第2 章 研究の方法

第1節 アンケート調査用紙の作成

1 質問項目の選定

 質問の設定については、上原1-3)らの先行研究を参考にした。上原らは個別支援会議の構成要素として、「構造」「過程」「効果」「技術」を想定し、「過程」「効果」「技術」についてそれぞれ独立した研究を行っている。しかしケア会議は、それぞれの構成要素が相互に影響しあうものであることから、これらを一体化した尺度にする必要がある。そこで、上原らの研究である「過程(26 項目)」、「効果(23 項目)」、「技術(11 項目)」の各質問項目を吟味し、意味内容が重複する項目を修正および削除して最終的に50 項目を選定した。また、「構造」に関する質問項目については、関連文献4-9)を参考に14 項目を選定し計64 項目の質問項目を設定した。

 

2 質問項目の枠組み

 質問項目群の項目内容を吟味したところ、「過程」は「内容」に、「効果」は「結果」に対応していると考えられた。よって、個別支援会議の構成要素を「構造」「内容」「結果」「技術」の4 要素に整理した。「構造」とは個別支援会議を時間的・物理的・空間的に規定する要素をさし、「内容」とは個別支援会議の中で議論される具体的な内容をさす。また、「結果」とは個別支援会議の成果物であり、結果を導く「技術」を必要とする、と想定した。

1)「構造(14 項目)」
 個別支援会議の「構造」を問う設問については、参加する職種、開催時間、会議における役割、部屋の環境等について「構造」を問う質問を設定した。具体的には、開催タイミング、召集案内方法、構成員として必要な職種、進行方法や役割、会議の目的、開催時間、照明や温度、部屋の広さや机の配置、備品や資料等で構成した。

2)「内容(17 項目)」
 個別支援会議の「内容」を問う設問は、会議の中で具体的に評価・検討されるであろう内容を設定した。事例提出者の意図、利用者の生活歴、過去の支援経過に関する目標達成度や評価、利用者や家族の関係、社会資源の関係、問題発生の経緯、利用者の能力や希望等で構成した。

3)「結果(26 項目)」
 個別支援会議の「結果」は、会議による成果物であるため、いわゆるケアプランの内容に相当する。具体的には、解決すべき生活課題、不足情報、個々の支援目標のつながりや順序、不足する社会資源等を明確にする項目。
あるいは、支援計画について、利用者の希望や能力の反映、危機管理計画、支援計画の実施担当者、価値観の共有、支援目標に応じた計画を確認する項目等で構成した。

4)「技術(7 項目)」
 「技術」に関する項目については、個別支援会議の「内容」を吟味し、「結果」を導くために必要な技術を想定した。具体的には、意見の対立を恐れない、意見を押し付けない、上下関係や力関係を気にしない、葛藤状態の回避、具体的な質問等で構成した。

 

3 外在変数の設定

 個別支援会議の開催目的は、具体的で実行可能な支援計画を策定することにある。また、実務的な目的としては、支援者が直面する課題や問題について支援の見通しを立てることにある10)。そこで、個別支援会議のアウトプットとして、①「実行可能で具体的な支援計画を策定できた」、②「支援者が直面する課題や問題に関する見通しを立てることができた」の2 つの外在変数を設定した。

 

4 質問項目の決定

 最終的に、表2-2-1 に示すとおり、「構造(14 項目)」「内容(17 項目)」「結果(26 項目)」「技術(7 項目)」に関する計64 項目、およびアウトプットに関する項目(①実行可能で具体的な支援計画を策定できた、②支援者が直面する課題や問題に関する見通しを立てることができた)を2 項目設定し、合計66項目を「個別支援会議評価項目」とした。なお、回答については、「不十分だった」から「十分だった」の5 件法とした。

 

 図 2-2-1 個別支援会議の概念図

構造

内容

結果

技術

   
「実行可能で具体的な支援計画を策定できた」

「支援者が直面する課題や問題に関する見通しを立てることができた」
   

  上記66 項目以外に回答者の基本属性に関する設問として、性別、年齢、所属機関、所属機関の利用者像、勤続年数、所持する国家資格、介護支援専門員または相談支援専門員資格、日常的に行われるケア会議に関する質問項目を8 項目を設定し、合計74 項目からなるアンケート調査用紙11)を作成した。

 

