Ⅱ.事業の概略

本プロジェクトでは、①WRAPの紹介講座、②WRAPの短期集中クラス、③WRAPのファシリテーター養成研修、④WRAPクラスを実施した。以下に詳細を述べる。

 

1.WRAPの紹介講座

全体の流れでも述べたが、WRAPとはどのようなものかということを巣立ち会メンバー・スタッフが知るために、WRAPファシリテーターを招聘して紹介のための講座を各事業所において行ったものである。

(1)目的
 巣立ち会のメンバー・スタッフともにWRAPがどういうものか知る機会を持つためにWRAPの紹介講座を行った。加えて、その後行なうファシリテーター研修やWRAPクラスにも関心を持ってもらうことも期待して行ったものである。

(2)場所
 巣立ち会の事業所(通所)3箇所(巣立ち風・巣立ち工房・こひつじ舎)。
なるべく参加しやすいように普段から通っている事業所で行なった。

(3)日時
 2008年5月30日 午前 こひつじ舎 約2時間
 2008年6月 2日 午前 巣立ち風 約2時間
 2008年6月 2日 午後 巣立ち工房 約2時間

(4)運営
 千葉県市川市のWRAP in Ichikawa(らっぴん)の2名のファシリテーターが説明を行なった。ファシリテーターは3箇所とも同じ2名の方で行なった。

(5)参加者
 巣立ち風が28名、巣立ち工房が16名、こひつじ舎が31名の参加者であった。
 この中にはスタッフも含まれており、オープンに近い形で行なわれたため、多少の出入りがあり、この数字は最終的にアンケートまで記入してくれた方の人数である。

(6)内容
 紹介講座では、2名のファシリテーターが進行役をつとめた。米国におけるWRAPの説明やWRAPができた経緯やファシリテーター自らの自己紹介を行い、すべての参加者が安心して参加できるように全体の同意・約束事を決めてから、WRAPクラスで使用する専用のスライドを利用しながら進められた。
 この講座では、2時間ということもあり、WRAPクラスで取り上げる各テーマについては概要のみになった。WRAPクラスで実際に取り扱う「リカバリーに大切なこと」として①希望、②自己責任、③学ぶこと、④権利擁護、⑤サポートについて、一方のファシリテーターがスライドを使用しながら各トピックについて説明し、もう一方のファシリテーターは、各テーマについて発言をした参加者の発言内容をマジックで、模造紙に忠実に記述していった。また、WRAPクラスで取り上げるもう一つの大きなテーマとして、それぞれの参加者が自らの生活において自分でプランを作り実施するといった「6つのプラン作り」もある。①日常生活管理プラン、②引き金、③注意サイン、④調子が悪くなっているとき、⑤クライシスプラン、⑥クライシスを脱したとき、それぞれの6つのプランをWRAPクラスでは取り上げる。しかし、今回はWRAPを紹介する講座のため、プランについての概略を説明するにとどまった。プランの一部をとりあげて、そのプランについて発言内容をマジックで、もう一方のファシリテーターが模造紙に忠実に記述していった。これはWRAPクラスの基本的な進め方であるが、参加者の発言は非常に大切にされ、ただ聞き流すということはせずに、殆どを模造紙に忠実に書き、参加者の見えるところに張り出すというやり方をとる。後で参加者それぞれが発言した内容を思い出したり、確認したりすることができるようにするためである。
 全体としては和やかな雰囲気の中で、ファシリテーターが皆の意見を聞きながら、「リカバリー」やプラン作りについて説明していった。このような進行に、参加者は集中して興味深く講座を体験しているようであった。

(7)アンケート
①目的
 この講座はメンバーとスタッフにWRAPを周知すること、またファシリテーター養成研修に関心を持ってもらうことが目的であり、それがどの程度実現できたかをアンケートの回答をもとに集計した。
 参加者のうち75名のアンケートが回収できた。この中にはスタッフも含む。

②結果
 問1 このWRAP紹介講座は楽しかったですか?

1.楽しかった 22名 29%
2.多少楽しかった 17名 23%
3.普通 29名 38%
4.あまり楽しくなかった 5名 7%
5.つまらなかった 2名 3%

問2 現在あなたのこころとからだの健康はどうですか?

1.元気 14名 19%
2.多少元気 10名 13%
3.普通 38名 50%
4.多少悪い 11名 15%
5.悪い 2名 3%

問3 このWRAPセミナーを受けて、あなたは元気になりましたか?

1.元気になった 16名 21%
2.多少元気になった 30名 41%
3.かわらない 27名 36%
4.多少悪くなった 1名 1%
5.悪くなった 1名 1%

問4 このWRAPセミナーはわかりやすかったですか?

1.わかりやすかった 22名 29%
2.多少わかりやすかった 16名 21%
3.普通 25名 34%
4.多少わかりにくかった 11名 15%
5.わかりにくかった 1名 1%

問5 WRAP紹介セミナーを聞いて、実際にWRAPを活用してみたいと思いましたか?

1.思った 19名 25%
2.多少思った 26名 35%
3.わからない 23名 31%
4.あまり思わない 4名 5%
5.思わない 3名 3%

問6 WRAPのファシリテーターになる為の研修をうけて、将来自分もファシリテーターになってみたいと思いますか?

1.思う 8名 11%
2.多少思う 14名 19%
3.わからない 25名 32%
4.あまり思わない 17名 23%
5.思わない 11名 11%


問7 その他自由回答

少しでも同じ仲間がいることを使おうと思った。
私は健康でありたい。健康があって自分の考えを考えることができるから
みんな薬を飲んで病気と闘っています。病気を友達と思って一日一日充実した日々をおくります。
話をちゃんと聞いているのが大変だった。もっと言葉をはっきりと分かりやすく言ってほしかった。我々病人はとても疲れやすい。
こころからでるものがあった。
努力して毎日毎日が前進です。
希望についていろいろな話があるので良かったと思います。
説明がわかりやすかったのがよかった。
パワーをもらった。
WRAPはとてもよいと思いました。
逃げられないストレスについての課題(対処法)を考えてほしい。
飛ばされた画面を見て説明を受けたい。
良かった。
今の元気を持ち続けたい。
終わった後、淋しくなってしまう。
Drの許可は必要か? 薬を多量に飲んでいるときも参加できるか?
あまりよく分からなかった。
いままでに聞いたことがなかった内容でしたが、多少自分に役立つことがあるように感じた。
有意義な時間を共有できてよかった。
少し自分のためになった。
レジュメを配布してほしかった。「WRAPのプランを作る7つのステップ」についての説明がほしかったです。
もう少しくわしくしりたかった。
専門用語が多く理解に詰まった。
丁寧な説明でよかったです。特に具体例などをまじえていた点がよかったです。
自分も実際に考えてプランを立ててみたいと思いました。ありがとうございました。
とても良いセミナーだったと思います。

