第2章 医療機関調査 2 聞き取り調査

1.聞き取り調査概要

(1)調査実施医療機関数

アンケート調査用紙を送付した94の医療機関すべてに対し、平成21年2月に都精神 保健・医療課から聞き取り調査の協力依頼を書面で行い、調査協力の可否について66機 関より返答があった。「協力可能」が43機関、「協力不可」が23機関で、協力不可の 理由として、「発達障害に特化した対応をしていないため」、「調査期間内に時間確保が 困難」があげられていた。

「協力可」という回答があった43機関のうち、3月末の時点で38機関の調査(うち2 機関は医療機関の都合上電話による調査)を実施した。また、日程の調整がつかず、5医 療機関については調査を実施できなかった。 調査を実施した医療機関の内訳は、以下の通りである。

公立病院、医療・療育センター
大学病院
民間病院(入院病棟在り)
民間医療・療育センター
精神科クリニック、診療所 21

(2)調査形式等

1)調査の対象者

調査協力を依頼した時点では、聞き取り調査の対応者として職種等を指定しなかった。 38医療機関の対応者については以下の通りである。

  • 医師(精神科、小児科)…32医療機関
    医師1名での対応が多かったが、小児科医と精神科医、または医師の他に看護師や心理職、庶務課職員など複数での対応が5医療機関あった。
  • 看護師、心理職、ソーシャルワーカー等…6医療機関
2)調査時間等

1か所につき、30分から1時間程度。
医療機関の都合により電話による聞き取り調査を行った2機関を除き、各医療機関を 訪問し、1~2名(調査委託先の社会福祉法人嬉泉のスタッフ)で聞き取りを行った。

3)調査内容

発達障害にかかわる診療の現況など質問事項をあらかじめ設定したが、すでに殆どの 機関から質問紙調査による回答を得られていることから、実際の聞き取りにおいては、 質問紙調査の回答内容や医療機関ごとの特性により、質問の内容を変えていくという半 構造化インタビューの方法で行った。
具体的な質問項目としては、以下の通りである。

1 発達障害児(者)にかかる診療の現況について

イ)対象者の状況について

  • 対象年齢
  • 受診のきっかけ(紹介の有無など)と来院時の主訴
  • 発達障害のどのような特性が中核となっているか

ロ)診療体制について

  • 受診申し込みへの対応状況
  • 発達障害にかかわる医師やその他のスタッフの職種や数、業務分担等(大規模病院の場合は他科との連携状況)
  • 発達障害にかかる診断がどのようになされているのか
  • 発達障害にかかる診療状況。現時点で対応可能なことと困難と感じておられること。特に、対応が難しい事例についての具体内容

ハ)他機関、関係者などとの連携

日常の診療において他機関、関係者との連携があるかどうか

2 機関としての課題

発達障害にかかる診療おいて、今後の課題として考えておられること

3 発達障害児(者)への支援施策を進めていく上での要望や意見

4 その他、本調査への意見等

(3)聞き取り内容のまとめ

聞き取った内容は、医療機関ごとにまとめた。今年度のまとめにあたり、データ分析 は行わず調査結果の報告とするという方針のもと、それらのデータについて、上記の聞 き取り項目ごとに内容が類似している概念を集めて小カテゴリーを作りまとめた。

2.調査結果

先に挙げた聞き取り項目に従い、カテゴライズした結果は以下の通りである。なお、こ こでは質問紙調査結果から明らかになっている内容以外のものを中心に取りあげている。
また、聴き取った内容の表記のあとに、該当する医療機関の規模や形態がわかるよう、以 下のように表記し、A からE の医療機関群に共通してみられたところには「共通」と表記 した。

  • 公立病院、医療・療育センター …A
  • 大学病院(小児科、精神科、小児科入院病棟)…B
  • 民間病院(入院病棟在り) …C
  • 民間医療・療育センター …D
  • 精神科クリニック、診療所 …E

