1.障害者自立支援法における規定
(1)障害者自立支援法の目的(第1条)
障害者自立支援法は、「障害者及び障害児がその有する能力及び適性に応じ、自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、必要な障害福祉サービスに係る給付その他の支援を行い、もって障害者及び障害児の福祉の増進を図るとともに、障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現に寄与することを目的とする。」とされている。
(2)補装具の範囲(第5 条第19 項)
また、同法律において「補装具」とは、「障害者等の身体機能を補完し、又は代替し、かつ、長期間にわたり継続して使用されるものその他の厚生労働省令で定める基準に該当するものとして、義肢、装具、車いすその他の厚生労働大臣が定めるものをいう。」と記述されている。
また、同法律の施行規則( 第6 条第13 項) では、下記の各号のいずれにも該当するものと定められている。
- 障害者等の身体機能を補完し、又は代替し、かつ、その身体への適合を図るように製作されたものであること。
- 障害者等の身体に装着することにより、その日常生活において又は就労若しくは就学のために、同一の製品につき長期間にわたり継続して使用されるものであること。
- 医師等による専門的な知識に基づく意見又は診断に基づき使用されることが必要とされるものであること。
(3)日常生活用具の範囲(第77 条第2 項・告示529 号)
障害者自立支援法に規定する障害者又は障害児の「日常生活上の便宜を図るための用具」とは、次の第一号に掲げる用具の要件をすべて満たすものであって、第二号に掲げる用具の用途及び形状のいずれかに該当するものとする。
- 一 用具の要件
- イ 障害者等が安全かつ容易に使用できるもので、実用性が認められるもの
- ロ 障害者等の日常生活上の困難を改善し、自立を支援し、かつ、社会参加を促進すると認められるもの
- ハ 用具の製作、改良又は開発に当たって障害に関する専門的な知識や技術を要するもので、日常生活品として一般に普及していないもの
- 二 用具の用途及び形状
- イ 介護・訓練支援用具
特殊寝台、特殊マットその他の障害者等の身体介護を支援する用具並びに障害児が訓練に用いるいす等のうち、障害者等及び介助者が容易に使用することができるものであって、実用性のあるもの
- ロ 自立生活支援用具
入浴補助用具、聴覚障害者用屋内信号装置その他の障害者等の入浴、食事、移動等の自立生活を支援する用具のうち、障害者等が容易に使用することができるものであって、実用性のあるもの
- ハ 在宅療養等支援用具
電気式たん吸引器、盲人用体温計その他の障害者等の在宅療養等を支援する用具のうち、障害者等が容易に使用することができるものであって実用性のあるもの
- ニ 情報・意思疎通支援用具
点字器、人工喉頭その他の障害者等の情報収集、情報伝達、意思疎通等を支援する用具のうち、障害者等が容易に使用することができるものであって、実用性のあるもの
- ホ 排泄管理支援用具
ストーマ装具その他の障害者等の排泄管理を支援する用具及び衛生用品のうち、障害者等が容易に使用することができるものであって、実用性のあるもの
- ヘ 居宅生活動作補助用具
障害者等の居宅生活動作等を円滑にする用具であって、設置に小規模な住宅改修を伴うもの
なお、日常生活用具の取り扱いについては、同法律の中で、給付又は貸与を行うと規定されているが、実態としては、給付のみによる場合がほとんどである。
2.貸与方式導入に関する基本的考え方の整理
(1)基本的事項
法令上、
- 【補装具については、】
- 身体機能を補完し、又は代替し、長期間にわたり継続して使用されるもの
- 身体への適合を図るように製作されたもの
- 同一の製品につき長期間にわたり継続して使用されるもの
- 【日常生活用具については、】
- 安全かつ容易に使用できるもので、実用性の認められるもの
- 日常生活上の困難を改善し、自立を支援し、かつ、社会参加を促進すると認められるもの