③考察
 この講座の印象は「楽しい」「多少楽しい」を合わせても52%にとどまる。また、自分自身が「元気」あるいは「多少元気」と感じている人は32%にとどまっており、「多少悪い」「悪い」と感じている人は18%に上っている。それに対して、この講座を受けたことで元気になったかとの質問に、62%が「元気になった」、「多少元気になった」と答えている。わかりやすさについての質問は「わかりやすかった」、「多少わかりやすかった」をあわせて50%、普通が34%であるが、実際にWRAPを活用したいかの質問には60%の人が「活用してみたい」、あるいは「多少そう思った」と答えている。
 以上のことから、参加者は自分自身のことを元気と感じている人はあまり多くなく、WRAPの講座を受けることで元気になったと感じる人が多いことが確認された。この講座自体は特にわかりやすいと感じたわけではく、十分に理解されたとは言いがたいが、WRAPを活用したいと答えた人が多かったことからWRAPクラスへの関心の高さや期待が確認された。何か自分たちをリカバリーへ導いてくれるかもしれないという漠然とした期待感があったのかもしれないと推測される。さらに、ファシリテーターになりたいかとの質問に対しては、WRAPを初めて知った参加者であったにも関わらず、「思う」、「多少思う」をあわせて3割の人がなりたいと回答しており、ここでもWRAPに対する関心の高さがうかがえた。
 自由回答からWRAPを良かったと積極的に評価するものが半分くらい、WRAPに対する期待感をうかがわせるものが説明の不十分さの指摘とともに残り半分くらい、若干、「大変だった」「難解だった」などの感想も見られた。しかし大半は、WRAPに積極的に関心を持つものが多かったことを示すものであった。以上の結果から、WRAPは日本の多くの当事者にとっても興味あるものであることがわかり、WRAPファシリテーター養成研修及びWRAPクラスを開催する意義があることが確認された。

 

2.WRAPの短期集中クラス

 前述したが、WRAPクラスには週1回程度、1回2時間程度で継続して行うもの以外にも、2~3日間ほどで集中して行う短期集中型のものがある。WRAPクラスを経験するために、私たちは時間がなかったこともあり、最初に短期集中クラスを受けることになった。以下その内容である。

(1)期間
2008年6月7日と6月8日の2日間行われた。

(2)場所
三鷹市の社会福祉法人巣立ち会 巣立ち風の事業所内で行われた。

(3)運営体制
①ファシリテーター
WRAP in Ichikawa のメンバーで、ファシリテーター養成研修を受講し、ファシリテーターの認定を受けた2名が行なった。
②サポーター
ファシリテーター養成研修を受けファシリテーターの認定を受けた1名が、サポーターとして入り、記録などをとった。

(4)応募要件など
①募集方法
 WRAPの翻訳の意味とリカバリーを促すアプローチであることを簡単に明記したチラシを持参し、三鷹市内の精神科病院、福祉サービス事業所(就労継続支援事業所)、地域活動支援センター、就労支援センター、市役所総合健康センターなどをまわり、WRAPの説明と、支援者だけでなく障害当事者の参加を多く促した。
②応募要件
 三鷹市内のサービスを受けている当事者、あるいは支援者。
2日間の短期集中クラスと5日間のファシリテーター養成研修の両方を受けられる者

(5)参加者
 参加者は下記のとおり、23名であった。

 巣立ち会スタッフ       14名
 巣立ち会メンバー        2名
 精神科病院スタッフ      1名
 福祉サービス事業所スタッフ  2名
 巣立ち会以外のメンバー    3名
 調査担当者          1名

(6)WRAPクラスの基本形式
①WRAPクラスは基本的には1~2名のファシリテーターがお互いに協力しながらグループを行なう。ファシリテーターはコープランドセンターが認めた養成講座を修了したものがなることが多い。

②「WRAPの価値と倫理」としていることとして、次のことなどがあげられる。
(a)人はいつまでも元気であり続けることができ、自分の望むような生き方をすることができるものである。
(b)すべてのことが自分の意志に基づいて行なわれるもので、自分で責任を持つこと、エンパワメント、自分のために権利擁護することが大切とされている。
(c)互いの尊厳を尊重しあい、相手を思いやる気持ちを持ち、相互の経緯、尊敬を持って対等な人として参加者にお互いが接する。
(d)リカバリーには際限はないという見方をしている。

③安心できるための同意として、自分たちがこのクラスを進めるにあたって、どのようなことがあれば安心できるかをお互いにあげて、それを共有しあう。例えば「お互いに信頼しあって、話しができること」「トイレにいつでも行ってよい」「ここでの話し合いを外で話さない」などである。

④クラスを進めるにあたって、ファシリテーターだけではなく、サポーターと称する、WRAPの経験者などにクラスの進行を手伝ってもらうことがある。今回のクラスではファシリテーターの認定を受けている1名にサポーターになってもらった。

⑤クラスの進行を円滑に進めるために、スナックと飲み物を準備する。これは疲れを癒すためにもリラックスさせるためにも有効なものである。

⑥それ以外にも参加者がリラックスできるように、場所についてはゆったりした空間、適度な採光、温度、換気、座り心地の良い椅子などが準備できると良い。

(7)WRAPクラスの進行方法
 WRAPクラスは週1回1~2時間といった具合に、定期的に実施されることが多いが、今回のように2日間終日実施するという短期集中クラスも可能であり、本事業では期間の都合でこのような形式を取った。クローズで実施されることもあればオープンで行なわれることもある。今回はあらかじめ参加者を決めるという方法を取った。
進行はファシリテーターによってスライドを使ったプレゼンテーションであり、そこから参加者によるディスカッション、質問、共有化などのプロセスで進められていく。
 出された意見は模造紙に書かれ、皆が見えるように部屋にどんどん貼られていく。サポーターがいる場合は、その協力により模造紙に書かれたことをパソコンに入力してもらい、クラスの終了後に印刷して渡されることもある。
 WRAPは一人で作ることもできるが、グループで自分たちのプランを作っていくことが奨励されている。これは参加者のさまざまな意見を聞き、お互いを信頼して自己開示をしていく課程で、自分自身への信頼感を高めていき、一人では考えられなかったことも自分自身のプランとして作り上げていくことが可能となる。ファシリテーターやクラス参加者、サポーターへの信頼や共感が安心感を作り出すとともに、自分の望む生き方を見つけ出すのに大きく役に立つのである。その意味でグループで行なうことは重要な意味をもつ。
 以上がWRAPクラスの進行方法である。これに添って二日間の短期集中クラスが行なわれた。

(8)二日間のスケジュールと内容

<第一日目> 2008年6月7日(土)

