5.考察

5-1.地域移行事業

(1)利用者数の増加と退院率の低下

 平成15 年度からの精神障害者退院促進支援事業に始まり、6年間で受託事業所数が増え、利用者数も増加している。一方、精神障害者退院促進支援モデル事業(以下、モデル事業)の終了後、すなわち平成18 年度以降、1事業所あたりの対象者は減り、退院率も低下していた。地域生活支援事業、精神障害者地域移行支援特別対策事業(以下、地域移行事業)として、事業は全国規模に広がったが、1事業所の実績は若干落ちていると云える。
 退院率は、平成20 年度から地域移行事業として、より一層地域移行を進めていくとされているのにもかかわらず、平成20 年度の退院率が最も低く、約20%であった。現在、支援途中であることを考慮しても、平成17 年度の50%近い退院率には届かないものと思われる。その一因として、事業開始当初、対象者となり地域生活に移行していった利用者は、退院阻害要因の少ない事例であった可能性が考えられる。平成19 年度に社会福祉法人巣立ち会が実施した、成果を出している事業所に対するインタビュー調査18)においても、支援員から「事業開始当初は結果を出せる利用者を受け入れていた」との発言があった。このことからも、現時点では、社会的入院者の中でもより困難な事例が、入院を継続している可能性が高いと思われる。「約7万人の社会的入院者の早期退院」という目標値に対し成果が出ていない状況の中、困難事例についても地域移行を進めていくには、地域での支援体制を整え、充実・強化を進めていくことが必要である。
 退院率の低下には、退院阻害要因の多い社会的入院者が事業を利用するようになったことが影響しているという上記仮説に加えて、事業所が病院・地域との連携の確立や対象者への働きかけの方法などを、いまだに模索している、という可能性も考えられる。効果的な支援方法を検討し、その普及を進めていくことが必要である。
 また、これまでの実践から、当初は退院が無理であると考えられた入院者も、事業所が経験を重ねることによって、退院の可能性が高まるという報告がなされている19)。事業所の経験を蓄積していくことも、効果的な支援方法を作り出し、さらには成果に繋がるものと考える。

18) 社会福祉法人巣立ち会(2008)『精神障害者退院促進支援事業における効果的なプログラムモデル構築に関する実証的研究』平成19 年度厚生労働省障害者保健福祉推進事業 障害者自立支援調査研究プロジェクト 精神障害者地域移行に関するモデル事業
19) 勝又裕子ほか(2008)『地域移行が難しいと思われがちなケースのテーマ別事例集』平成19 年度厚生労働省障害者保健福祉推進事業 障害者自立支援調査研究プロジェクト 精神障害者地域移行に関するモデル事業

 

(2)補助金

1)事業所等当たりの補助金額
 1事業所等当たりの補助金額は、モデル事業の終了後の平成18 年度に低くなったが、平成20 年度に地域移行事業となってから高くなっていた。これには、平成20 年度から事業を開始した都道府県の1事業所あたりの補助金額が、1,200 万円から1,300 万円と高額であったことが大きく影響している。また、平成19 年度以前にも、複数の事業所が委託を受けて実施しているが補助金額の回答は都道府県単位であり、その数値は1,000 万円以上である都道府県が多かった。この場合も、都道府県を1事業所等として算出している。したがって、実際には1事業所あたりの補助金額は、本調査で算出した平均値よりも低いと云える。調査協力者からの意見の中に、「地域移行を促進する為に、他事業の事業費を拡充し、人員を確保する」とあった。現状の補助金額は、地域移行を進める上で、充分であるとは云えないことを示唆するものであろう。
 補助金事業は成果によらず、定められた補助金が受託事業所に対して支払われる。事業費は年度当初から決定しており、対象者や業務が増えても、逆に対象者が少なかったり、退院者がないなど成果が出ていなかったりしても、補助金額は変わらない場合が多い。今後、さらに対象者を増やし事業を拡大していく為には、事業の成果による、あるいは地域移行支援として実施した業務に報酬が発生するなどの、いわゆる出来高払い制の方が地域移行を促進することに繋がるものと考える。
 また、事業の在り方に関しては、地域移行に関する事業として独立した形態よりも、広く相談支援事業の中に組み込み、事業規模を大きくすることが望ましいと考える。それは、地域移行事業において成果を出している事業所の実践から検討されている20)ように、複数の支援員が連携して関わり地域移行を進め ることが、成果に繋がると考えられるからである。職員の複数配置をする為には、相談支援事業所の中に組み込まれることが、実現可能性の観点からも妥当であると考える。

