第3章 肢体不自由者の住まいの現状と課題

Ⅰ 現状の整理

1 運営主体と開設の経緯

・運営主体では、任意団体(運営委員会方式を含む)、有限会社、特定非営利活動法人、社会福祉法人、個人と12 事例で5 つのパターンがあり、多様な方式があると言える。
・開設年も、「生活ホームオエヴィス」を除くと、ここ10 年以内と新しく、支援費制度の議論から自立支援法に至るまでに、「地域生活移行(継続)」の考え方が徐々に浸透し、実現が進みつつあることが分かる。
・開設の経緯をみると、親や親の会が立ち上げたものが多く、障がい当事者の発案が2 件、施設職員だった方の取組が1件ある。法人としての取組が1 件あるが、開設にあたっては、本人、家族や職員と一緒に検討するというプロセスを経ている。

 

表3-1 運営主体と開設の経緯

住まいの名称 運営主体/
開設年
開設の経緯
1 あおば生活ホーム「俊」 任意団体
/2000 年
通所施設「あおば園」に子ども通わせている親が将来に備えて、重度の障がいがあっても地域で生活できるホームをつくりたいという考えをもった。
2 あずましや支援ハウス 有限会社
/2004 年
障がい者の入所施設に長く勤務していた大家さんが、施設でのプライバシーのない生活、職員の都合で動く介護に疑問を感じて、自分で始めた。
3 生活ホーム 「オエヴィス」「もんてん」 社会福祉法人
/1990 年
障がいをもつ2 人の姉妹が、親の死をきっかけに自立した生活を継続するため、生活ホーム事業を利用して開設
4 よつばホーム 運営委員会
/2001 年
新たなデイサービスの場を模索していくなかで、家族のレスパイトを実現するため公団マンションの1室から開始した。
5 グループホーム「ゆい」 社会福祉法人
/2002 年
運営委員会型の身体障がい者のグループホーム制度が横浜市にはあったが、作業所等に通所していない方には、入居の機会がなかった。身体障がい者施設を運営する法人として地域生活支援に取り組むため、本人、家族や職員と一緒に、勉強会を始め、身体障がいの方が利用できるグループホームを検討するようになった。
6 IL ホーム
「ソレイユ小倉寺」
特定非営利活動法人
/2009 年
障がい当事者である2 人が、小規模作業所からスタートし、自立支援法の成立をきっかけに、建築関係者、大学助教授らとともに研究会を立ち上げ、必要な支援は何かを考え、住宅確保に行き着いた。
7 多機能型地域交流ハウス
「があだぱーと」
任意団体
/2004 年
高等養護の寄宿生活を終える子どもを入所施設ではなく地域で生活するため、親が共同でケアするよう、他の親に声をかけて共同生活を開始した。
8 ケアホーム
「野ぶどう」
社会福祉法人
/2005 年
親の会の強い要請を受け、法人が中心となって、養護学校卒業後に地域で生活できるよう、ケアホームを建設する土地探しから始めた。
9 笑い太鼓グループホーム
「パークサイド」
任意団体
/2009 年
中途障がいである高次脳機能障がいの息子のために、当初は近くのマンションの一室を借りた。その後、同様な障がいの他の人も宿泊訓練として一緒に住めるように一軒家を借りた。現在は証券会社の独身寮に引っ越した。
10 身体障がい者の生活の場「まちなか」 特定非営利活動法人
/2005 年
支援費制度が始まる前に自立体験室をつくり、自立を目指す身体障がいの方が多く利用したが、一人暮らしでは不安だが共同生活なら、という声があり、地域での自立生活を目指すためのワンステップとして「まちなか」を開設した。
11 すまいるはーと 特定非営利活動法人
/開設準備中
肢体不自由のわが子を持つ親たちが子どもの自立に向け、親以外の人からの介助を受ける機会として日中一時支援事業を開始。その後、住まいの場も必要と考え、日中一時を行っている建物(中古住宅)の2 階を居住の場として利用することを計画している。制度の活用も考え、NPO 法人を立ち上げたが、具体的な運営については模索中。
12 フロンティア 個人
/2005 年
居住者の母親が、親亡き後も地域での生活を続けさせたいと考え、母親と親戚関係にあるオーナーにより建設された。