 9:45~10:00 受付
10:00~10:55 チェックイン(名前、WRAPに期待すること、警告しておきたいこと)自己紹介、安心できるための同意、WRAPの概要
10:55~11:00 休憩
11:00~11:50 元気に役立つ工夫あれこれ集
11:50~12:40 昼食
12:40~13:35 リカバリーに大切なこと① 「希望」
13:35~13:40 休憩
13:40~14:25 リカバリーに大切なこと② 「自分に責任を持つこと」
14:25~14:35 休憩
14:35~15:15 リカバリーに大切なこと③ 「学ぶこと」
15:15~15:20 休憩
15:20~16:00 リカバリーに大切なこと④「自分のために権利擁護すること」
16:00~16:05 休憩
16:05~16:50 リカバリーに大切なこと⑤ 「サポート」
16:50~17:00 まとめ


<第二日目> 2008年6月8日(日)

 9:45~10:00 受付
10:00~10:30 チェックイン 安心できる同意の確認
10:30~11:15 プラン① 「日常生活管理プラン」
11:15~11:20 休憩
11:20~12:10 プラン② 「引き金」
12:10~13:00 昼食
13:00~13:50 プラン③ 「注意サイン」
13:50~14:00 休憩
14:00~14:50 プラン④ 「調子が悪くなっているとき」
14:50~15:00 休憩
15:00~15:50 プラン⑤ 「クライシスプラン」
15:50~16:00 休憩
16:00~16:40 プラン⑥ 「クライシスを脱したときのプラン」
16:40~17:00 まとめ
  修了式

 

3.ファシリテーター養成研修

ファシリテーター養成研修は、ファシリテーターができるようになるために必要な研修である。ファシリテーターは基本的にWRAPクラスを行い、参加者にWRAPについての理解を助けるとともに参加者が自分自身のWRAPを作ることを支援する。個別にWRAPを作る支援も行うが多くはグループで行い、そのグループが信頼できて安心できる、そして参加者全員にサポーティブに機能するようにグループ作りを心がける。そうしたファシリテーターとして大切な技能を学習する場が、この研修の場である。

(1)期間
2008年7月26日から7月30日までの5日間行われた。

(2)場所
三鷹市内の三鷹市協働センターと三鷹市産業プラザで行われた。

(3)運営体制
①ファシリテーター
ファシリテーターはコープランドセンターでファシリテーターの養成のための研修を受講し、認定を受けた2名の講師により実施された。

②サポーター
2名のファシリテーター養成研修を受けた人と3名の6月に行なわれた短期集中クラスを受けた人がサポーターとなった。この5名のうち、1日3名はいられる体制で研修は行なわれた。

③通訳
通訳は常時2名体制で、合計3名の通訳が参加した。講師の一人は日本人、一人はアメリカ人だったため、アメリカ人の講師に一人の通訳がついて、日本人の講師の話しの内容、参加者の発言などが同時通訳され、アメリカ人の講師の話は別の通訳により、日本語に訳され、参加者に伝えられた。

(4)参加者
参加者は次の17名であった。

巣立ち会スタッフ   9名  福祉サービス事業所の職員   2名 
巣立ち会メンバー   2名  巣立ち会以外のメンバー   2名 
精神科病院職員  1名  調査担当者  1名 

(5)五日間のスケジュールと内容
五日間の研修は、講義、ディスカッション、実技演習に分けて行なわれた。
以下、日程に添って主要なテーマを示す。

<第一日目> 2008年7月26日(土)

 9:00~ 9:30 受付
 9:30~10:00 歓迎、連絡事項、今日やることの確認
10:00~11:00 簡単な自己紹介、安心して学べる場にするための約束事
11:00~11:15 休憩
11:15~12:30 WRAPの価値と倫理(マニュアルの概要説明を含む)
12:30~13:30 昼食
13:30~14:45 “私はリカバリーを信じます”-小グループ演習
14:45~15:00 休憩
15:00~16:15 リカバリーに大切なこととWRAPの振り返り
16:15~16:45 言葉の持つ力
16:45~17:00 一日の振り返りとまとめ
   
  <宿題> 今晩自分のために、何か特別なことをする
   

<一日目の内容について>
・全体を通してのルール
最初に「安心できるための約束事」を確認する。これは5日間通して行なわれ、グループの重要な約束事として位置づけられている。また、パーキングロットと称して、その時、時間の制約などで十分に議論や説明ができないことは模造紙に書き込んで、後で説明、あるいは議論するということも5日間通して行なわれた。
毎日、宿題が出され、この確認を毎朝行った。これは4日間行なわれた。
・講義として
WRAPのクラスとはどのようなものか、WRAPのファシリテーターとして自分を労わることの大切さ、WRAPクラスの運営の仕方、WRAPは皆が自分一人一人で作っていくものであるということの確認、WRAPの価値と倫理について、リカバリーの概念について、WRAPの7つのプランについて、などが話された。
・実技演習として
「私はリカバリーを信じます。何故なら・・・」という言葉を続ける演習を2グループに分かれて行なった。
・ディスカッションとして
「尊敬する、尊敬されると感じるとき」について、また言葉の持つ力として、いやな言葉、それを言い換えたらどうなるかなど参加者からの意見を出し合い、ディスカッションを行った。

<第二日目> 2008年7月27日(日)

 9:30~10:15 チェックイン、連絡事項、今日やることの確認
10:15~11:00 クラスへの参加を助けるために配慮を必要とするかもしれない事柄
11:00~11:15 休憩
11:15~12:30 WRAPに関する質問に答える:小グループ演習
12:30~13:30 昼食
13:30~14:45 WRAPのクラスに対するいろいろな見方(期待と不安)
14:45~15:00 休憩
15:00~16:30 自己紹介について
16:30~16:45 フィードバックについての予告編
16:45~17:00 一日の振り返りとまとめ
   
<宿題> リカバリーの言葉遣いで、クラスに自己紹介(自分とWRAPについての紹介) する方法について考えること。
それでもリラックスして、日常生活管理リストの中から、特別にすることを選び、自分をいたわるために何かする時間をとってください。

<二日目の内容について>
・ディスカッションとして
 クラスへの参加を助けるために配慮を必要とすることとして、様々な意見が出された。またWRAPに対するいろいろな見方として、WRAPのクラスにどのような人が集まるかを想定して参加者が全員で出し合い、そしてその人たちはどんな思いでWRAPクラスを受けようとするのかなどを参加者になったつもりで出し合い、期待感や不安などについて話し合った。様々な質問などを想像し、どのように答えるのが良いかなどを参加者全員で議論した。
・講義として
 知識と自分の経験から話をしていくが、知らないことには正直に知らないということも大切であり、助けが必要なときにはグループの参加者に意見を聞いたり、経験を引き出していったりすることも大切であること、ファシリテーターが全て完璧に答えなければいけないと思い込まないほうがいいことなど、実際にクラスを進めていくときのファシリテーターの心構えなどについても講師から説明された。
 また、翌日の実技演習である自己紹介について、どのような自己紹介が効果的なのかが説明され、参考として2名の講師自身の自己紹介がなされた。率直な自己表現、適度な自己開示、あまり長すぎない時間など、参加者が安心してファシリテーターと向き合えるようになるための自己紹介のモデルが示された。
・実技演習として
 「WRAPに関する質問に答える」という課題を2グループに分かれて行った。他の参加者からWRAPに関する質問が出され、1名がファシリテーターとして皆の質問に答えるという形で行なわれた。この演習については一人一人が講師からのフィードバックをもらった。フィードバックは基本的には良い点を褒めてくれることが多く、加えてこうしたらもっと良くなるという指摘がなされた。