2)支援員あたりの補助金額
 支援員1人あたりの補助金額は、各年度平均値の範囲が約500 万円から約800 万円であった。常勤支援員の人件費の約2倍程度と云えるであろう。年度や事業所等によって非常にばらつきが大きかったが、これは支援員の勤務時間等を変数として投入していないことによるものである。最も低かった事業所は全支援員が非常勤であった。支援員1人あたりの補助金額が低い事業所では、必要に応じて非常勤の支援員が、短時間活動するという体制をとっているものと推察される。支援員1人あたりの補助金額から、支援の質を判断することは出来ないが、地域移行支援は時期によって必要な関わりが異なる為、随時、短時間の活動を行うといった柔軟な対応が必要である。このような支援員1人あたりの補助金額が低い事業所では、効率的な支援が行われているものと考える。

3)利用者あたりの補助金額、および退院者あたりの補助金額
 1事業所あたりの利用者人数や退院者数ではなく、国庫補助事業として、補助金額がどの程度の成果につながっているかという観点から、利用者あたりの補助金額、および退院者あたりの補助金額を算出した。
 利用者1人あたりの補助金額も、年度や事業所等によって非常にばらつきが大きく、最も高い値は約1,206 万円、最も低い値は約2万5,000 円であった。退院者1人あたりの補助金額も同様にばらつきが大きく、最も高い値は約1,704 万円、最も低い値は約5万円であった。また、利用者0人、退院者0人という事業所もみられた。
 これらの値は、事業所の様々な要因による違いを示すものである。支援方法を模索している段階であり、広域支援や、交通の便の問題など、地域による課題を抱えている事業所も少なくない。利用者0名という実態から、まずは積極的に利用者を受け入れていくことが現在の課題である事業所が、いまだに多いことが分かる。したがって、そういった事業所では、病院・地域に対する啓発活動や、事業説明を重点的に進めていく必要があるだろう。しかし、地域移行事業においては、「平成24 年度までに退院可能な精神障害者が退院することを目指す」とされている為、この目標を達成する為には、啓発活動と同時に、効果的な支援の在り方の検討・普及も進めていかなければならないと考える。
 利用者によっては密度の濃い関わりや、退院に至るまで十分な期間を要する場合がある。その為に、受け入れ人数を増やせないことや、単年度では退院に至らないことは少なくない。また、事業開始当初は、啓発活動が主となり、利用者数の受け入れや、退院者を出すことに繋がらない場合もあり得る。しかし、全国で地域移行支援事業が進められ、支援活動の基盤が整えられた後には、利用者人数、あるいは退院者数等、地域移行支援として実施した業務に報酬が発生する、いわゆる出来高払い制を検討していく必要があると考える。
 絶対値として補助金額の増加を求めるのではなく、限られた財源の中で成果を出す為の、より効率的な支援の在り方を検討し、補助金を有効に利用して目標値の達成に繋げていくことが重要であろう。

20) 社会福祉法人巣立ち会(2007)『退院支援を効果的に行うためのシステム構築』平成18 年度精神障害者退院促進並びに地域生活移行推進モデル事業

 