 

2 土地・建物の確保と制度活用の状況

・土地・建物は、大家や所有者(オーナー)、不動産会社などが所有し、建物を一括で賃貸しているケースが5 件と多い。また、運営主体が自ら土地や建物を所有しているケースは3件である。
・制度としては、県や市の単独事業を活用しているケースが5 件で、「生活ホーム」「障がい者グループホーム」と位置付けられている。また、1件は福祉には限定しない制度の助成金(地域政策総合補助金)を活用している。一方、制度を活用していないケースは7 件である。

 

 表3-2 土地・建物の確保と制度活用の状況

住まいの名称 土地・建物の確保方法 制度の活用
1 あおば生活ホーム
「俊」
土地・建物は大家さんの所有で、団体が建物の1階を丸ごと賃貸 県事業「生活ホーム事業」を活用(09 年から市事業)1 ホーム400 万円の家賃補助
2 あずましや支援ハウス 銀行借入で自己資金で購入(街中の元焼肉店を競売で落札。土地代 2,500 万、改修費5,400 万)。設計も代表者自ら行い、改修工事にも加わった。 活用していない
3 生活ホーム 「オエヴィス」「もんてん」 障がいを持つ姉妹の親が娘たちのために土地と建物を提供。現在は姉妹ともに亡くなったが、引き続き賃貸契約している。 県事業「生活ホーム事業」を活用
4 よつばホーム オーナーは不動産事業者 市の「横浜市における障害者グループホーム助成制度」を活用(いわゆる「運営委員会方式」)
5 グループホーム「ゆい」 地元の不動産会社が地主から土地を借り受け、グループホームの建物を建設。
法人が、不動産会社から20 年間の一括借り上げで契約している。
市の「横浜市における障害者グループホーム助成制度」を活用(いわゆる「法人」)
6 IL ホーム
「ソレイユ小倉寺」
オーナーは地主。住宅全体を一括賃貸 活用していない(一般の集合住宅と同じ)
7 多機能型地域交流ハウス
「があだぱーと」
土地・住宅を自分達で取得。皆で持ち寄った資金が1,100 万と寄付が120 万円から捻出(インターネットの競売物件で、880 万円。バリアフリー改修に70万円。) 活用していない
8 ケアホーム
「野ぶどう」
法人が土地と建物を取得(日本財団の補助有り) 道の地域政策総合補助金の助成、及び市からの助成
9 笑い太鼓グループホーム
「パークサイド」
代表者が個人的に賃貸契約。 活用していない
10 身体障がい者の生活の場「まちなか」 知人から市街地にある賃貸物件紹介してもらった。 活用していない
11 すまいるはーと 不動産会社からの紹介。バリアフリーの建物はなかなか見つからず、改修することとし、購入については親の負担や知人からの借入。 活用していない
12 フロンティア オーナーの土地にオーナーの資金で建物を新築。オーナーが大家となり、居住者が家賃と管理費を納めるという、一般的の集合住宅と同じ形式で運営。 活用していない

 

3 運営(収支)の状況

・家賃は部屋の広さにもよるが、概ね2 万円台から4万円台が多い。最大は6 万円。
・家賃収入だけでは賄い切れないため、公的な補助を受けるか、法人内での別事業の収入により、全体をやり繰りしているケースが多い。居宅介護事業所は別法人として設置している例もある。

