第4 章 考察

第 1 節 実務調査における個別支援会議の標準的なサイズ

 実務調査は、①すでに地域自立支援協議会が設置され、個別支援会議が定期的または随時行われていること、②地域自立支援協議会の設置に向けて準備中であり、個別支援会議の開催等について積極的な活動を予定していることを条件とする地域でアンケート調査を行った。よって、個別支援会議の実施について何らかの運営枠組みが整備され、また個別支援会議の開催に積極的に取り組んでいる(あるいは取り組もうとしている)地域を対象にしたことになる。

 これらの地域における個別支援会議の開催状況をみとる、約半数の地域が1ヶ月に1 回以上の個別支援会議を開催しており、個別支援会議に対する参加者満足度も比較的良好(「満足」群が62.7%)であった。また、個別支援会議の開催時間は平均で約1 時間30 分、構成人数は5 人~8 人であり、この規模の個別支援会議が「標準的なサイズ」といえそうである。

 個別支援会議の構成メンバーをみると、平均年齢は41.7 歳(SD:10.9 歳)。所属は、福祉関係者(55.7%)および行政関係者(21.4%)で約80%を占めていた。参加者の国家資格所有状況は、社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士で45%、「資格なし」が約40%。「資格なし」の中には行政関係者や教育関係者も含まれていた。参加者の資格状況から推し測ると、個別支援会議には保健医療関係者の参加が少ない傾向がうかがえた。

 

第2 節 個別支援会議の概念と実務上の課題

 個別支援会議の概念枠組みとして、研修モデルと実務モデルの間に次のような特徴が認められた。概念の相違を比較検討するために、表3-3-3 を再掲する。

表 3-3-3(再掲) 「研修モデル」と「実務モデル」の因子名の比較
  研修モデル(9 因子) 実務モデル(8 因子)
項目群 因子名 因子名
構造 Ⅳ.ケア会議場面の環境
Ⅴ.ケア会議の召集タイミングと人選
Ⅷ.ケア会議の進行枠組み
Ⅷ.ケア会議場面の環境
Ⅶ.ケア会議の召集タイミング
Ⅵ.ケア会議の進行枠組み
内容 Ⅲ.生活の多面的理解
Ⅸ .他機関・他職種の相互理解
* Ⅲ.支援の評価と生活変化
* Ⅴ.相互理解によるネットワーク形成
* Ⅳ.生活状況の把握と課題の明確化
結果 Ⅱ.支援計画の具体化と共有
Ⅵ.当事者の参画
Ⅶ.連携の具体化
* Ⅰ.支援に必要な情報の共有と連携の具体化
技術 Ⅰ.相互作用の促進 Ⅱ.相互作用の促進

 「構造」項目群では、研修モデルと実務モデルに共通する因子として、「ケア会議場面の環境」、「ケア会議の召集タイミング」、「ケア会議の進行枠組み」、の因子が抽出された。相違点として、「人選」に関する項目が実務モデルに含まれていなかった。

 地域によって異なるとは思うが、地域自立支援協議会等の要綱や仕様書等によって個別支援会議の構成員が既に決められている場合があるかもしれない。その場合は、あえて参加者を「人選する」必要がないのかもしれない。「回答者の属性」の結果では、実務調査には保健医療関係者の参加が少なく、福祉関係者と行政関係者で大半が占められていた。これらの結果から、多機関多職種ではなく、多機関単一職種による個別支援会議が行われていることが考えられる。

 「自立支援協議会の運営マニュアル」1)によれば、個別支援会議の人選は「必要な関係者が過不足なく参画することが第一歩」であり、「行政やサービス事業者だけでなく、民生委員や近隣住民の方等も考えられます」とされている。また、新津(1997)は「しっかりと役割を担える人の集まりであることが条件である」2)とし。伊藤(1999)は「ケア会議が有効なものになるか否かは参加者の力量によって規定される」3)としている。さらに野中(2007)は「事例の見立てと手だてに必要な人を集めることが成否を決める」4)と指摘する。