(1)発達障害児(者)にかかる診療の現況について

1)対象者の状況について

1 対象年齢

  • 小児科の場合、初診の受付については原則として15歳まで。あるいは18歳未満の高校生までとする。 (A,B,D,E)
  • 小児科の場合、初診年齢が小児科対象年齢であれば、成人以降も対応は可能であり、中には40歳~50歳の人もいる。青年期以降は他機関へ移行の方針でいるが、特に知的障害がある人、服薬が必要な人については長年継続する人が多い。(A,B,D,E)
  • 近隣の病院が成人の診療に対応していないため、成人の受診者が多い。(A)
  • 対象年齢は基本的に6歳以上としている。発達障害の場合、10代半ばから30歳代が中心である。40歳以上の年齢は少ない。(C)
  • 基本的にはすべてのライフステージに対応。デイケアおよび療育の対象は5歳まで。(E)
  • すべてのライフステージに対応するが、幼児の場合は対応可能な発達検査の関係から5歳以降としている。(E)
  • 初診の受付を男子は15歳まで、女子は上限なしとしている(E)
  • 初診は原則として18歳(高校3年)まで。現時点で18歳以上の人の割合は、全体の約1割。小・中学校の年齢が最も多い。(E)
  • 原則は18歳までとしているが、成人からの申し込みがあれば受ける。(E)
  • 対象年齢は中学生以上、できれば成人に限りたい。30歳~40歳代の人が多い。(E)
  • 成人以降を対象としている。(E)
  • 成人女性を主な対象にしている。(E)

2 受診のきっかけ(紹介の有無など)と来院時の主訴

  • 児童相談所や子ども家庭支援センターを通じて受診する児童では、本人の行動問題や養育者側の事情により家庭や地域生活困難な事例が多い。(共通)
  • 成人の場合、ホームページを見て自ら受診希望する人が多い。その場合は、来院する時点で発達障害があることを想定して診断あるいは専門的なアドバイスを求めてくる人がほとんどである。また、家族や周囲の人の勧めによる受診、家族や第三者の立場で相談を申し込む人もいる。(A,B,D,E)
  • 発達障害児への支援ネットワークにより、地域における福祉、保健、教育などの関係者からの紹介が増えてきている。また、医師や言語聴覚士、心理職が地域の連絡会に専門家として参加している関係から、相談を受けることが多くなっている。(A,B,D,E)
  • 幼児期では「ことばの遅れ」「多動で落ち着きがない」「集団行動がとれない」という主訴が多く、学齢期では「学習面の遅れ」「学校生活上のトラブル」「不登校」に関する具体的な対応法についてアドバイスを求められる。 (A,B,D,E)
  • 他の病院で服薬を勧められ、納得できず、医療不信に陥っている人が多い。(A,B,C,E)
  • 発達障害がある本人よりも家族側が本人への対応法などを求めての受診希望が多い。(A,E)
  • 就労関係或いは生活支援機関からの紹介の場合、障害福祉手帳や年金申請のための診断を希望するケースが多い。(B,E)
  • 家庭内暴力をはじめとする反社会的行動により警察介入を受けて医療保護や措置入院というケースが多い。(A,C)
  • 周囲に知的障害者施設が複数あることから、地域生活を始めた利用者への日常的な服薬指導や行動障害等による対応困難事例への対処に関するアドバイス、さらには一時保護など求められることもある。(C)

3 発達障害のどのような特性が中核となっているか

  • 就学前の段階では「ことばの遅れ」や「多動」、「集団行動できない」、就学年齢になると、「学習困難」、「授業についていけない」、「他児とのトラブルが多い」な どの相談が多い。思春期以降になると、多動に関する問題は緩和されることが多いようである。一方で、年齢が低い時には目立たなかったが思春期以降に、人との関係や 集団状況への参加において困難が生じ、対応が難しくなっていくのが自閉症、広汎性発達障害の特性がある人たちに多い。(共通)
  • 成人期以降、就労をはじめとする社会生活上の困難が顕著なのは、自閉症、広汎性発達障害の特性がある人たちが圧倒的に多い。対人関係だけでなく、本人の独特な理屈 や言動、また一見の印象と実行能力上の問題とのミスマッチで家庭や職場で適応できない人が多い。一方、AD/HD については、学校卒業後、就労や結婚など苦労しながら も何とか社会生活を維持できる人が多いようである。(共通)
  • 小学校卒業の頃まではAD/HD、LD と言われていた人が、青年期、成人期になって、 アスペルガー症候群などの広汎性発達障害と診断が変わる人も少なくない。(共通)
  • 発達障害そのものというよりも、対人関係上の問題や不眠など、実質的には二次的障 害への対応がほとんどである。(A,B,C,E)
  • 緊急一時保護等の入院を必要として来る発達障害の人たち(特に成人)の多くが自閉症、 広汎性発達障害であり、AD/HD や学習障害については自分たちが介入することは殆ど ない。(C)
  • 成人以降にうつ的な症状や不眠を訴えて受診する人のうち、しばらく経過を追う中 で発達障害(特に自閉症、広汎性発達障害)を疑うケースが多くなっている。(E)
2)診療体制について

