V.市町村および事業者ヒアリング調査

1.目的

 市(区)町村アンケート調査および当事者ヒアリング調査の検討結果を踏まえて、貸与方式導入になじむ「補装具」及び「日常生活用具」の基本的考え方(案)について整理検討を行った。本調査は、これらの結果に基づき、抽出された個々の種目について、実際に「貸与方式を導入した場合の有効性」、あるいは「事務処理体制の在り方」、「選定適合に関する課題」等について、実態把握することを目的として実施するものである。

2.実施内容

  1. 調査対象 アンケート調査結果等を参考にして、事務局において選定した。
    区分 調査対象 実施日
    市町村 A 市役所 1/23(金)
      B 市役所 1/26(月)
      C 市役所 2/ 2(月)
      D 市役所 2/ 3(火)
      E 市役所 1/30(金)
      F 市役所 2/ 5(木)
    事業者 A 補装具等製作(販売)事業者 1/22(水)
      B 補装具等製作(販売)事業者 2/ 3(火)
      C 補装具等製作(販売)事業者 2/ 6(金)
  2. 調査期間 平成21年1月~2月(1カ所あたり、1時間30分程度)
  3. 調査方法 現地にて、聞き取り調査
  4. 調査内容 第2部資料編 資料4「ヒアリング調査票」参照 基本的考え方(案)として整理された、以下の種目を想定するものとして、調査 を行うこととした。
    01 車いす(オーダーメイド以外) 07 移動用リフト
    02 電動車いす(オーダーメイド以外) 08 携帯用会話補助装置
    03 歩行器 09 重度障害者用意思伝達装置(本体部分)
    04 電気式たん吸引器 10 装具のパーツ類
    05 特殊寝台 11 座位保持装置(既製品、本体フレーム)
    06 特殊マット 12その他

    調査した主な事項は、以下のとおりである。

    1. 貸与方式導入により期待される効果
    2. 業務負担や事務処理体制に対する課題について
    3. 選定適合に対する課題について
    4. 現行制度に対する課題について
    5. その他、貸与方式導入に関する意見

3.実施結果(まとめ)

(1)貸与方式導入により期待される効果

【自治体】

  • 進行性の病気等で、状態像が変化する方へのニーズに対応できる。
  • 意思伝達装置等、給付品目の中には、利活用にあたって、確実な訓練が必要となるものもあり、利用者のニーズに対応できる。
  • 障害者手帳の交付や、補装具の申請から給付までかなりの時間を要しているが、貸与方式は、速やかな対応が期待でき、利用者のニーズに合致している。しかし、単に一時利用だけが増加し、適切な給付、選定がなされるか、懸念される点もある。
  • 急性期のみなど、期間限定であれば、レンタルを導入することも可能性があるのではないか。しかし、これらのニーズを自立支援法の枠の中で考えるべきか、検討の余地がある。
  • 児童の成長発達による補装具等の不適合については、再給付することが多く、消耗品等以外であればレンタルも可能ではないか。

【補装具等製造(販売)事業者】

  • 貸与方式の導入により、取扱事業者が増え、利用者の選択の幅が広がる。
  • 最適な補装具を見極めるうえで、一時的な試用は有用だろう。また、適合のためのレンタルとして選択肢があることは望ましい。しかし、そのためのコストを一方的に事業者が負担することは不可能である。
  • 日常生活用具について、貸与方式を導入することにより、利用者の利用機会は増加すると思われる。

(2)業務負担や事務処理体制に対する課題について

【自治体】

  • 自治体で、貸与品目の在庫管理をすることはできない。
  • 介護保険のように「指定事業者制」とするか、業者と自治体が「個別に契約する形」にするかが必要と思われ、自由にすると云う訳にはいかない。事業者の一定の質をどう担保するか。
  • さらにレンタル料金は、「自由価格」にするのか、「公定価格」にするのか。
  • 利用者負担の徴収が長期で継続的となるため、確実な徴収ができるのかどう か不安でもあり、また事務負担も増える。
  • 補装具等については、個別性が高く、メーカーでないと対応が難しい場合があり、そのあたりは、介護保険と状況が異なる。
  • 給付額を管理する為の職員が必要である。現在、ストーマ装具の給付管理の事務も繁雑化している。
  • 利用者のデータ管理について、貸与方式を導入することによって、現行の台帳管理では、限界がある。給付額や貸与品を管理するシステム化の検討が必要である。
  • 現在の制度では、電動車いすの給付対象者に厳しい対象条件を設けている。貸与方式を導入することによって、現在の給付対象者以外の方が希望する場合など、利用条件を明確化する必要がある。
  • 介護保険では、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員の配置、役割が明確化されているが、現行制度にはこうした仕組みはない。サービス供給に問題が生じないか。また、事業者の指定基準はどうするか。