 表3-3 運営(収支)の状況

住まいの名称 運営(1年間) 個人負担(1ヵ月あたり)
1 あおば生活ホーム
「俊」
収支(1 年間)
【収入】
入居者家賃   400 万
市からの補助金 800 万
寄付金    250 万
合 計    1,450 万
【支出】
人件費   2,100 万
※これだけで赤字
家賃 6 万円
食費 1.5 万円
(緊急の宿泊は5 千円)
2 あずましや支援ハウス 【収入】
入居者家賃  285 万
事業収入   1,920 万
法人持ち出し 100 万
合 計 2,345 万
家賃 2 万円
管理費 1.2 万から1.6 万
食費 個人の利用状況による
3 生活ホーム 「オエヴィス」「もんてん」 【収入】
入居者家賃等 95 万
県補助金    500 万
事業収入    12 万
合計      607 万
家賃 4.5 万円
管理費 2 千~8千円
食費 個人の利用状況による
4 よつばホーム 【収入】
入居者家賃 700 万
公的補助金 1,100 万
合計     1,800 万
家賃 5 万750 円
水道光熱費・食費は、個人の利用に応じる
6 IL ホーム
「ソレイユ小倉寺」
(未定) 家賃 36,000 円から
53,000 円
共益費 3,000 円
光熱費 部屋ごと
駐車場 4,000 円(利用者のみ)
7 多機能型地域交流ハウス
「があだぱーと」
【収入】
入居者家賃 120 万
家賃(週4) 4.5 万円
(週1) 1万円
管理費 1 万8 千円(水道光熱費、食費を含む)
8 ケアホーム
「野ぶどう」
【収入】
入居者家賃 725 万
事業収入  5,502 万
合計     6,227 万
家賃 2.8 万
管理費 1.5 万から2 万
食費 個人の利用状況による
その他 日用品など4 千円
9 笑い太鼓グループホーム
「パークサイド」
(未定) (予定)
家賃 5~6 万円
食費 個別の利用状況に応じて
その他 3,000 円(世話人代)
10 身体障がい者の生活の場「まちなか」 【収入】
入居者家賃等
補助金(富山県身体障害者等グループホーム補助金事業)
家賃 24,000 円
共益費 5,000 円
水光熱費 17,000 円
食費 17,000 円(後、清算)
11 すまいるはーと (準備中のため不明) (準備中のため不明)
12 フロンティア 【収入】
入居者家賃     100 万
オーナーの持出し 130 万
(空室2 室と共有スペースの光熱費)
家賃 3.5 万~4.75 万
(部屋の広さによる)
共益費 3 万
(光熱費、平日の朝・夕食代)
個室の電気・水道・ガス代、朝・夕以外の食費は、各自で負担

 

 

4 職員配置の状況とサービス利用上の工夫

・入居者は、各自でヘルパーを利用しているが、時間数が不足していることが多く、夜間をボランティアや個人契約でケアを受けているケースがほとんどである。
・親が共同で(当番制で)ケアに当たっているケースが1件ある。