1 受診申し込みへの対応状況

  • 受診については基本的に予約制。(共通)
  • 受診予約から初診までは1~3か月待ち。(A,B,D,E)
  • 他の医療機関に既にかかっている場合は、基本的に主治医の診断書を持参してもらう。 また、他の機関(幼稚園や保育所、療育機関、学校など)についても、なるべく情報を まとめ持参してもらうようにしている。(A,B,E)
  • 小児科であるため、当日受付にも対応する。(A,B)
  • 受診の申し込みを随時受け付けたところ、初診までの待ちが半年から1年以上になっ てしまった。そのため、1か月ごとの初診の人数枠と予約受付日を決めるなど受付方 法を変えたところ、予約をして受診までの期間の短縮につながった。(E)
  • ホームページで予約状況を公表している。(E)
  • 原則として15歳以下の年齢は小児科で対応する。初診を担当した医師の判断で科内 に数名いる発達障害を担当する医師に連絡が来て、その後の対応を引き受けるように している。受診予約の段階で発達障害の診断にかかわることや行動障害に関する主訴 であることが明確な場合は、院内の精神科、発達外来等に案内する。また、必要に応 じて他科に対応を求める場合もある。(B)

2 発達障害にかかわる医師やその他のスタッフの職種や数、業務分担等(大規模病院の 場合は他科との連携状況)

  • 発達障害の子どもの診療は、本人や家族だけでなく、その子どもをとりまく環境(幼 稚園、保育所、通園施設、学校など)との調整も重要になることから、関係者との連絡・ 連携するための時間、スタッフが圧倒的に足りない。現状としては、親を通じて関係 者にも診療時にあわせて来院してもらい、アドバイスすることが精一杯である。 (A,B,D,E)
  • 院内において発達障害の子どもの数が増えてきている実態の認識はあるが、実際に 対応できる医師やスタッフは非常に少なく、院全体として取り組むというより、一 部の有志により支えられている、という現状である。(A,B,C)
  • もともと肢体不自由児、重症心身障害児者のための医療・療育施設として出発したが、 この数年は、初診において発達障害のある子どもの占める割合が高くなってきた。し かし、スタッフの職種や配置の人数が従来通りのため、診断やその後の療育対応が難 しくなっている。(A,D)
  • 常勤医師はすべて小児神経専門である。精神症状が顕著な場合や、対応困難な行動障害 等を伴う場合は、非常勤の児童精神科医に頼る。そこで対応が難しければ、他機関に 紹介することにしている。(A,D)
  • 医師の他にリハビリスタッフとして、言語聴覚士や心理職が主体となって発達障害に対 応している。(A)
  • 小児科外来担当医師のうち数名が発達障害に対応できる。一般外来に当日受付で来 院するケースにも対応出来るよう、必ず1名は常駐するようにしている。(B)
  • 小児科において、発達障害者支援法の施行以前より、LD を中心とする発達障害の子ど もへの療育を独自に行っていた。当時は心理職の配置などはなく、ボランティアに頼 って運営していたが、「発達障害者支援法」の施行や特別支援教育の推進により大学 側の意識が変わり(大学の学長が出席した会合で、発達障害のことが話題になったとの こと)、心理職(非常勤)の配置が実現した。(B)
  • 小児科の入院病棟において、発達障害がある子どもが他の疾患で入院してくることが ある。病棟内では特別にスタッフを配置することはないため、病棟の医師や看護師体 制では対応できない場合は家族に協力を求めることもある。現時点では医療職ではな い非常勤スタッフが子どもや家族の状況を把握し、病棟スタッフとの調整役を担当し ている。(B)
  • 人材育成や診療上の連携のため、スタッフ間で定期的カンファレンスを行っている。 (B)
  • 精神科の単科病院であるため、医師以外の職種は看護師が中心となる。リハビリの関 係から作業療法士はいるが、発達障害に対応出来るスタッフは殆どいない。 (C)
  • 成人の場合、医療対応というよりも就労やその他の生活支援の比重が高くなること から、ケースワーカーなどの応援が必要であるが、経営上、スタッフ確保は難しい。 (E)
  • 医師が知的障害を伴う自閉症にかかわる臨床経験があることから、発達障害への対応 が可能になっている。(E)

