1.背景

1-1.日本における精神保健医療福祉サービスの歴史と課題

 

 日本の精神保健医療福祉サービスの歴史は決して理想的で順調な経過を追って現在に至っているとはいえない。そもそもの政治や行政施策などのあり方に問題があるのか、それとも国民性など我々自身の中に内在する問題なのか、その課題は今も大きく我々にのしかかってきている。この章では歴史を概観し、その課題を整理したい。

 

(1)精神保健施策の変遷(近代以前)

 701(大宝元)年に制定された大宝律令において癲狂者(てんきょうしゃ )の罪に特別な扱いをするよう規定され、古くから精神障害者に対する配慮がなされていたことが分かる。一方で、近代以前の精神障害者は家族の保護下で隔離されていた者が多い。また、神社仏閣といった宗教施設における加持祈祷等や、地域社会の相互扶助による救護を受けていた者も存在する。代表的なものとしては、京都の岩倉大雲寺で寺の周辺にある茶屋や宿舎に精神障害者を宿泊させ、籠って祈祷をさせていた1)と言われている。

1) 佐藤久夫編(2008)『精神保健福祉士養成テキストブック4精神保健福祉論』ミネルヴァ書房,52

 

(2)精神保健施策の変遷(近代後~精神保健法の成立)

 精神保健サービスとして国が示した初めての精神障害者施策は、1874(明治7)年に文部省から東京、京都、大阪府に医制76 条が交付された癲狂院(現精神病院)の規定である。また恤救規則(じゅつきゅうきそく)(太政官通達162 号:同年制定)には、精神疾患による貧困者に対する経済支援が記載され、僅かではあるが精神障害者に対する国の支援が始まったといえる2)。一方で、同年公布された警視庁布達規則代172 号には、精神病者監護の責を家族の義務として記されていた。その翌年、京都府洛東南禅寺に日本最初の公立精神病院である京都癲狂院(てんきょういん) が設置された。前後して民間の精神病院も開院し、精神障害者に対する医療が提供されるようになってきていた。
1883(明治16)年、奥州旧中村藩主相馬誠胤(そうまともたね)が精神疾患を理由に不当に監禁されたとして家臣の錦織剛清(にしごりこれきよ)が告発し、相馬事件として世間の注目を集めた。
これを契機に精神医療や精神障害者に対する社会的関心が高まり、1900(明治33)年の精神病者監護法の制定に大きな影響を与えた。同法は許可無く精神障害者を監禁することを禁じたが、一方で届け出れば監護義務者による私宅監置が認められた。精神病者を社会から隔離することを法的に認めたものといえる。 精神障害者の監護義務を家族に負わせることとなり、現保護者制度の源流になった。また、精神病者の管理(現状報告・立ち入り検査)が警察(官憲)の所轄とされた治安要請の強い法律であり、精神障害者の医療や保護の観点が十分ではなかった。東京帝国大学(現東京大学)の教授であった呉秀三は、1918(大正7)年に精神病者私宅監置の実況を調査し、日本の精神障害者の多くが必要な治療を受けていない現状を明らかにした。呉は報告書で「我邦十何万ノ精神病者ハ実ニ此ノ病ヲ受タルノ不幸ノ外ニ、此邦ニ生マレタルノ不幸ヲ重ヌルモノト云ウベシ」と記し、当時の精神障害者を取り巻く現状を端的に表した。この私宅監置制度は1950(昭和25)年の精神衛生法制定までの約50 年間続いた。
 その後精神病院法が1919(大正8)年に制定され、国は精神障害者に対する公的責任を示し公立の精神病院を作る命令を出したものの、経済的理由から公立精神病院の設置は進まなかった。さらに代用病院制度(民間の病院が公的病院の代用となる)を取り入れた為、結果公立病院の設置・整備が遅れた。受け皿となる医療機関の数だけではなく、当時は社会保障制度が充実していないことや、ほとんどの家庭が経済的余裕のない低所得層であったこともあり、精神障害者に十分な治療(入院・通院)を受けさせることが困難であった。
 1945(昭和20)年、終戦を迎えGHQ(占領軍総司令部)主導による日本の社会保障制度改革が始まったことを契機に日本の精神保健施策も大きな転換期を迎えた。GHQは「社会的救済:SCAPPIN775 号(1946 年2 月27 日)」で救済に対する国家責任、無差別平等、最低生活保障を示した。これを受けて同年生活保護法が制定され、経済的困窮を理由に医療を受けることが出来なかった精神障害者に対する支援が開始された。その後児童福祉法(1947 年)、身体障害者福祉法(1949 年)が次々制定された。
 1950(昭和25)年「精神障害者の医療と保護及び発生の予防」を目的とした精神衛生法が制定され、精神病者監護法及び精神病院法が廃案となり、私宅監置制度が廃止された。その他にも保護(義務)者制度が新設され、家族に過重な義務を課すことになった。一方で精神衛生鑑定医制度や措置入院制度の導入、都道府県における精神病院及び精神衛生相談所の設立が義務づけられるなど、戦後放置されていた精神障害者を収容・治療する体制が整備された。
 その後、向精神薬の導入により薬物療法が飛躍的に進歩した。また、精神療法や作業療法等の治療方法の導入によって、予防対策や在宅障害者対策が注目されるようになった。よって、退院可能な精神障害者が増え、医師・看護師・精神医学ソーシャルワーカー(以下、PSW)等の医療関係者による退院支援活動が芽生えるようになった。その一つとして中間施設や共同住居(グループホームなど)、作業所などが僅かではあるが各地に作られるようになった。1958(昭和33)年医療法の精神科特例が出され、1960(昭和35)年には医療金融公庫が民間精神病院に対し低利長期融資を行ったことで、精神科病床が急激に増加した。
 1964(昭和39)年、ライシャワー事件3)が発生し、精神障害者の不十分な医療の現状が大きな社会問題となったことを受け、1965(昭和40)年、精神衛生法の一部が改正された。だが、「精神障害者を野放しにするから、このような事件が起こるのだ」という誤った精神障害者観の広がりや、改正後の法そのものが福祉よりも治安を重視するものであったことから、少しずつ浸透してきた地域ケアに水をさしたものとなった。精神病床数はその後も増え続け、入院患者数も増加の一途をたどっていった。
 1974(昭和49)年に精神科デイケアが点数化され、翌1975(昭和50)年には保健所における相談訪問事業(社会復帰相談指導事業)が始まった。そして、1982(昭和57)年に通院患者リハビリテーション事業(精神障害者職親制度)が開始されたことにより、在宅精神障害者に対する制度は少しずつ広がりを見 せた。
 1980 年代に入ると精神保健施策は大きな転換期を迎えた。猪俣4)は「精神障害者の人権擁護と適正な医療の確保等という観点から抜本的な見直しを求める機運が生じていた」とし、「この流れを一気に加速させたのは宇都宮病院事5)件である」としている。1984(昭和59)年、宇都宮病院事件が発生した際、猪俣が示したように国内外から「精神障害者の人権に配慮した適正な医療と保護の確保および精神障害者の社会復帰の促進を図る観点からの見直しを行うべきだ」との指摘を受けた。その為、1987(昭和62)年、精神衛生法の一部が改正され、「国民の精神的健康の保持増進を図る」、「人権に配慮した医療の確保」、「社会復帰の促進」が法律の目的に位置づけられた。法対象者定義や自傷他害防止監督規定を初めとする保護義務者負担の軽減など、課題を残していたものの、「人権擁護」と「社会復帰」という二本柱による法改正がなされた。つまり精神障害者の人権を擁護という観点から、精神保健福祉分野に大きな価値転換を図る法律改正であった。