  表2-2-1 「構造」「過程」「結果」「技術」の項目群

項目群 No. 質問内容
構造
(14 項目)
1 ケア会議の開催案内は適切な方法で周知された
2 ケア会議の開催タイミングは、事例にとって適切だった
3 ケア会議の開催タイミングは、支援者にとって適切だった
4 ケア会議の議論に必要な職種を集めることができた
5 ケア会議の進行に必要な役割(司会・書記等)を決めることができた
6 ケア会議の進行方法を確認した上で議論に入ることができた
7 ケア会議の目的を明確にした上で議論に入ることができた
8 ケア会議の終了時間が事前に決められていた
9 ケア会議を行う部屋の室温や照明等の環境は適切だった
10 ケア会議を行う部屋の広さや机の配置は適切だった
11 ホワイトボードや備品などがうまく活用されていた
12 事例に関する資料等がうまく活用されていた
13 議論のために必要で充分な時間を費やすことができた
14 所属する組織の上司や同僚はケア会議の参加に協力的だった
内容
(17 項目)
1 事例提出者の提出意図が明確だった
2 利用者の生活歴を把握できた
3 今までの支援の経過を把握できた
4 今までの支援による目標達成度が明確になった
5 今までの支援に対する利用者の評価を確認できた
6 今までの支援に対する家族の評価を確認できた
7 今までの支援による生活変化が明確になった
8 今までの支援の妥当性について評価できた
9 利用者と家族との関係が理解できた
10 利用者と社会資源との関係が理解できた
11 生活課題や問題の生じた経緯が明確になった
12 利用者の能力を把握できた
13 利用者の希望を理解できた
14 利用者の現在の生活状況を把握できた
15 利用者の生活課題が明確になった
16 他の専門職の視点を理解できた
17 他機関の立場を理解できた
結果
(26 項目)
1 早急に解決すべき生活課題が明確になった
2 支援を検討する上で不足している情報が明確になった
3 生活課題に対応した支援目標が明確になった
4 支援目標相互のつながりが明確になった
5 チーム全体で支援目標を共有できた
6 提供する支援の順序が明確になった
7 必要な支援の量が明確になった
8 支援計画に利用者の希望が反映された
9 支援計画に利用者の役割が位置づけられた
10 支援計画に利用者の能力が活用された
11 支援計画の実施に伴う危機管理(リスクマネジメント)を行った
12 支援計画を実施する担当者が決まった
13 支援者間で連絡すべき事柄やタイミングを具体化できた
14 支援計画実行後の利用者の生活変化を予測できた
15 支援に必要な新たなサービスを開拓できた
16 チーム全員で支援計画を策定した
17 支援目標に対応した支援計画になった
18 他の事例にも応用可能な支援の共通原則を確認できた
19 支援に必要な価値観を共有できた
20 この地域に不足する社会資源が明確になった
21 事例を多面的に理解できた
22 他の事例にも役立つ知識を得ることができた
23 他の支援でも連携できる仲間を得ることができた
24 納得のいく結論を導くことができた
25 支援に必要なネットワークが形成された
26 次回のケア会議日程を決めることができた
技術
(7 項目)
1 意見の対立を恐れずに発言できた
2 意見を押し付けることなく発言できた
3 参加者の上下関係や力関係を気にせずに発言できた
4 事実と意見を明確に分けて発言できた
5 議論が行き詰った時に、あるべき方向を示すことができた
6 緊張した場面では、それを和らげる発言ができた
7 不明確な情報について具体的に尋ねることができた
合計64 項目    
     
外在変数
(2 項目)
1 行可能で具体的な支援計画を策定できた
2 支援者が直面する課題や問題について見通しを立てることができた

 

第2節 アンケート調査の実施

 アンケート調査は次の2 つの対象群に行った。
1 つは、理想的な「個別支援会議モデル」の抽出を目的に、都道府県または職能団体が行うケアマネジメント研修のうち、個別支援会議を想定した事例検討型研修の参加者を対象(以下、研修調査という)とした。もう1 つは、福祉現場で行われている「個別支援会議の実情」を把握することを目的に、全国各地域で行われている実際の個別支援会議の参加者を対象(以下、実務調査という)とした。

 

アンケート調査 研修調査 → 理想的な「個別支援会議モデル」の抽出

実務調査 → 地域で行われる「個別支援会議の実情」の把握

 