3 発達障害に関する診断がどのようになされているのか

  • ICD-10 に基づいて診断を行う。(共通)
  • 精神科医師による診察と必要に応じて心理検査を行う。院内で対応が可能で、時間を かけて対応する。特に小さな子どもの場合は、親の状況をみながら、基本としては、 親が子どもに対応出来るようになるための診断のあり方を工夫している。 (A,B,D,E)
  • 診断に際しては、医師の診察と心理職による心理テストの他に、院内もしくは外部連 携機関によるMRI や脳波検査など一通りの検査を実施、家庭での様子などの情報を集 約し、数か月かけて診断する。(B,D,E)
  • 診断の段階で、質問紙によるチェックや本人がかく絵や文字も一つの手がかりとする。 そして、実際に子どもとの関わりを重ねながら見立てをする。(B)
  • 精神科医師による診察、生活歴の聞き取りにより診断する。特に心理テストなどは行 っていない。(E)
  • 初診の前にあらかじめ、発達障害に関するチェックリストを利用している。(E)
  • 心理職の配置はないため、心理検査等は連携機関に委託し、医師の診察とあわせて 診断を行う。(E)
  • 「自分に発達障害があるのかどうかをはっきりさせたい」という人については、基本 的にすべて受診できるよう対応している。(E)
  • 「発達障害専門機関」というアピールをしていないので、基本的には発達障害の診断 を希望して受診する人は殆どない。しかし、職場でうまくいかずに休職中、不眠など の問題で来院する人の中に、発達障害の特性があると思われる人がいる。その場合は、 医師の診療の他に心理職などもかかわり見立てを行う。見極めが難しい場合は、発達 障害専門とされている医療機関にスタッフ側が相談したり、本人を直接紹介したりす ることもある。(E)

4 発達障害に関する診療、或いは療育等の支援状況(現時点で対応可能なことと困難と 感じておられること)