 これらの指摘を踏まえると、「必要な関係者」の範疇をどの範囲に置くかという点が課題になる。現在進行中のサービス提供にかかる「関係者」ばかりでなく、これから利用が予想される事業所、あるいは利用者の残存機能を評価するための専門家、さらには、利用者の生活を日常的に観察できる隣保の人々の参加を求めることも意義がある。ただし、いわゆる専門職であれば守秘義務規定があるが、そうでない者が参加する場合は、利用者の同意はもちろん、参加して知りえた情報の取り扱いについて充分な説明をすることはいうまでもない。

 内容項目群の比較では、研修モデルにおいて「生活の多面的理解」および「他機関・他職種の理解」が、実務モデルにおいて「支援の評価と生活変化」「相互理解によるネットワーク形成」「生活状況の把握と課題の明確化」の因子が抽出された。

 実務モデルにおいては、「生活状況の把握と課題の明確化」や「支援の評価と生活変化」に関する因子が含まれており、具体的・実践的な内容にウェイトが置かれた因子構造になっていた。しかし一方で、研修モデルに示されたような、事例の生活を幅広く捉えて検討する「生活の多面的理解」に関する因子が含まれていなかった。これは、実務モデルにおいて、直面する課題の解決や支援の進捗状況の評価に傾注する傾向が強と考えられる。

 西尾(1998)は①問題とそれを取り巻く状況および経緯、②クライアントの概要を理解するための情報、③問題の背景やメカニズムを理解するための情報、④援助方法を検討しそれを評価するための情報など、「多面かつ総合的な視点による情報収集」5)の必要性を指摘する。また、岩間(2005)は、アセスメントやモニタリングでは「事例を再構築すること」6)が必要であり、そのためには生活場面の幅広い情報を要すると指摘する。さらにジャーメインは「処遇の有効性という従来の関心を捨て、当事者のニーズ、関心、期待は何かという方向へ問題意識を転換させなければならない」7)と強調する。

 よって、提供する支援の評価や生活課題に明確化という視点ばかりでなく、支援以外の生活上の変化にも視点を広げた「生活の多面的理解」にも意識を広げる必要性があると考える。

 結果項目群の比較では、研修モデルにおいて「支援計画の具体化と共有」「当事者の参画」「連携の具体化」が、実務モデルにおいて「支援に必要な情報の共有と連携の具体化」が示された。実務モデルの因子は支援者側に必要な要素であって、「本人のニーズや思いに沿った支援になっていること」8)を確認する内容とは異なるものである。

 一方の研修モデルでは、「当事者の参画」に関する因子が含まれていた。この因子を構成する質問項目を確認すると、「支援計画に利用者の希望が反映された」「支援計画に利用者の役割が位置づけられた」「支援計画に利用者の能力が活用された」等の項目で構成されていることがわかった。「本人」を主語とした支援計画を志向するのであれば、本人の「希望」や「能力」が支援計画に反映されてしかるべきである。よって実務モデルでは、「当事者の参画」に意識を向けた支援計画の策定が課題になる。

 技術項目群では、研修モデル、実務モデルともに共通する因子が抽出された。この因子を構成する質問項目は、ファシリテーション技術として理解することが可能である。

 ファシリテーションとは、「集団による知的相互作用を促進する働き」9)であり、集団による問題解決、アイディア創造、合意形成、知識創造活動を促進する上で必要な技術とされ様々なタイプがある。個別支援会議は、問題解決を目指した「問題解決型」や、多様なメンバーの意見を引き出し異なる意見を統合してコンセンサスを作り上げる「合意形成型」のファシリテーション10)である。
 研修モデルおよび実務モデルにおいて、共通した「技術」が用いられているにもかかわらず、内容項目群や結果項目群が異なるのはいかなる理由によるのだろうか。この点については更なる検討が必要である。

 

第3節 個別支援会議の指標

 第3 章第5 節で示した外在変数、すなわち「実行可能で具体的な支援計画の策定」および「支援者が直面する課題や問題に関する見通しを立てること」に影響を与える各変数を検討したところ、ほとんどの項目が研修モデルに含まれている項目であることがわかった。よって、個別支援会議の概念モデルとして、研修モデルを構成する項目を用いて「個別支援会議の指標」を提示する。