<第三日目> 2008年7月28日(月)

 9:30~10:00 チェックイン、連絡事項、今日やることの確認
10:00~11:00 クラスへの自己紹介
11:00~11:15 休憩
11:15~12:30 クラスへの自己紹介
12:30~13:30 昼食
13:30~14:45 クラスのファシリテーション(進行)技術を身に付ける
14:45~15:00 休憩
15:00~16:00 プレゼンテーションの準備
16:00~16:45 プレゼンテーションの練習
16:45~17:00 一日の振り返りとまとめ
   
<宿題> プレゼンテーションについて、引き続き練習してください。それでもリラックスして、日常生活管理リストの中から、特別にすることを選んで、自分をいたわるために何かをする時間を取ってください。

<三日目の内容について>
・実技演習として
参加者全員が自己紹介を皆の前で発表した。順番は挙手をした人から行い、円座になっている前の方で参加者全員の方を向いて話を進めていった。昨日の講師の自己紹介を参考にしながらも自分自身の話となるとかなりの緊張を伴った実技であった。
自己紹介終了後に、「よかったこと」「もっとこうすればよかったこと」を一つずつ各々が話していった。講師からは自分を客観的に見られるようにしていき、自分について学ぶことが大切であるとの説明を受けた。その他に、実技演習の準備として、翌日のプレゼンテーションのために、二人一組でグループを作りパワーポイントのスライドを使いながら発表の準備を行なった。20分の持ち時間で質疑応答も入れていくため、どういう役割分担にするのか、時間配分や使用するスライドの選択などを、ペアを組んだ相手と相談してじっくり計画を立てていった。
・講義として
ファシリテーション(進行)技術を身につけることについてなされ、時間を守る、参加者に気を配る、といったことからファシリテーターが例を出したり、発言を肯定的に受け止めたりし発言が出やすいように配慮することが重要であるということが説明された。また、空間、音、採光、広さ、座り方などの環境要因の整え方、スライドの活用方法が大切であること、重要なことは伝える立場であり、教える立場ではないことなどを指導された。

<第四日目> 2008年7月29日(火)

 9:30~10:00 チェックイン、連絡事項、今日やることの確認
10:00~12:30 相方のファシリテーターとクラス全体にプレゼンテーションを行う。プレゼンテーション前半4組:各22分(一人につき11分) その後8分間のフィードバックと10分間の休憩
12:30~13:30 昼食
13:30~16:45 相方のファシリテーターとクラス全体にプレゼンテーションを行う。プレゼンテーション後半5組:各22分(一人につき11分) その後、8分間のフィードバックと10分間の休憩
16:45~17:00 一日の振り返りとまとめ
<宿題>  
ここで学んだことをどのように活用するかについて考え、また明日の問題解決の時間のために、クラスの中で起きるかもしれない問題について考えておく。この一週間で「ああそうか!」という気づきの瞬間があったとしたら、それを思い出して、明日の朝のチェックインのときに、皆に共有できるようにしておく。

<四日目の内容について>
・実技演習として
 前日に分けられた二人一組(一組だけ3名)のペアで、分担されたテーマに沿って発表を行なった。クラスの前に出てきて、スライドを使いながらプレゼンテーションを行なう。各22分(一人につき11分)行った。その後、8分間のフィードバックがあり、10分間の休憩となる。次に発表するグループは、その10分間の休憩中にスライドの準備や最終打合せをしておく。①リカバリーに大切なことの概要、希望、責任、②リカバリーに大切なこと:学ぶこと、権利擁護、③リカバリーに大切なこと:サポート、WRAPの概念、④元気に役立つ道具箱、以上が午前中に行なわれた。⑤日常生活管理プラン、⑥引き金、注意サイン、調子が悪くなっているとき、⑦クライシスプラン全体、パート1~5、⑧クライシスプラン6~9、ポストクライシス、以上が午後に行なわれた。
 皆かなり緊張していて、実技演習の中で改めて感じる難しさ、視線を合わせられない、時間配分がうまくできない、気負いが強くなる、不安が非常に強くなるなど様々な体験の中からの学習であった。一方で、困った時にグループに助けてもらい改めてグループの力を感じたり、さりげなくペアのファシリテーターにフォローをしてもらったり、発表が進むうちに構えずになるべく自然のままの自分でやったことがいい方向に進んだりと発見も多くあったという感想も聞かれた。
また、発表を聞く参加者の立場としても、さまざまなプレゼンテーションがあり、ファシリテーターの役割、やり方は一つではないのだということを強く感じさせられる実技演習であった。それぞれが自分の個性を有効に生かしたWRAPクラスの持ち方があるのだということを学習する機会となった。
 講師からのフィードバックは、視線の持っていき方やスライドを使う時の立ち位置、意見について確認することの大切さ、話し方や話す速さについて、などの指摘があったものの大半がプラスのフィードバックであった。チームワークがよい、声の大きさ、言い回しが分かりやすい、受け止められたと感じられる対応だった、自信を持って説明していたことが力強かった、あなたのクラスでWRAPを受けてみたいと思った、すばらしいファシリテーターになれると思う、など講師の言葉はファシリテーターとして参加 者にいかにプラスのフィードバックをしていくことが大切かということも同時に示すものだった。


<第五日目> 2008年7月30日(水)

 9:30~10:00 チェックイン、連絡事項、今日やることの確認
10:00~11:30 グループWRAPを作る
(一対一のフィードバックを受けるために、一人一人出て行きます。)
11:30~11:45 休憩
11:45~12:30 世界観について
12:30~13:30 昼食
13:30~14:30 質問と次のステップ
14:30 修了式とお祝い
   
