6.今後の展望

 本調査は、支援の実態から地域移行事業の適切な報酬化について検討し、提案していくことを目的として行った。その結果、①個別支援計画作成、②同行支援、③関係機関との連絡調整会議、の3点については、支援員の負担が大きく、それに見合う報酬が期待され、報酬体系の実現可能性も高いと考えられた。
 また、地域移行を進める上での、多くの問題点が明らかとなった。いまだに啓発活動が不十分であることや、支援体制の不備、受け入れ先の不足なども、改めて認識された。これらを解消するには、活発な啓発活動、社会資源の確保、研修会の実施などによる効果的な支援の在り方の普及を進めていく必要がある。さらに、その為には、地域に対してどのような理解を求めれば良いのか、どのような社会資源が最も求められているのか、当事者および支援員が何を求めているのかを、再度確認していく必要があるだろう。
 特に、効果的な支援の在り方については、地域により異なる問題や、社会資源の状況等も考慮し、検討していかなければならない。また、事業開始当初に比べ、社会的入院者の中でもより困難な事例が入院を継続していると考えられる。退院阻害要因については、これまで種々の調査で明らかにされているものの、各要因への適切な対処は示されていない。困難事例の場合、訓練期間は長くなることが予想されるが、時間をかけることが必要であるのか、他に充実させるべき要素があるのか、現状では不明瞭であると言わざるを得ない。地域移行における課題の明確化と、効果的な支援方法の検証が、まずはなされるべきであろう。
 また、これまでに行われていた退院をアウトプットとした支援の効果検証だけではなく、地域生活の継続をアウトプットとした検証も進めていかなければならない。退院後の関わりがどうあるべきかが明示されることは、支援員にとって、ひいては当事者にとっても、地域生活の見通しが立てられるということに繋がる。それは、支援員と当事者の両者の、地域移行に対する動機づけが高められることになるだろう。さらに、地域が第2の社会的入院と云われるような閉じた環境にならないよう、地域生活の質的な側面や当事者の心理社会的な側面にも着目し、検討していくことが重要である。

 

おわりに

 この報告書を作成している間に、うれしいニュースが飛び込んできた。平成21 年3 月31 日に障害者自立支援法改正案が閣議決定され、国会に提出されたのである。
 改正内容の主なものに、「利用者負担の見直し」、「障害者の範囲及び障害程度区分の見直し」、「相談支援の充実」、「障害児支援の強化」、「地域における自立した生活のための支援の充実」の5点が挙げられている。「利用者負担の見直し」は、応能負担を原則にするものである。「障害者の範囲及び障害程度区分の見直し」では、発達障害を自立支援法の対象とすることを明確化し、障害程度区分の名称と定義を見直す。「障害児支援の強化」により、障害種別に分かれている施設を一元化し、通所サービスの実施主体を都道府県から市町村へ移す。「地域における自立した生活のための支援の充実」として、グループホーム・ケアホーム利用の際の助成を創設する、というものである。
 また、「相談支援の充実」では、基幹相談支援センターの設置や自立支援協議会の強化・法文化、そして支給決定手続きの見直しについて定められている。現状の、サービス利用が決定してからサービス利用計画を作成するという形態から、支給決定前にサービス利用計画案を作成し、支給決定の参考とするように見直されている。
 そして、今回の法改正では、「地域移行及び地域定着のための相談支援の定義」として、①「地域移行支援」とは(・・・中略・・・)、精神科病院に入院している精神障害者につき、住居の確保その他の地域における生活に移行するための活動に関する相談その他の便宜を供与することをいう、②「地域定着支援」とは、居宅において単身等の状況において生活する障害者につき、当該障害者との常時の連携体制を確保し、障害特性に起因して生じた緊急の事態において相談その他の便宜を供与することをいう、③地域相談支援給付費または特定地域相談支援給付費の支給を受けようとする障害者は、市町村の地域相談支援給付決定を受けなければならないものとし、所要の手続きを定める、④市町村は、地域相談支援給付決定を受けた障害者が、都道府県知事が指定する指定一般相談支援事業者から指定地域相談支援を受けたときは、地域相談支援給付費を支給する、などが法文化された。
 これは、今回の調査の趣旨にかかわる部分である。精神障害者の地域移行支援を行なうための支援体制が法文化され、期間限定の事業ではなく、恒常的な事業となることの見通しが立ってきたのである。私が最初に願っていたことであり、大いに評価すべきことと考える。この先に、どのような報酬体系にしていくかという議論がされるはずである。この調査結果は、非常にタイムリーに行政の参考資料となりうるであろう。
 今回、非常にご多忙な中、この調査にご協力してくださった方たちに心からの感謝の念を申し上げたいと思う。地域移行の支援を行なう際、実態はどうなっているのか、どれだけの努力をしているか、どのような支援をしているか、どのような点で困っているか、皆さんから寄せられた声と現実をしっかり行政に届け、社会的入院の問題に関して大きく貢献することを願ってやまない。精神障害者が地域で当たり前に生活するべきだという思いは、支援員にとって共通するものであろう。これからも長期の入院を余儀なくされている利用者の為に、あらゆる制度・社会資源・協力者を得ていきたい。そして、少しでも早く、少しでも多くの人達が地域での生活を取り戻す為に、力の限りを尽くし、支援を続けていくことをお約束したい。

 

社会福祉法人 巣立ち会
田尾有樹子

 

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