  • 発達障害があることを関係者が理解し、具体的に対応出来る自信がもてるように、子 どもの状況の解説と実践的なアドバイスを行う。再診の場合は一回の受診時間が短い が、そのかわりに、親が孤立しないよう、なるべく回数多く確保する。(A,B,D,E)
  • 親への支援プログラムとして、ペアレントトレーニングや家族教室(有期限)、子どもに 対しては小グループ指導や個別療育を言語聴覚士や心理職等が担当して行う (有期限)。(A,B,D,E)
  • 1歳半健診の時点で子どもの状態を見極め、母子関係の構築を具体的に手助けしていく ことが必要。そのために母子通園できるようなプログラムを実践、確実に効果をあげて いる。(A,B,E)
  • 発達障害がある子どもについて、早期からの支援の重要性が言われるが、子ども本人と いうよりも、その親(特に母親)が我が子のことをわかっていくには時間を要する。特に 高機能の子どもの場合は、他の子どもと同じく出来る部分があればあるほど、「障害特 性があり、配慮を要することがあること、そしてそれがどういうことなのか」をわかっ てもらうのに時間をかけて対応する必要がある。(A,D)
  • 受診後「来てよかった」と思われることが大事と思っている。障害がある本人だけを焦 点にするのではなく、家族の側にとっても「安心して話ができた」、「話をきいてもら えた」、「抱えている問題への対処法についてヒントが得られた」などという気持ちで 帰ってもらえるよう努めているが、実際には難しい。(B,E)
  • 小児科を受診してくるケースでスタッフ側からみて子どもの発達について気がかり な場合、予防接種の案内をかねて母親に連絡を取ってみるなど、アプローチの仕方を工 夫し、経過を追う場合もある。(B)
  • 青年期以降の人について、統合失調症やパーソナリティー障害との見分けが難しいと思 っている。専門家であっても、本人の実生活上の問題から本人の状態をどうとらえるか、 どう見立てるかが難しい。例えば精神科薬の処方も大きく異なってくることから、精神 科に長期間通院している人であっても、その対応に困難を感じることが多々ある。(B, D,E)
  • 発達障害にかかわる思春期、青年期、成人期への支援資源が未整備な状況下で、独自の プログラム(デイケア、在宅支援サービス)を実践している。具体的には、就労を目指し た通過型のデイケア、就労している人のためのナイトケア、家庭内への引きこもり、浪 費、暴力などによる生活困難に対応するための居場所、或いは通過型のデイケア、家庭 訪問による本人対応など先駆的取り組みを試行している。(A,E)
  • 入院の場合、薬物療法と枠づけによるコントロールを中心とした対応を行い、期間とし ては3~6か月としている。家庭に戻る際は、ケースワーカーや作業療法士が中心とな り、家族の状況も考慮し、家庭における本人への対応法等を含めて支援する。(A)
  • 知的障害の有無にかかわらず、行動障害や社会生活への不適応を伴う事例への介入は難 しい。(A)
  • 知的障害を伴う事例も含めて、日常生活上、行動障害などの対応困難を抱える場合、薬 の服用とあわせて、家族など周囲の人が本人への対応について理解、納得していること が重要である。発達障害そのものへの対応というよりも二次的に生じている精神症状へ の薬の処方の意味と生活を支える周囲の人の対応のあり方について、少し先を見越した アドバイスを精神科医として的確にしていけば、大体の場合生活の安定化は可能と考え る。(E)
  • 成人の場合、発達障害そのものというよりも、過去の生活歴から来る「被害感の強さ」 「人への不信」が根深くある人が多く、対応が難しい。(E)
  • (事例にもよるが)成人になってはじめて受診する人の場合、「これまでの人生を支援な しで来ることが出来た」という点で、新たに「人の支援を受ける」ことを本人が納得す るのに時間がかかる。医療現場においても、そのような人への対応は難しい。(E)
  • 何のための診断をするのか、診断スケールとして何を使ってどう対応していくのかにつ いて、医療関係者があまりにもバラバラな状態であり、「診断」を求めてくる人が後を 絶たない状況に、どう対応すべきか悩んでいる。また、青年、成人期となると、診断に 伴うその後の支援の実態が見えておらず、このような状況で簡単に本人や家族に対して 診断名を付けていくことがよいのかどうか疑問である。発達障害の診断があることで具 体的に生活上プラスになることがあると判断できる場合にのみ診断名を伝えるように しており、このような医師としての考えを患者に伝えるようにしている。(B)
  • 入院や通院している人について言えば、妄想、幻覚、強迫などの周辺症状への薬物療法 は対応出来ている。すでに長年にわたり精神科薬を服用している人も多く、驚くほどの 大量処方されている人が少なくない。このような場合、まず、服薬についてきちんと整 理する方針でおり、本人や家族側にもそのことを伝えるようにしている。薬物療法以外 の対応については、基本的生活部分へのフォローは可能であるが、精神障害の人たちの ように、リハビリに向けた積極的プログラムというところではまったく対応出来ていな い状況である。また、特に発達障害の人で暴力等の問題を抱える人の場合、退院後の受 け皿がなく、どうしても入院が長期化してしまうため、基本は1か月、長くても3か月 という入院期間を本人、関係者に伝えるようにしている。(C)
  • 本人の状態により、医師が必要と判断した場合は、カウンセリングを行う。(E)
  • 緊急時に安心して託せる精神科病院(入院)は一応確保している。(E)
  • 本人が来院することが基本だが、本人への対応法など親のみの相談についても対応可能 にしている。その場合、自費診療として相談を受けている。(E)
3)他機関、関係者などとの連携
  • 発達障害児への支援ネットワークにより、地域における福祉、保健、教育などの関係者 からの紹介が増えてきている。また、医師や言語聴覚士や心理職が地域の連絡会に専門 家として参加している関係から、相談を受けることが多くなっている。(A,B,D,E) …前出
  • 地域のネットワークをよりよく構築していくために、医療現場側から、地域にある保健、 福祉、教育、労働などの支援資源と関わりを持つようにしている。(A,B,D,E)
  • 他の医療機関に既にかかっている場合は、基本的に主治医の診断書を持参してもら う。また、他の機関(幼稚園や保育所、療育機関、学校など)についても、なるべく把握す る情報をまとめ持参してもらうようにしている。(A,B,E) …前出
  • 心理職の配置はないため、心理検査等は連携機関に委託し、医師の診察とあわせて診断 を行う。(E)…前出
  • 診断に際しては、医師の診察と心理職による心理テストの他に、外部連携機関によるMRI や脳波検査など一通りの検査を実施、数か月かけて診断する(E)…前出
  • 発達障害者支援法の施行以降、就労支援や生活支援機関における対応がよくなってきて おり、医療機関だけしか受け皿がない状態が少しずつ改善されてきている。特に地域のネ ットワークが進んできている。(E)