- 用具の製作、改良又は開発に当たって障害に関する専門的な知識や技術を要するもので、日常生活品として一般に普及していないもの
と記述されており、これらの事項を踏まえた上での検討が必要である。
【貸与になじまないものの整理】
今回のヒアリング調査でも明らかになったように、肌に直接触れるものや、オーダーメイドでなければならないものは、貸与になじまないも考えられる。
さらに、再利用にあたっての保守や保清性の観点から、他人が使用したものを再利用することに心理的抵抗感が伴うもの(入浴・排泄の補助用具)。また、使用によりもとの形態・品質が変化し、再利用になじまないもの。加えて、貸与する側の手間(給付管理や事務処理)や経済合理性などの側面を考慮すると、極めて安価なもの、あるいは、使用頻度の多さ等からよく壊れるものなどについても、貸与方式の導入には、なじまないものと考えられる。
【貸与も可能にしたい種目の整理】
今回実施したアンケート調査やヒアリング調査等の結果から、一時的な利用が最初から決まっているもの、あるいは、オーダーメイドでないもの、介護保険の貸与サービス事業所でも扱えるものなどについては、貸与方式も可能であると考えられる。
(2)個別の種目について
上記(1)による基本的考え方の整理に基づき、個別の種目に当てはめ、貸与方式導入の可能性等について、整理・検討することとする。
- 補聴器
医療機器にも属する補聴器は、専門家による適合性の判断が極めて重要であるものの、既製品も数多く販売されており、既製品により対応が可能な場合も少数ながら想定できる。
アンケート結果を見ると、特に成人の場合、「故障・破損」、「紛失」から再交付されていることが多かった。しかし、この問題は、貸与方式を導入したからと云って、解消されることではない。
耳が不自由になった障害者にとって補聴器は、常時、使用するものであり、かつ常に肌に触れるものである。また、精密機械であることも考慮した場合、その再利用性は低いと考えられる。
- 車いす及び電動車いす
介護保険において給付される、「車いす」及び「電動車いす」については、貸与事業所を通じて、多種多様なタイプのものが借りられる仕組みとなっている。
最近では、ティルトやリクライニング機能を有しているものから、調整機能を有したモジュラタイプのものまで、市販化されており、利用者にとって選択の幅が大きく広がっている。ただし、補装具制度において、モジュラタイプの車いすについては、オーダーメイドと同等の基準額となっていることから、オーダーメイドと同等の調整等を必要とするものとして取り扱われるべきである。
また、座面のクッションや姿勢を保持するための背あてクッション類も、多数製造販売されており、高機能のものが必要に応じて利用できる仕組みとなっている。
介護保険の場合、貸与方式を行ううえで重要となる、製品の保守やメンテナンス、管理や保清については、貸与サービス事業者が、その役割を担っているところである。
このような高齢者の利用環境を踏まえると、一定の条件下において障害者に対しても、貸与方式を可能とすることが有効であると考えられる。
- 装具
装具は、製品の特質上、利用者の状態に合わせた細かなオーダーメイドを必要とするものである。
また、その使用頻度は高く、特に成人の場合、アンケート調査からも「故障」や「破損」の多さが目立つ結果となった。
さらに「状態に合わない」ことや、「成長によるサイズの変化」等の理由から、再交付されることも多く、状態に応じたフィッティングの重要性が窺われる結果となった。
ヒアリング調査からは、直接身体に触れる補装具については、貸与に向かないとの意見が挙がっており、身体に直接装着すると云う性質上、貸与方式を導入することは難しい。
ただし、パーツのモジュール化やアジャスト機能を高めることで、再利用性を高めることはできると考えられる。
- 座位保持装置
座位保持装置は、製品の特質上、利用者の状態に合わせた細かなフィッティングやオーダーメイドを必要とするものである。また、使用頻度が高く、破損や汚損の確率は高いと云える。
アンケート調査から、主に児童において「成長によるサイズの不適合」が窺える結果となった。