 表3-4 職員配置と工夫点

住まいの名称 職員配置と工夫点
1 あおば生活ホーム
「俊」
・職員を6 人配置している。完全に個々人に対応した生活を支援しており、個別支援会議を開催している。
・入居者は皆、ホームでの生活で、居宅介護を利用している。
・居宅介護事業所をNPO 法人として運営
・土日は、学生のアルバイトで対応
・夜間の人員はボランティア
2 あずましや支援ハウス ・オーナー夫妻のほか介護職員が数人。
・居宅介護事業所を併設して、入居者に利用してもらっている。ヘルパー資格を持っている人を募集しているが、長く続かない悩みがある。今年度、高卒者の採用も予定している。
・近隣の高齢者宅へも介護保険でホームヘルパーを派遣している。
・2 階にオーナー夫妻が居住し、夜中のケアに対応
3 生活ホーム 「オエヴィス」「もんてん」 ・各入居者が個別にホームヘルパーを複数事業者と契約している。
・世話人は1 人配置。
・入居者自らが週に1 回、駅前で介助者募集のチラシを配っている。
4 よつばホーム ・各個人に一人の職員または、パートのヘルパー等が支援にあたっている。
・夜間体制は1 対1 での添い寝が必要のため、常勤2 名非常勤2 名の体制をとっている。
・その他にアルバイト、ボランティア、ホームヘルパー
・重度訪問介護に変更することにより夜間の派遣を可能にした。
5 グループホーム「ゆい」 ・夜間は宿直を置いている。居宅介護はどの事業所を活用してもよいこととしている。
・体験入居がある場合は、主婦や学生バイトで対応
6 IL ホーム
「ソレイユ小倉寺」
・ナイトケア事業の拠点をおく(入居者の利用を想定)
7 多機能型地域交流ハウス
「があだぱーと」
・介護支援スタッフを各入居者が個別に契約しており、夜間も泊まる。また、父母が交代で週2 回程度、見守りと泊まりの当番を行っている。
・月2 回、食事と見守りのボランティアを依頼
8 ケアホーム
「野ぶどう」
・常勤ヘルパーが11 名、日中と早朝に2 名、夜間に2 名。
・夕方からのヘルパーは世話人的な役割でありヘルパーとしての待遇をしていない
・看護師資格を持っているボランティアがいる
9 笑い太鼓グループホーム
「パークサイド」
7 笑い太鼓グループホーム「パークサイド」
10 身体障がい者の生活の場「まちなか」 ・世話人3 人配置、他に個別にホームヘルパー利用
11 すまいるはーと これから介助者を募集する予定だが、当面は介護指導で親たちも交代で泊まる予定。
12 フロンティア ・各入居者が個別に居宅介護事業者と契約し、ヘルパーを使って生活している。
・フロンティア開設にあたって協力を依頼した経緯から、契約している居宅介護事業者は1ヵ所のみだが、オーナーとは関係ない全くの別法人。
・夜間はヘルパー1 人が空いている居室に宿泊し、見守りが必要な2人の入居者に対するケアを行っている。

 

Ⅱ 肢体不自由者の生活と住まいの課題(生活と住まいの調査から)

1 圧倒的に多い家族との同居のなかでの課題

(1)過半数が家族と同居・サービス利用のための送迎が負担
・現在の生活場所については、施設入所を除けば家族同居の割合が60%で圧倒的に多いのが現状である。また、家族と別に暮らしている障がい者の割合は10%程度であり、家族同居・施設入所以外の選択肢がきわめて限られている現状にある。
・そのなかで、福祉サービスの利用で困っていることとしては、「サービス利用にかかる自己負担が大きいこと」「必要なサービスを提供している事業所がない(少ない)こと」の他、「サービスを利用するために送迎が必要であること」の回答が多く、日中活動や通院を行うぬいあたり、送迎をいかにクリアするかが、大きな問題になっている。

(2)地域で生活をするのは望ましいと考えているが不安も大きい
・障がい者の地域生活については、年齢を問わず、「重度の障がいがあっても、地域で生活するのが望ましいと考えている」「障がいの程度によるが、地域で生活するのが望ましいと考えている」が全体の70%近くを占めている。しかし、家族よりも本人調査の方が「施設で生活する方が安心だと考えている」回答率が若干高くなっており、本人たちが、地域生活といっても未経験でいろんな不安を抱えていることもうかがえる。
・親と一緒に暮らせなくなった場合の生活について「グループホームやケアホームでの生活」「少人数での暮らし」を考えている意見が多くみられた一方、「親と暮らすことしか考えていない」という意見もあった。

(3)地域生活のポイントは、介護体制、信頼できる人と適切な医療やリハビリ
・障がい者が生活を続ける上では、「地域生活が難しくなったときの受け入れ先があること」が最も必要な意見として多かった。その他、「本人が日常生活で必要とする介護体制が確保できること」「本人のことをまかせられる信頼できる人をみつけること」「適切な医療やリハビリが地域で受けられること」「障がいに対応した住宅物件を確保できること」等の回答が上位を占めており、介護体制と人の確保、地域の医療やリハビリ体制等の整備が必要であることがうかがえる。