【補装具等製造(販売)事業者】

  • 貸与方式を導入することによって、一時利用が増加した場合、利用者が遠方の場合、「搬入搬出費」や「適合確認の為の諸経費」等が請求できるのか不安がある。
  • 適合確認が不十分なまま納品された際には、「数日後に返品されたり」、「別の機種への変更を要望されたり」することが頻繁に発生することが予想され、経費や事業者の業務負担が増加することを懸念する。
  • 集金方法、料金体系の整理、途中解約時のレンタル料の返却など、出納関係 の事務負担が増加する。

(3)選定適合に対する課題について

【自治体】

  • 例えば、電動車いすのフレームを貸与、スイッチ部分を支給の対象とするなど、部分的な貸与を考える場合、レンタル事業と製造業者との安全面などの責任や役割の切り分けを明確にすることが必要であるが、またその調整を誰が行うかを含めて実務的には難しい。
  • 貸与か給付かの判断の基準をどこに置くのか。利用者による選択性にするにしろ制度上の切り分けが必要ではないか。
  • 補装具の対応には、専門的知識を要するため、更生相談所などで申請の進め方などを纏めたマニュアルを作成してほしい。
  • 現在は、事務手続きをして契約をするだけであるが、不正を防止するためには保証や事業者の指定基準が必要ではないか。補装具等には、電子機器もあるので、事務的な帳票のチェックだけではなく、修理時の対応や安全管理等様々な項目を加味して、事業者を審査・監督することも必要ではないか。
  • メーカーや貸与の事業所の公平性の確保、適正に使用されているかのチェック体制、安全確保、保清、メンテナンスの在り方など、運用基が必要である。
  • 現行では、機器の選定にあたって、適切な助言が得られるような体制が整っ ていない。
  • 現在は、更生相談所に適合判定を依頼しているが、貸与方式が導入された場 合、専門知識がない自治体にどの程度の体制が必要か。

【補装具製造事業者】

  • 貸与方式が急速に普及・定着することによって、適切なシーティングが確保 されるか不安である。シートのフィッティングが適切にできない事業者や相 談員が多数あり、利用者とトラブルが発生した場合は、メーカー側の負担が 大きい。これまで丁寧にフィッティングを実施してきた、中小の業者や地域 の工房が存続できなくなるを懸念する。
  • 事業者が利潤を追求して、自社在庫商品を優先し、適合していない物件を貸 与する可能性がある。

(4)現行制度に対する課題について(制度の弾力化について)

【自治体】

  • 障害者手帳の交付と、補装具の給付申請から実際の給付までには、かなりの時間を要している。
  • 最近は、レディメイドの車いすでも、背張り調整、背折れ機構、肘台高さ調節機構、足台脱着機構等を備えたものが一般的になりつつあり、どこまでをレディメイドと判断すべきか、その目安が欲しい。
  • 常時使用する「頭部保護帽」の基準額を、もう少し高く設定してほしい。
  • 地域生活支援事業における日常生活用具の適用範囲が、自治体で判断できるよう緩やかに設定されているものの、近年、製品の数が多く、給付するか否かの判断が難しく、自治体間の給付の有無にも差が生じている。
  • 新製品や適正な価格に関する情報を集めることが難しい。特に日常生活用具 は新製品が発売されるスピードが速く、事務レベルでの対応整備が追いつか ない状況にある。

【補装具製造事業者】

  • 自治体担当者は短期間に替わってしまい、障害者や機器に関する知識が十分と云えない。
  • 日常生活用具についても、修理が可能な制度にして欲しい。

(5)その他、貸与方式導入に関する意見

【自治体】

  • 貸与方式導入にあたっては、アフターメンテナンスも含めて、一括委託でないと、責任分担などの問題が生じる。しかし、レンタル事業の業務負担を考えると、大きな業者でないと参入できない可能性があり、その場合、地域の業者に影響を与える可能性がある。
  • 福祉機器は、全体としての調整や適合が必要なため、部分的なパーツだけ他の制度になることがないようにしてほしい。
  • 障害者には、様々な障害状況や生活実態があるため、支給か貸与か選択できる仕組みが必要である。
  • 立位保持具(児童)、歩行器(児童)もレンタル制度の品目にのると、公費の有効活用につながると考える。

【補装具製造事業者】

  • 高価な機器を貸与する場合、多様の機器を揃えるにあたって資金面での問題 が生じる。
  • 長期間貸与されない場合に、定期的なメンテナンス(充電等)が必要な機種(電動車いす、携帯会話補助装置、移動用リフト等)があり、メーカーでなければ管理が難しいものもある。
  • 貸与事業を行う者の資格要件や設備基準が必要であると考える。
  • 介護保険の場合、要介護度によって給付限度額が設定されている。身障制度にレンタル方式を導入する場合にはどうするか。
  • 2~3ヶ月貸与して、購入に切り替えるシステムにしてはどうか。
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