2) 吉田久一著(2004)『新・日本社会事業の歴史』勁草書房,138
3) ライシャワー事件:アメリカ合衆国の東洋史研究者であり、1961 年から1966 年まで駐日アメリカ大使を務めたエドウィン・オールドファザー・ライシャワー(Edwin Oldfather Reischauer)が、1964 年3月にアメリカ大使館門前で統合失調症患者にナイフで大腿を刺され重傷を負った。この時に輸血を受け、この輸血が元で肝炎に罹る。これがきっかけになり売血問題がクローズアップされた。この事件は「ライシャワー事件」と呼ばれ、精神衛生法改正や輸血用血液の売血廃止など、日本の医療制度に大きな影響を与えた。
4) 猪俣好正(2005)「精神衛生法から精神保健法へ」『解説と資料:精神保健法から障害者自立支援法まで」精神看護出版,44
5) 宇都宮病院事件:1984 年、宇都宮の精神病院での事件。患者へのリンチや無資格診療等の職員による暴力、患者支配が明らかとなり、院長は逮捕された。これ契機に、日本の精神医療の実情や人権侵害問題が国際的にも批判を浴びる結果となり、法改正がなされることとなった。

 

(3)精神保健施策の変遷
   (精神保健福祉法の成立~障害者自立支援法へ向けて)