<宿題> 自分をいたわることを忘れずに

<五日目の内容について>
・ディスカッションとして
 参加者全員で、グループWRAPを作っていくというテーマが出された。WRAPとは、個人のものもあれば組織のものもある。今回は、参加者およびサポーターが元気にやっていけるようにという視点でグループWRAPを作っていった。ただし、最後のクライシスプランは作らず初めの4つ目までを作ることとした。
グループの名前決めをした後、元気に役立つ道具箱、日常生活管理プラン、引き金とその対処プラン、注意サインとその対処プラン、調子の悪くなっているときとその対処プランについて進めていった。
・講義として
 ファシリテーターの品質保証についての解説があった。ファシリテーターも生身の人間であるため体調が悪い日もある。その時のためにあらかじめ、体調の悪い時のサインをあげておき、そのサインが出ているときにはファシリテーターを休むことも大切なことであると講師から説明された(品質保証の作成)。ペアのファシリテーターに、十分にファシリテーターとしての役割を果たせるかどうかの品質を保障できるか確認してもらうことも重要であるとのことであった。
 最後に、「世界観について」の講義があった。見方が変わると、行動が変わる。行動が変わると、得るものが変わる。得るものが変わると、ますます見方が変わってくる。新しい情報、知らなかったことを得ることにより変わっていく。WRAPを知ることで、今までの利用者と支援者の関係性が変わるといった大きなパラダイムの転換が起こることもある、といった可能性について示唆された。
 そして、WRAPは認知行動療法とやっていることは同じだが、取り組み方が違う。
 認知行動療法は自分の避けたいことをどう避けたらいいかを考えるが、WRAPは、もっと元気になるにはどうしたらいいかを考えていく。なりたい自分になるように自分の望むことを達成するために作るのがWRAPであるという締めで全ての研修が終了した。
・個別フィードバック
 こうしたディスカッションや講義を受けている間に、一人ずつ講師からの1対1のフィードバックを別室で受けた。全体を通しての研修の総合的なフィードバックを受けると共に、研修内容についての質問にも応じてくれた。今までの個人に対するフィードバック全体もそうであったが、肯定的で支持的な内容のものが多く、これからファシリテーターとしてWRAPクラスを行っていく上での心構えのようなものを最終的に伝えられた。
 その後、修了式で一人ずつ、講師よりメンタルヘルスのリカバリーと元気回復行動プラン(WRAP)のファシリテーターとして認定書を手渡され、今後WRAPクラスのファシリテーターとして活動していけることとなった。

(6)アンケート
①目的
 WRAPのファシリテーター養成研修の広い意味での目的は、今までの世界観が変わること、つまり精神障害に対する見方が変わること、利用者と専門家の役割構造が変わること、そして双方の関係性が変化することである。WRAPクラスのファシリテーターはそうした価値が前提とされるのである。リカバリーを志向した理念を持って、利用者と専門家が対等なパートナーシップを組めることを、現存の支援者・被支援者関係のパラダイムの転換が可能となることを目指してこの養成研修は行なわれた。それがどの程度実現できたかをこのアンケートで確認する。

②結果

問1 あなたはどのようなお立場ですか?(複数回答可)

精神保健福祉サービスの利用者 4名 25%
セルフヘルプグループのメンバー 1名 6%
当事者スタッフ 0名 0%
サービス提供者 12名 75%
ピアサポーター 1名 6%
その他 1名 6%

 

なお複数回答があったため、参加人数より回答が多くなっており、100%を上回っている。

 

問2 WRAP講座およびWRAPファシリテーター研修に参加しての感想をお尋ねします。

問2-1 精神障害者に対する考え方が変わりましたか?

1.変わった 6名 38%
2.どちらともいえない 7名 43%
3.変わらなかった 3名 19%

 

<具体的な記述回答>
変わったというよりは、元々思っていたことが、そのままで良かったという感じ。
「当事者である」ということ、(そうであるのかないのか等)へのこだわりがいろんな意味で減った。
自分の中に偏見があったことに気がついた。
誰でもリカバリーできるという確信は、今までより強く強く思うことができました。
基本的な考え方は変わらないが、強化されたという感じ。精神的な困難からの回復は可能であるという点など。
大きく変わった訳ではないですが、「病気と向き合い生活している方」との考えを一層深めました。
自己紹介等でお話を聞く中で、より深く理解できた気がする。
精神障がい者に対する考え方が大きく変わったとはいえないが、当事者との将来的なかかわりに希望が大きくなってきた。
より良く生きることが可能だと思えるようになった。
やはり何でもできる人で、こちらが無理をして合わせなければならないことはないと改めて感じた。
当事者への考え方としては変化はなかったが、新しい視点が加わったように感じる。
もともと感じていた「誰でも回復できる」という考え方を、より強く確信することができた。

問2-2 専門職の役割に対する考え方が変わりましたか?

1.変わった 9名 60%
2.どちらともいえない 6名 40%
3.変わらなかった 0名 0%

なお、この質問について、1 と2 に両方△マークをしていた回答が1 つあったため、欠損である。

<具体的な記述回答>
専門職とひとくくりにしてしまう考え、そのものが変わった。
「何をなすべきか」(本当にすべきこと)ということをあらためてはっきり認識した。
自分の素、体験、感じていることにふたをせずにパートナーシップを持つ役割。自分と人の可能性を信じる役割。
もっと(今までよりもっと)リカバリーについての時間を専門職も勉強し、知る時間が必要だと思いました。そうすると、やはり“何か”(適確な言葉がうかびません)変わってくると思います。
保護的・管理的な役割ではなく、本人が自らの力で回復していくことを側面から支えるという役割に対する考え方は変わらないが、それが実践の中でどう具現化されていくかという具体的なイメージをより深めたいという思いは十分には達成できなかった。リカバリーは専門職を否定するものではなく、リカバリーの中で専門職は重要な役割を担っているというトレーナーの発言に勇気付けられた。
大変そうだと思った。
変わっていないともいえるし、変わったとも言えます。しかし、WRAPとしての新たな役割が生まれたので、これから自分がどう変化していくのか楽しみです。
自分に病気の体験がなく、なんとなく負い目のようなものがあったが、WRAPの考え方を学んだことで、それが軽減されたように思った。
今まで目指してきたことと大きく変わった感じはしないが、これからの道程を大きく感じる。
現状を支えるだけでなく、その人の力を信じ引き出していく手伝いをするのが専門職の役割だと思った。
“何でもする人”ではないということがよくわかった。
当事者の力をさらに信じることができるようになった点では、専門職の役割が減ったように感じた。
もともと感じていた「PSWの役割はリカバリーを推進すること」という考え方を、より強く確信することができた。

問2-3 当事者の役割に対する考え方が変わりましたか?

1.変わった 8名 50%
2.どちらともいえない 7名 44%
3.変わらなかった 1名 6%
<具体的な記述回答>
当事者とひとくくりにしてしまう考え、そのものが変わった。
元々その固有の役割の貴重さや重要性は感じていたが、さらに実感を強めた。
いろんな可能性がある。
リカバリーについては、もっと肯定的に積極的に受け入れることができました。
(今までも思っていたことではあるのですが、もっと自信をもって思えるようになりました)。
これまでの考え方が強化されたという感じ。本人が人生の主導権を取り戻し、自らの生き方やリカバリーに責任を持つこと。それをどうサポートしていかれるだろうかということを繰り返し考える機会だった。
リカバリーの可能性を信じることができた。
ファシリテーターやピアカウンセラーは一部の「能力ある当事者」しかできないと思っていましたが、準備や工夫、サポーター等によって、やる気のある誰にでも可能であると思うようになりました。
考え方が大きく変わったとは言えないが、具体的に当事者に対する役割の取り方の学びには大きくつながった。
これからも個人的におつきあいしたいと思える人がたくさんいるという考えが間違っていないと思った。
当事者の自分で選んでいく力を持っていること改めて考えられた。
ピア・スペシャリストへのプロセスが、以前よりさらに明確になってきたように感じた。

問2-4 サービス提供者とサービス利用者の関係に対する考え方が変わりました か?