5-2.利用者

 利用者の平均入院期間は、直近入院期間で7年半以上、通算入院期間で13年半以上であった。平均年齢が50 歳前後、初診年齢が20 代半ばであったことから、発症後の期間のうち、2分の1に相当する時間を病院内で過ごしてきたことになる。これは、一度入院したら退院出来なくなるということに加えて、障害を抱えた者が地域で生活していくことが非常に困難な状況にあることを示唆しているものと考える。
 また、身体合併症を有する者が2割以上であり、複数の疾患を患う者も少なくなかった。現在も社会的入院を強いられている者には、入院が長引く事による高齢化、それに伴う内科的疾患の発生、あるいは合併症の悪化といった可能性が危惧される。精神科領域でそういった高齢化による問題を抱えているのが現状である。例えば、退院したものの、精神疾患以外の症状が悪化し、当該科の病院では受け入れられず、精神科病院に再入院せざる得ないことが少なくない。あるいは、精神疾患以外の症状が退院阻害要因となり、精神疾患は寛解しているのにもかかわらず入院を継続し、地域移行支援事業の対象者にすらならない場合もある。精神障害者の地域移行においては、介護保険で対処すべき問題について、どのように進めていくかも課題として検討していかなければならない。また、ニューロングステイと呼ばれる長期入院に移行する可能性のある入院者については、より早い段階で退院を促し地域移行を進めていかなければならないと考える。
 支援開始から退院までの平均期間は約8.6 ヵ月、退院後支援期間は約2.6 ヵ月であった。赤沼21)は、「退院促進支援事業によって退院に至る為には、173 日(約6 ヵ月)以上の訓練期間が必要」であり、「実際に退院に至った事例の平均訓練期間は242 日(約8 ヵ月)であった」、と報告している。各都道府県等の報告書においても、大阪府22)では平均9.7 ヵ月、川崎市23)で平均8.4 ヵ月、東京都24)で平均8.7 ヵ月と報告されている。このことからも、退院までの支援期間は、約8ヵ月が必要であると考えられる。地域移行支援事業実施要綱には、「入院・入所中から一定期間関与することとし、退院・退所後の支援期間は原則6ヵ月を上限とする」と記載されている。退院促進支援事業実施要綱の「訓練期間は原則として6ヵ月以内とし、必要に応じて更新する」、「退院後1ヵ月に限り支援を継続することが出来る」と比較すると、柔軟な対応が可能となった。しかし、入院中の支援から退院後支援までは、本調査対象者に限っても約1年であり、多くの利用者が、2年度以上にわたる支援を受けていることになる。
有期限の事業では、実態に即した支援が行いにくいというのが実情である。また、退院後支援については、一定期間を過ぎれば終了出来るものではない。地域での生活支援は、継続して必要とされるものである。地域移行と地域定着、地域生活支援が、円滑に進む体制が整えられていく必要がある。

 

21) 赤沼麻矢(2007)精神障害者退院促進支援事業における対象者個別事例の質的比較―ブール代数アプローチを用いて―『社会福祉学』Vol.48,No.3, pp.42-54
22)大阪府健康福祉部障害保健福祉室精神保健福祉課(2006)「大阪府自立支援促進会議・ 退院促進支援事業報告書-5 年間のまとめ-
23) 川崎市(2006)『平成17年度川崎市精神障害者退院促進支援事業報告―自立支援概 要』(第2回運営委員会報告資料)
24) 東京都福祉保健局障害施策推進部精神保健福祉課(2006)『平成16年度・平成17 年度東京都精神障害者退院促進モデル事業の報告―精神障害者の退院促進をすすめるための地域からの支援』東京都

 

5-3.支援員

 支援員の有する資格では、精神保健福祉士が最も多く約半数、次いで、社会福祉士が2割弱であった。この2職種が7割近くを占めていることになる。地域移行支援事業実施要綱において、地域体制整備コーディネーターと地域移行推進員は「精神保健福祉士又はこれと同程度の知識を有する者」とされている。
地域移行に携わる支援員の職種として、精神保健福祉士、社会福祉士に対しての、加算が検討されるべきではないだろうか。
 一方、精神保健福祉士、社会福祉士以外にも、様々な職種が支援に関わっており、約1割は当事者によるものであった。地域移行支援には、多様な関わりが必要であり、精神保健福祉士だけでなく、個々人の特性を活かした支援も求められる。
 中でも当事者支援員については、近年、ピアサポーター研修会などが多く開催され、養成が進められている。当事者支援員の特性は、利用者と互いに理解し合えるという点である。例えば、同行支援ではその特性がより活かされるものと思われる。病院での生活から地域へと移行していく上で、外出を複数回繰り返していくことは非常に重要である。退院意欲の低い利用者については、病院以外での経験を重ねることで、徐々に変化を見せる者が少なくない。その際、利用者の気持ちに寄り添い、支えていくことが求められる同行支援において、当事者支援員の果たす役割が有効なものと考える。

 