 1991(平成3)年、国連総会で「精神病者の保護及び精神保健ケア改善のための原則」が決議された。また、ライフステージのすべての段階において全人的復権を目指す「リハビリテーション」と、障害者が障害を持たない者と同等に生活し活動する社会を目指すノーマライゼーションを理念とする「障害者対策に関する新長期計画」が1993(平成5)年3月に発表された。坪松によると、この新長期計画は「完全参加と平等」を目標とし、その上で障害者の主体性・自主性の確立、すべての人の参加によるすべての人のための平等な社会づくり、障害の重度化および障害者の高齢化への対応等を重点施策6)としている。このような背景の中で、同年6月「施行後5年を目途に見直す」という附則を踏まえ行なわれたのが、精神保健法の改正である。精神障害者の定義の変更や社会復帰施設の整備、地域生活支援事業助成、施設外収容規定廃止など、「社会復帰施設から、地域へ」という目標の下に、福祉的処遇を強化しようとしたものであった。
 1993(平成5)年12 月、わが国の障害者施策を推進する基本理念と施策全般についての基本事項を定めた「障害者基本法」が成立し、施策の対象となる障害者の範囲に「精神障害者」が明確に規定された。
 1994(平成6)年、保健所法が抜本的に改正され『地域保健法』が成立した。これを受けて同年8月、公衆衛生審議会より「当面の精神保健対策(意見書)」が提出され、この意見具申を受け、1995(平成7)年、精神障害者の福祉を法定化した精神保健法の一部改正、つまり「精神保健および精神障害者福祉に関する法律(以下、精神保健福祉法)」が成立した。
 法律の目的と国及び地方公共団体の義務に「精神障害者の自立と社会経済活動への参加の促進のために必要な援助」という項目が付け加えられた。これは障害者基本法の目的である「障害者の自立と社会、経済、文化その他のあらゆる分野の活動への参加を促進すること」とするノーマライゼーションの理念を追加したものであった。精神障害者の福祉に関する事項が明文化されたことを受け、同年12 月、障害者対策推進本部(1996 年1月「障害者施策推進本部」に改称)により「障害者プラン―ノーマライゼーション7ヵ年戦略」が発表された。このことにより、具体的な達成目標としての数値目標を設定し、障害種別の統合化・横断化した点において大きく評価することができる。また、「自立と参加」、「権利擁護」、「ノーマライゼーション」、「主体性・自立性の確立」が明確となった。
 他の福祉分野においては、1997(平成9)年、国民すべての自立生活をサポートし、国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とし「介護保険制度」が制定され、2000(平成12)年の施行が明確に示された。行政処分としての措置制度から社会保険方式による利用制度への転換をはかり、税による 「恩恵としての福祉」から「権利としての福祉」への転換点であったともいえる。
 1998(平成10)年「精神保健福祉士法」が制定され、2000(平成12)年6月、「社会福祉各制度の再編」、「全体の効率化」、「公私役割分担のあり方」、「利用者本位の仕組みの構築」を目指し、その主要な柱である介護(介護保険制度創設)、医療(医療保険及び医療制度改革)、年金(年金制度改革)、社会福祉分野における改革として、「社会福祉基礎構造改革」が行なわれた。
 2002(平成14)年12 月、社会保障審議会障害者部会精神障害分会報告書「今後の精神保健医療福祉施策」が提出された。冒頭で、わが国の精神保健福祉の現状について①人口当たりの精神病床数が諸外国に比べ多いこと、②社会的入院が減らないこと、③精神病床の機能分化が未成熟で、効率的で質の高い医療の実施が困難であること、④社会復帰や地域生活を支援する施設やサービス等の整備が十分進んでいないこと、⑤精神疾患や精神障害者に対する国民の正しい知識理解が十分とはいえないことの5点が指摘された。特に注目される点は、「これまで参考人として意見を述べる機会を与えられるにすぎなかった当事者が正式な精神障害者分会委員として積極的な役割を担ったこと、当事者主体の施策展開、社会的入院の解消、精神科医療の公開などが初めて明確に示された」、「特に今後10 年で『受け入れ条件が整えば退院可能』な7万2,000 人の退院・社会復帰を目指すとする数値目標が示された」、「国民の精神保健問題の深刻さを反映して、心の健康対策への細やかな目配り」であると伊藤7)は指摘している。その直後、「障害者基本計画」「重点施策実施5ヵ年計画(新障害者プラン)」が策定された。
 2003(平成15)年4月「支援費制度」が施行され、そのポイントとして「措置から契約へ」、「実施主体の変更」、「扶養義務者範囲の変更」が挙げられる。服部8)は支援費制度の現状における問題点として「市町村の裁量によるサービスの格差」、「権利擁護の取り組みの必要性」、「財源確保の問題」を挙げた。
 1990 年代後半は、介護保険の施行や社会福祉基礎構造改革の成立、2001(平成13)年WHOによる「国際生活機能分類(ICF)」の公表など、「利用者本位」、「共生社会の実現」、「利用者の権利擁護明確化」、「国民すべての生活をサポートする」、「措置から契約へ」、「ストレングス視点」という要素が確立した時期であったともいえる。
 2004(平成16)年9月精神保健福祉対策本部が公表した「精神保健医療福祉の改革ビジョン」を受け、同年10 月「今後の障害保健福祉施策について(改革のグランドデザイン)」が示された。門屋9)はグランドデザインの意義を、「これまで福祉施策の基本であった措置制度と施設福祉を、契約利用制度と地域福祉へと転換させるべく具体的根本的改革を掲げている」とし、「障害者が住み慣れた希望する場所で自ら選択する暮らし方を保障していくことを本命題として(・・・中略・・・)、より安定的に支援できる新しいシステムの開発(ACT10)など)を含む具体的な施策を示さなければ、地域に生活の場を移したものの、不幸が改めて出現することになりかねない」と、その課題についても言及している。

6) 坪松真吾(2005)「障害者対策に関する新長期計画」『解説と資料:精神保健法から障害者自立支援法まで』精神看護出版,47
7) 伊藤哲寛(2005)「今後の精神保健医療福祉施策について」『解説と資料:精神保健法から障害者自立支援法まで』精神看護出版,70
8) 服部森彦(2005)「支援費制度の施行」『解説と資料:精神保健法から障害者自立支援法まで』精神看護出版,74
9) 門屋充郎(2005)「改革のグランドデザイン案」『解説と資料:精神保健法から障害者自立支援法まで』精神看護出版,16-24
10) ACT:Assertive Community Treatment;包括型地域生活支援プログラム