 

Ⅲ 肢体不自由者の生活と住まいの課題(住まいの調査から)

1 土地・建物の確保

(1)土地・建物の所有者等の理解
・土地と建物をセットにした物件を確保することが困難だった状況がみられた。そうした中でも、土地の所有者が建物を立てて、一括で賃貸している方法が5 件あり、こうした協力を求めることが解決方法の一つと言える。
・土地所有者や建物の所有者とっては、一括賃貸することで、安定的な収入につながり、メリットがあるとの声が聞かれた。双方にとってメリットが享受できる方法を採ることが課題と言える。
・ただし、こうした所有者には、家族など身近なところに障がい者がいる、あるいはいた経験があることも多く、障がい者に対する理解があることが前提となっていると考えられる。
・障がい者への理解を深めることで、より多様な所有者が出現することが求められる。
・近隣住民から火災発生時などの不安の声が寄せられたという例があった。この例では、建物オープンのときに近隣住民への見学会を開くことによって、一気に理解が得られたということで、地域との関係性をいかに良い方向へ築いていくことができるかは、入居後の暮らしやすさにも関わっていくことであろう。

(2)資金調達
・物件を自己調達した法人、団体は、銀行借り入れを行っている。
・初期投資にかかる自己資金の不足を補い、障がい者の住宅確保を容易にするため、活用しやすい制度資金の拡充が求められる。
・また、メンテナンス費用の確保も、地域生活の継続のために、大きな課題と言える。

 

2 早期の自立生活への移行

・入居者の年齢層は比較的若く、60 代は少数であったが、長く施設や親元で生活していると、自立した地域生活に入ることへの抵抗が大きくなると考えられる。その要因は、一つには、本人の周囲への依存心が強くなっている場合が多く、自立意識が目覚めるまでに時間がかかること、二つ目は、親や周囲が自立生活は困難だとあきらめてしまうこと、が考えられる。
・高等学校の卒業や成人は、通常親離れの時期でもあり、障がい者の自立生活の時期ととらえることが望ましい。しかし、高等学校卒業から障害者年金を受給できるまでの通常約2 年間は、経済的に在宅で家族が支えていかざるを得ない状況もある。
・児童の頃から様々な制度上のサービスを使い慣れてきた世代が成人になったとき、重複障がいや医療的ケアを必要とする方には、十分に満たされない制度上の介護支給量から、卒後も当面は親や家族が在宅で介護を行っていくしかないという思いが、親たちの声としては多く聞かれた。
・身体障がい者の自立生活への意気込みが、日々のボランティア確保に追われていた支援費制度前の頃と違い、「障がい者自身の自己決定・サービス選択」として障がい者のホームヘルプ利用が当たり前になってきた支援費制度後では、様々な手厚い介護サービスを受けられることが前提とされなければ地域での自立生活にも不安を感じるという意識が、当事者や親を中心に出てきたように感じられた。逆を言えば、ある程度の介護体制さえ整えば、当たり前の市民生活として、地域の中で自立して暮らしていきたいという思いが、障がい者運動等に関わらない方たちの中でも強くなってきた様子が、各地でのヒアリングで感じられた。そのためには、制度が整うまでは各個人での自立生活よりも共同生活という形を最初の一歩として望む人が増えてきたようである。

 

3 夜間対応サービスの確保

・多くのホームから、入居者の夜間の見守りと必要に応じたケアの提供が課題であることが示された。
・重度の障がいを持った人でも、24 時間の見守りとケアが必要な人は限られている。「ナイトケア」などのサービスで対応する、親が当番で交代で過ごすといったケースがあるが、夜間対応は大きな課題と言える。
・グループホームやケアホームでの職員配置は、報酬上、夜間の介護を特に必要とする人にとっては心もとない中、生活ホーム(または福祉ホーム等)の事業を活用しながら、不足分は、各人のホームヘルプ利用で補っている傾向がある。

 