5-4.利用者の受けた支援

 利用者が支援を受けた日数は、1週間に約2日であった。しかし、調査対象者の中には、調査期間中は本人の希望により支援を中断している者、調査期間後半から支援を開始した利用者も含まれた。これらの点を考慮すると、今回の調査結果よりも、実際には若干多くの支援が行われているものと推察される。
 調査項目の中では、「7.病院との電話連絡・会議」の支援が最も多かった。
地域移行支援を進めていく上で、医療機関との連絡調整は必要不可欠なものである。それを支持する結果となった。
 「1.個別支援計画作成(ケア会議など)」は、2週間で0.5 日であった。これは、利用者の半数について、調査期間中に個別支援計画の作成が行われたということである。退院支援開始時の個別支援計画作成と、退院後の個別支援計画作成で、約半数の利用者に対し個別支援計画の作成が行われたと推察される。
 「5.住まい探しの援助」は2週間で平均0.3 日と非常に少なかった。まだ居住支援まで進んでいない、または退院先が決定している、既に退院している利用者が多くを占めていたことによるものと考えられる。
 「6.家族支援(電話・面接による情報提供および相談・助言)」が、2週間で平均0.4 日という結果は、その重要性から考えると非常に少ないと考える。今後、家族支援をどのように進めていくか、有効な支援の在り方を検討していく必要がある。

 

5-5.支援員の行った支援

(1)支援回数

 支援員が行った支援では、電話連絡・会議が多く、地域移行支援における、関係機関との連絡調整の重要性が示唆された。また、これらの項目は非常勤職員よりは常勤職員の方が、より頻繁に行っていた。一方、「2.院外活動にかかわる同行支援(福祉サービス体験利用、散歩・買い物・役所への同行)」は、随時勤務の支援員が頻繁に行っていた。随時勤務の支援員には当事者が多かったことから、同行支援で当事者支援員が活かされ、関係機関と連携をとる上では常勤職員が機能しているものと考えられた。

 

(2)支援時間

 支援員が費やした時間の最も長かった支援項目は、「10.その他」であった。これは、移動時間や事務処理時間、研修等が含まれている為である。特に、研修は一日かけて行われることが多く、開催する場合には準備も必要であり、支援員の業務の中で多くの時間を費やすものである。支援員の負担も大きいものと考えられた。
 週5日勤務で専従の支援員が退院支援に費やした時間は、2週間で平均38.5 時間であり、フェイスシートでの1週間で35.7 時間という回答の約2分の1であった。「調査票に記入したものは、業務のほんの一部である」との意見もあり、調査票の支援項目以外に、多くの業務を担っているものと思われる。個別支援に必要な個人記録や、事業利用にかかわる書類作成など、支援員の業務は直接的な支援だけではない。「10.その他」に記載された事項には、「記録」や「事務処理業務」が多く見られたが、記入しなかった調査協力者も多かったのではないかと推察される。支援員が地域移行に費やす時間の全体は、フェイスシートの設問において支援員の主観で回答された時間数の方が、実態を反映しているのではないかと思われる。
 ただし、これらの値は平均値である。週5日勤務の専従支援員で、フェイスシートの設問において地域移行に費やす時間が1週間に50 時間という回答があった。また、この支援員の調査票集計結果では、事務処理業務を含めずに、2週間で62 時間以上を支援に費やしていた。このように、多くの時間を支援に費やしている支援員がいる一方で、一部では地域移行支援に十分な時間が割かれていなかったと云えるであろう。その原因として、現状では、支援員が地域移行支援に時間をかける体制が整っていない可能性が考えられる。また、その実際としては、支援員が支援方法を模索している状態、支援員が非常勤や兼務である為に時間をかけられない状態、などが挙げられるであろう。地域による課題などを抱える中、関係機関と連携をとり、円滑に地域移行を進める為には、地域支援ネットワークの構築などを含め、支援体制の整備が進められなければならない。

 

(3)支援を1回行うのに要する時間

 最も時間を要する支援は「2.院外活動にかかわる同行支援(福祉サービスの体験利用、散歩・買い物・役所への同行)」であり、次いで「10.その他」、「1.個別支援計画作成(ケア会議など)」であった。
 「10.その他」の項目については、上述の通り2時間程度の移動時間や、1日かけて行われる研修、個人記録の作成、事務処理業務が含まれており、平均時間が長くなっていた。これらのうち、特に研修の実施や事務処理業務における支援員の負担は、非常に大きいと思われる。「2.院外活動にかかわる同行支援(福祉サービスの体験利用、散歩・買い物・役所への同行)」は、ある程度の時間が必要であるが、支援員の負担感よりは、その重要性に着目すべきであると考える。
 「1.個別支援計画作成(ケア会議など)」は、支援を進める上で必ず行われるものであり、平均で約1時間半が費やされていた。支援の中では、最もその実施が具体的で明確であり、報酬化を考えていく上では、重要な項目となると考える。
 「退院に向けた相談・助言」は平均で48.6 分であった。これには、電話での相談・助言も含まれており、かなりの時間をかけて利用者に対応してい ると云える。また、日々の関わりの中でではなく、時間をとった面接という形態で行われる場合には、1時間以上を費やしていると推察され、丁寧な対応が行われていると思われる。
 最も費やす時間の短い支援は、「7.病院との電話連絡・会議」であり、平均で18.6 分であった。時間をかけての会議よりも、電話による連絡が頻繁に行われている、という実態が反映されているものと考える。