 

(4)精神保健施策の変遷(障害者自立支援法の成立~)

 改革のグランドデザインを制度として具体化するための法案として、同時に提出されたものが「障害者自立支援法(案)」となり、2005(平成17)年1月に閣議決定され、国会に上程された11)。①サービスを利用するための仕組みを一元化し、施設・事業を再編する、②障害のある人々に、身近な市町村が責任を持つ、③サービスを受けた利用者(障害者)は、利用量に対し所得に応じた負担を行う、④就労支援を強化する、⑤サービス支給決定の仕組みを透明化・明確化する、という5点を改革のねらいとした。
 具体的内容として、①障害種別ごとに分かれていた在宅サービスと施設サービスの体系を見直し、障害の種別にかかわらず「訪問系サービス」、「日中活動系サービス」、「居住系サービス」に再編する、②総合的な自立支援システムの構築(自立支援給付と地域生活支援事業)、③ケアマネジメントの導入、④サービスの利用意向をサービス利用者本人に確認する等が盛り込まれた。2006(平成18)年4月に一部施行、同年10 月には完全施行した。利用者負担の課題は残るものの、「利用者がサービスを選ぶことのできる体制」の整備が始まったことで、利用者がサービスの中心であることを強調したものとなっている。
 そして、障害者自立支援法の制定により精神保健福祉法が一部改正となった。その内容としては①「精神分裂病」の「統合失調症」への改称、②通院医療の自立支援医療への移行、③精神保健福祉センターの業務の再編(障害者自立支援法間業務の実施)、④地方精神保健福祉審議会に関する地方分権化、⑤精神保健福祉における市町村の役割の強化、⑥精神医療審査会における委員構成の変更(医療関係以外の委員の拡大)、⑦任意入院・医療保護入院・応急入院の規定の見直し、⑧居宅生活支援事業・社会復帰施設・社会適応訓練事業の自立支援給付への移行となり、精神障害者の日常生活にかかるサービスが障害者自立支援法に吸収されたことを受け、精神保健医療に特化した内容となっている。
 そして、平成20 年4月から「今後の精神保健医療福祉のあり方等検討会」が発足した。平成16 年発表された「精神保健福祉の改革ビジョン」の後期5年間のあり方を巡って、議論がなされている。今後の日本の精神保健医療福祉の未来を担う大切な検討会となるであろう。

11) 精神障害者社会復帰促進センター・財団法人全国精神障害者家族会連合会・精神保健福祉白書編集委員会『精神保健福祉白書2006 年版 転換期を迎える精神保健福祉』中央法規,21

 

1-2.精神保健福祉における社会的入院問題と施策

(1)社会的入院

 私宅監置・精神病院収容という時代を経て、入院医療中心から地域生活へと精神障害者の施策転換が図られてきたものの、依然として多くの社会的入院者が病院に留まっている実態がある。精神保健領域において、社会的入院問題が着目されるようになって久しく、国策として対処が進められてはいるものの、日本の精神科病床数が、世界各国の中で非常に多い状況は現在も変わらず、20年以上続いている。
 社会的入院とは、小山によれば、「厚生省(現厚生労働省)の行政文書の中で使用されたのは、生活保護法上の医療援助の運営に対する指導要領においてある」とされている12)。当初は結核患者に対して用いられた言葉であったが、昭和36年からの精神科建築ラッシュの後、昭和40年代に「寛解した患者が職場や家庭に帰ることができず、そのまま入院を継続するというケースが目立ってきた中で、生活保護制度の適切な運用という視点から社会的入院という言葉が用いられた」13)ものである。
 入院は本来、病状が継続的な看護または医学的管理を要する為のものであり、病状が回復すれば退院することが本来のあり方である。しかし、治療目的で病院に留まるのではなく、医学的観点からは既に入院の必要性が薄い、あるいは治療の必要なく長期入院を続ける、社会的入院を強いられる者が、特に精神障害では非常に多い。長期入院には、入院中に身寄りが亡くなるなど経済基盤が崩壊する、長期の入院により社会性や生活習慣が衰える、ホスピタリズム14)により自立生活が困難になるなどの問題が伴う。また、それによって退院後の生活が成り立たない為、さらに長期入院を続けざるを得ないという悪循環を生み出すものである。
 精神障害の場合、病状が回復しているのにもかかわらず、数年から十年以上、中には半世紀以上も入院している患者が珍しくはない。その原因として取り上げられることが多いものに、両親や親族が患者の退院を望んでいない、といった家族関係の問題がある。思春期に発症した場合、反社会的な問題行動が生じることもあり、病状悪化時にそれを抱えなければならなかった家族の負担は非常に大きいものである。「社会に出すべきではない」と親族が思い、そして思い続けてしまうのは仕方のないことであろう。そのまま、何十年も病棟から出られない生活を続けていくうち、当事者も病院が生活の場になり、退院する意欲を失い、病院から出ることに強い不安を抱くようにすらなってしまうのである。
 したがって、社会的入院の解消を図るには、当事者の退院意欲を高めること、家族の負担をサポートすること、そして病院以外に生活の場を作ること、そこでの生活を支えることが重要となる。その為の社会資源の不足は、現在の精神保健福祉の大きな課題である。