4 医療ニーズへの対応

・医療ニーズが高い重度障がいをもっている人が入居できる住居は少なく、医師、看護師などの医療スタッフがいないことが背景にある。
・吸引や胃瘻、浣腸、膀胱洗浄など、日常生活を送る上で欠かせない医療対応について、医師、または看護師がいなければ対応できない仕組を変革することが必要である。例えば、研修を受けた介護福祉士が、医師、看護師の指示のもとに、日常生活で必要な医療的な対応を行うことができるようにすることを検討する必要がある。

 

5 運営体制の確保

・都道府県単独事業の補助金事業から、障害者自立支援法でのグループホームやケアホーム移行を求められている事例が非常に多い。地方自治体の財政不足を補うための意向であれば、身体障がいの方が必要な介護を十分に受けられ、安全に地域で暮らせるバリアフリー化の推進の財源的裏付けも強く求められている。

 

 表3-5 課題と今後の方向

住まいの名称 課題と今後の方向
1 あおば生活ホーム
「俊」
・ホームでの生活は、居宅介護を利用しているが、時間が不足し、土日は大学生ボランティアで対応しているのが現状(12:00から21:00)。
・本人が年をとってからホームで生活するのは、本人も親もかなり大変なところがある。親は、自分が元気なうちは手元において世話をしたいと思っているが、親が高齢になって倒れてから急に地域での自立生活をすることは本人にも負担がある。また、職員もかなりの時間をかけて、対応しなければならず、困難だ。
・本人に生活保護を申請してくれれば、ホームでの生活を始めることが金銭的には可能。ただ、親が自分との関係が切れるのではないか、という気持ちをもってしまうことが多い
2 あずましや支援ハウス ・ハローワークからの応募があっても、1 週間続かない人がほとんどである。ヘルパーの資格を取ってすぐに働きに来る人がいるが、ボランティア精神がなければ家政婦感覚で来てもなかなか長続きしない。
・実際に関わる利用者にも意見を聞いて、スタッフを決めている。
また、利用者からもどういう介護をしてほしいのか、意見を言ってもらっている。
・入居待ちの申込者もいる。利用者は1 年のほとんどを支援ハウスで過ごし、逆に家族がとまりに来ることもある。将来的には家族も一緒に住めるようなことも考えたい。
・パソコンが得意な人も多いので、将来的に入居している障害者自身が施設の経営に関われるようになれば、自分たちで住みよい「家」を作るための工夫ができるのではないか。
3 生活ホーム 「オエヴィス」「もんてん」 ・補助金が切り下げられ、全体的に予算が逼迫している。
・人員確保が困難である。
・サービスが拡充し始めたことから、逆にサービスを要望し、自立生活を望む人が減ってきていると感じる。
4 よつばホーム ・職員募集をしても、集まらないことが多い。
・夜間の支援体制や、入浴部分の二人体制など毎日をホームで過ごすとなると、重度訪問介護の支給時間が現状では足りない。
5 グループホーム「ゆい」 ・運営費補助と家賃では、すべての時間帯にスタッフを配置することができず、夜間のスタッフ配置のために個人負担(28,000円)をお願いしている。
・夜間は1 人を配置してるが、登録スタッフが10 人では、かなりきつい状況。
6 IL ホーム
「ソレイユ小倉寺」
・夜間の対応が課題であり、今後、ナイトケアステーションを増やし、市内のどこからでも連絡があったら15 分で駆けつけられる体制をとりたい。
7 多機能型地域交流ハウス
「があだぱーと」
・建物が老朽化してきたときの改修資金等の調達が困難な状況になると考えられる。
・現在は、2 人の共同部屋にしているが、個室希望があったときに、2 階でしか対応できない。
・ケアホームなどの制度に対応したほうがよいか、今後の課題と考えている。
・夏休みなど体験宿泊で使ってもらうようにしたい。
8 ケアホーム
「野ぶどう」
・吸引や 胃瘻、浣腸、膀胱洗浄等の医療的ケアへの対応を考えると、医師や看護師の配置が必須であり、困難である。
・また、医療ニーズの高い人は、施設に入所もできない状況にある。
・入居者が全員「区分6」であり、職員がすべて有資格であることが必要で、人材を確保することが難しい。
9 笑い太鼓グループホーム
「パークサイド」
・必要に応じて十分なホームヘルパー利用を求めると、現行のグループホーム・ケアホームの精度では不十分であり、福祉ホームとしての運営を考えている。
・地域に開かれたスペースとしての活用も考慮中。
・体験入居をしても、子どもの自立に対して親のほうが決心がつかずにいることがある。
10 身体障がい者の生活の場「まちなか」 ・「富山型デイサービス」で有名な地域ではあるが、ヘルパー利用率は全国最下位で、在宅での介護よりも自宅外へ障がい者の暮らす場を求める傾向があり、入所施設を望む声も多い。
・その中で50 代以降で親を失い、行き場を無くした人たちがグループホームを求めるケースが増えているが、現状の制度上では、夜間介護まで職員を配置できない状況である。
・消防法に基づき、消防設備等の設置を求められているが、財政的に苦しい。
11 すまいるはーと ・当初は福祉ホーム事業を活用する予定だったが、自立支援法に基づくケアホームの利用や、そこでのホームヘルプの利用の制限なども考え、現在考慮中。
・入居者の部屋は2 階を予定しているが、バリアフリーのための改修がまだできていなく、そのための資金確保も課題となっている。
12 フロンティア ・入居者の金銭的負担が大きい。定期受診やリハビリテーションが必要だったり、積雪期はタクシーでの移動が多くなり交通費もかかる。
・サービス利用・家賃などすべて障がい福祉年金からの負担であり、なんとか生活できる状態ではあるが、貯金はできない状況。
・札幌市では、重度訪問介護が最大でも330 時間/月の支給量しか認められないため、障がいの程度が重い入居者は、週末は実家に帰って支給時間を節約している。

