知「介護サービス調整事業の実施について」平成11 年12 月9 日、老発第766-2 号
5) 厚生省老人保健福祉局長通知「在宅介護支援センター運営事業等の実施について」平成12 年9 月27 日、老発第654号
6) 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長通知「平成14 年度障害者ケアマネジメント体制整備推進事業の実施について」平成14 年4 月18 日、障発第418002 号
7)  「指定介護予防支援等の事業の人員及び運営並びに指定介護予防支援等に係る介護予防のための効果的な支援の方法に関する基準」平成18 年3 月14 日、厚生労働省令第37 号
8) 「障害者自立支援法に基づく指定相談支援事業の人員及び運営に関する基準」平成18 年9 月29 日、厚生労働省令第173 号
9) 「障害者自立支援法に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準」、平成18 年9 月 29 日、厚生省令第171 号
10) 自立支援協議会の運営マニュアルの作成・普及事業企画編集委員会「自立支援協議会の運営マニュアル」、P.24、 財団法人日本リハビリテーション協会、2008 年3 月 11) 野中猛・加瀬裕子監訳「ケースマネジメント入門」P.12、中央法規出版、1999 年
12) 野中猛「図説ケアチーム」P.75、中央法規出版、2007 年
13) 上原久・野中猛「ケアカンファレンスを構成する因子構造の探索」社会福祉論集第115 号、P.129-136、2006 年

 

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