12) 安西信雄・瀬戸屋雄太郎(2004)精神保健福祉の動向と社会的入院者の退院問題『作業療法ジャーナル』38(12),1090-1096
13) 小山秀夫(1998)「介護保険と社会的入院について」『国民健康保険』49(12),2-5
14) ホスピタリズム(施設病):Hospitalism;乳幼児期に、何らかの事情により長期に渡って親から離され施設に入所した場合に生じる情緒的な障害や身体的な発育の遅れなどの総称。

 

(2)精神障害者退院促進支援事業

 精神障害者退院促進支援事業(以下、退院促進支援事業)とは、「精神科病院に入院している精神障害者のうち、症状が安定しており、受け入れ条件が整えば退院可能である者に対し、活動の場を与え、退院の為の訓練(以下、退院訓練)を行うことにより、精神障害者の社会的自立を促進すること」を目的とした事業である。精神科病院に入院している精神障害をもつ人たちのうち、症状が安定しており、受け入れ条件が整えば退院可能である人たちに対して、都道府県及び指定都市が実施主体となり、一部事業を希望する地域活動支援センターなどの運営主体に委託をして実施するものである。
 平成14 年に策定された「新障害者プラン」では、「受け入れ条件が整えば退院可能な入院患者の退院と社会復帰」が具体的な目標として盛り込まれた。そして平成15 年に、約7万人の社会的入院者の早期退院と社会復帰の実現に向けて、退院促進支援事業が国策として事業化されたのである。
 平成16 年の「精神保健医療福祉の改革ビジョン」では、10 年間で約7万人の社会的入院の解消が数値目標として設定されたが、退院支援事業の利用者数 は、平成18 年度までの4年間で2,102 人、退院者数は740 人である(表1.参照)。利用者でさえも、目標である約7万人の数%であり、退院促進支援事業に よって退院支援が効果的に進められているとは云えない状況である。
 実施要綱を資料として添付する。


表1.精神障害者退院促進支援事業の全国実績

  事業利用者数 退院者数 退院率
平成15 年度 226 人 72 人 32%
平成16 年度 478 人 149 人 31%
平成17 年度 612 人 258 人 42%
平成18 年度 786 人 261 人 33%
2,102 人 740 人 35%

 

(厚生労働省『精神障害者退院促進支援事業の実績について』より作成)

 

(3)住宅入居等支援事業(居住サポート事業)

 退院促進支援事業の結果として、「入院、入所中の障害者の地域移行を進める上で住まいの確保は重要な課題である」ことが認識されるようになった。厚生労働省では、平成18 年度より一般住宅への入居が困難な障害者を支援する『住宅入居等支援事業(居住サポート事業)』を市町村の地域生活支援事業に位置づけている。「不動産業者に対する物件あっせん依頼及び家主等との入居契約手続き支援」、「入居者である精神障害者、知的障害者や家主等に対する、夜間を含めた緊急時の相談支援体制や関係機関との連絡調整」などを行うこととしている。
 また、平成17 月12 月2日付けで「公営住宅法施行令」が改正され、知的障害者、精神障害者の公営住宅への単身入居が可能とされた。各都道府県には、住宅施策の担当部署との連携を図り、市町村に対し本事業への取り組みを促し、広域実施の為の市町村間調整を行うなど、障害者の居住支援の充実に向けた取り組みの一層の強化を図ることが求められている。

 

(4)地域生活支援事業

 地域生活支援事業とは、「障害者及び障害児がその有する能力及び適性に応じ、自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、地域の特性や利用者の状況に応じた柔軟な形態による事業を効率的・効果的に実施し、もって障害者及び障害児の福祉の増進を図るとともに、障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現に寄与すること」を目的とする事業である。自立支援法の施行に伴い、平成18 年10 月から施行されている。平成18 年4月から9月までの間は、「障害者地域生活推進事業」として施行し、地域生活支援事業へと継続的に実施されている。
 市町村の地域生活支援事業として位置づけて実施し、全都道府県による恒常的事業へと位置づけられているものである。市町村及び都道府県が実施主体として、地域で生活する障害者等が障害福祉サービスやその他のサービスを利用しつつ、その有する能力及び適性に応じ、自立した日常生活又は社会生活を営む為に必要な事業を実施する。各自治体が自主的に取り組み、地域の特性や利用者の状況に応じた柔軟な事業形態により、効率的・効果的に実施することが求められている。

 