 

Ⅳ 課題からみえてきたこと

 地域の中での暮らしの場を自ら選択していく障がい者にとっては、プライバシーが守られ、自分らしい暮らしを実現できる住まいの場と、日常生活において最低限必要な介護の体制の整備が強く望まれていることは、今回の調査においても改めて確認することができた。
 しかし、現実には、自分自身で自らの暮らしを公的制度も含めてケアマネジメントできる方はホームヘルプサービスをフルに活用しながら一人暮らしを始めるなど、支援費制度以前よりも可能になってはきましたが、そこまでの自らのケアマネジメント力に自信のない方、あるいは出来ない方は、グループホームやケアホームなどといった公的な共同住居による支援を望んでいることも推測される。

 一方でグループホームやケアホームといった公的制度上の共同住居には、身体障害者手帳のみしか持たない方は対象から外れ、また、療育手帳等も同時に取得することにより入居可能となった方にとっても、住居のバリアフリーや医療的介護の必要性などから、入居を断念せざるを得ない実態があります。そこで当事者自身、あるいは親たちが実践を始めたのが、複数の人たちで一緒に暮らし支えあう「共同住宅」といった住まいの方法である。実際には、県や市の単独事業として補助金が支給される「福祉ホーム」または「生活ホーム」といった補助事業を活用し、ホームヘルパーを利用するかたちが多いことが今回の訪問調査で分かったが、ホームヘルプ以外については何らの助成金等も受けずに、いわば親持ち出しで共同住宅を維持運営している例も見受けられた。

 ヒアリング調査においては、全国各地での様々な団体、当事者の取り組みについて調査したが、ヒアリング先での共通事項は、各運営者が現状に様々な課題を抱えながらも、さらにもっとこんな生活や暮らしをしみてみたいという当事者の声に耳を傾け、それを支えていく体制を自立支援法において報酬が設定されているサービスにとどまらず、地域のインフォーマルな福祉力も活用しながら体制を整えているという状況があった。

 

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