1.変わった 9名 60%
2.どちらともいえない 6名 40%
3.変わらなかった 0名 0%

この質問について、1 と2 に両方△マークをしていた回答が1 つあったため、欠損である。

<具体的な記述回答>
関係の形は変化する。
一緒にリカバリーしていくことでOK、ということに自信がもてた。
個人の違いはあれ、提供者―利用者の違いでとらえないようにしたいと思った。こういうプログラム(WRAP)を通すと、とてもいいイミでピアになっていけると思います。
ラップではサービス提供者は「提供」する立場ではなく、共同体の一員であるという理念はよくわかるが、それが具体的にどういう関わりを指すのかは十分につかめなかった。分けへだてなく同じテーブルで進行する姿勢に感銘を受けた。
今までも提供者と利用者が対等であることを考えて仕事をしていましたが、そのことをどう実践していくのか、暗中模索の日々でした。そのことをふまえると考え方は大きく変わっていないのですが、方法・手段・日々の関わりについては大きな変化があると思っています。WRAP研修という共通の体験を通し、自分に病気の体験がなくてもわかりあえるということが分かった。考えが大きく変わったとは言えないが、方法が具体的に提示されたことは大変参考になった。
以前より、対等である(べきだ)と思っていましたが、一層その思いが強くなりました。
違いはないと思った。今までにはない感覚がある。
これまでも利用者自身が自分で決められるように支援してきたつもりだったが、具体的な提案が可能になった。
関係というのは永続的なものではなく、その時々で変化したり、逆転したりするものであるという、パートナーシップの原則について、よりよく理解することができた。

 

問2-5 当事者やサービス提供者にWRAPを広めていきたいと思いますか?

1.思う 14名 88%
2.やや思う  1名  6%
3.どちらとも言えない  1名  6%
4.あまり思わない  0名  0%
5.思わない  0名  0%

問2-6 その他、ご感想を自由にお書きください

楽しかったです。準備大変だったと思います。ありがとうございました。
またやっていってもらいたい。
まだ自分の中ではっきり整理がついていないが、人とのつながりのもち方、誰の意見も尊重する、すべての人は平等であるという、姿勢はここで得た宝です。
本当に準備等お疲れ様でした。5日間充実していました。ありがとうございます。
ラップの根幹にあるリカバリーの理念とそこから導かれる当事者と専門職の関係性について具体的なイメージをつかむことを期待していたが、この点は依然としてぼんやりとしている。5日間のトレーニングでつかめることではなく、結局は実践を通じて少しずつつかんでいくことだと思った。その為には継続的なスーパービジョンが必要だと強く感じた。ファシリテーターの認定は到達点ではなく、出発点でしかないことを自覚し、一人一人が自らの成長に取り組んでいかないとおかしなことになってしまうという心配も少し感じた。
定期的なクラスの開催が本当に必要だと感じています。微力ではありますが、今後について、お手伝いしたいと思います。と言いますか、チームの一員として関わらせて頂きたいと、強く思っています。巣立ち会ではないけれど・・。
とても楽しく研修を受けられました。サポーターの皆さん、小林さん(男)ありがとうございました。
5日間とても楽しく、とても自分のためになる研修でした。ありがとうございました。
常に自分自身に関心を向けながら、WRAPを広めていく仕事を続けていきたい。

③考察
 問2-1の「精神障害者に対する考え方が変わりましたか?」の質問に対して、変わったが6名(38%)、どちらともいえないが7名(43%)、変わらなかったが3名(19%)とあまり大きな変化は見られなかったかのように見えるが、記述回答を見ると、もともとの参加者は「もともと思っていたこと」や「基本的な考えは変わらないが、強化された」といったようにリカバリー志向の強かった人たちが多かったことが示されている。
 問2-2の「専門職の役割に対する考え方」では変わった9名(60%)、どちらともいえないが6名(40%)である。これも、記述回答からはほとんどが前向きな感想を持ったことがわかる。以下、問2-3、問2-4と同様に、数字で「変わった」と積極的に判断している人は50~60%ほどだが、ほぼ全員が記述回答で「当事者に対する考え方」「関係性に対する考え方」などが変化したことが読み取れる。問2-5の「WRAPを広めたいか」の質問に対しては思う、やや思うが95%を占め、WRAPに対しての大きな期待感が伺える。以上、5つの質問、記述回答からファシリテーター養成研修の目的としていたリカバリーを志向して、対等なパートナーシップを形成できる関係性や支援者・被支援者の役割構造の変化などを期待した結果は、多くの参加者に見られたものと考えられる。

 

4.WRAPクラス

 実施したクラスは、巣立ち会にある通所の事業所(巣立ち工房、こひつじ舎、巣立ち風)ごとに参加者を募り、事業所ごとに全セッション、同じメンバーにて行なうことを原則とした。プログラムも基本的に12回実施で内容(テーマ)も同じものを3箇所で行ない、定員は原則10名とした。ファシリテーターは、ファシリテーター養成研修を受けて、巣立ち会からスタッフ・メンバー合わせて11名のファシリテーターが誕生した。この11名によって、ファシリテーター各所2~3名でクラスを行い役割分担等はそれぞれのグループでの打ち合せで決めていった。
 以下、3箇所のグループの開催状況である。

(1)対象者(参加要件)
 3箇所の事業所(通所)のメンバーのうち、WRAPに関心のある人、参加してみてもよいと思う人は誰でも参加可能とした。ただし今回のWRAPクラスでは研究事業に協力してもらうため、WRAPクラスの開催の案内や説明と同時に研究調査の趣旨と内容、意義についても説明して協力を依頼し、研究調査に協力していただくためクラス開催前のプレテストから参加開始してもらえる人を参加対象とした。
 そのため必要に応じファシリテーターが個別の説明も行い、興味のある人は最初の1回のみでも試しに参加してみて欲しい、止めたくなったらいつでも止めて構わないし都合や気分などにより休んでも構わない(補講などのフォローは行う)、参加の有無によって評価されることはないことなどを伝え、参加を幅広く呼びかけるとともに参加が自由意志に基づくことを保証した。調査に参加したくない人に対しては今後のWRAPクラスへの参加の機会があることを伝えた。