(5)精神障害者地域移行支援特別対策事業

 平成20年度からは、精神障害者地域移行支援特別対策事業(以下、地域移行事業)が実施されている。精神障害者の地域移行に必要な体制の総合調整役を担う地域体制整備コーディネーターや、利用対象者の個別支援等に当たる地域移行推進員の配置を柱としたものである。障害福祉計画の策定指針において、平成24年度までに退院可能な精神障害者が退院することを目指すとされており、地域移行に向けての支援をより一層進める目的で始められた。
 地域体制整備コーディネーターの役割としては、①退院促進・地域定着に必要な体制整備の総合調整、②病院・施設への働きかけ、③必要な事業・資源の点検・開発に関する助言・指導、④複数圏域にまたがる課題の解決に関する助言等、が挙げられている。また、地域移行推進員(自立支援員)は、①精神科病院等における利用対象者に対する退院への啓発活動、②退院に向けた個別の支援計画の作成、③院外活動に係る同行支援等(必要に応じピアサポートなどを活用)などが、役割とされている。
 実施要綱を資料として添付する。

 

(6)今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会

1)発足の経緯と経過
 平成14 年12 月、精神保健福祉対策本部が厚生労働大臣を本部長として発足された。その後、平成15 年5月、第2回精神保健福祉対策本部にて、中間報告として、「精神保健福祉の改革に向けた今後の方向(案)について」が提出された。
主な内容として①普及啓発として正しい理解・当事者参加活動を促進すること、②精神医療改革として精神病床の機能強化・地域ケア・精神病床数の減少を促すこと、③地域生活の支援として、住居・雇用・相談支援の充実などが上げられた。その後、平成16 年9月には第3回精神保健福祉対策本部(精神保健医療福祉の改革ビジョン)で、①国民の理解の深化、②精神医療の改革、③地域生活支援の強化「入院中心医療から地域生活支援中心へ」という基本的方策の実現に向けて今後10 年間、努力されることが発表された。
 そして5年後の平成20 年に、「精神保健福祉改革ビジョン」のこの5年間の検証とこれから5年間の見直しの為に、平成20 年4月から「今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会」(以下、検討会)が開催されることになった。
 平成16 年の「精神保健医療福祉の改革ビジョン」の後期計画の見直しの為に、以下の要綱にしたがって開催されている。
 『平成16 年9月に厚生労働省精神保健福祉対策本部が提示した「精神保健医療福祉の改革ビジョン」(以下、ビジョン)において、「国民意識の変革」、「精神医療体系の再編」、「地域生活支援体系の再編」、「精神保健医療福祉施策の基盤強化」の柱を掲げ、受け入れ条件が整えば退院可能な約7万人について、立ち遅れた精神保健医療福祉体系の再編と基盤強化の推進により、10 年後の解消を図ることとしている。このビジョンに基づき、これまで、障害者自立支援法の制定や累次の診療報酬改定など、精神保健医療福祉に関する施策が実施されてきたところである。
 ビジョンはおおむね10 年間の精神保健医療福祉の見直しにかかる具体的方向性を明らかにした上で、「今後10 年間を5年ごとの第一期と第二期に区分し、第一期における改革成果を評価しつつ、第二期における具体的な施策を定める」としており、平成21 年9月の中間点において、後期5年間の重点施策の策定が必要となっている。
 本検討会においては、精神保健医療福祉を取り巻く環境の変化などを踏まえ、ビジョンに基づくこれまでの改革の成果を検証するとともに、入院患者の地域生活への移行の支援のための方策や、病床機能をはじめとする精神医療の機能分化の一層の推進のための方策など、今後の精神保健医療福祉のあり方等につ いて、客観的なデータに基づいた検討を行なう。』
 検討課題としては①地域生活支援体制の充実、②精神保健医療体制の再構築、③精神疾患に関する理解の深化、④その他が挙げられている。本検討委員会は現在までに、平成20 年4月11 日から14 回が行なわれ、その中間まとめが平成20 年11 月20 日に発表されている。詳細は次項に記す。平成21 年3月26 日から第15 回目が行なわれ、同年7月頃までの開催で、平成21 年9月に報告のまとめがなされる予定である。

 

2)検討会の内容
 議事については下記のとおりであった。

第1回 ①精神保健医療福祉の改革の経緯及び現状について
②今後の議論の進め方について
③その他
第2回 ①地域生活支援体制の充実について
②その他
第3回 ①精神保健医療体系について
②精神疾患に関する理解の深化について
③その他
第4回 ①精神疾患に関する理解の深化について
②精神障害者の方からのヒアリング
③地域移行の実践に関するヒアリング
④その他
第5回 ①「精神病床の利用状況に関する調査」報告について
②諸外国の精神保健医療福祉の動向について
③その他
第6回 これまでの議論の整理と今後の検討会の方向性について
第7回 これまでの議論の整理と今後の検討の方向性(論点整理)について
第8回 有識者からのヒアリング
第9回 ①論点整理の報告について
②平成21 年度概算要求の報告について
③障害者部会の状況報告について
④今後の進め方
⑤「精神病床の利用状況に関する調査」報告(詳細)について
第10 回 ①地域生活への移行・地域生活の支援について
・入院中から退院・退所までの支援の充実について
・住まいの場の確保について
・地域生活を支える福祉サービス等の充実について
②精神科救急・精神保健指定医について
・精神科救急医療体制について
・精神保健指定医の確保について
第11 回 相談支援について
第12 回 ①就労支援・社会適応訓練事業について
②精神保健指定医の確保について
③「精神保健福祉士の養成のあり方等に関する検討会」中間報告について
第13 回 障害者自立支援法の見直し等について
(今後の精神医療福祉あり方等に関する検討会「中間まとめ」)
第14 回 ①相談体制における行政機関の役割について
②障害者自立支援法の見直し等について
(今後の精神医療福祉あり方等に関する検討会「中間まとめ」)
第15 回 ①精神科救急について
②訪問看護について
③ケアマネジメント・ACTについて
④危機介入について
⑤その他