 

5-6.「10.その他」に記載された支援

(1)実施方法による分類

 「10.その他」には、具体的な支援内容が、多岐にわたり記載されていた。「同行支援」や「連絡調整」など、調査票項目に含まれると判断できる事項も多いが、項目の表現が分かりにくかったようである。
 現行の事業実施要綱の項目に当てはまらないものに、「研修」や「調査協力」、「事務作業」、「移動時間」などがあった。「研修」については、効果的な支援を進める上で、重要な活動であると考える。地域体制整備コーディネーターだけでなく、地域移行推進員の業務にも含める必要があると考える。
 記載された事項は、その内容による分類よりも、面接、訪問、事務作業、会議またはカンファレンス等、その実施方法に共通点を見出しやすいものが多かった。例えば、会議の中で検討される事案は様々である。それは、退院に向けたことであったり、地域生活に関することであったり、住まい探しに関することであったりするものである。また、地域移行推進員と病院職員、または役所職員、訓練先の職員、場合によっては不動産屋も含め、複数機関の職員で会議を行うこともある。このような場合については、調査票の項目には該当しないと判断されたであろう。事業を開始する際に、実際の支援活動の参考とするものとしては、実施方法ごとに提示されている方が、把握しやすいと考える。
 また、報酬化を検討するうえでも、実施方法による支援の分類が、有用なものと考える。例えば、本調査では、病院との連絡調整を「7.病院との電話連絡・会議」として項目を立て、調査票を作成した。しかし、電話連絡と会議とでは、支援員の負担感等に大きな差異があると思われる。頻繁な電話連絡は必要不可欠であるが、報酬化を検討していく上では、会議によるものの方が、その頻度や費やす時間等が明確であり、実態が把握しやすい。会議と同様に、一定の時間を要する、訪問や相談・助言を含む面接等を、報酬化の対象とすることが、実現可能性の観点から妥当であると考える。

 

(2)支援内容による分類

 「退院後支援」の多くは「訪問」や「直接支援」であり、「連絡調整」はほぼ電話によるものであった。
 具体的な内容をみると、「退院後支援」は、危機介入や代行、金銭管理や生活支援であった。迅速な対応や、利用者の生活能力に合わせた丁寧な関わりが求められるものである。入院中の訓練における支援よりも、支援員の経験や能力が必要であると考える。地域移行では、退院後の地域生活支援を充実・強化する必要があることを示唆するものであろう。
 また、「連絡調整」の内容をみると、関係機関が非常に多岐にわたっていることが分かる。現行の実施要綱には、地域移行推進員の行う支援として、「退院後の生活に係る関係機関との連絡・調整」と記載されている。「関係機関への周知」、「関係機関との連携」、「体制整備に向けた調整」などは、都道府県や地域体制整備コーディネーターの役割とされているものである。しかし、実際に支援活動を行う地域移行推進員にとって関係機関との連携は重要であり、中心となり地域支援ネットワークの構築を進めていく必要があると考える。

 

5-7.調査協力者からの意見

(1)現状の問題点

 問題点として記載されていた事項は、支援体制やネットワークの整備が進んでいない点についてであった。特に圏域が広い場合には、移動時間が支援員にとって大きな負担であり、地域移行を進める上での阻害要因と考えられる為、より大きな問題となっていた。移動時間が長いことによって、妨げられる支援として、まず同行支援が挙げられる。支援の中でも、同行支援は利用者の動機づけを高め、支援員との関係性を構築していく上で、重要なものである。移動時間の問題を解消する為には、担当地区を再編する、あるいは各地域在住の当事者支援員を活用するなどの検討が急務である。
 また、記載された事項から支援員の負担感は非常に大きいと推察された。兼務であること、事業以外の業務も多くあることが、その原因となっていた。「10.その他」には「アンケート」という事項が記載されており、本調査も含め障害者保健福祉推進事業により生じる、事務処理業務は多大であると思われた。

 