(2)機関としての課題

  • 発達障害の子どもへの具体的対応や家族へのカウンセリングを行うための部屋、ス タッフの確保が急務。院内では採算が合わず、持ち出しは必至だが、無くしていくわけに はいかず、苦労している。(共通)
  • 発達障害について、その支援ニーズの高さは院内においても共通認識できてきているが、 実際の診療やその後の対応について自ら積極的に対応、或いは院全体の取り組みと言う方 向にはなりにくく、医師やスタッフ個人の意欲や誠意に頼っているのが現状。とにかく採 算があわないため、強く主張していくことができない。(共通)
  • 発達障害がある人に関わることが出来るようにしていくことが必要。また、リハビリのプ ログラムも従来からの精神疾患の人たちを想定した内容であることから、発達障害の人に 対応出来るような内容を考えていくことが必要だと思っている。(C)
  • 薬物療法も必要となる行為障害を伴うケースが増えており、現状も含め今後の課題である。 (B,C)

(3)発達障害児(者)への支援施策を進めていく上での要望や意見

  • 発達障害そのものについて医療対応出来ることはほんの一部である。教育、福祉、保健、 就労支援に関わる支援人材の育成を最重要課題として、都や各自治体が一丸となって取り 組んでもらいたい。関係者の理解のなさが目立っている。(共通)
  • 発達障害への対応はまず予防的視点をもつことが重要。先行投資として、きちんとお金を かけて社会全体が子ども、障害のある人や家族を抱えていく、ということをしないと、発 達障害に適切な対応は出来ない。(A,C,D,E)
  • 発達障害者支援の取り組みがすすむ中で、当事者側の状況をきちんと捉えないまま に「診断」と「障害受容」のみを性急に突きつけすぎているのではないか、と危惧してい る。子どもの状態は長い目で追っていくと変わっていく可能性がある。そのため、特に小 児科においては、早期の段階で診断名を決めつけてしまうような対応はしたくないと考え ている。曖昧なままに放置する、というのではなく、例えば家庭内や、幼稚園、保育所の 集団場面での様子をもとに子どものことを理解し、その子と関わっていくための「診断」 のあり方を考えていくべきである。(B,D,E)
  • 発達障害にかかわる施策の動きや社会資源の情報がよくわからないままでいる。現実に役 立つようなネットワークの構築を求めたい。(B,C,E)
  • 医療機関を受診する前段階として、子育て相談や発達支援センターなど、気軽に相談でき る場があるといい。早期段階で診断するのかどうかは別として、診断前の具体的サポート が必要と思う。親側からみて、敷居の低い、魅力的なサポートの場があるといい。(E)
  • 発達障害支援策は未整備な状態であるため、その部分を民間に任せていてはいけ ない。公的機関が率先して、質の高い支援モデルを採算度外視でやるべき。(E)
  • 診断後の本人たちの受け皿がなく、特に高学歴の人たちの場合、医療的支援よりは就労 や社会生活支援が必要となる。そして、人によってそのニーズは多様であるので、ワン パターンでなく、支援モデルを多様に試行していくべき。ある程度の見通しが立つまで は、手厚く公的支援を行うこと。当事者たちは「発達障害者支援法」の施行により支援 施策が具体的に展開していくと期待していたが、現状に失望するようだ。(E)
  • 自傷や他害、破壊行為、或いは盗みなどの反社会的行動を伴い、家庭や地域生活が困難な 状況がいっこうに改善されず、社会福祉施設でも対応不能といった事例もある。本人だけ を入院、保護しても、その後の受け皿確保や受け入れ側の体制構築のための支援が行き届 かなければ、このような事例が増えていくことになる。行政の担当者も人によっては親身 に対応してもらえるが続かない。受け入れている病院側も先の見通しがもてないままに、 一時しのぎの対応で精一杯のところである。発達障害者支援策の重点項目として、具体的 な対応策が求められる。(C)
  • 発達障害がある子どもの受診の際、母親が安心して子どもを医療機関に連れてこられるよ う、きょうだいを預かるサービスがあるとよい。(B)

(4)その他、本調査への意見等

  • 今回の調査で出された医療現場の実態を踏まえ、関係部局が連携して具体的な方向を示 してほしい。(A,D,E)
  • 調査から、「発達障害」に関わる当事者たちの役にたつような施策に向けた動きが見え てこない。(E)
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