 第14 回までは、まず、この検討会の主要な議題を概観し、その後、障害者自立支援法の見直しを視野に入れ、障害者自立支援法に関する部分に対して重点的に議論を行なった。第15 回目以降は医療について重点的に議論が行なわれることになる見通しである。

 

3)中間まとめの内容

 概要は①相談支援について、②地域生活を支える福祉サービス等の充実について、③精神科救急医療の充実・精神保健指定医の確保について、④入院中から退院までの支援等の充実について、とまとめられている。
 この中で基本的な考え方としている点として、「相談支援については地域で生活を営む精神障害者に対し様々な支援を結び付け、(サービスを)15)円滑に利用できるようにする重要な機能であり、その充実強化を今後の施策の中核として位置づける。」と述べられている。それに加えて、「相談支援が十分に機能するためにも、多様な支援を必要とする精神障害者に対してケアマネジメントを行なう機能の充実を図る。」とし、「地域移行及び地域生活の支援については、障害者自立支援法に基づく障害者福祉サービスと保健医療サービスの密接な連携の下で行なわれることが不可欠であり、サービスの体制の一層の充実を図る。また、住まいの場についてもその確保のために重点的な取り組みを行なう。」の3つが挙げられている。
 以下、各論として、

・相談支援体制の充実・強化として精神障害者が病院などから地域生活へ移行し、安心して地域生活を営んでいけるよう、総合的な相談を行なう拠点的な機関の設置、地域における総合的な相談支援体制を充実すべき。
・精神障害者地域移行支援特別対策事業において行なわれている、病院からの退院等に向けた地域生活の準備のための同行支援に加え、居住サポート事業が担っている民間住宅等への入居時の支援や、緊急時に対応できる地域生活における24 時間の支援等について、全国のどの地域においても実施されるよう、個々の支援を評価する仕組みに改めるなど、充実を図るべき。
・ケアマネジメント機能の充実については精神障害者に対する、医療サービスも含めた総合的なケアマネジメント機能を充実する観点から、サービス利用計画作成費について、病院等から地域生活への移行や地域での自立した生活を営むことを目指す者を含め、その対象者を拡大するなど、充実を図るべき。
・精神障害者本人による自己選択、自己決定を尊重しつつ、個々の精神障害者の状況に応じたケアマネジメントが促進されるよう、サービス利用計画の作成手続について、現在支給決定後に作成することとなっている取扱いを見直すとともに、作成後においても、継続的にモニタリングを実施する仕組みとすべき。
・自立支援協議会も相談支援を効果的に実施するために、地域において関係者の有機的な連携を構築することが不可欠である。そのために、自立支援協議会の設置を促進し、運営の活性化を図っていく観点から法律上の性格を明確にすべき。
・相談支援の質の向上として研修事業の充実、精神障害者やその家族の視点や経験を重視した支援を充実するためのピアサポートなどの推進策を講ずるべき。
・相談支援に対する行政機関の役割としては市町村・保健所・精神保健福祉センターが適切な役割分担と密接な連携の下で相談に応じ、適切な支援を行なえるようにその体制の具体化を図るべき。
・精神保健福祉士のあり方も見直す。
・地域生活を支える福祉サービスとしては住まいの確保を重点的な課題として取り組む。生活支援等障害福祉サービス等の充実については訪問による生活支援の充実を図る、ショートステイの充実を図る、就労支援などの充実を図る、家族に対する支援も効果的に行なう。
・精神科救急医療の充実・精神保健指定医の確保については精神科救急医療体制の確保やモニタリングの実施を制度上位置づける、精神科救急と一般救急医療との連携についても制度上位置づけるべき。
・指定医については医療機関及び指定医への協力依頼や、輪番制などの体制整備に努めるよう促すべき。
・最後に、入院中から退院までの支援等の充実として、精神障害者の地域生活への移行及び地域生活の支援等の施策の推進体制について制度上位置付けるべき。
・その際、精神保健医療福祉に従事する者について、相互に連携・協力を図り、精神障害者の地域生活への移行や地域生活の支援に取り組む責務を明確化すべき。
・病院等から地域生活への移行を目指す精神障害者に対する個別支援の充実・強化とともに、自立支援協議会等の機能の活性化等を通じて、地域資源の開発や地域における連携の構築等、地域生活に必要な体制整備を行う機能についても、引き続き充実を図るべき。
・長期にわたり入院している精神障害者をはじめ、入院中の段階から地域生活への移行に先立って、試行的にグループホーム等での生活の体験や通所系の福祉サービスの利用ができる仕組みとすべき。

以上が中間まとめの主な内容である。

 