(2)日程、開催場所、回数、時間
 3箇所とも2008年9月から12月の間に、週1回、90分、全12回で行なった。

(3)周知、募集方法
 これまではWRAPの紹介講座(半日)を開催したり、ファシリテーター研修に参加したスタッフやメンバーがミーティングでその内容や感想を報告したりしてきてはいたものの、WRAP自体の認知はまだ非常に低い状態であった。
 そのためWRAPクラスの開催にあたっては、ミーティングの場を用いて、WRAPファシリテーター研修に参加したスタッフ・メンバーらが中心となって、あらためてWRAPを通して学んだことや参加してみての感想などについて報告したり、紹介講座を行った際の記憶を皆で共有したりするなどして、WRAPについての知識や経験を共有できるよう努めた。またミーティングのつど、ファシリテーターがWRAPや今回開催するWRAPクラスについての説明を繰り返し行うとともに質問などを受け付け周知が図られるよう努めた。また、興味を示したメンバーには必要に応じ、ファシリテーターから個別の説明などを行った。

(4)参加者
<巣立ち工房>
 クラスの開始までに参加の意思を表明したメンバーは16名であった。そのうち一度もクラスに参加しなかったメンバーが1名いた。このメンバーは環境の変化もありWRAPクラスを開催していた約3ヶ月の間1度も通所をしなかった。また前半で連続4回参加したもののその後体調により通所自体を長期にわたり休むことになったメンバーが1名、前半で断続的に3回参加したものの、その後金曜日の通所自体をせず参加を中断したメンバーが1名いた。
 参加者が16名と当初の予定を上回ってしまったのはファシリテーター研修を終えたスタッフやメンバーが他のメンバーへのWRAPについての説明を周知徹底させたため、予想外に参加希望者が増えた。参加希望が出た後での制限ができにくかったため、今回はこの人数でのクラスとなった。

<こひつじ舎>
 クラスの参加状況としては、参加したいという意思を表明したメンバーが25名いた。
しかし、結局1回も参加しなかったメンバーが2名いた。この2名は、なんとなく他のメンバーにつられ、手を挙げてしまったためと思われる。また、1回目のみ参加し、2回目以降は欠席したメンバーが2名いた。他に、途中一度参加したメンバーが1名いたが、以降の参加はみられなかった。
参加者が25名と定員を超過した理由は巣立ち工房と同様である。

<巣立ち風>
 参加者は8名(男性6名、女性2名)であり、年齢は20代から50代と様々であった。
都合が合わず欠席するメンバーはしばしば見られたが、途中で参加をやめるメンバーはいなかった。初回から6回目まで参加し、その後欠席するメンバーが1名いたが、最終回には参加している。

(5)クラスの構成
 毎回のクラスは主に次のような流れで進行した。
クラスが始まる前に前回クラスで出た意見をまとめたプリントや追加資料等を参加者に配布した。

①今日の予定
 最初に今日のクラスのトピックや大まかなクラスの流れ、スケジュールについて説明した。

②チェックイン
<巣立ち工房>
 1回目のクラスでは、このクラスに期待すること、2回目から7回目までは「今日の気分」を参加者およびファシリテーターがひとりずつ発言した。8回目には前回からの宿題として「元気に役立つ道具箱」の中から取り組んでみたことなどを「自分をいたわったこと」として発表してもらったが、何を発言してよいのか戸惑う様子も見られたり、参加者から宿題はないほうが良いという意見が出されたこともあり、9回目以降は「自分をいたわったこと」「今日の気分」また今週あったよかったことなどを参加者個人の選択で自由に話してもらうようにした。発言はパスしても構わないことを事前に確認しており、実際その日により発言をパスする参加者もいた。

<こひつじ舎>
 1回目のクラスでは、このクラスに期待すること、2回目から8回目までは、「元気に役立つ道具箱」で取り組んでみたこと、9回目以降は、「行ってみたい場所」、「好きな食べ物」等のテーマを設定し、順次発表してもらった。

<巣立ち風>
 1回目のクラスでは「このクラスに期待すること」、2回目以降は「週末どのように過ごしたか」「元気になるために最近取り組んだこと」等をテーマに設定し、順次発表してもらった。

③「安心できるための同意」の確認
 1回目のクラスで参加者からあげてもらったものを、2回目以降は毎回読み上げて内容について参加者全員で確認、共有し、付け足しや修正がある場合はそのつど書き加え必要に応じ参加者の意向を確認した。

④振り返り
 前回のクラスで取り上げたトピックの内容や出された意見、またこれまでのクラスの流れなどを簡単に振り返って本日のトピックへとつないだ。

⑤今日のトピック
 あらかじめ配布しておいた資料およびパワーポイントのスライドを読み上げ、補足説明を加えた。その上で、参加者から質問や感想などがあれば出してもらった。また、ファシリテーター養成研修で配布された資料なども参考にしながら設定した演習課題に取り組んでもらい、グループで意見を出し合った。出された意見はすべて模造紙に書き出した。何度か「ワーク」として一人一人自分で書いてもらう時間を設けることもあったが、参加者に「ワーク」の時間を設けたいかどうかを尋ねると直接グループで話し合ったほうがよいという意見が出されることが多く、その場合には直接グループでの話し合いを行った。

⑥パーキングの確認
 パーキングの時間は毎回設定し、重要な質問や時間をかけて説明したい項目をメモしておき、最後に意見交換し、情報提供した。最初の数回は活用されていたが、その後は時間内で解決してしまうことが増え、パーキングに入れられることは減っていった。

⑦振り返り(プラス/デルタ)
 今日のクラスに関する良かった点と改善点を挙げてもらった。

⑧品質保証
 ファシリテーター研修マニュアルの中の品質保証の部分について毎回読み合わせを行なった。ファシリテーターが自分自身のコンディションを確認し、「こんな状態のときはクラスのファシリテーターはできない」ということをあらかじめ文章に書き、ファシリテーター同士でそれを交換し合った。これはファシリテーターが十分にその役割を果たせるかどうかの品質管理のために行なうものである。