1 研修調査
 研修調査は、都道府県または職能団体が主催するケアマネジメント研修のうち、当委員会が開催情報を把握した団体とし、研究の趣旨に賛同しアンケート調査の許可が得られた団体を対象とした。研修参加者には、アンケート調査の趣旨を説明し、協力の同意を得られた者に直筆回答を求めた。倫理的配慮として、本調査は強制ではないこと、回答中にいつでも中断できること、回答結果は統計的に処理するため個人を特定できないこと等を説明し、直筆回答書の提出をもって同意が得られたものと判断した。調査期間は、平成20 年8 月1 日から11 月30 日までとした。

2 実務調査
 実務調査は、都道府県担当課に本調査の趣旨を書面12 により説明し、次の基準を満たす自立支援協議会の紹介を求めた。紹介を受けた地域自立支援協議会については、書面13)により本調査の趣旨を説明するとともに、1 協議会あたり1-2 名、実務調査を担当する「協力員」の推薦を依頼した。都道府県への依頼は、平成20 年7 月1日より7 月18 日、自立支援協議会への依頼は平成20 年8 月1 日より8 月30 日に行った。

 

自立支援協議会の推薦基準(次のいずれかに該当すること)
①すでに地域自立支援協議会が設置され、個別支援会議が定期的または随時行われていること。
②地域自立支援協議会の設置に向けて準備中であり、個別支援会議の開催等について積極的な活動を予定していること。

 

 「協力員」の実務調査に先立ち、全国4 箇所で協力員説明会を開催した。本研究の趣旨説明、調査の方法、アンケート調査実施時の説明の仕方、アンケート用紙の取り扱い方等について、「協力員業務マニュアル」14)を基に解説した。説明会に参加していない協力員については、「協力員業務マニュアル」を熟読し、本調査に関する理解を深めた。協力員が疑問に感じた点については、随時E-mail で質問に応じた。

 

 実務調査の対象である個別支援会議については、次の定義にあてはまるものを対象とし、協力員が配置された地域において個別支援会議が開催されるたびにアンケート調査を行った。実務調査の期間は、平成20 年9 月から平成20 年12 月とした。

個別支援会議の定義:
本研究では、個別支援会議を「複数のニーズを持つ事例について、支援を協働する関係者が、支援に関する協議を行う場」と定義した。

3 聞き取り調査
 研修調査および実務調査の課題整理を目的に、協力員等による聞き取り調査またはグループワークを計画していた。しかし、自立支援協議会より予想以上の「協力員」の推薦(計画当初は20-30 名前後と見込んだが、実際には60 名を超える協力15)があった)を受けることができたため、聞き取り調査等は行わず、「地域で行われる個別支援会議の実情把握」を優先した。

 

4 比較考察
 研修調査および実務調査の結果を比較検討することにより、個別支援会議の実務上の課題を明らかにする。

 

以上の枠組みにおいて、研修調査および実務調査を行った。

 

【第2 章の注】

1) 上原久・野中猛「ケアカンファレンスを構成する因子構造の探索」社会福祉論集第115 号、P.129-136、2006 年
2) 上原久・野中猛「ケアカンファレンスの効果」社会福祉論集第116 号、2007 年
3) 上原久・野中猛「ケアマネジメントにおけるケアカンファレンス技術に関する考察」精神障害者リハビリテーション学会名古屋大会、2007 年11 月
4) 伊藤淑子 ケアカンファレンス実践ハンドブック 看護の科学 1999 年
5) 新津ふみ子 ケアコーディネーション 医学書院 1997 年
6) 吉田新一郎 会議の技法 中公新書 2004 年
7) 高橋誠 会議の進め方 日経文庫 2001 年
8) 中猛「精神保健福祉現場におけるケースカンファランスの技術」精神科治療学18(4)P.415-419. 2003
9) 古屋龍太『ケア会議の開き方』「ケアガイドラインに基づく精神障害者 ケアマネジメントの進め方」精神障害者社会復帰促進センター P.116、2003
10) 上原久「ケア会議の運営指標」月刊ケアマネジャー、P.24-27、中央法規出版、2008 年10 月号
11) 巻末資料-5「アンケート調査表」参照
12) 巻末資料1「都道府県担当課長宛文書」参照
13) 巻末資料2「地域自立支援協議会長宛文書」参照
14) 巻末資料3「協力員業務マニュアル」参照
15) 巻末資料4「地域自立支援協議会および協力員一覧」参照
menu