4)法改正に向けて

 第2回検討会で、委員から次のような発言があった。
 「7万人以上の人たちの地域移行を視野に入れて今後のケアマネジメントはまず対象者を拡大すべきであると考える。ケアマネージャーは希望する人全てに付けられるようにすべきである。そのくらい(積極的に地域からアプローチ)しないと7万人の精神障害者の地域移行を行っていくことは難しい。入院中の人も障害程度区分があり、希望する人には全てケアマネージャーが付き、マネージャーが地域への移行をコーディネートし、サービス利用計画を立てていくということが必要と考える。病院の任意の選択に任せることなく、ほぼ全員の患者さん、利用者に担当が付くということで病院の判断に偏ることなく、第三者が直接患者さんとアクセスして客観的な基準で判断していけるようになることが大切なのである。」
 「この地域生活支援の核となる相談支援事業は国の義務的経費で行うべきで、区市町村の裁量に任せる事業ではない。現在の7万人(と言われる社会的入院患者が存在するが)、今後の社会的入院を作らないための中核となる制度だと思うからである。是非国の義務的経費として支給決定をしていただきたい。」
 これらはこの地域移行において相談支援事業やケアマネジメントがいかに大切なものであるかということを述べている。病院の意向や善意だけでは地域移行は進まない。外から迎えに行き、時には圧力をかけ、時には協力連携体制の中で、入院加療が終わった段階では人は地域で生活するのは当たり前というような価値観を地域病院共に共有化していかなければならないのである。その役割を地域側で担うものとして、相談支援事業所が重要なのである。地域での生活の中にケアマネジメントは欠かせない。この相談支援事業の中に地域移行の推進を担うことがある意味で絶対的な役割であることが今後、事業所や行政側でも認識されることが重要と考えられる。
 こうした方向性について、厚生労働省は理解しており、障害者自立支援法の改正が行なわれる予定である。その結果を踏まえて、今後の精神保健医療福祉のありようも変わってくるものと考えられる。また先述したように3月以降は医療の問題、特に精神科病床数の問題についても活発な議論が行なわれる予定である。今後の展開から目が離せない状況である。

 

1-3.サービスに対する報酬

 地域移行に関する支援員の報酬を考える時、モデルになるのが介護保険の中の介護支援専門員の支援内容とその報酬体系である。以下、介護保険における介護支援専門員の報酬の現状である。
 介護保険制度の居宅介護支援(ケアマネジメント)に支払われる報酬は、担当する要介護者の介護度と加算によって規定されている。
 居宅介護支援の業務は、「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準」(平成11 年3 月31 日厚生省令第38 号)によって詳細に記されている。
 その内容は要介護者と支援契約を締結し、自立支援と尊厳の保持を目的とした「介護サービス計画書」を作成することの他、次の4種類に大別される。1つは介護サービス計画書作成の根拠となる情報収集及び課題分析(アセスメント)を行うこと。2つに介護サービス計画書の原案を作成し、それに基づいて「サービス担当者会議」を開催し、本人・家族、サービス事業者の同意を得ること。
 3つに、介護支援専門員は毎月1回以上利用者の居宅を訪問し、その生活状況を把握するとともに、計画に基づいて介護サービスが提供されているかのモニタリングを行うこと。4つには利用者の利益を優先した情報提供やサービスの手配を行うことである。通常の介護報酬は、要介護1・2 が1000 単位、要介護3・4・5 が1300 単位である。基準業務を満たしてない、あるいは介護支援専門員1人が40 人以上受け持っている場合には減算となる。なお、この報酬に自己負担はない。
 また、実務経験5年と規定の研修を修了した介護支援専門員は、さらに64時間の研修を受講することで「主任介護支援専門員」となる。その者の配置と介護支援専門員の人数を満たし、規定の業務を実施することで、毎月一人あたり「特定事業所加算(Ⅰ:500 単位、Ⅱ:300 単位)16)」を上乗せすることができる。規定の業務とは、①定期的会議の開催、②要介護度3~5の割合が5割以上、③24 時間支援体制、④定期的研修、⑤地域包括支援センターの依頼ケースの受理と事例検討会への参加、などである。そのほかにも、医療連携加算(150単位)、退院・退所加算(400 単位(入院30 日以内)、600 単位(入院等30 日以上))、独居高齢者加算(150 単位)、認知症加算(150 単位)、小規模多機能型居宅介護事業所連携加算(300 単位)、初回加算(250 単位)などがある。
 このように、介護支援専門員が行う居宅介護支援(ケアマネジメント)は、利用者との信頼関係を構築しながら、相談援助面接をとおして生活課題(ニーズ)を特定し、自立生活とQOL の向上を支援していく過程に対し、その専門性と介護保険の中核的な業務に対する一定の評価として介護報酬を支給されている。
 こうしたモデルを参考にして、地域移行についても相談支援事業の中で相談支援専門員が行う支援内容について、現状はサービス利用計画作成時のみ報酬があるが、それだけではない報酬の加算が検討されるべきであると考える。

16) 規定業務の実施項目により、事業所はⅠあるいはⅡに種別される。

 

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