また、ヒアリング調査からは、身体との不適合は、褥瘡や装置からの転落に繋がるため、細かなフィッティングの必要性が窺えた。
座位保持装置は、本人の姿勢の型を採って、個別に製作するものであり、そのまま全てを貸与にすることは、現実的には不可能であると考えられる。
しかし、特にフィッティングが重要な部分は、姿勢を保持するための支持部、さらにクッション部であり、本体フレーム部と支持部、クッション等をモジュール化することで、再利用性についての検討の余地はあると思われる。
実際、座位保持装置の完成用部品の最近の動向においても、モジュールパーツの指定が進んできている。
- 電気式たん吸引器
電気式たん吸引器は、利用者の状態に合わせた細かなフィッティングを必要としない。また、直接身体に接する部分はわずかであると云える。
アンケート調査から、「故障」や「破損」が多かった。しかし、故障の範囲がドレーンの破損や汚損など、簡単に交換の効く範囲であれば、その部分のメンテナンス性を高めることで欠点を補うことは可能である。
ヒアリング調査からは、直接身体に接して利用する部分だけを交換すれば、本体部分は共用、再利用できるとの意見が挙がっており、交換パーツを準備することと、メンテナンス性を高めることで、貸与は可能である。
ただし、利用は、長期化することが想定されることから、経済的合理性の観点から云えば、貸与と給付を選択可能としておくことが良いと思われる。
- 特殊寝台・特殊マット・移動用リフト・歩行器
これらの用具については、アンケート調査から、以下の理由により貸与方式の導入が望まれるものとして回答が多かった。
- オーダーメイドでないこと
- 状態の変化・体に合わせて選択が可能なこと
- 高額であること
- 介護保険でも貸与が可能なこと
利用者の選択の幅を広げ、必要な時に必要なものが借りられる、あるいは正式に使用するための試用という側面から考えた場合、貸与方式は有効であると考えられる。
しかし、長期利用が予め想定される場合には、給付したほうが費用面で効果的であると云える。
- 携帯用会話補助装置
この用具は、利用者にとって、日常生活のコミュニケーションを図るためのツールとして、無くてはならないものであり、かつ常時携帯して持ち歩くものである。
ヒアリング調査では、身体の不自由さから、机などへぶつけ、その衝撃で故障させたり、また、内蔵のバッテリーが故障したりしていることがわかった。利用者は、その都度、メーカーから代替器を借り、自費で修理しているとのことであった。
故障時の対応や試用を目的とした貸与、あるいは学校での試験等どうしても故障しては困る場合など、緊急時の場面で、貸与方式があれば有効であると云える。
- 入浴補助用具(シャワーチェア・シャワーキャリー)
この用具は、日常生活用具の一つであるが、在宅での入浴介助を補助するものとして大変重要なものである。
ヒアリング調査から、身体の成長に伴い、座位保持部分のサイズが合わなくなること、また、障害の状況によっては、突発的な緊張を伴うことから、個別のベルトを装着しなければならないことなどが挙げられ、いわゆる高齢者が使用するような既製品では、十分に対応できないことがわかった。ヒアリング調査の対象者の中には、申請から1年以上経過しているが、適合したものがなく、いまだに給付に至っていないとのことであった。
この用具を、他人が使用したものを再利用することに心理的抵抗感が伴うものとして整理するのであれば、貸与方式はなじまないと思われるが、個別の利用者のニーズを的確に踏まえた、製品の開発普及が期待されるものである。また、構造フレームと座面部が分離できるものの製品化が進めば可能な場面が広がると思われる。
(3)貸与方式導入に対する留意点
補装具や日常生活用具を利用するにあたっては、専門職による適合性等の判断が、必要不可欠と云える。
検討の結果、貸与方式を導入した場合には、利用者が利用開始するまでのプロセスの中で、メーカーや貸与を行う事業者、専門職、市町村等の役割分担を明確に整理する必要がある。
また、利用開始後においても、専門職による適合性等に関するモニタリングが適切
に行われることも非常に重要である。