(6)開催にあたって配慮したこと
<巣立ち工房>
 ミーティングごとにWRAPやWRAPクラスについて繰り返し説明を重ねたが、WRAPという言葉自体初めて耳にしたメンバーも多く、さらにWRAPが横文字であることも手伝って「WRAPって何?」という質問が続く状況にあった。そのため、WRAPの内容についての説明とともに、ファシリテーター研修などに参加した体験談、感想などを具体的に伝えるように心がけた。また、直接体験してみないとわからないことも多いことからまずは参加して体験してみて、嫌だと思ったらいつでもやめてもよいことを伝え、参加してみてから参加(しつづけるかどうか)を決めてもらってよいと説明し、参加への敷居を低くするような工夫を試みた。
 参加者の募集にあたっては、繰り返しの積極的な案内や丁寧な説明、参加にあたっての関係機関との調整やプログラムに参加しても工賃収入が減らないようにする配慮なども行い、情報の周知と参加に対する障壁の除去に努める一方、参加者があくまで自由意志に基づいて参加の意思決定をできるようできる限りの配慮も行った。特に、普段メンバーに対して積極的な提案や促進などの声がけ、時には指示的な働きかけをすることもある事業所のスタッフが今回のWRAPクラスの説明や参加者募集、ファシリテーターの役割を担うこともあり、参加者が「参加しなくてはならない」「参加するように言われた」などといった心理的プレッシャーを感じることなく自由な意思決定を行えるようかなり気を配った。具体的には、ファシリテーターはメンバー全体への参加の呼びかけや情報提供、個別の相談に対する対応は積極的に行いつつ、個別に「参加しませんか?」といった声がけ(提案、勧誘、参加の促進)をすることは避けた。むしろWRAPクラスの開催に直接関わらない事業所の他のスタッフやグループホームスタッフ、訪問看護スタッフなど関係機関のスタッフと連携し、それらのスタッフが本人と参加の意思確認や相談を行う中で、参加に関心や不安があるようであれば必要に応じ本人がファシリテーターと個別に相談して参加について検討するといった協力も行った。
 クラスの中での休憩時間の入れ方や時間の延長等ついては、必ず参加者に意見を求め、それに従い決定するよう意識した。空調やテーブルの使用など環境に関すること、意見を書き出した模造紙の扱いやスライドを使うかどうか、「ワーク」を行うかどうかといったクラスの進め方などについても状況に応じ参加者に意見を求めながら進行することを心がけた。
 クラスの前後には、ファシリテーターでミーティングの場を必ず持った。「WRAPの価値と倫理」の読み合わせ、「品質保証宣言」の確認、前回のクラスの振り返り、次回クラスで使用するスライドや話し合うテーマ、時間配分、段取りや役割分担、大切にしたいことなどについて話し合った。特に、前述の様に、参加者全員に対してもともと「就労継続支援施設としての支援計画に基づく支援を提供する」関係性を持っている事業所のスタッフがファシリテーターのひとりを務めたことから、その弊害によって「WRAPの価値と倫理」が揺るがされることのないよう、ファシリテーター同士の相互チェックを丁寧に行ったり役割分担上の工夫を行ったりした。
 また、「ファシリテーター研修マニュアル」を参考にしたり、他事業所のファシリテーターと意見交換したりすることなどによって、より良い環境の中でクラスを実施できるよう常に努力した。
開催日時についてはもともと比較的通所人数が多く、多くの参加希望者にとって参加できる可能性が高いと考えられた金曜日の午後(午後のミーティングと休憩の後の13時30分~15時00分)に設定した。
 開催場所については巣立ち工房では、2階作業場のひとつ(東側作業スペース)をクラスの開催場所として活用した。参加者の人数によってはやや狭いと感じられるスペースではあり、クラスの後半になってくると模造紙も張り切れない状況にはなったが、多くのメンバーにとって巣立ち工房が来やすさの点でも安心しリラックスできるという面でも最も参加しやすい場所であること、巣立ち工房の中ではそのスペースがスライドの活用や模造 紙を張ることが可能であり、静かで集中しやすい環境であること、作業や
他のプログラムに影響されず毎週場所を固定して開催が可能であることなどから、WRAPの条件である「参加者が安心して心地よく参加できる」ことが最も満たされる場所であると判断した。

<こひつじ舎>
 WRAPという新しいプログラムに初めて触れるメンバーが多く、毎日のようにWRAPクラスについてミーティングで説明したり、WRAPに関する記事を掲載している冊子を紹介したりと広く周知を図った。参加を呼びかける中で、WRAPの価値や倫理を説明する一方で、気構えずに参加できるよう「お茶会」のような気軽な気持ちの参加も歓迎すると伝えた。また、途中で嫌になったらやめてもよいこと、試しの参加でもよいこと、発言しなくてもその場にいるだけでも十分参加者として認められること等を説明し、誰でも参加できるように敷居を低くするような工夫を試みた。
 クラスを進行するにあたっては、その回のテーマで大切にされている事柄や内容は情報提供しながらも、あまりテーマや段取りに囚われすぎず、参加者がつくりだした話の流れを大事にするよう意識した。そうすることで、話題に広がりがついたり、多くの意見が出たりする等、活気ある雰囲気がつくられた。休憩時間や時間の延長等ついては、必ず参加者に意見を求め、それに従い決定するよう意識した。
 クラスの前後の打ち合わせは巣立ち工房に同じである。
開催日時は以前から火曜日の午前中に定期プログラムとしてSSTを開催してきたが、この間一時中断し、その時間帯に実施することとした。
 開催場所については近くに新しい部屋を借りたこともあり、比較的広いスペースを開催場所として確保できた。そのため、ゆったりとしたスペースの確保や、模造紙の張り場所の確保、邪魔が入らずに皆がクラスに集中できる雰囲気づくり、そして、普段と変わらずに気楽に参加できるアクセサビリティーが保証できたことなど、WRAPの条件である「参加者が安心して心地よく参加できる」点では大きなことであった。

<巣立ち風>
 クラスを進行するにあたり、その回のテーマの説明後、参加者にどのように内容が伝わっているのか共有し、グループディスカッションの時間を多く取るように心掛けた。ディスカッションではテーマに沿った内容を中心に取り上げ、グループ内から出た考えや質問についてもグループディスカッションで話し合った。その際、考えがまとまらなかったり、ディスカッションの内容がわかりにくそうだったりする参加者へは、休憩時間に個別に話を聞き、内容の補足や考えの整理をするようにした。
7回目以降、WRAPの具体的なプランに入ってからは「自分のWRAPを実際に作ってみる」ということを意識し、ワークシートを用いて①書く、②発表する、③グループで話し合う、という流れで進めるようにした。この作業によって、自分の考えを整理し、自分の中で答えの出ない事柄をグループ全体で考えることができたと思われる。各回において欠席した場合は、後日その回の内容やグループ内で出た意見を伝える補講の時間を設けた。情報を伝えるだけでなく、テーマについて考える作業も行い、テーマへの取り組みに差が出ないよう配慮した。
 また、クラスの前後の打ち合わせは巣立ち工房に同じ。
 開催日時は多くのメンバーが参加しやすいよう、巣立ち風への通所者が多い月曜日に開催し、休日やファシリテーターの都合で3回のみ火曜日に変更した。
 開催場所としては歩いて5分ほどのところに同法人内のグループホームがあり、その交流室を会場とした。WRAPクラスのたびに巣立ち風から会場へ移動しなくてはならないこと、慣れない場所が会場であったことは参加者への負担となっていたと思われるが、普段と違う環境が「自分たちは同じWRAPクラスへ参加している」というグループの連帯感やWRAPクラスに対する個人の動機を高める一因となっているようにも感じた。

以上が3箇所で行なったWRAPクラスの概要である。

 

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