(2)工夫している点・必要とされているもの・今後の展望

 「ネットワークを拡げる為の自立支援協議会、退院支援部会などを開催している」との記載があった。これは、現状では地域支援ネットワークが十分に機能していないことを裏付けるものでもある。「必要とされているもの」としても、ネットワークの構築や、地域支援の充実・強化が挙げられており、地域移行における大きな課題であろう。
 また、「地域移行を促進する為に、他事業の事業費拡充し、人員を確保する」という記載があった。上述のように、複数の支援員が連携して関わり地域移行を進めることが、成果を出すには重要である。地域移行は独立した事業形態よりも、事業規模を大きくし、その中で進めていくことが期待される。また、支援方法を構築していくには、経験が必要である。意見の中にも、「ケースの積み重ねによる、地域支援ネットワークの構築を進めていきたい」との記載があった。事業拡大を進めるだけでなく、恒常的な事業として取り組まれていくべきものであろう。

 

(3)支援内容・利用者

 「調査期間中は同行支援が著しく少なかった」との記載があった。これに該当する利用者数が非常に多かったことから、調査結果に与えている影響は大きいものと考えられる。「2.院外活動にかかわる同行支援(福祉サービス体験利用、散歩・買い物・役所への同行)」は、利用者が支援を受けた平均日数、支援員が支援を行った平均回数ともに、高い値ではなかった。しかし、実際としては、本調査結果よりも、多くの同行支援が行われていると推察される。
 支援内容について記載された事項をみると、時間をかけて関わりが持たれていることが分かる。利用者の詳細の中にも記載されていたように、利用者によっては、気持ちに寄り添い、状態によっては待つこと、見守ることが必要な場合もある。その際、同行支援は有用であり、当事者による場合は、より有効である。今後、さらに当事者が支援員として活躍していくことに期待する。

 

(4)本調査について

 

 上述のように((1)現状の問題点)、本調査も含め多くの調査への回答を求められていることが、支援員の負担となっていた。種々の調査結果が、地域移行の体制整備や、ネットワークの構築など、地域移行における問題の解消に寄与することを期待する。

 

5-8.報酬化

 報酬化を考える上では、支援の重要性や支援員の負担、実現可能性を考慮する必要がある。本調査結果からは、個別支援計画作成と同行支援、関係機関との連絡調整会議について、報酬を検討していく必要があると思われた。まず、個別支援計画作成は、1回行うのに要する平均時間が約1時間半であり、1つの事項としては長時間を要するものであった。一方、地域移行支援の中で、個別支援計画作成の頻度は非常に低い。2週間で支援員1人が行った支援回数は、全項目の合計が平均17.8 回に対し、「1.個別支援計画作成(ケア会議など)」は平均1.0 回であった。支援員の業務に占める割合は、1割にも満たないものであった。しかし、個別支援計画作成には、日々の個人記録の作成や、関係機関との連絡調整も伴い、業務全般がかかわるものである。このような負担を考慮したものでなければならないと考える。具体的な報酬を検討する上では、相談支援事業におけるサービス利用計画作成、介護保険におけるケアプラン作成が参考になるであろう。相談支援事業のサービス利用計画作成では、8,500 円の報酬が定められている。介護保険は、介護度によって異なり、介護度1・2では1件10,000 円、3・4・5では13,000 円、それ以外に初期加算、特定加算、退院時加算などがある。地域移行支援における個別支援計画作成にも、サービス利用計画作成、ケアプラン作成と同等、あるいはそれ以上の報酬が期待される。
 次に、同行支援は、1回行うのに要する平均時間が2時間半近くと、非常に長かった。また、実際は頻繁に行われていると推察され、その有用性も高いものである。支援員の負担と有用性の2つの観点から、報酬化を考えていく上で重要な項目であると考える。
 最後に、関係機関との連絡調整会議である。本調査では、「7.病院との電話連絡・会議」、「8.役所との電話連絡・会議」、「9.通所機関・宿泊訓練先・その他との電話連絡・会議」として、複数の項目にわたり集計を行った。また、電話連絡も含むものである。本調査における、1回行うのに要する平均時間は、約20 分から30 分程度であったが、当然ながら電話連絡はこれらの数値より低く、会議は高い値であろう。電話連絡は、短時間で頻繁に行われ、かつ支援を進める上で必要不可欠ではある。しかし、実際のところ、電話連絡について報酬化を考えると、実現可能性は非常に低い。報酬を考えていく上では、実施が具体的で明確である、会議の実施を、1つの事項とすることを提案する。

 

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