 ここで示す内容は、1 回の個別支援会議で把握される情報ばかりではなく、個別支援会議を重ねることによってはじめて把握される情報もある。仮に複数回の個別支援会議を重ねたとしても、我々の「生活」は常に変化するものであるから、その時々の生活場面を正に「多面的」に把握する意識や技術は欠くことのできない要素といえるだろう。その際、以下に示す指標は、視野に入れるべき事柄について示唆を与えるものと考える。

表 4-1 個別支援会議の運営指標





44-ケア会議の開催案内は適切な方法で周知された
45-ケア会議の開催タイミングは、事例にとって適切だった
46-ケア会議の開催タイミングは、支援者にとって適切だった
48-ケア会議の進行に必要な役割(司会・書記等)を決めることができた
49-ケア会議の進行方法を確認した上で議論に入ることができた
50-ケア会議の目的を明確にした上で議論に入ることができた
52-ケア会議を行う部屋の室温や照明等の環境は適切だった
53-ケア会議を行う部屋の広さや机の配置は適切だった
47-ケア会議の議論に必要な職種を集めることができた
51-ケア会議の終了時間が事前に決められていた
54-ホワイトボードや備品などがうまく活用されていた
55-事例に関する資料等がうまく活用されていた
 




02-利用者の生活歴を把握できた
03-今までの支援の経過を把握できた
04-今までの支援による目標達成度が明確になった
08-今までの支援の妥当性について評価できた
14-利用者の現在の生活状況を把握できた
42-他の専門職の視点を理解できた
43-他機関の立場を理解できた
09-利用者と家族との関係が理解できた
10-利用者と社会資源との関係が理解できた
11-生活課題や問題の生じた経緯が明確になった
12-利用者の能力を把握できた

 





16-早急に解決すべき生活課題が明確になった
19-支援目標相互のつながりが明確になった
21-提供する支援の順序が明確になった
22-必要な支援の量が明確になった
26-支援計画の実施に伴う危機管理(リスクマネジメント)を行った
27-支援計画を実施する担当者が決まった
28-支援者間で連絡すべき事柄やタイミングを具体化できた
34-他の事例にも応用可能な支援の共通原則を確認できた
35-支援に必要な価値観を共有できた
17-支援を検討する上で不足している情報が明確になった
18-生活課題に対応した支援目標が明確になった
20-チーム全体で支援目標を共有できた
23-支援計画に利用者の希望が反映された
24-支援計画に利用者の役割が位置づけられた
25-支援計画に利用者の能力が活用された
37-事例を多面的に理解できた
 




56-意見の対立を恐れずに発言できた
57-意見を押し付けることなく発言できた
58-参加者の上下関係や力関係を気にせずに発言できた
59-事実と意見を明確に分けて発言できた
60-議論が行き詰った時に、あるべき方向を示すことができた
61-緊張した場面では、それを和らげる発言ができた
62-不明確な情報について具体的に尋ねることができた

 

【第4 章の注】
1) 自立支援協議会の運営マニュアルの作成・普及事業企画編集委員会「自立支援協議会の運営マニュアル」P.26、財団法人日本障害者リハビリテーション協会、2008 年
2) .新津ふみ子「ケア・コーディネーション」P.115、医学書院、1997 年
3) 伊藤淑子「ケアカンファレンス実践ガイドブック」P.21 看護の科学社 1999 年
4) 野中猛「図説ケアチーム」P.75、中央法規出版、2007 年
5) 西尾祐吾「保健・福祉におけるケースカンファレンスの実践」」P.50-P.56、中央法規出版、1998 年
6) 岩間伸之「援助を深める事例研究の方法」P.106、ミネルヴァ書房、2005 年
7) カレル・ジャーメイン「エコロジカルソーシャルワーク」P.17、学苑社、1992 年
8) 前掲「自立支援協議会の運営マニュアル」P.26
9) 堀 公俊「ファシリテーション入門」P.21、日経文庫、2005 年
10) 堀 公俊「問題解決ファシリテーター」P.23-25、東洋経済新報社、2007

 

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